機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ちょっとだけ、柔らかい空気を……


PHASE -93 戦いへの回帰

 

 

 アークエンジェル艦内。

 

 己に宛がわれた士官室の一室で、ナタルは陰鬱とした空気の中耽っていた。

 

 

「──タケル」

 

 

 呼んだ声に、返って来る音は無い。しかし耳を揺らさずとも大切な彼の声は脳裏に反芻された。

 

 

 “力尽くで連れ帰りたいと言うのならそれに応え、私は私の意思を力で以て示そう”

 

 

 結論として事は起きなかった。

 しかし、力で示さずともわかる。あれこそが彼の意思表示であったのだと。

 本来のタケル・アマノでは考えられない……自らオーブ軍だと捉えていたはずのキラやアスラン、サヤ達にその銃口を向けた事実こそが。タケル・アマノがオーブへ戻る事を諦めた何よりの証明。

 

 喪わぬために全てを捨てた、彼の覚悟の証であった。

 

「──タケル」

 

 まるでうわ言の様に、その名を繰り返した。

 仮にそれでに世界が平和になったとて、そこに彼が求めていた筈の幸せは無い。

 自惚れでもなく、ナタルは自身が彼に愛されている事を知っているし、自身が彼を愛している事を理解して居る。

 大切な場所と人を切り捨てた先で、幸せになど成れるはずもない。

 

「お願いだ……これ以上……」

 

 幸せになる道から逃げないでくれ────ナタルは切実な想いで、それを願った。

 

 あって然るべき、求めて然るべき幸せから、彼は逃げる様に遠ざかっていく。

 強迫観念ともとれる自責の念が、彼を人として求めて良い筈の気持ちを否定させる。

 まるで運命に縛られた奴隷の様に……己を戒めているのだ。

 

 

「──どうすれば良いんだ?」

 

 

 誰に問いかけるでもない自問。

 どうすれば、彼を幸せにできるのか。戦後共に暮らすようになってからずっと、ナタルはその疑問を己に問いて来た。

 

 一時とは言え平和になった時ですら、彼は追い立てられてるかの様に国防の充実を図っていた。

 張り詰め過ぎてるその姿に、何度も無理をするなとくぎを刺してきたが、彼はやめる事をしなかった。

 それが、一度は国を喪い2人の父親を奪われた故だと言う事は理解できたが、その度にナタルはどうすれば彼が平穏を平穏として享受できるかを考えて来た。

 傍で支える……結果としてそれしかできないが、きっとそれこそが一度は壊れかけた彼にとって最善なのだと、ナタルは己に言い聞かせて来た。

 

 それが結局、今の状況を招いたのだ。

 どうすれば良かったのか。どうすれば良いのか────それが、今は分からなかった。

 

 

 “一緒に居たいのなら、貴方達がこちらに来る事ね”

 

 

 ふと過るのは、(タケル)を憎んでいたはずの彼女(ユリス)が残していった言葉。

 貴方達が、とユリスは述べたがあれは恐らく自身に向けて投げられた言葉……そんな気がしていた。

 

 昔のよしみ、というものだろうか。彼女がそれを告げてきたその目論見は分からないが、その言葉尻には彼を慮る気配が伺えたのは事実だ。

 彼女が、ナタルに対して先の言葉を向けたと言うのなら……それはつまり、今のナタルが彼にできる事はそれなのだと解釈もできる。

 だが、素直にそう受け止めるには、ナタルが知る彼女は優しい人間じゃない。

 先の戦闘を見た後になっても、未だあの2人が並び立って戦った事実は信じられな事だ。

 それ程までに、2年前の彼女は世界と彼を憎んでいた。

 

「どういうつもりだ……ラングベルト」

 

 燻り始めた疑念は、再びナタルを思考の渦へと引き込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミネルバはコンクルーダーズ及びゴンドワナと合流し、月面アルザッヘル基地を攻略せよ』

 

 

 特務隊クルース・ラウラより通達されたプラント本国からの指令であった。

 

 レクイエムによるプラントへの攻撃。

 齎された被害を省みれば、該当兵器の破壊だけではもはや安心とは言い切れない。

 宇宙におけるロゴス勢力の全てを排除……それが成って初めて、プラントの安寧は保たれると言えよう。

 オーブに続いてプラント本国へのレクイエムの発射。世界の気運は再び反ロゴスで強く高まっており、この指令はいわば世界が求める作戦行動と言っても過言ではない。

 

 

 これによりミネルバはMS隊の整備完了を待つのと併せて、ゴンドワナとの合流ポイントを設定。

 現在は、合流地点で待機中であった。

 

 

 

「目標地点に到達。ゴンドワナとの合流予定時刻は約24時間後です」

 

 バートの報告に、緊張の空気が僅かに緩む。

 24時間────決して長くは無いが、休息するには十分な時間だ。

 ダイダロス基地を前にした一大決戦の後で疲労も確かなこの状況では、助かる話である。

 

「24時間か……ゴンドワナは随分とのんびりしている」

「先の大規模兵器の中継点を索敵しながらの合流との事です。ルートが随分と大回りとなっています」

 

 少し顔を顰めながら、タケルは長い事待たされるであろうこの状況に小さく毒吐いた。

 敵もダイダロスを叩いた直後にその足で向かってくるとは思っていない……その意表を突ける可能性があるのだ。タケルとしては悠長に事を構えて居たくはなかった。

 

「本丸は叩いたんだ。中継点は後回しでも良いだろう────議長も詰めが甘い」

「焦っても仕方ないわ。今はとにかく、準備を整えるだけよ。アーサー、交代で全員休みに入らせて」

「は、はい!」

「疲れているだろうが、もうしばらくよろしく頼む。トライン副長」

 

 必要な指示を下してから、タリアとタケルは艦橋を出ていく。

 艦内通路へと出て2人並ぶと、その足は艦長室へと向かって動き出していった。

 

 

 

 

 

「──さて、それで? 何から聞けばいいかしらね」

 

 周囲に人の気配がない所で、徐にタリアが切り出す。

 その問いには様々な疑問が含まれている事を示唆していた。

 

「エスペラントを撃墜された後は、連合に拾われました。我々がやり合っていた、あの部隊です」

「良く……無事だったわね」

「グラディス艦長もご存知でしょう。連合のエクステンデッド……あの部隊はその試験部隊だったんです。

 それで、私は研究サンプルとして実験施設送りにされたんですよ」

 

 思わず、タリアの顔色が蒼白になっていく。

 地上で目にした、連合の悲惨な実験施設。そこで行われていた事も、今ではザフトの知る所だ。

 そんな施設に送られたとなれば、唯では済まない。

 目を覆いたくなるような酷い目に遭ったのではないか────その心配が、タリアの顔に過った。

 

「あぁ、御心配なく。この通りなんともなく無事です。身体を弄られる前に、隙を見て脱出しましたから」

「そう……一安心だわ」

「ご心配、痛み入ります。

 その後は這う這うの体で逃げ回りながらどうにかオーブへ帰ったんですが……」

 

 その先を言い淀むタケルに、タリアも表情を曇らせた。

 どうなったかは既に周知の事実だ。タリアとしてもオーブの惨状には同情的であったし、反ロゴス同盟がオーブを攻め込むことになった事の顛末も、亡きウナト・エマ・セイランによる手引きであった事は聞き及んでいた。

 少なくとも目の前の彼と、その妹であるカガリ・ユラ・アスハが望んできた国の姿からは、かけ離れた結末となってしまった。

 

「残念……なんて言葉で済めば、どれだけ気楽な事か。心中は察するわ」

「重ねて、痛み入ります」

 

 足を止め向き合うと、沈痛な気配がタケルから垣間見え、タリアは言葉に詰まった。

 

「────それが理由なのかしら? 今貴方がここに居るのは」

 

 既にヤヨイ・キサラギ……否、サヤ・アマノはここには居ない。

 本来在るべき場所を離れてまで一度ミネルバを訪れたタケルの目的は、今はもう達せられているはずであった。

 だと言うのに、こうしてまたザフトへと戻りここにいる。

 

 その理由は、タリアにも容易に察しがついた。

 問われたタケルの口元には、自嘲とも嘲りともとれる小さな笑みが張り付いている。

 

「撃たれたから撃ち返す……私は当然の権利だと思っています」

「賛同はし兼ねるわ。開戦から穏健であった議長の理念にも反する」

「ロゴスの非道をこれ以上野放しにもできないでしょう。議長が世界に向けて掲げている主張と私の目的は同じです。

 無論、ちゃんと別の理由もあります。私としては、そちらの方が余程大きいですし」

「別の理由? 差し支えなければ教えて貰えるかしら?」

 

 瞬間、どこか挑戦的な笑みがタケルの口元を彩った。

 訝しむタリアを他所にゆっくりと歩き出したタケルは、数歩進んでから振り返りタリアへと向き直ると口を開いた。

 

 

「人類と世界を変える……その為に私はここにいますから」

 

 

 俄かに、タリアの背筋には怖気が走った。

 仮面で隠されたその素顔には、一体どんな表情を浮かべているのか。

 想像を異様に掻き立てる程、酷く不安定で覚束ない声音。

 感情を読み取るには難しすぎるその声が、得体の知れないものとしてタリアの恐怖を煽った。

 

「──そう」

「はい。ですので、まずはアルザッヘルの攻略に力をお貸しください。やろうと思えばコンクルーダーズだけでもやれる自信はありますが、たった2機では流石に骨が折れます」

「えぇ、わかっているわ」

「よろしくお願いします────では、後程」

 

 そう言って、歩き始めるタケル。

 自信満々に歩き去っていくはずのその背中が、何故か酷く不安定で揺れている様にタリアには感じられた。

 

「──クルース」

「はい?」

 

 気が付けば、タリアはその背中を呼びつけていた。

 

「切り捨てた先で選んだ選択は、どんな結果を生もうとも後悔するわ……その事だけは覚えておきなさい」

「──ご助言は受け取りましょう。肝に銘じます。尤も、後悔ならずっとしていますが」

 

 歩みを再開し、不安を覚える背中が遠ざかっていく。

 

 儘ならない若人の生き様を、タリアは酷く陰鬱な面持ちで見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 休憩エリアではシン、レイ、ルナマリアのパイロット組が同期のヨウランとヴィーノも交えて、休息中であった。

 最中の話題は生還したクルース・ラウラとコンクルーダーズ。そして、皆を驚愕の渦に包み込んだユリス・ラングベルトの事である。

 

「いやー、マジでびっくりしたな。完全に女なったラウラ隊長だったし」

「ヴィーノ、その言い方は目茶苦茶失礼だからやめろ。確かにそっくりではあったが、その言い方だとまるでラウラ隊長自身が女装でもしてきたみたいに聞こえる」

「ぶっ!?」

 

 思わず吹き出すのは赤毛の紅一点、ルナマリア・ホークである。

 あの普段は隊長ぶっておきながら、素顔を晒すと随分と少年らしい元隊長……それが女装趣味に目覚めてもし目の前に現れたら。

 ヴィーノとヨウランのやり取りからそんな思考が回り、彼女の類まれな想像力が頭の中に映像を起こす。

 現れた可愛らしいクルースもといタケル・アマノを思い描いて、ルナマリアは吹き出さずにはいられなかった。

 

「おいルナ……女の子がはしたないぞ」

「し、仕方ないじゃない。だってあの隊長が女の子になったの想像したら……ふっふふく」

「やれやれ。不敬な事この上ないな」

「何よレイ。レイだって今少し笑ったでしょ」

「気のせいだろう。そんな事よりも、俺はもう一人の彼女の正体と実力の方が気になるな」

 

 疑惑の目を向け続けて来るルナマリアをさらりとかわし、そのまま話題の転換までしてのけるレイは流石の優等生だ。彼は話の動かし方を心得ている。

 話題は直ぐに、女装したクルース・ラウラから、新たな仲間ユリス・ラングベルトの実力へと移った。

 

「あ~それね。俺達もモニタリングしてたけど、ラウラ隊長と完璧に息を合わせてて凄かったぜ」

「彼とは双子という話らしいが……あれ程の実力ならこれまでにいくらでも台頭してくるだろう。ザフトでこれまで彼女の話を聞いたことが無いのは引っかかる」

「つまりなんだよ、レイ」

 

 何が言いたいのか────4人の視線がレイへと向けられた。

 その答えを提示する様に、レイはシンへと目を向ける。

 

「シン、お前は一応戦った事があったはずだな。インド洋と廃棄されていた連合の施設で2回」

「ん? 戦った事?」

「連合の紫の機体────ディザスターだ」

「あ、あぁ……そうだけど、え? まさか」

 

 レイが言わんとしている事。そこに考えが至りシンは目を見開いた。

 それはルナマリアもまた同様で、信じられないと言う様にレイへと詰め寄った。

 

「えっ、つまりあれに乗っていたのが、あのユリス・ラングベルトって事?」

「考えてみろ。ダーダネルスでの海戦でも、隊長のエスペラントとオーブのシロガネ、更にはフリーダムを交えてあの機体は死闘を繰り広げていた……この世界で、あれ程のパイロットがどれほどいる?」

 

 先の大戦で伝説的となったフリーダムとジャスティス。語り継がれるオーブ戦役の立役者シロガネ。

 機体性能が高い事は言わずもがなであるが、打ち立てられた戦果の数々が機体性能だけに裏付けられたものでない事は明白だ。

 そのパイロットレベルは恐らく世界において極稀だろう────考えて、そしてシンは納得した。

 

 この世界に置いて有数の実力者……それが彼等だ。無論探せば同じレベルの人間と言うのは居るだろうが、自らが知らぬ存在にスポットを当てるよりは、僅かでも知り得る存在に紐づくのは当然の事である。

 

「でも、連合にだって凄いパイロットは居るんじゃない? あの有名なストライクのパイロットだってアスラン・ザラと互角だったわけだし」

「そ、そうよね。ヴィーノの言う通り連合にだってそのくらいのパイロット──」

「残念ね、少なくとも私の知る限り今の連合にそのレベルは居ないわよ。作られた中でも私が最優だったし」

 

 座っていたヴィーノの横合いから凛とした声が聞こえる。

 思わずヴィーノが横を振り向けば、そこには件の彼女の姿があった。

 

「うわっ!?」

「ユリス・ラングベルト!」

「何よ、御挨拶ね。これからは並んで戦う仲間じゃない」

 

 驚きに距離を取るヴィーノと、今の言葉にレイの推測が的外れでない事を悟った皆は、僅かに警戒の色を強めた。

 つまりは元連合の人間。直近で彼等とやり合ってきた相手なのだ。不穏な気配にもなるというもの。

 

「では事実なのか、ユリス・ラングベルト。貴女がディザスターのパイロットだと言うのは?」

「ん? えぇまぁそうね。慧眼じゃない……先の戦闘だけでそこまで推測できるのは」

「一応今は、俺がここのMS隊の隊長だからな。それに、少し考えれば可能性くらいは皆感じる事だ。クルースも貴女も、パイロットとしてそういう高みに居る」

「ふぅん……随分と殊勝な事。ザフトなんてもっと高慢な奴ばかりだと思ってたけど」

「それより何なんだよお前! 急に出て来たかと思えばディザスターのパイロ──もがっ!?」

 

 声を荒げようとしたシンを、しかしユリスが滑る様に動いてシンの背後へと回り込み口元を覆った。

 

「はいはい、余り騒ぎ立てないで頂戴。これから一緒に戦うって言ったでしょ。変に騒いで余計な疑いを掛けられても困るわ。

 今の私はコンクルーダーズの副隊長。貴方達の仲間。OK?」

 

 その手際は軍人として十分な訓練を受けてきている彼等をして、敵わないと思い知らされるほど自然で淀みのない見事な身体運びであった。

 そうして出来上がるのは、まるで人質の様に抱えられたシンと、対峙する彼等の構図。俄かに一触即発の空気が漂う。

 

「ちょっと、仲間だって言うならシンを放しなさいよ」

「騒がないなら放してあげる。あっ、それとも味方の印に乱暴してごめんなさいって頭でも撫でてあげた方が良いかしら? このちんちくりん」

 

 瞬間、そわりと総毛立つ感覚に背筋を震わせ、シンはがむしゃらにユリスを振り解いた。

 

「ぷはっ!? ふざけんなよ、お前!」

「あら、分かりやすく嫌がっちゃって。恥ずかしがり屋さんね。兄さんから聞いてたけどアウルといい勝負じゃない」

「どういうつもりだ。仲間だと言うには随分と手荒いと思うが?」

「そっちがそんな目線でしか見ていないからでしょ? 少なくとも私は共に戦う者として貴方達を見ているつもりよ」

「では先程の行動が仲間に対してだと?」

「それなら、疑いの目を向けるのが貴方達の仲間に対する姿勢なのかしら?」

 

 レイとユリスは、互いに敵だと言わんばかりに睨み合った。

 どちらもが引かない様な気配の中、しかしこの状況に終止符を打つ者の声が飛び込んでくる。

 

 

「止めろユリス。レイ、君もだ」

 

 

 こちらへと向かってくる仮面の男。クルースの出現で漸く剣呑とした空気が霧散し始めた。

 

「兄さん」

「クルース……しかし彼女は」

「今はこちらに居る。私の部下であり相棒としてだ。実力も確かであり、議長は私と併せて彼女を信頼してコンクルーダーズに組み込んでいる──無用な心配だ」

 

 議長の信頼……その言葉がレイの気勢を制した。

 押し黙るレイに対して、どこか勝ち誇るユリス。それを見てタケルは不意打ちにユリスへ拳を落とした。

 

「痛ぁ!?」

「問題を起こすなと言ったはずだ。おまけにあっさり連合に居た事も明かして……何考えてるんだ」

「ふんっ! 私は陣営にこだわらない主義なの。どこに居ようが私は私。戦う理由も己の為でしかないわ」

「皆が皆そうじゃないんだ。もう少し賢く生きてくれ」

「賢く生きろってのは兄さんにだけは言われたくないわね」

 

 背負ってばかりで、背負った荷物を降ろすことも他人に渡すこともできない。

 いっそ無様とすら言える生き方しかできない男がどの口で賢く生きろ等と言うのか。

 視線にそんな言葉を乗せながら返されて、タケルは仮面の奥で顔を顰めた。

 

「──うるさいな」

 

 ぼそりと呟いた声には、素の表情が漏れ出ていて、ユリスは満足そうに笑みを浮かべる。

 

「悔しかったら兄さんも(さか)しく生きて見なさいっての」

 

 賢しく生きろ……タケルは決して頭が悪いわけではない。と言うより数々の開発を手掛けている事からも、その頭脳は十分に世間的に言う賢いに入る事だろう。

 それでも、彼女はタケルの事を……正確にはタケルの生き方を頭の悪い生き方だと揶揄している。

 そしてそれはタケル自身も自覚しているところであり、何も言い返せずタケルは視線を逸らすことしかできなかった。

 

 そんな心中をごまかす様にシン達へと向き直って、口を開いていく。

 

「さて、格納庫ではのんびりと話もできなかったが……久しぶりだな、皆。活躍は聞いている」

「いえ、クルースこそご無事で何よりです」

「おかえりなさい……って言うのも烏滸がましい気がしますけど。でも、おかえりなさい隊長」

「生きてて良かったです」

「また機体の整備の事で、色々と聞かせてください」

 

 レイ、ルナマリア、ヴィーノにヨウランと。改めて、再会の言葉を交わしていく。

 一度は共に命を預けた間柄だ。タケルにとって戦友で在った彼等との再会は、少しではあるが荒んだタケルの心を解きほぐしてくれた。

 

 むしろ、本当に大切な人達の方が今のタケルにとって己を責める要素にしかならない。

 今ここに居て、ここに在るこの時間が……ある種タケルにとっては、ささやかながら心の休息を取れる時間なのかもしれない。

 

「シン……どうした?」

 

 そんな中で、妙に居心地の悪そうな気配を見せるシンの姿に、タケルは訝しんだ。

 格納庫では素直ではないが喜びを露わにしていた筈の少年が、何かを思い出したかのようにここでは一歩引いている。

 

 レイはその様子に、シンの胸中を察して前に出た。

 

「シン、後ろめたく感じる必要はない。あれは任務だった……そして、あの時ヤヨイを討ったのは俺だ。お前には関係ない」

「レイ、でもあれは!」

 

 再会し、時間を置いたからこそ脳裏に浮かぶ、後ろめたい想い。

 ヤヨイ・キサラギであり、サヤ・アマノに戻った彼女を……2人は脱走者として追走し、撃墜した。

 

 今目の前にいる彼の大切な妹を、撃ち落としたのだ。

 その結果、彼女が生き延びている事がわかっていても、シンはタケルに合わせる顔が無かった。

 

「──ここに来るまでに、事の顛末は聞いている。あの子がザフトを脱走し、追撃されたと言う事も。

 そうか、追撃にでたのは2人だったんだな」

 

 大きく息を吸って、そして吐いて。

 タケルは様々に浮かんでくる感情を押し殺した。

 彼等と再会できたことへの喜びもあれば、大切な妹を手にかけようとしていた2人への悪感情も湧いて来る。

 タケルにとって、そこは決して抑えられない部分だ。

 だが、レイが言う様に軍務であるのなら……脱走し、撃たれる謂れがあったのなら、彼等を責めるのは筋違いだろう。

 

 意識して、タケルは感情を御し切り首を横へと振った。

 

「あの子は事の顛末を報告はしたが、君達に墜とされた事は誰にも明かさなかった。

 撃たれる理由を作ったのは自分であり、無様に撃たれたのも自分……君達を悪し様に言いたくは無かったのだろう。我が妹ながら、随分と潔い事だ」

 

 投げられた答え。その意味を直ぐには解せずシンとレイは呆けた。

 そんな2人を安心させるように笑みを浮かべて、タケルは再び口を開いた。

 

「シン、レイ。私があの子を撃った事について言及する事は無い。安心してくれ」

 

 静かに、タケルは述べた。

 そんな事を、妹は望まないだろうと。記憶を失っていたとはいえ仲間として共に過ごした彼等を責める様な事……きっとサヤは望んではいない。

 

 確信を持って、タケルはいってのけた。

 

「ただ、気を付けることだ。あの子はやられたままでいる程軟じゃない。新たな機体を与えられた今、戦場で相対すればあの子は確実にリベンジを果たしに来るはずだ」

「あぁ、そうよねあの子……そう言うタイプだわ」

 

 タケルの言葉に辟易とした様にルナマリアは呟いた。

 誰に似たのか、己の領分では大概負けず嫌い。

 普段は澄まし顔の癖に、パイロット課程の演習や、それこそミネルバでの訓練中となれば、絶対に負けぬと言わんばかりの勢いであった。

 そんな彼女が、機体性能に劣るとはいえ何もできずに負ける等、我慢できる事ではないだろう。

 

 一同に、コクピットの中で好戦的な笑みを浮かべる小柄な少女の姿が過った。

 

「ふぅん。じゃあ今度は私の所にも来るかし──」

「戦場で見つけたとしても絶対にお前の所にだけはいかせないからな」

 

 リベンジ、となればセイバーに乗りながらユリスのディザスターに一蹴された記憶も新しい。

 こちらもまた好戦的な気配を醸し出すユリスであったが、その言葉を叩き潰す様にタケルは割って入った。

 先程までシン達に向けて居た声音から一転して、その声は絶対的なまでの険しさを湛えている。

 

「何よ、そんなにムキにならなくても」

「うるさい」

 

 だがそれも仕方のない事だ。

 ユリスとサヤ……その組み合わせはタケルにとってトラウマに近い。もし2人がやり合うような事態になれば、あの時のあの光景を思い出して気が気では無くなるだろう。

 嘗ては一度、己の弱さが為に喪われた妹。二度と喪わない為に元凶たる彼女を近づけてはならないのだ。

 

「とにかく、戦闘中は指示に従ってもらう。そんなに強敵とやり合いたいなら今ここで、シン達とシミュレーターで遊んでろ」

「あら、良いの? 最近兄さんとの戦いみたいに本気でやり合える相手と出くわさなかったから不完全燃焼だったのよ。助かるわ────えっと、どっちがデスティニーのパイロットだっけ?」

 

 タケルの言葉に喜色を浮かべると、ユリスはシンとレイへと視線を向けながら問いかけた。

 その瞳は獲物を探す狩人の様である。

 自分も乗る事となったデスティニーの1号機。そして、その相方として設計されたレジェンド。どちらもザフトの最新鋭で、デュランダルにとって切り札である。

 そんなザフトのエースとの戦いは、彼女が胸を躍らせるには十分な強敵だ。

 

 この戦闘狂め……と、タケルは聞こえない様にごちた。

 

「デスティニーはシンの乗機だ。ユリス・ラングベルト」

「お。おいレイ!」

「へぇ、じゃあ貴方がレジェンドってわけね。貴方も貴方でちょっと気になるし……良いわ、2人とも相手して頂戴」

「いや、何故俺まで」

 

 狩人は獲物を見定めた。

 良いだろうかと、再度確認の視線を送って来るユリスに、タケルは肩を竦めて返す。

 

「合流時間まで24時間あるとはいえ、疲れは残すなよ」

「そんな軟じゃないわよ」

「君じゃなくて2人にもだ」

「待って下さいクルース。俺には隊長として仕事が」

「俺も、FAITHとして色々やる事が」

「あぁ、そう言えば2人共特務隊入りしたんだったな。おめでとう。安心しろ、雑務は私が引き受けておく。ルナマリア、少し話もあるしついでに手伝ってくれ」

「えっ? あ、はい……了解です」

「では、いくぞ」

「ちょっ、隊長!?」

 

 取り付く島もないとはこの事か。一方的に告げるだけ告げてタケルとルナマリアはその場を去っていった。

 

 残されたのはさぁ行くぞと言わんばかりにシンとレイの肩に腕を回したユリス。

 馴れ馴れしさに驚くシン、巻き添えを食った事で不服そうに顔を顰めるレイ。

 そして、パイロットではない為に完全に置いてけぼりとなったヴィーノとヨウランである。

 

「さーて、たっぷり遊ばせてもらうわよ」

 

 そう言って、ユリスは彼等を引き摺って訓練エリアへと向かっていく。

 

 最後に残されたヴィーノとヨウランは呆然とした表情でそれを見送った。

 

 

「何ていうかさあの人……」

「ホントすげえな、色々と」

 

 

 落ち着いた隊長の顔を見せるクルース・ラウラとは対照的。随分と苛烈な性格の様で、双子でもまるで正反対な性格に驚かされた、と言った所だろうか。

 

 惑いの顔を見せながら、2人もまた己の職務を果たすべく格納庫へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 




少しだけ、気持ち安らいでもらった。
次回からまた戦い。
更新ペースも話の進みも遅いですがご容赦下さい。お願いします。 




おまけ

「でもよ、ルナマリアとかメイリンとか、ヤヨイとも違う感じで、あの人(ユリス)もまた美人だよな?」
「並べるなら同世代彼女なルナマリア、年下系のメイリン、真面目な優等生タイプのヤヨイ。んであの人は……」
「勝気なお姉さんタイプってとこか? う~む、悪くない」
「そう? 俺はちょっと態度きつくて苦手な感じだけど……」
「ばぁか、そんな中でふとした優しさとかが垣間見える時があるのが良いんだろう? ヤヨイだって、いつも手厳しいこと言ってくるけど、その中に織り交ぜて来る些細な優しさが人気だったじゃねえか」
「あぁ~、確かに。俺も前、適性はありそうだからパイロットはどうか、なんて言われたんだよね」

「ヨウラン、残念だが優しいなんて言葉はユリスとは無縁だ。虚しい幻想は捨てておくことだ」

「ら、ラウラ隊長!?」
「あと、あの子に邪な目を向けたら……分かってるね?」
「は、はい!?」
「色ボケるのは構わんが、緊張した情勢が続く。変な問題は起こすなよ」
「了解です」



「っつはぁ~、ビビった~」
「く~、あの余裕な態度がちょっと鼻につくんだよなぁ」
「だよなぁ、オーブには綺麗な奥さんが居るってのにこっちでもいつも周りに美人侍らせちゃってさ……絶対いつか奥さんに報告してやる」
「お前達、聞こえてるからな」

「「す、すいません!」」





 って言う、セイバーのケーブル引っこ抜き未遂のオマージュ。

 この後は多分やれやれとか言いながら、内心で少し焦って、ルナマリアと少し距離を取って歩く事になる。


この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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