各々に大きな衝撃を与えながら、ラクス達はファクトリーへと帰還した。
一先ずの目的であったダイダロス基地のレクイエムを破壊……更に、駆けつけたコンクルーダーズによる基地の殲滅を見て、オーブへの脅威は取り除けたと判断できるだろう。
色々と考えたい事も多くなった彼等は、しばしの休息のためファクトリーで待機していた。
そんな中飛び込んで来た報告に、再び彼等に緊張が走る。
「ラクス、ザフトがアルザッヘルに侵攻したって本当!」
格納庫で機体の整備を手伝っていたキラとアスランが会議室へと飛び込むと、そこには既にマリュー等も含めた皆が集まって話し合いの最中であった。
「はい、その通りですわ」
「ミネルバはダイダロスを攻略した後、本国から来た増援部隊と合流。その足でそのままアルザッヘルへと向かったみたい」
ラクスとマリューからの返答に聞き及んだ話が事実だとわかり、キラとアスランは表情を険しくさせた。
「ですがラミアス艦長。ダイダロスの戦闘でアルザッヘルの戦力もほとんど無い筈です。脅威としてはもう──」
捨て置ける程度。侵攻する理由は、もはや皆無ではないか。
言外に問うアスランの言葉は、皆の共通認識であった。
ダイダロスとレクエイムこそが要であり、だからこそ先の戦闘ではアルザッヘルから大部隊を送り込んで来たのだ。
その上で敗戦を見たロゴス側に、もはや脅威と言えるだけの戦力は存在しない。
それは、彼等だけでなくプラントを束ねる最高評議会にとっても同じ事の筈。
今ここでアルザッヘルを無為に攻める必要性は無い……その筈であった。
しかし、それに対してラクスは首を振って返す。
「議長にとっては、今こそが時なのです。これまでに進めて来た全てが実を結ぶ、その始まり……」
どこか恐れを抱いているような、そんな気配が垣間見える声でラクスは重苦しく告げた。
「どういう事なのですか。ラクス・クライン?」
「待て、サヤ……ラクス嬢、ラングベルトが言っていたな。君はデュランダル議長とタケルが何を画策しているか、その見当が付いていると」
「はい、その通りです。おおよその見当は付いています」
「つまりは今回のアルザッヘル侵攻も、その計画の為だと言う事か?」
「相違ないかと」
打てば鳴る様に返してくるラクスに、皆は答えを求めて押し黙っていく。
ユリス・ラングベルトはタケルがデュランダルと平和な世界を作り上げると言った。
その言い様はまるで、もうすぐ世界がまるっと変わるような……そんな言い様であった。
これまで人類が歩んできたような、停戦、講和、監視。これらのプロセスを跨いで一足飛びで平和な世界へと至る。その為の大きな手段を用意しているのだと。
そんな絵空事に近い何かの気配を、皆ラクスの言い様から感じ取っていた。
「教えてくれラクス嬢……タケルは、デュランダル議長と何を企んでいるんだ?」
それを聞かなければ、彼の為に何をすることもできない。
止めるべきなのか……それとも、彼の傍で支えるべきなのか。
ユリスの言葉を聞いて慮る気持ちだけが膨れ、ナタルはその先への二の足を踏み続けて居た。
何が正しいかがもはや見えてこなかったのだ。
縋るようなナタルの目が、ラクスの瞳に映り込んだ。
「バジル―ルさん。私もあくまで推測でしかありません。
得られた傍証からこうであろうと踏んでいるだけです。直接聞き及んだわけでは無い以上、確証は」
「それでも構わない。タケルが今何を見ているのか……それが少しでも見えてくるのなら」
「お聞かせください。ラクス・クライン」
ナタルと並んで、同じようにラクスを見つめるサヤの声も合わさり、ラクスには皆の視線が集まっていく。
先を促す様な視線を受けて僅かに身を固くすると、ラクスは一度大きく深呼吸を置いてから、静かに口を開き始めた。
「バルトフェルド隊長とアイシャさんは既にお聞きになっているかと思います。議長が目論むそれの名称を」
確認する様に問われた2人は、小さく首を傾げた。
「名称って言うと、あれか?」
「坊やが持ってきたノートに書いてあった、“デスティニープラン”?」
「はい。これまでに彼の事を調べて来たその結論として、議長はそのデスティニープランを遂行することが目的だと考えられます」
「ラクス……何なの、そのデスティニープランって?」
「議長が作り上げる新たな世界秩序。その根幹を担うものだと、私は考えています」
「新たな……」
「世界秩序?」
聞き慣れない単語に、皆に疑問符が浮かんだ。併せて、どこか訝しむような顔も。
世界秩序……つまりは、全世界で共通の認識と言うべきか。
人が人を殺める事が忌避される様に。生まれてくる子供を親が慈しむ様に。
国家や人種の垣根を越えて同じとされる、基本的な人間としての共通認識。
新たな世界秩序と言う事は即ち、人類にとって共通となる新たな何かが生み出される事を指している。
「ラクスさん。それだけでは良くわからないわ。もう少し具体的に」
「はい。まず第一に、デスティニープランはデュランダル議長が表舞台に立つ前……正確に言うなら、議長となるその以前から考案されたものです」
「議長となる以前?」
「彼の以前は遺伝子工学の権威でした。その知識と見識は素晴らしいものです。
そして、そんな彼が最も推し進めていた研究こそが────遺伝子の解剖」
遺伝子の解剖。どこか重苦しく述べられたその言葉に、皆は息を呑んだ。
その言葉、字面から。なんとなくだが、本能的な忌避感を覚える。そんな心地になってしまう何かが、そこにはあった。
「ラクス、それってもしかしてメンデルの──」
「無関係……とは言えませんが、議長にメンデルに居た経歴はありませんわ。キラ」
遺伝子研究の聖地メンデル。先程の研究内容を考えれば、彼もかの地の関係者で在る事が推測できる。
ひょんなことから自身との繋がりを感じたキラの機先を制する様に、ラクスは告げた。
「ふ~ん、遺伝子の解剖ねぇ……察するに、遺伝子が持つ情報を紐解いて、みたいな話だろ? それこそ、おたく等コーディネーターにとっては日常茶飯事の話じゃないのか?」
ネオの言葉に、同様の認識はあったのか何人かが頷くような素振りを見せる。
そう、遺伝子の解剖とはつまりコーディネーターの根幹。遺伝子操作を受けて生み出された彼等にとって、それこそ今更熱心に研究する分野なのかと疑問が出て来る。
「いえ、ロアノークさん。コーディネーターの総本山であるプラントでも未だ、人が持つ遺伝子の解明はされておりません。
コーディネート技術によって行われる遺伝子操作は極僅か。それも、完成された人間から取り出された遺伝子情報に過ぎません。
優秀な人間から要素となる遺伝子を取り出すことはできても、優秀な人間の遺伝子を一から解析する事は、今のプラントでも不可能なのです」
それは言うなれば、設計図の無い完成されたMSから盗める技術を盗んでいるようなものだ。
どれだけその一端が理解できたとて、その全てを理解する事はできない。
未だ人類の解明というのは、未知の領域なのである。
「遺伝子の解剖。そこから見る新たな世界秩序────デスティニープランとは即ち、遺伝子によって人類を導く計画なのだと、私は考えています」
皆が、改めて息を呑んだ。
導くとは言うなれば遺伝子による人類の支配────随分と大仰で大それた話。しかし、新たな世界秩序を生み出すという事を考えるのであれば、いっそ相応しいとも言える。
皆が押し黙る中、ラクスは続けた。
「遺伝子を解析する事でその人が持つ情報をどこまで読み解けるか。それを議長は研究していました。困難でありながらもそれは確実に実を結んでいきそうして議長は漸くの実証試験を経たのです」
「実証試験、ですか? ラクス・クライン、一体あの男は何を以てそれを実証したというのです?」
齎されたサヤの問いに、ラクスは僅か淀みの気配を見せた。
どこか告げるのが憚られるような……そんな感触にサヤは疑問符を浮かべる。
「────サヤ、恐らくそれは貴女ですわ」
「えっ? それは……どういう事ですか?」
何故そこで自分がでてくる?
不思議そうに首を傾げるサヤに倣う様に、皆にも疑問符が浮かぶ。
「正確にはサヤ、貴女とタケルが居たミネルバがそれだと思われます」
「ミネルバが?」
聞いて、そして合点がいくことがあったのかサヤの表情が打って変わっていく。
「サヤ、思う所は有るのですね?」
「──はい。
脱走する直前に聞き及んだのですが、議長は最新鋭の機体を駆るパイロットを選ぶ際、遺伝子上の相性と言うものを考慮していました。その結果として私は、デスティニーの相棒となるレジェンドを託される事に。何でも、デスティニーのパイロットと私はその……遺伝子上で究極的に相性が良いのだとか。
サヤとしては大変遺憾な話ではありますが、確かにこれまでの戦いの中で、議長が言う遺伝子の相性と言うものを彼に感じた事は少なくありませんでした」
シン・アスカ────その名と彼の事を思い返して、サヤは納得するように頷いた。
二度と失うものかと必死な姿は、最愛の兄と重なって見えた────記憶を取り戻したサヤにとって、ヤヨイ・キサラギで居た頃の感情の理由は、それで説明が付く。
しかし、心惹かれていたのは記憶を失っていた間での事だ。無論、ぶり返してきたサヤの記憶に引っ張られた影響もあるだろうが、ヤヨイ・キサラギがシン・アスカに惹かれていた理由に遺伝子の相性と言われれば思う所は多かった。
オーブ沖の海戦では、互いをきっかけとするように共にSEEDへと至り、ベルリンでは互いの動きを手に取る様に感じられた。
先のダイダロスの戦いにおいても、袂を別ったはずの2人は見事な連携でフルングニルと渡り合っていたのだ。
信頼関係で言えばルナマリアだし、性格でいえば堅物のレイの方が相性が良いだろう。
しかし、ヤヨイで居た時もサヤに戻ってからも、彼女にとって最良のパートナーとなり得るのはシン・アスカであった。
その事実は、デュランダルの知見を実証していた。
「確かに私にとって、彼は最も相性が良かったのだろうと…………今にして思えば、わからなくはない話です」
サヤのその返答にラクスも確信を得たのか、話は続いていく。
「私もファクトリーに来たタケルから聞きましたわ。ミネルバの人員は、議長が選出したそうです。それも、大部分はアカデミーを出たばかりの者が占めていた。
アスランはご存知でしょう?」
「あ、あぁ……確かに、MS隊のパイロットは全員新人だったし、整備班から艦橋クルーまで、経験深い人員は数える程だった。アーモリーワンでカガリと一緒に乗り込んだ時は不安を覚えたが……」
「そしてそこへ、議長も構わず乗り込んだ。アスランが感じたように、経験浅い者達ばかりで不安を覚える様な新造艦ミネルバへと。
デュランダル議長は聡明な方です。自身の立場の重要性を十分に理解している事でしょう。軽率と言わざるを得ません」
アスランは静かに思い返した。
あの日、カガリと共に乗艦したミネルバで。艦長であるタリア・グラディスから下船の進言を受けるも従わず、構わないと言って聞かなかった事を。
お転婆で無鉄砲なカガリのせいでそれに慣れてしまったが、本来であればラクスが言う様に軽率であり得ない行動である。
今聞いているデスティニープランの話があるのなら尚更、自身の命を軽んじる筈がない。
「つまり、乗り込まなければならない理由があった……と。そう言う事かしら、ラクスさん」
「マリューさん、その通りです。少なくともタケルはそう踏んでいました。議長は自身の目で確認しなければならない何かがあって乗り込んだのだと。そしてそれが──」
「私達、ミネルバクルーだった、と言う事ですか」
溢されたサヤの声に、ラクスは頷いた。
「恐らくは研究の成果……その試金石として、ミネルバのクルーに相応しい人間をまだ経験のない新人から抜粋したのです。そして自身が遺伝子を解析し見込んだその能力を十分に発現できるかを確認したかった。サヤはその中でもとりわけ良いサンプルだったのだと思います」
記憶喪失……つまりは本当にまっさらな人間だ。
そんなサヤに、遺伝子から判明する相応しい立場を与え、どれだけの開花を見せるか。
遺伝子から紐解く情報がどれだけ実際と合致するかを見るにはまたとない標本である。
「そして私とミネルバは、議長が望んだ成果を見せてしまった……そう言う事ですか」
「はい。議長は此度の戦火を予期し、周到に準備をしていました。
ザラ派の動きを知りながら見過ごし、ミネルバをそのカウンターとして当てた。その後も開かれた戦端の最前線へとミネルバを送り、十分な活躍が見込める舞台を用意したのです。そうして戦火の中で、ミネルバは議長が思い描いた未来をなぞった。遺伝子が導く未来を。
勿論、全てが思い通りでは無いでしょう。ですが、これまでに世界で起こって来た事は、きっと概ねが彼の筋書き通りです」
アーモリーワンから始まった突然の出撃。そこから続くユニウスセブンの戦い。第三国であるオーブも関わる、オーブ沖の脱出戦。
インド洋、ガルナハン、ダーダネルスにヘブンズベース。
そして遂に行われた……ロゴスとの決戦となる月基地の戦い。
これらが全て、世界を舞台にギルバート・デュランダルが画策した、デスティニープラン遂行の為の計画で在った。
この世界を巨大な実験場として、デュランダルは己の計画の為に利用してきたのだ。
「それじゃラクスさん。今がその時、と言うのは……」
マリューの問いの意味を。そして返されるラクスの答えも、皆少なからずもう理解して居た。
「はい、実験は終わりました。アルザッヘルを討ち、ロゴスの壊滅を以て、彼は本当の意味で動き出すはずです」
ラクスの言葉から時を置いて数時間。
全ての通信設備を利用して。世界中のあらゆる場所へと、ギルバート・デュランダルの声が届けられるのであった。
更新開いてごめんなさい。
幕間で短めでしたが、議長が動き出す前の説明回。
多分デスティニープランするにもなんらかの検証は必要でしょうと言うところからですね。
話進んでないけど、、、感想よろしくお願いいたします。
この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!
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タケル&ユリス
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キラ&アスラン
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シン&サヤ
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イザーク&ディアッカ
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ミゲル&ハイネ
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タケル&キラ(SEED編より
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ラウ&ユリス(SEED編より
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アサギ&マユラ&ジュリ