機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-95 消えぬ予兆

 

 

 

 月面を光の花が彩る。

 

 

 

 最後の戦力を振り絞り展開されたアルザッヘル守備軍に対して、ザフトは基地制圧の為に攻撃を開始。

 練度不足のウインダム等MS隊から、既に攻略法が確立され脅威の薄くなったザムザザー等のMA部隊まで。

 次々ザフトのMS隊に墜とされ、戦火の中に散っていった。

 

 

 

「だぁああ!!」

 

 

 対艦刀アロンダイトでザムザザーをまた1機切り捨てると即座に長射程ビーム砲を展開。

 近くの艦船を、その強大な出力の光の矢で撃ち抜く。

 

 ダイダロスでの疲労もそこそこに、シン・アスカとデスティニーは変わらずの大活躍を見せていた。

 

「おーおー、張り切っちゃってまぁ。久しぶりにクルースと一緒に戦えるもんだから勇姿を見せておきたいってか、シン?」

「うるさいなぁハイネ、別にそんなんじゃ……」

「そういう君は、折角の機体を随分持て余していそうだなハイネ。何ならルナマリアと変わるか? インパルスを乗りこなしているから彼女も可能性はあるだろう」

「おまっ、クルース。そりゃねえだろって。大体まだ俺は真骨頂じゃねえよ!」

「出し惜しんで彼等に負けているようじゃ胸のエンブレムが泣く。しっかりしてくれ元隊長」

「それはお前もだろうが元々隊長!」

「無駄口を叩くなバカ者共。次が来るぞ!」

 

 イザークの声に、放たれるザムザザーの高出力ビーム砲ガムザートフを躱しながら散開。

 タケルのデスティニーがライフルで牽制を掛け、ハイネのデスティニーがアロンダイトで、シンと同じ様にザムザザーを真っ二つに断ち切って見せる。

 

 繰り出されるクローを易々と潜り抜ける辺り、ハイネ・ヴェステンフルスの実力が良くわかる光景であった。

 

「ふむ、流石だハイネ」

「おうよ。グフに乗ってた時とはちげぇからな!」

「ふんっ、くだらん。MSの性能が戦闘の全てを決めるわけでもあるまい。機体のせいにするなど……」

「なんだよイザーク。タケ──クルースとハイネの奴が最新鋭の機体を貰ったから拗ねてんのか?」

「そんなわけあるかバカ者! 俺に思う所があるとすれば、奴のあの態度だけだ!」

「ん? あぁ……そりゃあまぁな」

 

 言って、ディアッカとイザークはタケルが駆るデスティニーの様子を伺った。

 

 

 戦闘が開始されてから既に1時間。タケルはある程度後方を位置取り指揮を執る事に専念していた。

 

 ザフト側は危なげなく攻め続けてはいるが、そこには脅威となりえるMAを引き付けているミネルバの面々と隊長格である彼等に因るところが大きいだろう。

 その中でもひと際目立つのが、最前線で暴れるユリス・ラングベルトのデスティニーだ。

 被弾などあり得ないと言わんばかりの突撃と同時、アキシオンを散弾砲モードでばら撒く。

 集中してくる火線の全てを、まるで未来が見えているかのように躱しては、嵐のように殲滅射撃を繰り返していくその様はデストロイ等巨大兵器とはまた違う形の暴威の化身だ。

 

 ステラ達が居るプラント群を狙われた事も含めて、やはり相当頭にきていたのだろう。他にも散々利用されて蓄積された鬱憤もあるのかもしれない。

 守るべき存在がこの場に居ない以上、清々とロゴス陣営を叩ける機会に、ユリス・ラングベルトは喜びも一入で躍動していた。

 

 そして、そんな彼女を好き放題に暴れさせながらも後方で戦場を俯瞰し、必要な指示を彼女へと下すタケル。

 後ろに控えるミネルバとゴンドワナの元へ敵機を行かせない様に構えているのだと分かるが、そうして自らは後ろで控えて敵を討てない鬱憤を、ユリスのデスティニーに晴らさせているような気がしてならなかった。

 それ程までに、タケルの指示の下で戦うユリスの攻めは、必要以上の苛烈に過ぎるのだ。

 

 見え隠れするのはやはり、心良くは受け取れない悪意の気配。

 怒り、憎しみ……出撃前の彼からもどことなく感じ取れてはいたが、負の感情がどうしてもチラついて見えた。

 

 妙に奮起しているシンに、タケルから発破をかけられて無様は曝せないと機体を走らせるハイネ。

 そんな彼等が、タケルに利用されている様に感じるのは気のせいだろうか────イザークは、内心で眉を顰めた。

 

 勿論この戦いはロゴスの壊滅の為に必要な戦いだ。プラントが撃たれた以上、月にある軍事施設の一切が脅威だと言うのはイザークとて理解している。

 ダイダロスに増援を送ってきたのだからロゴス側も徹底抗戦の構えだろう。レクイエムと言う脅威を持ち出してきたロゴスに対して、今更融和などあり得ない。

 

「──えぇい、考えるのは止めだ。奴とはプラントに戻ってから話を付ける。良いなディアッカ!」

「分かってるけどよ、別に俺は何も言って無いぜ?」

「うるさい! そうと決まれば、さっさとこの戦いを終わらせる。行くぞ!」

「はいはい。素直じゃねえよなホントお前」

 

 ザフトのクルース・ラウラ。

 こうして仲間の内へと入ってきた以上、イザークとしては放っておけないのだろう。平和な時に見知った仲もあるし、イザークは2年前に命を救われた事に変わらず恩義を感じている節もある。

 突出し始めるイザークのグフを援護する様に、ディアッカのザクも続いていった。

 

 流石は大戦を生き残った英雄と言ったところか、その動きに不安は見られず次々と敵機を落とし戦線を押し上げていく。

 ちなみにジュール隊の紅一点、シホ・ハーネンフースはシンとレイに置いてけぼりにされたルナマリアと即席バディを組んで奮闘中である。堅物感のあるシホはヤヨイ・キサラギに通じるものがあり、存外2人の相性は悪くない様だ。

 

 

 

「シホさん、援護します!」

「お任せを!」

 

 最近はもっぱらブラストシルエットでの援護が光るルナマリア。ケルベロスで道を切り拓けば、そこをブレイズ装備のザクが駆け抜けてファイヤービーをばら撒きながらビーム突撃銃でウインダムを撃ち落としていく。

 清々と火砲を吐き出していく様は、いっそ見ていて気持ちが良い。しかもばら撒いている様でその実十分な命中率を引き出している辺りは流石の一言。

 ルナマリアは、眼前で舞い踊るザクの動きに感嘆の息を漏らした。

 

「はぁ……あの動きの中であれだけ平然と当てるなんてどうなってるのかしら。以前隊長に聞いたら、ガチ勢はシステムに頼らないマニュアル射撃だって聞いたけど……」

 

 戦場の伝説────かのフリーダムのパイロットはそうらしい。

 ルナマリアからすれば何をしているか甚だ、さっぱり、まるで意味のわからない話だが。とにかくガチ勢はシステムに頼らないマニュアル射撃を好むと言うのだ。もはや住む世界が違う。

 

 大戦を生き抜いた連中は皆そうなのだろうかと、ルナマリアはシホの機動射撃に、そんな気配を感じていた。

 

「ふふっ、私はその様な異次元の才は持ち合わせていませんよ。機動制御パターンに合わせた射撃プログラムを組んでいるだけです」

「そ、それはそれで別の意味で異次元なんですけど……」

「私は元々技術者なので。2年前は試験機体を駆りブイブイ言わせていたものです」

「そうですか……つまりはウチの隊長と同類と」

 

 何という事か、ここにもMSを人並み以上に扱いながら好き勝手に弄繰り回すことが趣味な猛者が居た。

 かのフリーダムとは同類でないとしても、変態的パイロット能力と変態的技術力の両方を備えた、変態仮面隊長と同類と言う事だ。

 ルナマリアはシホとのバディをこれっきりにしようと心に決めた。

 

「では、ラウラ隊長も元は技術者なのですか?」

「あれでもパイロットはおまけらしいですよ。信じられませんけど」

「それは、羨ましい限りですね。ジュール隊長はMS戦闘なら十分に語って下さるのですが、残念ながら開発関係への造詣は深くない様で」

 

 その声音にはまるで全てが完璧な恋人に唯一欠点を見つけてしまった様な、そんな何とも言えぬ残念な気持ちが表されている気がした。

 そう言う意味では最近ルナマリアの心に良く居座る生意気盛りな少年も、魅力的な部分は増えたが依然として欠点と言える部分も相変わらずである。

 今度は妙な親近感を抱いて、ルナマリアは再びシホが駆るザクの後背へと身を置いた。

 

「それなら、今度ウチの隊長をそちらに連れて行っても良いですよ。もう今はミネルバ所属でもないですから!」

「ご冗談を。議長直属のコンクルーダーズ……そのような贅沢はできませんよ!」

 

 言い合いながら散開。迫りくるウインダム数機を2人で切り崩していく。

 

 奇妙なところで奇妙な繋がりを持った2人はこうして敵機を撃破し続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイ・ザ・バレルは愛機となったレジェンドを駆り、戦場を忙しなく飛び回っていた。

 

 プロヴィデンスの系譜であり、レイもまた機動戦を決して得意とするわけではないが、それでも彼は必死に戦場を奔走せざるを得なかった。

 何故かと問われれば、それが彼に課せられた役目だからだ。

 

 尤も、彼の眼前で暴れ回る紫のデスティニーが居なければ、彼がこんなに奔走する事も無いのだが…………そうこうしている内に、また件の彼女は次なるターゲットへと狙いを定めて機体を翻した。

 

「ちぃ、次はそっちか。いい加減にしろ、ユリス・ラングベルト! そんなに自由に動き回られてはこちらの援護が追い付かない!」

「はぁ? 何言ってるのよこのくらい──」

 

 ハッとして、ユリスは口を噤んだ。

 このくらい彼なら……そこから続く言葉と認識を、今ここで変えなければならない。

 

 レイと組んでこの戦いをこなせ────それが、タケルからユリスへと下された指示なのだ。

 

 元々1人で戦う事しかできなかった彼女だ。その戦い方を利用され、味方機を壊滅させられた事は記憶に新しい。

 唯一肩を並べて共に戦えるのはタケルだが、これは認識共有による意思の伝達が前提である。

 つまるところ彼女は、周りと合わせる事ができない。

 だが、それでは困るのだと────タケルはユリスに今回の課題を渡した。

 

 今はもう、秘匿された実験部隊ファントムペインではない。

 ザフトの正式な部隊として動く以上、これからタケル以外の人間とも一緒に戦う事になるのだ。ともすれば、彼女が指揮を執る事すらあり得る。

 部隊の一員として戦う事を、彼女は知らなければならないのだ。

 

「悪かったわね……どうすれば良いのよ」

 

 彼女にしては珍しい、素直な言葉であった。

 僅かにレイは面食らうも、余計な問答をしている時ではない。

 直ぐにレイはユリスへと声を返した。

 

「俺の援護を宛てにしろ。難しく考えず利用するとでも考えれば良い。お前は1人で戦う訳じゃないんだ。後ろに俺が付いて援護の手を張り巡らせる。だからせめて、俺が付いていると言う事だけは認識しろ」

「──了解。やってみるわよ」

 

 やってみるとは言いつつも、やりにくい……どうにもそんな気持ちが胸中に湧き上がり、ユリスはしかめっ面を見せた。

 と言うのも、レイ・ザ・バレルには今は亡きラウ・ル・クルーゼの面影があったのだ。

 

 2年前、絶望の中で生きていたユリスに戦う意味を……生きる意味を教えてくれた彼。

 仮面で隠されていたその素顔をユリスは知っている。それが、恐ろしい程レイと酷似していた。

 何の因果か性別が分かたれた自分とタケルの方が、まだ違って見えるだろう。それ程までに同じ顔をしていたのだ。

 必然、そこにはある仮説が生まれる。

 否、これは仮説ではないだろう。純然たる事実として、レイ・ザ・バレルはラウ・ル・クルーゼと同じ遺伝子の元に造られたクローンであるはずだ。

 

 ユリスは惑っていた。

 

 2年前の戦いで、生き残ってしまった。

 残り少ない命と知り、全てを賭してこの世界で生きた彼。

 そんな彼が目論んだ未来を否定した、この世界の行く末を見届けたい……ラウと共に破滅を望んだユリスは、そうして後の世界を生きて来た。

 

 彼に対して特別な感情が、無いわけでは無い。

 

 絶望の中で……ともすればそれが絶望だとも知らずに生きていたユリスにとって、生きる意味をくれた彼の存在は大きかった。

 そんな彼と同じ存在が現れたとなれば、嫌が応にも意識してしまう。

 彼と同じ顔を、声を。更には扱う機体までもが同系統である彼に、ユリスはラウの存在を感じずにはいられなかった。

 2年前のあの日────ふとした拍子に合流し、フリーダムとシロガネを相手取ったあの日の彼は。事も無げに無鉄砲で戦う自分に合わせて、タケルとキラを相手取って見せたのだ。

 彼とレイは違う人間だと頭では理解していても、ユリスの心はそれを否定してレイに(ラウ)を求めてしまった。

 

「あぁっもう! 柄にもなくおセンチな! 何考えてるのよ私は」

 

 湧き上がってくる邪魔な感情を払拭し、意識を切り換える。

 やる事は1つ。タケルに言われた通り、レイと共にこの戦場を戦い抜く事。ただそれだけだ。

 むしろこの状況を楽しめと、ユリスは己に言い聞かせる。

 これまでは考える事の無かった、仲間との戦闘という楽しみ……どうすればより上手く、効率的で、破壊的に戦えるか。それを突き詰めるのもおもしろい。

 ユリス・ラングベルトは、タケル・アマノが言った様に、自他共に認める戦闘狂なのだから。

 

「宛にするわよ、レイ・ザ・バレル」

 

 答えは、ユリスが見据える先を飛翔するドラグーンの光の雨で返された。

 彼女が行く道を切り拓くようなその援護射撃に、思わず獰猛な笑みを浮かべてしまう。

 

「ふふっ、貴方ともまた存分に楽しめそうね」

 

 高まる戦意にSEEDを発現し、戦鬼は再び戦場で躍動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ウインザー、状況は?」

 

 戦闘の大半を頼れる友軍たちに任せ、1人後方で状況の推移を見守っていたタケルは、徐にミネルバのアビーを呼んだ。

 

『はい、ラウラ隊長。現在敵戦力の凡そ6割を撃破。増援部隊も、これまでに確認されておりません』

「基地から脱出の動きはどうなっている?」

『シャトルの類は戦闘開始から1機もありません』

「そうか……」

 

 シャトル数と基地規模から考えるに、到底全てが脱出したとは言えないだろう。

 つまり、他は全員居残り組という訳だ。

 出て来たMS部隊も含めてざっと基地内の半数は残留し、こうして抵抗を続けている事になる。

 基地を破棄する為の時間稼ぎだと言う事は想像が就くが、それにしても多い。タケルは俄かに疑念を募らせた。

 体裁か、意地か、はたまた別の戦略的意味をもつのか。必死に抵抗する様には、その何かが感じられた。

 

「ウインザー、敵基地中枢へのルートを割り出せるか?」

『えっ? それは、光学映像からある程度の予測は可能ですが……』

『クルース、どうするつもり?』

「グラディス艦長、突入して司令部を叩いてきます。敵は基地の破棄を念頭に抵抗しているはずです。恐らくはこちらに渡せない何かがあるのでしょう。むざむざそれを取りこぼしては、プラントへの脅威が消えたとは言えなくなります」

 

 勿論、それはオーブにとっても。

 内心でタケルは付け加えて、その瞳に真剣さを増した。

 

「ウインザー、ルートを2つ予測してくれ。私とシンで基地司令部を叩きにいく」

『りょ、了解しました!』

『シン、聞こえるかしら。これよりクルースと共にアルザッヘルへと突入してもらうわ。彼の指示に従って頂戴』

「え、あっ──了解!」

 

 今またユークリッドを叩き切っていたシンの元へと、タリアの通信が届く。

 シンは届けられた指示にハッとしながらも、即座に頷いて了承の声を返しデスティニーを動かした。

 

「ウインザー、割り出された突入点をシンに送れ! シン、ダイダロスと同様に司令部を叩きに行くぞ。やれるな?」

「あぁ、勿論だ!」

 

 同じ陣営で、アルザッヘルもダイダロスも近い時期に建設されたものだ。司令部までの基地構造には似通ったものがあるだろう。

 一度ダイダロスに突入し司令部を叩いた経験のあるシンは、間違いのない人選だ。

 

 2機のデスティニーがアルザッヘルへと飛翔した。

 

 

『ラウラ隊長、ポイント算出できました。送ります』

「私がα、シンはポイントβから突入だ。

 ウインザー、基地内部に高エネルギー反応が出たらすぐに知らせろ! シン、その時は深入りせずに即時撤退。シールドを最大出力のまま離脱だ。良いな」

『あぁ、わかった!』

『了解しました』

 

 再会した時のぎこちないやり取りから、随分とはっきり答えを返す様になったシンの声に、僅かに頼もしさを覚えつつ。

 タケルはアルザッヘルの閉ざされたハッチをパルマフィオキーナで破砕し、シンと共に基地内部へと突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「守備軍の損耗率、8割を超えました……」

 

 

 アルザッヘル基地司令部。

 齎された報告に、司令官ケイン・ハルマ―は静かに目を伏せた。

 敵わぬとは理解して居たが、まるで勝負にならない戦闘の展開に、諸手を上げて降参したい気分である。

 

「見事だな……デュランダルめ」

 

 ザフトの動きがもう少し遅ければ、地上から戦力をかき集める事も出来ただろうか。

 否、既に地球圏においてロゴス側であった大西洋連邦の影響力は著しく低下している。

 デュランダルによるロゴスメンバーの公表で、一躍勢力を増してきたユーラシア連邦が、今は地球圏の最大勢力と言えるだろう。

 

 ダイダロスでの戦いに敗れた時点で、こうなる事は半ば必然であった。

 

「──司令」

「分かっている、もはやこれまでだ。データの方はどうなっている?」

「はっ、大方のデータはあちらに。ダイダロスの戦闘データも含めて送信は完了しております」

「そうか……ありがとう。これで我々の義務は果たせた」

 

 ケインは目の前の端末を操作した。

 すると、コンソールに備えられた、厳重なカバーに隠された赤いスイッチが露出する。

 その意味するところは1つ────基地を破棄する為の自爆スイッチである。

 基地内の電力を賄う動力機関の暴走によって爆発を起こし、基地を跡形もなく吹き飛ばすのだ。

 それで、この基地から得られるものは何もなくなる。

 

「敵MS、基地内部に突入!」

 

 感傷に浸る暇も、ここに居る皆に覚悟を決めさせる時間も与えない。

 そんな無情な報告に、ケインの表情はどうしようもなく怒りに染まった。

 

 モニターに映るのは、ヘブンズベースで確認されてから幾度となく彼等を阻んだザフトの最新鋭機デスティニーの姿。

 

「お前達はいつも、そうして力で弱い者を容易く踏みにじるのだ────コーディネーターめ!」

 

 元より、コーディネーターがプラントで独立など起こさなければ。地球圏にとって何ら脅威にならなければ……世界はもう少し平和であったのだ。

 引鉄を引いたのは、自分達を新たな人類の種と思い上がった彼等である。

 

 

「司令!」

「分かっている!」

 

 

 自爆スイッチのカバーが取り外された。

 そこから数秒……いつの間にか立ち上がり、己へと敬礼を見せていたオペレーター等の視線が、自分に集まるのを感じながら。

 

 司令官ケイン・ハルマ―は最後の言葉を世界に遺した。

 

 

「後は頼みます──アズラエル様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!? ラウラ隊長!!』

 

 通信回線よりアビーの切羽詰まった声が飛び込んでくる。

 瞬間に、タケルは全てを聞く前に事態を察知した。

 

『基地内部に高エネルギー反応!』

「シン、離脱だ!!」

「くっ、了解!」

 

 即座に機体を翻し、2機のデスティニーはソリドゥス・フルゴールを最大出力で機体前面に展開。

 同時に、スラスターを全開にして後退していく。

 

 次の瞬間、タケルとシンの視界を光が埋めた。

 

 基地の外へ脱出するべく飛翔する2機に爆炎が迫ると、すぐさまそれは2人を呑み込んでいった。

 爆風の衝撃はビームシールドで殺しつつ、しかしその勢いに押されて機体は吹き飛ばされる様に加速していく。

 

「ぐっ!?」

「うぅ!?」

 

 タケルとシンはコクピットの中で、その強烈なGに身を捩りながら必死に耐える。

 機体を包み込んだ熱が伝わってきて、コクピット内の温度も上昇し、さながら大気圏に突入するときの様であった。

 

 意識がブラックアウトしそうなその刹那…………2人を襲っていたGが消え視界には漆黒の宇宙が広がる。

 

 2機のデスティニーは、基地内部より無事脱出できたのだ。

 

 

 既に戦場に居たアルザッヘル守備軍はそのほとんどが駆逐されており、残された僅かな者達も基地の自爆と共に降伏を表明。

 アルザッヘルは陥落し、戦闘は終息していた。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……少し、危うかったな。シン、無事か?」

『あぁ、なんとか……少しクラクラするけど』

 

 

 眼下で爆炎に彩られたアルザッヘル基地を流し見ながら、シンの健在な声を聞いてタケルは小さく安堵の溜め息を吐いた。

 一歩間違えれば彼を失っていたかもしれない……その事実が頭を過り、無茶をさせたことを自戒する。

 

「シン、一先ず帰投しろ。ルナマリア、デスティニーを牽引してやってくれ。無理をさせたくない」

『えっ、あ、はい』

『クルース、別に俺は──』

「黙って引かれておけ。私と同様、かなり身体に負担を掛けたはずだ。ルナマリア、頼む」

『はーい、了解しました。って、同じだけ負担がかかったのなら隊長はどうなんですか?』

 

 間の抜けた声と共に動き出そうとして、しかしそこに気が付きルナマリアから疑問が投げられる。

 同じ状況に居たのだ。負担と言う意味ではこの強がりな仮面隊長も同じ事ではないのか。

 訝しむ、と言うよりはいっそどうなんだと追及する様な声音が向けられていた。

 

「鍛え方が違う。この程度では──」

『私が連れていくから安心しなさい。ほら、行った行った』

 

 未だにどこかわだかまりがあるのか。ルナマリアはユリスの通信に少しだけ顔を顰めると、シンと合流してデスティニーを牽引していく。

 

 それを見送ってから、タケルは近距離通信を開いた。

 

「──はぁ、ユリス。無用な心配だよ」

『勿論、心配なんかしてないわよ。ただ────失態ね、兄さん』

 

 失態……ユリスが言わんとしている事を理解して、タケルは悔恨の表情のまま目を伏せた。

 

「あぁ……もっと早く動くべきだった。

 力の差を見せつければ降伏する可能性もある……そんな甘い考えで居たのが間違いだった」

『自爆したと言う事はこちらには一切渡さない……否、渡せないって事でしょうね。恐らく、連中はまだ何かを抱えている』

 

 できれば、殲滅ではなく制圧をして、敵方の情報を手に入れたかったのが本音だ。

 

 大量破壊兵器レクイエムを用いた戦略攻撃……そんな事を平然とやってのける連中だ。どんな手を隠し持っているか知れたものではない。

 ヘブンズベースから始まり、ダイダロスにアルザッヘルと、主要な基地を制圧されたロゴスとの戦い。その大勢は決したはずだが、奴らは用意に禁じ手となる札を切って来るのだ。

 核攻撃、大量破壊兵器、それらを突然プラントやオーブに再び放り込まれれば、戦勝など全くの無意味となるだろう。

 

「とにかく、帰還して議長に報告だ」

『そうね……予定通りなら議長さん、動き出してる頃でしょうし』

「これからの予定を遅らせる必要が出て来る。このまま事を進めるには、奴等の状況が不透明だ」

『それでも議長さんは推し進めるわよ、きっと。今が一番の時だもの』

「進言はするさ……僕達は同志だから」

『そう……聞き入れてくれれば良いけど』

 

 話と通信回線を断ち切ると、憂いを覚えながら2人もミネルバへと帰還した。

 

 少し前まで戦火に塗れていたのが嘘であったかのように戦場は静寂に包まれ、静かな時の中でタケルは捨てきれない不安を胸の内に押し留めるのに必死であった。

 

 

 この不安はあの日と同じであった。

 

 

 戦争を終わらせる鍵を握った彼女を追い詰め、寸前のところで取り逃した時と。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、長きに渡って続いたロゴスとの戦いは、ギルバート・デュランダルの勝利という形で幕を下ろすのであった。

 

 




レクイエム攻略からここまで、大分話数使ったなぁ。
次回からついにあれが始動。どうなることやら。

感想、是非ともよろしくお願いします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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