機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

264 / 330
PHASE-96 デスティニープラン

 

 

 

『世界中の皆さん。今再び、突然のメッセージを送る非礼をお許しください。私は、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです』

 

 

 

 

 世界中。あらゆる通信機関を用いて発信される、プラントの会見場の模様。

 真剣な面持ちでカメラへと向かう、彼の姿が電波に乗って世界へと流されていた。

 

 画面の端にはワイプされた戦闘映像が……ダイダロス、そしてつい先程片付いたアルザッヘルでの戦闘の模様だ。

 ロゴスのMSやMAを次々と撃破するザフトのMSと、殲滅されたダイダロス基地。破壊しつくされるフルングニル。次いで、自爆したアルザッヘル基地。

 

 世界の情勢を聞き及んでいる民衆は、すぐさま理解した。

 

 これは、戦勝の報告であると。

 

 

『皆さんに報告があります。

 先日行われたオーブ首長国連邦への大規模攻撃。続いてプラント本国に行われた同攻撃を受けて、我々プラントはロゴスが持ち出した大量破壊兵器の排除。及び宇宙に存在する彼等の軍事施設、その一切の排除へと踏み切りました。

 結果として、今皆さんがご覧になっている映像の通り彼等の脅威は全て、ザフトの勇敢な兵士達によって駆逐できました。

 今ここに宣言しましょう。戦いを引き起こす者達、死の商人ロゴスとの戦いは、これを以て集結したのです』

 

 

 俄かに、世界は沸いた。

 ギルバート・デュランダルによるロゴスの存在の公表。そこから始まった彼等との戦い。

 ヘブンズベース攻略作戦から、プラントも含めた地球圏の勢力が一同に手を取り合いロゴスの打倒に動いてきた。

 

 その戦いが、遂に終わりを迎えたと言うのだ。

 

 平和の訪れを予期して、世界中で歓喜の声が上がった。

 

 

 

『ですが、私の心は未だ怒りが渦巻いています。

 何故、こんな事になってしまったのか。何故、こんな世界になってしまったのか。考えても既に意味のない事と知りながら私の心はまた、今尚その答えを探して彷徨っています』

 

 

 

 世界中で起こる反応とは対照的に、カメラに映る彼の表情には未だ暗いものが残っていた。

 続く言葉に、世界は再び静寂を取り戻していく。

 

 

『私達はつい先年にも大きな戦争を経験しました。そしてその時も誓ったはずです。こんな事はもう二度と繰り返してはならないと。

 しかし、にも関わらず! ユニウスセブンは落ち、努力は虚しく戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大し、私達はまたも同じ悲しみ、苦しみを得る事となってしまいました。

 本当にこれはどういう事でしょうか。愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは』

 

 

 誰もが平和を望むはずの世界で。

 蓋を開けてみれば、振り返ってみれば、何も変わらぬ戦いの連鎖が広がっていた。

 見ているだろう民衆へと、彼はその意味を問いかけていく。

 

 

『1つには先に申し上げた通り、間違いなくロゴスの存在所以でしょう。敵を創り上げ、恐怖を煽り戦わせて、それを食い物としてきた者達が居た。長い歴史の裏側に蔓延る彼等……死の商人の存在が間違いのない原因です。

 それを我々は漸く、滅ぼすことができました。彼等に因る多くの犠牲を払いながらも、我々は彼等を打ち倒すことができたのです。

 しかし、だからこそ今私は皆さんに問いかけたい』

 

 

 原因と結果。それを見せられた民衆への新たな問題提起。

 神妙な面持ちで、デュランダルは静かに口を開いていった。

 

 

『本当に……本当にこれでこの世界は平和になると、言えるでしょうか?』

 

 

 観ていた者達に。聞いていた者達に。心の奥底で秘めていた不安を掘り返す問い掛け。

 

 見知らぬところで誰かが戦い、敵を討ってくれた。

 実感は沸かないだろう。戦っていたのはどこかの誰かであり、自分達は何1つ知らず、聞かず、目にしていないのだから。

 

 周りの空気に流されて漠然と平和になる事を喜んでいた民衆の心に、デュランダルの問いは一石を投じていた。

 

 

『我々はロゴスを討ちました。しかし、これでこの世界は平和になると……もう争いが起こる事は無いだろうと。すぐ隣にいる大切な者達へ、大切な我が子達へと……皆さんはそれを約束できるでしょうか? 確信を持って言えるでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 投げられたギルバート・デュランダルからの問いかけを聞きながら。

 ラクス・クラインはモニターに映る彼を視線鋭く見つめていた。

 

 

「始まったわね」

「──はい」

 

 背後で共に見ていたマリューの声にも、不安や疑念が込められていた。

 世界を舞台としたギルバート・デュランダルによる劇場が、いよいよ幕を上げようとしているのだ。

 

 それも、彼等の大切な人を、その内に抱えながら……

 

 

 

 

 

 

 

『平和になるなどとは言えないはずです。約束などできないはずです。

 人類は自ら争いを止める事ができない。有史以来の人類のこれまでが、それを証明しています。これは、皆さんも既にお気づきの事でしょう』

 

 

 漠然と誰もが抱える不安。

 仮に一時の平和になろうとも、いつかまた戦いは起こるだろうと、誰もが心の奥底では感じていた。想っていた事だ。

 どれだけ平和を叫ぼうとも、必ずいつか戦いは起こる。可能性はいつまで経っても、0にはならない。

 これまでに紡がれて来た人類史が、今を生きる者達に魅せる絶対的な平和の否定。

 

 目を背けていた民衆に気づかせるように、デュランダルの言葉は民衆へと染み入っていった。

 

 

『皆さんは気が付いたはずです。人類の未来に平和等ない事を。

 しかし、皆さんは気が付いていません。我々人類が今や、滅亡の淵に立たされているという事を』

 

 

 ハッとする様に、民衆は彼の言葉にまた引き込まれていく。

 争いが無くならない……それだけにとどまらず、人類と言う種の滅亡が今目の前に迫っているのだと。

 荒唐無稽でありながら、しかしそれを信じさせるだけのものを、彼は成し遂げてきている。

 民衆がその事実を呑み込んでいくのは早かった。

 

 

『先の大戦。我々プラントは地球連合の核ミサイルによる殲滅攻撃を受けました。同時に、我々プラントも大量破壊兵器ジェネシスを地球の大西洋連邦首都、ワシントンに向けて放とうとしておりました。ユニウスセブンの悲劇、ブレイク・ザ・ワールドの惨劇は皆さんの記憶に新しい事でしょう。その何倍、何十倍という規模の被害をだす攻撃が、先の大戦では行われようとしていたのです。

 想像して見てください。核ミサイルによって宇宙にあるプラントの全てが壊滅している様を。ジェネシスによって地表に居る半数の生物が死滅し、死の星となってしまった地球を』

 

 

 映像に流されるは、デブリベルトの一部となっていたユニウスセブンの残骸。ブレイク・ザ・ワールドによっておきた未曽有の大災害の被害模様。

 そして、γ線レーザーのジェネシスが地球に放たれた時のシミュレーション映像が流れた。

 何倍と言われてもピンとこない民衆に対して、損の現実をこれでもかと叩きつける様な映像である。

 

 

『ご存知の通り、勇気ある者達の活躍によって、幸運にも最悪の結末は回避されました。

 しかし、我々は運が良かっただけです。たまたま事がそこまでに至らなかっただけです。一歩間違えれば、こうなっていた可能性は十分にあった。

 より良いものをと進化し続けて来た人類の技術は遂に、母なる大地である地球と、我々人類を滅ぼすところにまで至ってしまったのです』

 

 

 人類史の中で、争いが潰えたこと等一度とてない。

 それでも身を喰い合う争いの果てに滅びてこなかったのは滅ぼすだけの力を、技術を持っていなかったからに過ぎない。

 仮に核ミサイルをジェネシスを歴史上のどこかに放り込んだのなら……人類は今頃、生きてはいなかったかもしれない。

 

 

『もう、こんな事は終わりにしなければなりません。こんな争いばかりの世界は。

 ロゴスを討ち、世界の敵となる者達が潰えた今。我々は人類の歴史から争いがなくならない理由。常に存在する我々の最大の敵と戦わねばなりません。

 地を離れて宇宙を駆け、その肉体の能力、様々な秘密までをも手に入れておきながら、それでも我々は未だ人を解らず、自分を知らず、明日が見えないその不安を抱えている。より多く、より豊かにと、不安と飽くなき欲望に際限なく手を伸ばしてしまう。

 このいつになっても克服できない、我ら自身の無知と欲望こそが、終わる事のない争いの原因────人類の真なる敵です!』

 

 

 世界が再び、沸き上がった。

 しかしそれは先のように喜びに塗れたものではない。惑いや疑念、なんなら怒りすら胸に灯している者もいるだろう。

 だが一方で、彼の事を信ずる信奉者も多い。

 そうだろうと納得する者。周囲に同意を呼びかける者も出て来る。

 

 世界は今、ギルバート・デュランダルの一挙一動に注目していた。

 

 

『だがそれももう終わりにする時が来ました。終わりにできる時が! 我々はもはや、その全てを克服する方法を得たのです。

 全ての答えは、皆さんが自身の中に既に持っている! 

 それによって、人を知り、己を知り、明日を知る。これこそが、繰り返される悲劇の……終わらぬ争い止めるための唯一の方法。

 私は人類の存亡を賭けた最後の防衛策として────全世界へデスティニープランの導入実行を、今ここに宣言いたします!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバに宛がわれた士官室の一室にて、タケルとユリスは顔を合わせて、モニターに映るデュランダルの宣言を聞いていた。

 

「いよいよね、兄さん……もう後戻りはできないわよ」

「あぁ、分かってる」

 

 目を伏せながら、タケルは一度大きく深呼吸をした。

 

 流石は時の人、ギルバート・デュランダルと言ったところだ。

 良く聞こえ、良く届く声と言葉であった。

 こうして映像にして見せられれば、その言葉の説得力の高さに舌を巻く気分である。

 

「本当に良いのね?」

「オーブを守るためならなんだってする。そう決めたんだ。君の言うこのクソッたれなこの世界を変える────例え、カガリと敵対する事になっても」

 

 胸を切り裂くような想像が、しかし現実となる事を予期して、タケルは苦渋を浮かべた。

 

 ギルバート・デュランダルは初めからそのつもりだ。

 混迷する世界に打ち出した、途方もない人類救済策。

 急激な変化を受け入れるには、人類も世界も余りに足りない。反発は必至だろう。

 反デュランダル、反デスティニープランの動きは確実に巻き起こる。そして、その旗頭には彼女……カガリ・ユラ・アスハが挿げられるはずだ。

 平和を願う中立国の姫であり、大量破壊兵器によって国を焼かれて尚、未だ折れずに起ち、抗い続けて居るオーブの獅子。

 ダイダロスでの戦闘介入はそれを知らしめて見せただろう。

 

 亡国の不屈姫────カガリの求心はデュランダルに負けず劣らずである。

 時が来ればギルバート・デュランダルに不信を抱く者として、ラクス・クラインと共に世界を束ねる事になるはずだ。

 そして……

 

 そうしてまとまった反対勢力を人類救済の障害────即ち、人類の敵として断じる。

 

 ロゴスに代わる新たな世界の敵と定めて、ひと纏まりとなった反対勢力を討ち、デスティニープランを執行するのである。

 

「君こそ本当に良いのか? 僕と議長に賛同して」

「別になんとも。私からすれば兄さんも議長さんもエゴの塊だけど、人間なんてそんなもんでしょ。私はステラ達は守れるのならそれで良いし……まぁ、このままズルズル滅びの道を歩むよりはプランでもなんでもやった方が良いんじゃないかしら。

 私もラウも、今の人類には早々に見切りをつけてるわけだし、このままじゃ滅びるって見解は同じよ」

 

 いずれ滅びる……だから2年前に彼等は破滅を選んだ。

 結果として残った世界は、何も変わらず。

 人類は依然として愚かな争いの中で確実に滅びの道を辿っている。

 

 争いを無くすには……本当の意味で平和を手に入れるには、人類に対する劇薬が必要なのだ。

 

 

「な、なぁ隊長……じゃなかった。クルース、居るか?」

 

 

 おずおずと飛び込んでくるのは軽いノックの音と、生意気小僧の声であった。

 惑いの声音であるのは、デュランダルの演説を聞いて思う所有りと言う所であろうか。

 薄っすらと外からはルナマリアの声も聞こえており、2人で来ている事がわかる。

 

「シンか。少し待ってくれ、今出る」

 

 タケルは仮面を用意してから、ユリスと共に訪問の声に応じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人はその資質の全て、性格、知能、才能、また重篤な疾病原因の有無の情報も、本来体内に持っています。まずそれを明確に知る事が重要です。

 今の貴方は不当に扱われているかもしれない。誰も、あなた自身すら知らないまま貴重な貴方の才能が開花せずにいるのかもしれない。それは人類全体にとって非常に大きな損失なのです。

 私達は自分自身の全てを、そしてそれによって出来る事をまず知る所から始めましょう。

 これは貴女の幸福な明日への、輝かしい一歩です』

 

 

 

 

 流れて来る映像と、落ち着いたナレーション。

 宣言されたデスティニープランの内容が、世界中に放送されていく。

 

 遺伝子により全てを知る。

 人が持つ可能性を。歩むべき道を。

 進むべき道を示され、出来る事を知り得るのなら────人の生に不安は起こらない。

 

 世界を平和にする確かな道筋が、彼等の目の前に示されていた。

 

 

「これが、デスティニープラン」

「人類の存亡を賭けた最後の防衛策、か……」

 

 キラとアスランが呟く声が、会議室内に妙に響き渡る。

 この場に居る一同、まだもたらされた情報をかみ砕けずにいた。

 デスティニープランがどれほどのものなのか。これによって世界がどのように変わるのか。規模の大きすぎる話に、全くイメージが湧かないのだ。

 

「大きく出たもんだねぇ……つまりは何か、皆で遺伝子の導くままに生きていきましょうって? そんなの、実感湧かねぇっての」

「ムウ…………えぇ、そうね。確かに実感は湧かないわ。余りにも漠然とし過ぎていて」

「ですが、妙な期待感があるのも事実です。事の真偽や内容はともかくとして、彼の声と言葉は信じさせる力があります」

「お姉様。それならばお兄様はあの男の言葉を真に受けて妄信してしまったとでも言うのですか?」

「そうは言っていない。むしろ……タケルが向こうに居ると言う事を考えれば、デスティニープランは荒唐無稽な絵空事ではないのだと。私は思えてならない」

 

 オーブを喪い、平穏な未来を切り捨ててまで……タケル・アマノはこのデスティニープランに縋った。彼が今ザフトに居ると言うのは、そう言う事なのだ。

 打ち出されたこの施策が、仮初であるわけは無いだろう。

 本当に、世界を平和にできるだけの大きなプランである事に疑問の余地はない。

 

「──ずっと、考えていました」

「ラクス?」

 

 徐に、ラクスは口を開いた。

 その声には悔恨を乗せて。その表情には悲痛を見せて。

 

「どうしてタケルは、1人であちらに行ってしまったのだろうと」

「ラクス・クライン。その様に、お兄様を責める様な──」

「違いますサヤ。彼を責めているのではありません。むしろ責められるべきは……私です」

 

 何を言うのだろうか。

 疑問符を浮かべ、否定の気配を見せ、皆が首を振る。

 自責の物言いを見せるラクスに、キラが身を寄せる。

 

「ラクス、何を言って──」

「いつもそうでした。タケルはカガリさんと必死に……国を、世界を平和にしようと戦い続けて居たのです。

 私達が安穏と平和を享受しているすぐ傍で」

 

 プラントにおける穏健派の象徴であったラクス・クライン。

 そして、先の大戦において最も戦争を劇化させた戦犯。パトリック・ザラの息子であるアスラン・ザラ。

 

 戦争が終わり、平和の道を歩みはじめたプラントに置いて、余計な諍いを生むであろう事を危惧して、2人はオーブへと亡命した。

 ラクスは戦争に疲れたキラの傍で。アスランは、国を背負う事になったカガリを支えるために。

 表舞台から姿をくらました。

 

 世界にとってはその方が良いのだと……2年もの間、その免罪符を切り続けて来た。

 

「結果、タケルは見限ってしまった。この世界も、人類も────私達も」

 

 だから向こうに行ったのだろう。守れる手段と、出来る事を求めて。

 

 オーブを滅ぼそうとする世界。

 争いを止められない人類。

 そして……大切な居場所にいる彼等。

 

 それらに見切りをつけ、平和を手に入れるために、絵空事とも思えるデュランダルの計画を求めた。

 

「だがラクス、俺達は何度もタケルに」

「頼って欲しいと訴えました。力に成って見せると……アスラン、それは私もわかっています」

「だったら」

「ですがアスラン、タケルにとって私達は頼れる存在だったのでしょうか?」

「何を言って──」

 

 どん、と胸を撃たれたような心地と共に、アスランはラクスの言葉に目を見開いた。

 持ち合わせている優秀な頭脳が思考を回し、アスランはラクスが言わんとしている事を手繰っていく。

 そうして見えてくる答えは、到底許せるものではなく、アスランは握った拳を震わせた。

 

「そう言う事か……あのバカ野郎」

 

 アスランもまた、ラクスと同じく沈痛な面持ちで吐き捨てる。

 

「ラクス、アスラン、どういう事?」

「プラントから身をくらました私達を頼ること等……タケルにはできなかったのです。動けば必ずどこかでその存在は露見する。そのしがらみをオーブへと呼んでしまう可能性があった。

 私達がオーブへと亡命してしまった時点で。表舞台から姿を消した時点で……タケルにとって私達は頼れる存在ではなくなってしまいました」

「だからタケルは、僕達を見限ったっていうの……ラクス?」

 

 剣呑とした気配を醸し出すキラに、ラクスは首を振って返した。

 

「キラ、その言い方は適切ではありません。タケルにとってそれしか方法が無かったのです。

 オーブを追放され、頼れる寄る辺が無くなったタケルにとって唯一取れる平和の道筋が、議長とデスティニープランだった」

 

 頼らなかったのではない────頼れなかった。

 大切な人達だから。大切な国にいる人達だったからこそ。頼れば巡り巡って、いつかオーブを危険に晒す。

 世界と人類の中に必ず存在する、愚かな者達の目についてしまう事こそが、最も大きなリスクなのだと。

 それを崩壊したオーブと共に思い知らされてしまった。

 

 

 

「────何故なのですか」

 

 

 

 気が付けば、少女は口を開いていた。

 己への悔恨を浮かべるラクスとアスラン。それを遣る瀬無く見つめるキラ。

 

 彼等の様を見て、サヤ・アマノは身を震わせながらどこか怒りとも取れる声音を発した。

 

「サヤ?」

「どうして貴女方はそうも、自分に役割を押し付けるのですか?」

「役割?」

「クラインの娘、ザラの息子。キラ・ヤマトにしても同じ。その生まれからまるでこうあるべきと。

 自らが望みもしない世界の為の役割が、それ程までに重要なのですか!」

 

 ぶつける様に、サヤは吠えた。

 納得のできない考えに、唾棄するべき思い上がりに反抗する様に。

 

「貴方達がオーブに居たのは世界の為ではないはずです! もっと前に、もっと身近にその理由があったのでしょう!」

 

 ラクスも、アスランも、キラも……言われて改めて気が付く。

 オーブに渡った、その根源たる理由を。

 

「大切な人の傍に居たい……それが最初だったのではないのですか? それを望むことの何が悪いのです! 

 お兄様もカガリ・ユラ・アスハも同じです。世界、国、平和と! 自分の幸せを蔑ろにしていつも周りの事ばかり!」

 

 最も強い理由のはずだ。

 そこに大切な人がいるから。その人と過ごす平穏な時間が欲しかったから。だからその道を選んだ。

 偏にそれは、自らの幸せの為。

 

 その他の理由は所詮後付けに過ぎない。

 

 だと言うのに、こうして後になってから、その時の自分の選択を否定する。

 人として最も正しい欲求に従い選んだ道に、後悔している。

 

「アマノの家に生まれた私は、オーブの為に尽くすのが務め……でも私は! 今までもこれからも、お兄様の御傍に居る。その幸せの為だけに生きていくつもりです! それが、いけない事だと。世界の為に我慢をしろと、貴方達は言うのですか!」

「違うよサヤ。ラクスはサヤの生き方を否定しているわけじゃ──」

「誰の生き方でも同じです! 私も貴方達も、お兄様だって皆同じはずでは無いですか! 何が違うのです! 増上慢も大概にしてください!」

 

 どんな人間であっても。どんな立場の者であっても。

 等しく幸せに生きていく権利が。幸せを求めて良い権利がある筈だ。

 

 サヤはそれを、彼等に否定して欲しくなかった。

 悲し気に過去の自身を責める彼等を見たくなかった。

 何故なら彼等はもう、サヤ・アマノにとって大切な身内になっているのだから。

 

 何より────

 

「お願いですラクス・クライン。貴方達までそうして、自身の幸せを否定しないで下さい。

 そんな事をされては、全てを切り捨てていったお兄様の選択を……自身の幸せを捨ててまで世界を選んだお兄様の方が、正しくなってしまいます」

 

 涙交じりに吐露するのは、らしくない程感情に任せて叫ぶに至った本当の理由。

 ラクス達の自責の言葉は、言い換えれば自身の幸せの否定────オーブの人間であることを捨てた、タケル・アマノが選んだ道の肯定である。

 

「貴方達まで、諦めないで下さいよ…………お兄様と議長が示した道を否定して下さい。でないとサヤは、お兄様を連れ戻す為のこの腕すら……伸ばせなくなってしまうではないですか」

 

 帰ってきて欲しいと声を挙げ、求めて伸ばすその腕に正しさが込められなくば、決して届きなどしない。

 ラクスの言葉を否定しなければ、サヤは“タケルを取り戻したい”という戦う意義を見失ってしまう。

 

 そんな残酷な事をしてくれるなと、サヤは涙を滲ませながら懇願した。

 記憶を取り戻し、漸く再会できたはずの兄と再び別たれた道。サヤは、今度こそと諦めず奮い立ち、手を伸ばそうとしているのだ。

 

 若干16歳の少女が見せる感情の発露。大切な誰かを想う、ただそれだけの為に散らされた言葉。

 しかしそれらは、デュランダルの演説と言葉に知らず呑まれていた彼等に、本当に大切な事を思い起こさせた。

 

 

「──サヤ。貴方が居てくれて、本当に良かったです」

 

 

 鈴の音の様な声が、優しさを湛えて紡がれる。

 顔を上げたサヤの目には、薄く笑んだラクスの姿が映った。

 隣にいるキラも、アスランも、周囲に居るマリュー等にもまるで天啓を得たような、妙に気持ちの良い表情が並んでいる。

 

「──どういう、事ですか?」

「私達は随分と、弱気になっていたという事です。それをサヤが叩き直してくれました」

「うん」

「そうだな」

 

 倣う様に、キラもアスランも頷いた。

 何故か一様に、マリュー達も含めて皆がありがとうと言うような顔つきであった。

 

 ギルバート・デュランダルの演説には、皆少なからず頷ける部分があったのだ。

 戦争の凄惨さを2年前に目の当たりにした彼等。そして変わらず今尚争いが続いている世界を見ている。

 ロゴスを討ったところで戦争が終わらないと言う事も、人類が戦争によって滅びの道に向かっていると言う事も、良く理解できてしまう。

 

 故に、呑まれていた。

 世界がこうも変わらないのは、何もしていなかった自分達のせいだと。

 それを分かりやすく体現するおお手本(タケル)が居たせいで、知らない内にその背負いこみ癖が移ってしまい、先のように嘗ての自分の選択を愚かだったと断じてしまった。

 

 だが、生きる理由などもっと単純で良い。生きて望む事などもっと原始的で良い。

 それをサヤ・アマノは目の前で叫んで、叩きつけてくれた。

 

 小柄な少女が内に宿す、純粋で強い想いこそが、提示されて呑まれかけたデスティニープランに対する答えであった。

 

「遺伝子によって導かれる未来……タケルの事が大好きなサヤにとって、何の意味も持たない未来ですわ」

「とっ、当然です! サヤの未来は、お兄様と共に在ることです。それ以外に在りません!」

「そう、どれだけ遺伝子が最善の道を示そうとも……どんな未来を望むのかは人、当人の意思。それ以外に有りません。

 遺伝子による生き方の管理……それは人の意思を奪う事と同義です。受け入れるわけには参りません」

 

 ラクスは、清々しいと言う声音で言ってのけた。

 漸く。結論と共に決意を表明できた。その事に心地の良さを覚えながら、サヤへと微笑みかけた。

 目の前の少女が吹き起こした風に、思わず気持ちは乗っていく。

 

「キラ、私は地球へ────オーブへ降ります」

「えっ……あっ、うん。わかったよ」

 

 すぐさま彼女の胸の内が分かるのは流石と言う所か。

 にべもなく、キラは頷いて見せる。

 

「ラクス・クライン……何をするつもりですか?」

 

 覚悟を決めたような顔つきに、サヤは嫌な予感を禁じ得なかった。

 自身の感情の発露が、彼女にとって何かしかのトリガーとなってしまった……そんな気がしてしまう。

 そんなサヤの心配をよそに、ラクスは小さく首を振って返す。

 

「そんな不安な顔をしないでくださいな。サヤが心配する事はありません。私は私の意思で、私が望む幸せの為に、成すべきことをするだけなのですから」

 

 柔らかな口調の中で毅然とした表情を見せ始める。

 いよいよをもって、サヤはラクスが動き出す意味を理解し始める。

 

「ラクス・クライン。お待ちなさ──」

「それと忘れないで下さい、サヤ」

 

 

 どこか不敵に……ラクス・クラインは笑った。

 

 

「タケルの事を想っているのは、何も貴方だけでは無いのですよ」

 

 

 

 大切な妹分の心の声に。

 

 燻り続けて居た心の焔を。

 

 平和の歌姫は今、大きく燃え上がらせているのであった。

 

 




デスティニープラン「ほな、遺伝子から最適人生教えたるわ」
タケル「戦えるけど戦いたくないでござる!」
サヤ「そんなの知るか、お兄様と添い遂げます!」

うーん、この……

今回描きたかったのは、デスティニープランの有用性ではなく必要性。
原作では今一伝わってこなかったので、人類の危機を前面に出して訴える様な展開に。
サヤちゃんがぶち撒けてくれましたが、反論としてはまだ弱いのとは感じています。
とはいえ、作者のおつむはパァなのであんまり小難しく考えないでもらえれば幸いです。
要するにタケルはバカヤローされる定めなのです。

それでは、感想是非ともよろしくお願いします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。