機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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半月も更新明けてしまいました。申し訳ない。
どうぞお楽しみくださいませ。


PHASE-97 変遷と機先

 

 

 

 ギルバート・デュランダルが全世界へと打ち出したデスティニープラン。

 世界を本当の意味で平和へと至らせるための壮大な計画に、世界は多くの反応と混乱を示していた。

 

 

 彼を信奉するもの。

 彼を不審に思うもの。

 事の真偽と良し悪しを見定めているもの。

 

 各陣営、各国家が、それぞれにどう対応するべきかと惑う中。

 

 ロゴスとの決戦を終えたミネルバは漸く、プラント本国へと帰還を果たすのであった。

 

 プラント本国はさながら凱旋模様で彼等の帰還を喜んだ。

 デュランダルが先に述べたように、世界の大敵であったロゴスを討ち滅ぼした英雄達の帰還である。民衆達はこぞって、ミネルバがプラントの艦船ドックへと入っていくのをモニタ越しに見つめ、歓喜の声を挙げる。

 その模様は艦内でも観測されており、英雄たちは思わぬ騒ぎに多少の戸惑いを覚えながら、下船の準備に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!」

 

 

 ハッチが開かれ、降りて来るミネルバクルー達を出迎える中に、一際大きな喜びの声が飛んだ。

 

「あっ……メイリン!」

 

 自身とは少し色彩の違う赤毛。見慣れたはずだが、懐かしさを感じさせる大切な妹の姿に、ルナマリアは足を早めて彼女の元へと急いだ。

 

「メイリン!」

「お姉ちゃん!」

 

 生き別れた……いっそ死に別れていたかもしれなかった姉妹との再会。

 喜びを露わに、ホーク姉妹は感動の再会を果た──

 

「お姉ちゃ──んぎゃ!?」

「こんのバカ妹がぁああ!!」

 

 せなかった。

 赤毛のおさげがビクリと揺れると同時、メイリン・ホークの少女らしい小さな顔が、ルナマリアによって鷲掴みにされる。俗にいうアイアンクローというやつだ。

 潰れたカエルの様に無様な声と共に、メイリンは頭蓋を締め付けられ、ジタバタと苦しさに呻きを上げる。

 

「おっ、お姉、ちゃ……ぐぇっ」

「人が散々心配してたってのに、1人清々と想い人を追いかけておいて、どの面下げて感動の再会よ!」

「おねぇちゃん! まっ、違うんだって!」

 

 パイロットとして鍛えられたルナマリアの膂力が、ギリギリとメイリンを締め付けていく。

 さてさて、どうしてこのような再会となってしまったのか────発端は、少し遡る。

 

 

 ダイダロス基地とレクイエムを攻略して、タケルとユリスがミネルバへと合流した日の事だ。

 シンとレイが戦闘狂のユリスに付き合わされている間に、彼等の雑務をルナマリアとこなしていたタケルは彼女に妹の安否を伝えていた。

 当然ながら、巻き込んだのは自分達だと謝罪も交えてだ。

 

『そういうわけで私達の都合にメイリンを付き合わせてしまった。申し訳なかった』

『いえ、御二人はザフトに知られるわけにもいかなかったんですよね? それなら、仕方ないですよ』

『一応、落ち着いた時にザフトへと戻る手立ては用意したのだが……いや、すまない。この言い方は失礼だな。彼女の申し出に甘えてしまったんだ』

『ちょっと待って下さい……えっ、じゃあメイリンは最終的に自分の意志で隊長に付いて行ったんですか?』

『それは……事実としてはそうなんだが、我々がそうさせてしまったと言うか……』

『でも隊長はちゃんと帰れる手立てを用意してくれたんですよね?』

『あっ、あぁまぁ。巻き込んだままでこのままザフトに戻れないなんてなったら流石にと思ってな。しかし──』

『つまり、あの子は隊長が気を遣って用意してくれた、その道を蹴ってまで付いて行ったって事ですよね?』

『そういうわけでは……』

『ふぅ~ん…………あのバカメイリン』

 

 散々っぱら心配をかけておいて、自分はちゃっかり好きな道を歩んでいたバカ妹に、ルナマリアの怒りは天を衝く様であった。

 再会した暁にはかならず締めると誓っていたのである。

 

 その結果がこの惨状だ。

 

 感動の再会を一方的に予定していたメイリンは、不意をつかれる形でルナマリアに捕まり、締め上げられていた。

 

「おっ、ねえ……ちゃ、ギブ……」

「お、おいルナ。もうその辺で」

 

 おずおずと止めに入ったシンの声に、ルナマリアはビクビクと身体を揺らすメイリンを一瞥。

 逡巡の末、バカ妹を解放する。

 

「────ふんっ。シンに免じてこれで勘弁してあげるわよ。このバカメイリン」

「あぅう……酷いよお姉ちゃん。あれ? でも今の感じ……もしかしてお姉ちゃん、シンと──」

 

 瞬間、渇いた銃声の様な音と共にメイリンが崩れ落ちた。

 ルナマリアとシンのやり取りに微かな変化と気配を感じてしまい、そうして余計な事を口走ろうとしてしまったその結果、銃弾の如き右ストレートを顎に喰らい意識を刈り取られた。

 それはもう見事な拳であったと、一部始終を見ていたユリス・ラングベルトは後に語ったと言う。

 

「お、おいルナ……」

「──ラウラ隊長。責任を取って、この子の面倒をお願いしますね」

「あ、あぁ……しかしルナマリア。嬉しさの照れ隠しにしてはやり過ぎではないか?」

「姉の特権です」

「──そうか」

 

 何とも言えぬ表情を仮面の奥に作りながら、このやり取りの陰には自分達にも責任があるだろうと、タケルは胸の内でメイリンに合掌し、崩れ落ちた彼女を背負ってやった。

 些か格好の付かない状況だが、意識を刈り取られた無残な少女をそのまま床に横たわらせて置くわけにもいかない。

 

「だがルナマリア、流石に時と場合は選んでおけよ。時間を取り過ぎだ」

「えっ? あっ……」

 

 瞬間、ルナマリアは表情を青ざめさせる。

 メイリンしか入っていなかった視界をぐるりと見渡せば、そこには黒い長髪の偉そうな────否、事実として偉い人物がそこに居たのだ。

 

 

「ふっ、中々面白い見世物だったよ。ルナマリア・ホーク」

「し、失礼しました!!」

 

 慌てて敬礼と共に下がり、クルー達の人垣へと混ざり込むと、ルナマリアは羞恥に塗れながら俯いた。

 正に一生の不覚と言った所。妹の事ばかりに目がいってしまい、本当に空気の読めない行動をお偉方に晒してしまっていた。

 穴があったら入りたいと、俯きながらも視線を巡らせる始末だ。

 

 そんなルナマリアを温和な笑顔と共に流し見ながら、デュランダルは漸くと言う様に艦長であるタリア・グラディスへと目を向ける。

 

「お恥ずかしい所をお見せしました議長。申し訳ありませんわ」

「戦勝気分ではそれも致し方ないだろう。君達が残したのはそれ程の戦果だ。咎める気は無いよ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」

 

 タリアとの些細なやり取りから、続いて居並ぶ他の者達へと目を向けていく。

 

「ジュール隊、ジャニス隊。あぁそれにハイネ、君もだ。本当によくやってくれた。君達のお陰でプラントはどうにか無事だ。礼を言わせてくれ、ありがとう。

 それから────」

 

 最後になって目を向けるのは、端に並ぶたった2人の部隊────コンクルーダーズ。

 タケルとユリスを見止めて、デュランダルはわざわざ2人の眼前まで歩み寄った。

 

「初陣としては素晴らしい活躍だったそうだね、ラウラ隊長。聞けば第一射の軌道を逸らしてくれたのは君達だと言うじゃないか。任命した私も鼻が高いと言うものだよ」

「誇れる様なものではありません。結果として、プラントは撃たれてしまったのですから」

「それでもだ。私の命は君達に救われた。評議会も君達の活躍を賞賛している。褒賞を与えるべきだとね」

 

 どこか意図の込められた視線を向けられ、タケルは仮面の奥で眉を顰めた。褒賞を求めろと、そう言っている様な気配である。

 恐らくは特別扱いをより顕著に、表に出していくと言う事だろう。

 この場で戦果の褒賞を求める────コンクルーダーズが特別で重要な部隊であることを知らしめ、作戦時における発言権と決定権を強固なものにするのだ。

 

 コンクルーダーズを正に自身の手足として運用する為の、その布石である。

 

「何かあるかね、クルース?」

「僭越ながら、急ぎ求むる事はあります」

「是非とも、遠慮なく言ってくれ」

 

 ミネルバだけではない。他の部隊の面々も居て、更にはデュランダル御付きのザフト将官も居並ぶこの場で。

 タケルは求められた問いに、静かに口を開いた。

 

「────それでは。私の工廠への出入りを許可願いたい」

「工廠に? しかしそれは、既に許可されているも同然ではないかな?」

 

 工廠で生み出された最新鋭機のパイロットなのだ。

 こうして戻ってくれば、機体を預けるのは当然だし、出撃の際にはまた赴く事になる。

 述べられた要求に首を傾げるデュランダルへ、タケルは被りを振った。

 

「パイロットとしてではありません。技術者としてです。急ぎ私とユリスの機体を仕上げます。同時に、残りのコンクルーダーズの機体も、予定されているパイロット達に合わせて手を加えるつもりです」

「そう言う事か、理解したよ。君ならば是非もない話だが────良いのかね?」

 

 それは本来、オーブにだけ捧げていたものではないのか? 

 

 言外に問うデュランダルの言葉に、タケルは再び被りを振った。

 

「私の目的は変わらないですよ。その為に必要な事をするだけです」

 

 それが最終的にオーブを守る事に繋がると信じているから……タケルの声に淀みはなかった。

 

「そうか。では工廠の担当者には連絡を入れておこう。君の指示には優先で従わせる旨も一緒に」

「ありがとうございます────それから、別件で後程報告したいことがあります」

「後程、時間を作ろう。こちらから連絡を出す」

「わかりました。お待ちしています────では」

 

 メイリンを背負いながら、格好の付かない敬礼を返して、タケルはユリスを引き攣れて早速工廠へと向かうべくその場を後にした。

 

 

 仮面の奥の、そのまた奥へと表情を隠すタケルの背を、デュランダルは苦笑しながら見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ORB-12シンゲツ。

 暗夜を思わせる色合いを、特徴的な鏡面装甲が輝かせ、MSハンガーに鎮座する様はまるで切り取られた月明かりの夜を思わせる。

 

 そんな己の機体のコクピットの中で、サヤ・アマノはキーボードを叩き、機体の調整に追われていた。

 先に行われたダイダロス攻略作戦において、シンゲツは十分な性能を発揮していたが、それと併せて欠点も散見されたからだ。

 

 特に厳しいのは、燃費が悪すぎる事。

 バッテリー搭載型の機体でありながら、フリーダムやジャスティス、デスティニーやレジェンドと言った最新鋭機に迫る為にと引き上げられたシンゲツの性能は、どうしても電力消耗を度外視で設計されている。

 その最たるものが、シロガネ・コクウと同様のスラスターシステムとなるヴォワチュール・リュミエールだ。

 本来核動力による無尽蔵なエネルギーを前提とした推進機関。バッテリー機でフル稼働させようものなら直ぐにエネルギーは底をつく。

 そもそも、シロガネとおなじ設計の背部スラスターは、サヤの手には余るオーバースペックな代物である。その出力とエネルギー消費を抑えコストパフォーマンスを向上させた方が使い勝手は良くなるだろう。

 元々シンゲツのエネルギー事情は、高い消耗率に対する手立てとして長刀型実体剣オハバリによるエネルギーの回収を想定していたのだが、先の戦いではフルングニルを相手としまともに近づく事すらできなかった。

 お陰でオハバリの実践も行えず、実験データから想定される回収電力を参考に、機体の各部出力を見直しているのである。

 

「──むぅ。痒い所に手が届かない絶妙なデータですね」

 

 背部ビーム砲塔は威力を損なわぬギリギリ。メインウェポンとなる長短の多目的ビームライフル2本は出力を落とすわけにはいかず。セイバーと比べれば細身の機体とはいえ、高い機動性に振り回されない為には機体駆動部の出力も十分に確保しなければならない。

 

 絶妙に足りない、電力の懐事情であった。

 

「フリーダムやジャスティスが羨ましいです。何の気兼ねも無くフルスペックを発揮できるのですから」

 

 それが任されるだけのパイロットだと言う事を、サヤは百も承知だ。

 最愛の兄の機体シロガネも、ドラグーン兵装を主軸とした電力消費の高すぎる機体。だからこそ核動力搭載に踏み切っている。

 それに比べれば、サヤのシンゲツはヴォワチュール・リュミエールを搭載しているもののまだ工夫でどうにかしようと思える機体だ。

 何故核動力にしてくれなかったのだと、詰まらない文句を言う気は更々無かった。

 

 ただ1点────たった1つの不安要素さえなければ。

 

 

「ZGMF-X42S……お兄様の、デスティニー」

 

 

 破壊の光から嘗ての仲間を救ってくれた白翼の機体。

 最も近くに居たはずなのに、最も遠くに行ってしまった、大切な人が駆る機体。

 

 ジブラルタルで見たシンのデスティニーと細部では違いが見られたが恐らくは同型機だろう。

 赤い大翼のデスティニーは、どこか禍々しさを感じる悪魔的なシルエットに見えたが、対する白翼のデスティニーはその色合いと、窮地に駆けつけた様も相まってまるで天使の様であった。

 

 だが、その実彼が行ったのは、撤退するロゴスの部隊へと向けた殲滅攻撃。赤いデスティニーよりも余程悪魔的と思える、ドラグーン兵装に因る蹂躙だ。

 ジブラルタルでサヤがデュランダルに向けて言った通り、ドラグーン兵装を自在に扱える稀有なパイロットの、その全力戦闘であった。

 

 果たして、自分にあの機体を相手取る事ができるだろうか…………サヤは自問した。

 

 幼い頃より父ユウキ・アマノの願望と期待を一身に背負わされて、望まぬ訓練に明け暮れた兄。望まずとも開花していくその才覚に。

 サヤ・アマノが敵わぬこと等、ずっと前から知れていた。

 

 先の戦いでキラとアスランは、兄とその相方となったユリス・ラングベルトを相手に一触即発となったが……果たして彼等をして、互角かどうかだ。

 

「私に、お兄様を止める事ができるのでしょうか……」

 

 否────自問の答えは出ていた。

 パイロットとして劣り、機体性能でも劣る。

 兄を愛し、取り戻したいと言う想いは天井知らずではあるが……しかし、想いの強さがこの差を埋めてくれようはずもない。

 

 現状のサヤとシンゲツでは何をしようと、兄を連れ戻すことは不可能に近かった。

 

「──仮に望めるなら」

 

 彼と一緒であれば……続く言葉を、サヤは呑み込む。

 自身の隣で、兄を取り戻すために共に並び立ってくれる者。

 それを思い描いた時。サヤの脳裏に過ったのはキラでもアスランでもなく……真紅の瞳をぎらつかせる少年の姿であった。

 

 彼と一緒なら、負ける気などしない。

 互いに没入状態へと入り込めば、言葉無くとも互いの動きが分かるようになり、打ち合わせ無しで足並みを揃えられる。

 ギルバート・デュランダルが言った、究極的に相性が良いと言うのは間違いがなかった。

 サヤ・アマノとシン・アスカは、互いを高め合う事ができる理想のパートナーになり得るのだ。

 

 2人でならどんな相手も……どんな壁だって打ち破れる。

 

「むぅ……どうにかミネルバから。ザフトから引き離すことはできないでしょうか。お兄様は無理でもシンならあの手この手でどうにかなりそうな気はするのですが──」

『サヤちゃん』

「あっ、シモンズ主任。どうされましたか?」

『いえ、随分長い事籠ってるみたいだから気になったのよ。シンゲツの調整は大丈夫?』

「はい、御心配をおかけして申し訳ありません。調整の方はどうにか……ただ、少し今後を憂いていただけですので」

『そう、気持ちは分かるけど…………そうそう、連絡だけど先程彼等は地球に戻ったわよ」

 

 瞬間、サヤはまた別の意味で憂いの表情を浮かべた。

 彼等とはつまりキラとアスラン。そしてシャトルに乗せたラクス・クラインの3人だ。

 彼らは地球へ……オーブへと帰還したのである。

 

「そう、ですか」

『伝言も預かっているわ。“サヤ、貴女は何も気にせず姉(予定)となる私の勇姿を御覧なさい”だそうよ』

「それはなんとも、不躾な……妹(予定)の間違いです」

『あぁ、うん……とにかく今日の夜には声明を出すそうよ。カガリ様と共に』

「そうですか。それは確かに、見届けなければいけませんね────焚きつけた張本人として」

 

 言って、サヤは顔を顰めた。

 先刻、皆で集まってデュランダルの演説を聞いた折。

 吐き出して、まき散らした感情の発露。

 己の幸せよりも世界を……何かを優先する彼等に投げた言の葉。

 それが引き金となり、ラクス・クラインは決心してしまった。

 

 今一度表舞台に立つ事を。世界にその身を晒す事を。

 

 2年間隠し、そうしてデュランダルに利用されてしまったラクス・クラインと言う存在を、取り戻そうとしていた。

 

 そんなつもりは微塵も無かったが、自身の言葉が彼女の決心の引鉄となった事は、サヤのとってどうにも居た堪れない気持ちだ。

 

『だから、そういう物言いは止めなさい。ラクスさんにそんなつもりは無いのよ。

 全く、貴女もあの子と同じで、そう言う所は変わらないわね』

「ふふ、それは最上の褒め言葉です。シモンズ主任」

『──褒めてないわよ』

 

 シンゲツから降りて、呆れ顔のエリカと合流したサヤは、少しだけ軽くなった足取りでモニターのある会議室へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブ首長国連邦オノゴロ島。

 

 かろうじて残っていたモルゲンレーテの滑走路へと、シャトルは着陸していく。

 傍らには傍らにはフリーダムとジャスティスを侍らす、なんとも豪勢な護衛付きであった。

 

 そうして動きを止めたシャトルの搭乗口から顔を出したラクスは、再びのオーブの惨状を目の当たりにした。

 

 見渡す限りの瓦礫の山。

 島のほとんどがモルゲンレーテのスペースであった巨大な軍事工廠の面影は、影も形も見られなかった。

 首都オロファトがあったヤラファス島には巨大なクレーターが作られ何も残っていなかったが、オノゴロはオノゴロで、瓦礫の山が残された酷い有様である。

 

 キッと、ラクスはその光景を目に焼き付けた。

 

「この惨状を見れば、貴方の気持ちも分かります……等と言うのは烏滸がましいのでしょうね、タケル」

 

 そう言えるだけ自分がこの国を愛していたのなら、きっともっと、これまでに何かできたのだろう。

 

「ですが、私の胸の内にも……この惨状への怒りがありますわ」

 

 父の死にすら感情に蓋をできる彼女が、随分と久方ぶりに必死でその感情を抑える必要があった。

 怒りだ。紛う事のない怒りが、彼女の心の奥底で燻っていた。

 

 ラクス・クラインはオーブと言う国が好きであった。

 豊かで、長閑で、子供達が笑って安心して暮らせる。

 そんな優しいこの国が、本当に大好きであった。

 先の大戦で、カガリとタケルが一躍有名となった事も大きく、戦後のオーブにおいてナチュラルとコーディネーターの差別意識は些細な物となっていた。これには代表就任演説でカガリが述べた事も大いに影響しているだろう。

 ここに住むのはナチュラルでもコーディネーターでもなく、皆がオーブ国民だと言ってのけたカガリの言葉は、多くの人々に浸透していた。

 とどのつまりこの2年。オーブは本当に、平和を体現できる国であったのだ。

 デスティニープランなど無くとも、ナチュラルとコーディネーターが分け隔てなく暮らせる。そんな理想の国になりつつあった。

 

「だから、必ず貴方を止めて見せます────タケル」

 

 もう一度あの平和な国を取り戻す。

 デスティニープランなどで管理された平和ではなく。平和を体現するオーブを取り戻すことが、世界を本当の平和へと変えていく一歩だと信じて。

 

 その為に戦う事……今のラクスに、迷いは無かった。

 

 

「ラクス?」

 

 

 掛けられる声に階下を見れば、パイロットスーツ姿の愛しい人の姿。

 

 

「キラ、ごめんなさい。今行きますわ」

「あっ、慌てなくて良いよラクス。ゆっくり降りて来て」

 

 

 少しだけ軽くなる声と足取りでキラの元へと降りていく。

 自身の決意を……決心を、何も言わずに後押ししてくれる彼には感謝しかなかった。

 

「お待たせしましたわ」

「カガリは別の離島だって。それじゃあ、行こうか」

「はい! おねがいしますわ」

 

 今のオーブに彼等を乗せてあちこち移動する手段を用意している余裕などない。

 必然ここからは自らの足で……と言うよりは、ストライクフリーダムに一緒に乗っていくと言う、最も安全な移動手段で離島へと向かう。

 これまた、豪勢な移動手段である。

 

 

 こうしてラクスは、自らの戦いの場へと歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント本国が持つ軍事工廠。

 アーモリーワンが建造される以前からその役割を担っていたマイウス市のプラントへと赴いたタケルとユリス。それから、なし崩し的に一緒に連れて来られたメイリンの3人は、工廠へと案内される。

 そこは2年前、ZGMF-X10AフリーダムやX09Aジャスティスを生み出した場所である。

 

 そして今ここで新たに生み出されようとしているのは、それらを超える機体群達である。

 フリーダム等ファーストステージ群の後継となった、インパルス等セカンドステージ。

 それを超えるデスティニーやレジェンドは位置付け的には本来サードステージに当たる。

 

 そして、ザフト内でも精鋭中の精鋭のみを選出し、複数製造されたX42Sデスティニーを与え部隊化。

 絶対的な単騎戦力のみを揃えた最強のMS部隊。それがコンクルーダーズである。

 ザフト内の通例である3機小隊編成ではなく、2機単位のバディ編成として計6機、6人だけの精鋭部隊を予定していた。

 

 今ここで建造されているのは、残り3名の機体だ。

 

 

「あの~、タケルさん? 私、こんな所来て良いんですか?」

 

 通路を進みながら、おずおずとメイリンは先を行くタケルへと問いかけた。

 自分は本来ミネルバの所属。生きてこうしてプラントへと戻ってきた以上、復隊する事にもなる。

 ましてや自分はアカデミーを出たばかりのCIC。パイロットでもない自分は本来、こんな機密だらけの軍事工廠に足を踏み入れること等ないはずであった。

 

「あぁ、ミネルバのCICなら別の子がもう居るから。メイリンはもう、コンクルーダーズ隊長である僕の副官だ」

「あっ、そうだったんですね。私は全然構いませんけど……向こうに居たらお姉ちゃんに苛められそうだし」

「それは心配と嬉しさの裏返しだ。後でまたゆっくり話すと良い」

「──はい」

 

 容赦なく意識を刈り取られたアレが、心配と嬉しさの裏返し? タケルの言葉にメイリンは訝しんだ。

 

「それで兄さん、なんでメイリン・ホークまで連れて来たのよ」

「メイリンは情報解析のプロだ。僕はその能力を十分に買っている。ユリス、ダイダロスとアルザッヘルでの戦闘データから自分のデスティニーの改良プランを立てて。メイリンはそのデータ解析の手伝い」

「えぇ!?」

「はぁ? 何で私がこの子と──」

「これまで整備士任せだったんだろ? ディザスターに乗っていた時も、君の希望通りの機体とはいかなかったはずだ」

「それはまぁ……そんな立場じゃなかったし」

「今度は僕が全て望みどおりに仕上げてやる。だからメイリンと協力してデスティニーを君の専用機に仕上げろ。僕は自分のと、予定されてる面々のを進めるから」

「それじゃあ、好き放題要望していいの?」

「あくまで要望だからな。現実的に無理なものは無理だし意味わからない新兵器とか作れないからな。常識で考えてくれよ」

「わかってるわよ。ふふぅん…………何を要求しようかしらねぇ」

 

 脳内で自身の機体をどんな風に思い描いているのか。無様なニヤケ面を見せるユリスに、タケルは辟易した。

 恐らくは今釘を刺した事を理解しきれていないだろう。この後のメイリンの苦労が思い浮かぶ様である。

 

「あの、タケルさん……私ユリスさんと2人きりは──」

「申し訳ないけど僕もやりたい事が多いからユリスの監視はお願いねメイリン。大丈夫、今のユリスは十分に君に心を開いてくれてるから。悪い事にはならないから安心して」

「あっ、その…………はい、わかりました」

 

 これが惚れた弱みと言うところか。

 オーブを離れてからずっとそうだが、どことなく追い詰められて必死な様子には否と返す事ができず、メイリンはタケルの要求に従わざるを得なかった。

 がっかりさせたくは無いし、自身の能力を見て期待されてるともなれば、やはり恋する乙女。嬉しいものなのだ。

 

「さっ、行くわよメイリン・ホーク!」

「わかりましたけど…………タケルさん、私は後で頑張ったご褒美を要求します!」

「勿論。考えておくよ」

 

 ただでは転ばない。転んでもただでは起きない。そんなメイリン・ホークであった。

 

 ユリスに引き摺られ去っていくメイリンを見送りながら、タケルは辿り着いた工廠内をぐるりと見回し、一際目立つ機体へと目を向ける。

 

 居並ぶデスティニーの中で1機だけ、異なる意匠の機体がそこに鎮座していた。

 

「聞いていた通り、未完成みたいだね」

 

 納得した様にタケルは呟く。

 デスティニー受領時にその存在は聞かされていた。本来はコンクルーダーズの隊長を任される予定であった彼の機体だ。

 

「ミゲル…………最高の機体を君に送るよ。だから、力を貸してくれ」

 

 

 ZGMF-X62S機体名アスパイア。

 

 嘗て乗った愛機エスペラントの面影を見せるそれこそが、特務隊ミゲル・アイマンに与えられる開発中の機体であった。

 

 

 




というわけで、ザフト側強化プラン進行中。
同時に、オーブ側も色々と動き出す感じ。

まぁこのあとは展開的に読みやすいかと思いますが、どうぞお楽しみに。


感想、是非ともよろしくお願いします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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