機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

266 / 330
最近本当にめっきり更新遅くなってごめんなさい。
楽しんでいただけたら幸いです。


PHASE-98 変革の沼

 

 

「そう、か……兄様はプラントに」

 

 オーブのヤラファス島から少し離れた離島にて。

 現在、暫定政権が置かれた役所の会議室で、カガリは事の顛末をキラ達から聞き及んでいた。

 

「ごめん、カガリ。僕達の力不足で……」

「あいつを止める事が出来なかった。すまない」

「キラ、アスラン」

 

 悔いる様な姿勢の2人に、カガリは何も言えなかった。

 本当なら連れ戻してきて欲しかった。が、兄がプラントへと渡りザフトに入っていたことまでは想定外だ。

 組織の枠組みに組み込まれた兄を、手前勝手に連れ戻すことは今のオーブの立場を考えても厳しい事態である。

 

「カガリさん。それで、こちらは如何なのですか?」

「あ、あぁ……少しずつ救助と復興活動が進んできている。諸外国から沢山の援助の手も差し伸べて貰えて、救われた命も多いよ。国外へ退去した国民達は、まだ戻れないが、援助を受け入れられるようにオノゴロを第一優先で進めているところだ」

「それは、不幸中の幸いという所ですわね。全てはカガリさんがこれまでに築いてきた事の賜物です」

 

 少しだけ誇らしそうにカガリが微かな笑みを浮かべるのを、ラクスも同じ表情で返した。

 

 オロファトを消し飛ばしたレクイエムによるクレーター。そして、飽和攻撃にさらされたオノゴロ。

 ザフトに因るオーブ侵攻の折、デュランダルがメディアを通じてその様を流していたことが、ある意味功を奏した。

 カガリが土壇場で代表復帰したこともあり、無情な暴力にさらされたオーブへの援助の手は、世界中から寄せられていた。

 

 特に動きが早かったのはウズミが代表で会った頃から縁深いスカンジナビアと、密かにカガリやラクスと繋がりを持っていたボルト・ミュラーが居るユーラシア連邦だ。

 

 ユーラシアはそれこそ、反ロゴス同盟軍として参集していた事もあり、人道的観点からオーブを支援する事を即座に公表。

 オーブ侵攻の折に派遣した部隊へと支援物資を送り、そのまま人命救助と復興活動へ宛てる動きを見せていた。

 

「そうだ、先日叔父上がこっちに戻られた。幸いにも過日には国外へ避難できていたらしい。お陰でどうにか、1人になる事だけは避けられたよ」

「そっか、ホムラさんが……良かった」

 

 ウズミが居た頃より共に政権を担い、一度は代表の座にもいたカガリの叔父ホムラは、避難が間に合い今回の被害から免れていた。

 政権を担う者達をまとめて吹き飛ばされ、たった1人残されたカガリにとって嬉しい知らせである。

 知己である事も大きく右も左も立ち行かないカガリにとって頼れる支えになっていた。

 

「だがよりによってこんな時に……議長が動いて来るとはな」

 

 カガリが呻くように漏らす。

 何もかもが一杯一杯なこの状況、それはオーブもそうだし、地球圏もそうだ。

 ブレイク・ザ・ワールドによって、大打撃を受けた地球圏。その後もロゴスによって引き起こされた様々で疲弊し、続くデュランダルとロゴスの戦いで更に引っ掻き回されている。

 それでもどうにか、各国はオーブへと手を差し伸べてくれている。

 

 そんなときに打ち出された、ギルバート・デュランダルのデスティニープラン。

 

 落ち着く間も、態勢を整える間もなく展開されたこの計画に、世界は飲み込まれようとしていた。

 

「カガリさん。こんな時だからこそ、なのです。議長が動き出したのは」

「分かっているさ。世界中が争いに疲れている今だからこそ、彼の言葉とこの計画は、人々の求心力を増していく。

 結局、何もかもが彼の掌の上だったわけだ」

 

 アーモリーワンから続く世界の動きの全てが、この時の布石。

 その確信を抱くほどのベストなタイミングである。

 

 ロゴスを討ち滅ぼした実績を以て、ギルバート・デュランダルは世界中の民衆の心を掴んだ。

 争いに怯える皆に、希望を与える存在となっているのだ。

 

「ですが、あのプランに賛同はできません。あれは人を人のまま殺す代物です」

「──あぁ、その通りだ。

 2年前父ウズミは、大西洋連邦の侵攻に対し人としての精神への侵略という言葉を使われた。当時は捉え切れていなかった言葉だが、今なら良くわかる。あれは正に、この言葉がぴったり当てはまる。いや、もっと酷い話だ」

 

 人として、同じ人類として正しく在ろうと中立を貫いたウズミの姿勢。2年前の大西洋連邦の侵攻はいわば人類として正しく在ろうとする、“人としての精神”への侵略だとウズミは言った。

 そしてデスティニープランは、この人としての正しさすらも持ち合わせる必要が無くなる。人が人である事への侵略と言える。

 

 表向きは世界が平和になると謳っているが、その実は人類が生きながらえるためだけに打ち出された、人類を遺伝子の家畜にする行為だ。

 

 人類が種として存在する意味すら、失われる。

 

「だから、私も参りました。カガリさん……貴方の隣に立ち、私も世界に声を挙げます」

「ラクス、でもそれは」

 

 避けていた事であったはず────カガリは心配の表情を見せた。

 過日、ブリュッセルでデュランダルと顔を合わせた時にも、平穏な時を望んでいると聞き及んでいる。ラクス・クラインは静かに生きる事を望んでいた。

 世界に声を挙げるとはつまり、また平和の歌姫として……象徴としてのラクス・クラインに戻ると言う事なのだ。

 

 カガリの視線を受けて、ラクスは静かに頭を振った。

 

「我慢するなと、サヤが言ってくれたのです。やりたい事の為に生きて良いのだと、サヤは教えてくれたのです。

 ですからカガリさん。私はもう、できる事ではなくやりたいことを貫きます」

 

 出来る事ではなく、やりたい事。

 偶像としてのラクス・クラインではない。シーゲル・クラインの娘として。大切な人との穏やかな時間を望む1人の女性として。

 ラクス・クライン個人が望む未来の為に、世界に声を挙げるのである。

 

「なのでカガリさん、少しお休みくださいな」

「えっ?」

 

 休む? 

 この状況でどういった意図だと不思議そうな顔をするカガリに、ラクスも、キラもアスランも。ため息と共に苦笑した。

 アスランなど額に手を当てやれやれと言わんばかりである。

 

「な、なんだよ3人して!」

「全く、そんな疲れた顔でカメラの前に出る気か? 俺が傍に居られなかったから仕方ないかもしれないが、もう少し自分の状態を省みてくれ、カガリ」

 

 ハッとした様にカガリが自身を省みる。

 さっと手鏡をカガリの眼前に出したラクスは流石女の子と言う所か。

 そうして見れば、目の下の隈は深く、着ていたスーツはヨレヨレ。表情には疲労が色濃く表れ、髪も随分と酷い状態だ。

 とても人前に出せる状態ではなかった。

 

 その事に気が付いたカガリは、僅かに羞恥で顔を染める。

 

「し、しかたないじゃないか!? ずっとここで状況報告を聞きながら指示を出してばかりだったし、睡眠だってここ数日まともに取れてないんだ」

「だから、ラクスは休めって言ってるんだよカガリ。雑事は僕とラクスが引き受けておくから。必要な事はまとめて報告書にしておくし、今から少し休んで」

「ではアスラン、カガリさんをお願いしますね」

「えっ? あ、あぁ……わかった」

 

 言うと、キラとラクスは会議室を退室していく。

 

 

 少しだけ意味深なラクスの声音に言いたいことを察したアスランは、僅かに仏頂面を見せてからカガリへと振り返った。

 

「そういうわけだ。少し休もう、カガリ」

「なんだよみんなして、強引だな全く……キラもラクスも心配性が過ぎる」

「それだけ疲労が表に出ているって事だよ。とにかく、そこのソファーで横になろう」

「あぁ、分かった。分かったってもう!」

 

 どこか渋々と言った様子で。カガリは会議室隅にあるソファーへと向かった。

 アスランはそれを見止めてから、部屋の外に顔を出して誰かに何かを申し付けると、自身もソファーへと向かう。

 

 女性らしい小柄な肢体をソファーに投げ出し、カガリらしく品の無い姿で横になるカガリ。

 そんな彼女を見て、アスランはどうにも居た堪れなくなった。

 

 辛いはずだ、きっと。

 泣き出したいはずなのだ、もっと。

 轡を並べた国民達を大勢失った。共に歩んで来た仲間達を失った。

 父祖が守ってきて、自身も必死に守ってきた、大切な国を滅茶苦茶に破壊されつくした。

 

 それでも必死に前を向いている愛しい彼女の姿が、痛ましくて仕方なかった。

 

「ホント、大バカ野郎だよお前は……タケル」

 

 今こそ、彼が傍に居なければならないはずなのに。

 辛く厳しい現実に立ち向かうために、ずっと傍に居た彼が支えにならなければいけないと言うのに。

 

 

 “お前の代わりに、オーブもカガリも俺が守らないとだな”

 

 “うん、お願いね”

 

 

 ふと過るのは、嘗てのやり取り。

 オーブを離れ、サヤの事を探るためにプラントへと向かおうとした、彼と交わした言葉であった。

 

「そうか……バカなのは俺も同じだな」

 

 そうだ。既に託されていた筈だ。

 国もカガリも任せると……あの時言われていた筈であった。

 今更ここに居ない彼に甘えるのはナンセンスだ。

 

「なっ、なんだよアスラン。バカって……そこまで言わなくても良いだろう」

「違うさカガリ。バカなのは俺の方だ……未だにアイツに頼ろうとしてばかりなんだからな」

 

 自分では足りない。ずっと傍に居た彼だからこそ、力に成れる。

 そんな免罪符はもう切れない。既に自分は彼女を託され、守る立場にいる。

 

 徐に、アスランはカガリが寝そべるソファーへと近づいた。

 

「なんだよ……黙り込んで」

「ちょっと、良いか?」

「えっ? 良いかって何──うわっ」

 

 寝転ぶカガリの頭を少し持ち上げ、すかさずその下に滑り込んでいく。

 そうして自身の足にカガリの頭を乗せて、アスランは大切な人を見降ろした。

 

 所謂、膝枕である。

 

「ちょっ、やめろってアスラン。恥ずかしいだろ」

「何でだ? バジル―ルさんからはいつもタケルにしてもらってると聞いているが?」

「兄様とお前は違うだろ! 兄様はその……何しても許されると言うか」

「だったら俺も、カガリが何をしたって許すさ……いい加減、俺にも弱い姿を曝してくれ」

「うぅ……何なんだよ急に」

 

 羞恥に顔を染めながら、カガリは唸った。

 目の前には端正な顔の想い人の姿。気持ちがある分だけ、その恥ずかしさは大きかった。

 翡翠の綺麗な瞳と見つめ合えば、どうしても心臓は早鐘を打つし、首元が熱くなる。

 こんなではおちおち眠りにつく事も出来やしない。

 

 カガリは改めて、自身が好いている人の顔をまじまじと見つめる事となっていた。

 

「前から言ってるけど、俺だって男だ。あんまり俺の前で兄様兄様って言わないでくれ────傷つくんだぞ」

「だっておまえ……あぁ、もうわかれよニブチン!」

 

 兄じゃないから恥ずかしいんだよ!

 大好きなお前だから、見つめ合って眠りにつくなんてことはできないんだ!

 

 声高にそう投げつけてやりたいが、それもまた気恥ずかしく、カガリは悪態を吐いてそっぽを向いた。

 根っからの朴念仁だ。恐らくこちらのそう言った心の機微に疎い。言い聞かせるだけ無駄である。

 

 そんなカガリの気配に、アスランは素直になってくれないとため息を吐く始末だ。

 

「まっ、そんなところも好きなんだけどな」

「なんだって?」

「いや、何でもない」

 

「失礼します」

 

 そろそろ来るだろうかと、アスランが視線を扉へ向けたところで丁度良く飛び込んでくる声。

 こんな所を見られては敵わんと慌てて身体を起こそうとしたカガリを抑えつけ、アスランは扉の外へと返事を返す。

 

「来たか。どうぞ、入って下さい」

「お、おいアスラン!」

「良いから。じっとしててくれ」

 

 少しばかり強い語気に引き下がると、扉からは給仕姿の女性が1人やって来る。

 アスハの家で雇っている侍女の1人だ。

 とりあえずこんな状態を見られてもまだ傷の浅い人間で良かったと、カガリは小さく息を吐いた。

 

「アスラン様、お持ちしました」

「すいません、ありがとうございます────さぁカガリ、こっちを向いてくれ」

「だから、なんだって──」

 

 見上げようとしたカガリの視界を、温かい……ともすれば少し熱いと感じる何かが覆った。

 

「これ、は……」

「少し熱めに熱した濡れタオルだ。目元の隈くらいは消さないと……それに、この状態ならもう変な恥ずかしさも無いだろう?」

 

 あぁ確かに、と。カガリは安堵のため息を吐いた。

 酷い話ではあるが、視界に想い人が入らない方が余程気持ちが落ち着く。

 熱めの濡れタオルは、思いの他心地良く。その熱と相まって妙に心まで温まる気がしていた。

 

 未だ現実は厳しい事ばかりなのに、今この時だけは安心して良い……そんな気分にさせる。

 

「────良いな、これ。とても気持ちが良い」

 

 いつの間にか、侍女の姿は消えていた。洗練された所作で音もなく退室していった様で、部屋にはまたカガリとアスランだけが残った。

 

「少しで良い、安心して眠ってくれ。時が来れば起こすから、それまでは何もかも忘れてゆっくりと」

「あぁ、少しそうさせてもらうよ……ふぁぁ……おやすみ、アスラン」

 

 心も身体も温まる心地に、カガリはすぐさま眠気を催して大きく欠伸をかいた。

 

 そうして静かにカガリが寝息を立て始めると、アスランは再び侍女を呼んでもう一度熱した濡れタオルを持ってきてもらい冷めたものと交換する。

 

「おやすみ、カガリ……せめて今だけでも、良い夢を……」

 

 

 変わらず寝息を立てるカガリの頭を優しく撫でつけながら、慈しむ様にアスランは呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謀ったな────ミゲル」

 

 

 

 プラント本国、マリウス市にて。

 

 ミゲル・アイマン専用機となる機体。ZGMF-X62Sアスパイアの開発に着手した矢先の事であった。

 タケル宛に、他ならぬミゲル・アイマンからの呼び出しが飛び込んで来る。

 

 内容はこうだ。

 

 

『さっさと俺ん家に来やがれダチ公』

 

 

 随分手荒い呼び出しだと、文面に若干の違和感を抱きながらも、タケルは以前訪れた彼の家へと赴いた。

 そうして辿り着いて見れば、視界に飛び込んでくる光景は予想だにしないものであり、タケルは先の様な呪詛を漏らしたのである。

 

 呼び出した本人のミゲルは勿論、不機嫌そうなイザーク・ジュール。盛大に寛いでいるディアッカ・エルスマンと、更には久々に訪れた休暇を満喫しているかのようなハイネ・ヴェステンフルスである。

 

 構図だけ見れば先の大戦を生き抜いた英雄達が集ってこれからどんちゃん騒ぎでも始めそうな気配だが、ミゲルやイザークの視線がそれを否定する。

 無論、タケル自身も彼等を前に呼び出された理由など直ぐに察しがついた。

 

 

 なぜプラント(ここ)に居るのか────と言う事だろう。

 

 

「おら、そんなところで突っ立ってないで座れって」

「随分と暢気なものだな、ミゲル。旧友達を集めてディオキアの様にまた酒盛りか? だったらやるべきことが多いので私はお暇させてもら──」

「ばぁか! 激戦を2回も潜り抜けた奴に仕事なんか許すかよ。ザフトはそんなブラックじゃねーぞ」

「以前来たとき、君は激務に追われている事を愚痴っていたと記憶しているが?」

「例え俺個人がそうだとしてもだ。議長から休む指示は出ていた筈だろ。少しは自分を労われっての」

「そうですよ! タケルさんはもっと自分を労わって下さい!」

 

 背後からの声。仮面の奥で目を見開いて振り返れば、そこにはメイリンとユリスが玄関を開け放ち飛び込んできていた。

 

「メイリン、それにユリスも……尾行けてきていたのか?」

 

 厳しい声音と共に追求すれば、ユリスは肩を竦めて見せた。

 

「兄さんが工廠からひっそり抜け出していくのを見てね。

 っていうか、勝手に居なくならないでくれる? ただでさえ今の兄さんは心配の塊なんだから」

「そうですよ、心配するこっちの身にもなって下さい!」

「心外だな。今の私は地に足が付いていると自負している……」

「そう言うならまずその仮面と口調を止めやがれ。ここにはお前の事を知ってる人間しか居ねえだろ…………居ねえ、はずだよな?」

 

 自信なさげに、ミゲルは見回した。

 イザークとディアッカは2年前からの付き合いで、共にオーブの旅行を堪能させてもらった仲だ。当然だとばかりに頷いた。ハイネもまたミネルバに居た折にタケルの事は聞いており、あしらうような手振りを見せている。

 先程乱入してきた2人についても、タケルが名前で呼ばれている事から問題は無いだろう。

 そこまで視線を巡らせたところで、ミゲルはユリスに目を止めた。

 

「ってかタケル……そいつはまさか」

 

 タケル・アマノを兄さんと呼んだ先の声。ミゲルには覚えがあった。

 忘れもしない2年前の惨劇。ザフトの宇宙要塞ボアズを消滅させた地球連合の核攻撃作戦で、ディバイドを駆るミゲルの目の前で次々と味方機を撃ち落としていった悪辣の少女。

 

「あら、その声……もしかして2年前に私と兄さんの戦いを邪魔したザフトの?」

「っ!? やっぱりてめえか!」

 

臨戦態勢となり立ち上がるミゲルを傍らのディアッカが抑える。

先んじてユリスの事を知っていたイザークは、まぁそうなるだろうと言う様に小さく鼻息を荒くさせた。

 

「ご明察。嘗ては連合のディザスターのパイロットだったユリス・ラングベルトよ。久しぶりね、ザフトのお兄さん」

 

 挑発めいた物言いに、ミゲルは一挙に表情を険しいものに変えた。

 思い起こすは、楽しそうに……愉快そうに人の命を刈り取っていく悪魔の様なディザスターの記憶。

 彼女に対して、怒りが湧くのは必然であった。

 

「ユリス。次余計な事を言ったらデスティニーの改良は無しだからな」

「はぁ!? ちょっと、そんなふざけ──」

「嫌なら黙ってろ。ここは僕にとって唯一無二の友の家だ。君の無礼千万を僕が許すと思うな」

 

 有無を許さぬ物言いに面白くないという表情を見せながら、ユリスはタケルの言葉に従い押し黙った。

 ユリスが要望を挙げ、そしてタケルが仕上げる事になるユリス専用のデスティニー。タケルがこれまでに開発分野で重ねて来た実績を考えれば、その期待度は大いに高い。

 機体とパイロットの親和性を掲げ開発を続けて来た男が、彼女の為にデスティニーを仕上げてくれるのだ。

 それを反故にされるとなれば、戦いこそが生きがいな彼女からすれば、世界最高峰の料理をお預けにされるに等しい。

 

 どうでも良いが、タケルの中では議長等お偉いさん方の前より、ミゲルの家の方が位が高い様である。

 メイリンは胸中で僅かにツッコミを入れる。

 

「ごめん、ミゲル。君には申し訳ないけど、彼女は今僕の相棒だ。君に思う所がある事は十分に理解しているけど……」

「わかってる、分かってるさ……少なくともダイダロスとアルザッヘルの戦果がある事は知ってる。コンクルーダーズの働きが無ければプラントが撃たれていた……お前とそいつがプラントを守ってくれた恩人であることに変わりはないって事は、良く分かってるさ」

 

 だが────ミゲルは続けて悔しさを滲ませた。

 

 軍務である。戦争をしていたのである。

 例えどれだけ凄惨な戦いを見せつけられたとて、戦っていた兵士に恨み辛みをぶつける等お門違いだ。

 ミゲル自身も嘗て、アスランにそう言い聞かせてやった。

 

 しかし、目の前でミゲルに見せつけるかのように仲間の命を弄んだ彼女は別だ。

 作戦の中とは言え、明確にミゲルを苦しめるために行われた彼女の行為は、恩義があったとしても見過ごせるものではない。

 

「そう易々と、はいそうですかって許せるもんでもねえんだよ……俺にとってそいつは」

 

 御しきれない想いは、誰しもが往々にしてあるものだ。

 普段はドライで現実を受け止め切るのに苦労しないミゲルでも、譲れない部分はある。それがユリス・ラングベルトに対しての想いであった。

 

 いきなり仲間になったと言われても、簡単に受け入れる事などできなかった。

 

 そんなミゲルの心情を察して、タケルは仮面を取りながらユリスへと向き直る。

 

「────ユリス、メイリン。僕は心配いらないから、2人共戻って作業を続けてて」

「はいはい、分かってるわよ……だからそんなに睨まないで。って言うか、議長さんから休みの指示出てるんじゃなかったの? 私は休んじゃいけない訳?」

「そんなに疲れてないだろ」

「疲れてないけどステラ達に会いに行きたいの。この子の話じゃ、治療は始まってるって」

 

 至極真っ当な顔で思わぬ言葉を返され、タケルは目を丸くした。

 先程は工廠で、デスティニーを自分色に染め上げられると分かり獰猛な笑みを浮かべていたと言うのに。

 似つかわしくない、余りにも普通の感性の言葉であった。

 

 全ての事が終わった時。存外ユリスが生きる目的を見出すのは早いかもしれないなと、タケルは心の内で笑みを浮かべた。

 

「わかったよ、ならそっちに行っておいで。メイリン、悪いけど付き添いをお願い。一人にさせるのは流石に不安だから」

「それ、タケルさんが言いますか?」

「僕はほら、この通り既知の友も多い状況だし。さっきも言ったけど心配いらないよ」

「はぁ……わかりました」

「よしそれじゃ急ぐわよ、メイリン・ホーク!」

「あっ、ちょっと待って下さいよ!? もー、運転するの私なんですからぁ!」

 

 嵐の様に去っていく2人を見送りながら、タケルは漸く静かになったと肩を落とす。

 

 

「悪いなタケル……気を遣わせちまって」

「要らぬ謝罪だよミゲル。こっちこそ、意図していなかったとはいえ、君に余計な心労を掛けてしまった。お互い様だ」

 

 どうにか落ち着いた空気の中で、タケルとミゲルは改めての言葉を交わした。

 ヘブンズベース戦の折、ミゲルはハイネからクルース・ラウラ戦死の報は聞かされていた。

 戦争が続く世界では、自身の知らぬところで知り合いが死ぬこと等日常茶飯事ゆえに、殊更落ち込むような事は無かったが、こうして生きて再会ができた事には喜びも一入であった。

 

「よく生きていてくれた…………ったく、お前もヤヨイも、死んだと思ったら生きてやがって。振り回されるこっちはいい迷惑だぜ」

「ゴメン。だけど生きるも死ぬも、自分でどうにかできるところじゃないし仕方ないでしょ?」

「ふんっ! その結果ザフトに来たりオーブに戻ったりと。それで今またこっちに戻ったときた。節操がないとは思わんのか愚か者」

「そうは言っても、オーブには戻ったけどそのまま追放された身だしね」

「それだよ。カガリがお前を追い出すなんてある筈がないし、何がどうなってるんだっての」

「お前等落ち着けよ! それを聞きたくてクルースをここに呼んだんだろ? 時間はあるんだからゆっくり聞こうぜ」

 

 詰め寄らんばかりの詰問を見かねたハイネが助け舟を出す。

 ミゲル達と比べればまだ縁浅い故に落ち着いているハイネの言葉に感謝しながら、タケルはミゲルに促されるままテーブルについた。

 

「皆の心遣いには感謝しているよ。心配してくれてありがとう」

「ふんっ、誰が貴様の心配などするか。俺は貴様がザフトを裏切らないかを心配──」

「あぁ、うん。イザークはそう言うよね……でもホント、ありがとう。こんな僕の事を気にかけてくれて」

 

 居並ぶ彼らを流し見る。

 タケルにとって、決して長きを共にしたわけではなくとも、大切な友人達であった。

 タケル・アマノにとって恐らくは守るべき存在に含まれない────戦友と言うべきか。

 だからこそタケルは全てを曝せると思えた。

 

 事ここに至るまでの己の全てを。

 自身で自分を追い込んできた今の境遇に、どこか自棄になりながらも、何の気兼ねなく全てを吐き出せる。

 大切な友人だが、大切な人達にはなり得ない彼等だからこそ、きっと自分は素直に弱音を吐ける────そんな、気がしていた。

 

 アルザッヘルで出撃する前に、イザークとディアッカに詰められてから元よりそのつもりだったのだ。

 

 己の想いの全てを伝え、助けてもらう事を願い出るつもりだった。

 

 

「ミゲル、イザーク、ディアッカ、ハイネ……聞いてくれる? 僕が抱えている事全部」

 

 

 返されるのは、当然だと言わんばかりの表情。

 4対の視線を受け止めながら、タケルはゆっくりと口を開いていく。

 

 

 

「最初に話すのは僕とユリス。そして君達の嘗ての上官────ラウ・ル・クルーゼの秘密からだ」

 

 

 

 密かに。

 プラントの片隅で。

 

「コロニーメンデル。それが僕達の────始まりの地だ」

 

 真実は、静かに紐解かれた。

 




イチャイチャぁ!!
やっぱりこのアスラン。アスランじゃねえな?

主人公も主人公で、完全な身内じゃないからこそ守らせる弱音。

兄妹揃って、少しだけ落ち着いた時を。

感想、どうぞよろしくお願いします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。