機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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説明回。
読者は知っている部分も多いけど……


PHASE-99 ラクス・クライン

 

 

 

『皆さん。私は、オーブ首長国連邦代表首長カガリ・ユラ・アスハです』

 

 

 ギルバート・デュランダルと同じく。電子の波に乗せられてと世界中へと届けられる映像と声。

 

 映り出される琥珀の瞳が世界を見つめ、そして見つめられていた。

 

 

 

『世界中に戦火の傷跡が深く残る中ではありますが、本日私は全世界のメディアを通じて、先日プラントより公表されたデスティニープラン導入実行に対する我が国の回答をお伝えしたいと思います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕とユリス。それと彼ラウ・ル・クルーゼ。全ての始まりは……そうだね、ファーストコーディネーターであるジョージ・グレンから端を発するんだろうな」

 

 プラントのミゲル・アイマン宅で、タケルは己が知る全てを詳らかにしようとしていた。

 

 

「僕達コーディネーターの始まり、ジョージ・グレン……彼がこの世界に遺したものは何だと思う?」

 

 

 遺したもの────少々漠然とした問いに意図が掴み切れず、ミゲル達は首を傾げた。

 

「色々と思い浮かぶ事はあると思う。でも、僕が言いたいことは1つ……それは、“人類の可能性”と言う果ての無い夢だ」

「人類の……可能性だって?」

 

 言葉の意味がまた読み取れず、ミゲルたちは疑問符を浮かべる。

 

「何が言いたい? タケル・アマノ」

「ジョージ・グレンが己の真実を公表した時、世界は多くの混乱に包まれた。でも同時に、世界は夢見てしまったんだ────人類の新たな可能性に。

 誕生する前からいいとこ取りだけしたような遺伝子調整をされて生み出される人類……彼が世に出てくるまではそんな存在が実現することを、みんな夢にも思っていなかったはずだ」

「そりゃあまぁ……」

「そうだろうな」

 

 ハイネとミゲルは納得する様に頷いた。

 コーディネーターが生まれるその以前。その発想は絵空事であっただろう。実現するとは誰もが思っていなかった事だろう。

 だからこそ世界は、ジョージ・グレンの存在に衝撃を受けたのだ。

 

「どこかで、誰かが挑んでしまった。無理だと切り捨てられていた夢に。そうして生まれてしまった彼を見て、世界は気が付いてしまった……人はまだまだ先へ行けるのだと。

 飽くなき探求心。試さずにはいられない欲望。夢と可能性を糧に。そうして人はいつしかコーディネーターの先すら見始めた────不確定要素である母体を排し、人工子宮によって確実な生育環境を用意し、あらゆる遺伝子調整を受けた最高のコーディネーターを生み出すと言う夢をね」

 

 人工子宮……その言葉が示す意味は字面だけで容易に分かる。瞬間、ミゲル達を忌避感が襲った。

 母体すら介さない人間の誕生……ハイネは地上で目にしたエクステンデッドのラボを思い出し、殊更嫌な顔をして見せる。

 

 母体を介さないそれは、もはや生み出されるのではなく創られる命。彼等コーディネーターであっても、その歪な夢に忌避感を抱くには十分であった。

 

「僕とユリスはね、そんな人類の可能性を夢見た者達の産物なんだ。

 嘗て、ユーレン・ヒビキによってメンデルで開発された人工子宮。そこから摘出された最高のコーディネーターの実験被検体。その最後期────No.283とNo.284が、僕達に与えられた最初の名前だ」

 

 驚愕に、彼等は口を閉ざした。

 正に、何と声をかけていいかわからない状態である。何を聞いて良いのか。どんな言葉が相応しいか。

 脳裏に適する言葉が過る事は無く。僅かな静寂が流れた。

 

 そうしているうちに、タケルは次の話を紡ぎ出していく。

 

「生み出された僕は、ヒビキ博士の家族を経由してオーブへ渡った。皆も知っての通り、アマノの家の人間としてこれまでを生きて来た。

 そしてユリスは、研究所を襲撃したブルーコスモスによって人工子宮ごと回収され、とある人間の下に渡った」

「とある人間?」

「ムルタ・アズラエル。ブルーコスモスの盟主だった男だ。

 皮肉な話だよね。遺伝子調整された人間を忌み嫌うブルーコスモスの盟主が、あらゆるコーディネートを施された最も忌むべき人間を懐に飼っていたんだから」

 

 言ってタケルは渇いた笑みを浮かべる。

 コーディネーターを忌み嫌う者達の只中へ、あらゆるコーディネートを施されたユリスが産み落とされたという事実。

 彼女がどんな扱いを受けるかなど、想像すら及ばない。否、頭に思い浮かぶありとあらゆる悪意に晒されて尚足りないくらい、非道な扱いであった事が想像ついた。

 

「本人談だが、どんな扱いだったか聞く?」

「いいや、止めとくわ……おぞましい」

「なるほどな……2年前のあの破綻ぶりにも納得がいくわけだ」

「ミゲル……別に僕は、だから彼女を許してあげてなんていうつもりはないよ。ただ、事実を述べているだけだ」

「分かってる。だが……同情せざるを得ねえだろこんなの」

 

 生まれたその時からずっと……親からの愛情どころか、最も憎まれ忌むべき対象として扱われる。正に気が狂ってもおかしくはない境遇だ。

 親の愛情を一身に受け、普通に育ってきた彼等にとって、ユリス・ラングベルトの生い立ちはミゲルが言う様に同情せざるを得ないものであった。

 

「なぁ、タケル。それじゃあクルーゼ隊長も……」

「ううん。それは違うディアッカ。僕達と無関係ではないけど、クルーゼさんはまた別。

 彼は僕達を創り出すために生み出された犠牲者だ」

「貴様等の犠牲者だと? それはまたどういう事だ」

「研究資金だよ。人工子宮と最高のコーディネーター……研究は簡単では無かった。研究資金が底をついたヒビキ博士は研究への融資を条件にある人間からクローンの作製を依頼され、それを引き受けたんだ」

「クローンを作製って……それじゃまさか」

「ハイネ、想像の通りだ。ラウ・ル・クルーゼはヒビキ博士が研究資金の為だけに生み出したクローン。依頼者は当時既に晩年を迎えていた資産家フラガ家の当主、アル・ダ・フラガ。彼曰く、己の死すら金で買おうとした愚か者だそうだよ」

 

 またも、一同に驚愕が広がる。

 ラウ・ル・クルーゼは先の大戦に置いて、ザフトに多くの伝説を残した英雄である。

 2年前のアスランや、直近で言えばシンの活躍ですら霞む、ザフト史上で未だ最高と名高いMSパイロットだ。

 

「タケル、フラガって事はムウのおっさんの?」

「うん、アル・ダ・フラガはムウさんの実父。つまりは正真正銘のナチュラルだ。

 これもまた皮肉な話だよね。コーディネーターの総本山であるザフトに置いて最高と謳われる軍人が、何ら遺伝子調整を受けていないナチュラルのあの人だなんて」

 

 そしてそれが2年前、最高のコーディネーターとして生み出されたキラ・ヤマトと戦い、追い詰めるところまで迫って見せたのだから────人類の新たな可能性と言うのなら、いっそ彼こそがその実例と言えるかもしれない。

 

「クルーゼさんが生み出された当時、アル・ダ・フラガは既に晩年を迎えていた。そんな人間の細胞を使って生み出されたあの人は、生まれながらにして細胞が老いた欠陥品だった。どれだけの延命治療をしようが、もって30年……それが彼に与えれた寿命だったんだ。当然、自分と同じ細胞を持ったもう1人の自分を求めていたアル・ダ・フラガがあの人を認める事は無く。彼は早々に見限られ、捨てられた」

「30年って……それじゃ俺達が知ってる隊長は」

「当時で24歳らしい。残る命は数年ってとこだったろうね。

 アル・ダ・フラガとして生み出されながら、彼にその存在を否定されたクルーゼさんは、自らを生み出した世界を憎み、自らを生み出すに至った果ての無い欲望を持つ人類を恨んだ────そうして彼は2年前。同じ様に世界へ絶望しているユリス・ラングベルトに出会ったんだ」

 

 それはきっと……恐らくは運命であったのだろう。

 同じだけ世界を憎む者同士が、戦場で惹かれ合う様に邂逅を果たした。

 その結果、歯車は回り始める────人類が破滅へと至る終末戦争へと向かって。

 

「タケル・アマノ……それで、クルーゼ隊長とユリス・ラングベルトは、出会ってどうしたと言うんだ?」

 

 イザークは問いかける。

 世界を憎む2人の出会い。それが一体この世界に何をもたらしたのか。

 同様の視線を向ける他の面々も見回して、タケルはゆっくりと口を開いていく。

 

「先に言っておくけど他言は無用だ。とは言っても、既に彼は生きていないし、ユリスも今はザフトに居る。今更どうこう言う話でもないだろうけど」

 

 前置きに皆が頷くのを確認してから、タケルは話を続けた。

 

「2年前の大戦、2人は裏で暗躍を始めた。

 クルーゼさんは新議長となったパトリック・ザラの腹心の部下。ユリスもまた、大西洋連邦に多大な影響力を与え実質地球軍のトップになっていたムルタ・アズラエルお抱えの特務部隊員。密かに通じていた2人は様々な情報のやり取りをし、大戦に影響を与えていった────戦火がより大きく広がる様にね」

「情報のやり取りって……例えばなんだよ?」

「ファーストステージの機体群。特に彼の機体プロヴィデンスのドラグーンシステムは、当時のザフトでは開発が難航していた。そこでユリスはメビウス・ゼロのガンバレルを搭載した試作MSのデータを彼へと流したんだ。そしてクルーゼさんは逆にオペレーション・スピット・ブレイクの攻撃目標がパナマではなくアラスカである事を漏洩。お陰でプロヴィデンスはファーストステージで最強と言えるMSとなったし、連合は少ない犠牲でザフトの大半の戦力を削る事ができた」

「なっ!?」

「スピットブレイクの情報を漏洩!? 隊長がか?」

 

 イザークとミゲルは、心底信じられないと言う様子で驚愕の声を挙げた。

 当時ザフトでまだ彼を信じて戦っていた2人だ。それこそイザークはアラスカの戦場で事態を目の当たりにしている。

 サイクロプスによって戦場が灼熱に包まれるあの光景……あれがまさか良く知る彼の裏切りによって引き起こされている等と、簡単には信じられない話である。

 

「そして大戦末期にはクルーゼさんからユリスへ、フリーダムとジャスティス……それからNジャマ―キャンセラーのデータが流された。それを手に入れたムルタ・アズラエルは嬉々としてプラントへの核攻撃を敢行────そこから先は語る必要も無いだろう。憎しみが憎しみを生む負の連鎖で、大戦は引き返せない所にまで至った」

 

 血で血を洗う……核に核で以て返す、破滅へと向かう争い。

 ここに居る全員があの凄惨な戦場を、その渦中で戦っていた。

 

 現実を目の当たりにしてきた彼等は、聞き及んだ真実に身を震わせる。

 

「なんてことだよ……」

「2年前の大戦が……あの核攻撃が」

「クルーゼ隊長とユリス・ラングベルトの手で引き起こされていたなんて」

「とんでもねえ話だぜこいつは」

 

 4人共が震える声音で言葉を絞り出していた。

 

 2年前の大戦……それで喪われたものは余りにも多い。多すぎた。

 それを戦争であったからという免罪符で誤魔化して乗り越えて来たと言うのに……たった2人の思惑が世界をあそこまで至らせたと言うのだ。

 

 

「──違うよ」

 

 

 しかし、彼等の言葉にタケルは否の声を挙げた。

 

「あの戦争が2人のせい? そんな事は絶対に無い。

 人類を2つに切り分けたジョージ・グレンの存在。最高のコーディネーターなんて愚かな夢を見て、僕やユリスを生み出したユーレン・ヒビキ。死を超越し生き続ける事を望んだアル・ダ・フラガ────彼等が居なければ。どこかで誰かが欠けていれば、僕も、ユリスも、ラウ・ルクルーゼも生まれていない」

「タケル、だがそれは──」

「ミゲル。2人が世界を動かしたか? 軍を、国を、人を……いいや違う。世界を動かせたのは別の人間たちだ。2人は情報のやり取りしかしていない。全ての結果を生み出したのは、人類自身。

 核ミサイルも、ジェネシスも。ナチュラルを見下すのも、コーディネーターを妬むのも。全て人類が選んできた事だよ」

 

 先の大戦の事だけではない。

 有史以来の戦争の歴史は、人類が争いを辞められず選び続けて来た事の証左である。

 人種、能力、国、生まれ────様々な己と違う何かを忌み、嫌い、否定する。

 どれ程高潔な人間であろうと、心のどこかに必ず持ち合わせている心の弱さ。それが争いを無くすことのできない、人類が人類たる所以だ。

 

 

「可能性に踊らされ、飽くなき欲望を抑えられない人類。破滅しかけた2年前の大戦は……長い歴史の中で人類の導き出した答えだ」

 

 

 此れこそが、タケル・アマノが導き出した結論。

 今の人類が、人類のままでいる限り……この世界から争いは無くならないと言う事であった。

 

「だから僕は議長と、デスティニープランで世界を変える事を決めた────オーブを守るには、オーブを本当の意味で平和にするには。人類を変えるしかないとわかったから」

 

 瞳に憎しみを宿し、表情には決意を湛えて、タケルは告げた。

 

 オーブの理念。そんなものでは世界は変わらなかった。

 中立を貫く為の力。そんなものでは人類の悪意には勝てなかった。

 消し飛ばされた故郷を前にして、平和を勝ち取るには争いの根本である人類に手を加えなければ成らない事を、タケルは理解したのである。

 

「だからミゲル…………力を貸してくれ。世界から本当の意味で争いを無くすために」

「タケル……だがお前は」

「イザーク、ディアッカ、ハイネも。僕を助けてくれないかな……僕はもう、戦わなくちゃ平和にならない世界なんて終わりにしたいんだ」

 

 少し疲れた様で、しかし瞳には強い光を宿して。タケルは彼等に頭を下げた。

 大切な居場所を離れ。大切な人達に背を向け……そうして内に宿すは不退転の決意。

 全てを捨ててでも望んだ平和を実現する為、覚悟を持ってここに来たのである。

 

 その決意の声はミゲル等の心を大きく揺さぶるが、しかしそれだけではいと頷ける話ではない。

 遺伝子が導く平和な世界……絵空事と言える話に未だ彼等は、デスティニープランの真価を図り兼ねていた。

 

 タケルの声に何と返せばよいかわからず、部屋には静寂が過る。

 誰も言葉を発せない、耳が痛くなるような沈黙が続いた。

 

 

 

 

「ん? 通信……ユリスからだ」

 

 

 

 沈黙を破るのは、タケルの懐にあった携帯端末の呼び出し音。

 タケルの下にユリスからの通信が飛んできていた。

 

 僅かに安堵の空気がミゲル達から漏れる中、タケルは呼び出しに応じて端末を操作する。

 

「──ユリス、どうしたの?」

『兄さん、何でも良いからチャンネルを開きなさい』

 

 スピーカーから聞こえるユリスの声は、どこか焦っている様にも聞こえタケルが怪訝な表情を見せる。

 

「何だ、一体何が──」

『オーブからの声明が、世界中に発信されているわよ!』

 

 

 それは、予想していながら目を逸らし続けていた可能性。

 タケルにとって、最も大きな障害となる時の声の報せであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『過日、様々な情報と共に我々に送られて来たロゴスに関するデュランダル議長のメッセージは、私にとっても衝撃的なものでした。

 戦争の無い平和な世界を作る為にロゴスを討つ────議長の言葉は今の混迷の世界で政治に携わる身として、また生きる一個人としても、確かに魅力を感じざるを得ないものです。こうしてロゴスを討伐してみせたデュランダル議長は、正に世界の最高の指導者だと言えるでしょう』

 

 

 それは、確かな実績の下に言える事実である。

 例えギルバート・デュランダルの背後に後ろ暗いものがあろうとも。人類史に蔓延るロゴスの存在を公表し、撃ち滅ぼした彼の成した功績は大きい。

 命を狙われ雲隠れせざるを得なかったカガリにとって、ロゴスとの戦いの矢面に立ち続けた彼は、指導者として最大の敬意を持つに値する人物であった。

 

 

『しかし……先日彼が打ち出したデスティニープラン。これはあまりにも粗末なものだと、我が国は考えます』

 

 

 最高の指導者だと彼を称えた一方で、カガリは打ち出されたデスティニープランに否の声を挙げた。

 

 

『各々が持つ遺伝子から未来を知る。確かにそれだけを聞けば我々人類にとっては良い事だと思えます。皆、先を行く未来が見えない故に不安を抱えていると言う事は理解できる。

 しかし、遺伝子が示すとおりに生きる事が本当に幸せに繋がるのか。私は疑問に思います。

 人が真にやりたい事、成したい事を決めるのはその人自身。その人の意思であると私は考えます。父ウズミ・ナラ・アスハがオーブに中立国の意思を根付かせた事も、その意思を継いで今私がオーブの代表に居る事も。決して遺伝子に決められた事ではありません』

 

 何故なら、ウズミ・ナラ・アスハとカガリ・ユラ・アスハの間に血の繋がりなど無いのだから。

 伝えられるは……受け継いできたのは、国を想う意志。それは決して遺伝子に乗せられるものではない。

 カガリが胸に抱く大志こそが、デスティニープランに対する反証であった。

 

 

『遺伝子がその人の未来を決める……議長が打ち出したこの考えを、()()は受け入れる事は出来ません』

 

 

 私達……どこか強調された声音を感じ、聴衆は違和感を覚えた。

 映し出される映像が僅かに動く。カガリに寄っていたカメラが少し引いていき、枠が拡大していく。

 

 そうして画面端から新たに映り込んでくる彼女の姿に、世界はまた1つ驚きの声を挙げるのだった。

 

 

『世界中の皆さん────私は、ラクス・クラインです』

 

 

 流れる桃色の髪が揺れる。

 蒼白の瞳には力強い意思が秘められ、端正な顔に宿るは決意の表情。

 装いも整えた姿には神聖さすら感じられる、そんな出で立ちとなった平和の歌姫の姿であった。

 

 

『わたくしは今、デュランダル議長が打ち出したデスティニープランに反対する者として、こうしてオーブのアスハ代表の下におります』

 

 

 まさかのラクス・クラインの出現。

 驚愕に包まれる世界の中、特にプラントでの混乱は大きい物である。

 何故なら彼等は直近でラクス・クラインの声を聞いている。ダイダロス基地にあったレクイエムの脅威に晒された折、彼女の声に助けられているのだ。

 

 此度の戦争の始まりからずっと、プラントとデュランダルと共に在った彼女が、今はオーブに居る。

 そして議長が打ち出したデスティニープランに否定の声を挙げている事実が、プラントを混乱の渦に落としていた。

 

 

『アスハ代表が仰った様に、人がやりたいと定めるのはその人が持つ意思によってのみ決められます。遺伝子が見せる未来の先に幸福がある等という絵空事を、私もまた信じることができません。何故なら────』

 

 

 僅かに、ラクスは躊躇いを見せた。

 この先に告げる言葉が、どれだけ皆の想いを裏切る事かを理解しているから……

 

 

『私は決して……こうして皆の前に立つような事を、望んではいなかったからです』

 

 

 静かに、ラクスは己の内に抱えていた心の声を吐露してみせた。

 シーゲル・クラインの娘。平和の歌姫。穏健派の象徴────そんな肩書に彩られた彼女ではない。

 正真正銘。ラクス・クラインと言う一人の女性が溢す心の声。

 

 

『父が好きでした。プラントの家で共に暮らす皆が好きでした。歌が好きで、歌うのが好きで……そして大切な人と過ごす静かな時間が、私は大好きでした。

 皆さんが私に抱くイメージとは違う事でしょう────ですが、わたくしの全ては、ただそれだけだったのです』

 

 

 皆の為に歌う平和の歌姫であったラクス。

 戦火の最前線に立ち、平和の声を挙げていたラクス。

 今や世界中が知っているであろう彼女が彼女たる姿を、ラクス自身は否定した。

 

 

『遺伝子が定めた声と歌が、私の中にはありました。ですが私の望みは皆の前で歌う事でも、皆の前で戦う事でもありません。父や大切な人達と、穏やかな時間がいつまでも続く事だけが私の望みでした』

 

 

 それは本当に些細で小さな……少女らしい素朴な願いであった。そして、そんな少女の願いを世界は許しはしなかった。

 

 ラクス・クラインを信奉する者は変わらず多い。彼女自身が成してきた事もそうだし、今ではデュランダルの傍らに居るであろうもう1人のラクスの功績も大きい事だろう。

 それによって多くの人々が寄せる想いを、ラクスは今拒絶したのである。

 

 会見場の端、画面外で待機しているキラは僅かに眉根を寄せた。

 オーブで過ごした穏やかな時間。笑顔の裏でラクスが抱え続けて居た葛藤は、キラも気が付いていた。

 プラントに居た、自分を慕う者達を切り捨てた事。内心では思い悩んでいるのにそれを欠片も表に出さず、ラクスはずっと変わらないままでいた。

 悟られて、薄情な人間だとキラに思われたくない利己的な気持ちもあったのかもしれない。

 そうして内に抱え続けた想いを世界に晒しているラクスを、キラは握った拳を震わせながら見つめていた。

 

 隣でカガリが僅かに驚きの表情を過らせる中、ラクスは続けていく。

 

 

『私の幸せを願ってくれた父の為にも、私は私が望む幸せの為に生きます。自ら選んだ幸せの為に生きて生きたいです。

 だから私は、遺伝子が命ずるままに生きる事などできません。議長もデスティニープランも信じる事はできません』

 

 

 世界に見せて来た自分は偽りであったと断じて。

 自らを信じてくれて来た人達を切り捨てることで。

 ラクス・クラインはデスティニープランを否定して見せた。

 

 

『皆さん。平和な世界という言葉に惑わされ、人で在ることを──』

 

 

 それは、今ここには居ない誰かに向けた。

 

 

 

『どうか皆さん、失わないで下さい』

 

 

 

 切なる願いの、言葉であった。

 

 

 




全てを話して、そして初めて助けてくれとこい願う主人公。
全てを話して、世界に許してくれとこい願うラクス。
そんなイメージで紡いだお話。
二人共自ら色々と雁字搦めにしちゃうタイプ。主人公はそのまま奔走しちゃうし、ラクスは受け入れちゃう感じ。


これからどうなることやらですね。


感想、宜しくお願いいたします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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