機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

275 / 330
ちょっとここから執筆がんばっていきます


PHASE-104 微睡の心

 

 

「やぁああ!!」

 

 

 気合い一閃。ゲツエイによる一振りがデスティニーのビームシールドに叩きつけられた。

 

「そんな軽い攻撃で──はっ!?」

 

 察知してシンは戦慄する。

 まるで押し合う気の無い攻撃は予想の通り、シンゲツをデスティニーの懐へと潜り込ませていた。

 

 ゼロ距離の攻防。瞬時にシンは右腕のパルマフィオキーナを叩きつけようとする。

 

「嘗めないで下さい!」

 

 機体の手足を使ったMS戦闘は、高い運動性を誇るアストレイの領分。

 ヤヨイの時ならいざ知らず、記憶を取り戻したサヤにとってはただ掌部を押し当てようとするだけの動きは児戯に等しい。

 振り下ろされた掌に対し、シンゲツは脚部でもってそれを蹴り上げて見せた。

 

「なっ!? ぐぁ!」

 

 右腕部を跳ね上げられデスティニーが態勢を崩した瞬間、サヤはシンゲツの右背部にラックされたオハバリを選択。

 対するシンも跳ね上げられた勢いを利用して、逆の腕のパルマフィオキーナをシンゲツに向けた。

 

 実体剣のオハバリによる攻撃等、VPSでどうにでもなる。どこを叩き切られようとも、デスティニー掌部を押し当てれば打勝てるが道理────シンが脳に描いたその目論見を、しかしサヤとシンゲツが上回る。

 

「そこです!」

 

 向けられたパルマフィオキーナを掻い潜り、オハバリがデスティニーの左腕関節部に突き立てられた。

 瞬間、デスティニーのコクピットにはパルマフィオキーナの発射にエラーが表示される。

 

 ミラージュコロイドを搭載した実体剣オハバリは、コロイド粒子を接続回路とすることで敵機体の動力との通電、放電を可能とする。

 核動力による無尽蔵のエネルギーが備えられているデスティニーと言えど、各種兵装へのエネルギー供給は一定であり、供給された傍から放電によって別経路へとエネルギーを流されてしまえば、兵装の使用は不発に終わってしまう。

 

「エラー!? どんな理屈だよ一体!」

「隙だらけです!」

「くっ、そぉ!」

 

 振り下ろされるゲツエイのビームサーベル。それを機体を仰け反らせながら後退して躱すが、デスティニーの右脚部が切り落とされる。

 奇襲に類する攻め手ではあったが、サヤはこの時シンとデスティニーの組み合わせに漸く一手を叩き込めた喜びを覚え、対するシンは後手に回り不覚を取った事に己の弱さを改めて自覚する。

 

 いくら決心しようが、やはりシン・アスカにとって彼女は仲間。天涯孤独の身となってから初めてできた拠り所である。根は優しい少年に、その感情を律することは簡単ではなかった。

 

 

「だめだ……だめだこんなんじゃ!」

 

 

 必死にシンは、己の感情に頭を振った。

 この体たらくではまた、何もできずに終わる────弱いままで、終わってしまう。それではダメだと、シンは己を叱咤した。

 

 守りたいと誓った。助けたいと願った。

 オーブで。インド洋で。ベルリンで。多くを経験し学んできた。

 大切なものを理不尽に奪われる事を、許容してはならないのだと。

 

「──あの人の為にも、俺は」

 

 脳裏に過るは、未来を映さなくなってしまった頼れる筈の元上官の姿。

 自責に雁字搦めとなり、世界の理不尽に抗おうと全てをかなぐり捨てて今、戦おうとしている。

 

 ならばせめて、彼の負担を1つでも減らす事こそが彼への恩返しだと、シンは思った。

 墜ちてしまった彼の心を、どうにか守りたいと……そう思えるだけの感謝が、シンの胸の内にはあったのだ。

 

「だから────」

 

 種が開いた。

 発芽していく人類の可能性。軛から解放された少年は、遺伝子が約束した至高の領域へと突入していく。

 

 

「必ずお前を、あの人の所へ連れ戻してやる!!」

 

 

 それで全てが片付かなくとも、少しは良くなるはずだ。彼の心は僅かでも救われるはずだ。

 彼にも彼女にも、互いを討たせてはならない。

 

 己の未熟故に一度は叶わなかった想い。シン・アスカは今一度、全てを賭してそれを成し遂げるべくデスティニーを駆った。

 

 MSを無力化し、サヤ・アマノをミネルバへと連れ帰るのである。

 

 

「うぉおお!」

 

 

 光の翼が宇宙を翔ける。

 距離を取り、後退をしたのは極僅か。虚を突く様に動きを変えて接近してきたデスティニーに、サヤは目を細めた。

 

 

「──伝わります、シン。貴方の想いは」

 

 

 それは究極の相性が成せる事か。それとも長きを共にしてきた経験が成せる業か。

 サヤの脳裏に過るのは、新たな決意を携えて機体を駆る、不器用な少年の姿。

 それを見ればどことなく嬉しくなってしまうのは、どれだけ強気に嘯こうともやはりヤヨイ・キサラギの想いは捨てきれないのだという証明であった。

 

 引っ張られる様に。引き寄せられるように────サヤもまたシンの想い乗せられる様に続いた。

 

 種が開く。

 シンと同じく遺伝子が約束した可能性を開花させ、サヤ・アマノもまた己の想いを貫き通す為、至高の領域へと突入していく。

 

 

「連れ帰るというのなら────私も同じです!!」

 

 

 漠然と抱いていた……兄を止めるために必要なサヤにとって最良のピース。それは彼、シン・アスカに他ならない。

 キラでも、アスランでもない。記憶を取り戻しヤヨイ・キサラギで無くなった今でも、彼女にとってシンは最高のパートナーとなる。

 

 彼と一緒ならばどんな敵も、どんな壁も打ち破れる。

 なれば今この時、彼を打ち破り己が手元へと手繰り寄せる事こそが、サヤの悲願に必要なことである。

 

 サヤはシンゲツの右手にオハバリ、左手にゲツエイを持たせて接近戦の構えを見せた。

 対するシンもまた、デスティニーのアロンダイトをラックポジションから外すと同時、フラッシュエッジを投射。即座にアロンダイトを構えて突撃する。

 

 

「うぉおおお!」

「やぁあああ!」

 

 

 ヴォワチュール・リュミエールの光を纏い、2機は再びぶつかり合った。

 

 

 その背後を、白き翼が駆け抜けた事にも気が付かぬままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────くっ、はぁ!!」

 

 大きな息を吐きながら、ルナマリア・ホークは己の心臓に手を当て、生きている事を実感した。

 

 あの数瞬────ハーケン隊に追い込まれ防御も回避も不可能となったあの瞬間。

 ルナマリアはとっさにインパルスからコアスプレンダーのみを緊急パージ。更にチェスト、レッグ、シルエットのフライヤーを弾避けで犠牲にすることで、どうにか生き延びたのである。

 

「あぁ、もう! 最近良いとこ無しじゃない!」

 

 奇襲であったとは言え、流れる様に追い込まれて必死の脱出劇。

 反撃も、一矢報いる余地も無く、インパルスは文字通り丸裸にされてしまった。

 そうして不甲斐ないと嘆いているのも束の間、コクピット内には再びアラートが鳴る。

 

「っ!? そうよね、そう簡単に逃がしてはくれないわよね!」

 

 追走してくるハーケン隊からの攻撃であった。

 

「逃しはしないよ!」

「くぅっ! 落とされてたまるもんですか!」

 

 放たれた光条を必死に躱しつつ、ルナマリアはミネルバへの帰還ルートをコアスプレンダーでひた走る。

 犠牲にしたフライヤーのお陰で虚を突いたとはいえ、コアスプレンダーの推力ではMSには敵わない。追いつかれ、撃墜されるのは時間の問題である。

 

「こんな所で、死ねないのよ!」

 

 ルナマリアは必死に吠えた。

 漸く妹と生きて再会できたのだ。

 大切な家族を失いかけたからこそ、芯の通ってなかった自身にも戦う理由が1本通った。

 平和な世界を実現する為に、自らも全てを賭して戦うと。

 

 再会した妹は随分と大人びて見え、やるべきことを────やりたいことをしっかりと見定めていた。

 姉の贔屓目抜きに、今の彼女は才気に溢れ魅力的に見えたのだ。

 姉として、そんな妹に後れを取るわけにはいかないのである。

 

「こんのぉおお!!」

 

 全てを躱して、帰還して見せる。声を挙げ己を奮い立たせ、ルナマリアは限界ギリギリの綱渡りな逃避行を続けた。

 

 最短で追走してくるヒルダのドムをマーズとヘルベルトが援護し、一手一手確実にルナマリアの背後へ死が迫って来る。その恐怖を御し切りルナマリアはコアスプレンダーを翻し続けた。

 

「っ!?」

 

 僅かに機体が揺れる。

 至近でドムの実弾弾頭が爆発し、機体が流れた。

 

「しまっ──」

 

 速力の低下。軌道のズレ。それらがルナマリアとヒルダの距離を埋めていく。彼我の距離はもう僅かとなり、ルナマリアの心は恐怖に圧し潰されそうであった。

 

「まだ、まだぁ!」

 

 それでも、諦める様な事は無い。

 ヒルダのドムから放たれる光条を死に物狂いで回避した。

 正確には遮二無二操縦桿を動かして運よく難を逃れただけであったが、それでも僅か己の命運を繋いでいく。

 

 その僅かが、彼女の生死を分けた。

 

 

「これで、終いだよ────はっ!?」」

 

 

 一挙に仕留めに掛かるヒルダは、ビームサーベルを出力。最大推力で以てコアスプレンダーへと肉薄する。

 しかし、光の刃が振り下ろされるその直前。ヒルダは危機を察知して後退。

 直後、彼女のドム目掛けて巨大な閃光が飛来した。

 

 

「────ふぅ、危機一髪!」

 

 

 ダークパープルに染められた運命の翼を駆り、ユリス・ラングベルトの参戦であった。

 

「ユリス・ラングベルト……どうして?」

「全く、ドジってんじゃないわよルナマリア・ホーク。余計な問答は良いから、さっさと補給して戦線復帰しなさい!」

「え、えぇ……ありがとう、助かったわ」

 

 元は連合のMSディザスターのパイロット。自分達にとっては敵であり、顔合わせした時にもひと悶着あった彼女。そんな彼女が素直に助けてくれた事が少し驚きでルナマリアは呆けてしまうも、すぐさまミネルバへの帰還ルートに就いた。

 

 そんなコアスプレンダーを見送りながら、デスティニーのコクピットでユリスはやれやれとため息を1つ吐いた。

 

 そう簡単に、ミネルバの連中に死なれては困るのだ。

 ギルバート・デュランダルが描くこの先の計画には、大きな戦いが控えている。

 デスティニープランに反対する者達との、大きな戦いが。

 徒にこんなところで戦力を消耗するわけにはいかなかった。

 

 1つ息を吐いてから、ユリスは気持ちを切り替える。

 意識を向けるは、デスティニーを捉えた瞬間即座に連携を取って仕留めに来る、3機のドム。

 

 1機目の実体弾をビームライフルで撃ち抜き、2機目のビーム攻撃を腕部ビームサーベルで切り払う。

 3機目────接近してきたドムのサーベルを躱して、パルマフィオキーナを叩きつけた。

 

「くっ、何て反応だい!」

 

 バズーカを犠牲にして難を逃れたヒルダのドムが後退する。

 

 

「さぁて、ヤキンを経験済みの手練れが3人……キラ・ヤマトとアスラン・ザラの前哨戦としては十分かしら?」

 

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、ユリスは呟いた。

 ダーダネルスでの海戦以来、強敵との戦いが望めなかったユリスは密かにこの作戦によって勃発する戦いを楽しみにしていた。

 クライン派との戦いとなれば必然、彼等が出て来る事が予想されていたからだ。

 

 フリーダムとジャスティス。そしてキラ・ヤマトとアスラン・ザラ。

 ユリスが望む強敵としては申し分ない配役である。

 戦闘が始まってすぐに彼等が出てこなかった事から、別動隊のエターナルと共に居るかと踏んで、ユリスは嬉々としてルナマリアの救援に飛んで来たのだ。

 

 残念ながら待ち人は見られなかったものの、ユリスは十分に強敵の気配となる目の前の3機に、その戦意の矛先を向ける。

 一時はファクトリーに居た身だ。ドムトルーパーの性能の高さはある程度把握している。

 パイロット達とも何度か会話をした事があるし、歴戦の勇士である事も知り得ている。

 となれば、その実力にユリスが期待するのは仕方のない事であった。

 

 

「さぁ! 兄さんも手伝ってくれたその機体で、存分に私を楽しませて頂戴!」

 

 

 災厄の悪鬼が、ハーケン隊へと躍りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、ミネルバより新たにMSが発進────彼です!」

 

 CIC担当のミリアリアが挙げた報告に、アークエンジェルクルーは一様に息を呑んだ。

 戦域に姿を現した白翼のデスティニー。それが彼、タケル・アマノが乗る機体だと言う事は既に周知の事実である。

 

 2年前、彼等と肩を並べて共に戦っていた彼が……本当に敵となって目の前に現れてしまった。

 それがどれほどの脅威となるのか、彼等は良く知っている。

 手を変え品を変え、己に適する機体を創り上げて。そうして幾度となく行われたザフトの襲撃からアークエンジェルを守り抜いた立役者なのだ。

 

「ミネルバの防衛で釘付けにするわ。ナタル!」

「──了解。ゴッドフリート1番2番、照準! 同時にスレッジハマー1番から6番を自立制御パターンAにセット。ゴッドフリートの発射と同時に5度刻みで斉射。ミネルバに包囲攻撃を掛ける!」

 

 マリューの思惑を受け取ったナタルは即座に指示を下す。

 正面から高出力の火線で抑えつけ、その隙に包囲攻撃でミネルバを狙いデスティニーをミネルバの防衛に専念させる。

 

 タケルのデスティニーに接近されれば、既に艦載機が掴まっているアークエンジェルに成す術はない────そのための必死の攻撃である。

 

「ゴッドフリート1番2番、てぇ!!」

 

 アークエンジェル両舷の主砲が閃光を吐き出しミネルバを狙う。

 同時に打ち出されたミサイルは角度を変えて、ミネルバを挟み込む様に展開された。

 

「さすがだ、アークエンジェル────いや、ナタル」

 

 苦痛を吐き出すように、タケルはその名を呟いた。

 その事実を改めて認識する様に。自ら選んだ道の愚かさを噛み締める様に。

 そして、沸き上がる後悔の念を律して、タケルはデスティニーを動かした。

 

 果たして、目論見通り────デスティニーはビームシールドを展開。ゴッドフリートの射撃を受け止めながらドラグーン兵装ライソウを射出し、展開されたミサイル群を撃ち落とした。

 

「くっ、いとも容易くと言った感じね……」

 

 それを見たマリューは、小さく歯噛みした。

 

 脅威の度合いを把握し、最適を以て危険な芽を摘み取る。タケル・アマノが散々彼等の前に見せつけた姿だ。

 艦船にとって脅威となる火砲を備えたバスターを徹底的に追い込み、接近を図ろうとするイージスやデュエルへ次々と襲い掛かる、落雷の様な電撃戦。

 思い出す嘗ての記憶を見れば、防衛対象を背後に背負った時に見せる彼の動きがどれほどの脅威になるのか、それはよくわかると言うもの。

 

 

 

 

「これより前に出て敵艦を制圧する────ミネルバは艦載砲を停止してくれ」

「────了解したわ。アーサー、艦砲停止よ」

 

 アークエンジェルの砲火を防ぎ切ったところで、タケルは告げる事だけを告げてデスティニーを走らせた。

 敵艦を制圧する為に前に出る……となれば、精度の甘い艦載砲では味方MSへ誤射の可能性がある。

 タケルが下した指示は決して間違いでは無いだろう。が、タリアにはその意図が透けて見えた。

 

「(討たずに制圧できるとでも言うつもり?)」

 

 事ここに至って、甘い幻想を抱く彼に疑念を抱きながらも、タリアはその言葉を呑み込んだ。

 それで気が済むのなら良し。戦闘が終わってくれるのなら尚の事良い。

 

 艦船同士の一騎打ちで後背を喫したタリアにとって、アークエンジェルは敵に回したくはない戦艦となっていた。

 艦攻撃に対する迎撃能力の高さ。互いの攻め手と動きを看破する読み合い。

 間違いがない……これは、艦長の指揮能力の差である。

 タリア・グラディスが、アークエンジェル艦長マリュー・ラミアスには及ばなかった事の証左だ。

 

「(怖気づいてしまったなんてね……情けない)」

 

 ギルバート・デュランダルが望んだとおり、ミネルバはザフトに置いて英雄艦の名を欲しいままにする活躍を見せて来た。

 それでも、本物の英雄艦には敵わないのだと。力の差をまざまざと見せつけられた。

 結果として不利となったタリアは、コンクルーダーズに頼るしか無かったのだ。

 

「とはいっても、これはこれで別の問題があるけれど…………アーサー、タンホイザーの発射準備だけ進めておきなさい」

「えっ!? あ、はい!」

 

 指示を下されたアーサーが慌てて動きに入る中。最悪を想定したタリアは、遠ざかっていく白翼に微かな不安を見るのであった。

 

 

 

 

 

 

「デスティニー、接近!」

 

 焦りをどうにか抑え込んだチャンドラの報告に、アークエンジェルクルーは一様に息を呑んだ。

 

「狙いはつけなくて良い、弾幕を張って! シンゲツとシロガネは!」

「敵MSと交戦中です!」

「呼び戻して!」

 

 そうこうしている内に、艦橋には敵機の接近を告げるアラートが鳴った。

 バリアントの砲撃とヘルダートのミサイルの雨を潜り抜け、白翼のデスティニーは既に目前にまで迫っていた。

 

 

 

「はっ!? お兄様、いけません!」

 

 事態を察知したサヤは切り結んでいたシンのデスティニーから距離を取ると、背部大型ビーム砲塔ツキヨミを集中照射。

 デスティニーを防御に回らせて出力のままに押し切り、シンゲツをアークエンジェルへと走らせる。

 

「アークエンジェル! ちぃ、やらせるかよ!」

 

 ネオをまたアークエンジェルを守る為にシロガネの速力でレジェンドを振り切り駆けつける。

 

 

 

 だが、アークエンジェルのミサイルはライソウに打ち砕かれ、駆けつけたシンゲツのツキヨミもビームシールドに防がれる。シロガネのビャクライから放たれる射撃も直撃するものを全てフラッシュエッジで捌き切り、デスティニーは進行ルートを変える事無く駆け抜けた。

 

 適する手段を用いて、まるで予定調和の様に万難を排したタケルのデスティニーは、ついにアークエンジェルの艦橋を捉える。

 

 マリューが、嘗ての仲間達が……そして愛する人が居るはずの艦橋に、デスティニーのビームライフルが突き付けられるのだった。

 

 

 

 

「────ここまでだ。マリュー・ラミアス」

 

 

 

 強張って、心なしか震えた声音が。アークエンジェルの艦橋に響く。

 問われたマリューは視線鋭く、ライフルを構えるデスティニーを見返し、そして険しい声で返した。

 

「どういうつもりかしら? 戦闘前に降伏は無いと伝えたはずよ」

「勝敗は決した。シンゲツとシロガネの命運も既にこちらにある」

 

 アークエンジェルの防衛に気を向け自身が疎かになっていたか……いつの間にかシンゲツとシロガネの周囲にはtype-Lのドラグーンが6基ずつ、機体を囲む様に展開されていた。

 

「バカな……」

「いつの間に」

 

 驚きに揺れるネオとサヤは、己の浅はかさを呪った。

 アークエンジェルとシンゲツ、シロガネの3者が必死で攻撃したにもかかわらず、それを掻い潜り、あまつさえ爆煙の中にドラグーンを潜ませるまでしていたのだ。

 

 彼等が動くに動けない状況を見て、交戦中であったシンとレイも動きを止める。

 少し前からは考えられない静寂が、宙域に漂っていた。

 

「武装を解除して降伏を。無為に命を捨てる事は無い筈です」

 

 淡々と告げられる声。あくまで、立場に則った降伏勧告────しかしその実は懇願だ。

 

 貴方達を討たせないでくれと……そんな声が見え隠れする通達である。

 

「甘えた事を……貴方が自分で選んだ道のはずよ!」

「マリュー!」

 

 非難めいた声が傍らから挙がるも、マリューはそれをかぶりを振って制した。

 

「それができないと言うのなら、貴方が今そこで成し遂げようとしている事は間違いだわ。自らの決断に責任を持てないのなら、今すぐその機体を降りなさい!」

 

 厳しい声音、厳しい言葉。しかし、その裏に込められるのは彼女の優しさ。

 キラやアスラン、サヤが呼びかけても戻れなかった彼に、今一度戻って来る道を示してくれていた。

 

 今ならまだ間に合う……必死に戦ってきたその背中をずっと見守ってきたからこそ投げかけられる、母の様な戦友の言葉に、固めていたタケルの決意は容易く揺れた。

 

「────戻ってきなさいタケル君。貴方の嘆きは貴方1人のものでは無いわ。カガリさんは今でも、オーブで必死に戦っている。2年前、お父上から託された思いは今も貴方の胸の内にあるはずよ」

 

 僅かに、タケルの顔に苦渋が浮かぶ。

 

 今は亡き、2人の父。ウズミもユウキも、ナチュラルとコーディネーターを分けようとする世界を良しとせず、2年前その命と引き換えに彼等へその想いを託した。

 

 忘れたわけでは無い。忘れていたわけでは無かった。

 寧ろそれがあったからこそ、タケルは真なる平和な世界を求めてプラントへと渡ったのだ。

 

 託された想いも、求め続けた力も、世界の悪意には無力だと知ってしまったから。

 

 カガリの様に不屈の精神で立ち上がること等、タケルにはもうできなかったのだ。

 

「────僕は戻らない。戻れない。

 居心地の良い場所で、皆と力を合わせればいつか……そんな段階はとうの昔に終わっている。人類はもう、本当の意味で変わらなければならない時が来たんです」

「2年前に何度も言ったはずよ! 貴方はもっと……自分を大切にしなさいと。そんな一杯一杯な状態の貴方に、一体世界の何を変えられるというの」

「僕がどんな状態かなんて関係ない!」

 

 既に、クルース・ラウラとしての仮面は剝がれていた。

 感情を剥き出しにして声を荒げるのは、何も守れなかった……守れずに終わってしまったタケル・アマノ。

 

 引き摺りだされた素顔にハッとしながら、タケルは後悔の念を滲ませて頭を振った。

 

 

「────タケル」

 

 

 通信越しに聞こえてくる声に、目を見開く。

 

「ナタ……ル……」

「あぁ、私だ」

 

 最愛の人の声。忘れようはずもない。

 最も聞きたくて、しかし最も聞きたくない声であった。

 

「ふふ、全く酷い顔をしているな」

 

 

 柔らかな声であった。ともすれば戦後、僅かな平穏の時を共に過ごしていた時の様な────酷く場違いな声音。

 だが温かく、優しい……全てを受け入れて、包み込んでくれる。その事が分かる、特別な声。

 彼女がそれを向けるのは世界でたった1人。彼にだけだ。

 

 

「ナタル……」

「帰ろう、タケル……君の大切な場所へ。また少し休んで、それからまた、一緒に頑張ろう」

 

 

 それが許されて良いのだと。

 2年前……タケルの心を救ってくれた言葉。

 どれだけ自責の念に囚われていても、全てを許してくれる、タケルにとって唯一無二の慈愛の声。

 

 だが2年前とは状況が違った。

 オーブを失い、心を壊しながらも、タケルは己の感情を以て歪に立ち上がってしまった。

 こうしてナタルから赦しを貰うより先に、行く道を定め、彼等とは違う方向へと歩み始めてしまっていた。

 

「ダメだよナタル……僕はもう人類を信じない。この世界を信じない。求め願えばいつか叶う平和なんて幻想は信じられない」

「そんな悲しい事を言ってくれるな。私もサヤも、カガリも……君が求めて戦い続けて来た平和な世界を、今も信じて戦っている」

「それでは何も守れない……守れなかった! オーブも、皆も、何1つ!」

 

 2年前も、そして此度もそう。

 必死で抗い、守りたかったはずの故郷は、世界の悪意に晒され無残にも吹き飛ばされた。

 2度起こった悲劇は、タケルから人類を信じる心を奪っていた。

 

 

「あの時も言っただろう……それだけの君の想い、守れたものがたくさんあるはずだと」

 

 

 再び、タケルは目を見開いた。

 それは淡くなっていた思い出。いつの間にか片隅へと追いやり忘れかけていた大切な記憶。

 2人が互いを意識し、惹かれ合うきっかけとなった最初の言葉であった。

 

 通信を傍受していたシンもまた同様に目を見開く。

 一度はSEEDに感情を振り回され暴走してしまったシンに、タケルが掛けてくれた言葉だ。

 思わぬところでその出所を知り、シンはどこか納得した。

 

 ここまでのやり取りだけを聞いても、彼が彼女にどれだけ思われているのかはよく分かる。本当に大切だと想っているが故に出て来た言葉なのだ。

 

 何故かシンは、このまま彼が向こうに行く事を願ってやまなかった。

 

「喪ったものは大きい……でも、タケルが守れたものもたくさんあるんだ。何より、あれがタケルのせいだなんて事は断じてない」

 

 強く否定される責任の所在。

 亡き父の言葉が、タケルの頭に過っていく。

 全ては己のせいだと責を被り、最後は誇りだと言ってタケルを褒めてくれた。

 

「休んで良い……折れたって良い……もう、頑張らなくて良い。どんな時でも、私が傍で支えて見せる。

 だから帰ろう────タケル」

 

 優しく告げられた愛する人の声に。

 似合わぬ憎悪と復讐心で保っていたタケルの心が解きほぐされていく。

 

 

「ナタル……僕は……」

 

 

 声音から棘が消えていく。力が抜けていく。

 

 許して欲しい。助けて欲しい。

 自分でもどうしようもない程雁字搦めとなってしまった感情に。タケルが心の底からそれを願ったのはこれで二度目であった。

 

 

 

 だが……

 

 

 

「ちぃ、やはり…………アーサー、タンホイザー起動よ!」

「はっ、はい!」

 

 

 世界の悪意はそう易々と、彼を運命から手放すことはしなかった。

 

 

「てぇー!」

 

 

 

 禍々しさを纏う閃光が、宇宙を引き裂き迸った。

 

 

 




母からの叱責。奥さんからの赦し。

最後のタリアの行動は暴走とかではなくて、作戦上必要なことというか理由はちゃんとあります。
早合点しないでください。

これでまた、主人公が曇っていく事に。それが目的で書いてるわけじゃ無いですけど、結果的にはそういう流れになっちゃう。

すまんタケル。これでも最後じゃ無いんだ



感想、どうぞよろしくお願いします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。