機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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少し短いです


PHASE-105 さだめの果てに

 

 プラント最高評議会議長執務室。

 

 部屋には彼以外誰も人影は無く、薄暗い執務室でギルバート・デュランダルは現在の状況を見漁っていた。

 

 デスティニープランの公表と導入及び実行。

 

 自身が齎した世界の混乱を、各種メディアを通して確認していく。

 

 早々に反対を表明したオーブの様な国は少数であった。現在はまだ、各国でデスティニープランへの議論が重ねられている。

 しかし、表明こそされていないもののプランへの賛否は凡そで真っ二つと言う所が彼の見解だ。

 オーブの反対表明に揺れ動いた国はいくつかあれど、対ロゴスを銘打って戦い続けて来た彼の、世界からの信奉は篤い。

 大西洋連邦の支配から救われたユーラシア西側地域はプラント寄りだし、東アジア共和国もロゴスとの戦いで共同戦線を張った国家が多く、ロゴスを討ったデュランダルに巻かれる様にプラント寄りへと舵を切り始めている。

 

「──やはり、大西洋連邦か」

 

 その中で────現在、コンクルーダーズを用いて弾圧紛いに軍事施設を狙われている大西洋連邦は、デスティニープランとプラントに対し徹底抗戦の構えであった。

 

 ふと、デュランダルは怪訝な表情を見せる。

 

「既に月基地は壊滅した。今更何ができると言うのかね……コープランド?」

 

 画面に映るのは、声高にデュランダルを演説で批難する大西洋連邦大統領、ジョゼフ・コープランドの姿。

 ロゴスの傀儡となり、この世界をここまで疲弊させた張本人の1人と言える者だ。

 だが、ロゴスは既に壊滅。頼る後ろ盾を失くした彼に、一体何ができると言うのか。デュランダルは甚だ疑問であった。

 

「────失礼します」

 

 飛び込んでくる報告の声。執務室の入口へと目を向ければ、ザフトの将官の姿。

 

「どうした?」

「御報告が────ミネルバは、想定通りクライン派との戦闘に入った様です」

「そうか……わかった、ありがとう」

「はっ!」

 

 退室していく将官を見送りながら、大きく息を吐いていく。

 報告を受け、デュランダルは1つの山場を感じていた。

 

 現在行われているコンクルーダーズの任務は宇宙の治安維持────総じて、不穏な軍事勢力を叩くことに因るプラントの安全確保が目的だ。

 記憶に新しい、レクイエムに因るプラントの崩壊を経て。二度とプラント市民を危険に晒さない為のアピールでもある。

 ここでもしミネルバが敗北し、撤退してくるような事があれば────プラントの世論は大きく傾くだろう。

 

 ただでさえ突然の発表となったデスティニープランの事で、プラント内でも賛否の声が挙がっているのだ。

 その上オーブの声明に現れた本物のラクス・クラインの事もあり、デュランダルの想定以上にプラント内はプラン推進派と慎重派に分かれている。

 

 彼が一躍時の人となり、世界から絶大な求心力を得るに至ったのは、彼が人々の求める穏健で理想的な指導者であった事に加え、傍らにその象徴たるラクス・クラインが居た事が大きい。

 その二柱の一方を失い、あまつさえ反対の声明を出された彼の求心力は、実質半減と言える。

 

 今一度、皆の求心を集める功績が必要であった。

 だからこそ虎の子であるコンクルーダーズとミネルバの部隊を派遣し、宇宙の安全確保に動いたのだ。

 

「さて、タリアは上手くやってくれるだろうか……」

 

 出撃前に、極秘に彼女へ与えていた任務。

 こうなった以上、ここから先不安要素は抱えて居られない。そのための指示である。

 

 

「覚悟を決めてもらおう……タケル・アマノ君」

 

 

 静かな執務室に、デュランダルの冷たい声がやけに大きく響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれるのは、その凶悪な見た目に沿うだけの威力を内包する破壊の閃光。

 艦船ミネルバが保有する、MSの兵装とは一線を画す巨大な火砲、陽電子破砕砲タンホイザー。

 

 

 不意に撃たれたその光は、狙いを違わずアークエンジェルへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 気が付いた時には全てが遅かった。

 操舵のノイマンが必死に艦を動かす事も。光波防御帯を持つシンゲツが駆けつけて展開する事も。

 無論、己の感情に一杯であったタケルが、迅速な判断をできる筈もない。

 無情な光がアークエンジェルに突き刺さる未来を幻視して、誰もが絶望した。

 

 

 

 破壊の光が、宇宙に散る。

 

 

 

 

 光の奔流が眼前に迫ったその瞬間、マリューとナタルは嘗ての記憶をフラッシュバックさせる。

 

「アークエンジェルはやらせん!」

 

 白銀に煌く機体が、光を背に負う様にしてアークエンジェルの前に立ちはだかっていた。

 

 陽電子砲を受け止めるシロガネ。

 その機体を駆るのは、ムウ・ラ・フラガ。

 マリューとナタルにとって、それは共に一度は目の前で受け止めた光景だ。

 

 嘗て、ストライクでそれを防いだムウと。

 嘗て、シロガネでそれを防いだタケル。

 

 

「ぐぅ、うおおお!!」

「ロアノーク大佐!!」

 

 

 タンホイザーの圧力にシロガネが軋んでいく。

 背部のビャクライユニットを緊急パージし、ネオはそれを盾に防御を続けた。

 

 その光景に、マリューは心臓を握られたかのように胸を抑えた。

 脳裏に過るのは、あの日奪われた記憶。戦火に彼が失われた、喪失の瞬間。

 同じ光景に、胸の痛みが再発し、マリューの心を締め付けた。

 

 

「ははっ、どうだい? やっぱり俺って──」

 

 

 “不可能を可能に────“

 

 

 光の奔流に呑み込まれようとしている最中。

 ネオ・ロアノークもまた、異常な程の既視感と共に脳裏に記憶を甦らせていく。

 

 

 “俺は我慢強くないんでね。離れ離れは御免なのよ”

 

 

 “ちゃんと帰ってくるよ──勝利と共にな”

 

 

 愛する人と交わした言葉。果たせなかった約束。

 

 

「マリュー……俺は……」

 

 

 ビャクライユニットが陽電子砲に耐えかねて爆散。

 2年前の焼き増しの様に、アークエンジェルの目の前でシロガネが爆煙の中に消えた。

 

 

 

 

 

「タリア・グラディス! どういうつもりだ!」

 

 強い怒りを浮かべて、タケルはタリアを呼びつける。

 完全なる不意打ち。それも降伏勧告中の相手に対してだ。到底許せるものではなかった。

 だが、通信モニターに映るタリアの表情にも、タケル同様に強い怒りが乗せられていた。

 

「それはこちらのセリフよクルース────貴方さっき、流されたわね?」

 

 思わず、言葉に詰まってタケルは固まった。

 流されかけた────己の立場と責務。望んだことを忘れ、目の前に差し出された安寧を享受しかけた。

 図星を突かれたと分かるその反応に、タリアの剣呑さは増していく。

 

「降伏勧告も良い。戦えないと言う気持ちも理解はしてあげるわ…………それでも、議長が信頼した貴方の裏切りを目の前で許せると思って?」

 

 そう、裏切りである。

 ナタルに諭され、流されると言う事は、つまりコンクルーダーズを発足しその隊長にタケルを据えたデュランダルへの明確な裏切り。

 望んでプラントに渡り、デュランダルを頼った己の行いを否定する行為であった。

 

 

「心して臨みなさい。試されてるのよ貴方は────今ここで。こちら側で戦う資格があるのかを」

 

 

 行くも地獄、戻るも地獄か。

 厳しくかけられた言葉に、タケルは胸を抑えながら、爆煙に包まれたシロガネへと目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムウ!!」

 

 

 思わず、マリューは彼の本当の名を口にする。

 記憶を失ったのだと己に言い聞かせて律していた彼女も、目の前の光景にそれを忘れた。

 

 

 

「これが、ザフトに入ったお前のやり方か────タケル」

 

 

 

 無事を知らしめるかの様に飛ばされる通信音声。同時に、爆煙の中より閃光が放たれる。

 それは狙い違わずタケルのデスティニーを狙い、次いで飛来する白銀が、デスティニーへと切りかかった。

 

「くっ!?」

 

 慌てて機体を後退させて、シロガネを躱しながら、タケルは届けられた声と言葉に、その意味を悟った。

 記憶を失い、ネオ・ロアノークとなった彼とタケルに面識はない。戦場で、見知らぬ人間に呼び掛ける様な事もないだろう。ネオ・ロアノークからタケルを呼ぶ声が挙がったと言う事は、その答えは1つである。

 

 

「久しぶりだな、タケル。嘗て共に戦った戦友として────俺もお前を止めてやる」

 

 

 エンディミオンの鷹、ムウ・ラ・フラガの復活であった。

 

 

 

 

 

 

 ──ふざけるな

 

 

 どくんと、タケルの胸の内で黒い感情が蠢いた。

 

 記憶を取り戻し、ムウ・ラ・フラガが真に生還したのは喜ばしい事だ。タケルの内にも嬉しさは湧いた。

 だが、記憶を取り戻したからと言って全てが無かった事にはならない。

 

 

 ムウ・ラ・フラガが、ネオ・ロアノークである事にも変わりはない。

 

 

 アーモリーワンを襲撃し、デストロイでベルリンの街を崩壊させた。言うなれば、此度の戦争の発端となった人間。

 それが命令であり拒めない事であったとしても、責任が無い事にはならない。

 

 

 ────戦争が無かった事にはならない。

 

 

 様々な感情に揺れていたタケルの心に、ふっと湧いた理不尽は、急速に膨れ上がって彼を怒りの感情へと駆り立てた。

 

「貴方に────やり方をどうと否定される謂れは無い!」

 

 デスティニーがフラッシュエッジを片手にシロガネへと向かう。

 迎え撃つムウのシロガネもビャクヤを取り出し、2機の間に火花が散った。

 

「ロゴスの尖兵だった貴方が、僕の! 何を、否定できる!!」

 

 出力に任せて押し切ると、ビームライフルを連射。嘗ての愛機の動きは理解していると言わんばかりに精度の高い射撃が、ムウを追い詰めていく。

 

「ちぃ!」

「ロゴスがいなければ、世界はこんな事にはならなかった。オーブは討たれなかった! 貴方がしっかりしていれば……貴方がステラ達を守れていたなら……こんなことにはならなかったんだ!」

 

 彼が記憶を失わずに生きていたのなら────ファントムペインは発足していなかったかもしれない。アーモリーワンへの襲撃も無く、此度の戦端は開かれなかったかもしれない。

 ネオ・ロアノークがもっと優秀であったのなら────ステラ達がラボ送りにされることも無く、タケルは違う道を歩んでいたのかもしれない。

 

 

 或いは、2年前のあの日……彼が死んでいたのなら。

 

 

 様々な、もしもが。

 様々な、かもしれないが。

 どうしようもなくなったタケルの胸の内を埋めていく。

 

「貴方のせいで戦争は起きたんです! 貴方のせいで大勢の人が死んだ!」

「っ!? あぁそうだ! だからこそ償いをする! それにはまず、誰よりも平和を願っているはずのお前をそんな状態から救い出す事からだ!」

 

 反撃と言う様に、シロガネからジンライが展開されデスティニーを囲む。

 記憶を取り戻し、本領発揮となったムウのドラグーン捌きは恐ろしい精度と動きでデスティニーへと迫った。

 

「その程度────嘗めるな!」

 

 種が開く。

 SEEDへと陥ったタケルは、その鋭敏な知覚でジンライの軌道を全て察知。

 フラッシュエッジで迫りくる4つを切り落とし、残り4つをビームライフルで射抜いた。

 

「なんだとっ!? えぇい!」

 

 即座にシロガネは背部ビーム砲塔キョクヤを展開。

 太い閃光が放たれるも、タケルは難なくそれを回避してデスティニーを駆った。

 

 サブスラスター兼ドラグーン兵装であるジンライを失ったシロガネは、大きく機動性を損なう。

 ヴォワチュール・リュミエールに改良を加えたtype-Lを前に、もはや逃げる事は叶わない。

 

「はぁあ!!」

「ぐっ、この────がっ!?」

 

 瞬く間に距離を詰めたデスティニーが、ビャクヤの光刃を掻い潜り、パルマフィオキーナでシロガネの頭部を粉砕した。

 機体とパイロット能力。2人の間に存在する明確な差は、結果となって現れる。

 

「お兄様!」

 

 追撃しようとするデスティニーを止めるべく、シンゲツが割って入るも、それを避ける様にライソウがシロガネへと回り込み、機体各部を穿った。

 

「があぁっ!?」

「フラガ少佐っ!? くっ、これ以上は」

 

 まるで眼中に無いと言わんばかりにシンゲツを避けてシロガネが狙い撃たれ、サヤは轡を噛んだ。

 

 ────強い。

 

 それは当然の事実でありサヤにとってはある種、誇りでもあった事だ。

 ドラグーンの扱いにおいても、MSを用いた機動戦であっても、ムウやサヤでは届かぬ高みに居る。

 

 だが、誇らしかったはずの兄のそれが、今は恐ろしくして仕方なかった。

 

 その刃が。銃口が。自分達へと向けられていると言うあり得なかったはずの事実が────己の命運への恐怖では無く、最愛の兄が消えてしまいそうな気配を感じて、サヤの心は震えていた。

 

 

 ボロボロとなったシロガネへとビームライフルを向け、再び周囲に展開されたライソウがシンゲツを抑えつけると、タケルは今一度通信回線を開いた。

 

 

「最後の通告です、マリュー・ラミアス……武装を解除し、降伏してください」

 

 

 本当に最後の通告────否、悪あがきであった。

 記憶を取り戻したムウへと銃口を突き付け、マリューの感情を揺さぶる最低な行為に吐き気を覚えながらも、乞い願うようにマリューへと呼びかける。

 

「────マリュー、応じるな」

「貴方は黙っていてください」

 

 シロガネの関節部が撃ち抜かれ、ムウが押し黙った。

 再び戦場の動きが止まり、訪れた静寂に耳が痛くなっていく。

 

 そんな中で、マリューは静かにタケルの問いに応じていく。

 

 

「言ったはずよ、降伏はないと────それに、まだ終わりじゃないわ」

 

 

 否の声。そして、続けられた言葉にタケルは嫌な予感を覚えた。

 戦場で培ってきた、第六感的な危険予知にデスティニーを後退させると、彼が居た跡を巨大な閃光が駆け抜けていく。

 

 同時に飛来してきた幾つかの光条が、シンゲツの周囲に展開されていたライソウを2基撃ち抜いた。

 

「新手だとっ!?」

「まさかっ!?」

 

 ここにきての増援にレイもシンも即座にセンサー類を確認する。

 情報を追えば追うほどに見えてくる事実に、2人の表情は驚愕と苦悶に変わっていった。

 

 

 

「あっ、あぁ……」

 

 

 それはタケルにとっても同様────否、タケルにとってこそ絶望に相応しい光景だ。

 

 

「ムウさん、交代です」

「サヤ、君も一度退がるんだ」

 

 

 蒼天の翼をはためかせる自由が。真紅の鎧を身に纏う正義がそこにはいた。

 その背後にはオーブ謹製の最新鋭宇宙特装艦アマテラスが鎮座しており、カゼキリ派生特機キンシャク、シュトリ、コンカクの姿も確認できる。

 一目見ただけで理解してしまう、絶対的な戦力の増援であった。

 

 そして何より、目に映る増援部隊の中で最も目を引く機体に、タケルの瞳は揺れた。

 

「カ……ガ、リ…………」

 

 漆黒の宇宙で燦燦と煌く金色が────タケルの目に映っていた。

 

 

 

『私は、地球圏統一同盟軍指揮官────カガリ・ユラ・アスハだ』

 

 

 無情な運命は、戦場を更に混沌とさせていくのであった。

 

 

 

 




追い詰めていくぅ……追い詰められていくぅ……もうやめたげてよぉ。
でも成長して頼りになった犬系主人公とか、何でも筒抜けな分ケア用員として優秀な破滅系妹がいるからまだ大丈夫。
次回カガリの一幕とゴリゴリの戦闘回の予定。
感想、どうぞよろしくお願いします。


あとツィに呟いたけどガンブレ4やってます。
シロガネなどのオリ機体を頑張って再現中です。納得いくのができたら後で挙げるかも。
作者はガンプラ作れない勢なので、センスが無いのは赦してください

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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