機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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今回まで多分見苦しいけど許して欲しい。


PHASE-107 自由と正義

 漆黒の宇宙空間において良く目を引く黄色の機体が、レイの乗るレジェンドへと接近してくる。向かい来るそれを見て、レイは目を細めた。

 オーブ戦役でも確認され同盟軍を相手に猛威を振るっていた機体だ。油断なく構えレジェンドのドラグーンを展開。接近してくる黄色の機体────アサギ・コードウェルが駆るキンシャクへと驟雨の如き光の雨を降らせた。

 

「──その、程度!!」

 

 気合いの声と共に、キンシャクが加速する。

 ドラグーンによるオールレンジ攻撃。それはアサギにとって既知の攻め手だ。

 いや、もはや既知と言うレベルではないだろう。彼女は全力でそれを潜り抜ける訓練をこなしてきたのだから。

 ジンライとビャクライ。2つのドラグーン兵装を操るタケル・アマノとシロガネを仮想敵とした機動シミュレーション。機動戦に特化した彼女の能力に磨きをかけるため行われたそれは、彼女にそれを成せるだけの十分な能力を開花させていた。

 

 自身を真上から見下ろす様な俯瞰視点。

 死角を、隙を、弱点を……自ら理解し、敵からの攻撃を予測する。

 相手とてむやみやたらに撃ってくるわけでは無い。特に実力者となればなおさら、相手の隙を狙い突いて来るものだ。

 逆を言えば、自身の隙を理解することで相手の攻撃を予測する事も可能である。

 

 何度も受けたオールレンジ攻撃。シミュレーションのタケルは、容赦なくアサギの弱点を浮き彫りにして攻撃してきた。

 そうして繰り返すうちに理解してくるのは、自身が隙を作る瞬間。死角となる位置。弱点と言える狙い目。理解したアサギは徐々に、シロガネの攻撃を予測できるようになっていった。

 自分の状態が敵にとってどのように映っているのか。どこを狙いやすいのか。それが、俯瞰視点で理解できるようになった時、アサギは遂にシロガネの苛烈な攻め手を全て潜り抜ける事に成功した。

 

「見ててよ、アマノ三佐!」

 

 シロガネより受け継がれる可動性多角スラスターが唸りを挙げる。微細な機動制御を可能とし、アサギとキンシャクはレジェンドが齎した光の雨を潜り抜ける。

 

「あれを抜けただと!?」

 

 驚愕に揺れながらもレイは疾走するキンシャクへと狙いをつけ、ビームライフルを放ち続けた。

 潜り抜けたとは言え、ライフルの射撃にキンシャクは接近から方向を転換し、再び距離を取って回り込む軌道へと変わっている。

 回避できただけだ。接近されてはいない。

 

 

 どうにか退けた……安堵した次の瞬間。ゾクリと総毛立つ気配がレイを襲った。

 反射的にレジェンドを退がらせると、そこをビームの光が通過していく。検知したセンサー類を見れば、ビームの出所は随分と距離を取って展開されていた小型のビーム砲塔が2つ。

 

 紺色の装甲に覆われたドラグーン兵装。ジュリ・ウー・ニェンが駆るコンカクの機動兵装“カクヨク”である。

 多くの兵装を積むことで必然重くなったコンカクの機動性を支える2枚の大型ウィングバインダーを分離。大型故に搭載されたジェネレーターによる十分な出力を以て、ドラグーンではあり得ない高威力の砲撃を可能とする。

 そのサイズから動きは遅いし、機体近くに展開するくらいしかできない。しかし分離機動兵装としての利点を潰しながら、威力と射程に寄せたそれは、明確に火力を向上させるため設計された新しいタイプのドラグーン兵装である。

 

 

 彼女には────これで良い。

 何故なら彼我の距離は多大。そして前衛にはキンシャクとシュトリが居る。2人が居れば万が一にも接近など許さない。

 足を止め、敵の射程圏外から主兵装のビームスナイパーとコンカクを用いた制圧狙撃で一方的に撃ち抜く事が可能だ。

 

 フリーダムとのシミュレーションで培った、敵を追い込む射撃パターンを幾通りも思い浮かべ。どんな回避軌道を取られようと追い詰めてみせるとトリガーに指を掛けたジュリは、コクピット内で僅かに似合わぬ舌なめずりをした。

 

「墜ちて下さい!」

 

 ビームスナイパー。背部大型ビーム砲塔。腰部レールガンにドラグーン兵装カクヨクが2門────計6門の火砲が、レジェンドへ向けて放たれた。

 

「ちぃ!!」

 

 迫りくる閃光。2つを避けるも、追い込まれたレジェンドはビームシールドを展開。

 高出力のビームに押され、レジェンドは態勢を崩した。

 

 再び、レイの脳裏に嫌な気配が過る。

 

 

「やぁあああ!」

 

 

 迫りくる朱。

 焔を纏うかの如き朱の鳥が、レジェンドへと迫っていた。

 高い機動性でアサギが攪乱し、遠距離からの制圧狙撃でジュリが追い込み、そして決め手となる接近戦でマユラが仕留める。

 三位一体の攻めは遂に、ザフトにおける最新鋭の機体を手の内に捉えていた。

 

 迎撃に放つビームライフルは、しかしシュトリの腕部に備えられたビームシールドが阻む。徹底して想定された突撃仕様。シュトリに備わる高い防御力が僅かな虚をレイに生んだ。

 その隙に、シュトリはレジェンドの眼前に迫る。

 

「墜ちなさい!」

「えぇい!」

 

 振り下ろされるビームサーベルを、とっさに取り出したビームジャベリンで受け止める。

 しかし、受け止められたその瞬間にシュトリは次の行動に移っていた。

 

「えぇいやあ!」

 

 逆の手を振りかぶり叩きつける動作。

 デスティニーのパルマフィオキーナと同系統の兵装が予見され、レイはレジェンドを僅かに下がらせ射程圏内から離脱──

 

「まだ!!」

「がっ!?」

 

 振りかぶり掌部を叩きつける動作。そのまま勢いを殺さず機体を回し回転。前転宙返りの要領で振り下ろされるシュトリの脚部には、踵の部分に展開されるビームヒール。

 レジェンドの肩部装甲が、僅かに切り取られていた。

 

「とった! これで」

「マユラ、下がって!」

「っ!?」

 

 アサギの声に反応して反射的にビームシールドを展開すると、レジェンドの後方に展開されていたドラグーン端末から光が放たれ、シュトリを押し切った。

 

「────くっ、嘗めるなよ」

 

 手玉に取られた事が癪に障り、レイの視線は険しいものへと変わっていた。

 デスティニー、フリーダム、ジャスティス。それらと比べれば比肩する事も無いだろうと、心の底でタカを括っていたのは否めない。

 その慢心がこの結果であるのなら、レイ・ザ・バレルに二度と同じ轍を踏む気はなかった。

 

 

「俺はここで負けるわけにはいかないのだからな」

 

 

 でなければ、デュランダルも、今や大切な師となった彼の事も。何一つ力になれない……支えになれなくなってしまう。

 自分は決めたのだ。ユリスと語り合い、自らをラウ・ル・クルーゼの戒めから解いた折に。

 

 レイ・ザ・バレルは自ら望んで、彼等の為に戦う事を。

 

「お前達が彼の元へ向かうと言うのなら、俺はそれを止めるだけだ!」

 

 展開されるドラグーン。突き付けられるライフルの銃口。己の存在意義を見出したレイは、不退転の決意を以てキンシャク等を見据えた。

 

「レイ!」

 

 気配の変化を感じ取ったアサギ達が息を呑む中、ミネルバよりソードシルエットを受け取ったインパルスが来着。

 レジェンドと並び立ち、同様にキンシャク等と向かい合う。

 

「レイ、無事……ではないみたいね」

「この程度の損傷ならば何も問題は無い。どうとでもして見せる」

「そう? じゃあここからは私も参戦させてもらうわ」

「気を付けろ。相手は手練れだ」

「分かってるわよ。一応、面識もあるし」

 

 黄、朱、紺。おあつらえ向きなカラーリングを見れば、ルナマリアは直ぐに思い至った。

 あれ等に乗るのはオーブで出会った彼女達だと。

 数奇な運命を僅かに呪う────あの日、まだ平和だったオーブで知り合った彼女達と、こうして銃火を交える様な事になるとは。夢にも思っていなかった。

 そして、彼女達はタケル・アマノが教導してきた、最も古い教え子たち。その実力は推して知るべしである。

 

 嫌な汗が、ルナマリアの頬を伝った。

 

「3対2、か」

「数では有利だけど、ちょっと厳しいかもね」

「でも、引くわけにはいかないよ」

 

 対するアサギ達も、レジェンドをどうにか追い込むことができた所での増援に、嫌な予感は拭えなかった。

 目の前の2機の他に、タケルが駆るものも含めて3機のデスティニーが居る。

 どこかで誰かが切り崩されればこの戦線、互いの戦力差は覆るだろう。

 今この時、戦局を十分に担う立ち位置に自分達も居る事を、アサギ達は理解していた。

 

 

「やるわよ、レイ」

「あぁ、前は任せる」

 

 

 丁度良くソードシルエットを担いで来たインパルスが前衛。レジェンドはその後方につく。

 

 

「アサギ、無茶しないでね」

「勿論。墜とされない事だけが取り柄だもん!」

「援護は任せて、2人共!」

 

 

 対するアサギ達は、前衛にキンシャクとシュトリ。後衛にコンカクの分かりやすい布陣。

 

 

「いくわよ!」

「勝負!」

 

 

 

 僅か、互いが息を呑んだ直後。5人は再びぶつかり合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び動き出した戦線。

 自由と正義が白翼の運命へと迫る。

 

「クルース!!」

 

 シンはタケルを援護するべく、デスティニーを走らせた。

 フリーダムのドラグーンがタケルのデスティニーを囲み、回避したところでジャスティスがラケルタビームサーベルを連結し切りかかる。

 それを阻止するべくシンは長射程ビーム砲を選択。ジャスティスの眼前へと撃ち放とうとするも、直前でコクピットにアラートが鳴った。

 

「させません!」

「っ!? ヤヨイ!」

 

 サーベルを出力したゲツエイで切りかかってきたシンゲツを受け止め、シンは険しい表情を作った。

 ただでさえ精神的にギリギリな状態のタケルが、フリーダムとジャスティスに狙われて渡り合えるはずがない。

 ここで己までシンゲツに捉まってしまえば、彼はそう時を置かずに撃墜される事だろう。

 

「くっ、ヤヨイ! お前本当に──」

「お兄様の為にも、あの2人の邪魔はさせません! 今一度、私と戦ってもらいます、シン!」

 

 長短2本のゲツエイを巧みに扱い、デスティニーを苛烈に攻め立てる。

 兄を取り戻す────その本懐の為に奮うサヤは、機体性能の差を覆しながら優勢を得ていく

 

「────なんで、なんでなんだよ。ヤヨイ! おまえ本当に」

 

 その最中、シンは大切な仲間だったはずの彼女の戦いに、惑いを隠し切れず押され続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ドン、と音が聞こえてきそうな加速。

 何の考慮も無いフリーダムの突撃に対し、タケルはライソウを展開。それを牽制に向ければ次の瞬間には直上よりジャスティスが切りかかって来る。

 

「はっ!?」

 

 受ける余裕は無かった────即座にその場を後退して、ジャスティスを躱す。

 

「キラっ!」

「うん!」

 

 急制動を掛け連結サーベルが切り上げられて来るのを、仰け反って至近で躱せば、接近を続けていたフリーダムがビームサーベルを出力して左より迫る。

 とっさにフラッシュエッジを抜き放ち、翻されたフリーダムのサーベルを受け止める。即座に追従させていたライソウが飛来しフリーダムを退がらせるも、今度は逆袈裟で翻るジャスティスの脚部ビームブレイドが迫っていた。

 

「くっ!?」

 

 タケルはビームライフルを犠牲に、どうにか距離を取った。態勢を立て直そうと光の翼を最大展開しその速力で以て2機からの追従を振り切っていく。

 

爆発で揺らされたコクピットの中で、タケルは息も絶え絶えとなって身も心も逃げ惑っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 戦闘だけが齎したわけでは無い疲労が目元に色濃く残る中、それでも必死に意識を繋ぎ止めて集中していく。

 先程からまるで墜とす気のない攻防は間違いない、タケルのデスティニーを撃墜ではなく鹵獲しようとしている動きだ。

 

 この戦線の中、彼等はタケルを相手に撃墜と言う選択肢を除外していた。

 

 

「くっ……ふざけるな!」

 

 

 僅かに過る苛立ちと不快感は何に対してか。沸いた感情を御する事なく機体を動かし、タケルは追ってくる2機を睨みつける。

 

 

「今更僕に、何ができるって言うんだ!」

 

 

 守れなかった。足りなかった。及ばなかった。

 そんな自分が今更戻って何をする────何ができる。

 今の自分にできる事は唯一つ。これまでのやり方では叶う事のない、真の平和を世界にもたらす事だけ。

 それだけが、オーブを守る為に成せるたった1つの道筋なのだ。

 

「あたれぇ!」

 

 SEEDで先鋭化された感覚をさらに研ぎ澄まし、接近中の2機を捕捉。

 残る10基のライソウによる波状攻撃で、フリーダムとジャスティスを狙った。

 

「ちぃ!」

「アスラン、任せて!」

 

 接近を阻まれ、回避軌道へと追いやられるジャスティス。即応する様にフリーダムはライソウを躱しながらも2本のビームライフルで牽制。同時に、ドラグーンを射出しデスティニーへと向かわせた。

 8基のドラグーンによる包囲射撃。嘗て、ラウ・ル・クルーゼがプロヴィデンスで見せた光の檻を再現するように、蒼翼の砲塔が光を放つ。

 しかし──

 

「なっ!?」

 

 驚愕の声はキラから。

 少しは牽制になるだろうと思った矢先、デスティニーはフリーダムのドラグーンなど意にも介さないと言うように、後退から一転して接近してきていた。

 予定調和の様に射線の悉くを回避する動きは、まるで全て見えているかのよう────否。事実タケルにはフリーダムのドラグーンの全てが視えていた。

 

「その制御プログラムをキラに合わせて組んだのは僕だ……全てを熟知している僕に、通用すると思ったか!」

 

 ターミナルで開発が難航していた、フリーダムのドラグーンとジャスティスのリフターの制御プログラム。

 無論、こんな事態を想定して作り上げたわけでは無いが、オーブを守る力になるのならと徹頭徹尾彼等の為に仕上げたものであった。

 どんな戦いをするのか。どんな扱い方をするのか。それらを想定して仕上げたタケルにとって、フリーダムのドラグーンは想定内の範疇にしか収まらない。

 

 攻め手が読めるのなら回避は容易である。

 

 接近────そして抜かれるフラッシュエッジ。

 振り下ろされた光の刃は、間に割り込んだジャスティスが受け止めた。

 

「くっ!? タケル、いい加減目を覚ませ!」

「目ならとっくに覚めている! 無意味な幻想に縋って、無駄な戦いを続けて来た! その結果が今だ!」

「もうやめるんだ! 気持ちは痛い程分かるが、お前がいくら嘆いた所で今の現実は変わらない!」

「だから世界を変えるんだろ! そうしなければ人類は滅びると……議長はそう言ったはずだ!」

 

 瞬間、ジャスティスの背後からフリーダムが姿を現し胸部のカリドゥス複相ビーム砲を放つ。

 瞬時に後退して、デスティニーは再び距離を取った。

 

「そうやって……世界を変えるために、人類から意思を奪うのが本当に正しいと思ってるの。タケル!」

「ならどうすれば良い! どうすれば世界は変わってくれる!」

 

 ライソウを戻し、ウィングバインダーに骨格が出来上がる。

 コンクルーダーズの為に用意されたデスティニーの中でtype-Lだけが持つ機能。光翼に骨子が組み込まれ、ヴォワチュール・リュミエールに更なる力が宿った。

 

 接近────予想を超える速度で行われたそれは、フリーダムを目の前に捉える。

 

「はっ、くっ!」

 

 叩きつけられるのは掌部ビーム砲パルマフィオキーナ。

 臨界する高出力のエネルギーが、ビームシールドで受け止めたフリーダムごと大きく吹き飛ばした。

 

「変わらなかったんだ……必死に戦い、抗い続けても。人は……世界は! 人類は何も変わらなかったんだ!」

 

 追撃はさせまいと、ジャスティスはリフターを分離。疑似的な僚機としてファトゥム-01を飛ばし自身もまた連結サーベルを構え接近していく。

 

「だからと言って!!」

「くっ!?」

 

 飛来してくるファトゥムをビームシールドで受け流しつつ、振り下ろされる光の刃を機体の運動性に任せギリギリのところで半身になって躱す。

 が、次の瞬間デスティニーは大きな衝撃に見舞われコクピットが揺れた。

 

 回避先を読まれていたのだろう。右手に持つサーベルを避けたところで、左手に持つビームキャリーシールドによって殴打されたのだ。

 そして、衝撃に隙を晒した敵を逃すほど、アスラン・ザラは甘くない。

 

「はぁあ!!」

 

 シールドより射出されるグラップルフック。

 速力で振り切るデスティニーを逃すまいと、その左腕をがっちりと捕らえていた。

 

 ひゅっ、と小さく呼吸の音が鳴る。

 僅か……ほんの僅か。ジャスティスに腕を捕られた事へのタケルの対処が遅れた。

 デスティニーを引き寄せながらビームサーベルを構えるジャスティス。右腕でフラッシュエッジを抜いて対応するか、或いはライソウを差し向ければ被弾を恐れてグラップルを解いていただろう。

 

 しかし、既に距離は詰められジャスティスは目の前。心身の疲弊はこのタイミングで、タケルの反応を確かに鈍らせていた。

 

「っ!? うぁあああ!!」

「なっ!? ちぃ!」

 

 寸前──捕らえられた左腕に右腕のパルマフィオキーナを叩きつけて破壊。拘束から逃れ、タケルはどうにかジャスティスから距離を取った。

 逃した事に舌打ちしながらも再び距離を詰めて追従しようとするアスラン。だが、漸く動かしたライソウがジャスティスに迫りアスランは機体を退かせた。

 

 

「──はぁ、はぁ」

 

 

 距離を取り、動きを止めた所でタケルはまた息も絶え絶えな状況に陥っていた。

 デスティニーのコクピットにはアラートが鳴っている。しかしそれは左腕部の破壊によるものではない────悔しそうに表情を歪めるタケルの目の前に出ている文字はwithdrawal(撤退)

 タケルの反応が本来持つ能力に対して著しい低下を示した時に表示される、メイリン・ホークが搭載したシステムアラートである。

 既に、タケルの状態は限界を迎えていた。

 

「大丈夫だ、僕はまだ──」

「まだ続けるの、タケル?」

 

 別のアラートが鳴る。

 確認されるのはジャスティスと相対するデスティニーに後背から狙いを付けられた事を示すロックオン警告。

 2本のライフルを連結させて構えるフリーダムと、そして周囲に展開される蒼翼のドラグーン────突き付けられた現実に、タケルは唇を噛んだ。

 

 こうなればもう逃げ場はない。機動戦中であればいくらでもフリーダムのドラグーンを躱せる自信はあったが、動きを止めたこの状態で狙われたのならばそれはもう不可能だ。

 前方では油断なく連結サーベルを構えるジャスティスもいる。次動けばもうデスティニーには回避も防御も術がない。

 

「キラ、アスラン……!」

「もう一度言うぞタケル……いい加減目を覚ますんだ」

「言ったはずだ! 目なら覚めた。だからこうして戦っている! 父さんたちに託されたオーブを守る……その為に!」

「もうやめるんだ、こんな戦い! ユウキさんもウズミ様も、お前がそんな風に戦うのは望んでないはずだ!」

「そうやって戦えば戦う程、君のこれまでが……オーブの為に戦ってきた君の戦いが無意味になっていく。君のその戦いが……カガリ達を泣かせている事に何で気が付かないんだ!」

「それで世界が変えられるのなら安いものだ! 皆が悲しむだけで世界が平和にできるのなら……再びオーブが焼かれるよりはずっと良い!」

 

 早くなる鼓動と共に痛む胸を抑えて、タケルは叫んだ。

 カガリが、ナタルが、サヤが……自らを取り巻く大切な人達が悲しんでいる事など百も承知であった。

 だからタケルの心は揺れ、抗えぬ痛みを発している。

 

 それでも、世界にデスティニープランが必要だ。

 

 愚かで救いようのない者達が蔓延るこの世界では遺伝子による管理こそが唯一、未来を人類の手から取りあげる事の出来る救済策。そうしなければ、争いは繰り返され人類は破滅へと向かう。

 

 凄惨を極めた2年前の大戦を省みる事ができなかった人類に、終末を止めることはできないのである。

 

 

『本当に、デスティニープランは世界を平和にできるのか?』

 

 

 届いた声に、タケルは背筋を震わせた。

 生殺与奪の状況を作ったキラとアスランのお陰で、漸く前に出て来たアカツキからの通信であった。

 

『兄様、本当にデュランダル議長は──』

「ならどうすれば良い! 他にどんな手段があると言うんだ!」

 

 怒りと共に、タケルは頭を振って叫んだ。

 視線はアカツキから眼前のジャスティスへと向けられる。

 

「アスラン! 君は悪意の手からカガリを守れなかった! オーブを守れなかった!」

「っ!?」

 

 シロガネを託し、不安を託し、全てを委ねてタケルはあの日。アスランにカガリとオーブを任せたはずなのに。

 しかし、その結果はカガリが命を狙われ国外へと避難する状況へと陥り、ロゴスに付け入る隙を与えてしまった。

 だが、カガリが国内に留まる事は不可能だったのか────アスランとて、その疑問は潰えなかった。

 

「キラ! 何でオーブを守ってくれなかったの! その為にフリーダムを作ったって言うのに……君はあの日、何も守ることができなかった!」

 

 小さくキラは息を呑んだ。

 アストレイ-Fと呼ばれたフリーダムも。そして今キラが駆るストライクフリーダムも。全てはいざと言う時の備え。オーブを守る為に生み出された力であった。

 戦後、ラクスと共に穏やかな時間を過ごしながらも、いつ事が起こっても良いようにと用意されていた力がありながら、結果としてキラは守れなかった。

 2年前も、そして此度も。

 嘗て己の出生を知り胸に誓ったキラの誓いは、今だ果たされてはいなかった。

 

『兄様! 2人は──』

「カガリだって同じだ!」

 

 感情のままに荒げた声で、カガリは初めて優しかったはずの兄から怒声を受けた。

 

「もう遅いんだよ! オーブは討たれた。僕達が守りたかった国は失われた! なんで────どうして国を離れ逃げ出してしまったんだ、カガリ!」

「っ!? タケル!」

「お前!!」

 

 逃げ出した────己の命かわいさに、国を離れ、その責務から逃げ出した。

 そんな意を込めた言葉に、キラとアスランは瞬間で怒りの声を挙げた。

 

 その声に我に返ったタケルは、今自身が放った言葉の意味を理解して急速に顔色を失い頭を振った。

 

 そんなつもりでは無かった。そんな事を言いたいのでは無かった。

 ただ、理解して欲しかったのだ。自分達は守れなかった事。自分達のやり方では世界は何も変わらない事を。

 それが、これまでずっと戦い続けて来たタケルが至った、最後の結論だと。

 

 

『────すまない、兄様。兄様の言う通り、私は己の責務から逃げ出そうとした』

 

 

 悔恨を乗せた声で、カガリは呟いた。

 あの日、オーブへと帰国したその時。ユウナ・ロマ・セイランに見抜かれたカガリの心。

 カガリは己が代表へと戻る事への意義に疑問を抱き、ユウナへと代表を譲る事を考えていた。

 その方がきっとオーブの為であると────それは己の責務を果たす事への、自信の無さから来る体の良い言い訳。

 ウズミの言葉を聞くその時まで、カガリは己の責務から逃げ出そうとしていた。

 

『兄様の言葉に、私は反論する事などできない』

「ち、違っ! 僕は、そんなつも──」

 

 瞬間、閃光が閃いた。

 デスティニーへと向けられたそれは牽制────と言うよりは、もはや彼を黙らせるために放たれたものだ。

 デスティニーにはジャスティスのビームライフルが向けられていた。

 

「問答は終わりだ、タケル……お前は超えちゃいけない一線を超えた」

「逃げ出したなんて。ずっとカガリの傍に居た君が……カガリの苦しさを知らない訳ないはずだ」

 

 明確に向けられる敵意。

 これまではどうにか説得し、連れ戻そうとしていた2人が、もはや討つ事を躊躇わないと思う程怒りに塗れた声音であった。

 

 

 連結サーベルを構えるジャスティス。

 ドラグーンを展開したまま、2本のサーベルを出力するフリーダム。

 

 問答無用でデスティニーを解体するべく、怒りに塗れた2人は最大出力で機体を走らせた。

 

 

 

 

 接近と同時、フリーダムのドラグーンがデスティニーを狙う。

 

 それを回避し体勢が崩れた所へ正面からジャスティスが肉薄。翻された光の刃が残った右腕部を切り落とした。

 

 タケルが残ったライソウを迎撃に回そうとするより先に、前後より振りかぶられた光の刃。

 ジャスティスは胴体と脚部を切り離さんと。フリーダムはデスティニーの頭部を切り飛ばさんと。

 

 無慈悲な光の刃が、デスティニー目掛けて交錯しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「──ふざけるな」

 

 

 

 

 

 次の瞬間。

 フリーダムを狙って2本のビームブーメランが飛来。察知したキラは慌ててフリーダムを後退させる。

 

 直後、一陣の風となって紅蓮の翼がジャスティスの眼前を駆け抜けた。

 

 

 

「そうやって……何も知らない癖に、お前達は!!」

 

 

 

 抗うように、少年は反旗の声を戦場へと響かせた。

 

 




主人公が滅裂なのは前回のあとがきでも述べた通りです。
C.E世界だもの。嘆いたって良いじゃない。
でもそんなの知ったこっちゃない2人からしたらブチギレ案件。
そして……そんな2人の怒りもまた、シンにとってブチギレ案件に。

次回で戦闘は終わります。
はてさてどんな結末となるか。お楽しみに。

感想よろしくお願いします。


戦力評価:アストレイ娘 サヤ・アマノ
キンシャク等3機はセカンドステージ以上サードステージ未満。
パイロットとしての彼女達はシミュレーション内容から推して図るべしと言う所。
サヤの乗るシンゲツは動力以外ほぼサードステージ相当。動力機関の都合でわずかに届かないくらい。パイロット能力は記憶取り戻すまでは当時のシンと同等。記憶を取り戻してからはラウに次ぐナチュラル最強格。

サヤちゃん活躍してないって? ま、まだお兄様の事が心配で本気になれてないだけだし……


この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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