機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-22 静かなる安堵

 

 

 

 ザフト軍戦艦ヴェサリウス。

 ラクス・クラインを救出したクルーゼ隊は、本国へと戻ると途上でラコーニ隊と合流し、ラクス・クラインを任せる事となっていた。

 目下の狙いは足つき──即ちアークエンジェル。

 あれが地球の本部へと降り立つ前に、なんとしても宇宙で沈める必要がある。

 

 その為にラコーニの部隊を取り込み戦力を増強。

 ラクスを乗せた艦船だけを本国へと帰らせるというわけだ。

 

「残念ですわね、せっかくお会いできたというのにもうお別れなんて」

「そうおっしゃらないでください。貴方の帰りをプラントの皆が待ち望んでいるのですから」

「そうですか──クルーゼ隊長にも、いろいろとお世話をかけました。ありがとうございますわ」

「お身柄はラコーニが責任をもってお送りいたします」

 

 名残惜しいのか、中々艦へと乗り込まないラクス。

 数瞬考える素振りを見せるとまた口を開く。

 

「そういえば、ヴェサリウスは追悼式典には戻られますの?」

「どうでしょう……隊を預かる身成れど、戦況までは予測しえませんので」

「戦果も重要な事でしょうが、犠牲になる者の事もどうか、お忘れなきよう」

「──肝に銘じましょう」

「戦争の先に何を見るのか。私達は考えなくてはならないのかもしれませんね」

 

 綺麗な笑みを浮かべながら、戦争の根幹を突くような問いに、クルーゼは仮面の奥で目を見開いた。

 食えない少女だと思った。

 まるで害が無いようなそぶりを見せながら、その実一体何を内に秘めているのかわからない。

 考えている事が手に取るようにわかる、議員だの司令官だのよりもはるかに危険な存在に思えた。

 

 乗り込んでいくラクスをアスランと共に見送る。

 彼女が居なくなったその場で、ラウは小さく口を開いた。

 

「戦争の先、か……全く何が見えているのやら。アスラン、イザークの事は聞いたか?」

「はい、ストライクにやられたと……」

「ストライク、討てねば次に討たれるのは我々かもしれないぞ」

「はい、わかって……います」

 

 よし、と返すクルーゼの後につきアスランはヴェサリウスへと乗り込んだ。

 

 そうだ、決めはずだ。

 

 親友として、自分がキラを討つと……

 

 

 アスランはヴェサリウスが向かう先へ、強い眼差しを向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「180度回頭。減速……相対速度合わせ」

 

 第8艦隊本隊との合流を果たしたアークエンジェル。

 マリューの指示に従い、ノイマンの操舵で艦隊の中央に位置する場所へと迎え入れられていた。

 

「しかし良いんですかねぇ……旗艦であるメネラオスの横っ面なんかに堂々と」

「ふふ、ハルバートン提督たっての希望よ。後程自ら来られるという事らしいわ」

「なんていうか、はしゃいでる感じですね」

「閣下こそ、この艦とXシリーズの一番の推進者でしたからね──それじゃ、少しお願いね」

 

 艦橋を後に残るクルーに託し、マリューは退室していく。

 色々と準備もあるのだろう。

 ようやく合流できた本隊だ。通信越しでも、ハルバートンの喜色は見て取れるものであった。

 彼の肝入りともいえる部下のマリューにとって、大事な出迎えである。

 

「あっ、艦長!」

「ナタル、何?」

 

 用があったのか、ナタルはマリューと共に艦内エレベーターに乗り合わせた。

 

「ストライクの事。どうするおつもりで?」

「どうって?」

「強制的な徴兵は難しいかもしれません。しかし先の戦闘で見せたあの戦い──彼の能力を逃すのが惜しいのは艦長とてお分かりのはず」

「私からキラ君に打診しろと?」

「──僭越ながら、提督へと具申するべきではないかと私は考えます」

「貴方の言いたい事は私も良くわかるけどね……でも、彼はオーブの民間人。その話をすればまず第一に大きな壁があるわ」

「壁?」

「アマノ二尉が、それを許すと思う?」

 

 彼がこの艦に乗った名目を忘れたわけではないだろう。

 そう、マリューの視線が物語る。

 タケルにとってカガリを守る事が第一であったが、勿論それだけではない。

 特にストライクに乗っていたキラを気にかけて最前線に出ようとしていた事からも、それは伺える。

 

「それは……」

「あれだけキラ君の事を気にかけて……ユニウスセブンの時だって彼等を想って船外作業をあんなに強く反対したのよ。そんな彼の目の前で、地球軍の為にキラ君に志願しろと……貴方は言える?」

「──それは」

 

 マリューの言に、ナタルは押し黙る。

 それは薄々ナタルも気が付いていたことだった。

 

「普段ならはっきりと反論する貴方が、そう言い淀むという事は。貴方自身、結果はもう見えてるんでしょ」

「そう、ですね」

 

 それっきり、2人の間で会話が続くことは無かった。

 結論の見えている事に頭を回しても仕方ない。そういう事である。

 

 

 

 

 

 

「もー艦隊と合流したって言うのに、なんでこんなに急がなきゃいけないんですか!」

 

 メビウス・ゼロのコクピットから抜け出し、キラは顔をしかめてムウへと抗議の声を挙げていた。

 先の戦闘で損傷を受けたメビウス・ゼロの、修理後の細かな調整をムウから依頼されているわけだ。

 

「悪いと思うけど不安なんだよ! 壊れたままだとよ!」

「まぁ第8艦隊っつったって、パイロットはひよっこ揃いだからな。なんかあったときはやっぱ大尉が出れないとって話だ」

「そういう事。頼むぜキラ」

「わかりましたけど……それよりも、ストライクはあのままで良いんですか? OSそのままですけど」

 

 キラはストライクを見上げながらムウに問いかけた。

 現在ストライクはキラが動かしやすいように構築されたOSを搭載している。

 艦隊と合流し、キラも降りるであろう今、キラ専用でそのままのOSで良いのか、と言う事だ。

 

「わかっちゃいるけどな。わざわざまともに動かないOSにして能力下げるのもな」

「まっ、そうですよねぇ」

 

 ムウとマードックの微妙な視線を受け、キラは目を逸らした。

 2人の気持ちはわかるが、そんな期待を向けて欲しくは無かった。

 あくまでキラはここにいる友人達の為に戦っていただけだ。

 

 彼等を守る為に……それ以上は、無い。

 

 戦いに参加して誰かを討つような事は、やはり未だ忌避感が強かった。

 

「気が向けば、僕がOSを作っても良いんですけどね……」

「タケル!?」

「どっから沸いてきやがった」

「キラが珍しく大きな声を挙げていましたから」

「そういえば、タケルのアストレイはどうするの?」

 

 キラの問いに、4人は一斉にアストレイを見上げた。

 相変わらずの下半身が内部フレーム剥き出し。

 先の戦闘では被弾がなかった為、新たな修理の跡は無いがあちこち細かい部分の損傷にもストライクのパーツを流用したため、かなり歪な機体となっていた。

 

「ん~必要な処理だけしてこのままアークエンジェルに置いていこうかと思ってるよ」

「はぁ!? お前だってあれはオーブの──」

「下半分はストライクですし、これまでの整備でパーツの流用も多い。上半分がアストレイだからギリギリ形を保ってますけど、ぶっちゃけ70%くらいはもうストライクですよあれ」

「そうなのか?」

「あれを民間人が乗るシャトルにも積めませんしね」

「あーそりゃそっか」

 

 納得したようにムウもマードックも頷いた。

 確かに、第8艦隊との合流で避難民達を乗せるシャトルこそあるもののアストレイの様なMSを載せるようなものは無い。

 

「オーブにアークエンジェルが運んでくれるなら、そりゃ持ち帰りますけど……それはそれで結局ストライクの部分は返さなくちゃいけないでしょ?」

「運んだとしてもめんどくせえなおい……」

「そういうわけで置いていった方が楽なんですよ」

 

 面倒。この一言に尽きる。

 他国のMSを搭載してここまで戦ってきたことが異例中の異例であるため、どんな対応が正しいのか誰にも分らなかった。

 

「まぁその時は、誰かが使ってください……と言っても、使える人もいないでしょうが」

「そりゃあ、でしょうね……」

「フラガ大尉が使ってみます?」

「無理無理! 俺が乗った所でお前みたいには動けねえよ。宝の持ち腐れだ」

「はは、じゃあ仕方ないですね」

 

 小さく、だが確かな声で笑い合う。

 ムウとマードック。そしてキラとタケル。

 4人はここにある3機と一緒に、これまで艦を守ってきた。

 

 戦友であった。

 それは戦争を嫌うキラにとっても、どこか特別な絆で、いまここで笑い合える関係が心地よかった。

 

「なんつーかよ。本当にここまでありがとな、お前ら」

「辛気臭いですね。僕はカガリを守りたいから頑張っただけです」

「僕も、トール達を守りたかっただけですから……」

「その結果、お前たちのお陰で俺達は助かったってわけだ坊主供。ありがとな!」

 

 ムウとマードック。

 そして周囲にいる整備班の面々。

 彼等に小さく頭を下げられ、タケルとキラは照れ交じりに苦笑した。

 

 もう艦を下りてしまう2人ではあるが、彼らの行く先が明るい未来であることを、願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しの時間を経て、アークエンジェルクルーは格納庫の一所へと集められた。

 

 軍帽を被り、服装を正した士官等。

 その後ろで居並ぶクルー。

 誰もが待ち人が来る時に構えて姿勢を崩さずにいる。

 

「ん? おぉー! ヘリオポリス崩壊の知らせを受けた時は、もう駄目かと思ったぞ。それがここで、君達と会えるとは!」

 

 

 第8艦隊司令官デュエイン・ハルバートンの来艦であった。

 

 開口一番。温和そうな壮年の男性がマリューたちを見た瞬間に喜びの声を挙げる。

 年の割りにどこか無邪気な、そんな印象をタケルは受けた。

 

「(あれが、智将ハルバートン……なんていうか、風格とか余裕とか、諸々凄い人だねぇ)」

「お久しぶりです閣下! ようやく、お目見えに成れたこと、嬉しく思います」

「先も戦闘中との報告を受けて、気を揉んだ。大丈夫だったか?」

 

 マリュー以下、他のクルーたちにも目を向けるハルバートン。

 その視線に、士官としてナタルとムウが答える。

 

「ナタル・バジル―ルであります!」

「第7機動艦隊、ムウ・ラ・フラガであります!」

「おおー、君がいてくれて本当に幸いだった!」

「いえ、さして役には立てませんで……」

「あぁ、そして彼らが……」

 

 マリューたちの後ろ、居並ぶキラ達。

 彼等に視線を向け、朗らかに笑うと、ハルバートンは彼らの下へ歩み寄った。

 

「ヘリオポリスの学生たちです。艦の運用を手伝ってくれました」

「君達のおかげでこの艦はここまでこれたようなものだ、礼を言わせてくれ。

 ご家族の消息はちゃんと確認してきた。君達のご家族は全員ご無事だ」

 

 ハルバートンの報告に、長らく胸の内にあった彼らの心配の種が消える。

 成り行きのままに乗り込んだ戦艦で、ずっと不明であった家族の安否。

 意識しないように話題にしていなかったそれの明確な答えが朗報であり、全員に安堵の声が挙がった。

 

「そして……」

 

 ハルバートンが最後に目を向ける。

 それはカガリと並ぶタケルであった。

 

「オーブ国防軍二尉。タケル・アマノです」

 

 敬礼はどの軍でも共通か。

 タケルはマリュー達同様、ハルバートンに巻き込まれた民間人ではなく、オーブ国防軍の人間として応えた。

 

「色々と複雑な事情ではあるが……私は君に大いに感謝しなくてはならないな」

「それはどうでしょうね……色々と見てしまいましたから」

「はっはっは! どうだったかね、この艦とXシリーズは。雛形のアストレイは君の開発だということじゃないか。是非感想を聞きたいものだ」

「凄い兵器でしたよ。惜しむらくは、奪われた事と扱いきるのがナチュラルでは難しい事でしょうか」

「むぅ、痛いところを突いてくれるな。もう少し手心を加えてもらえんか?」

「あとは新造艦らしく、艦内は快適で過ごしやすかったです」

「ふむ、それは嬉しい感想だな。あれこれ注文した私の鼻も高いというものだ。そういうので良い」

「閣下、お時間があまり……」

「うむ。後でまた君とはゆっくり話をしたいものだなぁ」

 

 副官のホフマンに促され、名残惜しそうにその場を離れていくハルバートン。

 まるで突風のように過ぎ去っていったハルバートンとの邂逅が終わり、一同は緊張した胸を撫でおろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球周辺衛星軌道宙域。

 

 待機していたヴェサリウスに、ローラシア級戦艦が2隻合流していた。

 

「ツィーグラーとガモフ、合流しました」

「発見されてはいないな?」

「艦隊は、大分降りていますからね」

 

 宙域図をにらみながら、ラウとアデスは状況を見ていた。

 

 アークエンジェルが合流した第8艦隊は地球近辺の衛星軌道上で待機し、かなり高度を下げている。

 それが意味するところとしては一つしかないだろう。

 

「月本部へと向かわずに足つきを地球に降ろすとはな……」

「降下目標はアラスカでしょうか……」

「何とかこちらにいる間に沈めたいものだ」

「ツィーグラーにジンが6機。こちらにイージス含めて5機。ガモフからはバスターとブリッツ、ミゲルのハイマニューバがいます」

「戦力としては上々だろう────智将ハルバートン、そろそろ退場してもらおうか」

 

 仮面の奥で、ラウは不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル指令室では、ハルバートンと副官のホフマン。

 そしてアークエンジェルをここまで引っ張ってきた士官3名が会し、今後の動きを話し合っていた。

 

「アークエンジェルには、現状の人員編成のままアラスカ本部に降りてもらわねばならん」

 

 ハルバートンから通達される始まりの一声。

 単刀直入に出された指令に、マリュー等3人は驚きに目を見開く。

 

「なっ!? 閣下、それは一体」

「補充要員を載せた先遣隊もやられ、今の我々にはもう、アークエンジェルに割ける人員はないのだ」

 

 疑問に答えるのは傍らに控える副官のホフマンだった。

 不承不承の体を見せてはいるが、副官のホフマンにはどこか嘲りにも似た気配があるのをマリュー達は感じ取る。

 確かに、たかが1つの艦の為。先遣隊の3隻は補充要因と併せて全滅。

 こうして本隊を揃えて迎えに来るのだって、動かす戦力が大きくなるほど余計な時間と労力がかかる。

 その上、本来であれば積載されているはずだった機体のXシリーズ──通称“G”兵器もそのほとんどを奪われ、辿り着いたのは1機のみ。

 手元に残らなかった事もそうだし、敵陣営に渡った以上機密もなにもない。

 コーディネーターの技術を考えれば、いっそ敵に塩を送ったと言っても過言ではない。

 

 端的に言えば、連合からすると期待外れも良いところなのである。

 

「アークエンジェルとストライク。君達はその全てのデータを持って、なんとしてもアラスカへと降りねばならん」

「しかし、我々は……」

 

 艦長であるマリュー。副艦長であるナタル。

 どちらも緊急時の一時的措置で就いたにすぎない。

 乗るべき艦長が他にいるのではないか? 

 そんな疑問がマリューの声音に乗っていた。

 

「君達は苦難を乗り越え、私の元までアレを届けてくれた。君達になら、そのままあれを任せられる──どの道、代わりに成れる人員は居らんのだ」

「補給や補充の機体は用意してある。

 大変だとは思うが、アラスカへと向けて降下すれば、危険な道にもならんだろう」

「下らん利権がらみに予算をつぎ込むバカな連中のせいで、これ以上兵を無駄に死なせてたまるか。

 あれらの開発を軌道に乗せる為にも、行ってくれるな。マリュー・ラミアス」

 

 温厚なハルバートンが見せる、バカな連中への明確な侮蔑。そして己の意思を託すべく向けられる強い視線がマリューを射抜く。

 

 マリューはその視線を受け、静かにうなずいた。

 

「分かりました。閣下のお心、しかとアラスカへ届けましょう!」

「アーマー乗りの生き残りとしては、お断りできませんかね」

「自分も微力ながら、ご助力致します!」

 

 応える声。その視線が、想いが通じたことをハルバートンに知らせる。

 力強い返事だった。命令に服す、それだけではない。

 それぞれが意思を持って応じた答えであった。

 

「──頼む」

 

 万感を込めた一言に、3人は寸分なく揃えた敬礼をもって応えるのだった。

 

 

 

 

 




もう旅も終わりかぁ、そんなお話。

感想お待ちしております。


また、少々気になりまして今回と明日更新の次の話でアンケ取ります。


正直余計な事書き過ぎて話全然進んでないのかな、と思ったり。
キャラクター達に出来るだけ感情移入して書いているために非常に長くなっています。

サクサク進めて欲しい
今のままでいいよ
サブキャラにももっと触れろ(多分きつい)

とアンケを取らせてください。
あくまで参考にするまでですが、読者様には感想と合わせて是非にお願いしたく思います。

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