機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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脳内BGMであれ流れるやつ


PHASE-108 定めを斬る

 

 

 “人は……世界は! 人類は何も変わらなかったんだ! ”

 

 

 

 それは恐らく……シンが初めて聞いた、彼の本音であった。

 元よりザフトに来た彼は、仮面で素顔を隠しその本音を曝け出す様な事は無かった。あくまでクルース・ラウラとして……ミネルバに乗っていたに過ぎなかったのだから。

 故に、この戦闘が始まる前のいざこざでも、彼が本音をシンに見せる事は無かった。

 

 守れなかった────悲痛に叫ぶそれが示す結果に至るまでの紆余曲折を、シンは推し量る事しかできなかったが、どれほど苦難に満たされた道であったのかは想像に難くなかった。

 彼は文字通り世界を相手にしてきたのだから。オーブにどんな敵が来ても阻めるだけの備えを欲し、求めて、作り上げて来た。

 簡単な筈がない。

 

 

 “なんで────どうして国を離れ逃げ出してしまったんだ、カガリ! ”

 

 

 

 その通りだと、シンは思った。

 突如として公表されたカガリ・ユラ・アスハの退任。察するに彼女はその時もう国元には居なかったのだと。

 彼女が居れば、オーブがロゴスの魔の手に掛かる事は無かっただろう。ジブリールが逃げ込むような事はなく、戦火はきっとオーブまで届かなかった筈だろう。

 カガリ・ユラ・アスハが持つ影響力はそれほど高いのだ。オーブ嫌いであったシンですら、それは容易に予想ができる事だ。

 

 オーブが討たれた理由が彼女が居なかったから……では、彼が余りにも報われない。

 

 

 ずっと戦い続けて来た筈だ。

 嘗てアスラン・ザラより聞き及んだ彼のこれまでは、正に人生を捧げて来たに等しい来歴である。

 一度は失われた祖国。その後悔はすさまじく、それが反ロゴス同盟を相手取っても劣る事のない、精強に過ぎる国防軍を作り上げた。

 事実、自分達はオーブを攻め落とせなかったのだから。

 

 それでも、結果としてオーブは再び失われた。無情な悪意の光に全てを焼かれ、消え失せた。

 

 シン自身、強くなろうとも届かぬ現実に、ずっと苛まれて来たのだ。奪われた彼の気持ちは恐らく、キラやアスランよりも余程理解ができた。

 全てを掛けて挑み続けて来たその果てに、奪われてしまった彼の悲しみと後悔は計り知れない。

 

 

 もっとどうにかできたのではないか────シンは遣る瀬無い気持ちと共に慮った。

 どうにかできた。それは彼が、ではなく周りの誰かが。

 直ぐ近くにいたはずのカガリ・ユラ・アスハが。

 共に戦っていた筈のアスラン・ザラが。

 今は向こう側に居るアークエンジェルや、エターナルに乗る者達が。

 

 誰かが彼を。オーブを……助けられたのではないか。

 

 

 

 

 

 “もうやめるんだ! 気持ちは分かるが、お前がいくら嘆いた所で今の現実は変わらない! ”

 

 “君のその戦いが……カガリ達を泣かせている事に何で気が付かないんだ! ”

 

 

 

 聞こえてくる声と言葉に、シンの頭は沸騰した。

 

 お前達ではないのか? 彼のすぐ近くに居たのは。

 お前達ではないのか? 彼を助けてあげられたのは。

 

 大戦後、アスラン・ザラは表舞台から姿を消した。

 カガリ・ユラ・アスハと共にミネルバに同乗したその時まで、彼の消息は不明であった。恐らくはラクス・クラインも、不明となっていたフリーダムのパイロットも一緒だろう。

 これまでを見れば見えて来る……彼等は共に、オーブの庇護下に居たはずだ。

 

 果たして彼等(あいつら)は、(隊長)程必死に戦い続けて来たのだろうか。

 戦後雲隠れした彼等は、一体何をしていたのか……一抹の疑念がシンの脳裏に過っていく。

 

 

「あぁ、そう言う事か……」

 

 

 瞬間、シンは己の内に湧き上がってくる灼熱の怒りの理由を理解した。

 何故こんなにも彼等が気に喰わないのか……それは彼があの様に責められるのが、まるで自分に向けられているかの様に聞こえるからだ。

 

 失った怒りを。喪った悲しみを。2度と奪われるものかと戦う力に変えて、そうしてシン・アスカもこれまでを生きて来た。

 今の彼の姿は、少し前の自分と同じだ。

 そうして生きて来た自分を彼は認めてくれた。だからシンは、己の弱さを見つめ強さに変える事ができた。

 しかし、今の彼等は彼の戦いを間違いだと責め立てている。過ちだと説き、無意味だと気付かせようとする。

 

 知らないのだろう。奪われた者が、どんな気持ちで強くなろうとするのかを。

 知らないのだろう。喪った彼がどんな想いで、戦い続けているのかを。

 

 勝手な言い分で、勝手な事をわめきたてる連中が、心底気に入らない。

 お前達とて、彼と同じように何もできなかったと言うのに、何を偉そうに責め立てている。

 

 

「──ふざけるな」

 

 

 唸るような呟きは、自然と口をついて飛び出した。

 

 

 ──種が開いた。

 

 

 遺伝子が約束した可能性。ギルバート・デュランダルが予見したそれは、所詮は可能性にしか過ぎなかった。

 忌むべきはずの怒りが……しかし今は自身と同じ苦しみに喘いでいる彼を守る為。これまでにない程の昂りを以てシンの内にある扉をこじ開ける。

 未だ嘗て、タケル・アマノしか陥った事のない未知の領域へと────シン・アスカは足を踏み入れた。

 

 

 

 

「隙だらけですよ、シン!」

 

 呆然と、動きを止めたシンのデスティニーへシンゲツが迫る。

 

 光刃を出力したゲツエイが、デスティニーを断ち切るその刹那────残像と共にデスティニーはシンゲツの傍を駆け抜けた。

 

「なっ、動きが!?」

 

 即座に振り返り、サヤはメインカメラでデスティニーを捉える。

 ヴォワチュール・リュミエールは最大展開。更にミラージュコロイドに因る残像を見せるデスティニーが、馬鹿げた軌道でシンゲツの周囲を飛び回っている。

 

「機動戦が望みですか……受けて立ちます!」

 

 シンゲツもヴォワチュール・リュミエールを展開。背部に光の花を咲かせてデスティニーへと追従していく────そのつもりであった。

 

「──遅い」

 

 シンは先手を打つ。

 シンゲツが動き出すその寸前、構えられたビームライフルから放たれる3射の光条が恐るべき精度をもって、シンゲツのメインカメラと脚部を掠っていく。

 

「くっ、何て射撃──あぅっ!?」

 

 ギリギリでライフルを躱したところへ次いで来る衝撃。

 全開機動へと至るその前……シンゲツがデスティニーをメインカメラで捉えるその前に投射されていたフラッシュエッジが背後より飛来し、シンゲツの脚部を切り落としていた。

 

「そんな! 一体いつ──」

「うぉおお!」

「くっ!」

 

 僅かでも。ほんの一瞬でも惑いを見せたが最後。

 デスティニーはアロンダイトを構えてシンゲツの眼前へと迫り、大上段に振りかぶっていた。

 

「させるとお思いですか!!」

 

 腕部の光波防御帯を集中展開。更に振り下ろされたアロンダイトへ横からぶつける事で、振り下ろされたアロンダイトをどうにか逸らした。振り下ろされる長大な剣へと寸分違える事無くタイミングを合わせて逸らすサヤの技量とて、同じSEEDへと至る者しか成せぬ芸当だ。人類の枠で見れば驚異的である。

 だが、サヤの反応が追い付いたのはここまでであった。

 

「そこを──どけぇええ!」

 

 逸らされたアロンダイト。それすらもシンは超反応で対応していく。力の流れに逆らわない様に曲線を描き機体を回転させ、すぐさまシンゲツへ二の太刀を振るった。

 切り飛ばされるシンゲツの頭部。更に武装を扱う右腕がゲツエイごと断ち切られる────ついにデスティニーは、シンゲツを降した。

 

「くっ、あぁああ!?」

 

 衝撃に揺れるコクピットの中でサヤが悲鳴を挙げる中、シンはシンゲツを捨て置きデスティニーを飛翔させる。

 向かう先は、自由と正義の騎士の元へと。

 

 

「問答は終わりだ、タケル……お前は超えちゃいけない一線を超えた」

「逃げ出したなんて。ずっとカガリの傍に居た君が……カガリの苦しさを知らない訳ないよね」

 

 

 白翼が穿たれる。タケルのデスティニーの右腕が切り飛ばされ、そのまま光の刃が交錯しようとしていた。

 

「そうやって……何も知らない癖に、あんた達は!!」

 

 憤然と猛る怒りのままに、フラッシュエッジを投射。更にヴォワチュール・リュミエールで機体を加速させ、アロンダイトを片手にジャスティスへと切りかかる。

 

「くっ!? デスティニー、シン・アスカか!」

「アスラン!」

「大丈夫だ問題無──」

 

 通信越しに息を呑む音が聞こえキラは目を疑った。

 アロンダイトを片手に切りかかったデスティニーは、もう一方の腕でフラッシュエッジを手にしジャスティスへと切りかかっていたのだ。

 牽制でフリーダムに投射したはずの1本を迎えに行くようにジャスティスへと突撃し、戻ってきたと同時にそのままサーベル代わりに切りかかる。

 曲芸染みた動きだが、手元にアロンダイトしかないと思わせた意表を突く攻撃である。

 

 断ち切られる寸前で、アスランはどうにかビームキャリーシールドによる防御で難を逃れた。

 

「こいつ、賢しい真似を!」

「賢しくて悪いか!」

「アスラン、このぉ!」

 

 瞬間的にジャスティスの危機を感じ取ったキラは、フリーダムのライフルを構えて牽制を掛けようとするが、それは最大展開されたヴォワチュール・リュミエールとミラージュコロイドによる残像に空を切った。

 

「はっ!?」

 

 気付いた時には既にフリーダムの真横からデスティニーが強襲。

 フラッシュエッジとパルマフィオキーナを構えて突撃してくる。

 

「キラっ!」

 

 慌ててアスランがライフルとファトゥムのフォルティスビーム砲で牽制するも、それを意に介さない超反応で潜り抜けていく。

 予想をはるかに超えるその動きに、アスランは目を剥いた。

 

「バカなっ、何だ今の動きは!」

「うぉおおお!!」

 

 フリーダム目掛けて接近────その距離は僅か。

 反応勝負で受けて立つとキラもまたSEEDへと陥り、2本のサーベルを出力。

 迫りくるデスティニーが射程距離へと踏み込んでくる刹那、光の刃を翻した。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の声と、コクピットが衝撃に揺れるのは同時だ。

 振り上げられたフラッシュエッジ。しかし、同時に振り上げられたデスティニーの脚部がフリーダムを蹴りつける。

 武装を手にしているからと言って、使うとは限らない────嘗て、エクステンデッドのラボがあった島でシンも騙された不意打ち。

 戦場ではいかなる悪辣な攻撃も正攻法である……が、正規の軍人でないキラがこの意表を突く攻撃を読める筈もない。いくら反応に優れようとも、意識は最大限を以て、手にしていた武装へと向けられていた。

 

 体勢を崩したフリーダムへと振り下ろされるフラッシュエッジが、右腕部を切り落とす。

 更に、極大エネルギーを携えたパルマフィオキーナがシールド発生装置ごと左腕部を粉砕した。

 

「まだまだぁあ!」

「くっそぉおお!」

 

 爆発によって後退しつつ、キラはドラグーンを展開。

 どうにかデスティニーを牽制しようとするが、それよりも早くデスティニーは次の攻撃へと移っていた。

 

 長大なアロンダイトを抜剣。光の翼と残像を以てフリーダムのロックオンを攪乱し高速機動で接近していく。

 

「キラっ!」

「うぉおおお!!!」

 

 

 ドクドクと早鐘を打つ心臓の鼓動が、強さと早さを増していく。

 シンは目を見開き、敵となるものを見つめ機体をフルスロットルで走らせた。

 彼我の距離は僅か。ドラグーンの牽制は狙いが逸れて全てデスティニーを掠らせる程度に留まる。

 

 上段に振り上げられるアロンダイト。重さと早さを備え、光刃の出力も十分なそれはフリーダムを容易く両断するだろう。

 

「これで!!」

 

 

 振り下ろされるアロンダイト。

 それを見つめながら、キラは己の死期を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あ、れ?」

 

 

 僅かに目を細めたキラに、衝撃はいつまでも襲ってこなかった。不審を抱いて確認すれば、アロンダイトが振り下ろされるその体勢のまま、デスティニーはまるで魂を失ったかの様に動きをとめ、フリーダムの眼前に浮かんでいた。

 

「止め、た? いや止まったのか?」

 

 何故か? それは分からないが、デスティニーはアロンダイトを振りかぶった状態で完全に動きを停止していた。

 

 

 

「シン、まさか君は──」

 

 その光景に、タケルだけは唯一この状況を理解した。

 フリーダムとジャスティスを相手に圧倒せしめる戦い。これまでの彼から想像できるレベルを明らかに超えた戦闘能力────彼はSEEDの奥へと至ってしまったのだと。

 彼を導く感情が、決意が、矜持が。己を壊しかねないその領域へと、足を踏み入れさせてしまった。

 その結果がどうなるかを知らずに。

 

 

「兄さん!!」

 

 

 飛び込んでくる声と閃光。

 フリーダムとジャスティスへ牽制する様に背部のアキシオンを放ちながら向かい来るのは、ユリスが駆る紫のデスティニー。

 タケルの状態を感応で把握し、飛んで来たのだ。

 

「兄さん! 撤退よ! オーブの連中まで来た以上、状況は完全にこっちの──」

「ユリス! シンのデスティニーを回収しろ!」

「はぁ!? なんでそんな事」

「キラ・ヤマト、アスラン・ザラ! デスティニーを回収してください! シンは今、コクピットで意識を失っています!」

 

 これまでのやり取りでオープンとなっていた通信回線からサヤの声が飛び込んできて、状況を確認したユリスは目を見開いた。

 フリーダムの目の前で完全に動きを停止したシンのデスティニー。中に居る人間が意識を失っているのなら容易に説明が付く事態である。ユリスは思わず表情を険しくさせた。

 

「ユリス、急いでくれ!」

「無茶言うんじゃないわよ……動けるならまだしも、荷物抱えて敵陣の中から連れて来るなんてできるわけ無いじゃない!」

 

 フリーダムの眼前で停止し、すぐ傍にはジャスティス、そしてシンゲツも駆けつけていく。更にその後背ではアカツキが従えるアマテラスや、動きを取り戻したアークエンジェルも待ち構える。

 正に敵陣。そんな中へと飛び込んで、ただで済むはずがない。

 ましてやこちらは、有効打となる筈のバカ兄がまるで使い物にならない状態なのだ。両腕を失ったデスティニーを見て、ユリスは乱暴にタケルの機体をミネルバへ向けて蹴りつけた。

 

「邪魔だから兄さんは早く撤退して! フリーダムは手負いか……殿は私が務めるわ!」

 

 そうこうしている内に、シンのデスティニーへと取りついたシンゲツがデスティニーの両腕部を切り落とし無力化。

 更にジャスティスのグラップルフックでウィングバインダーを拘束し機動性を封じる。

 タケルの目の前で、シンの乗るデスティニーが鹵獲されていった。

 

「くっ、シン!」

「早く消えなさい兄さん、邪魔よ! 直ぐにエターナルも来るわ……タリア・グラディス、撤退する! インパルスを呼び戻せ!」

「了解したわ。信号弾撃て! 宙域を離脱する!」

「レイ・ザ・バレル! 撤退を支援する、援護しなさい!」

「了解だ!」

 

 アキシオンを散弾砲モードで起動。追い縋って来るアストレイ特機部隊を寄せ付けぬ様追い返し、そこへレジェンドのドラグーンで弾幕を張る。

 

「シン! 隊長、シンがっ!」

「撤退だルナマリア……この状況で留まればミネルバも道連れにしてしまう」

「でも……くっ!」

 

 苦渋に塗れた決断と共に、ルナマリアはタケルと共に撤退していく。

 

 幸いにもデスティニーを回収する事に専念したのか、ジャスティスの追撃は無くアサギ達を追い払ったユリスとレイも、難なく帰還の途につけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、後にL4の分岐点と呼ばれる戦いはザフトの敗戦と言う形で幕を閉じた。

 

 

 

 ザフトは切り札となるコンクルーダーズとミネルバの敗退。これにより急進的にデスティニープランを押してきたデュランダルの権威を僅かに揺るがした。

 更に、公にはされなかったもののシン・アスカが駆るデスティニーの鹵獲と言う結果は、コンクルーダーズの存在意義をも揺るがす事態となり、プラント内ではデュランダルへの不信感が募り始める事となる。

 

 また、この敗退によって当初の予定であった宇宙における不穏分子の発見と排除も、任務半ばで終える事となり、宇宙に潜む悪意は今だ形を潜め明るみに出る事は無くなってしまった。

 

 

 刻一刻と、新たな破滅の序曲が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃないわよっ!」

 

 

 振り絞った様な怒声と共に頬を貫く衝撃。ユリスに殴られてタケルの身体は格納庫の床へと叩きつけられた。

 軍属としてであれば、FAITHでありコンクルーダーズ隊長であるタケルへの暴挙。本来ならすぐにでも止めに入らねばならない所を、彼女の鬼気迫る声と気配が周囲に居た者達を尻込みさせる。

 

「──ごめん」

「何に対しての謝罪よ! 無様を曝して戦えなかった事? システムアラートが出ていたのに撤退しなかった事? それとも────あの連中に流されかけた事か!」

 

 胸ぐらをつかまれ、罵声を浴びるがままのタケルは、ユリスの追求に目を逸らした。

 ユリスには全てが筒抜けであった。故に否定する意味はない。言われた事全てが、今回の戦闘におけるタケルの不出来だ。

 

 再び、ユリスはタケルを全力で殴りつけた。

 

「呆れてものも言えない! 覚悟も決めず戦闘に出て、甘っちょろい言葉に惑わされて、その結果がこれだ! 何をしに出撃した!!」

「ユリスさん、落ち着いてください! ここでラウラ隊長を責めても何にもなりません」

「退きなさいメイリン・ホーク! 私は責める責めないの話をしているわけでは無い! この中途半端な愚か者に、戦う気があるのかを問いかけているのよ」

「だとしても! 今の隊長にそれを問い詰めたところで、急いで出す答えではないじゃないですか!」

 

 殺気交じりのユリスの視線に怯むことなく、メイリンはタケルを庇うように割り込んで負けじと返した。

 周囲で見ている同期のヴィーノやヨウランは一触即発の空気に気が気でない。最悪が頭を過り顔を白くさせている。

 ルナマリアはいざという時の為に銃に手を掛けているし、それはレイも同様。この場でユリス・ラングベルトが愚行に走る様であれば、即応できる体制で身構えていた。

 

「──そんな男、庇ってどうするのよ。悪いけど、貴女が尽くす様な価値のある人間じゃないわよ」

「それは私が決める事です。そして、もう決めた事です。これ以上、隊長を責めても仕方ないですよ……」

「ふんっ、ホント物好きな子────感謝しなさい兄さん。私の殺気にも負けずに立ちはだかったその子に。じゃなきゃもう3発は殴ってたわ」

 

 苛立ちを隠さぬまま振り返ると、ユリスはレイとルナマリアに一度視線をやった。

 彼女は2人が動く姿勢でいたことに気付いていたのだろう。もう危険はないと示す様に一度肩を竦めて合図を出すと、殺気に染まっていた気配が形を潜ませていく。

 彼女を止められる自身が皆無だっただけに、ルナマリアとレイの2人は大きく肩を落として安堵の息を吐いた。

 それを見届けてから、ユリスは視線だけ僅かに後ろへと流し、もう一度タケルを見やった。

 

 タケルはコンテナに背中を預け、顔を俯かせたまま、物言わぬ骸の様な状態であった。

 

「──兄さん、忘れないでよね。兄さんの人生はもう兄さん1人の都合で済む話じゃないの。

 兄さんの肩にはステラ達の命も、議長さんの想いも、そこに居るメイリン・ホークの想いだって乗っている。デスティニープランの正否も、プラントの行く末も。何もかもよ。覚悟と共に踏み入れた道だと自覚しなさい。

 気持ちは分からなくはないけど、今の兄さんに道を違える事なんか、もう許されないのよ」

「────ごめん」

 

 か細く返された再びの謝罪に、ユリスは鼻息荒くしながら一瞥すると、格納庫中の視線を集めながら踵を返しその場を後にした。

 

 彼女が格納庫を去ると同時に、漸く張り詰めた空気が霧散し格納庫内に安堵のため息が広がっていく。

 ヴィーノなんかは恐怖と緊張に張り詰め過ぎて、僅かに涙を浮かべる始末だ。

 

 

 

 そんな、俄かに騒がしくなっていく格納庫で、メイリンもまた一息吐いてからタケルを見やった。

 

「────タケルさん、大丈夫ですか? 立てます?」

「う、ん……大丈夫だから。ありがとう、メイリン」

 

 声を潜めて肩に手を置けば、一応ははっきりと返してくれる声に、メイリンは一先ず安堵した。

 あのユリス・ラングベルトが何ら遠慮なく全力をぶつけたのだ。最悪は脳震盪を起こして意識を飛ばしていても不思議ではない。

 安心しながら、宇宙空間故に重くないタケルの身体を引っ張り上げると、タケルの腕を肩へと回しメイリンは彼を格納庫から連れ出していく。

 一先ずは医務室だ。先の一撃でタケルの口元には血が滲んでいるし、戦闘の疲労も相当だろう。

 

 

 格納庫を去り際に、様子見していた姉と視線がかち合う。するとルナマリアが声に出さず“がんばりなさい”と口を動かしているのが見えて、ほんの少しだけ心拍を跳ねさせたのは秘密だ。

 ボロボロな状態の彼の力に、少しでもなりたい……決して下心が働いたわけでは無かったのだが、姉にそんな仕草をされれば途端に意識してしまうもので。

 平静を装いながらその実緊張に塗れて、メイリンは彼を医務室へと運んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────うっ、あ、んあ?」

 

 

 目覚めは酷い倦怠感と共に。次いで来る頭痛に顔を顰めながら、シン・アスカは意識を覚醒させた。

 寝起きには響くツンとする薬品の匂い。そこが医務室的な場所だと空気が教えてくれる。

 

 瞼を空け、視界を取り戻してみればそこには白い天井。

 ただし、見知らぬ白い天井であった。

 

「あ、れ……俺」

「──目覚めましたか、シン」

 

 静寂の中、凛々しくも険しい張り詰めた声。

 急な声にまた響く頭痛を我慢しながら視線を向ければ、やはりそこには聞き覚えのある声の持ち主が居た。

 

「──ヤ、ヨイ」

「今はサヤ・アマノです。お間違いなきよう」

 

 シンが眠るベッド脇に置かれた椅子に腰かけた少女は、シンの目覚めを確認して立ち上がると、医務室の通信端末を操作しどこかへ通信を繋いだ。

 

「ヤヨイ、ここは……」

 

 聞かなくとも何となく想像はつくが、現状は確認せねばならない。

 通信端末を操作している小さな背中に疑問を投げれば、宇宙空間でたおやかに揺れる黒髪を流し、少女は振り返った。

 

 

「ここはアークエンジェルです────貴方は戦闘中にコクピットで意識を失い、私達に捕縛されました」

 

 

 遺伝子が約束した運命は、再び道を交錯させるのであった。

 

 

 

 

 




覚醒(忠犬)シン·アスカ。seed界の可能性の獣
このあとはサヤ(ヤヨイ)と再会してルナマリアとの事もあって男の子的修羅場を経験する……かもしれない。
主人公はまぁ、、、うん。これから

最終決戦が目の前ですが、書きたいことは多くある。
今年中は完結無理そうですね。すいません。

応援兼ねて、感想のほど宜しくお願いします。
作者頑張れますので。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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