機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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結論。



幕間 それは届いた言葉と共に

 

 

 静寂の中で、艦内通路を進んでいく。

 格納庫の喧騒が遠ざかっていけば、人の全く居ない艦内通路は耳が痛くなる程の静寂に包まれていた。

 

「──もぅ、本当にユリスさんってば乱暴なんですから。あんなに力一杯殴るなんて」

 

 少し軽い空気を装いながら、メイリンはユリスに憤慨して見せた。

 どうにも居た堪れない様な空気を払拭しようとする気持ちもあったし、実際にユリスに対して憤慨していたのも事実だ。

 彼女の怒りも分かるが、それでもあれ程までに強く殴りつける事に意味があるとは思えなかった。

 

「タケルさん……痛みませんか?」

「ううん、大丈夫。存外手加減してくれたみたい……」

「アレでですか?」

「本気だったらこんなものじゃすまないよ」

「どんな馬鹿力ですか一体!?」

 

 軽口に応えてはくれたものの、依然として声音は弱弱しく気配は頼りない。

 風に吹かれる蠟燭の火の様な、見ていて不安に駆られる雰囲気であった。

 

「着きましたよ、医務室です。一先ず口元の治療をしましょう。切っちゃってるみたいですし」

 

 努めて平静の声を意識しながら辿り着いた医務室はもぬけの殻であった。どうやら医務官は留守の様で、メイリンは一先ず安堵した。

 部下に殴られて怪我をしたので治療に来た、等と外聞的には非常によろしくない。無論、格納庫で目撃者が多い事から話は広まるだろうが、今ここで医務官に鉢合わせして根掘り葉掘りと訊かれるのはタケルにとって大きな負担だろう。

 

「ベッドに掛けてて下さい。今、処置しますから」

「──うん」

 

 今だ放心状態のタケルをベッドに座らせると、メイリンは急ぎ医務室を物色し必要なものを用意していく。

 準備を済ませて戻っても、まるで微動だにしていないタケルに、メイリンは胸が締め付けられる想いであった。

 

「──ごめんなさい」

 

 ふと溢したメイリンの謝罪に、タケルは声を発することなく顔を見上げた。

 そこに映る後悔の顔に、疑問符を浮かべる。

 

「なんで……メイリンが謝るの?」

「私────細工してたんです」

「細工?」

「デスティニーのコクピットの、アラートシステムです…………最初は本当に、タケルさんが無理しない様にと思って仕込みました。連動させてミネルバの艦橋からモニタリングできれば、艦長が撤退を指示できると」

 

 ここまで聞いて、タケルは合点がいった。

 戦闘中目に見えていた筈のアラートと撤退の文字。しかし、通信にタリアが割り込んでくる気配はなかった。

 思い返せば分かる。メイリンが仕込んだはずのアラートシステムは機能していなかったのだ。

 

「メイリン、どういうこと?」

「艦橋へのモニタリングを切ったんです。戦闘中の通信を、傍受してて。

 あの人達には、タケルさんを墜とすつもりは無かった。タケルさんを止めて、連れ帰る為に戦っていた。だから、撤退なんかさせないで、タケルさんはこのまま向こうに捕まった方が良いんじゃないかって……そう思って」

 

 サヤ、ナタル、カガリ……次々とタケルの心を揺り動かす大切な人達。

 通信を傍受していたメイリンは、タケルの限界を悟っていた。脅迫観念に因る精神的負担でタケルに戦う余力は残っていなかった。

 オーブ崩壊からここまで、憎悪と後悔で保っていたタケルの心は遂に疲弊しきり、本来なら戦闘に出る事すら憚られる状態になっていた。

 

 そもそも戦闘開始時点から、メイリンが仕込んだアラートは()()()()()()であったのだ。これ以上ザフト(こちら側)に居れば…………彼等と戦い続ければ、タケルはきっと完全に壊れてしまう。

 メイリンはそんな気がしてならなかった。

 

 だが、その結果タケルは本来であれば撤退する機を逃し、追い詰められたタケルを救う為ミネルバはシンを差し出す形となってしまった。

 結果論ではある。が、この結果を齎した要因の1つには、自身の軽率な判断があったのだと、メイリンは後悔していた。

 

「────僕の方こそ、ごめん」

「えっ?」

 

 返される謝罪の言葉に、今度はメイリンが疑問符を浮かべた。

 

「なんで……」

「君が僕の安全を想って付けてくれたアラートを……僕は無視して戦い続けた。見えていたのに、気づいていたのに、キラ達を前に退く事ができなくて────僕は、君の気持ちを踏みにじったんだ」

 

 自分はまだ戦えると。アラートなど関係無いと。無様を晒しながら、タケルはみっともなく戦い続けた。

 そうして限界を迎え、最後にはシンに助けられて這う這うの体で撤退。

 それこそ、メイリンに合わせる顔など無かった。

 

「君のせいじゃないよ、メイリン……全部僕の失態だ。君が背負う事なんて何も──」

 

 小さな衝撃と共に、タケルの声は途切れた。

 気付けばタケルの頭は柔らかな感触に包まれていて、優しい温かさが布越しに伝わってくるのを感じていた。

 

「やめてください、もう」

「メイ……リン?」

「自分のせいとか、自分が悪いとか……タケルさんはもうずっと、いつも、そんな事ばかり」

「本当の事だ。僕はできる事をしなかった、できなかったんだ。僕の──」

「違います。タケルさんはそんな、なんでもできる程、強くないんです」

 

 はっきりと。きっぱりと。そして頭を抱える腕に力を込めて。メイリンは告げた。

 

 いつも折れそうで、いつも必死で、いつも余裕が無くて。

 いつも何もできない……それがタケル・アマノだと。

 願いがいつも届かなくて。届かないけど諦められなくて。だから自分が許せなくて。

 いつもずっと、嘆いてばかり。

 

 でも、だからこそ。メイリン・ホークはそんな彼が好きなのだ。

 彼が願いを叶えるまでの、支えとなりたいのである。

 

「良いじゃないですか、しなくても、できなくても。それが普通ですよ。

 タケルさんが戦ってたフリーダムとジャスティスだって、こんな状態のタケルさんを相手に2対1で挑んでるのに、結局連れ帰れなかったじゃないですか。伝説の2機だってそんなもの。大したことないんです」

「それは2人が僕を鹵獲しようと手加減してたからで──」

「だから! 思い通りになんてできない事が普通なんです。タケルさんは思い上がり過ぎですよもう……できるできるって、自分をどれだけ高く見積もっているんですか」

「そう言われると、随分と自信過剰に聞こえるけど……僕は実際に」

「できないんです。タケルさん1人で何でもできる程、現実は簡単じゃありません!」

「メイリン……」

 

 まるで叩きのめす様に。叩きつける様に現実を突きつけてくるメイリンに、今度は違う意味で涙が浮かんできそうなタケルである。

 しかし、今一度メイリンの腕に力がこもり、タケルは言い返そうとした口を閉ざした。

 

「だから、やめましょう。がんばるのも、できないことをしようとするのも」

「無理だよ。僕に諦める選択肢は──」

「諦めなくて良いんです。でも、ちゃんと落ち着いて。自分を見つめて。1つ1つできる事だけ、やっていきましょう。じゃないとタケルさん……本当に壊れちゃいます」

 

 慈愛の声が、タケルの耳を揺らす。

 それで良いのだと。それが許されて良いのだと。渇いた砂に雨粒が染み入る様に。頑なであったタケルの心へと少女の言葉が染み入っていく。

 

「ユリスさんが言ったように、タケルさんが背負っているものは大きいのかもしれません。重たいのかもしれません。

 でも、タケルさん1人で成すべきことはそんなに大きくも、重くも無くて良いんです。だってタケルさんは、そんなに凄くないんですから。できない人にそんなに期待しても、仕方ないじゃないですか」

 

 凄くない。心の奥へと踏み込まれ投げかけられた言葉を、タケルはどこか素直な気持ちで受け取れた。

 

 守りたくて、守れなくて、己に課してきた戦い。国と大切な人を守る為という大きな目標だからといって、その為に自身が全てを担う必要はないのだと。

 背負い込み続けて来たタケルのこれまでを、メイリンの慈愛が打ち砕いていく。

 

「まずは、少し休みましょう。そんな状態じゃ、何もできないですから。一度落ち着いて、それからまたできる事をやっていけば良いんです」

「メイ……リン……どうして……」

 

 身体を丸め、メイリンは徐にタケルの耳元へと顔を寄せた。

 心根からの言葉を投げかけていても、大胆な自分の行動にメイリンの顔は随分と血色豊かとなっていた。

 

 

「私は、頑張る貴方の笑顔が大好きだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あぁ、ごめんね……ナタル)」

 

 

 自然と瞳から溢れていく涙と共に、タケルは胸中で最愛の人を思い浮かべた。

 

 

「(今だけ……この一度だけ……僕を想ってくれる彼女の優しさに)」

 

 

 華奢な身体へと腕を回し、壊れ物を扱う様に抱きしめる。

 

 

「(救われる事を……許してください……)」

 

 

 

 少女の優しさに洗われて、タケルは心底から全てを曝して涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仏頂面が部屋を支配する。

 

 片方は頭痛を抱えながらも敵を睨むように目を細めて、黒曜の少女を睨みつけるシン・アスカ。

 対する少女はシンの視線などどこ吹く風で、この居心地の悪い医務室の空気に顔を顰めるサヤ・アマノである。

 

「──はぁ」

 

 漏らされた溜め息にシンはビクリと肩を震わせる。

 散々睨め付けておきながらこの少年。心の奥では目の前の少女にそれなりの好意的な感情を芽生えさせている。嫌われたくない、と言うのが本音だ。

 あからさまなため息に、嫌な予感を禁じ得なかった。

 

「そんな顔をしないで下さい、シン」

「別に、そんな顔って言われる様な変な顔してないだろ」

「納得いかないって顔しかしてないですよ。貴方は本当に、良く顔に出ます」

「悪かったな! 隠し事ができなくて」

 

 ふんっ、と鼻息荒くそっぽを向いた所で、シンは思い出し頭を振った。

 そうではない。こうでは無いのだ。こんな言い合いをしたかったわけでは無い。

 

「────その、ヤヨイ」

「はい? なんですか」

「あの時は、ごめん」

「あの時?」

 

 何の脈絡もない謝罪に惑うサヤは、首を傾げた。

 はてさて、何か謝られる様な謂れがあっただろうかと記憶を辿るも、サヤの脳裏に該当する事は浮かんでこず、怪訝な表情を答えとしてシンへと返す。

 

「っ!? だから、お前を撃ち落とした事だよ!」

「撃ち落とした? あっ、あぁ……脱走した時の事ですか?」

「そうだよ! 俺あの時、本当はお前を止める事も出来たのに……頭の中滅茶苦茶になって、わけわかんなくなっちゃって」

「何を言うかと思えば……あれは脱走した私が100%悪い話でしょう。貴方は任務を遂行しただけ。シンが負い目を感じる様な事、何一つありません。むしろ、そうして未熟だった貴方のお陰で、私はどうにかアークエンジェルに拾われオーブに帰れたのですから。

 感謝こそすれ、恨むことなどありませんよ」

「なっ、なんだよそれ」

「貴方に捕まってザフトに連れ戻されていたほうが余程面倒でしたから。なので、謝罪は結構です。シン」

「ぐっ、ぬぬ……」

 

 どうにか絞り出した謝罪をあしらわれ、あまつさえどこか馬鹿にされシンは歯ぎしりした。

 しかし、またも言い合いをしたいわけでは無いと……今一度頭を振って気持ちを切り替える。

 

「とにかく良かった。こうして生きてまたお前と会えて、本当に嬉しい」

 

 言葉に表すのならガツン、であろうか。或いはドカン、かもしれない。何がと言えばサヤ・アマノが受けた衝撃の事である。無論、物理的な意味ではない。

 あの狂犬の名を欲しいままにした、絶対に素直になれなかったはずのシン・アスカが。なんともまぁ素直に嬉しさを表に出して、歯の浮くようなセリフを投げ込んで来た。

 そしてサヤ・アマノはともかくとして、サヤの胸の内に残るヤヨイ・キサラギにはこれがクリティカルヒット。サヤの意識とは関係のない所でサヤの鼓動が不覚にも跳ねてしまう。

 意図せず顔に集まって来る熱を悟られまいとシンから顔をそむけたサヤは、脳内で兄を思い描き抵抗すると言う意味の分からない行動にでるも無事自爆。

 顔の熱は引くどころか更なる熱を呼び寄せてサヤの心臓を逸らせた。

 

「──ヤヨイ?」

「な、なんでもありません!」

 

 未だ純粋無垢な少年に、少なからず好意を抱く相手にそっぽを向かれたと言う悲しい現実を突きつけながら、サヤは必死に呼吸を整え暴れる鼓動を抑えつけた。

 

「サヤ、入るよ」

 

 待ち人来る。

 医務室の通信端末で呼びつけたキラとアスラン。それからカガリの到着である。

 居住まいを正し、彼等を迎え入れようとするが、サヤが動くよりも早くドアが開かれアスランを先頭に3人が入って来た。

 

「なんだか少し騒がしかったが────どうやら、邪魔してしまったか」

「殺しますよヘタレッド」

 

 何かを察した朴念仁代表の一言に、サヤは一挙に顔の熱を引かせて殺気を放つ。

 ついでに隣のカガリからも向けられている辺り、先程の発言は彼女の怒りも買っているようだ。この朴念仁は本当に朴念仁なのだろう。

 

「はぁ……サヤ、俺はもうザフトレッドじゃないんだが?」

「ヘタレであることは否定しないんですね?」

「どうせ否定したところで君は聞いてはくれないだろう?」

「では聞きますが、いつそこの古妹に手を出すのですか? 私の情報では未だ手をだせず、更には機嫌を損ねた古妹を宥める為にモルゲンレーテの彼女達へデザート1週間を対価に仲裁してもらったと聞き及んでいますが」

 

 ぶっ、とサヤの発言で噴き出すのはシン。ついでに渦中の人物であるカガリも併せて噴き出した。

 ザフトのアカデミーでも散々語られて来た英雄アスラン・ザラの、情けない恋愛事情が不意にここで詳らかにされたのだ。

 何というかとんでもないイメージダウンが脳内で巻き起こり、シンのアスランを見る目が変わっていく。

 

「へぇ……あんたってそんなヘタレだったんだ」

「うるさい……お前にまでそんな風に呼ばれる筋合いは無いぞ、シン・アスカ」

「あ、あはは……アサギさん達、ちゃっかりしてるなぁ」

「後でシモンズに報告しておくか。アイツ等、兄様が居なくて随分と気が抜けてるからな」

 

 苦しそうに表情を歪めるアスランを一先ず後ろへと追いやり、仕切り直しと言う様に前に出たカガリは咳ばらいを1つ。

 空気の変化を感じ取って、シンも表情を真剣なものへと変えると、カガリを見上げた。

 

「久しぶりだな、シン・アスカ。体調はどうだ? 恐らく頭痛はまだ残ってるだろう」

「ご心配どうも。あんた等が来たお陰で気にならない位にはなりましたよ」

「そっか、とりあえず良かったよ。コクピットを空けた時は真っ青な顔してたから……サヤなんかタケルの時みたいに慌てて必死で呼びか──」

「キ、キラ・ヤマトっ! 余計な情報は無用です!」

「あっ、ごめん」

「──? とりあえず、助けてくれた事は感謝するけど、良いのかよ? 俺はミネルバに居たんだ。あんた等にとっては敵だろ。こんななんの拘束も無しで放っておいて」

 

 そう、今のシンはまるっきり何の拘束もなし。

 とても捕縛した敵兵への扱いではない。余りにも不用心過ぎる対応である。警戒心の欠片も無い。

 

「何をたわけた事を。シンが白兵戦で一度でも私に勝った事がありますか? それに、ここにはアスラン・ザラも居ます。白兵戦では無類の成績を収めた彼の実力を、私達は良く知っているでしょう。拘束が無いからとて貴方が何を起こせると言うのです」

「って言うのは建前で、仲間であった自分を相手に暴れて事を起こす様な無法者では無いから心配は要らないって、君の事をサヤは信──」

「キラ・ヤマト! サヤもそろそろ堪忍袋の緒が切れますよ!」

「あっ、ごめん。これも言っちゃまずかったね」

「あんた……わざとやってません?」

 

 焼き増しのやり取りを2度見せて、年下の少女に殺気交じりで叱られる優男。

 シンは彼、キラ・ヤマトと呼ばれる人物を改めて見つめた。

 

「あぁ、こうして顔を合わせるのは初めてでしたね、シン。彼がフリーダムのパイロットです」

「キラ・ヤマト……あんただったんだ」

「うん、僕も驚いてるよ。シン・アスカ」

 

 思い返せばそれなりに時を遡る。

 ユニウスセブンの破砕後ミネルバがオーブに立ち寄った折、夕暮れ時の慰霊碑の前で出会った青年。

 シンに取ってはある種、天啓を得たような言葉を聞いた日であった。

 

「むっ、キラはシンとどこかで会っていたのか?」

「うん、以前に一度。オーブの慰霊碑の前でね。後ろ姿がどこか、タケルに似ているなって、思わず声を掛けちゃって」

「とんだ節穴ですね、キラ・ヤマト。シンとお兄様の後ろ姿が似ている? そんな事有り得ません」

「そうかなぁ。背格好も似て居るし、何よりシンとタケルは似た者どう──」

「わぁあ、ちょっと!」

 

 あの日のやり取り。俺を思い出して気恥ずかしくなったシンは、余計な事を語りだそうとするキラを慌てて止めた。

 

「あっ、ごめん。これもダメだったかな」

「あんた、やっぱりわざとやってるだろ!」

「もぅちょっと黙れって。話が進まないだろう!」

 

 緩み始めた空気を引き締める様に、キラへと手刀を落としサヤには睨みを利かせてカガリは再び咳ばらいを1つ。

 今度こそ本題だとシンへと視線をむけた。

 

 

「単刀直入に聞くぞシン・アスカ────私達と共に戦うつもりは無いか?」

 

 

 投げられた問いに、シンは再び首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバの休憩エリアにて。

 

 ルナマリア・ホークは缶飲料を片手に物憂げな表情を見せていた。

 

 

「────シン」

 

 

 胸中に沸いて来るのは不安。戦場に置いてきてしまった、今となっては好意を抱く少年の事。

 仕方ない事は理解して居た。あの状況では撤退する事しかできなかったし、彼の為にミネルバを犠牲にするわけにもいかない。

 だが、シンゲツによって両腕を断たれ、翼を拘束され運ばれていくデスティニーの姿が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

「サヤ……あんたが居るんだから大丈夫よね?」

 

 あの仲間を第一に考えてくれる彼女が一緒なのだ。決して悪い扱いなどしないだろう。

 その確信はあれど、やはり不安は尽きず、ルナマリアの表情は陰る。

 

 

「心配するなら安否の方じゃないわよ……ルナマリア・ホーク」

「いっ!?」

 

 

 ぞわっと身震いしながら、ルナマリアは飛び跳ねる様にしてベンチから立ち上がり背後を振り返った。

 何の音も気配もなく、突然耳元から声が聞こえ寿命が10年縮んだ気分である。

 そこに居たのはユリス・ラングベルト。ルナマリア同様に缶飲料を片手に、嫌な笑みを浮かべていた。

 

「あっはは! 何よその反応。そんなに驚く事?」

「いっ、いきなり気配もなく耳元で囁かれたら誰だってびっくりするわよ! ホラー映画か!」

「悪いわね、気配殺すのは癖になってるのよ。これからは正面から話しかけるわ」

「あぁ、もう最悪! 服にも溢しちゃったし……替えの軍服ないんだけど」

「それは驚きすぎなあんたのせいよ。軍人たるものどんなときでも冷静で在れってね」

「はぁ? 驚かせにきてるんだから冷静も何もないじゃない!」

「驚かせるつもりは無かったって言ってるでしょ。っていうか、別に服の替え位いくらでもあるでしょ? 何で軍艦で服を気にする必要があるのよ」

「私のは……その、特別だし」

 

 どこか言い辛そうにするルナマリア。あぁ、そういうことかとユリスは納得した。

 通常の赤服ならいくらでも替えがきくだろう。が、彼女のは自身で魔改造した特別性だ。

 何も間違ってしまったのかはわからないが、丈を短くした上着にミニスカートという、本来の赤服からは大きく逸脱したものだ。

 恐らく自身で仕上げて数は少ないのだろう。

 

「それは残念ね。大人しく普通のを着たら?」

「あんたねぇ……元凶が言うに事欠いて──」

「そんな事より、さっきの話」

 

 待ったと言う様に手を翻してユリスはルナマリアを抑えた。

 

「さっきの話? あぁ、安否じゃないって……一体どういう意味よ。シンが無事っていう保証でもあるわけ?」

「連中の事は知ってるわ。軍組織とは無縁なレベルの甘ちゃん揃い。あの生意気な似非妹も居るし、貴女の彼氏君なんて案ずる必要無いくらいどうせ無事よ。拘束すらされてないんじゃないかしら?」

「いくら何でもそんなわけ、って誰が彼氏よ!」

「あら違うの? まぁ良いけど……元々あっちには兄さんが居たのよ。それだけでどんな連中が大半を占めてるかなんて分かるでしょ」

「それはまぁ、確かに……」

 

 そもそもが代表のカガリですら随分と甘い御人だ。お人好しが勢ぞろいと言った所だろう。

 確かにそんな連中に捕まったところで、酷い目に遭わされないのは自明の理である。

 

「むしろ問題は逆よ。連中、人を誑し込むのだけは一級品だからね。私も何度か危うかったし……」

「誑し込む? なに、どういう意味」

「シン・アスカは向こうについて、私達の敵となるかもしれないって事────まっ、それはそれで私としては構わないんだけど」

「えっ? はっ、ちょっと待ちなさいよ、それってつまり、シンが裏切るって事? そんなわけ──」

「あるわよ。あのワンコ、兄さんに大分影響受けてるし……兄さんを守るとか助けるとか言われたらきっとコロッと行くわ」

「そんなアホな……いくらシンが単純とは言えそんなレベルで寝返るなんて……」

 

 言って、ルナマリアは思い返す。

 そう言えばあの少年。最初こそ反発だらけだったがいつの間にか隊長隊長と随分懐いていた。

 ダーダネルスで彼が戦死扱いとされる直前には、彼相手であれば随分と素直になる場面も多く、丸くなったというのは整備班からも良く聞いた声である。

 ついでに言えば、彼の妹に対しても同様だ。

 同期のよしみもあるだろうが、文武共にシンの上を行った小柄な少女には、どうにも頭が上がらない。常に正論で叩きのめされて打ちひしがれながらも、彼女に従うきらいがあった。

 想像して、ルナマリアは口元を引き攣らせながらも何となく納得してしまった。

 

「あぁうん。なんかありそうだわ……あの兄妹、ホント質悪いわね」

「まぁ、兄さんは今こっちにいるけどね────あぁ、そうだ。ついでに喜びなさい。貴女の妹、兄さんの事完全に堕としたわよ」

「はぁ!? えっちょっとそれどういう意味!」

「私には兄さんの状態が分かるから……ふぅん何て言うか、あの子のお陰で随分と安らかに寝られてるみたい」

「ね、寝てるぅ!? こんな話してる場合じゃないじゃない! すぐ──ふげ!?」

 

 慌てて部屋へと向かおうとするルナマリア。そもそも今2人は医務室に居るので会えるわけは無いのだが、そんなルナマリアの襟元を掴んで容赦なくユリスは引き摺り戻した。

 

「な、なにすんのよ! 私の大事な妹がキズモノにされ──」

「何バカな勘違いしてんのアホ毛姉。あんたが想像しているような事は欠片も無いからね。兄さんは今余計な事を全て忘れて漸くちゃんと眠れてるの────邪魔したら殺すわよ」

「ひゃ、ひゃい……」

 

 格納庫でタケルを殴った時より余程冷たい殺気を当てられ、ルナマリアは冷や汗と共に静かに頷いた。

 それに安心したのかユリスはルナマリアを解放し、伸びをしながらグイグイと手に持つ飲料を飲み干していく────なんとも清々しい、良い飲みっぷりだ。

 

 

 どうやらルナマリア・ホークの心配事は色々と無くなった様で、しかしまた色々と増えてしまったようである。

 

 

 




メイリン。ありがとうメイリン。これで主人公も少し持ち直せる。
サヤ、ごめんね。もう少し運命とイチャついてて。アホ毛姉とも遊んで良いから。
キラ、逞しくなったね。作者は嬉しいよ。でもそろそろカガリがキレるよ。
アスラン。ユウナが大活躍してしまったばかりにヘタレにしてしまいすまない。多分戦後までカガリも気持ち引き摺ると思うから完結まで待ってて。
カガリ、苦労させてごめん。ツッコミ不足なんだ。


これにてL4の戦い編終了。長かったです。
もうseedで言うところの同じくメンデル編終了な感じ。運命編、いよいよクライマックス目の前です。

どうぞ、何卒、是非とも感想いただければと思います。(反響が無いと、本当に悲しいのです
お願いいたします。

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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