機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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下ネタぶっ込み注意。


PHASE-109 月へ

 

 

『────以上が、本作戦の顛末と報告となります』

 

 

 

 通信から届く音声を聞きながら、ギルバート・デュランダルは閉じていた双眸を開いてモニターを見やった。

 

「そうか、彼は討てなかったか」

『初めから無理だとわかっていたのでは? 少なくとも、私にはそう思えましたが』

「無理は承知であった……と、言ってしまえば君は怒るのだろうね、タリア」

 

 ピクリと、モニタ越しでもタリアが表情を変えたのが見て取れる。

 タリアからすれば、当然だと怒鳴り付けたい所であった。

 

 L4宙域での戦闘。任務目標は宇宙に潜伏する不穏分子の排除────クライン派の一派を討つ事であった。

 本来あちらに居た、タケル・アマノには土台無理な事は分かり切っていた。彼は、彼等を守る為に戦ってきたのだから。

 寄越すなら彼では無く、同じコンクルーダーズの他の面々にしていれば、この結果にはならなかっただろう。

 

「いや、無理だよ……他の者達ではね」

 

 タリアの考えが表情に出ていたのか。目ざとく読み取ったデュランダルは先んじる様に否定した。

 

『どういうことですしょうか、議長?』

「ユリス・ラングベルトを使いこなせるのが彼しかいない以上、この任務の適役は彼だけだった。ただ、最もこの任務に不適格だったのが彼だった。それだけの事だ。他の者達ではどうにもならん」

『議長直々に編成したコンクルーダーズを以てして、随分弱気な発言ですわね』

「彼等は根本から違うのだよ。タケル・アマノ、ユリス・ラングベルト。それにキラ・ヤマトにアスラン・ザラ……彼等は運命づけられた因子を持つ者達だからね」

『──私には、貴方の言う事が分かり兼ねますわ』

 

 相変わらず、本質を具体的に明かさない面倒な物言いに、タリアは少し呆れ気味に返した。

 

「そうふてないでくれタリア。一先ず、報告は受けた。ありがとう。ミネルバは暫く休息に入ってくれ。直に追って沙汰をだす」

『分かりました。コンクルーダーズの三人はミネルバを下船との事ですが……』

「あぁ、こちらも色々と準備が整ったからね。コンクルーダーズも本格的な運用と言う事になる。先んじて、彼女はアーモリーワンに置いてきたのだろう?」

『貴方からの指示と、伺っていますが?』

「あぁ、彼女はこの間プラントを守ってくれたからね、そのお礼という訳だ。君達にも休んでもらうし、彼女にとっての休暇代わりだよ」

『そうですか。やはり、私には分かり兼ねますが……それでは、失礼します』

「あぁ……任務、ご苦労だったね」

 

 ピッ、と音を立ててモニターからの映像が途絶え、部屋を静寂が過る。

 少しだけ疲れた様なため息を吐くと、デュランダルは立ち上がり、応接用のテーブルに広げられたチェス盤の盤上を見た。

 

「ポーンはひっくり返ったか……予想していた最悪の形で終わったのは痛手だが……」

 

 進撃していたポーンの駒を敵陣へと転ばせる。続いて手に取るは盤面の中央に座すクイーンの駒。

 それを、デュランダルは己の陣営へと引き込んだ。

 

「彼は討てなかった。だが、逃げなかった────ラウ、君はこれをどう見る?」

 

 眼前に見る亡き友の幻影は、僅かに笑みを浮かべていた。

 

 “種は撒かれているさ────2年前にな”

 

「随分と、時間が必要だったみたいだね」

 

 “お前の計画と同じさ”

 

「ふっ、手厳しい」

 

 “世界とは、そう言うものだ”

 

 

 カタンと、クイーンを自陣のキングの隣に置くと、友の幻は消えていく。

 どこか感慨を得ながら、デュランダルはまた1つため息を吐いた。

 

 

「私が扱うには勿体ない采配だな」

 

 

 カタカタと音を鳴らし、盤上から駒が落ちていく。

 デュランダルはチェス盤をひっくり返し、全ての駒をしまった。

 

 

「友よ────世界は既に、私の手から離れているさ」

 

 

 チェス盤と共に物言わぬ幻影を片隅へと追いやり、デュランダルは執務室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L4での戦いを終え。

 一先ずの安寧を得たクライン派と、合流した地球圏統一同盟軍総指揮官カガリ・ユラ・アスハは戦力はターミナルにて顔合わせを行い、その後月面のコペルニクスへと向かっていた。

 

 現在地球圏では、同盟締結と共に発足した統一同盟軍が結成されており、戦力が集結しつつある。

 デスティニープラン採択を掛けた来たるべき決戦に向けて、準備を進めるためには宇宙での拠点が必要であった。

 そこで目を付けたのが月面に残されたダイダロス基地である。アルザッヘル基地は完全に灰燼と帰したが、ダイダロスはまだ設備のほとんどが機能しないだけで基地の原型は留めて居る。

 宇宙に挙げて来た同盟軍を一時的に終結させるに丁度良い場所であった。

 それに伴い、月面都市コペルニクスを経由して必要物資の確保を取り計らうのが、宇宙に上がったカガリの第一の目的であった。

 

 押し付けられた同盟軍の盟主。しかし、その肩書がある限り、世界各国からのオーブへの支援は篤い。

 半ば国民と国を人質に取られた気分であったが、カガリはこれこそが国を背負う己の責だと奮っていた。

 

 

 

 

「──はぁ」

 

 とは言え、被せられた重責は過大の一言。

 何もしていなくても、肩は重くなった気がして来るし、何をしていても胸の奥にはズンと重石がごろごろしている様で気が滅入って来る。

 部屋に備え付けのベッドに身体を放り、ぐでーっとだらしなく力を抜いて垂れてしまった。

 

「私……何でこんなことになってるんだろうな」

 

 父の遺志を継いで、若干17歳の若さで国家の代表となった。それですら本当に荷が重くて手一杯であったと言うのに。

 アークエンジェルで初めてラクスを目にしたときは、同い年でありながら多くの肩書をもってプラントで活躍する彼女に驚き、尊敬のまなざしを向けたものであった。

 それがたった2年。僅か2年の間に訳も分からぬまま世界の中心に据え置かれてしまった。

 体の良い人身御供だと言う事は理解して居るし、それで享受できるものが大きい以上、否は無い。

 否は無い……のだが、もう少し手心を加えて欲しい所であった。

 

 一体どこの世界に、齢18で世界の行く末を担う立場に立たされる女の子がいると言うのか。全く、大人達は何をしている。

 

 そうは嘆いてみても、現実は変わらない。

 嘆いても変わらぬ現実に、また1つ大きなため息を吐いた。

 

「これで良かったんだよな……ユウナ」

 

 先日上乗せされた、大切な人の想い。軽薄な笑みをいつも貼り付けて、いつもいつもカガリに反対する立場にいたはずなのに。

 彼の言葉もまた、常にオーブを守ろうとするが故のものであった。

 余計な感情で彼の言葉の芯を読み取れていなかった事を、カガリはただ恥じるばかりである。

 

「やっぱり、お前が居ないと張り合いがないな。お前はいつも、私に大変な事ばかり押し付けて来たから……」

 

 彼が生きていたのなら、こうして腑抜けた姿を見せることはできなかっただろう。

 一国の代表どころか世界の代表になった今、もっと相応しい佇まいをしろとか、口煩く言ってくるに違いない。

 少なくとも、こんなベッドでだらしなく垂れている姿を見られた時には、しばらく生活を監視されながら小言を言われる事だろう。

 

 おぞましい……思い浮かべた仕事環境に、カガリは身を震わせた。

 

「悪い、やっぱりお前が居ない方が気が楽だよ、ユウナ」

 

 あの世で悲痛な叫びを挙げるユウナを幻視しながら、カガリは苦笑いを溢してそっと目を閉じた。

 

 コペルニクスまではまだしばらくある。少しくらい休んでも罰は当たらないだろう。

 

 

 

 僅かな時を置いてすぐ。

 亡国の不屈姫は、静かな寝息を立て始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル艦内。

 

 宛がわれた部屋で、ナタルは己の荷物をまとめていた。

 

「──タケル」

 

 口をついて出て来るは大切な人の名前。

 呟き、その名の音を聞く度、ナタルの胸を締め付ける。

 脳裏には先日聞いた悲痛な感情の叫びが、呪いの様にこびりついている。

 

「君はもう、止まれないの所に居るのだな」

 

 何もかもを背負ってしまって。何もかもが捨てられなくて。そうしていつも雁字搦めだから。

 

 

「────行くのね、ナタル」

 

 

 不意に飛び込んでくる声に、ナタルは振り返った。

 そこに居たのはマリュー・ラミアスと……先日記憶を取り戻したムウ・ラ・フラガの2人。

 

「マリュー。それにフラガ……少佐も」

「あ~、呼びやすい様に呼んでくれていいぜ副長」

「で、ではフラガ少佐────おかえりなさい。無事の帰還を嬉しく思います」

「ありがとう……と、言いたい所だが、無事って言って良いんかね、俺」

「私は嬉しいけれど……確かに無事では無いでしょうね」

 

 言った瞬間、ムウにもマリューにも表情に暗い影が宿った。

 思い出されるは先の戦闘。

 記憶を取り戻したその瞬間、タケルよりムウに突きつけられた現実が、彼等の心を重くしていた。

 

「正直きつかった。起き抜けにハンマーで頭をぶっ叩かれた気分だったよ」

「貴方のせいで戦争が起きた。大勢の人が死んだ……ですものね」

「ネオ・ロアノークのせいで、と言う事ですか」

「そんな風に誤魔化せねえだろ。アマノの嬢ちゃんがザフトに居た事を消せない様に……全て、俺がやってしまった事だ」

 

 全ての発端となった、アーモリーワンの襲撃。そこから続くミネルバとの長い戦い。人を人と思わぬエクステンデッドの運用。

 そして────ユーラシア西の悲劇。

 ネオ・ロアノークとしてムウが行ってきた戦い。その結果は、世界に色濃く爪痕を残している。

 

「ですが、少佐の意思では──」

「記憶はある。でもって、命令に従ってきた自覚もな。俺もアマノの嬢ちゃんと同じ、ムウ・ラ・フラガでありネオ・ロアノークなんだ。

 例えそれが創られた人格だったとしても、無かった事にはできねえよ」

「ですが、ネオ・ロアノークの所業も全ては軍組織の命令内での話です。少佐がそこまで責を負う必要はありません」

「そう背負い過ぎないでムウ。起こった事が事実であっても、全ての責が貴方に在るわけでは無いわ」

「そりゃあそうだけどよ! 俺の指示1つで何万と言う人間が死んだんだ……2年前、あの大戦で核ミサイルやジェネシスを撃った連中とそう変わらない事を、俺はしでかしちまった────ホント、どの面下げて今のタケルを非難できるんだよ」

 

 自嘲するムウの独白にタケルの名前が出て、マリューとナタルは口を閉ざしてしまった。

 掛ける言葉は見つからない。確かにネオ・ロアノークの所業が世界を変え、オーブを焼き、タケル・アマノを追い詰めた事実は間違いがない。

 それが軍務に従っただけであったとしても。ムウが後悔を覚えるには十分な結果が、目の前の現実にはあった。

 

「マリューから聞いたよ副長。戦後のあんたとタケルの関係を────本当にすまない。俺が、あいつを追い詰めちまった」

「いえ、そんな」

「それで……だから貴方は行くと言うのね、ナタル?」

 

 纏められた荷物。それを流し見て、マリューは問いかける。

 既に部屋の状態は使用する前のそれだ。立つ鳥跡を濁さずと言う様に、彼女がこの部屋を使用していた形跡がまるで見当たらない。

 艦を降りる……無論、降りる目的などわかり切っている。

 ナタル・バジル―ルはプラントへ……タケル・アマノの元へと向かうつもりなのだ。

 

「──貴方には敵いませんね。このタイミングで来たのも、先んじて聞きに来たのでしょう?」

「当然よ。貴方とは、それなりに長い付き合いをしてきて、もう上官と部下の関係でもないんだもの」

「堅物の私には過ぎた友人ですよ、貴方は」

 

 何となく、観念したような気配を見せながら、ナタルは一度表情を引き締め敬礼の姿勢をとった。

 

「マリュー・ラミアス艦長。コペルニクスに着いたら、私は下船させていただきます」

「どうするつもり?」

「当初の予定では、捕縛したザフトの少年……シン・アスカでしたか? 彼を伝手に向かうつもりでしたが、状況が変わりましたので。どうにかコペルニクスからアーモリーワンを経由してプラントへ辿り着くつもりです」

 

 頼ろうとしていた伝手は、サヤによって篭絡され……説得されてしまい、シン・アスカはこちらで戦う事になってしまった。

 タケルと共に出撃した彼と共にプラントへ渡るのが一番手軽で早かったのだが、既に計画は頓挫してしまい次なる手が求められる状況であった。

 

「プラントに着いたところで、その先で貴方に伝手はあるの?」

「無いです。が、どうにかします」

「らしくないわね。貴女にしては計画性の欠片も無い」

「気持ちが、先走ってしまってるので。居ても立ってもいられません。タケルの……あんな声を聞いてしまえば」

 

 悔恨の表情を、ナタルは浮かべていた。

 2年前。彼と再会した日にナタル・バジル―ルは誓ったのだ。もう二度と、彼があんな風にならない様……彼が笑顔で生きていける様に、ずっと傍にいると。

 今すぐにでも彼の元に行って、ボロボロの彼を抱きしめて安心させてやりたい────そう願わずにいられなかった。

 

「ホント、らしくない……やっぱり貴女、変わったわね」

「だとしたら、マリューのせいです」

「あら? 彼のお陰じゃない?」

「そっ、そういう言い方は卑怯では!? タケルのお陰と言われては……私は否定できないではないですか」

「お、おいマリュー……」

「ほらムウ! そんな顔しないの。貴方の不手際は、ナタルがどうにかしてくれるわ。頭の1つでも下げて頂戴」

「あ、あぁ……すまない副長。アイツの事を頼む」

「別に、少佐の為に向かう訳ではありません。全ては、私が私の為に動くだけです」

「ふふっ、まるでサヤちゃんみたいな言い様ね。そう言えば、2人には言ったの?」

 

 ナタルは静かに首を振った。

 2人────タケルと過ごすようになってから、ナタルにとっては妹になったカガリ。そしてサヤのことだ。

 

「私と違い、今の2人には立場があります。カガリは勿論、サヤもまたオーブ軍人の名門。何も負うものの無い私とは違います────それに私は、タケルを連れ戻しに行くわけではありませんから」

「期待されても困る、ってことね」

「──はい」

 

 ナタルがタケルの元へ行く理由は唯一つ。彼の傍で、彼を助けるだけ。

 タケルの帰還を心待ちにする2人に無為な希望を抱かせることはできないし、ともすればナタルは彼等の敵となる可能性もあった。

 

「サヤちゃんは、きっと怒るわよ」

「覚悟の上です。それでも、私だけはここで燻っているわけにはいきませんから」

「そう……それじゃこれ、渡しておくわ」

 

 唐突にマリューが渡してくる小さなメモ紙に、ナタルは呆気にとられた。

 一体何だろうと目を通せば、そこには数字の羅列……察するに通信回線の番号だ。

 

「マリュー、これは?」

「コペルニクスに着いたら、ここに連絡を取って。ラクスさんからの伝手で、プラント行きを手配してくれてるわ」

「そんなバカな……ラクス・クラインは私の動きを?」

「違うの。これは本来、タケル君達がプラントへ渡る為に用意していたものだそうよ。彼等が連れていた子達を、治療の為プラントへ渡らせるためにね。

 クライン派で用意してたんだけど……タケル君、自力で行っちゃったから」

 

 タケルとユリス、ステラ達がファクトリーにに滞在した時の事だ。ファクトリーの設備ではステラ達の治療は不可能だとわかり、プラントへ渡る準備をしていた。

 それが今この時、ナタルがプラントへ渡る為の伝手となっていた。

 

「そうだったのですか……ありがとうございます、マリュー。ラクス・クラインにもお伝えください」

「えぇ」

 

 

 丁度そこへパルからの艦内アナウンスが流れ、コペルニクスへの到着が伝えられる。

 

 

「着いたようですね。それでは」

「えぇ、旅の無事を祈ってるわ」

「気を付けてな、副長」

「ありがとうございます、御二人とも────それでは、失礼します」

 

 ナタルは再度敬礼を残して荷物を手にすると、マリューとムウを置いて歩き始めた。

 2人はそれを静かに見送るが、しかし途中で、ふと何かに気が付きナタルは歩みを止めて振り返った。

 

 

「マリュー、それに少佐も。最後に1つ良いですか?」

「ん、何?」

 

 

 何故だろうか……マリューはこの時、どこか既視感のある気配を感じ取っていた。

 振り返るナタルの双眸には、昨今で丸くなった素のナタルの空気が消え。嘗て軍門の名家バジル―ルの家の軍人として。かくもあるべきと己に言い聞かせていた時の様な険しい空気がまとわりつく。

 これはあれだ、2年前にもあった、艦長マリュー・ラミアスを叱責する副長ナタル・バジル―ルの気配である。

 

「な、ナタル?」

「私とて大人。お二人の気持ちは痛い程よくわかります。が、ここは曲がりなりにも戦艦。そしてサヤやシン・アスカの様に年頃の若い子等もいます」

「え、えぇ、その通りね」

「情操教育上よくありませんし風紀が乱れます────ちゃんと事後の気配くらいは隠してください」

 

 瞬間、何を言われたのかが理解できず呆けるも、それは僅か。

 そして何を言われたかを理解した瞬間、マリューもムウも慌てた表情で己を省みた。

 

 だらしなく着こまれた軍服。寝癖を隠し切れていない頭髪。普段なら閉じられている軍服の襟元が開かれていたせいで見えてしまっている赤い斑点。微かについている引っかき傷もまた、そこはかとなく生々しい。

 

 アウトである。紛う事なきアウトである。

 きっと2年前のナタルであったなら顔を羞恥と怒りで真っ赤にしながら激怒していた事だろう。

 

「もぅ、ムウ! だからあれ程残さないでって言ったでしょう!」

「お、お前だって、強い方が良いって言ったじゃねえか!」

「とにかく! お2人共、一先ず部屋に戻ってさっさと身だしなみを整えて下さい!」

 

「「イェス・マム!!」」

 

 ナタルの一喝をくらい、脱兎の如く駆け出してマリューとムウは自室へと消えていった。

 やれやれと言う様に肩を落として大きく息を吐いたナタルは、呆れた笑みを浮かべながらまた丸くなった素の空気へと戻り、静かにその場を後にしていく。

 

 

 

 

 臭いはまだ、ナタルの鼻腔を突いていた。

 

 

「────カガリに報告して、降格させるべきだったか?」

 

 

 尊敬するはずの上官達の、変わりのないだらしなさに、ナタルは一抹の不安を覚えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙を進むシャトルが1基────プラントアーモリーワンから月面都市コペルニクスへと向かうシャトルである。

 

 

 そしてそのシャトルに搭乗している中の1人、ミゲル・アイマンは酷く不服そうな顔で窓の外に広がる宇宙空間を見ていた。

 

「──何が面白くて宇宙なんか眺めてるのよ。それ楽しい?」

「うるせえな。俺の勝手だろうが。つーか話しかけてくんなよ」

 

 隣から気安く話しかけて来る女の、何とうざい事か。

 ミゲルは苛立たし気に舌打ちをしてから再び窓の外へと視線をやった。

 

「あら? 随分な態度ね。誰が貴方の大切な人を守ってくれてると思ってんのよ?」

「少なくともてめえじゃねえだろう。手配したのはタケルだし、実際にガードしてくれてるのはあいつらだ」

「あの子達に指示を出しているのは私よ。つまり、お兄さんの大好きな人を守ってあげてるのはこの私ってわけ。お解りかしら?」

「知らねえな。こじつけも良い所だ」

「あんたも頭硬いわねぇ。もう同じ部隊の仲間なんだし、過去の事は水に流して仲良くできないの?」

「俺はお前を仲間だとは微塵も思っていない」

 

 ふんっ、と鼻息荒く再び窓の外へと視線をやりミゲルは彼女ユリス・ラングベルトを視界から締め出した。

 

 

 さて、一体全体何がどうしてこのような状況になっているのか。

 

 地上に降りたイザーク、ディアッカ、ハイネ、ミゲルの4人は大方の作戦目標を完遂し、ジブラルタル経由で宇宙へと帰還した。

 プラントへの帰還前に、アーモリーワンへと寄港し物資の補給とある程度の機体の整備を済ませ、その後プラントへと帰還する予定であったがここでミゲルには特務として月面都市コペルニクスへの情報偵察が言い渡される。

 特務とは言ってもそれは建前で、その目的はコペルニクスに軟禁状態にあるミーアへの面会だ。

 そしてこれは、隣にいるユリスも同様。アーモリーワンへと寄港したミネルバより下船し、ユリスもまた同じシャトルでコペルニクスへと向かう様に言い渡されていた。

 勿論彼女の場合は、経過観察中のステラ達への面会である。

 

 画して、2年前より浅からぬ因縁がある二人は同じシャトルに隣り合って座る席に着き、今の事態に発展していた。

 

「くそぅ……恨むぜタケル」

「はぁ? 止めてよね、これ以上兄さんに余計な負荷かけないでくれる?」

「あぁ? 今までよっぽどアイツに負荷かけていたのはどこのどいつだよ」

「そうやっていつまでも昔の事を蒸し返す。小さいわねホント」

 

 あぁいえばこういう。ミゲルは反論を諦め押し黙った。

 勝ち誇られるのは癪だが、これ以上彼女と会話をしていてもイライラさせられるだけである。

 

「つーかてめえはこっちに来てていいのかよ? 一応曲がりなりにもタケルの副官だろうが。今回の作戦の件で、あいつは評議会に呼び出し喰らってんだろ?」

「そっちはメイリン・ホークの管轄。私は副官としてまともな働きは期待されてないから良いって。お偉いさんへの釈明は兄さんの仕事で。その兄さんを支えるのはメイリン・ホークの仕事ってだけよ」

「はっ、要するにお前はつかえねえってわけだ」

「はぁ? MS戦じゃ私に手も足も出なかったあんたが何言っちゃってるの?」

「ん? おぉおぉ、そうやっていつまでも昔の事を蒸し返す。小せえなホント」

「ぐっ、この……」

 

 見事な意趣返しである。

 傲岸不遜を貫くユリスを言い負かしたミゲルは漸く溜飲を下げて、ユリスへと勝ち誇った笑みを向けた。

 

「────はぁ、やめやめ。これ以上は不毛だわ。私にあんたと敵対する気はないし」

「意外だな。お前は噛みついてくるものばかりだと思ってたが……」

「言ったでしょ。今は同じ部隊の仲間。過去の事は水に流して仲良くできないのって。私が頭硬くしてどうすんのよ」

「それは違い無いが……お前大丈夫か? 熱でもあるんじゃ」

「あんた……わざと怒らせようとしてない?」

 

 真剣な表情で、真面目に熱でもあるのかとミゲルに心配されて、ユリスは先程よりも余程厳しい声音と視線を向けた。

 こちとらバカ兄の意向に従い真剣に歩み寄ろうとしていると言うのに、よもやこんなふざけた事をのたまうとは思っても見なかった。

 

 だが、それも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 ミゲル・アイマンにとって、ユリス・ラングベルトは十分に仇に値する人間なのだ。2年前に彼女が行った所業を、ミゲルは正に目の前で目にしたのだから。

 

「それにしても、未だに俺は信じられねえよ」

 

 どこか思い詰めた表情で、ミゲルは静かに呟いた。

 くだらない言い合いは終わり。そう告げる様な空気の変化に、ユリスも声音を変えて応じる。

 

「何がよ。こんな世界、信じられないことの方が多いわよ」

「お前達が敗退してきた事だっての。2年前に俺はお前とやり合ってその実力を身に染みて理解している。勿論、そんなお前と渡り合っていたタケルの事もな。そんなお前達が居て負けてきただと? そうは信じられるもんじゃねえ」

「何言うかと思えば…………ただ負けた、それだけでしょ。どれだけ百戦錬磨でも負ける時は負けるわ。私だって、本気で兄さんとやれば勝つか負けるかは五分五分だし」

「いや、そのお前らが揃って負けてきたって言うから驚いてんだけどよ」

「揃って? やめてちょうだい。負けてきたのは兄さんだけよ。私は勿論、ミネルバの連中も十分に戦えてたわ」

「だが結果としてお前達は撤退。シン・アスカとデスティニーが鹵獲されちまったんだろ?」

「シン・アスカは鹵獲じゃなくてあんなの自爆よ。勝手に捕まりに行っただけだわ全く。そもそも、兄さんがまともならそんな事態も起きず撤退する必要だってなかったのよ…………クソッタレ」

「おいおい、頼むからあんまり俺のダチ公を虐めてくれるなよ。お前の悪辣さはえげつないんだからよ」

「そんな急に褒めないでくれる? むず痒いわ」

「いや褒めてねえよ」

 

 なんだかんだで会話は続き、互いに険悪な空気を纏わなくなる辺りはさすがはミゲルと言うところだろうか。

 ユリスの言葉に、どうにか蟠りの感情を御し切ったのかもしれない。

 今は同じ部隊で仲間…………その現実に嘘はない。その関係にも。

 

 タケル・アマノの存在を間に挟むことで、不倶戴天の敵であった2人はか細くも確かな縁に繋がれていた。

 

 

 そうこうしているうちに、気がつけば月面都市コペルニクスは目の前であった。

 

 

「ふぅ、さて行くとするかね」

「目立つ行動は避けなさいよ」

「ヘイヘイ、わかってるよ」

 

 

 

 

 

 こうして月面都市コペルニクスを舞台に、思惑と運命は新たな交錯を始めるのであった。

 




アウトだよぉ!!
色んな意味でムウさんがぶっ込んできた(アウト
仕方ないね。戦後死に別れしてた2人が2年越しの再会だものね。いい(年した)大人だし。良い大人ではないけど

キャラプチ情報
主人公:クルーゼばりに評議会へ呼び出し。お叱りを受けに。メンタルはやや回復
ナタル:もう耐えられん、愛する人の元へ
カガリ:看取ったことで印象深くなり、ユウナがちょいちょい頭の中に出てきてはキザな笑みと共に小馬鹿にしてくる。キレそう
ユリス&ミゲル:←意外とこいつと駄弁ってるの気楽でいいな

舞台は原作通りコペルニクスでありながら、オリジナル路線……も踏襲しつつ、原作であったことも。
面白くなりそうです。どうぞお楽しみに。

感想、よろしくお願いします!

この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!

  • タケル&ユリス
  • キラ&アスラン
  • シン&サヤ
  • イザーク&ディアッカ
  • ミゲル&ハイネ
  • タケル&キラ(SEED編より
  • ラウ&ユリス(SEED編より
  • アサギ&マユラ&ジュリ
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