機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-23 戦いへの選択

 

 

 

 

 アークエンジェル艦内。

 随分と過ごし慣れた船室。その1室で、ヘリオポリスの学生5人は和気あいあいと話をしていた。

 

 心配だった家族も無事であることがわかり、第8艦隊本隊と合流したことで、しかるべき措置もとられ艦を降りられることがわかっている。

 

 現在は、マリュー等がハルバートンと協議し結論を待つばかりの状態であった。

 

「ようやく、元の生活へ……・……ってわけだな」

「早く艦長達、来てくれないかな」

「フフ、さっきからカズイ。ずーっとソワソワしてる」

「し、仕方ないだろうミリアリア。艦長は悪い様にしないって言ってくれたけど、本当にどうなるかはまだわかんないんだから」

「大丈夫だよ、カズイは心配性だな。ストライクに乗ったキラだって、ちゃんと降りられるだろうって話なんだから。俺達なんて降りられないわけないだろ」

「俺からすると、キラは別の意味で降りられない可能性もありそうだけどな……」

「え? なんだよサイ。別の意味って……」

「艦隊と合流する前の戦い……キラ、凄かっただろ? 

 アレを見たら、連合がキラを取り込もうとする可能性もあるんじゃないかってね」

「バカ言うなよ。キラだってオーブ国民だぜ。なんだって、地球軍に入らなきゃいけないんだよ!」

「そう、だよな……」

「どうしたのサイ?」

 

 何やら。どこかが変な感じのするサイの様子。

 こうして友達同士で話している事が、どこか後ろめたい。

 そんな気配であった。

 意を決した様に、サイは口を開いた。

 

「皆には悪いと思ってるんだけどさ……俺、地球軍に志願する事に決めたんだ」

「えっ!? サイ、何で!」

 

 驚きに立ち上がるトール。

 だが、そこにフレイも割って入る。

 

「私のせいなの」

「フレイ?」

「本当は、私が言い出したの。地球軍に入るって。そしたらサイ……自分も残るって」

「フレイ、なんで……」

 

 最もあり得ない話であった。

 あのお嬢様で、一番戦いを忌み嫌っていたフレイが、よもや地球軍に志願する等と誰も夢にも思わなかっただろう。

 そんな彼らの疑問に答えるように、フレイはつらつらと言葉を綴る。

 

「知ってしまったから……パパを失って、大切な人を亡くす悲しみを知ったから。

 だから私、戦争を無くすために……パパの遺志を継いで戦うって、決めたの」

 

 瞳に強い意志を宿して、フレイは己の想いを打ち明けた。

 それに頷いて、サイは隣に並び立つ。

 どちらも生半可な気持ちで決心したわけではない。覚悟を感じられる姿勢であった。

 

「覚悟は、変わらないらしいな」

「バジル―ル少尉!?」

 

 突然飛び込んでくる声。

 部屋の入口には声の主であるナタルと、書面を手にしているメネラオスのホフマンが居た。

 

「先刻、サイ・アーガイルとフレイ・アルスターの意思は聞いていた。私から艦長へ、そしてホフマン大佐へと通達されて決定自体は保留となっていた」

「少尉の計らいで友人達と、今一度話し合ってみろとな」

「バジル―ル少尉。俺達の意思は変わりません」

「私に何ができるかはわかりませんが、父の意思を継いで、私も戦争を無くすために戦います」

 

 再三の宣言にナタルは一度小さく頷いてからホフマンへと問う。

 

「ホフマン大佐。如何されますか?」

「緊急につき略式ではあるが、両名の志願を認める事とする。

 辞令については、後程ラミアス大尉から通達されるだろう」

「という事だ。アーガイル二等兵、アルスター二等兵。早速で悪いが仕事を申し伝える」

「はい!」

「ここに除隊許可証がある。君達の友人達のものだ。キラ・ヤマトはここに居ないようだし、探して渡してやれ」

「除隊……許可証ですか?」

 

 聞き慣れぬ言葉に、トール達も含めて疑問符を浮かべた。

 サイの問いに答えるのはホフマンであった。

 

「状況がどうあれ、民間人の軍事行動は犯罪になるからな。君達は日付をさかのぼって、ヘリオポリス崩壊以前に志願していたという過去を作る形となった」

「俺達、軍属だったんだ」

「そうでなければ、戦艦の艦橋になど入れられんよ」

「2人は除隊許可証を渡し終えたら、格納庫でシャトルへの搭乗整理を頼む。民間人が多いからな」

「はい」

「えっと、わかりました」

 

 安易な返事。敬礼も無し、

 正式な訓練も受けずなし崩し的に軍人になったとは言え、余りにもお粗末な受け答えに、ナタルは小さくため息を吐いた。

 状況を知るホフマンの目の前だから許されるが、今後それが必ずしも許されるとは限らない。

 

「ふぅ、後で返礼くらいは教えないとだな……」

 

 ナタルの言葉の意味を解して、サイとフレイは顔を見合わせて苦笑した。ナタルなりにやんわりと崩してくれた叱責だという事がわかったからだ。

 

「という事だ。悪いな皆……元気で」

「はい、除隊許可証。無くさないでよ」

「ちょっと、フレイー」

「サイ、待てよ!」

「キラにこれ。渡さなきゃいけないから」

「戦争が終わったら、また会いましょう」

 

 ナタルやホフマンと併せて、部屋を出ていくサイとフレイを見送る3人。

 余りの急展開にやはり驚きを隠せないのか、中々言葉が出ないでいる。

 

「びっくり、よね……」

「フレイがあんなこと言うなんてなー」

「でも、何も残る必要ないだろ。こんな戦艦にわざわざ残って、戦争したところで」

「失う事を……知ってしまったから、か」

 

 小さく呟くトール。

 どうしたかとミリアリアとカズイが見守る中、たっぷりと時間をおいたトールはおもむろに除隊許可証を破り捨てるのだった。

 

「トール!? なんで!」

「確かになぁ、って俺も思ったんだ。

 もう俺達、戦争を知らなかった頃には戻れないし。このまま元の生活に戻ったところで、世界は戦争のままだって事を意識しながら生きるのは、きっと嫌な気持ちになると思うんだ」

「トール……」

「だから俺も、フレイに倣って戦争を終わらせるために戦う」

「そっか……うん、そうよね」

 

 拳を握り決意を露わにするトールの目に迷いは無かった。

 それを見たミリアリアも、触発されたように頷くと、同様に除隊許可証を破り捨てた。

 

「トールの言う通りかも。ここで一緒に戦っちゃって、戦争を目にした今。

 オーブに戻ったところで、戦争からもう目を逸らせないよね」

「ミリィまで──あぁ、全く、皆強いよなぁもう!」

 

 どこかやけっぱちな声で、カズイも除隊許可証を破り捨てる。

 

「カズイ……」

「皆が頑張るっていうのに、俺だけ逃げるわけにもね」

 

 これでもう、後戻りはできない。

 彼等は自ら民間人の立場を捨て、軍属へ。

 地球軍へと志願することになった。

 まとめていた荷物を戻し、部屋にある着慣れた軍服に袖を通した。

 

「さて、そうと決まればキラの所へ行こう」

「そうね、ここまで守ってもらえたんだし。見送らないとね」

「俺達が残るってわかったら、きっとキラは余計なこと考えるだろうからさ。気にするなっていっておかないと」

「よし、行こうぜ」

 

 

 決意と共に、少年達は戦争への片道切符を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル格納庫。

 

 キラとタケルは、最後の機体調整を終えて機体の目の前に立っていた。

 キラは、アルテミス以来かけるようにしていたOSロックの解除。

 タケルは、カガリが乗るときに積んだナチュラル用のOSの消去である。

 該当OSの開発はタケル主導とは言え、エリカ・シモンズやアサギ達の協力もあってのもの。

 大事なオーブの財産である。そのまま残すわけにはいかなかった。

 

「これでもう……本当に終わりだよね」

「うん。後は、シャトルに乗って地球に降りるだけ」

「そっか……」

 

 それっきり、キラはストライクを見上げて口を開くのをやめてしまう。

 何を考えているのか。何を思い出しているのか。

 タケルには、それはわからなかった。

 何も言えずにいると、タケルは格納庫へと入ってくる人物を目にする。

 

「降りるとなると、名残惜しいのかね?」

「あっ!? え、えと……ハルバートン、提督?」

「そう硬くならんで良い。報告書で君の事は読ませてもらっている。タケル・アマノ二尉と同じようにな」

「恐縮ですね」

「驚かされるものだ、君達コーディネーターの力と言うものは」

「そんなことありませんよ。僕もキラも、ここに居る人達に、ずっと助けられましたから」

「ほぅ?」

 

 コーディネーターにはナチュラルを見下す者が多い。

 それこそザフトに居るものなど大半がそうであろう。

 そんなコーディネーターの気質に真っ向から否定をするタケルの言葉に、ハルバートンは眉をひそめた。

 

「コーディネーター何て言ったって、ちょっと器用でモビルスーツが扱える。そんな程度のものでしかない」

「僕も……そう思います。

 モビルスーツで戦える。確かにそれは僕達にしかできませんでしたけど、艦をまとめるマリューさんや、それを助けるナタルさん。僕とタケルを上手く支えてくれたムウさん。

 皆……ナチュラルでも僕達にはできないことができます」

「それは君が知らないからだろう? 知らない事とできない事はイコールではあるまい」

「僕は、基本的に大声とか出せないし、誰かの陰に居るようなタイプなので、絶対無理ですよ」

「はっはっは! そんな君が、モビルスーツのパイロットとは。似つかわしくないにも程があるな」

 

 聞きようによってはキラを貶める発言だが、ハルバートンに他意はない。それが2人にはわかった。

 

 ハルバートンはキラに向いて居住まいを正すと、小さく頭を下げるのだった。

 

「え、ちょ、ちょっと!?」

「君にとって似つかわしくないパイロット。多分に重責だっただろう……ここまでストライクとアークエンジェルを守ってくれたこと。本当に礼を言う────ありがとう」

「いえ、僕は……友達を守りたかっただけですから」

「良き、友人を持っているのだな」

「はい」

 

 そしてハルバートンはタケルにも頭を下げた。

 

「私の推進した計画が、君の妹を巻き込み、ヘリオポリスを巻き込み、そしてオーブを巻き込んだ。

 謹んで謝罪をさせてくれ──申し訳ない」

「頭を上げてください。開発については乗っかったオーブも同罪です。確かに、カガリは巻き込まれましたが、あれはどっちかと言うと勝手に巻き込まれたが正しいです。

 貴方が謝罪をする理由はありません」

「ふむ、謙虚な事だな。2人とも」

「恐縮です」

「そういえば、聞いても良いですか?」

「なんだね?」

「アークエンジェルはこれからどうなるんでしょう?」

「アークエンジェルはこのまま地球に降りる。そしてラミアス大尉達はまた戦場へと向かう事になるだろう」

「そう、ですよね」

「軍人だ。そして戦争をしている」

 

 戦争をしている。

 その言葉がキラの胸にのしかかる。

 彼等が再び戦場で戦う姿を思い描く。そこにストライクは居るのだろうか……居るとして戦えるのだろうか。

 まともにストライクが戦えなければ、アークエンジェルはどうなるのだろうか。

 嫌な光景が頭を過っていく。

 

「閣下、メネラオスから至急お戻り頂きたいと──」

 

 キラのそんな姿を見て、ハルバートンは表情を険しくし、部下を制した。

 

「君が何を思い悩んでいるのか。それは私にもわからん。だが人生の先達として助言だけはしておこう」

「助言、ですか」

「何に悩むのか、それは誰の為か……悩むなら、己の為に悩みなさい。さもなくば、必ずいつか後悔する」

「己の為に、悩む……」

「閣下」

「やれやれ、もう少しゆっくり話したいというのに、君達とゆっくり話す間もないわ。これにてお別れだな。2人とも、良い時代が来るまで、死ぬなよ」

 

 それっきり、ハルバートンは口を開くことも振り返る事も無かった。

 タケルとキラに背を向け格納庫を出ていく。

 ハルバートンを見送った2人は、その背を見つめたまま、今残されていった言葉を噛み締めていた。

 

「悩むなら」

「己の為に、か」

 

 

 静かに、胸の内に燻る想いが、熱を持った気がした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフト軍戦艦ヴェサリウス。

 

 作戦の始動を目の前に資、俄かに騒がしくなる艦内にアナウンスが流れていく。

 

『モビルスーツ発進は3分後。各機システムチェックに入れ』

 

 そんな中、ラウは随伴するツィーグラーとガモフを流し見て戦力を脳内に思い起こした。

 

「艦隊とは言えMAが基本。この戦力で堕とせぬ道理は無いな」

「ですが、こちらの損害も出るでしょう」

「覚悟は、皆しているはずだ。この戦いが我らの今後を決める重要な戦いだという事も」

 

 ここで足つきを堕とせるか否か。

 決して少なくない戦力を引っ提げての作戦である。

 墜とせなければならなかった。

 

「エンジン始動だ、アデス。足つきを、今度こそ堕とすぞ」

「エンジン始動! MS全機発進! ツィーグラーとガモフにも打電!」

 

 ヴェサリウスのエンジンに火が灯る。

 同時、構えていたMS達が次々と発進していく。

 それは居並ぶツィーグラーとガモフも同様。

 

 宇宙を奔るスラスター光が作戦の始動を告げていた。

 

「無茶ですよ、まだ傷の影響が……」

「うるさい! さっさと誘導しろ!」

 

 ガモフの医務室にて待機命令を受けていたイザークも、オペレーターの制止を振り切りデュエルへと乗り込んでいた。

 

「ストライク……ここで必ず、貴様に屈辱をはらしてやる!」

 

 包帯で顔半分を覆われているというのに、まるで引く気がない気配に、オペレーターも誘導を開始せざるを得なかった。

 見開かれた片目だけでも、そのギラついた視線は獣の様に屈辱を晴らすことに飢えている。

 

 そう時を置かずに、デュエルも部隊へと参陣をはたすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル格納庫。

 キラとタケル、カガリの3人は避難民を乗せるシャトルの前で、待機していた。

 

 もうすぐ搭乗も完了する。キラは未だ姿を見せない友人達を首を長くして待っていた。

 

「皆、遅いな……」

「何してるんだろうね。そんなに準備はかからないと思うけど」

「大方あちこち挨拶にでも行ってるんじゃないか。あいつら、ここが軍艦だってわかってないんだよ未だに」

「ん~そんな事無いと思うけどね」

「それを言うならカガリだって……艦長達にもまともに敬語使った事無かったじゃないか」

「う、うるさい! 苦手なんだ、そういうの」

 

 顔を赤くしてキラへと詰め寄るカガリを、タケルがどうどうと落ち着かせる。

 艦隊と合流するまではキラもタケルも余裕がなかったが、随分と柔らかな空気で居られた。

 オーブに帰れる。それがもう目の前なのだから。

 

「これ、エルちゃん!」

「ん?」

 

 タケルは少し遠目からの声を耳にした。

 がやがやとある程度騒がしい中でも、一際大きく発せられた声である。

 見れば、母親の手を離れ彼らの元へと駆けてくる小さな女の子が居た。

 

「お兄ちゃん達、ずっと私達を守ってくれてたんだよね!」

 

 タケルに向かって少女は無垢な笑顔で問いかける。

 タケルは少女の目線に合わせてしゃがむと柔らかく笑みを浮かべて答えた。

 

「うん、そうだね。このお兄ちゃんがずっと頑張ってくれてたんだ。今こうして生きていられるのは、このお兄ちゃんのお陰なんだよ」

「だよね! だから……コレ!」

「これは……紙で折った、お花かな?」

「うん、守ってくれてありがとう!」

 

 差し出された紙花を、キラはおずおずと手に取った。

 言葉にできない温かさが胸の内に広がっていく。

 ずっと大変だった。これまで苦しかった。

 でも、守れたものがあった。

 目の前に無垢な笑顔を浮かべる少女がそれを証明してくれて、キラは僅かに涙が浮かんだ。

 

「うん……ありがと、ね」

「こっちのお兄ちゃんも。お兄ちゃんが頑張ってたの、エル知ってるよ」

 

 続いてもう1つ。少女は、タケルにも向き直ると紙花を差し出した。

 子どもながらに、良く見ていると言ったところか。

 前線に出て戦っていたのが一人ではないと、タケルとキラの雰囲気から察していたのだろう。

 差し出された紙花を受け取ると、タケルは少女の頭を撫でつけながら、礼を述べた。

 

「──そっか、ありがとね、エルちゃん」

「それじゃ、バイバイ!」

 

 満足げにその場を去っていく少女。

 駆け寄ってきていた母親へと2人は軽く頭を下げ、受け取った紙花を見つめた。

 

「戦って良かったって……思った?」

「えっ? うん……そう、だね」

 

 タケルの問いに、キラはとぎれとぎれ返した。

 素直な感謝が胸にしみた。それはキラ同様タケルも同じであった。

 

 だからこそ、タケルは1つの懸念を口にする。

 

「でもさ、その陰で誰かが泣いているんだよね」

 

 ハッとした様に、キラはタケルの方を見やる。

 無遠慮にキラの心の奥へと踏み込んで来たような、そんなタケルの言葉。

 キラ自身が胸の内に燻らせていた、戦う事への忌避間。それが見透かされたようであった。

 

「僕が討った3機のジン。キラが討った偵察型のジン」

「うん……わかってるよ」

「悲しいよね、討たなきゃ守れないけど、討てば恨みを買う」

 

 先程の笑顔を思い出すと、それに比して誰かを討った事がキラの胸にのしかかる。

 

「あの幼い笑顔の陰で、知らない誰かが泣いている」

「うん……ずっと、ずっと考えてたんだ。誰かを悲しませているであろう事を」

「なんとなく、気が付いてはいたよ」

「タケルはなんで、オーブとは言え軍人に? 戦う事を選んだの?」

「そんなの単純。大切な家族がいるから。

 国があって、カガリが居て……守るには、力が必要だったから」

 

 中立と謳うには力が必要だった。

 ただの平和主義では、容易く他国に飲み込まれる。

 それに抗うには、抑止となる力が必要だ。

 だから、アストレイを開発し、ナチュラルでも扱えるOSを組み上げた。

 全ては理念を貫き通すため。

 それが国と家族を守る事に繋がるからだ。

 

「キラだって、同じでしょ?」

「うん……トール達を守るためにって。でも、討てば誰かに恨まれるって思うと、やっぱり苦しくて……」

「あーもう、2人してウジウジと!」

 

 神妙な表情で語る2人の間に、カガリが割って入った。

 

「考えすぎだ、兄様もキラも。

 戦場に出たからには、皆覚悟して戦っているんだ。討たれる覚悟のある奴と、さっきのエルちゃんとでは違うじゃないか」

「あっ……」

「そっか……そう、だね」

 

 得心いったりというように、カガリの言葉にキラもタケルも呆気にとられながら頷いた。

 確かにそうだ。

 戦場に出たとなれば、皆命を賭して戦っている。

 命の重さは無いと言うが、自ら戦場に出た者の命と、無関係な民間人の命では同列に扱う方がおかしいだろう。

 

「戦う者は皆、平和に暮らしているだけの大切な人達を守ろうと戦っている。戦場で相対する相手と、平和に生きている人達を一緒に考えるな

 そんな風に迷ってると、今度は2人が討たれることになるんだぞ。私は嫌だからな……兄様にもキラにも、死んでほしくなんかない」

「カガリ……」

 

 こうして本音をポロっと出すところがカガリらしいとタケルは思った。

 そして、余計なことにまで気を回し過ぎて、肝心なことに目が行っていない己もまた、らしいと。

 迷えば……迷って討たれてしまえば、今度は己の大切な人達が悲しむであろう事。

 誰かを気にするあまり、タケルもキラも自分を見落としてしまっていた。

 

「そうだね。ありがとう、カガリ」

「ふんっ」

 

 キラの礼を素直に受け取らないところもらしい。

 そんな姿に思わずキラは笑ってしまった。

 

「キラー!」

 

 そんなキラを呼ぶ声。

 3人が目を向けるとこちらへと向かってくる2人がいた。

 サイ・アーガイルと、フレイ・アルスターだ。

 

「サイ。フレイも!」

「良かった、ちゃんと見つかって」

「心配した。皆、来ないもんだから……トール達は?」

「皆は直ぐ来ると思う。はいこれ。除隊許可証」

「はいって……どういう事?」

 

 軍服を纏ったまま、荷物もない。

 そしてキラにだけ渡された除隊許可証。

 

「俺とフレイ、地球軍に志願したんだ」

「志願って……なんで!?」

「なっ!? ちょっと待てお前ら、特にフレ──もがっ!?」

「ちょっと黙ってなさい」

 

 突撃しそうな雰囲気のカガリを抑えつけるタケル。

 サイの言う事に未だ理解が追い付いていない中、そこに新たな声がかかった。

 

「おーい、キラー!」

「トール、ミリアリアに、カズイも……その恰好」

「なんで……まさか皆も」

 

 トール達3人もまた、荷物も無く軍服を着たままであった。

 嫌な予感がキラを染める。

 

「あぁ、俺達も志願兵。晴れて地球軍だ」

「目にしちゃったからね……戦争を。もう、見てない知らないとは、言えないから」

「でもさ、キラには関係ないだろ。だから俺達止めに来たんだ」

「止めに?」

 

 カズイの言葉に、キラは疑問符を浮かべた。

 止めるとは、一体何のことなのか。

 それを引き継いでサイが口を開く。

 

「俺も言おうと思ってたんだ。キラ、きっとフレイの事で責任感じているだろうしな」

「だからさ。キラ、ここまで守ってくれてありがとな」

「でもここからは、私達の戦いだから」

「キラは気にする事なく、平和に暮らしてくれ」

 

 4人が各々、キラに別れと取れる言葉を継げる。

 一様に、感謝の念に満ちた顔であった。

 

『総員、第1戦闘配備! 繰り返す。総員第1戦闘配備!』

 

 惑うキラをよそ目に、格納庫内に警報が響いた。

 第1種戦闘配備。それは戦闘が確実と予測される、紛れもない緊急事態である。

 

「おっと、早速かよ全く」

「ボヤかないの。これからはもうバジル―ル少尉も遠慮してくれないよ」

「それじゃな。キラ、元気で」

「何があっても、ザフトにだけは入らないでくれよな!」

 

 軍属となった事を欠片も感じさせない別れであった。

 そう見せたかったのだろう。

 涙を見せた別れではなく、キラが後ろ髪引かれぬよう明るく別れようとしてくれたのだ。

 艦橋クルーである4人が出ていくと、その場にはまだ何も職務が与えられていないフレイだけが残った。

 

「フレイ……本当に皆──」

「キラ、あの時あんな風に貴方を責めた私が言えた義理じゃないと思うけど……」

 

 キラが言い募ろうとするのを遮るように、フレイは言葉を紡いだ。

 

「ここまで守ってくれて、本当にありがとう」

 

 必要な事だけを。告げるべきことだけを告げて。

 そして彼女もまた、艦内へと戻っていく。

 タケルとカガリは黙ったまま。周囲がアラートで騒がしい中、キラは必死に今の現状を混乱する頭で理解しようとしていた。

 

「なんで……なんで皆! こんな、勝手に……」

 

 何のために自分が戦ってきたと思っているんだ。

 誰も討ちたくないのに、必死になって。

 命を懸けてアスランと戦って。

 それでようやく守り切れたっていうのに、それを全部無駄にして……

 

「そう思うなら、早くシャトルに乗ろう」

「兄様!」

 

 憤りを感じるなら、放っておいてシャトルに乗れば良い。

 そんな含みを感じさせるタケルの言葉に、カガリは声を上げキラも思わず睨みつけた。

 

「できるわけないだろ! 皆を置いて、僕だけ降りるなんて!」

「それは思い上がりだよ、キラ。さっきサイ君達は君に平和に暮らせと言った。君が残ると言い出すだろうから、そんな事はしなくて良いって」

「だけど!」

「これまでは君が守ってきたかもしれない。

 でもこれからは君が守らなくても良いって、彼らは言ったんだ」

「守らなくて……いい?」

 

 そんな……ストライクに誰も乗れもしないくせに何を言っている。

 何が戦うだ。思い上がるな。

 キラの中で、彼等への想いが怒りとなって膨れていく。

 

「兄様、いい加減に──」

「黙っててカガリ」

 

 割り込もうとするカガリを手で制する。

 今のタケルには、悩むキラしか見えていなかった。

 

「彼らは自ら戦う事を選んだ。君に頼るわけじゃなく。自らができる事で戦う事をね

 彼等を捨て置けないかい? でもそれは彼らに対する侮辱だよ。誰ももう、キラに守ってくれとは言ってない」

「でもっ!」

 

 それで捨てられるのなら、こんなに辛く迷う事はない。

 本当はもう戦いたくないのに、また彼らを守るために戦わなければならない。

 そんなどうしようもない感情がキラの心を埋めていく。

 

「キラ。それでも守りたいと言うのなら。それは“彼らの為”じゃない、“君の意思”だ。

 君の意思で、戦う事を選択することになる」

「選択……」

「彼らは自ら戦う事を選択した。だから、君も戦うと決めるのなら、彼等のせいにしてはいけない。自分が願う未来の為に、戦う事を選ぶんだ」

「願う、未来」

 

 遠くから、誘導員がキラ達を急かす声が聞こえる。

 アラートはなり続け、否が応でもキラの心を焦らせた。

 今行きます、と応えるタケルを見れば、キラへと手を差し出している。

 

「こっちに来るか。向こうに行くか、選ぶのは君だけだ」

「僕は……僕は!」

 

 シャトルを背に手を差し伸べるタケル。

 そしてキラの背後には、アークエンジェルへと続く道。

 自らの願い。それは友人達との平和な暮らしに戻る事であった。

 

 だが、彼らは決めた。

 現実を目にし。世界の情勢を目にし。そして戦争を目にした。

 その末に、平和な暮らしへと戻る事をやめ、平和な暮らしを求めて戦う事を選んだ。

 もう、何も知らない自分ではいられなかったのだ。

 

 なら、自分は今何を望む──キラは自問する。

 何を求める……それは平和な暮らし。

 誰と求める……それは家族や大切な友人達だ。

 そこで、キラはふと気が付いた。

 

 友人──それはサイ達だけだろうか? 

 アスランだってそうだ。ずっと昔から大切な友達であった。

 今目の前に居るタケルだって、カガリだって。既に大切な友達だと思う。

 もっと言うなら、これまで共に戦ってきたムウや、マードック。

 艦を守るために必死だったマリューやナタル。

 艦を支えた、クルー達皆。

 

 彼等に、平和に生きて欲しいと思うのは間違いだろうか? 

 彼等が死なずにいて欲しいと思うのは傲慢だろうか? 

 

 いつの間にか大切になっていた場所。いつの間にか大切になっていた人達。

 

 それを何も知らず、己の知らぬところで失う事だけは──キラにはできなかった。

 

 

 タケルの問いに、キラは背中を向けて応える。

 

「行くんだね……そっちの道に」

「うん」

「きっと辛いよ」

「それでも……いつの間にか、守りたい人達が増えてしまったから」

「そっか」

「ありがとね、タケル」

「ううん────君の決意を僕は尊敬する」

「それじゃ」

 

 去っていく背中。

 そこに悲しみも怒りも無かった。

 ただあるのは、自ら行く道を決めた少年の決意だけ。

 取られることなく終わった手を見て、タケルは少しだけ後悔する。

 

「(けしかけちゃったな……本当なら戦わないで欲しかったのに)」

 

 でも、ここで安易に残る事を選択すれば、きっとキラは後悔する。

 巻き込まれた民間人ではなく、自ら戦いへと赴くことを決めるには、ちゃんと戦う理由を見つめなおす必要があった。

 “何かのため”ではなく、“自分のため”に。

 

「(僕はもう助けられないけど、生き残って……キラ)」

 

 そんな風に考えていると、タケルの目の前にカガリが躍り出た。

 

「兄様、私も残るぞ!」

「バカ言わない」

 

 絶対言うとタケルは確信していた。

 何なら話に割り込もうとしていたその時からきっとその腹積もりだっただろう。

 だが、民間人としてのカガリをここでアークエンジェルに残すとなれば、それこそ彼等と同じように軍属にでもするしかない。

 オーブの代表の娘が地球軍の兵士? 

 冗談じゃないと、タケルはカガリの言葉を切って捨てる。

 だが、そんなタケルの考えをある種別方向から裏切ることをカガリは言い放つのだった。

 

「バカじゃない! このタイミングの戦闘配備だ。避難民を乗せたシャトルを安全に降ろすには兄様の力も必要なはずだ!」

 

 なるほど、一理ある。

 確かに戦闘配備となったこの状況でおいそれと避難民のシャトルを射出したりはできないだろう。

 シャトルの安全を確保するにはザフトを迎え撃ち安全を確保しなければならない。そしてそれはオーブ軍人であるタケルの役目とも言って良い。

 大分無理矢理な論法ではあるが、アストレイとタケルの力が必要というカガリの弁は間違ってはいない。

 カガリは己が残る事で、護衛であるタケルも残れと、そう言っているのである。

 

「あぁ、そういう事ね……そりゃカガリが残ったら僕も残らざるを得ないけど。それで降りたら地球軍本部だよ?」

「途中でアストレイ毎降ろしてもらえば良い。そうなったらそうなったで兄様と一緒に、オーブまでのんびり旅行でも楽しむさ」

 

 先の事をまるで心配していないような妹の言葉に、タケルは大きく肩を落とした。

 

「逞しいねぇホント。まぁ1人でヘリオポリスまで飛びだしていくんだから、逞しいのは今に始まった事じゃないけど」

「そう言う事だ……だからお願いだ、兄様!」

「わかってるよ。最後まできっちり見届けよう」

 

 妹の逞しさに感心しながら、タケルはシャトルの誘導員に行ってくださいと告げてアークエンジェルへと踵を返した。

 

 

 

 こうして戦禍は、少年達をも飲み込み大きくなっていく事になる。

 

 

 直後、宇宙を光が裂いた。

 蒼く綺麗な地球を目の前にして、地球軍対ザフトの大きな戦いの幕が、切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれの決意。それぞれの選択。

 平穏を捨て自ら戦禍へと赴く少年達を、戦いの業火が焼いていく。

 再び強襲するクルーゼ隊を前にキラにできる事は守る事は、それとも憎むことなのか? 

 向き合う敵の想いは図れず、砲火は再び、悲劇と悪夢を呼ぶ。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『宇宙に降る星』

 

 切り裂く大気、突き抜けろ、ガンダム! 

 




誰がための迷い。誰が為の選択。そんなお話



感想、よろしくお願いします。


前言通り、この回までアンケを設けておりますので
読者様の認識をお教えいただけたら幸いです。
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