機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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久しぶりに間が空きました。
少し自分で読み返して作品を見つめなおしていました。

クライマックスに向けた準備編。
久しぶりな出番の子達も……どうぞお楽しみください。


PHASE-115 終幕へ向けて

 

 

 ナスカ級ヴォルテールの艦橋にて。

 

 ジュール隊イザーク・ジュールは、これまで共に在った部隊の者達に離隊の挨拶を行っていた。

 

「────以上だ。しっかりやれよ、シホ」

「はい、隊長!」

 

 敬礼で返す元副官シホ・ハーネンフースに全ての引継ぎを終え、名実ともに今後彼等はハーネンフース隊として動き出すことになるだろう。

 居並ぶ(ともがら)達を見回して、イザークはどこか満足げに頷いた。

 

「エルスマン副長。隊長を宜しくお願いします」

「任せな、シホ。今も昔もこいつのお守りは俺の役目ってな」

「俺は貴様のその軽口と今後も付き合わなければならないと言うのか?」

「ダメなら隊長が止めてくれるだろうぜ? ダメならな」

 

 次に向かう先はコンクルーダーズ。部隊長はタケル・アマノである。

 2人の関係性を良く知る彼であれば、特段咎められる事は無いだろう。

 

「ふんっ、まぁいい────ではなお前達。今後の武運を祈っている」

「はっ!」

 

 勢揃いの一糸乱れぬ敬礼に見送られ、こうしてイザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンは離隊した。

 

 ヴォルテールの艦内通路を進み、ハッチを抜け。そうして艦を降りれば、双肩に掛かっていた責任から解放された気持ちとなり僅かに身が軽くなった気もする。

 部隊長と言う責。その副官としての責務は、やはり知らず知らずの内に彼等の身を硬くさせていたのだろう。

 2人揃って、嘗てザフトレッドで居た頃の様な身軽な気分となった。

 

「お疲れ、イザーク」

「ふんっ、貴様もな」

 

 互いを簡単に労う────腐れ縁の様な関係性が今後も続くと思うと辟易する反面、気楽と言うのも間違いがない。

 2人は言葉少なく異動先へと向かうべく歩きだした。

 

「しっかし豪勢なもんだよな。コンクルーダーズもさ。

 タケルの奴が隊長で、その下にあのディザスターのパイロット、ユリス・ラングベルトだろ? んでミゲルとハイネのFAITH2人に俺とお前。

 別に思い上がってるつもりはねぇけど、マジでザフトでも最高戦力を集めた部隊だろ?」

「そうだろうな。思い上がってはいないが俺とて自負はある。俺達はザフトでも指折りのパイロットだ。そんな俺達の先達で活躍してきたミゲルやハイネも同様。タケル・アマノとユリス・ラングベルト等、推し量る事すらできん実力者だろう」

「そんな人間を集めて、しかも機体は専用チューンのデスティニーときた。ザラ議長の時代だったら、このままナチュラルを滅ぼすとか言いそうだぜ」

「できるだろうな。現に似たような任務を受け、俺達は先んじて地球で戦っている」

 

 先日行われた、コンクルーダーズによる大西洋連邦保有の軍事基地への殲滅作戦。

 ハイパーデュートリオンにより補給の必要性を失くしたデスティニー2機によるバディ編成で、地球の各地へと赴き彼等は任務を遂行した。

 主要基地以外にデストロイなどが配備されているわけも無く、各所で行われた戦闘はもはや戦闘と呼べるものでは無い程に圧倒的。

 連合の現行機動兵器に対し、デスティニーの性能は追随を全く許さなかった。

 ディアッカが言う様に、これがパトリック・ザラが生きていた2年前であったなら、そのまま地球の軍事勢力を一掃していただろう。

 

「だが、これからはそう簡単ではない。現にタケル・アマノとユリス・ラングベルトは敗北を喫した。オーブが保有する戦力────アークエンジェルによってな」

「イザーク、ぶっちゃけお前はどう思ってるんだ? デスティニープランとか、今地球で潮流となっている大きな動きについて」

 

 ディアッカは真剣な面持ちと声音を見せて問いかけた。2人の中でどこか忌避していた話題である。

 ロゴスの公表から続く、二転三転と揺れ動いて来た世界情勢に、彼等もまた疑問を抱え続けて居た。

 

「考えられる事は多く在るが、考えるべきは多くはない」

「はぁ?」

「俺達はザフトだ。議長の思惑、やり方、そしてデスティニープラン────思う所は多い。疑問がある事は確かだ。

 だがそれでも、俺達はザフトなのだ。その根幹はプラントを守る為の組織。それ以上でも以下でもない」

「イザーク……お前」

 

 様々を呑み下し、それでも信念を語る男の顔がそこには在った。

 

「──2度だ。ユニウス、ヤヌアリウスと。俺達は2度もプラントを討たれ、失った。

 そして今また、議長とデスティニープランに賛同できないと地球の各国が軍事力を集めてプラントへと攻め込もうとしている。

 これ以上の理由はあるまい。俺達はプラントを守る為に戦わねばならん」

「確かにそうだな……もう二度と、あんな想いは御免だしよ」

 

 苦渋の表情と共に、イザークとディアッカにはあの日の光景が過る────先のレクイエム攻防戦の前哨として、中継点の破壊ミッションに挑んだあの日。

 結果はロゴスに出し抜かれ、むざむざプラントを討たれる事となった。

 目の前を過る巨大な閃光。それがプラントを切り裂くように迸り、一瞬の内に何百万と言う人間が死に絶えた。

 

 止められなかった後悔は、胸の奥底にへばりつく様に残り続けて居た。

 

「反デスティニープランの同盟……盟主となったカガリ・ユラ・アスハはまだ理性的だろうが、あの女1人で地球圏の意思を統一できるとは思えん。

 奴等がプラントに軍事力を差し向けてくる以上、どんな可能性も捨てきれん。核ミサイル、新たな大量破壊兵器、ロゴスが保有していた超巨大機動兵器もそうだ」

「だから今回のコンクルーダーズへの異動も?」

「貴様も感じていた筈だ。ザクやグフでは本当に必要な時に必要な力とならんことを。もしまた大量破壊兵器がプラントへ向けられた時、何とかできるだけの力が必要なのだ」

 

 どれだけ優秀なパイロットであろうとザクやグフでは限界がある。無い袖は振れず、目の前で過行く悲劇に己の無力を嘆く様な事態は、今度こそ避けたかった。

 故にイザークは、その手に最大限の力を欲した。

 

「覚悟しておけディアッカ。俺達は今度こそ、失敗の許されない戦いへと赴く事になる────貴様の軽口も今日限りだ」

「へいへい、分かったっての。今度ばかりは俺も、大真面目になってやるさ」

 

 決意と責任を再確認し、イザークとディアッカは歩みを進める。

 先に待つは、プラントを守る為に背水の陣を敷く戦い。

 

 

 不退転の意思を胸に宿し、ヤキンの英雄達は己が戦いの場所へと赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバ艦内ブリーフィングルーム。

 

 現在そこは、新開発したMSのお披露目会の様な…………そんな、真剣でありながら少し浮ついた空気の流れる場所となっていた。

 艦長であるタリアを始め、副長のアーサーにMS隊隊長のレイ。勿論ルナマリアやミネルバに配属となったスティング達も同席している。

 

 そして、この場を用意するに至った主催者────フォルトゥナ隊隊長のクルース・ラウラは端末片手に皆へと説明する位置に着いていた。

 ちゃっかりとおまけでついて来たユリス・ラングベルトも一緒である。

 

 目的は1つ。アーモリーワンより持ち帰ったインパルス小隊のミネルバへの搬入と、それに伴う性能説明だ。

 

 

「──以上が、再製されたカオス等のスペックだ。基本的には以前と変わらないが、シルエット運用のために変形機構はオミットされているので注意してくれ」

「ふぅん……まぁ、どの道そんなに使わねえしな」

「アビスなんか水に入らなきゃ変形意味無いし、ガイアだって地上で走るでもない限りなー」

 

 画面に映し出される機体と設計、モデル映像を流し見ながらスティングとアウルは納得する様に呟いた。

 本来はそれぞれ、宇宙、地上、水中と局地戦での活躍を想定して生み出された3機。

 しかし此度の目的は、インパルスとの連携を前提とした小隊編成を組む事。そしてこれからの戦いにこれ等が局地戦を挑むシチュエーションは無いところから来る変更点である。

 小隊編成で戦う以上、局地戦での突出した戦闘は想定していないのだ。

 

「これに併せて、バックパックの取り付け位置も変更されている。

 特にガイアについては変形機構のオミットに伴い背部ビームブレイドを撤廃して代わりのビーム砲塔が追加されてるから、ステラは良く目を通し──」

 

 タケルから視線を向けられるも、まるで理解していない様にステラは小首を傾げた。

 

「なぁに、タケル?」

「ステラ,ここではその名前は…………って、言っても意味ないか」

「兄さん、ステラには後で説明しておくわ。続けて頂戴」

 

 頼むと小さく頷いてから、タケルは説明を再開した。

 

「さてルナマリア、ここからが君にも関連するところだ。ミネルバを介した各種シルエットの運用────インパルスシステム。

 それをより早く、スムーズに運用できる様に構築したこれが“インパルスネットワーク”になる」

「インパルス……ネットワーク?」

 

 画面に映し出される難解な図面と言葉に、ルナマリアもまたステラ同様に首を傾げる。

 勿論、彼女に図面を見て理解しろ等と言うつもりのないタケルはすぐさま必要な説明へと入った。

 

「基盤にはドラグーンシステムを応用した短距離量子通信を用いる。これでシステムネットワークを構築し、シルエットを運用…………まぁ要するに、シルエットそれぞれをドラグーンの端末と見る感じだな。

 これによりスムーズなシルエットの受け渡しを可能としている」

「なるほど。サイズ感が違うだけでレジェンドのドラグーンなどと同じと言うわけですか」

「あぁ、その通りだよレイ」

「ドラグーンって……私使えないですよ?」

「そこは問題ない。レジェンドと同じく第2世代のシステムだし、そもそも攻撃に用いるのとは訳が違うからな。空間認識能力は必要としないものだ」

 

 はぇ〜、と呑気な声で感心するルナマリアを流し見ながら、タケルは資料を進めて行く。

 

「これまではシルエットの換装を必要とした時、ミネルバへの申請、ハッチと射出システムの稼働、シルエットの射出と、かなり手間がかかった。今後はこれを射出したドラグーンを呼び戻す感覚で使える。勿論、着脱を行う僚機とのやり取りは不可欠だが……小隊編成なら然程困る事も無いだろう」

「ですがクルース。ドラグーンシステムは電力消費が大きく、バッテリー機のインパルスでこれを運用するのは少々荷が重いのでは?」

「甘いわよレイ。兄さんがそんな欠点見逃すと思う?」

「では?」

 

 ユリスの言葉の答えを求める様にレイがタケルへと視線をやった。すると、仮面で覆われないタケルの口元は緩く弧を描いて見せる。

 それはつまり、対策済みである事と同義であった。

 

「まず前提として通常のドラグーンとは異なる点が2つ────1つ目はドラグーン兵装と違い、シルエットは戦場内を自在に飛ばす必要がない事。そしてもう1つはこれが扱う端末は最大でもたった1つと言う事だ」

 

 なるほど、とレイもタリアもハッとした表情を見せた。

 そう、量子通信システムは電力を大きく消費する。これが故にドラグーンシステムは通常のバッテリー機に搭載することは憚れる。カオスの分離兵装ポッドもたった2つに限定されているのはそう言う視点からである。

 プロヴィデンスやレジェンドの様に操る端末を増やせば消費電力が大きくなるのは当然であるし、戦域内を自由自在に飛ばして攻撃するには、通信強度を高め可動領域を十分に確保する必要がある。

 

 だが、インパルスネットワークはこの限りではない。

 通信を確立する必要があるのは端末となるシルエット1つのみ。複数のシルエットを同時に動かすことは無いのだ。

 更には小隊編成を前提とした短距離量子通信。消費電力は通常のドラグーン兵装よりもずっと少なくて済む。

 

「それと……シルエット自体にも手を加えた。

 これまではインパルスの主動力に依存する形であったが、連合のストライクの様にシルエットに独自のバッテリーを搭載している」

「えっ、それじゃ隊長。もしかしてシルエットを変更する事でエネルギーが?」

「理論上は可能だが、あくまで予備バッテリーという位置付けだな。主動力は機体のバッテリーを用いるが、緊急時にはシルエットのバッテリーで稼働時間の延長が可能と言う話であって、機体へのチャージは変わらずデュートリオンシステムに依存する事になる」

「それじゃあクルース、余り以前と運用は変わらないと言う事で良いのかしら?」

 

 バッテリーをシルエットに載せる意義。そこに疑問を感じたタリアが問う。

 あくまで予備バッテリー。備えがあれば憂いが無いのは確かだが、コストをかけてまでその変更を通した理由にしては弱い。

 動力部分の運用が依然としてデュートリオンシステムに依存するのなら何故バッテリーを載せる必要があるのか。

 

「これは保険です。

 逼迫した戦況の中で、常にエネルギー管理ができるとは限らない。不意にエネルギーが尽き、VPS装甲が落ちた瞬間にミサイルが当たって撃墜……なんてのはいくらでも有り得る話です。

 インパルスネットワークでは、僚機となるガイア、カオス、アビスも含めて、シルエットの予備バッテリーと常に接続状態となる。機体エネルギーが切れた時の最大限の保険として、必要な措置だと考えます」

「確かに、デスティニーやレジェンドと違い、バッテリー式のセカンドステージではその危険性はあるわね」

「ただでさえPS装甲は消耗が激しいですから。このくらいの保険は必要です────デュートリオンビームによるチャージは機体とシルエットのバッテリーの両方をチャージできる様なっています。こちらは後程、艦橋で仕様書を確認してください。CICのウィンザーにも熟読させるように」

「えぇ、手配しておくわ」

「以上が、構築されたインパルスネットワークの説明だが、質問はあるか?」

 

 ルナマリア、スティング、アウルに一応ステラと順繰り視線を巡らせていく。

 特に思い浮かぶ事は無いのか、その場はしばしの静寂が過った。

 

「まぁ、質問があればユリス伝いで報告してくれ。ステラの為に暫くはこいつをミネルバに置いておくから」

「あら、良いの兄さん?」

 

 似つかわしくない……悪辣な笑みではなく素直な喜色を浮かべるユリスに、タケルは肩を竦めて返した。

 

「君に戦闘以外の仕事は求めていない。向こうにはナタルもメイリンもいるから部隊の運用準備は間に合っている。ついでに言うと君は直ぐ問題を起こすから他の面々とできるだけ接触させない方が賢明だ」

「良く分かってる。流石兄さんね」

「君に褒められても嬉しくない」

「そんな照れなくて良いわよ」

「死ね」

 

 端末を持っていた腕が掻き消えたかと思えば、部屋に響き渡る破裂音。

 タケルの裏拳をユリスの掌が受け止めた音であった。

 

「ちっ」

「不意打ちにしては上等ね。私じゃなかったら本当に死んでるわよ」

「君が本当に死んでいたら、世界はもう少し平和だったかもしれないが?」

「仮に兄さんが死んだとしても、世界はもう少し平和だったかもしれないわよ?」

 

 僅かに睨み合う。

 

 嘗て、戦争を激化させ人類の破滅を望んだユリスと。

 今この時、人類の業の全てを清算し、本当の平和な世界を実現する為に、人類最後の戦いを望んでいるタケル。

 見方を変えれば2人共。世界に戦争を齎している事実は同じであろう。

 

「タケル……ダメ」

 

 触発な空気を────元より本気でやり合う気など更々ないが、嫌な空気を纏う2人の間に割って入り、少女は止められたタケルの腕を捕った。

 

「ステラ……」

「ケンカ、ダメ」

「ケンカじゃないよ」

「ケンカじゃなくても、ダメ」

 

 訴える視線と声音に、心配の色が見え隠れしてタケルは強張った肩を落とした。

 ステラからすればタケルとユリスは正に父と母の様なもの。無条件で優しくしてくれる2人が嫌な気配を纏うのが耐えられず、そして本能的に手を出したタケルが悪いと断じているのだ。

 

 心配と、僅かな責める視線に負けたタケルは、彼女の心配を解きほぐす様に優しい気配へと戻っていった。

 

「ごめん、ちょっとイライラしてたんだ。もう大丈夫だから安心してステラ」

「本当?」

「うん────ユリス、こっちに残るんだ。インパルスネットワークの運用をルナマリアとステラ達に叩き込んでやってくれ」

「あら、良いの? ルナマリア・ホークだけは泣かすわよ?」

 

 身内には甘いが、身内以外には厳しい……厳しすぎる。

 そんなユリスに訓練されるとわかって、ルナマリアの顔に絶望が過った。

 

「レイ、バカがバカをし過ぎないように監督を頼む。酷い時は連絡をくれ。即刻呼び戻してデスクワークでもさせるから」

「あぁ、了解した」

「ばっ、ちょっと勘弁してよ。私に頭なんか使わせないで頂戴」

「そう思うなら確りやってくれ。君の戦闘能力だけは信頼しているんだ」

 

 信頼────そう言われては、反感の声を挙げるにはいかないとユリスは押し黙った。

 その心の内が容易く伝わるだけに、タケルが本気でユリスの実力を当てにして彼等の訓練を任せると言うのだ。

 

「良いわよ。やってやろうじゃない」

 

 悪鬼は珍しく、戦場以外でも腹を括った。

 タケルはそれに頷いて返すと、今度はタリアへと向き直った。

 

「グラディス艦長、後程正式に通達があると思いますが、明日議長より招集があります。内容は明日の1200で評議会へ出頭せよと」

「あら、何用かしら」

「私もそれについては聞き及んでいませんが、重要な話であることは間違いが無いでしょう。明日、合流して一緒に向かうとしましょう」

「了解したわ。予定を確認しておきます」

「はい、それでは失礼します」

 

 ユリスを残してミネルバのブリーフィングルームを退出し、タケルは艦を後にする。

 

 

 その瞳には、決戦に向けた強い意志が宿り、最後の戦いが間近に迫っている事を感じさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月面ダイダロス基地跡地。

 

 現在は地球圏統一同盟軍の占領下に置かれている。

 占領下とは言っても、元は地球連合の軍事基地。ユーラシアや大西洋連邦、東アジア共和国と主だった国際母体が同盟の枠組みに居る今では、この表現は適切ではないのかもしれない。

 

 しかし、同盟筆頭となるのはオーブ首長国連邦。その代表首長、カガリ・ユラ・アスハである。

 先のレクイエム攻防戦ではオーブの戦力を用いてこの軍事基地へと攻め込んだのだ。

 カガリ本人としては、占領と言う表現が正しい面持ちであった。

 

 

「カガリ、予定していた地球からのシャトルが到着した」

「そうか、わかったすぐ行く────アスラン」

「あぁ」

 

 基地内の通路を進み、シャトルの発着場へと向かう。傍にはいつも通りアスランが付き従った。

 

 コペルニクスでの騒動を知って以降、アスランは片時もカガリから離れようとしない。

 それは今の彼女の立場がどれ程のものかを理解し、そして悪意はいつどこからやって来るとも知れないとわかった故であった。

 先の戦闘で、タケルに投げられた言葉も効いているのかもしれない。

 

 オーブの軍服を纏い、一切の油断なく傍に着くアスランにカガリは息が詰まる想いではあったが、それも必要な事だと理解して何も言う事は無かった。

 

 

「──カガリ!」

 

 シャトルの発着場に着いてみれば、予定していた来訪者の姿が飛び込んでくる。

 赤毛で、最近は随分と妖艶な雰囲気を纏う様になった同年代の彼女────ユーラシア連邦事務次官付き広報官、フレイ・アルスターだ。

 その後ろにはカガリにくっつくアスランの様に、サイ・アーガイルの姿も見られる。

 

「フレイ! こうして会えて嬉しい限りだ」

 

 諸手を挙げて迎え入れる様なリアクションをするカガリに、フレイは一瞬固まるも、続いて剣呑な顔となった。

 次いでフレイは微重力の中カガリに向かって飛び出す。ビシッとスーツで決めたキャリアウーマンの突撃と言う世にも珍しい様相を経て、2人は至近で顔を見合わせる事となる。

 

「ちょっとカガリ、止めてよねそんな対外的なやり取り。私はまだ貴女と同じ様な立場じゃないのよ。友達らしく普通にしてよ」

「そうは言ってもだな……ミュラー事務次官の名代として来たんだろ? それならそれなりの形式的挨拶も──」

「メディアも何もいないのよ? 勘弁して頂戴……ただでさえ最近友達付き合いとは久しいんだから」

 

 ヘリオポリスの学生時代に関係のあった友人など、アークエンジェルで共に過ごした者達を除けば完全に疎遠だ。

 そしてアークエンジェルで過ごした者達も、世界の情勢に大きく関わり何かを成している者が殆ど。

 更にフレイ・アルスター自身も、立派な肩書をもって職務に就いている。

 彼女が言う当たり前の友達付き合いができる人間など、今の彼等には決して多くは無い。

 せめて衆人環視でもないのなら、職務と立場を取っ払った付き合い方をしたいと言うのが彼女の本音であった。

 

「ははは、フレイは相変わらずだな」

「貴女がいつの間にか明後日のところへ飛んで行き過ぎなの。何よいきなり、統一同盟軍指揮官って」

「私に言うなよ……大体、指揮官はミュラー事務次官でも良かったのに、あの人あの場で全く助けてくれなかったじゃないか。お前の上司の所為でもあるんだぞ」

「あー、何よそれ。ミュラー事務次官にはちゃんと考えがあっての事よ。言いがかりは止めてよね」

「いいや、あの人絶対面倒事を押し付けたかっただけだぞ。大体、元が連合の軍人上がりなんだ。そう言う押しつけが得意な奴が出世する組織じゃないか」

「ちょっと、それ言い過ぎ! そりゃあ、確かにそうかもしれないし……前に私が声明出した時だって、お前に任せるとか雑だったけど……」

「ほら見ろ。私の言う通りじゃないか」

「もー、止めてってカガリ!」

 

 いつの間にか、フレイの調子に引っ張られるように代表の仮面を剥がされたカガリは、どこか懐かしいと思える程見なくなった柔らかな笑みを浮かべて笑っていた。

 

 

「久しぶりだな、サイ・アーガイル」

「こちらこそ、アスラン・ザラ」

 

 そんな2人の後ろでは、同年代の護衛同士。アスランとサイが手を取り合っていた。

 お互いにやんやと騒ぐ大切な人を見て苦笑いを浮かべている辺り、シンパシーは十分な様である。

 

「フレイのあんな顔は久しぶりに見たよ」

「俺もだ。カガリがあんな風に自然に笑う姿は、本当に久しぶりだよ」

「やっぱりずっと大変なんだな」

「あぁ……タケルの奴もいなくなってしまったからな。心労は凄いだろうに、決して弱った姿を見せようとしない」

「聞いたよ、アマノさんがザフトに居るって。俄かには信じられなかったけど……」

 

 サイ・アーガイルにとって、タケル・アマノは絶対的なカガリ至上主義を貫いた兄バカである。

 アークエンジェルに乗り込んだのも、MSで戦闘に出たのも。全ては妹であるカガリを守る為。

 その奮闘の歴史を2年前、サイは目の当たりにしてきた。

 彼がザフトに行ってしまったと言う事実は、簡単に信じられるものでは無かった。

 

「サイ……君から見て、アイツはどうだった?」

「どうだったって言われても……俺からすると、本当に凄い人だったよ。いつも格納庫で整備班と仕事をして。戦闘になれば真っ先に最前線へと切り込んでいく。戦場慣れしてないキラに負担をかけまいと戦う姿は、今聞けばゾッとする様な仕様の機体だったんだけど……それでも、その戦いは見てて安心できる様な安定感があって」

「だから……なんだろうな」

「だから?」

 

 サイはアスランの言わんとしている事が読み取れず疑問符を浮かべた。

 

「アイツはずっと、必死にそうやって戦い続けて来たんだろうな。俺がザフトに入るより早く。君達がアークエンジェルに乗るよりもずっと前から。

 いつでも最大限にできる事を。片時も手を抜かないで、あらゆる未来を想定して……自身を包む世界と、ずっと戦い続けて来た」

「壮大な話だな」

「どこまでも先にある、目に映る事のないゴール(未来)へ向かって、常に全力疾走だったんだ。そんな無理筋、いつまでも続くわけがない」

「だから、もう走れなくなってしまったと?」

「ゴールが見えそうだった……でも強い風があいつを攫って、アイツはスタート地点まで戻されてしまった」

「これまで走り続けて来たあの人に、またゴールを目指すだけの気力も体力も、残されていなかったって事か」

 

 アスランの話を聞いて、サイは思わず納得してしまった。

 アークエンジェルに居た彼は、確かに機体の調整だろうが戦闘だろうが、そのパフォーマンスは安定して非常に高いものを発揮していた。

 しかし、その陰にはどうしても些細な事で折れてしまいそうな脆さがチラついた。

 

 仲を深めていったナタルを始め、大切な妹であるカガリ。隣で戦うムウやキラの支えが無くては、彼が走り続ける事は困難であっただろう。

 

「そうしてあいつは、走る事を止めて目の前にゴールを作り出すことを選んだ」

「デスティニープラン、か。ゴールを作るとは言い得て妙だな」

「何としても止めなきゃならない……あれは、人類を種として殺す計画だ」

「あぁ、各国の首脳も同じように考えている。今回フレイが来たのだって、地上に居るミュラー事務次官との橋渡しが目的だ。地上と宇宙での連携を密にするために」

「地上は……オーブの復興はどうなってるんだ?」

「それなら、フレイからアスハ代表に報こ──」

 

「ほら、アスラン! サイ! お前達も行くぞ!」

「予定が詰まっているんだから、2人してのんびりおしゃべりしてないでよ!」

 

 飛び込んでくる姦しい声。

 いつの間にか、発着場から基地内へと向かう2人の姿があった。

 先程まで立場も職務も忘れ、和気藹々とおしゃべりしていた筈なのに……女心と秋の空とは良く言ったものである。

 

「あぁ、すまない」

「今行くよ」

 

 釈然としない心地になりながら、アスランとサイは視線を僅かに交わして肩を竦めると、2人のお姫様の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 世界は最後の闘いに向けて、着実に準備を進めて行くのであった。

 

 




久しぶりにしゃべったサイ君。
そしてコミュ力MAXになってしまったアスラン。
意外な組み合わせですがお姫様が和気藹々としてたらこんな会話もね。

シン離脱に対するミネルバ戦力強化プラン。
イザディアも合流して万端となるコンクルーダーズ。

次回は統一同盟軍側を描く予定。どうぞお楽しみに。

完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)

  • 後日談の日常回
  • オリジナルプロットの劇場版
  • SEED FREEDOM
  • 企画:タケルユリスinOO世界
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