メサイア中枢指令室。
玉座とも呼べる中央の椅子に座り、ギルバート・デュランダルは戦況を見つめた。
最初の号令以降、戦闘指揮は既にゴンドワナの司令官と最前線にいるタリア、ナタルの2名へと委譲している。
右翼の部隊指揮をタリアが。左翼をナタルが請け負い、全体の状況はゴンドワナが管制となり、現在の戦況を維持しているところだ。
つまるところ現在、ギルバート・デュランダルにやる事は無い。
こうしてただ玉座に座り、戦場を見つめる事しかできない裸の王様であった。
だが──
「これで良い。既に世界は私の手から離れているのだ────未来を紡ぐ者は彼等でなくてはならない」
友と同じく人類を見限った者に、世界を差配をする資格など無いだろう…………デュランダルはどこか満足そうに頭を振った。
愛する人との未来を奪われ、逃げるように生み出した人類救済計画の果て。問題も様々存在し、世界にそれを受け入れられる土壌も無い。
この戦いに勝ったとしても負けたとしても、計画はどの道頓挫する。
後は世界と人類が、この戦いの末にどう転ぶかでしかない。
「────それにしても、本当に流石だよタケル」
モニターに映る陣容の変遷を見つめて、愉快そうに笑みを深めた。
決戦前、タケル・アマノが提示した戦術プランは様々あったが、今現在の展開は凡そ予想の
何なら、想定された中で一番確率の高い推移を見せていた。
「未だこの戦いは予測の範疇を出ていない。ならばこちらは、粛々と次なる手を切るのみだ」
戦いは未だ、定められた道筋を進み続けるのであった。
ザフト艦隊の最前に並ぶミネルバ級戦艦。
艦船フォルトゥナの艦橋では厳しい声が飛び続ける。
「オーブ軍、先行してきます。MS数20!!」
「ゴンドワナのMS隊と連携。艦隊の攻撃で足を止めた所をMSで仕留める────コンクルーダーズは?」
「アスパイア、デスティニーがジャスティスと。type-B、type-Dがフリーダムと交戦中です。それから、type-L、type-Cはオーブ軍本隊と交戦状態にあります」
メイリンの報告に思わずナタルは奥歯を噛み締めた。
カガリが駆るアカツキとの戦闘…………自ら選んだ道とは言え、最愛の彼が一番苦しく辛い戦いを強いられているこの状況に、ナタルの胸は締め付けられるようであった。
「ミサイル発射管全門ナイトハルト装填! トリスタンとイゾルデの斉射5秒後にミサイルで波状攻撃を行う!」
ナタルの指示と共に艦尾両舷の2連想高出力ビーム砲トリスタン、艦首の3連装炸薬砲イゾルデが稼働。同時にミサイル発射官にも弾頭が装填され、すぐさま準備が整っていく。
踏み出そうとしてくるオーブ軍の出鼻を挫く────のが目的ではあるが、恐らく通用するのは極僅かであろう。
カゼキリのモデルケースはタケル・アマノとシロガネ。オーブ国防軍は艦砲射撃を掻い潜り、敵陣目掛けて飛び込む一矢と成るべく、シロガネと同じ活躍を目指して生み出されたMSとパイロット達だ。
今この時の様な状況こそ、その真価を発揮する。
『バジル―ル艦長、ゴンドワナから入電よ────フェイズ2に移行しろと』
身構えていたナタルに、ミネルバのタリアから通信が届いた。
神妙な面持ちで告げられた指示に、また1つ緊張が増していく。
フェイズ2……つまりは作戦の第2段階である。
「フェイズ2、予定通りか。了解した────フォルトゥナは攻撃後メサイア近傍まで後退する。ラウラ隊長に打電! コンクルーダーズは指定宙域まで後退だ!」
指示の直後には艦載砲がフル稼働。
吐き出される光条とミサイルの雨による波状攻撃で接近中のオーブ軍を牽制しながら、前線にいたミネルバとフォルトゥナが後退していく。
予定通り────それが逆に恐怖を掻き立てる中、ナタルは必死に心を律して己の責務に務め続けるのであった。
背中を伝う嫌な汗を感じながら、タケルは振り下ろされたシュトリのビームサーベルを回避した。
「まだ!!」
即座に切り返されるサーベルと同時に、後追いで振り上げられた脚部ビームブレイドの2段構え。
それを腰部にラックされた状態で出力したフラッシュエッジとビームシールドで防ぎ切る。
同時、囲う様に展開されたライソウがシュトリを狙う。
「やらせはしない!」
アカツキのバックパックに備えられた6基のドラグーンが光波防御帯を展開し、ライソウを防いだ。
届かぬ攻撃に焦りを覚えた瞬間には、タケルの背後をアサギのキンシャクが狙う。
「そこ!」
キンシャクの背部ビーム砲塔が光を吐き出し、type-Lを狙い撃った。
「くっ、隙が小さくなってきている────順応してるのか!?」
回避。その先をコンカクとキンシャクがライフルで狙い撃つ。
更にはアカツキのスカートアーマーがそのサイズと質量を武器としてtype-Lの行く手を遮り始め、タケルは徐々に追い詰められていた。
SEEDに陥ったからと言って、タケルと彼女達の間にはパイロットとしての隔絶した技量差がある。
しかし、その差を埋める経験が彼女達には在った。
対タケル・アマノ────目指し続けた高みへの憧憬と共に、練り上げ鍛えられた戦闘予測。
それは理論的なものではなく、経験則として積み上げられて来た彼女達だけの力────追い続けた時間が今、タケルを追い詰める一手となって牙を剥いていた。
「くっ!?」
ライソウの1基がジュリのビームスナイパーによって射抜かれる。type-Lの武装の要とも言えるドラグーンの損耗に、タケルの焦りは増していく。
「これでっ!」
追撃に放たれるカクヨクからのビームがtype-Lのウィングを掠めていく。
コクピットには機体ステータスに赤い表示が出始めており、被弾を重ね始めている事の証左であった。
光の翼を最大展開し、大きく距離を取ったタケルへ4人は更なる追撃を仕掛けようとする──が、そこへ別方向より驟雨のビームが飛び込んできてカガリ達の行く手を遮った。
「兄さん! 後退指示……フェイズ2よ」
通信が開かれると同時に映る相棒の姿。齎された情報にタケルは1つ息を吐いた。
「了解だ、ここまでか────レイ、そちらも一度退がれ。フェイズ2だ」
「了解です────ルナマリア、スティング達も。後退するぞ」
ミネルバMS隊を率いるレイとも情報を共有し、互いに援護射撃を加えながらカガリ達と距離を取っていく。
この場で戦っていたシンとサヤ、ムウとカガリ達が追い縋ろうとするところをタケルとレイのドラグーン兵装が牽制。インパルス小隊が火砲の一斉射で出鼻を挫いて彼我の距離を空ける。
「くっ、逃げるか兄様!」
「その通りだ、逃げるよ。ここでの戦いは完全に僕の敗北────這う這うの体で惨めに退散させてもらう」
「なにっ!? ふざけたことを──」
「カガリ達までSEEDに入るのは計算外だった。お陰で予定より多くの敵を通してしまったが────この後を考えれば丁度良い」
「減らず口を。何を嘯こうとも起死回生は成った! 兄様達が後退すれば本隊の道が開ける。このまま押し切らせてもらうぞ!」
枷となっていた中央をカガリが自ら突破する。出鼻を挫かれ、勢いを出せなかった同盟軍にとっては正に好機だ。
出遅れた中央の艦隊を押し進められれば、メサイア周辺に展開するザフト艦隊を囲い込むことができる────数の利を生かせる最高の陣容となるだろう。
「そうだよ、その意気だ……その勢いのままに掛かってくると良い。次こそ僕達が、同盟軍の尽くを壊滅させてあげる」
「お兄様! もうこれ以上、父上達の想いに背を向けないで下さい!」
「隊長! アンタいつまでそんな風に仮面を被ってるつもりだ!」
「仮面を被っているつもりなど無いさ。父等の想いに背を向けるつもりも……」
カガリに並んだサヤとシンからも声が飛んでくるも、らしくない……演技じみた物言いで返した。
カガリを筆頭に、シンもサヤも。勿論アサギ達も皆……そんならしくないタケルの態度に違和感を覚えていた。
「おしゃべりは終わりだ────コンクルーダーズ、後退するぞ!」
キラ達と戦闘中のイザーク達へと通信を飛ばし、前哨となった戦いを終えて撤退していくタケル達コンクルーダーズ。
それを見送りながら息を吐くと同時、カガリ達4人は恐ろしい程の疲労感に包まれた。
「はぁ……はぁ……これが、兄様が言っていたSEEDか」
初めて発現したSEEDの影響────何時間も戦い続けたように疲労困憊となり、カガリ達は全身を汗で濡らした。
「こんなのをアマノ三佐はいつも」
「やってたって言うの……」
「──信じられない」
今すぐに戦線へ復帰するのは厳しいと、4人が皆同じ気持ちである。
気を抜けば意識を落としてしまいそうな程に、疲弊していた。
それでも、全員が息も絶え絶えとなる中、どうにかカガリは己の責務を果たすべくアマテラスから流されてくる戦況を確認していく。
一方的に攻め込まれていた窮地を退け、起死回生の一手を打ったのだ。
先程挙げた激と、コンクルーダーズを退けたその戦果を見せつけられた同盟軍には、強すぎる程のカンフル剤となって、背中を押されている様に進軍していくのが見て取れた。
正に獅子の声である────百万の軍を奮い立たせるその姿はオーブ軍のみならず、第2第3艦隊をも勢いづかせていた。
「────こいつはまずいぞ。カガリの嬢ちゃん!」
警告は背後。控えていたシロガネに乗るムウ・ラ・フラガからであった。
「まずい? 何を言っているのですかロアノーク大佐。この状況の一体何が──」
戦況を……艦隊の動きを見て、サヤもムウの言わんとしている事に気が付いて息を呑んだ。
まだ理解の及ばぬシンが疑問符を浮かべる中、警告を受けたカガリはその意味を真に理解し、顔を蒼白にさせて慄く。
「まさか、これは────キサカ、全艦後退させろ! 罠だ!」
コンクルーダーズの突破から始まった決戦。
キラ達を救援に向かわせ、中央を守るここまでの流れ。カガリの反撃からなるコンクルーダーズの撤退とこれから展開する包囲戦。
その全てが、今の形を作る為の布石。
「兄様の狙いは、逆撃の機動包囲網だ!」
瞬間、同盟軍が再び衝撃に揺れた。
それはきっと、不運な事なのだろう────もしか、或いは。これすらもザフトの思惑通りだったのかもしれない。
本来であればその戦略に気が付けたはずの
中央突破を敢行したタケルとユリス。次ぐ残りのコンクルーダーズによる第2第3艦隊への強襲。
鮮烈な戦いを見せる彼等に意識を向けさせられ、同盟軍の誰もが気が付けなかった。
その中で最も早くそれを察知できたのは、艦の指揮をバルトフェルドに任せてキラが戦う戦場を見つめていたラクス・クラインであった。
目に映る映像の中に奇妙に残る違和感────それが何なのか、じっくりと時間をかけて手繰っていった結果、ある事実に気が付く。
「────バルトフェルド隊長。敵艦隊に攻撃を仕掛けてこない艦がありますわ」
「何!?」
違和感の正体。それは確認されている敵艦隊の総数にそぐわない艦砲射撃の数であった。
映像にある並んだナスカ級2隻の内1隻が、まるで攻撃をせずに待機しているのだ。
大っぴらではない。違和感ばかりで中々気が付けなかったのは巧妙に攻撃密度を相手が操っていたからだろう。
「────どういう事だ。この状況で出し惜しみだと?」
「そんな状況では無い筈です。カガリさん達がタケルを退けた今、同盟軍は一気呵成と攻め立てています……これを押し留められなければ、私達はデュランダル議長が居る要塞まで真っ直ぐに──」
ぞくりと、ラクスの背中を嫌な予感が過った。
今自分は何と言った?
真っ直ぐ────そう、真っ直ぐである。
数の利を以て包囲戦をする筈の同盟軍艦隊が、右翼と左翼の2方向から鼻っ面を合わせるくらい真っ直ぐな角度でメサイアへと侵攻していた。
戦闘開始からここまで、同盟軍はタケル達が中央の第1艦隊を抑えた事で両翼の第2第3艦隊からメサイアへと侵攻し、V字の戦線となってしまった。
更にはコンクルーダーズの追撃によって第2第3艦隊も一度足を止められ、中央付近の戦線が抑え込まれてしまう。これにより足並みをずらした同盟艦隊はV字の戦線を更に縦長に引き延ばされた。
対するザフトの布陣は横に広がらずメサイアを中心に扇形の防衛隊形である。必然、両翼に広がった第2第3艦隊はメサイアを包囲する為にV字を絞る様にして侵攻していくことになる。
この時点で同盟軍は、本来大きく横に広げていた
そして、極めつけはカガリの激である。
同盟軍指揮官であり、オーブの獅子。戦場に響いた彼女の声が、同盟艦隊の意気を上げてしまった。
コンクルーダーズを退け、勢いのままに進軍────誰もがその光景を思い描き、結果として同盟艦隊は足並みを揃えぬままメサイアへと侵攻してしまう。
コンクルーダーズに因る足止めが一つ二つと功を奏し今この時、メサイアを包囲するはずの同盟艦隊はその隊列を長く長く引き延ばされてしまっていたのだ。
「隊長!! 左舷遠方より接近する敵影────ザフト艦隊です!」
絶望の報せは、彼方より舞い込んだ。
どこに潜んでいたのか……湧き上がる疑問と共に、マリュー・ラミアスは戦慄した。
進行中の第3艦隊の数隻が横合いから攻撃に晒され撃沈し、初めてその脅威を捉える。ザフトの高速艦船ナスカ級が6隻……引き延ばされた第3艦隊の側面に展開していたのだ。
「一体どういう事なの……ザフト艦隊のほとんどは、要塞の防衛に回っていたはず」
「艦長!! ナスカ級が2隻、同盟軍艦隊へ向けて突出してきます!」
「なんですって!?」
側面ではない。前方に居並ぶ要塞前の防衛艦隊であった。
そこからナスカ級が数2隻。同盟艦隊の射撃の的にでもなるかの様に突出して出てきていた。
「まさか……特攻!? くっ、ローエングリン照準! 目標、前方のナスカ級!」
このまま接近されて良いように撃たれては敵わない。
恐らくは側面の奇襲をより効果的にするために行われた正面からの特攻。
一撃でこれを仕留め、即座に転身し側面へと応対する────後手に回ってもマリューの対応は早かった。
「ローエングリン、バレル展開────照準、前方ナスカ級!」
「てぇー!!」
だが、アークエンジェルが鮮やかな閃光を吐き出す刹那。
一足早くナスカ級の後方より巨大な閃光が飛来し、件の戦艦を撃ち抜く。
瞬間、戦場がまたも大きく揺れた。
「本当に見事なものね、ギルバート──」
ミネルバの艦橋から戦場を見渡し、タリア・グラディスはある種の畏敬を抱いて呟いた。
先程戦場で弾けたナスカ級。その正体はザフトが用意した新兵器ミラージュ・アステロイド────移動用のブースターを搭載した小惑星を大まかに削り、デスティニーに搭載されたミラージュコロイド投影技術を応用してナスカ級の見た目を投影した、光学カメラではまず見分けがつかないアステロイドでのダミー艦船である。
開戦時からメサイア防衛に並んだザフト艦隊の、おおよそ3分の1にこれが仕込まれていたのだ。
それを悟られぬ様ミネルバとフォルトゥナを中心に十分な艦砲射撃を行い、敵を誘引。後にダミーで浮いた余剰戦力を潜ませ然るべき時に側面より挟撃。併せてダミー戦艦を特攻させ、後退したミネルバとフォルトゥナが前線艦隊をブラインドにタンホイザーでダミーを破壊。ブースターを中心に爆裂させる事で、居並ぶ敵艦に岩塊の雨を降らせる。
側面と正面からの痛打に、同盟艦隊は成す術も無く被害を増やすと言う寸法であった。
意表を突く、などと言うレベルではない。
思い出すはヘブンズベース攻略戦での出来事…………陽電子リアクターを備えたMAザムザザーによる特攻兵器だ。
あれを参考に、数を頼みにできないザフトでも用いる事ができる様にデュランダルが考案した戦術である。この攻撃の有用性はザフトこそが身に染みて理解しているだろう。
言うなれば、ロゴスとの戦いを知らない者達には想定できない教訓なのだ。
当時沈黙の途にあったオーブ軍が知る筈もない。
「MS隊、帰投してきます!」
「損傷は?」
「エネルギーの消耗以外は殆どありません」
アビーの報告にタリアは僅か安堵した。
彼等を気遣っての事では無い。無論、艦の長として彼等が墜とされる様な事は受け入れ難いが、そもそもこの段階で損傷を受け整備が必要に慣れれては困るからだ。
────本番は、ここからなのだから。
『艦長、ルナマリア達のチャージを終えたら再び前線に出ます』
「頼むわ、レイ────ルナマリア達も良いわね」
『はい、問題ありません』
『まだまだ疲労からは程遠い』
『全然余裕ー』
『うん、いけるよ』
MS隊全員から返って来る堂々たる声に、タリアはまた1つ安堵した。
そう、本番はここから。これまでの奇策を大きく見積もっても、未だ戦力差は3対1が関の山である。
陣形は引き延ばされた同盟軍の艦隊をザフトが包囲する形にはなっているが、少数が多数に対して包囲陣形を取るのは多分に無茶がある戦法だ。
少ない戦力をさらに切り崩して別動隊を生み出しているのだ────それぞれに向きを定められ相対されれば各個撃破で終わってしまう。
ここからが本当の総力戦。そして、敵が陣容を立て直す前にできる限り数を減らす時間との勝負。
タリアは安堵から気持ちを切り替えて、鋭い視線を戦場へと向け直した。
「アーサー、MS隊が前線へ出る前にもう一度タンホイザーで敵艦隊を薙ぎ払う。フォルトゥナにも要請して!」
「はい!」
伝達されていく次なる指示。今一度と展開される巨大な砲身に臨界した光が集っていく。
戦いが次なる段階へと入った事を報せる、巨大な2つの閃光が再び戦場を引き裂いた。
決戦はここから、敵味方が入り混じる混戦模様へと向かい始める。
完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)
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後日談の日常回
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オリジナルプロットの劇場版
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SEED FREEDOM
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企画:タケルユリスinOO世界