機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-124 抜かれる刃

 

 

 星々の大海に光が散る。

 

 1つ、また1つと。

 幾つにのぼるかもわからぬ程の命がこのプラント近傍の宙域に消えていく。

 

 2年前と変わらずの大きな陣営が2つ。雌雄を決する戦いはまたしても総力を挙げて行われ、多くの後悔と怨嗟を遺して宇宙に光の花が咲いていた。

 

 

 

 

 

「スコット撃沈!!」

 

 また1つ────ナタルの傍らで大きな花火が散った。

 隣の隣で共に艦隊戦を演じていた友軍艦のローラシア級が沈んでいく。それを成した巨大な光条に、ナタルの中で嫌な予感が過った。

 

 

「アークエンジェル接近! 距離1000!」

「迎え撃つ、回頭15! ミサイル発射管1番から8番までナイトハルト装填。発射角を5度刻みで斉射後にトリスタンで狙い撃つ!」

 

 

 聞きたくない報せが飛び込んでくるのを呑み下し、ナタルは“敵”へと目を向けた。

 白亜の戦艦アークエンジェル────自身が乗るミネルバ級2番艦フォルトゥナは、あつらえたかのように同じ色合いに染められたザフトの最新艦であった。

 よもやこうしてまた、あの艦を相対するなどとは夢にも思っていなかったナタルは、険しい表情で()の英雄艦を見つめる。

 

「(それでも今の私は、嘗てより迷いはありません…………マリュー)」

 

 陣営も世界も、何も関係ない。

 今のナタルが見据えるのは、ただただ愛する人の悲願の一助となる事。

 その先に、彼の幸せが無くとも……全てを覚悟してナタルはフォルトゥナの艦長席に着いているのだ。

 

 古巣を見つめる彼女の視線に、躊躇いは無かった。

 

 

「ナイトハルト、てぇー!」

 

 

 2年越しの再戦は、ミサイルの応酬から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗夜を思わせる色合い。

 宇宙に同化してしまいそうな鏡面装甲を持つシンゲツを駆り、サヤ・アマノはミゲル・アイマンが駆るアスパイアと激戦を繰り広げる。

 

 サヤとシンの相性を知るミゲルによって巧みに分断され1対1となった今、頼れるのは己のみと奮起するサヤ。

 対するミゲルも決して余裕は無く、シンゲツが見せる高い機動性に翻弄され、要のティルヴィングは空を切るばかりであった。

 

「こんな形で貴方と対する事になるとは思いませんでした、ミゲル・アイマン!」

「ちっ! それはこっちだって同じだ、ヤヨイ!」

 

 回り込まれて振りかぶられるゲツエイを、ビームシールドで受け止める。

 干渉して溢れる光が2機を照らすも、即座にシンゲツが離れて今度はゲツエイからライフルを打ち込んでいく。

 それを2度3度と躱しながら距離を取ると、アスパイアは最大戦速で射撃を振り切った。

 

「はっ、流石はあいつの妹か……機動も戦い方もそっくりだ」

 

 巧みな挙動から繋ぐ接近戦。接近が叶えば機体を滑らせるように潜り込ませ回り込んでくる。

 嘗て、タケル・アマノが駆るM1アストレイと対峙していた時を思わせるシンゲツの機動に、ミゲルは懐かしさすら覚えてほくそ笑んだ。

 

「だがよ、それくらいなら2年前に履修済みだ!」

 

 次なる接近を迎え撃つ────撃ち込まれるゲツエイの射撃を躱しきると、機体をシンゲツへと向けてフルブースト。接近するタイミングを図っていたシンゲツの先を取る。

 

「くっ、タイミングを読まれた!?」

「おせぇ!」

 

 出鼻を挫かれたと同時。速度だけならシロガネ・コクウに並ぶであろうアスパイアの速力がサヤの想定を超える早さで、ミゲルの接近を許していた。

 振り抜かれるティルヴィング。防御不可能な絶対的一撃が、シンゲツを両断しようと迫る。

 

「捉えた!」

「嘗めないで下さい!」

 

 接近からそのまま胸部目掛けて横薙ぎに振り抜かれたティルヴィングを、しかしシンゲツは背面へと倒れる様に宙返りの要領で躱しきる。

 

「ち、なら──っ!?」

 

 ティルヴィングによる一撃離脱の接近戦と、距離を取ってのガラディンによる砲狙撃戦。それを叶える為に備えられた大型バーニアによる最大戦速。

 アスパイアの戦術に従い、ミゲルは駆け抜け様にガラディンを展開し狙い撃とうとするも、回避軌道へ移行。

 サヤのシンゲツが回避と同時に構えていた背部ビーム砲塔ツキヨミが光を吐き出し、アスパイアを狙い撃つ。

 

「あぁ、ホント! 良くやりやがるぜお前もよ!」

 

 機動性を犠牲にした最大戦速──故にアスパイアは小刻みな回避軌道を取りにくい。

 シールドを展開しながら光条を避けていれば動き出しを押さえ込まれ、またシンゲツの接近を許す事になった。

 

「はぁあ!」

「やらせねえよ!」

 

 ゲツエイのビームサーベルをシールドで受け止めて、再び2機を光が照らした。

 

「ミゲル・アイマン、教えてください! お兄様は一体、この戦いの先にどんな未来を見ているのですか!」

「今それを聞いて何になる! この状況になってまだ、あいつを説得でもするつもりか?」

「無論────その通りです!!」

「はっ! 威勢だけはいっちょ前だな!」

 

 はっきりと言い切って見せたサヤの勢いに押される様に、アスパイアが僅かに後退。

 誘い水だと悟ったサヤは反する様に、シンゲツを下がらせて距離を取った。

 

「無理だヤヨイ。いくら説得したところで、今更何を言ってもアイツはもう止まれねえ!」

「では! 貴方はそれで良いのですか!」

「お前もわかるだろ、他ならぬアイツがそれを望んでねえんだよ!」

 

 アスパイアがガラディンを構え、撃ち放つ。

 大口径のガラディンから叩きつける様に次々と吐き出される閃光を、サヤは必死に回避していく。

 

「お兄様が、望んでいない……」

こっち(ザフト)に来て、袂を別って。お前達と戦っちまったアイツが、一体どの面下げてお前達の元に帰れるってんだ!」

「それは……」

 

 サヤは目を見開いた。

 分かっていた事である。この事態にこの戦い……大切な場所へと弓引いたタケルが、おめおめと戻ること等あり得ない。

 そんな事が出来るのなら、今この時敵となって戦っているわけがないだろう。

 

「でも、だとしたら! お兄様はこの戦いの後どうするつもりなのです!」

「知らねえよ! アイツは結局、俺にだって全てを明かしちゃくれねぇ!」

「だったら、何故貴方は──」

「だが止められねえなら、傍で助けてやる事しかできねえだろうが!」

 

 全てを諦めた顔。未来を映す事を忘れた友の瞳が脳裏を過ぎり、ミゲルは何度もトリガーを引いた。

 トリガーの度に放たれるガラディンの閃光がシンゲツを捉える事は無いが、サヤもまた回避に必死で戦闘は膠着していく。

 

「アイツはもう、人類を信じられなくなっちまった……俺達の事も、お前達の事もな。そうして抱えている想いも、辛い気持ちも全部仮面の奥に隠して、ただこの世界を平和にすることだけを夢見ちまったんだ」

「でしたら! 力づくでも止めて見せます」

「止めてどうする! またアイツに戦わせるのか? もう一度平和の為に戦ってくれと、諦めちまったアイツに鞭を打つのか! お前達の理想に、アイツを押し込もうとするんじゃねえよ!」

「違います!!」

 

 僅かな隙を突いて、回避と同時にツキヨミを展開。アスパイア目掛けて撃ち放ちガラディンの連射を止めて見せる。 

 僅かに切らした息を整えながら、サヤは必死に胸の想いを言葉に変えてひねり出した。

 

「もう戦わなくても良い。お兄様は平和なんて気にしなくても良いのです……ただサヤは、お兄様に心の底から笑って幸せに生きて欲しいだけなのです」

「ヤヨイ……」

 

 覚悟を以て、サヤは想いを吐露していく。

 何故戦うか。何故兄を取り戻したいか────それは、愛する兄の為ではない。

 

「お兄様が望んでいなくても関係ありません。私はただ、私のエゴでお兄様に幸せになってもらいたいだけ…………いえ、そもそも私が幸せにして見せます!」

 

 サヤ・アマノの胸の内にあるのはただ己────デスティニープランを否定するたった一つの事柄、人が持つ意思。

 

 それがきっと、自らが望む最大限の幸せなのだから。

 それがきっと、自らが傷つけてしまった兄への最大限の贖罪だから。

 それがきっと、2度とあのような“後悔”をしない為のサヤ・アマノが戦う理由だからと。

 

 サヤ・アマノは自らが幸せとなる為に、タケル・アマノが未来を捨てる様な事は許せないのである。

 

 

 

 

 ──種が開いた。

 

 

 

 黒曜の瞳から光が消える。

 それは奇しくも、戦場のどこかで真紅の眼から光が消えるのと同じ時であった。

 

 

「ミゲル・アイマン、退いてください────サヤは貴方の様に、お利口さんで終わるつもりはありません!」

 

 

 シンゲツの背部に開かれる光の花、可動性多角スラスターに備えられたヴォワチュール・リュミエールが光を吐き出し、フルパフォーマンスを発揮する。

 

 ドン、と音が聞こえそうな加速。それだけで意識が飛びそうな限界ギリギリの加速Gを感じながら、サヤはシンゲツを操りゲツエイを無造作に数射。アスパイアを囲う様に狙い、足を止めさせる。

 

「ちっ、上等だ……掛かってこいヤヨイ!」

 

 真っ直ぐに向かい来るシンゲツを見やり、ミゲルはティルヴィングを出力して身構える。

 サヤの狙いがこれまで通り接近からのゲツエイに因る攻防であれば、カウンターでティルヴィングを合わせてゲツエイごと叩き切る────その思惑である。

 

 対するサヤはゲツエイをマウントし長刀型実体剣オハバリを選択。両手に握らせたオハバリを突き出す形で吶喊する態勢を取った。

 

「そんなもん……武装ごと断ち切って終いだ、ヤヨイ!」

「やぁああ!!」

 

 突き出されるオハバリ。それを断ち切ろうとタイミングを合わせて振り下ろされるティルヴィング。暗夜と純白が交錯する。

 その結果は──

 

 

「──何だと!?」

 

 

 ティルヴィングの大きめの柄本から光が失われ、ミゲルは目を見開いた。

 交錯するその瞬間。SEEDが齎す反射能力によってサヤが狙ったのはアスパイアがティルヴィングを持つその右のアームユニットの付け根。

 針の穴を通す様な精度で突きささったオハバリによって、ティルヴィングはエネルギーの供給路を断たれ、更には放出されて光の刃を失っていた。

 これがもしゲツエイから出力したサーベルであれば仮にアスパイアのアームユニットを断ち切れたとしても出力した光刃は消せず、そのままシンゲツが断たれていた事だろう。

 ミラージュコロイドを介した放電能力を持つオハバリだからこそできる、薄氷の上を渡る攻防であった。

 

「終わらせます!」

 

 驚愕に揺れたミゲルを置き去りにオハバリを手放したシンゲツは、アスパイアの側面へと回り込む。

 再び抜き放たれる短いゲツエイからサーベルを出力。横薙ぎに振り抜かれたサーベルが、ブースターにラックされているガラディンを断ち切った。

 

「ぐっ、がぁああ!?」

 

 即時の射撃を可能としているガラディンに搭載されたジェネレーターが大きく爆発を起こし、アスパイアは大きな衝撃に見舞われた。

 要となる背部のバーニアも爆発の余波を受けてエラーを吐き出し停止。ティルヴィングしか残らないアスパイアは事実上の無力化となる。

 

「ハイドロ消失……ちっ、動けねえ」

 

 完敗であった────突き付けられる現実。敗北の事実がミゲルの胸にのしかかった。

 こんな所で負けるつもりなど無かったと言うのに。フリーダムやジャスティスどころか、嘗て拾った生意気な庇護者にしてやられる等と。

 

 悔しさに顔を歪めるミゲルに、サヤは陥ったSEEDから我に返って再び通信を繋いだ。

 

「ミゲル・アイマン……旗艦アマテラスに救援要請を打診しておきます」

「あぁ? 何のつもりだ?」

「貴方はサヤにとってもお兄様にとっても大切な命の恩人です。サヤはこの場で捨て置く事しかできませんが、死んで欲しくはありません」

 

 戦線は同盟軍側が徐々に押し始めている。現在彼等が居る場所もそろそろ激戦区とは言えなくなるだろう。

 情けをかけるサヤの言葉にまた1つミゲルの顔は歪んだが、サヤは構わず続ける。

 

「回収されて、もしまだ動けるようであれば……ミゲル・アイマン、どうか力を貸して下さい」

「力を貸せって……アイツを取り戻すお前の我儘にか?」

「はい、貴方が拾ったヤヨイ・キサラギの我儘の為にです」

 

 悪びれも無く嘗ての名を。そして我儘と言ってのけたサヤに、ミゲルは目を丸くした。

 言うなれば“拾った子供”の我儘を聞けと……ヤヨイ・キサラギの名を持ち出し、元保護者である責任を取れとサヤは言っているのだ。

 

 本当に随分と我儘な言葉に、ミゲルは次いで苦笑を溢した。

 

「────ホント、お前等兄妹は揃いも揃っていつも好き勝手言ってくれる」

「ふふ、なんだかんだと優しい貴方が相手だからでしょう…………私も、お兄様も」

 

 普段人に頼ることができない性分だからこそ。

 タケルもサヤも、無茶を押し付けられる様な間柄の彼には好き放題言える。そんな気がした。

 

「はっ、面倒な縁を作っちまったぜ」

 

 吐き捨てる様でありながら、しかし少しだけ上擦った様にも聞こえるミゲルの声に、サヤもまた笑みを溢した。

 兄にとって本当に良き友人で在ってくれる彼には感謝しかなかった。

 大切な居場所。大切な人達と戦う事を前にした兄にとって、彼の存在がどれだけ支えになったか……それはミゲルのこれまでの言動を見ればわかると言うものだ。

 

 先程の戦いの最中で彼が溢したが、タケル・アマノにとってミゲル・アイマンは全てを明かすに足る人間ではないと。

 だがこれは恐らく違う。タケルにとってミゲルは、“全てを明かさなくても共に居てくれる”と信じられる存在なのだと。

 

 それは恐らく、ナタルやメイリンと同じだ。

 

 

「ミゲル、私はお兄様の元へ参ります…………必ず、この手でお兄様を取り戻して見せます」

「気を付ける事だ。アイツはいつも、俺なんかじゃ届かない高みに居る」

「存じていますよ…………サヤは、貴方よりもずっと長きに渡りあの背を追い続けて来たのですから」

 

 

 それはもう、届かぬと決めつけてしまうくらいには────続く言葉を発さぬまま、サヤは漂うオハバリを回収し機体を翻した。

 

 

「それでは」

「あぁ、しっかりやれよ」

 

 

 

 

 

 言葉少なにその場を後にするサヤのシンゲツを見送り、ミゲルは静寂となった戦場で大きく息を吐いた。

 

「────また、負けちまったな」

 

 戦闘は徐々に、ザフトの劣勢へと傾き始めている。

 フォルトゥナにはアークエンジェル。ミネルバにはエターナルがぶつかり合い、艦隊戦では数の差が少しずつ顕在化してきており、ザフトの戦線は崩れつつあった。

 

 

「はっ、のんびり待ってる場合じゃねえか」

 

 

 キーボードを取り出し、エラーを吐き続けるメインブースターの対処にミゲルは手を付けだした。

 

 

 

「────待ってろよ、ダチ公」

 

 

 

 脳裏に過ぎる未来を願う事を忘れた友へと呟きながら、ミゲルはひたすら今できる事に邁進するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降り注ぐ驟雨の光。

 

 僅かにでも受ければ機体が傾くそれを必死で駆け抜けて躱していく。

 そこから雷を思わせる変則機動を以て接近へと繋げれば、ビャクヤ抜き放ち叩きつける。

 

「ちっ!」

「ぐっ……こ、のぉ!」

 

 シロガネの接近を見るやレジェンドはビームジャベリンで迎え撃ち、2機の間に光が散った。

 接近の勢いのままに叩きつけるも難なく受け止められ、機体の駆動力の差を感じながら、ムウはすぐさまレジェンドから距離をとった。

 

 

 ムウ・ラ・フラガとレイ・ザ・バレル────2人の戦いは血反吐を吐く想いで限界機動を続けるムウによって、どうにか互角を保っていた。

 

 旧式のシロガネを駆って、実質サードステージに当たる最新鋭機のレジェンドを相手にしているムウは快挙と言えるだろう戦いを繰り広げていた。

 レジェンドが半永久的に放って来るドラグーンからの光条を避けるために、機動性を失えないシロガネはサブスラスター兼ドラグーン兵装であるジンライを使えない。

 嘗て見せたジンライを用いたシールド戦術は既にレイによって看破されており、8枚のジンライで賄えない死角を次々と狙われてしまう状況であった。

 

 結果、全てを振り切り回避していく、命を削るような限界機動戦に移行するしかなかった。

 

「──はぁ、はぁ、くそっ!」

 

 疲労がわかりやすく体に変化を齎していた。

 遅れて来る反応速度。歪んで見えてきそうな視界。落ちていきそうな意識を叱咤して、どうにか繋ぎ止めていく。

 

「そろそろ限界の様だな、ムウ・ラ・フラガ!」

 

 ムウの消耗を感じ取ったレイはドラグーンに因る攻撃密度を上げた。

 11基のドラグーンが次々とシロガネの周囲へと回り込んでいき一斉に光を吐き出す。

 

「ぐっ、うぉおお!!」

 

 必死にムウが機体を翻す中、1つ2つとドラグーンの光がシロガネに命中し始めた。

 鏡面装甲ミカガミによって霧散するもその衝撃までは消せない。当たる度に揺れるコクピットが、ムウの焦りを助長していく。

 

「えぇい! ならば!」

 

 最大戦速でレジェンドへと向かいながら更にジンライを射出。

 既にシロガネの内部フレームには限界機動と命中し始めたビームの衝撃による過負荷がダメージとなっており、ステータスは赤く染まり始めていた。

 

 であるなら、もはや回避を捨てる。ムウが狙うのはジンライによるレジェンドへの攻撃のみ。

 鏡面装甲でドラグーンの光条が致命とならない以上、先に討ち取りさえすれば────ムウは決死の攻撃へと移った。

 

 8つのジンライが光刃を出力しレジェンドへと迫る。

 しかし、レイはレジェンドのライフルで2つを狙撃。装甲で霧散しようとも小さく軽いドラグーン端末が打ち抜かれれば衝撃であらぬ方へと飛ばされる。

 更に夥しい砲門を備えるレジェンドのドラグーンは機体を守る様に光の檻を形成。迫りくるジンライを寄せ付けない。

 

「うぉおお!!」

 

 そこへ慣性速度のままに突っ込んでくるのは右手にビャクヤを構えたシロガネ本体。

 8つのジンライを囮とした波状攻撃の本命。既に内部フレームのガタで動きの鈍ったシロガネではあるが、それでも手に握らせたビャクヤをすれ違い様に当てる事は可能だ。

 

 

 しかし、ジンライを射出して機動性を失ったシロガネの動きを、レイ・ザ・バレルが捉えられない訳もない。

 

「────肉を切らせて骨を断つ、か。浅はかだな!」

 

 間に挟まれるビームジャベリンがビャクヤを受け止める。

 次いで、レジェンドのドラグーンがビームスパイクを展開。シロガネの左肩口へと突き刺さった。

 

「くっ、がぁああ?!」

 

 コクピットにまで伝わる衝撃と爆発の余波。これでシロガネは左腕の機能を失う。

 更に、駆動力の差のままに跳ね除けられたシロガネは力なくレジェンドの前に漂った。

 

 

「終わりだ、ムウ・ラ・フラガ!」

 

 

 数々の生み出された因縁にケリを付けんと、レジェンドはビームジャベリンをがら空きとなったシロガネの胸部へと突き出した。

 

 

 

「フラガ少佐!!」

 

 

 

 飛び込んでくる強い声────そして色鮮やかな黄色の機体。

 

 アサギ・コードウェルが駆るキンシャクが、レジェンドのビームジャベリンを受け止めていた。

 

「お、お前達……l

「一度退がってください少佐!」

 

 驚くムウを尻目に次なる声はマユラ・ラバッツ。

 デスティニーが持つ紅蓮の翼とも、ジャスティスの鮮やかな紅色とも違う。橙赤色に近い色合いの(あか)────マユラのシュトリがレジェンドの背後を取っていた。

 

「ちっ! またお前達か!」

「いやああ!」

 

 振り抜かれる脚部ビームブレイドをどうにか機体を逸らして躱せば、レイは次の手が来ることを予期した。

 

「ここっ!」

 

 深い濃紺の機体コンカク。スコープを覗くはジュリ・ウー・ニェン。

 放たれたビームスナイパーは寸分違わず、レジェンドのメインカメラを捉えていた。

 

「嘗めるな!」

 

 寸前でビームシールドを広域展開して防御。同時にこれ以上掴まっていては危険だとレイはレジェンドを後退させて彼女達と距離を執った。

 

 

 黄色、朱色、紺色────目の前に居並ぶオーブ三羽烏。

 オーブ戦役から、L4での戦い。そしてこの戦いにおいても。その活躍は十分な程に見せつけられている。

 カガリのアカツキと共に、タケル・アマノが駆るtype-Lを彼女達は圧倒して見せたのだ。その実力は推して知るべしと言う所。

 

 舞い込んで来た厄介な援軍に、レイの頬へ冷や汗が伝った。

 

 

「悪い、嬢ちゃん達……助かった」

 

 

 息も絶え絶え、ムウは心底安堵した様に呟いた。

 恐らくは本当に限界で在ったのだろう。ボロボロになったシロガネもそうだし、シロガネの全開機動で押し続けたムウの身体もそうだ。

 仮に先の攻防でレジェンドの攻撃から逃れられたとしても、ムウにその先で戦い続ける余力は無かった。

 

「フラガ少佐はアークエンジェルに帰投してください」

「ここは、私達が!」

「追撃もさせませんので」

「すまない、頼む!」

 

 ジンライを戻し、ムウのシロガネはアークエンジェルに向かい帰投していく。

 

 それを見送るレイの胸中はとても穏やかではなかった。

 漸く断ち切れると思った因縁。過去から現在、そして周囲へと及ぼした数々の因果を…………しかしレイは仕留め損なった。

 そして目の前には、一筋縄ではいかない強敵が3人。

 

 忌々しく、レイはキンシャク等を睥睨した。

 

 

「レイ! 退がって!」

 

 

 そこへレイの背後より飛び込んでくる聞き慣れた声。

 次いでその場にはレジェンドを避けるように幾つもの光条が飛来する。

 

 慌てて散開したアサギ達に、今度は巨大な対艦刀を携えた漆黒の機体が切りかかった。

 

「でぇええい!!」

「はっ、まずっ!?」

 

 漆黒の機体────ステラ・ルーシェの駆るガイアのエクスカリバーとキンシャクのシールドが火花を散らす。

 次いで、シュトリとコンカクには緑色の機動兵装ポッドがビームを放ち、2人を牽制した。

 先程の光条はブラストインパルスとアビス。そして機動兵装ボッドはカオスのもの。

 

 ルナマリア・ホーク率いるインパルス小隊の参戦である。

 

 

「ルナマリア」

「レイ、ここは私達が引き受けるわ」

「すまない、任せる」

 

 

 言外に先の敵を追えと言ってくれるルナマリアに感謝しながら、レイはレジェンドを翻した。

 向かう先はアークエンジェル。最前線へと出張ってきたシロガネを返り討ちにした今、彼の戦艦こそが同盟軍の一番槍だ。

 

 それを墜とし、ザフトに勢いを取り戻す。

 

 

「まずい!」

「行かせない!」

「マユラちゃん、ダメ!!」

 

 

 過ぎ去っていくレジェンドにアサギとマユラが意識を割いた瞬間、ジュリの警告と共に再び放たれるブラストシルエットのケルベロスと、アビスのフルオープン射撃。

 寸でのところで躱した2人には、ガイアがビームブーメランで追撃し、カオスがサーベルとビームクロウでつけ狙う。

 

「くっ!?」

「対応が早い!」

 

 どうにか受け止め、回避した2人はジュリの元へと下がりながらインパルス小隊の4機を見据えた。

 臨戦態勢のセカンドステージが4機。それも高い練度の連携を見せている────決して気の抜けないレベルの攻防が、今の僅かで確認された。

 

「あはは、ちょっと厳しいかも」

「まだよアサギ」

「きっと、私達の方が上」

 

 不意に入ってしまったSEEDの領域────それが齎した疲労が色濃く残る中現れた強敵の気配に、3人は自らへ言い聞かせるように言い合い己を鼓舞した。

 

「スティング、アウル、ステラ、気を抜かないでね……敵はクルースが手塩にかけて育てたテストパイロット達よ」

「タケルが?」

「へぇ、強いわけだ」

「わかった」

 

 嘗てミネルバがオーブへと寄港した際、アサギ達と面識を持ったルナマリアもまた、油断なくキンシャク等を見据えた。

 

 彼女達はいわば、タケル・アマノの一番弟子だ。

 最も長く、最も厳しく、最も目を掛けて育てられた、彼が生み出した最高傑作。

 ミネルバで僅かな時の教導を経た自身ですら、彼のお陰と言える成長を多々感じたのだ。それを最も受けて来たであろう彼女達がどれ程までの高みに居るのかは、ルナマリアには知れぬものであった。

 

「(でも……あの人から教えを受けたのは私だって同じ!)」

 

 だからどうした。そう言わんばかりにルナマリアは心を奮い立たせる。

 苦手意識を持っていた射撃を克服し、更にはザフトの新鋭セカンドステージの機体を与えられるようになった。

 ヤヨイ・キサラギやレイ・ザ・バレル等の様に突出した才能の無かった平凡な自分が、今ここまで強くなれたのは間違いなく彼の教導があったからに他ならない。

 例え相手がその教導を最も長く受けて来た彼女達であっても、容易く負けるわけにはいかない。

 

 

「今の私は、強いんだ……」

 

 

 抱え続けた劣等感を払拭し、ルナマリアはインパルスシステムを機動。

 ブラストシルエットをアビスへと送り、カオスからフォースシルエットを受け取った。

 育ててくれた恩師に報いるのは彼女も同じ。否、今陣営を共にしている自身こそが相応しい。

 仇を見る様な目で、キンシャク等を見据えた。

 

 

「だから、私だって…………負けられないのよ!」

 

 

 

 機動性を引き上げたインパルスはアサギのキンシャクへと向かいビームサーベルを叩きつける。

 応ずるアサギ。そしてマユラとジュリも動き出す。

 渦中に飛び込むステラと、隙を埋めるように忙しなく援護していくアウルとスティング。

 

 

 決戦の盤面は新たな戦いを巻き起こし、更なる激戦を生み出していくのであった。

 

 

 




次回は最強vs最凶 最高vs最高

感想よろしくお願いします。

完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)

  • 後日談の日常回
  • オリジナルプロットの劇場版
  • SEED FREEDOM
  • 企画:タケルユリスinOO世界
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