メサイア中枢。
指令室の中央に座し、ギルバート・デュランダルは戦場を見つめた。
「────やはりか」
開幕の奇襲から生み出した優勢。投げ続ける奇策の数々は、しかし戦力の差を覆すまでには至らず。
拮抗……そして劣勢へと。いつの間にかザフトは追いやられていた。
分かっていた事ではある。
タケル・アマノが提示した切れる手札の全てを切ったとて、全てが思う通りの成果を出せるわけでは無い。
特に問題だったのは、カガリ・ユラ・アスハとオーブ三羽烏の3人がSEEDへと陥り、タケルとtype-Lを撃退した事だろうか。
無論、その場で彼女達と相対したわけでもないデュランダルに傍目での真実は分からないが、あの場での結果がオーブ国防軍を勢いづかせ、後に続いたザフトの挟撃と鶴翼の包囲網を凌ぎ切るだけの勢いを与えてしまった。
包囲殲滅の作戦を活かし切れなかった事が災いし、数の利が徐々に同盟軍の優勢を作っていったのだ。
「君には本当に申し訳ないと思っている────だが、これまでだ」
閉ざした瞳を開いた時、そこにあったのは決意の表情であった。
ここまでよくやってくれた────そう、感謝の念を込めながらも、ギルバート・デュランダルは最後の扉を開くべく声を挙げる。
「ネオジェネシスを起動しろ」
禁断の光────悪魔の兵器の名を告げて、ギルバート・デュランダルは、己の最後の戦いを開始するのであった。
「やぁああ!!」
シンゲツの背中に光の花が咲く。
ヴォワチュール・リュミエールが齎す高機動をもって、迫りくるライソウを躱し、type-Lの懐へと飛び込んでいく。
「それでは甘いよ、サヤ!」
シンのデスティニーから投射されたフラッシュエッジを弾きながら、シンゲツへと続くライソウの波状攻撃。接近してくるシンゲツを、タケルはまるで相手にならないと言わんばかりに追撃して回避軌道を取らせると、腰部のフラッシュエッジを2本投射。更なる攻撃でシンゲツの接近を阻んだ。
しかし次の瞬間、タケルの背中を悪寒が撫でる。
「うぉおお!!」
振り下ろされるアロンダイト。
接近警報とタケルの感覚が検知するのは同時であったにも関わらず、接近していたデスティニーは既に目の前であった。
「シンゲツに意識を向けた瞬間を狙い最高速度で飛び込んでくるか……思い切りだけは変わらないな!」
両腕のソリドゥス・フルゴールを展開。V字に展開したビームシールドでアロンダイトを挟み込む様に受け止めると、直後には一方を解除して、機体から逸らす様に流してやり過ごす。
回り込んだデスティニーの背後には、極大の光を湛えた掌部を向けた。
「っ!?」
直後に、タケルは機体を後退させる。
眼前を……シンのデスティニーを庇う様に割り込んで来たフラッシュエッジ。
デスティニーにそれを投射する余裕は無かったはず……SEED下での思考が直ぐにその答えを導き出した。
「ここです!!」
接近してきていた機体……答えはシンゲツ。
シンのデスティニーが最初に投射したフラッシュエッジは弾かれることも踏まえた上でシンゲツにこれを渡すための囮。
そうして手にしたフラッシュエッジでサヤはタケルの想定を覆し、隙を作り出した。
「ちぃ!」
突き出されるゲツエイのビーム刃。type-Lは肩のフラッシュエッジを抜き放ち切り結んだ。
「シン!!」
「あぁ!!」
タイムラグの無い、即座の攻撃。
シンゲツへの対応にtype-Lが回った瞬間に、デスティニーがお返しのパルマフィオキーナを向ける。
「その程度!」
不意をつかれたとしても……タケルは恐るべき反応速度でライソウを差し向けた。
腕部へと叩きつけられるパルマフィオキーナに、ライソウを割り込ませ犠牲にし、どうにかtype-Lは危機を脱して見せる。
だが、そこまで。
「終いです……お兄様!」
横薙ぎに振るわれる光刃────シンゲツが所有する長尺型のゲツエイだ。
メインカメラを狙ったそれは、滑り込む様にtype-Lの首元へと迫った。
「させないわよ!!」
寸前、振るわれたゲツエイは上から飛び込んで来たMSによって叩き切られる。
至近でゲツエイが爆発しシンゲツは後退。同時にデスティニーも乱入者を確認するべく一度type-Lから距離を取った。
トリコロールカラーに染まる、万全な状態の機体。その手に握られるはレーザー対艦刀エクスカリバー。高機動用のフォースシルエットを装備して──
「無事ですか、クルース!」
ルナマリア・ホークとインパルスの参戦であった。
予想外の援軍に、タケルは僅か呆気にとられた。
「──ルナ、マリア?」
「もう、なんですかその顔? 私が助けに来ちゃおかしいです?」
ラウ・ル・クルーゼの仮面はもう無い。
久しく見ていなかった素顔に張りつけられた驚きの表情に、ルナマリアはどこか軽い声で問いかけた。
「いや、すまない────助かった」
「もう仮面を着けてないのに、口調は戻さないんですね」
「どちらとも言えないさ」
強いて言うなら、変わらず残っている見栄であろうか。
彼女達の隊長であった時が在ったから……応対する相手に合わせて切り替わってしまう。
ルナマリアが言う様に仮面はもはやないと言うのに、変わらず仮面を被れる自分が、タケルは妙に可笑しく思えた。
「助太刀、させて下さい────
「まさか君に助けられる時が来るとはな……だが、みすみす敵わぬ相手に突っ込ませること等」
「できますよ。やれます……私は今も変わらず、貴方の部下なんですから」
自信たっぷりに言ってのけるルナマリアの声に、タケルは固い決意と覚悟を感じ取り、小さく頷いた。
何が切っ掛けなのか。何が彼女を変えたのか。それらは些末な問題だ。
一つの事実として確かに在るのは、ルナマリア・ホークは十分にサヤ・アマノの相手に相応しいであろう事であった。
「────任せる」
「はい、お任せを!」
素直な了承の返事を聞いて、ルナマリアは1つ表情を輝かせると機体を翻した。
フォースシルエットが唸りを上げ、向かう先は暗夜の機体シンゲツ。
手にもつ対艦刀エクスカリバーを引っ提げ、それを無遠慮にシンゲツへと叩きつけた。
「ぐっ!?」
「さぁヤヨイ、御仕置の時間よ! 心配ばかり掛けておいて、ふらふらとシンや隊長を誑かすばかりの悪い子は、お姉ちゃんが叱りつけてあげる!!」
「ルナマリア!? こんな場所で何をバカな事を!!」
「バカな事をしているのは、あんた達でしょう!!」
残ったゲツエイで受け止めたシンゲツを、エクスカリバーの重量に任せて弾き飛ばすとビームライフルで追撃。
今や苦手な射撃の面影など無いルナマリアの容赦ない攻撃は、次々とシンゲツの各所を撃ち抜いていく。
鏡面装甲で弾かれていくビームの衝撃を受けながら、サヤは焦りを浮かべて唇を噛んだ。
「(まずい! これまでの戦闘でヴォワチュール・リュミエールを使い過ぎました……エネルギーは残り3割強。これではルナマリアを制したとて、お兄様との戦いは──)」
「考え事とは余裕ね!!」
思考を回していたその隙間を目ざとく嗅ぎ付け、インパルスは再び接近。
再び大上段へと振りかぶられるエクスカリバーに、サヤは鋭い視線を向けて機体を翻した。
「そのような大振りで!」
「そう来ると思ったわよ!」
僅かに横に逸れるシンゲツへ、エクスカリバーを手放したインパルスがシルエットのビームサーベルを抜いた。
回避先へと叩き込まれた光の刃を、シンゲツは咄嗟に展開した腕部の光波防御帯で防ぐ。
「くっ、子供騙しを──」
「相変わらずの優等生ね! 私があんたを相手に真っ向から勝負できるわけが無いでしょ!」
パイロットとしての実力は到底及ばない。
機体性能もバッテリー搭載機である事以外、基本的にはシロガネ・コクウやフリーダム、ジャスティスを参考に設計されたシンゲツはインパルスと比較して高い機体性能を誇る。
当然ながら、正面からぶつかり合って勝てる道理はない。
しかし──
「ぐっ、でしたら! サヤは真正面から貴方を打ち破るだけです!」
抜かれるは長刀型実体剣オハバリ。
一度切りつければ、装甲面よりミラージュコロイドを介して通電し敵機の動力を奪う事が出来る。
特にPS装甲持ちの機体には顕著な効果を発揮する。装甲表面へと電力を回しているPS装甲であればどこを切りつけようと通電が可能。
シンゲツとオハバリにとって、セカンドステージのインパルスは動力回復の電池に成り下がると言えよう。
「それも……読めてたわよ!」
シンゲツの高機動から、何の捻りも無い一撃────それをインパルスは、エネルギーを介さない物理シールドで素直に受け止めた。
エネルギーの残量が心許なかった事がサヤを焦らせたか。はたまた宣言の通り、ルナマリアが彼女の動きを読み切ったか。
恐らくどちらもが功を奏し、本来であれば切り捨てられる予定であったインパルスは、シンゲツの攻撃を完璧なタイミングで防いで見せた。
「しまっ──」
「もらった!!」
受け止めると同時、腕部を最大駆動。シールドを一度引いてから勢いをつけてシンゲツの腕を弾く。
衝撃に緩んだマニピュレーターが、シンゲツの手からオハバリを取りこぼした。
「くっ、だからとて!!」
しかし、サヤ・アマノがされるがままの訳もない。
弾かれた勢いを利用して体勢を変えると、背部ビーム砲塔ツキヨミを腰だめに展開。
眼前のインパルスへと光を吐き出した。
「そんな苦し紛れが当たると思った?」
機体を翻し、距離を取りながらインパルスは光条を躱して見せた。
伊達に研鑽を積んできたわけでは無い────掠りそうな光条に冷や汗を流しながらも歯を食いしばって、ルナマリアはシンゲツの攻撃を回避し続ける。
問題児でありながら成長著しかったシンや、元々の高い技量に加えて鬼才ユウキ・アマノの実子と言う類稀な才能を受け継いだサヤと比べ……ルナマリア・ホークが持っていたのは平々凡々な才覚であった。
だが、彼女は凡人であったが故に努力を惜しまなかった。
クルース・ラウラが討たれ、ヤヨイ・キサラギがザフトを離反し、ハイネ・ヴェステンフルスが部隊を離れ、シン・アスカがアークエンジェルに鹵獲された。
仲間が減る度に。居なくなる度に。ルナマリア・ホークはこれまで以上の戦いをできる様に研鑽を積んで来た。
そんな己を格下と見て侮った少女の驚く顔が、目に見えるようである。
「ちぃ!」
「エネルギーの不安は深刻そうね……そんな状況でどこまでやれるのかしら?」
「無論、お兄様を取り戻すまで!」
この状況でもまだ自身を眼中にないと囀るか。サヤの返答にルナマリアは表情を険しくする。
「そう? じゃあ、それが出来なくなるまでとことん付き合ってもらうわよ!!」
タケルとの戦いを見据えて温存しかできないサヤの心情を逆手にとり、ルナマリアホークは番狂わせを狙って限界ギリギリの戦いに身を投じていくのであった。
ドクドクと脈打つ心臓に煩わしさを覚えながら。
アスラン・ザラはジャスティスをメサイアへと走らせていた。
ユリス・ラングベルトが突如戦線を離脱したことによって自由となった以上、成すべきことを成さねばならない────それが逃げてしまった自分達の償いなのだから。
メサイアとギルバート・デュランダルを討ち、この戦いを終わらせる。
ロゴスが壊滅した今、その先にあるのは平和を作り維持する為の戦い。今度こそ自分は、己の責務から逃げずに戦うと心に決めたのだ。
故に今は、メサイアへと急がなければならない。
ユリスとの死闘で疲労困憊であるのは言うまでもないが、それでもできる事は多いはずである。
しかし、そんな状態のアスランにとって悪夢と言える報せがコクピット内に鳴り響いた。
「っ!? 急速接近する機体────この速度!」
通常のMSが出す速度では無い。僅かな数値からその事実を読み解きアスランはジャスティスを身構えさせた。
「アスラン、貴様ぁ!」
怒声と共に飛び込んでくるのは蒼灰に染まるデスティニー。
両手に握られた大型ビームランスのブラズニルを叩き付けられ、その衝撃にジャスティスが揺れる。
「イザーク!?」
「貴様! のこのこと良くも俺達の前に顔を出せたものだな!」
「くっ、ここに来てお前達と戦ってる余裕など──」
「つれないじゃねえか……悪いがここから先へは行かせねえぜ!!」
イザークのtype-Dが距離を取ったと同時に直上より襲い来る巨大な閃光。
ディアッカが駆るデスティニーtype-Bが持つ連結砲イヴァルディが、ジャスティスを呑み込まんばかりの砲火を見舞った。
「くっ、そぉ!!」
疲労により僅かに反応が遅れたか────回避軌道を取れないまま咄嗟に構えたビームキャリーシールドが巨大な閃光を受け止める。
そこへ即座に横合いへと回り込んだtype-Dがフラッシュエッジを投げ込んだ。
「ちぃ!!」
出力していたラケルタビームサーベルでフラッシュエッジを切り捌くも、更に追撃で接近していたtype-Dはブラズニルを横薙ぎに振るった。
「っ!?」
瞬間的にアスランは息を呑んだ。
必死に機体を動かし仰け反らせると、ジャスティスの眼前僅か数mの距離でブラズニルが通過する。
そのまま必死に距離を取ると、アスランは襲撃してきた2人と対峙する。
「イザーク、ディアッカ……」
「ここを抜かせはせんぞ!」
「タケルの奴が任せてくれた……俺達が、この戦線の最後の砦だ」
ここにきて旧友が2人────アスランは苦しさに唇を噛んだ。
彼等の実力は良く知っている。
互いに2年前の大戦を生き残り、嘗てより少しだけ大人になり────そして2年も己が燻っていた間に、カガリやタケルと同じく必死に平和の為に戦い続けて来た者達である。
「退いては貰えないか、2人共?」
「焼きが回ったなアスラン。敵を前に乞い願うとは……」
「ここまで来てそんな願いが通じると思うのかよ?」
返される言葉にまた1つ、アスランの表情から険しさが増していく。
先の言葉は決して泣き言で吐いたわけでは無い。
コンディション的に討てないという訳でも、ましてや旧友だから討てないという訳でもない。
ただ……討ちたくは無いのである。
彼等とやり合えば、互いに無事では済まない事が十分に予見できる。
ザフト最新鋭の機体であるデスティニーが2機。それを操るは実力に申し分無い、アスランが良く知る2人。
控えめに見ても、ユリスと変わらぬ死闘となるだろう。
「そうか……だったら、悪いが手加減はできないぞ」
ぞくっと、イザークとディアッカの身が総毛立って震えた。
覚悟を定めた声……アスランのそれはどこか仄暗い気配を感じるものであった。
覚悟した。戦うと決めた。アスランに迷いは無かった。
血は争えない、と言う事なのかもしれない。
ナチュラルを討つと決めたパトリック・ザラ同様、アスランもまたカガリが目指す平和の為に戦うと決めた今、どんな障害も迷いなく打ち払う覚悟である。
──種が開いた。
疲労困憊を押して。脳を侵そうとする倦怠感を跳ね除けて。
アスラン・ザラはSEEDへと陥る。
「どいてもらうぞ」
不退転の覚悟を纏いて、真紅の騎士は己が敵へと肉薄した。
月面ダイダロス基地。
基地内に警報が鳴り響く中、身を潜ませながら基地内のシャトル発着所へと向かう人影が3人。
初老の偉丈夫、ユーラシア連邦事務次官ボルト・ミュラーと、フレイ・アルスター。その護衛のサイ・アーガイルだ。
「ミュラー事務次官、御怪我は?」
「心配するなアーガイル。元は連合軍人で将官にまでなった男だぞ? この程度でくたばりはせん」
そう言って僅かに血で赤く滲んだ右腕の脇の下を抑えつけ圧迫止血を施す。そこへサイは止血帯を幹部へと巻き付け応急処置を施した。
「しかし、コープランドにしてやられたな……まさかここまで織り込み済みだったとは」
そう、現在基地内に流されている警報は彼等を見つけ出すためのもの。ダイダロス基地は大西洋連邦の軍人達によって占領されていた。
ユーラシア連邦がレクイエムの修理の為に派遣した技術者たちが全て始末されるのと同時。1隻のアガメムノン級戦艦がダイダロス基地へと来訪。
降りて来た軍人と思われる者達によって基地は制圧され、レクイエム発射の妨害を画策した者としてミュラー達は追われていた。
先程起きた戦闘で応戦したミュラーは右腕を撃たれ負傷してしまったのだ。
「最初からこれが目的だったのね……連中は恐らく、ロゴスとも未だ繋がっていた」
「あぁそうだアルスター。そう見るのが妥当だろう」
「でもなんで……アルザッヘルは壊滅したのに、一体どこからあの戦艦は──」
瞬間、フレイの口元をサイが覆った。
「探せ!」
「C区画にもまだ残党がいるぞ!」
彼等と、恐らくはまだ残っていたであろうユーラシアや東アジア共和国の関係者を捜索している声であった。
「ぷはっ、ありがとうサイ。助かったわ」
「これくらいはね……アマノさんに有事の際のイロハは教わったからさ」
フレイ・アルスターの護衛を志願するにあたって、タケル・アマノが自身も経験した壮絶な訓練をサイに課したのは、彼にとっては記憶に新しい。
無論その程度は十分にサイに合わせて手加減されたものではあったが、大切な愛する人を守る為とは言え軽はずみに鍛え上げてくれなどとタケルに頼み込んだことを、サイは後悔しない事は無かった。
過去に思いを馳せたのも束の間、サイはスーツの内より銃を取りだす。
セーフティを解除。弾倉の確認を行い、その目は未だ騒がしい通路へと向いていた。
「ミュラー事務次官……前は俺が出ます。フレイをお願いして良いですか?」
「一丁前だなアーガイル。まだまだ新米のお前に心配されるほどじゃない……援護くらいはしてやれる」
怪我の影響も何のその。頼もしく言葉を返すとサイと同じく銃を取りだしたミュラーに、サイは苦笑した。
「はは、それは何より────それじゃあ、出来るだけ隠密で行くので御助力下さい」
「サイ、気を付けて」
「あぁ、まかせてくれ」
通路の影から一度姿を見せれば、十分に鍛え上げた脚力が脱兎の勢いでサイの身体を通路の端まで運んだ。
突然出て来たサイの姿に惑う兵士達を尻目に、狙いを付けて3発。
全員を瞬く間に仕留めて通路内の安全を確保すると、合図を出して2人を呼んだ。
「──ん、何? フレイ」
「いや、その……こんな機会がなかったから当然だけど、凄いのね貴方」
「そりゃあ、君が後ろに居てくれればね」
「ばっ!? 何言ってるのよもぅ!」
「おいおい、若いから仕方ないとはいえ、そう言うのは無事にここを脱出で来てからにしろ」
歯の浮くようなセリフに、僅か羞恥を見せるフレイと、苦言を溢すミュラーに再び苦笑いのサイ。
そんな3人は大西洋連邦の捜索を掻い潜りシャトル発着場へと向かっていった。
「────僥倖だな。基地内の捜索に回ってるせいか警備はかなり薄い」
シャトルの発着場に着いた3人の目の前には、決して多くない警備が敷かれたシャトル格納エリアであった。
「ミュラー事務次官。ここからのプランは?」
「簡単だ。騒ぎを起こしてシャトルを奪う。ハンガー内には大型クレーンもあるしな、あれを使おう」
「分かりました。では俺が制御室へと向かうので、フレイとシャトルを──」
「良いやダメだ、アーガイル」
サイの言葉を遮って首を振ったミュラー。
これまでの軽口ばかりの彼とは打って変わって真剣な表情に、フレイの中で嫌な予感が過った。
「ミュラー……事務次官?」
「アーガイル、お前はアルスターを連れてシャトルに乗り込んで発進準備を急げ……騒ぎは俺が起こす」
「な、なにを言うんですか。こんな所で変な冗談は」
「お前だってわかってるだろ? いくら薄い警備体制とは言え、制御室でクレーンを操作して騒ぎを起こせば袋のネズミだ。そこからシャトルへと乗り込めば全員一緒に死ぬことになるだろう」
「ですから、俺が──」
「アーガイル」
再び、サイの声を遮ってボルト・ミュラーは首を振った。
「ダイダロスの惨状をアスハの嬢ちゃんに伝えなきゃならん。それを成すべきはアルスターとお前だ。考える必要も無いだろう?
年老いた俺と、これからの次代を担う若いお前達……どちらが生き残るべきかは一目瞭然だ」
「ミュラー……さん」
「そんな顔をするなアルスター。年よりの最後の我儘1つ、快く了承できなくてどうする? お前がこれから進む未来は、これよりもっと厳しい選択に満ち溢れていると言うのに」
「貴方を捨てる事より厳しい選択なんて……あるわけ、ないでしょ」
自然と、フレイの目元に涙が浮かんだ。
目の前の彼と出会ったのは2年前。
父を喪い、ブルーコスモスにプロパガンダとして利用されるか消されるか……そんな危険な立場に陥ったフレイの後見人となり、戦後からこれまで頼りにし、頼りにされて来た間柄。
フレイ・アルスターにとって、2人目の父とも言える程度には、深い間柄となった彼から今ここで今生の別れを告げられ、フレイの胸の内は悲しみに包まれていた。
「悲しむな。もう俺は十分に生きた。同期の戦友達よりももっと。先に死なせてしまった兵士達よりもずっと……長く生きて、無様に抗い続けた。平和な世界と言う大人が見るには陳腐な夢を見続けてな。
その最後が、お前達という若者を守るためなら、これ以上に無い本望というものだ」
大きな……体格の良い彼らしい、ごつごつとした掌がフレイの頭に乗せられた。
後を頼む。そう託された想いと共にフレイの胸に去来する、久しく感じてない父の温もり。
後ろ髪引く想いに引きづられない様に目を背け、振り払う様にフレイは目を閉じた。
「ミュラー事務次官、やはり俺が」
「アルスターを1人にする気かアーガイル? これから先、アルスターに必要なのは俺ではなくお前だと言うことくらい、理解できるはずだ」
「しかし」
「アルスターを守る為に俺の所へ来たはずだ……約束を違えるなよ若造」
厳しい声音に制されて、サイもまた押し黙った。
もはや決意は変わらない。覚悟は定まっていた。
「──ミュラーさん」
最後の別れと言う様に、フレイはミュラーへと身を寄せた。
迎え入れるミュラーの腕に抱かれ、その大きな胸に顔を埋める。
煙たがってた煙草の匂いを、これで最後と言う様に肺に満たした。
「これまで……ありがとうございました」
万感を込めて小さく、だが聞こえる様に呟いた。
顔を離せばもう、フレイの目元に涙はなかった。
“まずはクレーンで連中の傍にコンテナを落として混乱させる。騒ぎに乗じてシャトルを奪った後は、直ぐに発進準備だ。機を見てハッチを解放する”
指示された通りに2人は時を待った。
警備の兵士達の目を掻い潜り、物陰へと身を潜ませる。その間に格納庫の天井付近では、音も微かにコンテナを掴んだ機材運搬用のクレーンが動いていた。
アームからコンテナが離され、月の微重力の中格納庫にあったシャトルの1つへとコンテナが落下する。
今!
音が出て、事が起きたその瞬間────誰もがそこへと目を向けるその瞬間を狙って、サイとフレイは物陰より飛び出した。
一番近場にあったシャトルへと即座に飛び込む。騒ぎがまだ目を引いているうちにシャトルのハッチはすべて閉鎖し外からの侵入を防いだ。
「サイ! 急いで!」
「分かってる!」
操縦席へと座り発進準備を始めるサイに声を掛けながら、フレイは外の様子を見やった。
事態は騒ぎの発端であるコンテナとクレーンから、その制御を司る制御室へと場所を移し、ミュラーが立てこもった制御室に人が集まり始めていた。
「ミュラーさん……」
「貴様、開けろ!」
「いい、こじ開けるぞ!!」
騒がしい外からの声を聞き流しながら、ミュラーは格納庫のハッチを開く準備を進めた。
流石に見慣れない部分も多い……急がねば制御室へと踏み入られ、全てが水泡に帰す。
焦りから震えそうな指を叱咤して、キーを叩いていく。
「よし、これで──」
瞬間、大きな爆発音と共に、制御室へと兵士達が流れ込んで来た。
「ボルト・ミュラー!」
「おう、俺がボルト・ミュラーだ。何用かな?」
「無駄な抵抗は止めろ!」
お決まりのセリフを決め込んでくる兵士に、不遜な態度を以て相対する。
踏み込んだ瞬間に即座に撃ち殺せば良いものを、と……余計な問答を挟む愚か者達に内心で嗤った。
「無駄な抵抗、か……それはむしろお前達の方だ」
「何だと?」
「いくらコープランドが足掻こうとも、世界の潮流はもう変えられんよ。時代はもう……次の担い手を選んでいる」
同盟の盟主とさせられたカガリ・ユラ・アスハ。
遂に表舞台へと返り咲いたラクス・クライン。
そして、これからきっと彼女達と共に世界を牽引していくに足るであろう成長をしたフレイ・アルスター。
もはや過去からの遺物が世界を手中に収める様な時代ではない。
変えるべき……変えられるだけの人間が、しっかりと芽を出して育っている。
「だからよぉ……こいつは断じて無駄な抵抗なんかじゃないさ!」
最後のキーを押した。
シャトル格納庫のハッチが開かれ、制御室の眼前に星々の大海が開かれた。
「貴様!!」
放たれる凶弾がボルト・ミュラーの胸を射抜いた。
開かれるハッチ。眼前に広がる宇宙。
「今っ!」
受け取ったその合図に、サイはシャトルのエンジンに火を入れる。
ごう、と音をたてて推進エンジンから炎を吐き出し、シャトルは一気に加速。
機首を上げるとそのまま月面の重力を振り切りダイダロス基地を離脱していった。
軌道に乗ってから一度、2人は月面へと振り返ると……今ではしっかり身に付いた敬礼で彼を送った。
世話になったこれまでを。託されたこれからに思いを馳せて。
涙を流すことなく、2人は決意の瞳で恩師の旅路を見送る事が出来た。
凶弾が胸を貫き、力を失い崩れていく身体を制御パネルに預けて。
ボルト・ミュラーは遠のく意識の中これまでの人生を走馬灯と共に振り返っていく。
軍人として長きを勤め上げ、家族との時間すら犠牲に戦い続けて来た。
戦場から政界へと戦う場所を変えてもそれは変わらず。
今こうして死の淵に立って漸く……ボルト・ミュラーは達成感と安らぎの中に居た。
「あぁ……漸くだよ、ハルバートン……漸く……」
漸く……そっちに行けそうだ。
サヤルナ、ヒロイン決定戦の開幕。
イケオジ退場、、、お疲れ様でした。
サイ君魔改造されてる。これも全部アマノって家のせいなんだ。
もう、あと少しで完結。
応援よろしくお願いします。
完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)
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後日談の日常回
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オリジナルプロットの劇場版
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SEED FREEDOM
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企画:タケルユリスinOO世界