機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-128 最後の矢

 

 大西洋連邦大統領ジョゼフ・コープランドは基地司令室の大きな椅子に座り、状況を見ていた。

 

 

 L5における同盟軍とザフトの戦いは徐々に同盟軍有利へと傾いている。このままでは、そう時を置かずに同盟軍の勝利が見えてくるだろう。

 しかし、まだ決定的ではない。

 ほくそ笑むコープランドの目の前では、稼働が始まりエネルギーがチャージされていく大量破壊兵器、レクイエムの姿があった。

 

「アズラエルが送ってきた増援のお陰でどうにか稼働は成ったか……あの青二才に借りを作ったのは癪だがまぁ良い。この戦いの趨勢を我々で定めれば、今後の権威は約束される」

 

 それこそが目論んだことであった。

 この戦いで同盟参加国はその総力を結集して挑んでいる。即ち、この戦い以後の国力低下は否めない。

 ギルバート・デュランダルが起こしたロゴス討滅戦によって地球圏の勢力図は一変し、大西洋連邦は大きくその力と権力を失う事となったが、此度の戦いが終わればそれは白紙に戻ると言って良い。

 

 そして大西洋連邦とコープランドにはまだ次がある。

 

「戦後はオーブ。そして地球圏の掌握か……ふっ、はっはっは!」

 

 抑える事の出来ない未来への愉悦にコープランドの笑い声は止まらなかった。

 

 そんな彼の声と共にレクイエムのエネルギーチャージが進んでいく。

 

 

 戦いの終わりは、もう目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁああ!」

 

 気合い一閃。振り下ろされたゲツエイは、インパルスのエクスカリバーに受け止められた。

 

「ちぃ!」

 

 即座に機体を転回。振り下ろした勢いを利用して前へと倒れ込む様にしてインパルスの背後へと回り込むと、再び光の刃を翻した。

 

「なんの!」

 

 対するインパルスは振り返る勢いに乗せてエクスカリバーを振り抜く。

 翻されたゲツエイに再びエクスカリバーをぶつけ二度目の火花が散った。

 

「くっ、以前とはまるで別人の動き……見事です、ルナマリア!」

「伊達にあんた達を見てきたわけじゃないのよ!」

 

 予想外に反応し付いて来るルナマリアにサヤは舌を巻いた。ちらりと視界に映るのはシンゲツのエネルギーゲージ……残りは3割。

 表に出ない胸中で、サヤの焦りが募っていく。

 対するルナマリアも決して余裕は無かった。今反応できたのはある程度の予測が勝ったからに過ぎない。

 後方支援の多かったこれまで……ザクに乗っていた時は射撃が苦手でありながらガナーを装備し後方からの援護射撃が多かったし、インパルスに乗り換えてからの戦いもブラストシルエットの運用が一番多いだろう。

 即ちそれは、後方で味方であった彼等を支え、見続けていたと言う事実に他ならない。

 後方から支援するには、援護するには前線で戦う彼等の動きを知らねば出来ぬのである。

 

 更にシンゲツのエネルギーがこれまでの戦いで枯渇しかけている事も大きいだろう。

 バッテリー搭載機体でありながら、フルスペックではサードステージに区分されるであろうシンゲツだが、そのフルスペックは動力問題を度外視してヴォワチュール・リュミエールを最大稼働した時のものである。

 当然ながら、そんなエネルギードカ食い状態を戦場で維持できるわけもない。理論と実情の大きな乖離────シンゲツはいわば欠陥機なのだ。

 本来であれば一つの解決策としてオハバリに因るエネルギー回収運用があったのだが、それは先程競り合った際にインパルスに弾かれてしまった。

 動力と言う不安を抱えたサヤ・アマノとシンゲツに、フルパフォーマンスは望めない。

 

 故に今、ルナマリア・ホークはサヤ・アマノの戦いにギリギリのところで追従できていた。

 

「くっ、ですが!」

 

 一度突き放して距離を取ると、サヤは意識を集中していく。

 ヴォワチュール・リュミエールは使えない……背部ビーム砲塔ツキヨミも消費とこの後に待つタケルとの戦いを考えれば厳しい。

 かくなる上は突撃し、ゲツエイのみに絞った全身全霊の一合で勝負を決める。

 

 不退転の覚悟を身に纏い、サヤはシンゲツを走らせた────否、走らせようとした。

 

「なっ!?」

 

 

 背中を向けるインパルス。戦いの最中、シンゲツから離れる様にして逃げていくインパルスにサヤは目を見開いて後を追った。

 

「ルナマリア、一体何を──」

「のんびりあんたの準備を待つ程、私も甘くないのよ!」

 

 動きを止め、インパルスがビームライフルを構えた。それは無論シンゲツへと向けられたものでは無く、その先には激しい戦闘を繰り広げる2機のデスティニー。

 ライフルの銃口が向く先には、シンが駆るデスティニーの姿があった。

 勿論、高速高機動でドッグファイトの真っ只中であるタケルとシンを捉える事など簡単ではないだろう。

 しかし、これまでのやり取りがサヤに嫌な予感を感じさせた。

 

「っ!? そのような横槍を、許すとお思いですか!!」

 

 なけなしのエネルギーでヴォワチュール・リュミエールを展開。シンゲツが背中に光の花を咲かせると、インパルスへと吶喊する。

 

 瞬間、ルナマリアはコクピットの中でほくそ笑んだ。

 

「それよ……それがあんたの悪い癖!!」

 

 接近を始めたシンゲツを察知した瞬間に、インパルスはライフルをシンゲツへと向けて撃ち放つ。

 突然の動きに回避が間に合わなかったシンゲツは急制動を掛けながら光波防御帯を展開。ヴォワチュール・リュミエールの展開と併せて、更なるエネルギーの消費を強いられてしまう。

 

「くっ、小癪な……」

「いつだって! あんたは前からそうよ。いつも自分の状況なんてお構い無し。自分がどうなるかなんて考えもせずに、いつも簡単に危険へ飛び込もうとする!」

 

 オーブ領海からの脱出撃の際も、シンを庇って危うく墜とされかけた。

 ダーダネルスでは、腕部を失うと言う戦闘継続が厳しい機体状況に追いやられながらも離脱せずに、結果クルース・ラウラを犠牲にする事となった。

 旧シロガネに乗り込みデスティニー等に挑んだオーブ戦役。シンと共にフルングニルへと吶喊していったレクイエム攻防戦。

 

 いつも、どんな戦場でも……サヤ・アマノは、己の身を省みずに戦い続けて来た。

 

 目論み通りに動いてくれたサヤ・アマノに、ルナマリアは僅か、苛立ちを募らせる。

 

「くっ、それの何が──」

「あんたのそれが、一体どれだけあの人を苦しめたと思ってるのよ!!」

 

 ばんっ、と叩きつけられる言葉にサヤは目を見開いた。

 隙を突くように再び放たれるインパルスのライフルを必死に躱しながら、サヤは叩きつけられた言葉を反芻する。

 

「お兄様を、苦しめた……?」

「あんたを失って、あの人は一度壊れかけたのよ。それなのに、記憶を失っていたとは言え生きていたあんたが、仲間の為に我が身を省みず戦っていたらあの人が苦しむのは当然でしょ!」

 

 だからタケル・アマノは、全てをかなぐり捨ててでも彼女を守る為にプラントへ……ザフトへと渡ったのだ。

 生き急ぎ、死に急ぐような大切な妹を、もう二度と失わない為に。

 

 それは、一体どれだけ恐ろしい心地の戦いであったのだろうか。

 戦場に絶対は無い。嘗てルナマリアが言った様に、絶対と言われる事すら容易に覆されるのが戦場だ。

 命の不安が常に付きまとうそこで、命を擲たんばかりの大切な妹の戦いを見るその心地は、彼にとって筆舌に尽くしがたい恐怖であっただろう。

 

「あんたは! 自分がどれだけ大事にされているかを分かってない! 自分のエゴがどれだけあの人の負担になったかをまるで理解してない!」

「違います! 私は──」

「図々しいのよ、あんたは!」

 

 ライフルを格納し、再びエクスカリバーを握ると、インパルスは吶喊した。

 気おくれするサヤがどうにかゲツエイで受け止めるも、シンゲツに反撃の動きを思わせる動きは起きなかった。

 

「あれもこれも、全部欲しがって! 私が欲しい場所を全部持ってって! 今更何を取り戻すつもりよ!」

 

 タケル・アマノに愛される妹でありながら、遺伝子の相性によってシン・アスカの隣へと並び立ち。

 いつも、いつも……サヤ・アマノはルナマリアの目の前で彼女が欲するものを意図せず持っていた。

 (タケル)の様な兄が欲しかった。(シン)の隣で共に戦いたかった。

 今この時隠す事が出来なくなった嫉妬の心を、ルナマリアは吐き出していく。

 

 とうの昔に手に入れているのに取り戻したいなどと嘯く、サヤの言葉を否定していく。

 

 

 

 

「──違います」

 

 

 

 

 強く、高らかな声であった。

 否の意を持つ言葉と共に、インパルスをシンゲツが押し返す。

 

「サヤ……」

「ルナマリア、私とて欲しがっている途上です……手に入れる途上なのです! 確かに、私がお兄様の負担になっていたのは事実……ですが、私はまだ何も為してはいない! 何もできてはおりません!」

 

 ヴォワチュール・リュミエールを展開する────先の様な焦燥からではない。

 後の事は考えず、今この時ルナマリアに伝えるべき最大を見せるべく、サヤはシンゲツの全力を曝した。

 

「取り戻し、お兄様を幸せにすることこそが私の大願であり、これまでお兄様を苦しめてしまった事への贖罪────故に、サヤは未だ何も為せず、手にできてはいません!」

「そんな都合の良い理屈。この期に及んであの人にそんな押しつけを──」

「だから今でも戦っています! 例えお兄様に疎まれ様とも……未来を見る事を諦めてしまったお兄様に幸せな生を取り戻して欲しい。否、私が取り戻したいのです!」

 

 ゲツエイを展開。シンゲツはインパルスに向けて吶喊した。

 今度は先の様な手段をルナマリアも取れないだろう。所詮あれは奇襲の類。在るとわかっていれば嵌る事も無い。

 

 背部に光の花を咲かせたシンゲツの突撃に、ルナマリアは身を震わせて応じる様にインパルスを駆った。

 

「それが押しつけだって、わかりなさいよ!」

 

 その想いが負担となり(タケル)を殺し、その想いに感化されて(シン)も動かされている。

 だから図々しいと言うのだ。それだけの事をしておきながら不遜にも求めてばかりの彼女が。

 

 ────届かぬ届かぬと欲しがる、この兄妹が。

 

 

「やぁああ!!」

「このぉお!!」

 

 

 最大戦速で接近。両機が交錯するその刹那。

 インパルスはリーチの差を生かし、エクスカリバーを最短を通してシンゲツの胸部へと突き出した。

 対するシンゲツはそれを掻い潜る。腕部の光波防御帯を局所展開し、エクスカリバーを逸らせるように当てて受け流す。

 即座にエクスカリバーを手放しインパルスはビームサーベルを2本とも抜剣。狙うは手数を生かした2連撃……ひねりを加えた宙返りで横薙ぎに合わせて機体を回転させ、縦切りへと繋ぐ。

 

 一撃目────目論見通りシンゲツはゲツエイでそれを受けた。

 二撃目────サヤはここでシンゲツの脚部を振り抜いた。

 

「なっ!?」

 

 インパルスのコクピットが揺れる。

 二撃目が振り下ろされる寸前、シンゲツの脚部はインパルスの胴体を先んじて蹴り、跳ね上げていた。

 僅かに開いた距離────それがインパルスの射程圏を外し、ビームサーベルを空振りさせる。

 

 そして構えられるは、シンゲツの背部ビーム砲ツキヨミ。

 

「しまっ──」

「終わりです!」

 

 放たれる2本の閃光は寸分違わず、インパルスの両肩とフォースシルエットを打ち抜き吹き飛ばす。

 

 交錯した2人の戦いは、サヤ・アマノに軍配が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、ルナマリア」

 

 

 エネルギー供給路が破損したのか、VPSが落ち灰色に染まったインパルス。

 そんなインパルスをシンゲツで抱える様にして、接触回線を開いたサヤは静かに告げた。

 

「何がよ…………戦いで負けて生かされた上に謝られても惨めなだけなんですけど?」

「知らず、貴女の優しさに甘えていた事です」

 

 返って来る思いの他元気な声に苦笑しつつ、サヤは素直な気持ちを吐露していく。

 

「バカ言ってんじゃないわよ。さっきも言ったけど、押しつけがましいっての……」

「貴女は、私にとって……ヤヨイ・キサラギにとってお姉ちゃんでしたから。貴女はいつでも味方で居てくれるような、そんな幻想を抱いていました」

「味方だったわよ。少なくともミネルバに居た間は……あんたが勝手に敵に成ったんじゃない」

「そうですね……その通りで、本当に虫が良すぎる話でした。ごめんなさい」

 

 また素直な声音で謝罪されて、ルナマリアは妙に罰が悪くなった。

 散々ため込んでいた悪感情を叩きつけた後にこんな風に認められると、むしろ居心地が悪い。

 敵対して、何なら彼女を討ちとるつもりで挑んでいたのだ。それが恐らくは彼女の狙った通りに撃たれて、生かされて。

 まるで慰められるように機体を抱えられている。

 お姉ちゃんとしては最も悔しい展開である。

 

「ねぇ、ルナマリア」

「何よ?」

「シンの事は……いつからですか?」

「はっ? ばっ、何言ってんのよこんな所で」

「好きなのでしょう? 私が離れて以後、シンとは随分と距離感が縮まっていたのではないですか?」

「そ、そりゃあ……あんたの事でお互いにきつかったから慰め合うって部分もあって……」

「つまりは私をダシにして手籠めにしようと?」

「人聞き悪い事言わないでよ! そんなつもり無かったから! お互いに傷の舐め合いしてただけで…………ってそれより、あんたの方こそどうなのよ?」

 

 聞き返される問いに、サヤは困った表情を浮かべた。

 どうなのか……その答えは出ていない。

 それを気にしている場合でもなかったのだ。と言うか、それは今この時も同じである。

 決戦の最中、こんな浮ついた色恋沙汰の話など、共に戦っている者達に対して不敬にも程があるだろう。

 

「どうなのよ?」

「わかりません……サヤはお兄様を心の底から愛しておりますが、同時にシンに対しても強い想いを消せないでいます」

「何よそれ。堂々と二股宣言ってわけ?」

「そう……ですね。そうなります」

「はぁ!?」

 

 シンの隣にルナマリアが並び立つ光景……それを思い描き、なんとも言えない嫌な感情がサヤの胸に募った。

 はっきりと言葉にできない様な、モヤモヤとした嫌な気持ち。ナタルの事を知った時に抱いた感情とは、また少し質の異なる気配である。

 

「お兄様を愛していますが、同時に貴女にシンを渡したくないとも感じてしまっています」

「呆れた……やっぱり図々しいわねあんた」

「でも同時に、ルナマリアをシンに取られたくないとも思っている自分もいるのです」

 

 投げ込まれた言葉に、今度はルナマリアが不躾な声を挙げる事は無かった。

 代わりに何を言われているのかわからないと言う様に、妙にとぼけた表情を見せている。

 

「あ、あんた何言って──」

「どうやら私は、シンもルナマリアも好きみたいです」

 

 ドカンと投じられた爆弾発言に、ルナマリアは度肝を抜かれた。

 一体どこの世界に二股宣言どころか三股宣言をするヒロインがいるか。ましてやそのうちの一人が恋敵であり三角関係を形成すると言う複雑の極みである。

 

「ばっ、あんたホント何言って──」

「とりあえず、アークエンジェルに帰投します。この状態の貴女を放っておくこともできませんので」

 

 好きと言う感情を認識してしまった大切な彼女を、身動きできぬ機体のまま放っておくこともできない。

 

 成すべきことは未だ残っているが、どの道シンゲツのエネルギーも戦闘続行は不可能な領域に入っていた。

 背景でルナマリアがいろいろ騒いでいるのを聞き流して、サヤはインパルスを抱えたままシンゲツを帰還の途に就かせた。

 

 そう、成すべきことは残っている────愛する兄を止め、取り戻すと言う悲願が。

 しかし、こうして何もできなくなってしまった以上。後は彼に託すしかなかった。

 

 

「(シン……お願いします、どうかお兄様を)」

 

 

 一心不乱に戦っているであろう彼を想い、サヤはアークエンジェルへの帰路を急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおお!!」

「はぁああ!!」

 

 

 ぶつかり合う光刃と光刃。

 その場に光が散っては、すぐさま別の場所で火花が咲く。

 

 シンはアロンダイトをマウントし、フラッシュエッジをメインウェポンとして選びタケルのtype-Lと熾烈なドックファイトを演じていた。

 

 MSが可能とする動き────その全てを知っているタケル・アマノは、攻撃の軌道、攻めの手を読む事に非常に長けたパイロットである。

 長大で戦い方が限られるアロンダイトでは、いくら振り回そうとも彼を捉える事は出来ないだろう。

 シンが挑むは、フラッシュエッジによる近接戦闘とパルマフィオキーナを駆使した零距離戦闘。

 勝負の領域を彼が優れた反射と反応速度に委ね、一挙手一投足を以て千変万化な攻め手を繰り出し挑む。

 

 それが、訓練の中でキラとアスランによって彼に託された、タケル・アマノとの戦い方であった。

 

 

 本当であればここに、サヤとシンゲツが居たはずであった……が、今はそれが叶わない。

 

 それでも、シン・アスカには負ける気も退く気もなかった。

 

 

「もらったぁ!!」

 

 

 逆手に持たれたtype-Lのフラッシュエッジを掻い潜り側面へと回り込むと、パルマフィオキーナをチャージ。

 叩きつけられた掌部は咄嗟に挟み込まれたtype-Lのビームシールドが受け止めた。

 

「ちぃ!」

「まだ、まだぁ!」

 

 即座に翻すフラッシュエッジ。それを同じ光刃で受け止められる次の瞬間には背部から長射程ビーム砲を展開。

 吐き出された閃光はtype-Lの肩口を僅かに掠めながら、回避された。

 

 コクピットに映される赤い表示に、タケルは僅か慄いた。

 

「(早い……まるでこちらの対応を読んでいるかのように!)」

 

 まだまだ動きは稚拙。

 ヴォワチュール・リュミエールの機動性に任せた雑な旋回軌道はお世辞にも良いとは言えない。

 攻め手とて単純明快。接近して兵装を叩きつける事しか考えていない様な、酷く単純でわかりやすい動き。

 

 しかし、それに至るまでが早い……早すぎる。

 

 余裕を以て受け、回避したその瞬間には、シンは次なる一手を繰り出していた。

 フラッシュエッジを止められればパルマフィオキーナを。それも受けられたら至近でのライフルを。更には先程の様に虚を突いて背部の長射程ビーム砲を繰り出す。

 防御されることを……回避されることを前提とした、思考を捨てた反射的攻撃行動。しかし、故にシンの最大限の強みを活かして、デスティニーの攻撃速度を上げていた。

 

 そう、シンは自身がタケルに勝る一点────反射速度のみでタケルを押し切ろうと言うのだ。

 

 

 切り結ぶ光刃。火花が弾け、衝撃が戦場に轟く。

 至近での攻撃を交わし、次の一手を探るシンとタケル──その戦いは、まだ終わらない。

 

 

 戦場が激しく動き続けながらも、2人はやがて、決戦の模様を意識の外へと放り出し、ただ目の前の敵との戦いに集中していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況は! メサイアへはまだ取り付けないのか!」

 

 未だ遅々として進まない戦線。

 同盟軍も奮起しているが、未だ決定的なザフト戦線の崩壊は無く、カガリの胸に焦燥が募っていた。

 

「アークエンジェルとエターナルは!」

『現在、ミネルバとその同型艦との戦闘中です。戦線中央で激戦となっています』

「フリーダムは、ジャスティスはどうだ!?」

『どちらも敵エース機体と戦闘中です。どちらも、膠着状態にあります』

「くっ!」

 

 戦況を変え得る一手を切れないこの状況。無い袖を振れない状況を作った自身の差配に、カガリは臍を噛んだ。

 シンとサヤがコンクルーダーズの2人を降したが、それでもまだ足りない。

 アサギ達はステラ達エクステンデッド3人と交戦中で、ルナマリアが抜けたとしても拮抗状態。

 キラはレイのレジェンドと交戦中であるが、艦性能の差で僅かに劣勢なアークエンジェルとフォルトゥナの戦いに影響され押し切れないでいる。

 アスランのジャスティスは激戦に次ぐ激戦で現在イザークとディアッカがかるデスティニー2機と交戦中であり、余裕など無い。

 そして──

 

「シンは……デスティニーはどうだ!?」

『カガリ様、シン・アスカは現在ザフトの白いデスティニーと交戦中です』

 

 アマテラス艦橋から共有される戦闘。

 そこで繰り広げられるは紅蓮と白翼が織りなす、尋常非ざる高機動戦闘。

 光の大翼で戦場を駆け巡り、熾烈なぶつかり合いをする2機が映っていた。

 

「兄様……シン」

 

 嫌な予感が過る。

 聞き及ぶ限り、シン・アスカの実力は未だキラやアスランに及ばない。少なくとも、決戦前までの訓練でシミュレーションしていた限りでは、シンに2人に対する勝ち星は無かった。

 そして、タケル・アマノがこの2人と同格のパイロットであることは言うまでもないだろう。

 

 必然、シンが1対1でタケルと戦い制することができる可能性は低い。

 

「(どうする……援護に回るか。だが、私が行って何をできる? あの速度域で戦える人間なんて、それこそキラやアスランくらいだ……)」

 

 下手をすれば邪魔に成り兼ねない。不意に入り込んでしまったSEEDの疲労が残る今、カガリにできる事はそう多くはないのだ。

 

「くっ、どうすれば……」

『カガリ! フレイ・アルスターから入電だ!』

「何っ!?」

 

 挙がった報告に、慌てて回されて来た回線を開いた。

 コクピットに移されるのは背景に宇宙空間が流れるシャトルの映像。そこに映るのは僅かに目元を赤くした親友の姿であった。

 

「フレイ! 状況は!?」

『カガリ、悪い報せよ』

「っ!? と言う事はつまり……」

『コープランドはロゴスと繋がっていた……ダイダロス基地に居た同盟関係者は全員殺され基地は占拠。レクイエムの修復は完了し、チャージ段階に入ったわ』

 

 カガリの顔から血の気が失せていく────考え得る最悪のシナリオであった。

 同盟軍の敗北を防ぐためのレクイエムの修復。そして発射。そこまでは同盟参加国の同意もあるれっきとして戦略であった。

 しかしこれは違う。大西洋連邦の裏切り。残っていたロゴスの残党勢力の存在とその介入。

 

 人類の未来を定める戦いの最中、彼等は再び世界の覇権を握ろうと言うのである。

 

「くっ、本当に……どこまで愚かなんだ私達は!」

 

 これでは兄の言う事こそが正しいと証明されるばかりである。

 人類は愚かで、争いを自ら止めることなどできない……そう決めつけた兄の言葉を、まるでなぞるかのように悪意は愚かな人類をカガリへと見せつけて来る。

 

「キサカ! アマテラスで前に出るぞ!」

『カガリ、無茶だ!』

「無茶でもやらねばならない! あれを撃たれる前に、何としてもこの戦いに決着をつけなくば…………私達はまた同じ事を繰り返す!」

 

 そうなっては終わりなのだ。世界は、人類はもう、争いも滅びも止められなくなる。

 悪意の影が本身を見せて動き出す前に、メサイアとギルバート・デュランダルを討つ。

 

 焦燥と恐怖を抑えつけながら、カガリはアカツキを走らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジェネシス、照準用ミラー展開。ニュークリアカートリッジを撃発位置へ』

『照準誤差修正。目標────月面ダイダロス基地』

 

 

 準備は、成った。間に合ったと言うべきか。

 デュランダルは最後の最後まで思うようにいかないままの己の戦いを呪った。

 

 

 

 この戦い(デスティニープラン)の始まりは────きっかけはいつだったか。

 あれはそう、愛する人と結ばれない世界に嘆いた日のことだ。

 

 遺伝子がもたらした、絶対不可侵の真実。

 知らなければ良かったと悔いた。彼女(タリア)と出会ってしまった事を恨んだ。

 そして悲しみは、人を不幸に…………暴走させる事を学んだ。

 

 架かっていた研究に没頭した。

 意味もなく、目的もなく、ただ当てのない探求を続けた。

 止まらない、止まれない。そんな状態を人は暴走と言う。

 

 いつしか彼の目の前には、様々な功績と権威が並べられていた。

 

 幸福かと言われれば、否であった。

 彼はもう幸福を知ってしまったから…………結ばれなかった己は永遠に、幸せにはなれないのだろうと諦めていた。

 

 そんな時だ。同じ様に幸せを諦めていた(ラウ)と出会ったのは。

 

 妙に気が合い、意気投合をした。溜め込んでいた不幸を、まるで自慢話の様に聞かせてやった。

 妙に面白そうに笑う彼が、印象的であった。

 

 しかし、返事とばかりに返された彼の真実は、自身がかわいく見えるほど惨憺な境遇であった。

 

 

 ──つらくはないのか? 

 

 

 つらくはない、と彼は答えた。

 “この境遇が、生きる道を示してくれた。お陰で今は楽しいのだ“と。

 

 彼の気持ちは理解できなかったが、彼の言っていることは理解できた。

 わかるから…………定められているから。だから迷うことがない。

 だから、今を生きるのが楽しいと言えたのだ。

 

 光明が差した気がした。

 

 できるのではないか。

 人が生まれた瞬間から、生きる道を知る事が。

 見えるのではないか。

 太古より受け継がれてきた人が持つ因子────遺伝子を紐解けば。

 

 

 これが、彼の戦いの始まりであった。

 

 

 

 

 

 

「────残念かな、それで幸せになれる程、人は単純ではなかった」

 

 デュランダルは反省する様に呟いた。

 道を示され、敷かれたままに生きる事を人類は許容できない。何故ならそこには外的要因が多く絡んでくるからだ。

 

 1人、ただ何の社会性も持たず人形の様に生きるのであればそれで問題なかっただろう。

 だがしかし人は社会を作る。社会の中で生きる。

 どうあってもそこには、定められたレールを阻む外的要因(別の誰か)が存在する。

 

 そのままであれば幸せに生きられたかもしれないレールを、外的要因か或いはそれに付随した自らの意志で捻じ曲げてしまうのだ。

 

 いくら遺伝子を読み解こうとも、人が意思を持つ以上、完全な管理など不可能なのである。

 

 

「だからタケル…………後は君に任せるよ。この戦いの罪と痛みは、私が引き受けよう」

 

 

 種は残した。

 この世界にデスティニープランという存在を。その全貌を彼に託して。

 これが恐らくは、自身の成すべき道であったのだ。

 

 

 

「────撃て」

 

 

 

 静かに…………本当に静かに…………

 

 

 

 最後の矢は、放たれた。

 

 




いや、その…………鉄火場の戦場でイチャイチャしてんなよってツッコミはすいません、勘弁してください。
一応は少し戦場から外れた場所ってことでどうか一つ。

サヤちゃんはその、ね………お兄様以外の身内へのラインがかなり狭かったから。
その分入られたらチョロいんです。言うなればまだ本当の好きの距離感が理解できていないというか。
だからナタルへの嫉妬とは根本的に違うんです。
ここら辺はまだ戦後にでも。


残すところ、戦いは後4話。だと思います。
いつも感想ありがとうございます。おかげさまで書き進めることができています。
最後までどうぞよろしくお願いします。

完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)

  • 後日談の日常回
  • オリジナルプロットの劇場版
  • SEED FREEDOM
  • 企画:タケルユリスinOO世界
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