機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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前回後書きの最後の最後っていうのは、これが最終回って意味ではないです。
もう、最後の最後の戦いって意味ですので。


PHASE-130 現出する悪夢

 

 

「ふっ、はは……!」

 

 

 ぽっかりと開けた空間。無機質な金属ばかりに形成されながら、その形状は宇宙に建造されるコロニー構造体と同じ。

 

 目の前に広がる光景に込み上がる笑みを抑えられず、ムルタ・アズラエルはその口元を大きく歪めて見せた。

 

 

「──いよいよだ」

 

 

 待望の時と、胸の内で臓腑が震えているような心地である。

 

 2年前に呑まされた苦渋。幼少の時分に受けた屈辱と羨望。長きに渡り分断を余儀なくされた人類の歴史。

 これらに終止符を打ち、人類は今一度新たな歴史を始める第一歩を踏み出す事が出来る────その時が来た。

 

 その為の楔を、彼は今その手中に収めている。

 

 

「さぁ、始めましょうか────最後の戦いをね」

 

 

 溢された声は、世界に新たな産声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭部────人型機動兵器であるMSにおいても生死を別つ重要な部分。

 

 それが、爆発と共に砕け散る。

 

 コクピットまで伝わる衝撃。SEEDを深めた事で齎される頭痛を置き去りにして、タケルは己の敗北を見つめていた。

 眼前には紅蓮の翼が光を広げ佇んでいる。対する己の白翼は骨子であったライソウを失い、フラッシュエッジもその殆どを破壊され、頭部も砕かれた無残な姿を晒している。

 

 

 また……届かなかった。

 

 

 サブカメラが拾うデスティニーの姿に、無意識の内に手を伸ばしていた。

 負けてはならなかった────奪われてはならなかったと言うのに。

 タケルの戦う力(意思)は、彼によって消え失せてしまっていた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 

 息も絶え絶えとなりながら、シンもまた装甲の色を失っていくデスティニーを見つめた。

 覚醒し続けたSEED。踏み入ったその奥にある境地。

 タケル同様に、その代償は避けられないが、それでも痛みを捨て置いて通信を繋げる。

 

「隊長──」

 

 答えは無かった。

 しかしそれを聞こえてないとは思えず、シンは言葉を重ねていく。

 

「あの日、あんたは言ってくれただろ────俺は、強くなれたんだって」

 

 それは嘗て。まだシン・アスカが未熟だった時の事。

 SEEDの先鋭化された思考に振り回され、全てを敵と認識して暴走してしまったかの日。

 タケル・アマノは、守れなかったと嘆くシンに、その言葉を送った。

 

「繰り返したくなかったはずだ。もう二度と、失うものかと戦ってきたはずだ……ならあんただって、そうして戦ってきた自分の願いを信じてくれよ。

 じゃないと、あんたの言葉を信じて強くなれた俺が、また迷っちゃうだろ」

 

 あの日の彼の言葉があったから、シン・アスカは今ここに居る。

 弱い己を乗り越え、強い自分を認め……そうして今、大切な恩師に手を差し伸べられるまでになれた。

 

「もう戦えないなら逃げたって良い……隊長がもう無理だって言うなら、俺達だけでも戦って見せるさ」

 

 そのくらいはできる────否、そのくらいはさせてくれ。

 言外に声音が伝えるそれは、シン・アスカの偽らざる気持ち。

 

 タケル・アマノへ向けた、切なる感謝の想い。

 

「でも、隊長が戦い続けた願い(理由)からまで、逃げないでくれよ。ちゃんと、大切な筈の想いと向き合ってくれよ」

 

 隠して、逃げて、誤魔化して────そうして目を逸らし続けて来た、自身の願い。

 

 

「あんたの願いは、大事な人達と未来を生きる事だった筈だろ……」

 

 

 

 タケル・アマノはそうして────大切な人達と共に、未来を生きたかったはずなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アマテラスへと一度帰還。

 

 インパルスとルナマリアを預けた後にエネルギーの補給を済ませたサヤ・アマノとシンゲツは、再び戦場へと飛翔した。

 

 オハバリを失い、ゲツエイの片方も失ったシンゲツに、カゼキリ用のビームサーベルとライフルを補給。

 一先ず戦えるだけの兵装を備えたサヤは、アマテラスオペレーターの管制を受けながら目的地を目指す。

 

 タケル・アマノとシン・アスカが死闘を繰り広げている戦場へと。

 

 

「見えました!」

 

 

 遠目でも色鮮やかに目を引く紅蓮の翼。

 ヴォワチュール・リュミエールの光が萎んでいき、サヤは戦いの終わりを────色を失ったもう1機のデスティニーにタケル・アマノの敗北を悟った。

 

 頭部を失い力無く浮かぶ灰色のデスティニーは、まるで乗り手の状態を体現しているかの様であった。

 負けられないはずの戦い……どの場面でも全身全霊で戦い続けた、その末の敗北。

 再び襲う己の至らなさに喘いでいるであろう事が、手に取る様に分かった。

 

「────お兄様」

 

 掛けられる言葉は、果たして出てこなかった。

 そうこうしている内に、シンがサヤの来着に気が付き通信を繋げる。

 

『サヤ、無事だったんだな……ルナは?』

「──無事です。インパルスごとアマテラスに預けてきました。それとルナマリアから貴方への伝言を預かっています。“覚悟しておきなさいこのスケコマシ! ”だそうです」

『えっ、はぁ? 何でいきなりそんな話──』

「そんなことよりシン……お兄様は?」

 

 おずおずと、サヤは核心となる部分をシンへと問い質した。

 2人の戦いはどう決着がついたのか。タケルの心に、シンの言葉は届いたのか────兄は今一度、未来を生きる事が出来るのだろうか。

 

 知りたいが、聞きたくない。そんな相反する気持ちのままシンの答えを待つ。

 

「どの道、今の状態ではもう何もできない……戦えないさ。ルナと一緒でアマテラスに連れていって今は──」

『シ、ン……』

 

 動き出そうとしたところで届けられる声。

 掠れて、力の無い……死んだ声を聞きサヤの胸がまた1つ締め付けられた。

 

 

『僕は、どうすれば良かったの? どうすれば僕は……オーブを守れたの?』

 

 

 死んだ声で投げかけられるその問いに、2人は答えを持ち合わせておらず僅かに表情を歪める。

 どうすれば良かったか。何をしていれば、あの悲劇を防げたのか。

 そんな事は自分達だってわからない。何をしても回避できなかったかもしれない。

 過去の話をいくら語っても、それは過ぎた話。取り戻せない話なのだ。

 

「わからないさ。俺にだって……」

『ならなんで……どうして……君はこれからも戦い続ける事が出来るんだ? 君だってまた失うかもしれないのに。また守れないかもしれないのに、どうして……』

「それが唯一の回避する手段だからです────お兄様」

『サヤ……?』

 

 今の今まで呆然としていてシンゲツの存在に気が付いていなかったのだろう。

 割り込んで来た通信の声に、タケルの声が僅かに力を持った。

 

「どのような形であれ、人は戦い続けます。自身が譲れぬ願いの為。失えない大切なもの為……私達人類は、これからも生きる意志の下戦い続けてしまいます」

『だったら……もう僕は』

「分かっています! お兄様はもう十二分に戦われました。これ以上必要が無い程、その身を削ってきました。これからのお兄様の生に、戦いなど必要有りません────無くて、良いのです」

「だけど、戦わなくても生きて良い筈だ。もう戦えなくたって、生きてて欲しいんだよ────俺達は、あんたに」

 

 求めるは、ただ生きていて欲しい。

 未来を閉ざさず、この世界で生きていて欲しい。

 生きていくことと戦う事を同列に扱わなくて良いと……彼の心へと伝えていく。

 

「それを叶える為に……それを叶えられるだけの世界を。お兄様が守り続けて来たこの世界に、私達が実現します……ですから!」

「だから今度は……あんたが平和に生きて良い番だ」

 

 

 

 

 

 手を差し伸べる様な声音。

 モニターに映った、並び立つ紅蓮と暗夜。

 

 空虚になっていたタケルの胸が、酷く温かい何かに満たされていく。

 

 

「お兄様──」

「隊長──」

 

 

 声音だけではなく、差し伸べられる機械の手。

 引き寄せられるように、それを見つめ、求める様に次の言葉を待った。

 

 

「帰りましょう」

「帰ろう」

 

 

 

 

 

「2人の気持ちは嬉しい、でも僕は──」

 

 否定……だが、その言葉を紡がせる前にデスティニーのコクピットがこじ開けられる。

 開かれたコクピットに光が差し込み、タケルの目の前にはパイロットスーツの2人が現れる。

 

「でも、じゃない!」

「お兄様に拒否権などありません!」

 

 負けたのだから────選ぶ権利など無い。

 そう言う様に、2人はコクピットの外から今度は己の手を伸ばす。

 

 その手を見つめて、タケルは直ぐに視線を逸らした。

 その様な勝手は許されない。

 己の身勝手にナタルも巻き込んだ。メイリンも、ユリスも、ステラ達も皆そうだ。

 今更ここで1人、この手を取って裏切ることなどできようか。

 

 だが、負けた……タケルはもう、戦う力と意味を失った。

 ジェネシスによって持ち直した戦況も、徐々にまたザフトの劣勢へと傾いている。

 照準ミラーブロックの交換が必要なジェネシスが第2射を放つ前に、同盟軍がメサイアへと取りつく方が先だろう。

 

 もはや目の前に、タケルが戦い続ける意味はなくなっていた。

 

 

「──負けたんだね、僕は」

「あぁ」

「お兄様の敗北です」

 

 

 誇らしそうに、嬉しそうに。

 シンとサヤは頷いた。

 

 

「そっか……本当に、僕は」

 

 

 戦い続けて来た。迷い続けて来た。

 届かなくて、守れなくて、泣いてばかりで。

 今もまた、こうして負けて、不甲斐ない己に泣いている。

 

 でも、それで良いと。目の前の2人は言ってくれるのだ。

 守れなくて良い。戦わなくて良い。逃げたって構わない。

 

 それでも生きて、未来を見て欲しいのだと。

 

 

「(本当に、僕は……)」

 

 

 ────最後まで、弱いままだったな。

 

 

 

 

 

 

 静かに頷いて。

 

 その手を伸ばす。

 

 

「ありがとう」

 

 

 タケル・アマノは心を縛る軛を。

 

 漸く今、解くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────終わったか」

 

 

 メサイア中枢で、ギルバート・デュランダルは大きく……大きく一つ、息を吐いた。

 

 決戦の趨勢は定まった。

 同盟軍の勢いは止まらず、メサイアへと取りつかれるのも時間の問題。

 そして、モニタリングしていたタケルの戦いも今しがた決着がついていた所である────彼の敗北という形で。

 

 人類の未来はもう、ギルバート・デュランダルの掌から零れてしまっていた。

 

 残された事はたった一つ……最後の仕上げを以てこの戦いは終わらせるだけである。

 

 

 

「全軍に通達。現時刻を以てメサイアを破棄────同盟軍に降伏せよ」

 

 

 

 司令室が驚愕に揺れる。

 管制官たちが劣勢を悟っていた事を踏まえても、この敗北と降伏の宣言は意外に過ぎるものであった。

 まだ、ジェネシスの第2射が叶えば望みはあるのだ。

 同盟軍がメサイアに取りつこうとも、早々直ぐに墜とせる様な要塞ではない。取り付く事が可能として、それはまだ数える程の戦力でしかないだろう。

 

 しかし、デュランダルは有無を言わさず更に言葉を続ける。

 

 

「既に我等に勝利は無い。我々は嘗ての様な終末戦争をしたいわけでは無いのだ。これ以上無為に犠牲を出す必要はない────全軍と同盟軍に通達の後、総員メサイアより退去せよ」

 

 

 静まり返る司令室。

 中々時が止まったまま動き出せない管制官たちであったが、時間と共に冷静さを取り戻して、事態は少しずつ動き始めた。

 

 部隊への通達。要塞内部への緊急アナウンス。

 次々と声が……ギルバート・デュランダルの意思が、伝えられていく。

 

 

 人類の命運を定める最後の戦いは、こうしてあっさりと終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 囲い込んでくる灰色のドラグーン。

 全周囲を覆い放たれる光の雨を、ヴォワチュール・リュミエールが齎す高機動で振り切れば。

 

「このぉ!」

 

 お返しとばかりに今度は、連結したロングレンジビームライフルの光条がレジェンドへと襲い掛かった。

 

「っ、えぇい!!」

 

 回避軌道から発射までのタイムラグがまるでないキラの技量に、レイは慌てて回避軌道を取る。

 すると今度は、レジェンドの周囲を蒼翼のドラグーンが囲い始める。

 

「嘗めるな!」

 

 待機させたレジェンドのドラグーンが光を吐き出し、囲い込もうとするフリーダムのドラグーンを追い払う。

 

 

 ゾクリと、レイの背中が震える。

 眼前に迫る蒼天の翼────フリーダムがビームサーベルを出力し、レジェンドへと突き出していた。

 

 ロングレンジライフルも、蒼翼のドラグーンも囮。

 意識を周囲へと散漫させ、レイが気を割いたところで、無遠慮なまでに踏み込んで切りかかるキラの巧手。

 

「はぁ!」

「くっ!?」

 

 咄嗟に出力したビームシールドが光の刃を受けとめた。

 

 相変わらずの精密な速射。敵の懐へと迷いなく飛び込める胆力。そして、接近時の反応速度。

 流石だと、内心で舌を巻いた。

 

「このまま──」

「させないさ!」

 

 レイは────自身が彼に敵わないと知っていた。

 故に、展開したドラグーンを後方で戦闘中のアークエンジェルへと差し向ける。

 

「はっ!?」

 

 即座に反応したキラが、フリーダムを翻しライフルでドラグーンを狙い撃った。

 そうして隙を晒せば、今度はまたレジェンドの殲滅射撃がフリーダムへと襲い掛かる。

 

「くっそぉ!」

 

 ビームシールドと全力の回避軌道で、光の檻を抜け出していく。

 その抜け出た先へとレジェンドは先回りし、先のお返しとばかりにビームジャベリンを突き出した。

 

「墜ちろ!」

「させない!」

 

 ビームサーベルとビームジャベリンが交錯し火花を散らす。

 眩くはじける光のスパークが、ぶつかり合う2人を照らした。

 

 その最中、レイ・ザ・バレルはその表情にどこか満足そうな笑みを湛えた。

 

 例えパイロットとしての能力では劣っていたとしても、レイ・ザ・バレルでキラ・ヤマトと渡り合う事は不可能ではない。

 そう突き付ける様に、レイは巧みにキラを翻弄している。

 

 アークエンジェルを巻き込むような射線の位置取り。

 先程の様なドラグーンを差し向ける牽制。

 キラとフリーダムの動きを縛り付ける様な妙手は、戦闘を確実にレイの有利なものへと進めていた。

 

 これこそが、レイ・ザ・バレルが身に着けて来た戦う“手段”なのだ。

 1つの武器に、1回の攻撃に────付与される様々な狙い。

 嘗てタケル・アマノによって教え込まれた戦いの妙は、彼の中に確かに息づいているものであった。

 

 

「くっ、卑怯な!」

 

 

 湧き上がる怒りを抑えつけながら、キラは攻め手を緩めず攻撃を繰り返す。

 しかしライフルもドラグーンも。間髪入れずの接近戦も。レイは巧みに躱し再びキラの隙を突きかえした。

 

 キラの守りの隙間(アークエンジェル)を。

 

 

 

「(くっ、まずい…………このままでは!)」

 

 内心の恐怖を押さえつけて、キラは必死に勝機を手繰り寄せるべく攻撃を繰り返した。

 

 目の前のレジェンドとの戦いに拘っている場合ではない。

 ジェネシスの発射────その第2射が迫っているかもしれないのだ。

 急ぎここを制しメサイアを。せめてジェネシスだけでも破壊しなければ、世界はまた大きな爪痕を遺してしまう。

 

「考え事か!!」

 

 脳裏に微かに過ぎる敵意────即座に回避軌道を取れば、その場を数多の光条が駆けていく。

 

「遅い!」

「くっ!?」

 

 次の瞬間には直上をとっていたレジェンドが、ビームジャベリンを叩きつけてきた。

 

「キラ・ヤマト、貴方も彼と同じだ……捨てる事ができないからそうして翻弄されてばかりいる!」

「なにっ!」

 

 受けていたシールドで押し返して、キラは追い払う様にライフルを連射した。

 

「あれを捨て置けばとっくに俺は堕とされているだろう。そうして貴方は早々にメサイアに辿り着いていたはずだ。だがそれができない────それが、貴方達の弱さだ!」

「っ! だとしても!!」

 

 レジェンドだけでなく展開されるドラグーン全基を狙ったフルバースト。

 避け切る事ができず、レジェンドは2つのドラグーンを失った。

 

「ちぃ!」

「僕達は、全てを捨てて戦うことを正しいとは思わない!」

 

 脳裏によぎる親友の声と表情。2年前にまみえた、全てを捨てて世界に復讐の種を撒いた男の言葉。

 全て、キラの胸の内で今でも渦巻いている。

 どうすれば平和が叶うのか。どうすれば争いを終える事ができるのか。

 

 その答えは未だ、キラだけでなく同盟全体を通しても出てはいない終着点だ。

 

 それでもキラは、自身の言葉を信じる様にレジェンドへと再び接近。

 ビームサーベルが振り下ろされ、レジェンドのビームジャベリンを根本から断ち切り破壊する。

 

「戯言を! その傲慢が、ここまで戦火を引き伸ばしてきた!」

「傲慢なのは君達だ! 今を生きる人々を無視した平和が、本当であるはずがない!」

 

 距離をとったレジェンドがフリーダムめがけて大型ライフルを放ち続ける。

 再び展開されるドラグーンと合わせた、夥しい光の波状攻撃に、キラはまたも次なる手を繰り出せなくなった。

 

「人の夢、人の望み、その素晴らしき結果────キラ・ヤマト! 貴方が居なければ、俺達のような存在は生まれなかった! 世界は、もう少し平和であれたはずだ!」

「っ……!?」

 

 降り注ぎ続ける光の雨と共に浴びせられる言葉に、キラは息を呑んだ。

 

 自分が居なければ……そう考えたことは一度や二度ではない。

 レイが言う俺達────つまりはタケルとユリス。ラウ・ル・クルーゼとレイ・ザ・バレル。

 全ては最高のコーディネーター(キラ・ヤマト)と言う夢を叶えるために生み出された悲しき産物。

 そして、人類が果ての無い欲望と業を背負っている、その証。

 

 レイの言葉に、キラの胸には御しきれない想いが募っていった。

 

「貴方は、存在してはならなかった!」

「くっ!?」

 

 飛来してくる一回り大型のドラグーン。

 出力されるビームスパイクをシールドで受けるも、フリーダムはその勢いに機体を跳ね上げられた。

 

「だがそれ故に! 貴方の存在は、俺達生み出された者が生きた証でもある!」

 

 追撃に放たれる大型ビームライフルが、フリーダムの装甲を掠めて行く。

 コクピットに映る機体ステータスに、僅かに色がついた。

 

「だからこそ俺は────貴方を討たねばならない!」

 

 それが生み出されてしまった者の矜持。自らの存在に意義を見出すための儀式。

 人類の愚かな夢と業を否定する事が────レイが望む、ラウ・ル・クルーゼへの手向け。

 でなければ、自分達は本当に彼を生み出すためだけの存在になってしまう。

 

 追い込む様に、レイは必死でレジェンドを駆った。

 

「君の言う通りかもしれない────けど!」

 

 体勢を立て直すと、ライフルを連続で放ち牽制。

 直後にクスィフィアスとロングライフルで接近を図ろうとしていたレジェンドを追い払った。

 

「でも、違う!」

 

 否定の声と共にフリーダムはフルバースト。再びレジェンドのドラグーンを1基墜とした。

 

「命は、何にだって1つだ! 君も僕も、タケルもユリスも……(ラウ)だって! 生まれた時から1人の人間のはずだ!」

「何っ!?」

「生まれた意味も、生まれた理由も必要ない! 存在してはいけない命なんて、あってはいけないんだ!」

 

 キラの言葉にレイは目を見開いた。

 先のキラの言葉は自身に向けたものでは無い。

 

 生まれてはならなかった自分。だが、その自分を否定してしまえば、それは巡って彼等の存在を否定する。

 

 どんな命であれ、その命は自分のものであり…………生きる本人の意志に委ねられる。

 それがデスティニープランに呑まれかけた彼等に、サヤ・アマノが教えてくれた…………人が人で在る最も確かな意味。

 

「身勝手な誰かの為に生み出されたんじゃ無い! だから────僕達は皆、それぞれ明日を求めて良いはずだ!」

「っ!? そんな、綺麗ごとを!」

 

 それは明日が約束されている者の言う事だ……レイの胸の内で怒りが込み上げてくる。

 

 想いをぶつけ合うべく、フリーダムとレジェンドは向かい合った。

 ドラグーンの牽制を以て接近戦を狙うキラと。それを全て防ぎ、迎撃せんとライフルの狙いをつけるレイ。

 

 決着は目の前であった。

 

 

「これで!」

「終わらせる!」

 

 

 フリーダムが光の翼を広げ、レジェンドのドラグーンが光を吐き出そうとする。

 

 終幕を予感して2人がぶつかり合おうとする刹那。

 

 

『待ちなさい、キラ君!』

『そこまでよ、レイ!』

 

 

 時を同じくして、2人の艦長の声がキラとレイの元へと届けられた。

 

 

 停止の指示────戦士として十分に鍛えられて来た2人は、その声に反射的に機体を退がらせる。

 

 

「マリュー、さん…………どういうことですか?」

「グラディス艦長、何事です?」

 

 

 キラは惑いを、レイは僅かに怒りの念を滲ませながら割り込んで来た2人へと声を返す。

 そうして気が付いた。モニター越しに映るアークエンジェルとミネルバの背景に、戦闘の忙しなさが感じられない事を。

 

『キラ君、落ち着いて聞いて頂戴……先程ザフトから、同盟軍へと降伏宣言があったわ』

「なっ!? 本当ですか!」

『レイ、議長はメサイアの破棄を宣言。私達は戦いを停止し、撤退する様にとの通達よ』

「そんな……バカな、ギルがプランを諦めたと言うのですか!』

 

 そんなはずは無い────レイは信じられないと言わんばかりにタリアへと食い下がった。

 

 止められるはずがないのだ。この計画は。

 デスティニープランが成されねば、人類は破滅へと歩むことを回避できない。

 敗北、そしてプランの否決は人類の命運を決める。

 

 諦める等、有り得ないはずであった。

 

 

「キラ!」

 

 

 飛び込んでくる声。

 その場へと真紅を先頭に3機のMSがやって来る。

 ジャスティスとtype-Bにtype-D。ジェネシス破壊の為に動いていた、嘗てのザラ隊の面々である。

 

「アスラン、それにディアッカ達も……」

「さっきぶりだな、キラ。とは言っても、もう撃ちあう状況じゃなさそうだが……」

「レイ・ザ・バレル……聞いての通りの状況だ。まずは戦闘態勢を解除しろ」

 

 ライフルとドラグーンを展開したままだったレジェンドを見て、イザークがレイへと通信を繋げる。

 艦長であるタリア。そしてザフトにおいて先達であるイザークの言葉に、いよいよ事の真偽を確かなものにしたレイは、惑いながらもドラグーンとライフルをマウントし、戦闘態勢を解除した。

 

「ジュールさん、一体どういうことですか? 議長がメサイアを破棄……降伏宣言など。俺にはとても信じられません」

「俺達とて、今しがた通達されて来た指示を聞いたばかりだ────タリア・グラディス、議長からの指示は他に無いのか?」

 

 戦場は未だ混乱の中にあるが、それでも徐々に事態の変遷は広がりつつある。

 余りにもあっけない決戦の幕切れが解せなくて、皆を代表する様にイザークがタリアへと疑問を投げた。

 

 しかし、イザークの期待は虚しくモニター越しのタリアは首を振って否定の意を返した。

 

『こちらも確認の通信は投げたわ…………しかし、既にメサイアとの通信は不能。内部から次々と脱出艇が出てきていることから、施設の破棄は確定的よ』

「なんだと……!?」

 

 タリアの言葉にイザーク達はメサイアへと視線を移した。

 機体のモニタリング機能を用いて情報を拾えば、そこには幾つもの脱出艇。或いはMSに牽引される形で内部から人員が脱出しているのがわかる。

 まるで2年前の…………ヤキン・ドゥーエ要塞の最後を思わせる光景である。

 

「どう言うことなのだ、これは!」

「落ち着けイザーク。騒いでもどうにも──」

「そんな事はわかっている! だが、これはおおよそ納得できる話では無いだろう!」

 

 拳を握りコクピットへと叩きつける。

 イザークの怒りは、すぐ側で聞いているアスランとディアッカにもよくわかるものであった。

 皆ギルバート・デュランダルを────デスティニープランを信じて戦ってきたのだ。

 その戦いの趨勢が、この様に簡単に定まって、一体誰が納得すると言うのか。

 

 

「ギル…………」

 

 

 そして、それはレイも同じ。

 惑う彼等と同じく、レイも未だ信じられないとメサイアを見つめ、この結果の意味を見出すべく自問した。

 

 一体何が狙いなのか。今の状況には一体、どんな答えがあると言うのか。

 

 

 そして、答えはすぐに見つかった。

 

 

 

「ジェネシスの照準ミラーブロックが…………まだ動いている?」

 

 

 

 レイが気づいたらその事実。

 呟かれたその言葉に、その場に居る誰もが絶句した。

 

 動いている…………破棄されたはずのメサイアにて、動くはずのないジェネシス第二射の準備が、進んでいると言うのだ。

 

 

「トノムラ! 照準計算!!」

「バート! 至急割り出して!」

 

 

 2人の艦長が、即座に艦橋の管制官へと指示を下す。

 

 当てられたアークエンジェルクルーのトノムラと、ミネルバのマリクが目標地点を算出する時間は僅かなものであったが、全員が最悪を予感していた。

 

 

「目標地点算出!」

「地球圏、大西洋連邦首都──ワシントンです!!」

 

 

 絶望が過った。

 

 

「くそぉ!!」

「やらせるかよ!!」

「なんとしても止めるぞ!」

 

 

 イザーク、ディアッカ、アスランの3人が機体を走らせた。

 何としても────もう2度とあれを撃たせてはならぬと。

 3人ともが、自爆装置の起動すら念頭に入れて、ジェネシスへと飛翔する。

 

「マリューさん!!」

「わかってるわ、ローエングリン照準! ジェネシスミラーブロックを破壊する!」

 

 もどかしくゆったりと展開されて行く陽電子砲。

 その間にも、照準ミラーブロックは動きを止め、発射体制に入っていた。

 

 

 

 瞬間、誰もが間に合わないと悟る。

 放たれる狂気の光。破壊されて、死の星となる地球。

 

 悪夢の光景を、誰もが幻視した。

 

 

 次の瞬間────

 

 

 

 

 世界は、悪意の光に眩く照らされるのであった。

 

 




正直、大分不安な気もするけど、、、これが主人公の結末。終わりでは無いですけどね。

残り、多分3話。どうぞ最後までよろしくお願いします。

感想、是非ともくださいませ。

完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)

  • 後日談の日常回
  • オリジナルプロットの劇場版
  • SEED FREEDOM
  • 企画:タケルユリスinOO世界
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