機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-25 宇宙に降る星

 

 

 ヴェサリウスで戦況を覗くラウは、空気が変わったことを感じ取っていた。

 アスラン達の参戦によって浮足立ち、崩れかけた戦闘が今ここにきて立ち直っている。

 そして艦隊の密集陣形と艦載砲の狙いが、ヴェサリウス等艦船ではなく接近するジンやイージス達に集中している。

 無論それがおかしなこととは言えない。接近してくるMSの方が優先されるのは至極当然だ。

 だが、先程まで感じられた艦隊戦へ気配が薄れた気がしていた。

 

「隊長、この動き……もしや」

 

 艦長であるアデスも変化を感じ取っていたようである。

 ラウの懸念は確信へと変わった。

 

「アークエンジェルが動く……ハルバートンめ、第8艦隊を盾にしてでも足つきを地球に降ろすつもりなのか」

「いかがしますか?」

「追い込むぞ、ツィーグラーとガモフにも打電! 降下する前に何としても仕留めるんだ!」

 

 

 ヴェサリウスからの声を受け、戦線にいたアスラン達も驚きを隠せなかった。

 

「アークエンジェルがっ!?」

「このタイミングで降りるというのか!?」

「ディアッカ、援護しろ! 俺が向かう!」

「オーライ!」

「待てイザーク、闇雲に出ては……」

「俺も行くぜアスラン! 足つきはここで仕留めなきゃならねえんだ」

「ミゲルまで!」

 

 返事を待たずに先行していくデュエルとハイマニューバ。

 だがその先にはまだハルバートンが率いるメネラオス。そして随伴艦のアンティゴノスとプトレマイオスが砲火を集中させて戦線を維持している。

 簡単には抜けられないだろう。

 

「くっ、ニコル! 敵旗艦を引き付けるニコルは右翼からだ!」

「了解!」

 

 後方の支援をバスターに任せアスランとニコルもメネラオスへと接近していく。

 

 

 

 

 

 アークエンジェルを発進したキラはエールストライクのスラスターを目一杯に吹かして引きずり込まれそうな重力を振り切り飛翔していた。

 

 目の前に広がる光景は圧巻であった。

 周囲に何もない宙域とは違う。背後に見える地球の大きさ。そして目の前で次々と起こる戦火の光。

 放たれるビームやミサイルの爆発が無数に目に入り、数える程しか戦力のなかったこれまでの戦いとは違う事を認識させた。

 

『デュエル、改良型ジンがメネラオスを突破!』

「くっ、デュエル……また」

 

 アークエンジェルからの戦況を受け取りキラはストライクを接近する機影へと向けた。

 これまでに幾度もぶつかり合った機体。デュエルはアークエンジェルではなくストライクに向かって一直線に接近してきていた。

 

「もう、乗せられてるわけじゃない……自分から乗ったんだ、だから!」

「この傷の礼だ、ストライク!!」

「お前たちはもう、僕の敵だ!!」

 

 キラは迷くことなくデュエルを迎え撃ちに行く。

 ここまでの戦闘で消耗も多いデュエルはビームサーベルを出力。キラとストライクもその動きに呼応した。

 

 ぶつかり合い火花を散らすサーベル。そしてキラとイザーク。

 互いに相手を討つべく、全力を傾けて切り結ぶ。

 その傍らを駆け抜けていくハイマニューバをムウのメビウス・ゼロが迎え撃つ。

 

「ちっ、お前が相手か!?」

「しつこいんだよお前ら!」

 

 ガンバレルを展開しオールレンジでの攻撃を行うムウ。

 それをギリギリで躱しながらマシンガンで応戦するミゲルのハイマニューバ。

 互いが互いに交戦するべき相手を捉えていた。

 

 そして、タケルが乗るアストレイは……

 

「帰投までの限界時間は残り6分。それまで、出来る限りXシリーズを抑えて見せる」

 

 妙に落ち着いた心境でタケルは戦況を俯瞰した。

 ストライクとデュエル。

 メビウスとハイマニューバ。

 ならば己は、イージスとブリッツ、そしてバスターを引き付け第8艦隊の戦線を助ける。

 

 視界に入るメネラオスがあらん限りの艦載砲を稼働させて敵機を迎撃していた。

 弾薬の残りも厳しいだろう。被害も苦しいはずだ。

 タケルの脳裏に温和そうなハルバートンの顔が過った。

 少しでも彼の助けになれるなら……

 

 タケルはアストレイを一気に前線へと走らせた。

 

「っ!? アスラン、オレンジです!」

「何っ!? 狙いは……」

 

 ニコルの声に慌てて戦況を把握するアスラン。

 イージスのセンサーが拾うアストレイの動き。その行く先は……

 

「やはりバスターかっ!」

「まずいですよ、アスラン!」

 

 

 

「俺に何の恨みがあるんだ、てめえは!!」

 

 ディアッカはコクピット内で悲痛な叫びを挙げた。

 幸いにも接近されきる前にバスターのセンサーが拾ってくれたおかげでまだ距離はあるが、アストレイの接近は艦隊を好きに撃ち抜いていたディアッカを絶望させるものであった。

 

「今度こそ落とさせて貰うよ、バスター」

 

 分離させたガンランチャーと収束火線ライフルが火を噴く中、アストレイはまるでその弾道が見えるかの要にその合間をすり抜けていく。

 瞬間的に戦慄するディアッカ。

 先の戦いのストライクと同じだ。まるでこちらの攻撃を躱せるのが当たり前のようにすり抜けてくる。

 だが、これまでの状況からアストレイにPS装甲がない事は判明している。

 弾薬は心許ないがミサイルも展開して僅かでも足止めできれば、こちらに向かってくるイージスとブリッツにアストレイを任せることもできるはずだ。

 

 全兵装を出せる限り展開。弾幕をはってアストレイの接近を妨害する。

 これで手にもつ連結兵装しかまともに使える武装は無くなるが、躱せればどうにでもなるだろう。

 爆炎がバスターの前に広がり、アストレイは回避か防御を余儀なくされたはず──そのはずであった。

 

「なっ!? なんでだよ!!」

 

 爆炎を突き抜けて、悪魔の様にデュアルアイを光らせたアストレイがバスターの目の前に現れた。

 タケルは先の一瞬。バスターのミサイルが放たれたと同時に頭部イーゲルシュテルンを斉射。

 最大戦速でミサイルを迎撃しつつ、シールドを犠牲にバスターの弾幕を突破してきた。

 内部フレームが見えている機体でやる事ではないが、それ故にディアッカにとっては完全に意表を突かれた突破である。

 

 接近したアストレイはビームサーベルを出力。完全に無防備となったバスターへと切りかかった。

 

「はぁあああ!」

「やばい!?」

 

 死の瞬間を悟るディアッカだが、バスターとアストレイの僅かな間を高出力のビームが奔った。

 アストレイの動きを察知した瞬間からタイミングを計っていたのだろう。

 かなりの遠方からスキュラで狙撃したであろうイージスがそこにいた。

 精密な狙撃ができる武装ではないがあのままでは間違いなくディアッカが墜とされていた。

 一歩間違えればバスターを撃ち抜いていただろう。アスランはスキュラによる狙撃と言う賭けに勝ったのである。

 

「ちっ、あんな兵装で良くやる!」

「やああ!!」

 

 寸前で回避軌道に移ったアストレイを、即座にブリッツが急襲。

 タケルはバスターへの接近を狙いながらもブリッツに応戦する。

 バスターを自由にはさせられない。プレッシャーをかけ続けなければ、第8艦隊が苦しくなる。

 このままブリッツとイージスまでくるとなればタケルが苦しくなるのは百も承知だが、今の自分なら出来る気がした。

 

 

 あの時と同じ、自機と敵機が良く視える感覚にいた。

 次の行動が分かる。どう対処すればいいか分かる。

 先のバスターへの突撃とて、無理をしたわけではない。シールド一枚で早々にバスターを仕留められるなら十分だと思い至っただけであった。

 

 対してディアッカを含め、アスランもニコルも目の前のアストレイに恐怖を隠せなかった。

 ブリッツのサーベルを受け止めれば、逆の手でもつライフルの射撃でバスターを牽制。

 ブリッツを躱して次に襲いかかってくるイージスに応じれば、サーベルを受け止めるまでもなく受け流して背後を取って切りかかる。

 辛うじてバスターのガンランチャーがイージスの被弾覚悟で放たれなければ確実にイージスは真っ二つにされていただろう。

 

 一体何が、どこまで見えているのだろうか。

 隙が見当たらない──と言うよりは攻めれば攻める程、アスラン達が隙を作って反撃を狙われる。

 

「このままではマズイ……」

 

 苦々しくアスランは言葉を吐いた。

 ミゲルとイザークがアークエンジェル近傍で戦闘中だ。

 アスランとニコルが戦線を押すわけでもなくアストレイ1機に捕まり、バスターもまたアストレイの存在によって艦隊への狙撃に集中できないでいる。

 このまま戦線を押し上げられずにいれば、ミゲルとイザークは艦隊の懐で孤立。

 特にハイマニューバに乗るミゲルは大気圏への限界点を超えたらもう生きては帰れない。

 

「ニコルとディアッカは行ってくれ、オレンジは俺が抑える」

「アスラン!?」

「何言ってやがる!」

「このままでは作戦は失敗に終わり、ミゲルとイザークも敵陣で孤立する! 敵旗艦を撃破して友軍の突破口を開いてくれ!」

「だからって、できるのかよ!」

「やるしかないならやるだけだ!」

 

 覚悟を決めたように、イージスはシールドをオミット。ビームライフルをも破棄した。

 同時、両手両足に備えられたビームサーベルを出力。

 これまで接近戦で幾度となく彼らを苦しめてきたアストレイに、接近戦で勝負に出た。

 

「イザークとミゲルの援護に向かってくれ、行け!」

「ちっ、絶対落とされるなよ!」

「必ず戻りますから!」

 

 ブリッツとバスターが踵を返して前線へと復帰する。

 それをアストレイが逃がすまいと追撃するが、そこは急速接近したイージスによって足を止められた。

 

「──厄介だね、4本持ちとは」

「行かせないぞ──オレンジ」

 

 そうだ、ここで己が簡単にやられては、戻ったオレンジにニコルもバスターも……孤立したミゲルにイザークも落とされるだろう。

 今ここでアスランが背負うのは己だけの命ではなかった。

 

 負けられない戦いとは戦争において常であるが今この時において、その背に負う仲間の命の重さがアスランにこれまでに覚えがない程の極限の集中力を齎した。

 

 次のアストレイの動きが手に取るようにわかる様な感覚。思い描くイージスの動きが決して今のアストレイに引けを取らないであろうことを予感させた。

 

「ここで墜としてやる!」

「やらせん!」

 

 サーベル同士の火花を散らし、アストレイとイージスは死闘の領域へと突入していく。

 

 

 

 

 

「大気圏降下限界点まで、あと4分!」

 

 ノイマンの報告に、また一つ艦橋内の緊張感が高まる。

 ストライクとアストレイはまだしも、ムウのメビウスは艦に戻れなければ大気圏突入と同時に燃え尽きてしまう。

 ギリギリまで戦闘をしていたら最悪の事態があり得る。

 アークエンジェル周辺ではストライクとデュエルが熾烈な戦闘を繰り広げており、メビウスとハイマニューバもまたつかず離れずで互角の戦いを繰り広げている。

 降下準備に入っているアークエンジェルでは援護の一つもできはしなかった。

 ただひたすらに戦況の情報と、限界点までの制限時間に目を向ける事しかできない。

 

「メネラオス前方、ローラシア級が接近──突出しています!」

 

 トノムラの報告にマリューとナタルが状況を省みる。

 まるで攻撃を一手に引き付けるような出方。案の定、第8艦隊の砲火に晒され次々と被弾している。

 

「この動き……まさか!?」

「メネラオスへ特攻するとでも言うのか!?」

 

 再び、艦橋内に緊張が走った。

 

 

「ガモフ、出過ぎだぞ! 何をしている! ゼルマン!!」

『ここまで追い詰め……退く事……元はと言えば……我等が……足つき……」

 

 既に損傷が通信機にも影響を及ぼしているのか、ガモフ艦長のゼルマンが映し出されるも音声は途切れ途切れであり、アデスは唇を噛んだ。

 

 

『艦長、メネラオスが!?」

『ガモフが!? アスラン!!』

 

 熾烈な戦いを繰り広げていたタケルとアスランの下へ、それぞれ通信の声が届いた。

 極限の集中状態にいる今の2人は、即座に戦況を読み取る。

 

「ちっ、させない!」

「くっ、行かせるか!」

 

 タケルはメネラオスの救援へと向かい、アスランはそれを阻止するべく追う。

 だが、ここでアスランにはヴェサリウスより通信が入った。

 

『アスランとニコルはもう戻れ! 今から追っても、何もできん!』

「なっ、しかし!?」

『命令だ!』

 

 見れば、限界時間まで残り僅か。

 確かに追いかけても何もできないし、これ以上は戻れなくなる可能性も上がる。

 アストレイとの戦闘に集中していた為に把握していなかった戦況を確認すると、バスターがアークエンジェルに向かったお陰でミゲルのハイマニューバもニコルと共に帰投できる位置にいた。

 

 その代わりに、バスターはもはや重力から逃れられない位置にいるのも見て取れた。

 

「(ミゲルを戻してくれたか……ありがとう、ディアッカ)」

 

 クレバーではあるが熱くなりやすいきらいもあるミゲル。もしかしたら説得には苦労したかもしれないなとアスランは苦笑した。

 それと同時にどっと汗が吹き出し、自分がとても疲労している事を自覚する。

 極限の集中がもたらした、ひどく抗いがたい全能感であったが疲労を考えるに諸刃の剣とも言える変化であった。

 

「オレンジ……お前もそうなのか?」

 

 先の状態でもやっと互角。

 むしろ機体性能の差を考えればアスランの方が有利であると言うのに、である。

 必然、その疑いは生まれた。

 アスランとニコル、ディアッカの3人を相手にしても渡り合えるという驚異の戦い。

 それを鑑みれば、先のアスランと同じ状態に相手も居たと考えるのが妥当だ。

 そうでなければ、あれが常と言う事になるのだ。

 考えただけでもゾッとする強さであった。

 

 位置的にどうしても地球へと振り返る事となり、青い地球を背景に未だ光が飛び交う戦場を見つめた。

 撃沈されそうになりながらも第8艦隊の旗艦へと特攻を仕掛けるガモフ。

 

 仲間の命が散っていく姿が……アスランにはひどく虚しく映った。

 

 

 

 

「ローラシア級接近!」

 

 メネラオス艦橋でも、特攻を見せるガモフを確認していた。

 

「差し違えるつもりか!?」

「すぐに避難民のシャトルを脱出させろ!」

 

 ハルバートンは即座に判断を下す。

 ここまで接近された以上、激突は必定。

 アークエンジェルから預かった避難民を乗せたシャトルを、そのまま巻き込むわけにはいかなかった。

 

 そこへ、イージスとの戦闘から離脱しメネラオスの救援に来たタケルとアストレイ。

 それを目にした瞬間に、ハルバートンはオペレーターに要請しアストレイへと通信を繋いだ。

 

『タケル・アマノ君。そこをどきなさい』

「いえ、サーベルで出来るだけ解体します。そうすれば対空砲火でもかなり破壊できるはずです」

『わかっているはずだ。そんな程度では艦船は破壊できないと』

「ご自分こそ何を言っているか理解しているんですか! 今そこにいる人達に艦と共に一緒に死ねと言ってる事を!」

『覚悟を持って皆ここに居る。そして君も覚悟を持って戦場に出ているはずだ』

「ですがっ!?」

『これより避難民を乗せたシャトルを降ろす──君に後の仕事を任せたい』

 

 通信越しにタケルが目を見開くのをハルバートンは見て取れた。

 やむなくシャトルを降ろす。この鉄火場の中をである。

 そして、既に艦隊は壊滅的な被害を受けておりまともに戦えない。

 言外にシャトルを守れと、ハルバートンは言うのである。

 そしてそれは同時に、メネラオスを目の前にして見捨てろと言っている事と同義であった。

 

 

「────了解、しました」

『君には辛い選択をさせてしまうな。他国の軍人だと言うのに』

「いえ、ご武運を」

 

 通信が切れるとアストレイはメネラオスの後方へと向かい、降ろされるシャトルを出迎える。

 そして大気圏突入限界点までの護衛に付くのであった。

 

 

 その直後、メネラオスにローラシア級戦艦ガモフが激突。

 また一つ、宇宙に大きな火花が散った。

 

「ハルバートン提督!!」

「ゼルマン艦長!!」

 

 マリューが、ナタルが、アークエンジェルクルーが。

 ニコルが、ミゲルが、ザフトの兵士達が。

 

 この戦場で己が命を未来へと託し散っていく、尊敬する上官達に敬礼を向ける。

 

 

 だが無情にも、戦いはそのまま続いていく。

 

「艦長、フェイズスリー突入まで残り2分です! 融除剤ジェル、展開用意!」

「ストライクとゼロ、アストレイを呼び戻せ!」

「これ以上は何があろうと許可できないわ、最優先で戻らせて!」

 

 

 

 帰投要請を受け、バスターと戦闘中であったムウはメビウスをアークエンジェルへと帰投させる。

 

「くそっ、限界か! キラとタケルは!?」

『ストライク、依然デュエルと戦闘中! アストレイ、アークエンジェル付近へと帰投中です!』

「何!? キラ戻れ──キラ!!」

 

 

 

 アークエンジェルからもメビウスからも帰投の指示が飛ぶ中、デュエルと戦闘中のキラは必死に振り切ろうともがいていたが、デュエルを引きはがすことができなかった。

 

 ここまで来た以上、既にデュエルは大気圏に落ちていくことになるだろう。

 それを覚悟した上での執念が、イザークに執拗な追撃をさせていた。

 

「こいつ!!」

「お前なんかにぃ!」

 

 再び振り下ろされるサーベルを受け止めて、押し切る。

 距離を取った。今度こそ──

 

 だがそれを別の方向から飛んできたビームが引き止める。

 

「なっ!? バスター!」

 

 そう、ムウが押しとどめていたバスターが頼りないスラスターを必死に吹かしてデュエルの援護に来ていたのである。

 

「残り何発も撃てないが、せめてお前だけは──墜とさせてもらうぜ!」

 

 重力に引っ張られてエールストライクの推力をもってしても高い機動性はもう出せない。

 そして未だ追撃に迫るデュエル。キラの胸中に一気に焦燥感が募った。

 

 バスターが連結兵装の超高インパルス狙撃砲を構える。

 万事休すか……だが、それをバスターめがけて飛び込んできたアストレイが牽制した。

 

「キラは、やらせない!!」

「このオレンジ、いい加減!!」

「落ちろ──!!」

 

 追撃してくるデュエルとバスター。

 それを必死に躱しながら、タケルとキラは示し合わせたかのように限界ギリギリの機体に鞭を打って最後の攻勢に出た。

 

「うおおおお!」

 

 ストライクがシールドを構えながらデュエルへと突撃。

 シールドチャージで一気にデュエルを弾き飛ばして追撃の蹴りを見舞う。

 アークエンジェルから大きく距離を取ってデュエルを突き放すことに成功していた。

 

「くっそおおお!!」

「やった!」

 

 

 そしてタケルもまた、バスターに接近しつつビームライフルを構えるとがむしゃらに連射した。

 元々接近戦メインの機動戦仕様に調整して速射性を高めたライフルである。

 大気圏侵入直前の振動で照準がずれたこの状況では更に命中率も下がるが牽制にはもってこいであった。

 そしてバスターの射撃体勢を察知した瞬間にライフルを射線上に投擲。バスターの至近距離で爆散させる。

 

「このっ!? 最後の最後まで舐めた真似を!」

 

 爆風で飛ばされるバスターを尻目に、タケルはアストレイをアークエンジェルへと向けた。

 

 

 大気圏侵入限界点まで、残り1分。

 

 

 距離は取れた、タケルはバスターの動きを警戒しながらスラスターを全開にしていた。

 

「これ以上は何をしても──何っ!?」

 

 驚愕を露わにするタケル。

 バスターは、未だ超高インパルス狙撃砲を構えている。

 

「この距離でこの振動……当たるわけが」

 

 タケルは努めて冷静に、アストレイを翻した。

 アークエンジェルへと射線を取らせない様、僅かに機体を左に寄せる。

 追従するバスターの砲塔を見据えながら、発射のタイミングを察知して大きく機体を翻した。

 

 

 放たれる狙撃砲──それをアストレイは余裕を持って躱した。

 

 直後、アストレイのコクピットを衝撃が襲った。

 背後からの爆風がアストレイを前方へと押し流し、タケルは突然の事態に状況を確認する。

 

 

 背後には艦船も何もない。

 ましてやこんな高度ではメビウスもあり得ないし、大気圏突入が可能なXシリーズはバスターとデュエルを残し撤退している。

 そしてストライクはもうアークエンジェルへと着艦するところであった。

 

 こんなところでアストレイに背後に居て、射線に巻き込まれるような存在など────可能性はたった一つしか考えられなかった。

 

 

「あ、あ……あ……そんな……」

 

 

 爆風で前方へと流されるアストレイの中でタケルは必死に周辺を探す。

 メネラオスから射出されたはずの──“どこにも見当たらないシャトル”を。

 

 探す──何度も。

 探す──幾度も。

 探す──見つかるまで。

 

 だが、シャトルの反応はどこにもなかった。

 

 否定できない現実が、そこにはあった。

 

 

 “こっちのお兄ちゃんも。お兄ちゃんが頑張ってたの、エル知ってるよ”

 

 “それじゃ、バイバイ! ”

 

 

 

「あぁ……うぅ……嘘だ……こんな」

 

 

 思い返される声。思い返される言葉。思い返される無垢な少女の笑顔。

 

 

「うぁああああああ!!!!!!!」

 

 

 それが今、タケルの背後であっけなく散ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 散った。それは儚くも。

 呑まれた。それは悲劇と言う名の現実に。

 怨嗟を纏い美しく流れる星は、見送る少年の心に深く深く傷を残した。

 託された願いも、残された想いも今は無く。

 失われた戦う意味を求めて、少年は戦火に目を向ける。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『穿たれた心』

 

 失った先、何を求めるか、ガンダム! 

 

 




いかがでしたか。

俺は悪くねえ。そんな風に言えたらどんなに良いだろうか。
そんなお話。

っていうかアニメ見直しても思うけど、ほんとSEEDは失い方がえげつないと言うか、マジでキラの心殺しに来てるよね。


感想よろしくお願いします。

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