戦いと世界に対しての決着回。
追記 この作品のプロットは執筆開始の2022年6月に書いています。
────レーヴァテイン事変。
ギルバート・デュランダルが興した第二次連合・プラント大戦をきっかけとした、ロゴスの残党ムルタ・アズラエルに因るコーディネーター殲滅を目的とするテロリズム。
皮肉にもその日、争い続けていた大戦の決着がついた。
ザフトと同盟軍は、レーヴァテインと言う共通で強大な敵に、手を取り合う事を世界に示し。
全てが終わったその日、世界は人類の新たな答えを見出したのである。
最高評議会議長を失ったプラント評議会は、アイリーン・カナーバ等クライン派の動きを受けて戦後の方針を決定。
再び、ラクス・クライン擁立の指針を打ち出し彼女へと打診した。
ラクス・クラインもこれを受諾。参加した同盟軍においての事後処理を終えた後、プラント最高評議会への参入を表明する。
対する地球圏では。
同盟軍を率いて地球圏の平和を実現したとして、盟主であったカガリ・ユラ・アスハには多大な功績を認められる事となった。
約束されていた世界を挙げてのオーブの復興が始まり、レクイエムの直撃を受けたオーブは急速に復興活動が進められる。
戦いの最中翻意を抱いていた大西洋連邦は、コープランドの戦死と共に連合としての立場を完全に失い、ユーラシア連合、赤道連合などに分断合併され解体。
地球圏統一同盟はそのままの機能を続け、亡国の不屈姫カガリ・ユラ・アスハを中心に新たな秩序を作るべく動き出していた。
こうして世界は、潜んだ悪意を全て討たれ、一時の平和を享受するに至っていた。
そんな、世界が平和を手にしてからひと月の時を置いての事である。
地球圏の実質的な代表となったカガリ・ユラ・アスハは多忙を極めているスケジュールの中、とある地を訪れた。
アフリカ大陸中央、砂漠の民の街タッシルである。
「──久しぶりだな、カガリ」
威圧感を見せる偉丈夫、サイーブ・アシュマン。
カガリにとっては知己であるも、訪れたカガリを出迎える彼の気配は剣呑としていた。
「あぁ、久しいなサイーブ。連絡、ありがたく思う」
「似合わねえ口調だ。たった2年ちょっとの間に、まるで変わっちまった」
「そんな世間話をしに来たわけではない────兄様は?」
剣呑としていたのはサイーブと同じくカガリも。
それもそのはず。サイーブ・アシュマンがカガリに寄越した連絡とは、このタッシルの街にタケル・アマノが居るという報せだったのだ。
「一つ聞かせろカガリ。お前はここに何をしに来た?」
街への入りを塞ぐ様に、恰幅の良い身体がカガリの前に立ち塞がる。
その目は虎の様にカガリを睨め付け、値踏みをしている様であった。
「探しているやもしれん。安否を気にしているかもと思って、お前さんに連絡は出した。
だが、ここに来たということは確認程度ではないのだろう?」
「機密事項だ────答えることはできない」
ゾッと総毛立つ様な気配がサイーブから放たれる。
護衛として側に控えていたキサカが思わず反応し動こうとするも、カガリはそれを制して威圧感に負けじと視線を返した。
「機密事項────あんなにまでなって戦ってきたアイツを、まだ国や世界のしがらみに巻き込もうってのか?」
「それを決めるのは私ではない。そしてサイーブ、あなたでも────決めるのは全て、兄様自身だ」
互いに言い合い、数秒の時が流れた。
虎の如き偉丈夫であるサイーブの圧に屈さぬ姿は、正にオーブの獅子。
カガリの肝の座り様に、睨み合いの末サイーブはその気配を霧散させた。
「ふんっ、なら良い。無理矢理にでも連れ戻すって気なら通すつもりはなかったが、その言葉を聞いて安心した」
「試したな、サイーブ」
僅かに緩む気配に、カガリも小さく顔を顰めた。
相変わらずの子供扱いというところか。今では世界を股にかける代表の地位にいると言うのに。
昔馴染みとは厄介なものだと、カガリは胸中でため息を吐いた。
「ついてきな。だが、覚悟はしておけ」
「最初からしている。拒絶され、一度は戦った…………今更怖いものなどあるものか」
「そうか」
それっきり会話はなかった。
砂漠の渇いた空気と街をバックグラウンドに、カガリとキサカはサイーブの家へと案内されていく。
歩いて5分程。タッシルでも1番の家の前へと、カガリはたどり着いた。
「────あらあら、珍しい客じゃない?」
人を食った様な声音。
飛び込んでくる声に視線を向ければそこには予想通りの人間がいた。
「ユリス・ラングベルト…………」
「久しぶりね、決戦以来かしら? 兄さんとの決着でもつけに来たの?」
まるで答えがわかっていると言わんばかりの含み笑いとともに投げられる言葉に、カガリは今日一番の顰めっ面を見せる。
「相変わらず貴様はそんな思考なのだな」
「そう言う存在で、そう言う生き方をしてきたのよ。あんた達みたいに綺麗な世界で皆生きていると思わないで」
「その足は……あの戦いでか?」
視線を向ける先、ユリスは車椅子に座っていた。
背後でそれを押すのはエクステンデッドの一人だったステラ・ルーシェ。
二人のやり取りに不思議そうな表情を浮かべて小首を傾げている。
「変な気遣いは無用よ。もうしばらくすれば普通に歩けるし。後遺症もないもの。
まさか連合のラボから担いできたものが、自分を救うとは思わなかったけどね」
そう、この砂漠で十分な治療を施すことができた理由…………嘗てラボから脱出する際、タケルが輸送機の対価にと持ち込んだ医療機器と設備が、瀕死で落下してきた彼等を救った。
ユリスは、タケルのシロガネと共にレーヴァテインを脱出したものの、SEEDの過負荷と傷によって2人は気を失い、そのまま地球圏へと落下。
限界ギリギリで意識を取り戻したユリスによって何とか大地へ着地はできたものの、覚えているのはそれまで。
気がついた時は、バナディーヤの病院のベッドであった。
「私はまだマシよ。あんたが会いにきた兄さんの方がよっぽど…………まぁ、会えばわかるわ。おじさま、ここまでありがとう。後はこっちで受け持つわよ」
「お前なぁ、居候の癖に何でそんな我が物顔なんだ?」
「あら、自分でウチに来いって誘ってくれたんじゃない。私たちはもう家族みたいなものなんでしょ? ね、ステラ?」
「うん、サイーブ家族って言ってくれた」
「いや、それはまぁ確かに言ったけどよ…………」
傍若無人は健在であった。
目の前で困り顔を見せる知己のおじさんに、カガリはそれとなく同情した。
「すまないなサイーブ。もし可能だったら、彼等もこっちで引き抜くつもりだから」
「そうなってくれりゃあ…………ありがてぇな」
やや憔悴するサイーブの横顔を流し見ながら、カガリはサイーブ宅へと入っていった。
「アウル! 兄さんを連れて来て。お客さんよ」
「ん、客ぅ? わかったー!」
2階から聞こえてくる返事に、カガリはいよいよと表情を引き締めた。
随分とゆったりとしたペースで階下へと降りてくる足音。
居間へと先んじて入って来るのは水色の髪の少年。その少年が手を引く形で連れられてくる、同じくらいの背丈の青年。
良く知る山吹色の髪と、鍛えられた肉体。特徴的な群青の瞳は……黒い布に覆われて見えなくなっていた。
「ユリス、お客さんって──」
「兄様……」
カガリはタケルの姿に。
タケルはカガリの声に。
互いに言葉を失った。
「カガリ? なんでここに──」
「兄様、その目は!?」
当初の目的など忘れて、カガリはタケルへと駆け寄った。
しかし、立ちふさがるようにアウルがその前へと躍り出る。
「おい、なんだよお前──」
「良いよアウル、大丈夫だから」
「カガリ・ユラ・アスハ、一度落ち着いて座りなさい。ちゃんと説明するわよ」
ユリスが言葉で抑え、卓へとカガリを付かせる。
それに倣って、アウルもタケルを卓へと誘導し席へと着かせると、しばしの沈黙が流れた。
「さて、それじゃまずは……兄さんの状態から」
「そうだね、心配かけちゃってるし」
思いのほか軽いやり取りに、カガリは落ち着きを取り戻していく。
ここまでの動きから確実に兄の目は見えていない……だと言うのに、その心配を見せたカガリを目の前にして重苦しくない雰囲気に、どこか妙な希望を感じていた。
静かに、タケルは口を開き語り始める。
「あの戦いでね……SEEDによる負担を脳にかけすぎちゃったんだ。あれは人類が未だ発現していない脳領域の拡張。陥れば嫌が応にも脳への負担をかける」
「私も……それは嫌と言う程理解している」
決戦の日。カガリもその扉を開いた一人だ。
そしてその後の疲労感は途轍もなく、戦いが終わったと同時にアサギ達と仲良く意識を落としていた。
慣れぬ感覚であったことも災いして、半ば昏睡状態であったカガリに、周囲が大騒ぎであったことは記憶に新しい話である。
「脳の専門家にSEEDの話を説明してね……恐らく一時的な過負荷によって脳が情報をシャットアウトしているんだって。人間が外部から得る情報の大半は視覚だから。その視力を一時的に落とすことで脳を休めているだけだから、心配しないで」
「心配しないでって……そんな事」
「もう随分と見える様にはなって来てるんだ。早く治るように、今は自発的に目を覆っているだけだから」
「そう、なのか……良かった」
心底安堵したように、カガリは前のめりになっていた姿勢を正し、息を吐いた。
もしや、と最悪の事態が頭を過ったが、その可能性は無さそうである。
「それで? 今度はこっちが聞く番────何しに来たのよ? 今や地球の代表とも言える程になった、オーブの代表首長様が」
本題へ入れと言わんばかりに柔らかな空気が消え、ユリスからは剣呑な気配が漏れ出た。
何をしに来たのか……そのおおよそを読み、理解しているが故であった。
そしてそれはカガリも同様。伝えればどんな反応が返ってくるか────それを理解した上で、静かに口を開いていく。
「兄様────もう、戻ってくるつもりは無いのか?」
どこへ、などと聞く必要はない。
カガリがタケルに聞くのなら、その意味は一つだ。
「あんた、こんな状態になった兄さんをまだ──」
「ユリス! 良いから」
すぐさま反応したユリスを制して、タケルは気配だけを探ってカガリを見やった。
見えていないはずのタケルに、表情も胸中も見透かされている様な気がして怯むカガリだが、そのまま言葉を続けていく。
「世界はまた、一から平和へと向けて歩み出している。プラントではラクスが次の最高評議会議長となることが決定したそうだ。私も勿論、それに賛同し今後はラクスと力を合わせて、この平和を守るために戦い続けるつもりだ」
「そっか、ラクスが次の議長に…………それはプラントにとっても朗報だね」
言葉とは裏腹に、どこか乾いた笑みをタケルは浮かべていた。
まるでそのニュースが嬉しくはあれど、意味が無いと言わんばかりの。
そんな諦念に塗れた声であった。
「兄様、やはりもう…………戻らないのか?」
不安を投げる様に、カガリは再び繰り返した。
「──いよ」
返された声は、か細く震えていた。
「戻れないよ。戻れるわけ……ないでしょ。僕はオーブに弓引いた人間だ。
あれだけ偉そうに守ると嘯いて、国民に英雄として祀り上げられていたと言うのに……デスティニープランに飛びついて、あっさり国を裏切った」
「兄様は、国を裏切ったわけでは──」
「そんな御託は通用しないよ。その以前だって、サヤの為にザフトへ渡りオーブと戦っている。僕にオーブへ戻る資格も権利も無い」
「それは……だが」
仕方の無かった事だろう。そう言えたらどれだけ楽か。
だが、タケル・アマノが成したことはそういう事なのだ。
ザフトへの入隊────国を裏切ったと言って差し支えないのは確か。デスティニープランの時はユウナによって既に国人としての資格を失っていたが、それでもやった事に変わりはない。
オーブの敵となった事に変わりはないのだ。
タケル・アマノに、オーブへと戻る資格など……在りはしない。
「それに、今更僕が戻って何ができるの? 僕は守れなかった。人類は変わらなかった。
今の平和は一時に過ぎない。また人類は、変わらず、学ばず、次なる争いを起こす」
「勝手に決めつけるな! 私達は今度こそ──」
「それが本当になるとどうして言える? 僕は見限ったんだ……オーブを、トダカさんを討たれたあの日。人類と言う種に見切りをつけた────だから僕は、議長と共に……」
だが、そのギルバート・デュランダルももういない。
全てを託され、投げ出されたタケルは、戦う意味を……生きる意味を失ってしまった。
託された願いが大きすぎて────自分に何ができるのかを、見失ってしまっているのだ。
小さく椅子の音が鳴った。
すっと立ち上がったカガリは、小さな靴音と共にタケルへと歩み寄っていく。
今更警戒の色も無く見つめるユリスとアウルの視線を受けながら、カガリはどこからか取り出した書類の束を、タケルへと握らせた。
「これは……書類? カガリ、これは──」
「“地球圏独立治安維持機関”────その設立に向けた草案だ」
「独立治安維持機関?」
「オーブとプラント間で発足される。国家の枠組みにとらわれず、活動圏を限らない。そして、戦争の火種に対して、武力による制圧を行う絶対的手段とするための」
「さしずめ、世界警察か」
小さく、カガリが頷くのをタケルは感じ取った。
「今日来たのはこれを伝えるためだ────この機関のトップに、兄様を据える」
また一つ、ユリスが剣呑な空気を纏うのを手で制して、タケルはカガリを見やった。
「また僕に、戦えと? もう諦めてしまった僕に?」
「あぁ。それが兄様の…………本当の願いだからだ」
「本当の、願い?」
何を言っているのか。そう言いたげな苛立ちの気配を切り捨てるように、カガリは言葉を重ねていく。
「いくら目を逸らしても。いくら諦めようとしても。兄様はきっと……逃げてはくれない」
「何を言って。僕はもう──」
「だったら何で、こうして会ってくれたんだ?」
ハッとして、タケルは息を呑んだ。
目元を覆った布。そうして視覚を閉ざせば嫌でも聴覚が鋭敏になる。
それ以外に脳が処理する情報が無いからだ。
そう、タケルはカガリの来訪を、この場に降りてくるより先に知っていた。
家の外でやり取りをする、カガリの声が聞こえていたのだから。
「本当に逃げたいのなら、諦めたのなら。もう私と会う事は無かったはずだ」
「うん……」
「でも逃げる事はできなかった。会わないと言う選択肢は無かった」
「大切な……妹だからね」
「そうやって、結局は逃げられなくなっちゃう……それが、私の兄様だ。だからこれからは、ちゃんと目の届くところに居てもらわないと困る」
「……困る?」
問いかけるタケルに、カガリはそっと目を逸らした。
「──もう、あんな辛い闘いは御免だからな」
僅かに涙が混じった様な声。
タケルにとってと同じく、カガリにとってもあの戦いは、心を引き裂くに値する悲痛な戦いであった。
ただそれが表に出ていたかどうかの違いでしかない。
傷の深さは変わらず、カガリにとってもタケルとの戦いは、二度としたくないものであったのだ。
「カガリ……」
静かにタケルは、肌で感じるカガリの表情を伺った。
辛さを押し殺す声。涙が混じる声。
自分がどれだけ大切な妹を泣かせてきたのか、今ようやく実感する。
脳裏に今は亡き大切な人達が過っていく。
父ウズミ。ユウキ。トダカ。
国を、世界を、未来を託してくれた、先人たちの声と言葉をタケルは脳裏に反芻していく。
デュエイン・ハルバートン。ラウ・ル・クルーゼ。ギルバート・デュランダル。
傑物たちの声が、タケルの背中を押してくれる気がして、静かにタケルは立ち上がった。
「そうだね、カガリ……僕も、もう。あんな闘いは御免だよ」
静かにタケルは、目元を覆う布を取り去った。
久々に目に入る日中の明るさは少しだけ煩わしく、僅かに目が眩んだ。
「受けるよカガリ────だけど、一つだけ条件がある」
タケル・アマノは、再び戦う道を選ぶのだった。
一週間後。
場所はオーブ行政府の会議室の一室。
本日ここには、カガリからの急な呼び出しを受けて、フレイ・アルスターが訪れていた。
「すまないフレイ、待たせてしまって」
「おっそーい! どういうつもりよカガリ! こっちだってただでさえ忙しいって時に。内密でしかも大至急の呼び出し? 下手すりゃ国際問題よ!」
会議室へと飛び込んできたカガリの姿を見止めた瞬間、フレイは公人としての顔を全て捨て去りカガリへと詰め寄った。
「悪かったよフレイ。でも、急で申し訳ないとは言っただろう? それに、事と次第によっては今のスケジュールは全部キャンセルになるから気にする必要もなくなるかもしれないぞ」
「はぁ!? 何を言ってんのこの子は。一体何がどうなったらそんな事になるのよ!」
現在のフレイ・アルスターは、次期ユーラシア連邦事務次官。
ボルト・ミュラーを失ったユーラシアが、次なる白羽の矢を立てたのが彼女である。
その為に今は、ミュラーが抱えていた様々な事の引継ぎ。ユーラシアに組み込まれた大西洋連邦各国との対応に追われているのだ。
「カガリ、ふざけているのなら本当に帰るわ。単刀直入に早く用件を言いなさい!」
「わかった、わかったって……せっかちだなぁもう」
「あ、あのねぇ……あんた自分の立場わかって──」
「あぁ、はいはい。文句はこの後聞くから────それじゃ、入ってくれ」
カガリの声と共に、会議室の扉が開かれた。
そこに居たのは、見慣れない軍服を身に纏う1人の男性。
無論、フレイにその人物の心当たりはあった。
「久しぶりだね、フレイ・アルスター」
「アマノ…………さん?」
タケル・アマノ。フレイとて十分に知る人物である。
何なら直近ではカガリを泣かせた人物として敵意を抱いていたほどだ。
そんな人物の登場に、フレイの怒りは急速に萎んでいった。
「急に呼びつけて本当に申し訳ない。君を呼んだのは僕の意向でね……まぁ、もう少し時間は余裕をもって良かったんだけど、カガリが直ぐに呼びつけるって」
「お、おい兄様それは」
ギロリと、フレイの剣呑な視線がカガリへと突き刺さった。
事の発端が彼であったとしても、やはり無茶な呼び出しの原因はこの友人だったようで、フレイは収めていた怒気を再び纏う。
「カァガァリィ?」
「ひっ!? その顔を結構やばいぞ、フレイ……」
「と、とりあえず話が進まないから、そのやり取りは後にしてもらって良いかな?」
「あっ、失礼しました。はい、それでは……ご用件をお伺いさせてください」
スパっと表情を切り替えて対応するフレイに、僅かタケルは驚きを見せる。
タケルの記憶ではやはり、世間知らずでお嬢様であった、アークエンジェルでの彼女が印象強い。
随分としっかりした応対に思わず面食らってしまう。
「あの……アマノさん?」
「ほら、兄様。早くしろ」
「あ、あぁごめん。それじゃあ──」
咳払いを一つ。居住まいを正して、タケルはフレイへと向き直った。
「フレイ・アルスター、君を新設される国際機関────地球圏独立治安維持機関の代表に推薦したい」
えっ、と思わず声を漏らして。フレイは目を見開いた。
カガリとラクスとは懇意である。フレイもまた、治安維持機関の話は聞き及んでいる。
そして、その代表に誰を据えるかという話も。
驚くフレイをよそに、タケルは言葉を続けた。
「実行部隊の統括は僕がする。だが、政治の世界は僕ではダメだ。僕はすぐに迷い、道を外してしまう。
だから、これまで僕たちと同じ戦争を見つめ、それでも変わらずにカガリとラクスと同じ世界を目指せる君に…………機関のトップに座ってもらいたい」
そう言いのけると、タケルは深々と頭を下げた。
何故こんな話にと────フレイは混乱の途にいる中、カガリへと目を向けるも、カガリもまた真剣な表情でフレイを見つめていた。
その視線が、事の真偽を確かなものとしてフレイに伝える。
しばらくの沈黙が、会議室に続いた。
流石に話が急すぎたか…………考えてみればすぐ答えを出せる話でもない。
沈黙を嫌ってか、カガリがおずおずと口を開いた。
「フレイ、勿論急な話だとはわかっている。すぐに答えが出せないことも──」
「一つ…………条件があります」
カガリの言葉を遮って、フレイは静かに答えを返した。
「条件、何だろうか?」
身構えるタケルの目の前に、フレイの細い指が1本たてられた。
「もう絶対、カガリを泣かせないこと────それを守ってくれるなら、代表だって何だって、やってやるわよ」
あっ、と間抜けな声を漏らして、タケルは罰が悪そうに笑った。
本当に自分は、随分と大切な妹を泣かせてしまったのだと、改めて自覚する。
「あ、あはは…………勿論だ。もう二度と、カガリを泣かせはしないよ」
「うん、よろしい。それじゃあ────これからよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ────末長くよろしく頼むよ」
どちらからともなく、手を差し出し握り合う。
今ここに、世界初の地球圏独立治安維持機関が誕生した。
エピローグ第一弾。これにて了。
次回で本当に終わり。最後の最後は穏やかな時間を描いて、締めの予定。
完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)
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後日談の日常回
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オリジナルプロットの劇場版
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SEED FREEDOM
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企画:タケルユリスinOO世界