C.E74年
レーヴァテイン事変から終戦を迎え、半年。
この半年の間に、プラント最高評議会はラクス・クラインを議長へと推挙。
ギルバート・デュランダルに代わる、新たな穏健派の議長として彼女をプラントの代表へと擁立した。
地球圏でもまたオーブ、ユーラシア、東アジア共和国の3つを中心とした新地球連合を設立。
プラントの新議長となったラクスの融和政策を受けて、ナチュラルとコーディネーターの深すぎた溝を埋めるべく新たな国際条約を結んだ。
条約の地は、レーヴァテイン跡地。
破壊の爪痕遺る戦場だった場所にて、あの日人類が一丸となった事を記念して結ばれた“連合・プラント平和条約”。
通称、レーヴァテイン条約である。
融和政策と双方の歩み寄りを約束し。各国家における軍事力の全体的な縮小。
そして、打ち出された独立治安維持機関創立への同意と協力の約束。
世界は漸く、本当の平和を作る為の一歩を踏み出していた。
オーブ首長国連邦オノゴロ島。
その日は、随分と穏やかな晴れ模様であった。
終戦から半年。地球とプラント、世界を挙げての復興が約束されたオーブは急速に元の形を取り戻していった。
とりわけ、新たに生み出される独立治安維持機関を構成する戦力を生み出す為、オノゴロとモルゲンレーテの復興は急務。
他の勢力よりも余程高い技術を持つオーブの軍事力は、治安維持機関の要として期待されていた。
そうして復興が進んだオノゴロ島の海岸で、楽しそうに騒いでいる集団がいた。
随分と大所帯である。数にして15……いや、20はいるだろうか。
大きめのBBQセットを並べてのドンチャン騒ぎであった。
「あぁー! アウル、それ私のお肉!」
「網の上で私のもなにもあるかよ!」
「もー、アサギそんな事で騒がないでよ」
「マユラちゃん……そう言ってちゃっかり自分お皿に肉を運んでいくのはちょっと……」
「そう言って遠慮しがちなのも損だぜ。ほれよ、ジュリ」
「あ、ありがとう……スティング」
随分と、仲良さげな模様だ。
一部激しい戦闘を繰り広げている者も居るが、比較的まだ仲良さげである。
一方で別の卓では──
「んで、どうするつもりだシン・アスカ?」
「い、いやぁ……その、俺……」
金色の姫に詰問されるは黒髪の少年。
目を引く真紅の瞳はあちこちへと泳ぎ、一方を見ればワインレッドの頭が揺れ、もう一方を見れば仏頂面の黒髪少女がそっぽを向いた。
「言っておきますがシン……サヤはお兄様と同じく、貴方も手放すつもりはありませんから」
「いや、俺はそもそも──」
「はっきり言いなさいよ! 俺はお前の様な優柔不断は嫌いだって」
「いや、だから、あの……」
「誰が優柔不断ですか!」
「あんたに決まってるでしょ!」
何という痴情の縺れか。
シン・アスカを巡って……と言う所なのだが、どうにも厄介な核弾頭が1人、この状況をややこしくしていた。
「もう一度聞くが、どうするんだシン。一応サヤは私にとっても義妹だからな。事と次第によっては私も物申す必要がでてくる」
「ちょっ、待ってくれよ! アンタのそれはちょっと洒落にならないだろう!」
「はっきり言った方が良いぞカガリ。優柔不断はモテないと」
「それもあんたが言うか! アスラン!」
「俺はカガリ一筋だからな」
プラントでは周知の事実であったラクス・クラインとの婚姻。
しかしそれは彼にとってはもうとっくの昔、過去の事らしい。
あっさりとカガリ・ユラ・アスハに鞍替えしたアスラン・ザラではあるが、その醜聞は余り意味が無いようである。
「いや、だからその…………あぁ、助けてくれよもう、隊長!!」
嘆きの声が、遠くの砂浜でレジャーシートを広げる元隊長へと向けられるのだった。
「ふふ、楽しそうですわね」
「そう、だね? 楽しいで済んでくれれば良いけど……」
くすくすと、花も恥じらう笑みを浮かべるは、桃色の歌姫。
今では多忙な筈の最高評議会議長、ラクス・クライン。そしてその恋人であるキラ・ヤマト。
「あんな風に騒げるのも、平和に過ごせてる証じゃないかしら?」
「マリューさん……それはまぁ、そうかもしれないですけど」
「俺はこっちも気になるけどなぁ……キラとクラインの嬢ちゃん。2人はどうするつもりなんだ?」
「ムウ、それは2人が決める事よ。難しい話なんだからやめて頂戴」
「んなこと言ってもねぇ……俺に取っちゃかわいい弟分だしな」
なっ、とムウに頭へ手を置かれて子供扱いされるキラは苦笑いである。
実際問題、キラとラクスの関係はかなり微妙な問題となった。
プラントの最高評議会議長となったラクスと、オーブの代表カガリ・ユラ・アスハの実の弟であるキラ。タケルの存在がある以上、キラの事実は公にはされない話ではあるが、オーブにとっては要人に入る人間だ。
そんな2人との恋仲というのは、対外的になかなか難しい……無論、これはカガリとアスランにも言える事ではある。
そのはずなのだが────直近でその問題は解決の傾向にあった。
何故か。どこかからか。政界に掛けられた圧力によって、彼等4人の恋仲は半ば認められつつあるらしい。
圧力の具体的な内容は闇の中だが、とあるお兄ちゃんと赤髪のカリスマ代表が手を組んで、各国の防衛軍事力の面から圧力をかけたらしい。
OSライセンスがどうとか、内政干渉がどうとか────とにもかくにも、謎の力が働いて彼等の仲は公認となりつつある。
本日も多忙な筈のラクスとカガリがこの場に呼ばれているのは、そんな裏でのやり取りがあったとか無かったとか。
事実は小説より奇なりとは良く言ったものである。
「ラクス様! これから子供達と歌うんですけど、一緒にどうですか!」
飛び込んでくる溌剌とした声。
ラクスとそっくりの容姿でありながら、髪の色を地味な茶色へと染めた彼女の名はミーア・キャンベル。
現在は、ミゲル・アイマンプロデュースの下、新進気鋭の歌手として活躍中である。
「まぁ! 是非、ご一緒させてください! キラ、行ってきますね」
「うん、楽しんできて」
「はい!」
嬉しそうに砂浜を駆けだす大切な人を見送って、キラはどうにも抑えきれない緩やかな笑みを浮かべる。
そんなキラを厭らしい笑みで見つめるは大人二人。
この後、キラが2人にからかわれるのは言うまでも無い事である。
そして……そんな喧騒から少し離れて。
タケル・アマノは、ナタル・バジル―ルと砂浜に座りこみ、静かに笑いあっていた。
「あはは……皆、楽しそうだね。色々と動いて予定を調整した甲斐があったよ」
「暢気なものだな……いくら今はやる事が少ないからと言って、権力を乱用してこんな場を作るなんて……以ての外だぞ」
ナタルは少し呆れたように隣の想い人を見やった。
そう、今この時この場を用意できたのは、まだ治安維持機関の本格的な始動に至っていないが故に、タケルが暇であったからできた事である。
機関の拠点は動きやすい様に宇宙へ────約束の地レーヴァテイン跡地に、現在建設中だ。
その規模も大概大きいものになる予定で、鋭意建造中の拠点ができるまでは、精々が組織編成の事務処理ばかり。
それも何故か、優秀な人材がてんこ盛りな予定の様で、人材確保には決して苦労していないのである。
タケルとしては、実行部隊の編成で各国の防衛戦力を引き抜くことになるので戦々恐々であったのだが……どうやら引き抜きどころか志願者が多い始末だとか。
「そう言わないでよ。僕のせいで散々迷惑をかけたから。皆でこんな時間を過ごすくらいのお詫びは……あって良いじゃない?」
「お詫びなどと……」
また、そうやって負い目を感じている。
タケルの度し難い考えに、ナタルは顔を顰めた。
しかし、そんな顔をしたナタルの手が、そっと温かい感触に包まれる。
「大丈夫だよ、僕はもう。
ナタルが傍に居て、皆が一緒に居てくれるから……だからもう、大丈夫」
確信させるように。勇気づける様に。
ぎゅっと込められた温もりと力が、ナタルのしかめっ面を解いた。
「そうか……それなら、許す」
「うん、ありがとう」
互いに、どこか気恥ずかしそうに、はにかんでみせる。
愛しい人と並んで、穏やかな時間を過ごせる事に、2人は小さく微笑み合った。
「タケル~」
飛び込んでくる間延びした声。
幼い雰囲気を纏って2人の……というよりはタケルの胸へと飛び込んでくる、カガリとはまた違う金色の少女。
「おっと、ステラ? どうしたの?」
「たくさん食べたら眠くなってきて……一緒に寝よ?」
「あはは、そっか……さては食べ過ぎたね? 良いよ、枕になってあげるからおいで」
「うん!」
「お、おいタケル」
「大丈夫だよ、ナタル……きっと直ぐだから」
もぞもぞと、タケルの太ももへと寄ってきた大きな幼子は、そのままタケルの足を枕に横になると、直ぐに瞳を閉じた。
1分もすると小さな寝息を立て始め、それを見たタケルはナタルへと目配せ。
近くにあったパラソルを広げて、眠り始めた幼子に日差しが当たらぬ様に、日影を作ってやった。
「全く……いくら面倒を見なければならないとは言え、よりによって私達の家に呼ぶことは無かったんじゃないか?」
ステラ、アウル、スティング。
3人のエクステンデッドは、現在アマノの家に居候中である。
ちなみにではあるが、国外追放を受けたタケルに、アマノの家の所有権は無く、本来の所有者は現在家督を継ぐこととなっているサヤ・アマノである。
更に余談ではあるが、戦火の中で破壊されたアマノ邸は、きっちりしっかりタケル・アマノの身銭を切って豪勢な邸宅へと立て直しをされている。
ポンと建て直された豪邸────やはり、開発畑の懐事情は世間から隔絶されているらしい。
そうしてエクステンデッドの3人は、タケル、ナタル、サヤが暮らすアマノ邸へと居候の身となっているのだ。
「それもまた、言いっこ無しにしよう……仕方ないじゃないか。本来なら面倒を見る筈のユリスが、どっかへ飛んじゃったんだから」
「くっ……ラングベルト。またしてもあいつは……」
そう。なぜステラ達をタケルが面倒見る事態になっているのかと言えばだ。
本来彼等の庇護者であるユリス・ラングベルトが、レイ・ザ・バレルと一緒に世界を旅すると言い残して飛んだからである。
それはもう、何の予兆も気兼ねも無く……翌日には居なくなっていたという話だ。
タケルの脳裏には、心配するなとか、後は任せるわね、などと出立直前に意識の伝言が飛んで来たが、完全に厄介払いされた気がしなくもない。
とは言え、彼等を放り出すわけにも行かず、こうして引き取る事となってしまったのである。
「まぁ、それは戻ってきたらちゃんと責任を取ってもらうから」
「そうしなさい。何でもかんでも拾ってはダメだ、全く」
「仕方ないね。僕はとんと、捨てる事には向いてないから」
だからあんなことになってしまった────わかりやすいこれまでを思い返せば、タケルには微かに自嘲の笑みが零れた。
「んっ、んぅ……ん」
静かに寝息を立てるステラを撫でつけながら、浜辺の風を感じてタケルは目を細める。
本当に、静かで、穏やかな……幸せの時間であった。
「こうして過ごせることが、今はとても幸せだと思えるよ────もう、捨てちゃってたから」
ちょっと前まで、こんな未来が来ることを、タケルは夢見る事は無かった。
何を犠牲にしてでも、平和な世界が遺せれば、それで良いと思っていた。
だがこうして幸せな時間を手にして思う。
自己犠牲から生まれる平和など、在る筈が無いと。
幸せな人間にしか、平和な世界を生み出すことなどできはしないのだと。
「そうだな。タケルが勝手に捨てるから、私がちゃんと拾っておいた」
「はは……本当に、ナタルには敵わないね」
隣で微笑を浮かべてくれる最愛の人に。
最後まで自分と幸せになる未来を捨てないでいてくれた、大好きな人へ。
タケルはそっと、感謝を示す様にまた手を握り締めた。
空を見上げれば、地上からも見える大きな建造物レーヴァテインの跡地が見えた。
これからの世界。これからの未来。これから訪れるであろう、確かな時間。
それを脳裏に思い描き、2人は静かにまた笑いあった。
遠目には、未だ騒いでいるサヤやメイリン、シンとルナマリアの喧騒が良く聞こえてくる。
顔を見合わせて、繰り返すようにまた笑いあった。
「ねぇ、誓っていい? ナタル」
「あぁ、私も誓うよ、タケル」
「僕があげる一杯の」
「私が送れる最大の」
「祝福を君に」
あの曲を聞いてから、ずっと思い描いていた最終回。
パロディではあるけど。作者にとってはこれが本当に最高だと思って締めた最後。
作者からキャラクター達へ。祝福を贈りました。
これにて
カガリの兄様奮闘記
完結となります。
本当に、本当にありがとうございました。
最後にあとがきは更新します。
完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)
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後日談の日常回
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オリジナルプロットの劇場版
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SEED FREEDOM
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企画:タケルユリスinOO世界