ほっこりイチャイチャしつつ、またたっぷり真面目なお話です。
宇宙、月軌道周辺。
そこに、スペースデブリの塊が散乱する区域がある。
決戦の地。悪意の残骸。約定の場所。
様々に呼ばれるもその意味する所は1つ────巨大戦艦レーヴァテイン跡地である。
戦艦が在った跡地というのも奇妙な話だが、かの兵器はそれ程までに巨大な規模であったということだ。
跡地と呼べるだけの残骸が周囲に散乱している事も踏まえれば、あながち誤りとは言えない。
そんな残骸から使える資材を回収し、現在跡地の近傍で急ピッチに建造を進められているのが、地球圏独立治安維持機関の拠点“セルヴァ”である。
大型のリング状構造体を居住区画として、中心には拠点としての機能を賄う立方体型構造体を据えた構成をしており、その見た目はどこか宇宙に設置された巨大モニュメントの様にも見える。
「こうしてみると、メサイアくらいはありそうだね」
宇宙空間を走るシャトルの中から、タケルは壮観だと言わんばかりに呟いた。
まだまだ完成は遠いのかもしれないが、現段階では居住区画が概ね出来上がっているとの事。
視察を兼ねて生活用品を一式持ってきたのは、今後過ごすであろう拠点での生活を直に体感する必要があっての事だった。
「しかし、平和になって漸く地に足着いての生活ができると思っていたのだが……私達はまたも宇宙での暮らしを余儀なくされるのか」
感慨深いタケルとの表情とは対称的に、ナタルの顔はどこか物憂げであった。
戦争終結からもうすぐ半年。
正直な事を言えば、ナタルはもうタケルに戦う選択肢を取って欲しくは無かった。
これまでにもう十分戦ってきた……傷ついてきたのだ。
これから先、平穏無事に生きる事を咎めること等誰もしないと断言できる────否、仮にそんな人間が居るのだとしたら、自身がそれを許さない心積もりであった。
しかし、タッシルの街でカガリが告げたように、タケル自身が平穏無事に生きる事を選んではくれない。
それが彼の望みとは異なる道である以上、彼を想うナタルにどうこう咎める事はできなかった。
故に────これから先も苦難の道を選び続けるであろう愛する人を、ナタルは心配の表情で見つめるのである。
「そんな顔しないでよナタル。もう、僕は大丈夫だから」
「そうは言ってもだな……心配くらいはする。
まだ戦後からそう時も置いていないのに。タケルはまた、前と同じ生活に逆戻りじゃないか」
「でも今は、皆が傍に居てくれるから」
一度は諦め、捨てようとした愛する
だから今度こそ、折れず曲がらず歩き続ける事が出来るはずだと。
声音にそれを載せて、タケルは静かにナタルの手を握った。
「その通りです、タケルさん! これからは私達が傍で見守ってるんですから……だからタケルさんはもう大丈夫ですよ!」
元気な声が飛び込んでくる。と同時に、座席の後ろからタケルの肩に腕が回された。
タケルの視界には小さく揺れる赤い髪も飛び込んできて、すぐさまその声の主が理解できた。
「あはは、メイリン髪が擽ったいよ」
「メイリン、何をしているのですか? 今すぐお兄様から離れてください!」
「え~、別にいいでしょヤヨイ」
「私の名はサヤ・アマノです」
「っとごめんごめん……まだ呼び慣れなくて」
「それはともかく。メイリン、もうすぐ入港だから席を立ってると危ないよ」
「はぁ~い」
間延びした声と共に後ろのシートへと着いたメイリンを見て、サヤは怒りに身を震わせた。
どうして、何故、一体何で彼女がここに居るのか。
理解はできても納得できないと言う様に、サヤはしかめっ面を見せてメイリンを睨みつけた。
そう、タケルとナタルが予定していたセルヴァへの視察は、紆余曲折を経てサヤも同伴する事と相成った。
その途上には、サヤ・アマノの盛大な勘違いと羞恥に塗れた告白。後には覚悟を決めたタケルとカガリ・ユラ・アスハとの壮絶な死闘があった事を記しておこう。
とにもかくにも、そうして全てを受け止める覚悟を決めたタケルはナタルとサヤ……そして呼び出した彼女、メイリン・ホークをも内に抱え込みこの視察に赴く事を決めたのである。
“あの……何ですかタケルさん? 大事なお話とは”
“とても申し訳ない事だとは思ってるんだけどね……僕にはもう、君が大切で必要な人だから。
だからメイリン・ホーク、僕と共にこれからを生きてくれませんか?”
空港に呼び出されたメイリンとタケルとの一幕を思い出し、再びサヤは表に出さない様に悶絶した。
無論、直後は混乱の途にあったメイリンであるが、長い間胸の内で熟成させてきた想いは天井知らず。彼女もまた、迷うことなく了承の答えを返すことになった。
何故だ。どうしてメイリンについてはそうも簡単に話が進むのだ。
これでは盛大な勘違いと痛い思いまでして想いを告げた自身がバカみたいではないか。
隠し切れない嫉妬と遣る瀬無い怒りに、サヤの心は暗黒面へと落ちかけていく。
散々苦労して、想い続けて、漸く大切な守るべき妹から脱却し、兄との望む関係に至れたと言うのに。
隣にいる同期の少女は、その関係をいとも容易く手に入れた。何ならサヤの事が切っ掛けでタケルの決心がついたとあって、サヤが援護したまであるだろう。
こんな理不尽。こんな不条理、在って良いのか────否、無い。
「サヤ……そんな怖い顔しないでよ」
「怖い顔など、しておりません」
「でも凄い顔してるよ? お姉ちゃんがシンと喧嘩した時くらい」
「メイリン、貴女は黙っていてください!」
どうしようもなく感情の整理が利かず、サヤは噛みつくように言い放った。
流石に空気が悪くなる気配を感じて、タケルは仕方ないなと言う様に苦笑を溢す。
「もぅ……分かったよ。ちょっとおいで、サヤ」
優しい声音でそう言われてしまうと、今度は拗ねて強請った様な心地となり、罰が悪くなってしまう。
かといって、最愛の兄からおいでと言われ拒否して、タケルの表情を曇らせたくもないサヤは、視線を合わせないまま静かに席を立ってタケルの傍へと向かった。
「何でしょうか……」
「よっと」
「きゃっ!? えっ、あっ、お兄様!?」
寄ってきたサヤの小柄な体躯を抱き上げると、タケルは己の膝の上に乗せて後ろから抱え込んだ。
突然の事態と、背中に伝わる温もりにサヤは混乱の最中に陥っていく。
「お、お兄様──」
「僕はね、サヤ────君達3人に救われたんだ」
静かに、それでいて強い意志を感じさせる声で、タケルは呟いた。
聞き逃さないでと言っている様に聞こえて、身じろぎする事を辞めたサヤは聞き入る。
ナタルもメイリンも、静かに次の言葉を待った。
「僕が辛い時。壊れかけた時。本当にダメになりそうなときに……君達は、僕を救ってくれた。
サヤが僕に全てを伝えてくれた時に、漸く気づいたんだ。僕はきっと誰を選ぶこともできないなって」
「だから……メイリンも、ですか?」
静かに問うサヤに、タケルは大きく頷いた。
そしてメイリンへと目を向ける。
「メイリンはね、ディオキアで一緒に出掛けた時から、ずっと僕を支えてくれたんだ。僕がすることを、その背中を支えてあげたいって言ってくれて。
カガリやサヤ達と戦う事になって壊れかけた僕を、全力で支えようとしてくれた」
あの日……ミネルバでメイリンに搔き抱かれた日。
タケルはメイリンに救われることを望み、受け入れた。
「ナタルはね……3年前サヤを目の前で喪った僕に。泣いて良いって。立ち止まって良いって。僕に笑顔が戻るその時まで、ずっと傍に居てくれるって」
「──存じて、おります」
隣を見ながら噛み締める様に語るタケルに、今度はサヤが頷いた。
それは自身が遺した罪の証。だからこそサヤは、タケルと深い関係となったナタルに感謝こそすれ恨み辛みを抱くこと等無かった。
「そしてサヤ……それは君も同じ」
「わたくしも、ですか?」
うん、と小さく聞こえる返事と同時にサヤは膝上で丸くなったままタケルと向かい合う様に振り向かされる。
「お兄様……」
「ジェネシスを見て折れかけた僕を……ユリスとクルーゼさんに負けそうだった僕を……プランの為に、全てを投げ捨てた僕を────君は最後まで諦めず、僕を愛し続けてくれた」
「それは……だってそれは、サヤがお兄様を愛しているからに過ぎません」
「うん、それが僕を救ってくれた。ずっと妹だからと誤魔化していた僕の気持ちを、君の愛が教えてくれた────僕の気持ちは嘘じゃないって」
胸に宿り始めた、捨てられない気持ち。失えない想いと命。
タケルが前を見て、歩いて来れたのは彼女達がいたからに他ならない。
「だから僕はもう、ちゃんと向き合うって決めたんだ────3人がくれた、それぞれの愛に」
隣で寄り添うナタルの理解の愛。
後ろで背中を支えるメイリンの献身の愛。
そして、前から全身全霊で想いをぶつけてくれるサヤの無償の愛。
それぞれに違う形でありながら、根本足るタケルへの想いを確かに持つ3人と、タケル・アマノはこれから共に生きる事を決心したのである。
「だからね、サヤ。
僕の中で君達の愛に優劣は無いし、君達への愛にも優劣は無いよ」
違う形を取った愛に優劣などつけられない。
ベクトルが違う以上、そこに強弱も大小も無い。
だから、サヤを蔑ろにしているわけではないと、タケルは向き合うサヤを抱きしめる事で伝えてみせた。
「お、兄様……」
「どうかなサヤ、これじゃダメ?」
少し困り顔を見せながら問うてくるのはズルいだろうと、サヤはかぶりを振った。
「いえ、サヤにとって最上でございます────お兄様」
輝かんばかりの笑みを浮かべたサヤに、タケルもはにかんで返すのだった。
「おっそーい!! 予定時間はとうに過ぎてるわよ!」
中央構造体にあるセルヴァの発着エリアへと入港して降りた一行を、不機嫌そうな声が出迎える。
メイリンよりも色相の濃い、長い赤が無重力空間に揺れ、声の主はその声音の通りに不機嫌さを醸し出して降りて来たタケルを睨みつけていた。
ご存知、独立治安維持機関代表となる予定のフレイ・アルスター総裁である。
「申し訳ない、フレイ・アルスター……ちょっと出立前に色々と起きてね。予定が狂ってしまった」
「約束の時間も守れないなんて、これから先不安でしかないわ」
「まぁまぁフレイ、アスハ代表からも遅れる連絡は──」
「私達がこっちに来てからの連絡じゃない。お陰で1日何もできず待ちぼうけよ。全く……」
傍に居たサイが宥めるも、フレイの怒りは冷めやらなかった。
叱責されるタケルを見て、発端と原因は己に在るとサヤが前のめりになろうとするのをナタルが抑え、タケルは今一度と頭を下げた。
「本当に申し訳ない。フレイ・アルスター、今後は無い様にするからどうか許して欲しい」
下げられる頭を一瞥すると、フレイはその背後に居るナタル、サヤ、メイリンと視線を巡らせていく。
「ふんっ、カガリが言っていた事は本当だった様ね」
「カガリが? 何か言っていたのかい?」
「もう兄様は大丈夫だから、思う存分扱き使ってくれって────後ろに居る3人を見て合点がいったわ。お目付け役が勢ぞろいってとこかしら?」
「あ、あぁ……そうだね。皆僕の大切な人だよ」
悪びれも無く、そしてどこか当然と言う様に言い切って見せるタケル。
その姿と、後ろに佇むナタルの気配に、フレイは彼等の関係が十分に納得できる関係であることを察した。
「思っていたより地に足がついてそうで安心したわ。何より、バジル―ルさんが傍に居るなら私も安心だし────それじゃ、改めて」
フレイより差し出される手。
意図を解し、タケルもまた己の手を差し出し取り合った。
「これからよろしく頼むわよ、アマノ総括」
「こちらこそ、よろしく頼む。アルスター総裁」
これから続くであろうパートナー契約を、2人は確かなものとして、手を取り合うのであった。
それから暫く。
ナタル、サヤ、メイリンの3人はサイの案内でセルヴァ内部を案内され視察を行い。
タケルはフレイと共に中央構造体の角に当たる司令エリアへと足を運んで関係者との会議となった。
現在の世界情勢から始まり、セルヴァの建造進捗を聞き及び、タケルもまたオーブから持ってきた人員計画の報告を行う予定だ。
現時点の世界は、平穏平和そのものである。
それは、ギルバート・デュランダルが命を賭して実現させた結果でもあった。
3年前の大戦から然程時を置かずしての2度目の大戦。どちらもが世界の軍事勢力のほとんどを注ぎ込んだ戦いに、地球圏は疲弊していた。
そもそもからして、争いを起こす様な余裕すらほとんどありはしない。
齎された戦火の傷跡は、深く多いのだ。
そして、先の戦いで潜んでいた悪意の大方を断ち切った今、世界規模での目下の目標は、この疲弊しきった世界の立て直し。
戦火の傷跡を埋める事である。
その為に必要なのが、安全という担保。国家の枠組みを超え、世界規模で武力行為への抑止力と成るべく生み出される、独立治安維持機関である。
「以上が、現在のセルヴァ建造進捗報告になります」
「ありがとうございました。では次に実行部隊担当のアマノ総括から、部隊人員の報告を」
フレイの声に静かに立ち上がると、スクリーンに映し出された情報があらかじめ用意していた資料へと切り替わっていく。
「まず初めに、実行部隊に当たる戦力の人員について。これは資料の通りの構成で予定されています。
所属を機関の所属となる者で5割。残りの半分はオーブで2割。ザフトからも1割。最後の2割をその他支援国家から戦力を借り受ける形で実行部隊を構成する予定です」
「借り受ける? その意図は何だろうか?」
参席者の中から挙がる疑問。タケルが答えようとしたところでフレイから手が挙がった。
「それは機関の後ろ盾となってるオーブとプラント両国からの提案よ。
目的は相互監視による秩序の維持の為。支援国から戦力を借り受ける事で私達の暴走を止める監視役になってもらい、そして私達もまた彼等を借り受ける事でオーブやプラント、その他国々が巨大な戦力を持ち過ぎる事を防ぐ。
全体的な軍縮を世界規模で進めるべきと考えるアスハ代表とクライン議長は、戦力の相互監視をできる場としての面も機関に見出しているわ」
「とどのつまり機関は、国が豊かになる為には不要な防衛戦力の掃き溜めとなる、というわけです」
「言い得て妙ではあるけれど……アマノ総括、その言い方は誤解を招くからやめて頂戴」
「失礼した」
掃き溜め────その通りではあると、内々に納得しながらもフレイはタケルを窘めた。
防衛戦力。これは国家において重要なものであると同時に、国の復興や豊かさを求めるのであれば最も不要なものだ。
かつてロゴスがそれを利用していたように、軍需産業は莫大な金が掛かるのである。
MSの開発。製造。人件費や設備。一度動けば馬鹿げた金が掛かり、一度作れば維持費は恐ろしく国費を圧迫する。
だが、今復興を急務とする世界情勢の中で、そんな事に金を費やせる国がどれだけあろうか。
仮に何か事が起きた時、対応できる国がいかほど居ようか。
大戦の傷跡が記憶に新しい今、どの国家も国民に安全を保障したい。が、復興の為には費用が掛かり過ぎる軍事戦力を手放す必要がある。
国の安全と復興を、各国家は天秤にかけなければいけない状況なのだ。
そんな板挟みを解決するのが、この治安維持機関である。
ある程度の出資と、負債である戦力を預ける事で自国の安全を約束できる。
オーブやプラントはそれなりの防衛戦力を手元に残しておけるだろうが、疲弊した各国家にはこれ以上都合の良い国際機関は無いだろう。
「ふむ、では借り受けた戦力を元に、機関の実行部隊を編成すると?」
「概ねはそうです。尤も、半分はウチの戦力で構成するわけなので、独立機関の名の通り、あくまで中立性は十分に保つ事を念頭に置いています」
答えたタケルは、小さく肩を竦めた。
掃き溜めとなり各国から戦力を借り受けるが、その戦力は本来であれば不要なもの。
タケルとフレイの構想では、予定していた独立戦力だけで十分に事は足りていた。
相互監視の提案は、そんなタケルとフレイの思惑を見たカガリとラクスから後付けに提案されたものである。
「ですが、本当にそんな少数戦力で世界の平和を維持する事が可能なのでしょうか?」
「それを可能にするのが我々の役目です」
誰かの挙げた疑問に、また別の誰かが答えを返す。
やや強い口調と声音に、会議室の空気が一つ引き締まった。
「失敬──挙手を忘れました」
「貴方は?」
立
ち上がった痩身痩躯の男。片目にかけられたアイウェアが特徴的な男性に、タケルはどこか険しい空気を纏い尋ねた。
「アルバート・ハインライン、技術大尉です────先日より、機関の技術部門で舵を取らせてもらっています」
挙げられた名乗りに。
タケルはユリスに続いて2度目の宿敵の気配を感じ取るのであった。
まだ劇場版見てないんですけど、以前からちらほらこのキャラとの絡みを期待されていたアルバートさん。
フリジャの開発者とあっては、タケルにとって技術者の宿敵と言えるでしょう。
今回の話は次回もありの2部構成です。どうぞお楽しみに。
追記。
多くの感想、お声をいただき感謝に絶えません。
劇場版まだ未視聴なので答えは出せませんが、前向きに検討中です。(故に更新してますしね
本当にありがとうございます。
完結後、読みたい話は? (どれから書くか参考までに)
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後日談の日常回
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オリジナルプロットの劇場版
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SEED FREEDOM
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企画:タケルユリスinOO世界