機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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少しこれまでと違う文量で劇場版は書いていくかも


PHASE-1 コンパス

 

 

 深夜と呼べる時間帯。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 いつも通りの夜は、灼熱の炎に照らされる地獄絵図へと変わっていた。

 

 

 

 

「お父さん……お母さん!」

 

 

 必死に足を動かし、少女は悲鳴交じりに叫んだ。

 

 つい先程、少女が寝泊まりする家屋が爆発に巻き込まれ崩壊したのだ。

 外に投げ出された少女は、家に残っていた筈であろう両親の安否を確かめるべく、祈る想いで瓦礫へと駆け寄った。

 

 

「お父さん! お母さ──」

 

 駆けつけて、家屋だった場所を見つめた先────少女の声は途切れた。

 

 炎の色に見劣りしない赤黒いナニカが、少女に理解を拒ませた。

 

 

「あ、あぁっ!」

 

 

 叫ぼうとした瞬間、少女の身を巨大な振動が跳ねさせる。

 轟音と共に、背後には無機質な機械人形が聳え立ち、静かに彼女を見下ろしていた。

 

 

「い、や……助け……お父さ」

 

 

 青白く光を灯すヘッドが、得物を見定めるかの様に一際光るのを、少女は目にした。

 向けられる銃口が走馬灯の中で微かに光りを宿し始める。

 

 

「お母さ──」

 

 

 

 刹那、光条は彼方より飛来した。

 

 

 正確無比に撃ち抜かれたダガーのヘッド。次いで炎に照らされた星空に、巨大な光の翼が広がる。

 

 

「うぉおお!」

 

 

 色鮮やかな紅蓮の翼を広げ、少女の眼前には鋼の天使が降り立った。

 

 

 

 

「っ!? 間に合ったか。ハイネ、どうすれば良い!?」

 

 戦場へと一番乗りで突撃したシン・アスカは、戦況を確認しながら指示を請うた。

 

 状況は混乱の一途。ザフトとテロリストが入り乱れ、市民の被害は散々。

 この状況で最善と言える一手を、シンは即座に見出すことはできなかった。

 

 

『シンは最前線だ、最速で敵の数を減らし続けろ! 但し射撃武装は無しだ。余波で市民を巻き込むな! アスカ隊は後詰で前に出ろ、戦線を作れ!』

「っ!? あぁ、了解だ!」

「わかったわ!」

「了解!」

 

 空中へと飛翔したデスティニーはヴォワチュール・リュミエールを最大展開。

 鮮やかな光の軌跡を描きながら、敵侵攻部隊を確認すると突撃。

 フラッシュエッジとパルマフィオキーナを駆使して駆け抜け様に次々と敵戦力を薙ぎ払っていく。

 

 後詰に前線へと出ていくルナマリアのゲルググは、専用強化ビームライフルでシンとは別の敵をロックオン。

 吐き出される光条は狙い違わず空中のウィンダム部隊を撃ち落としていく。

 

「アグネス、援護お願い!」

「わかってるわよ、そのくらい!」

 

 そんなルナマリアのゲルググを狙って接近してくる機体は、アグネスのギャンシュトロームが前に出て応じる。

 ビームアックスと外縁に8基のビームサーベル発生器と回転機構をもつ円盤状シールド“MMI-KX8E4 自航防盾”で切り捌いた。

 

 

『アマノ隊、政府施設と避難地点の防衛に当たれ! ムラサメは大型防循を持ってきてるな……何としても市民の被害を食い止めろ!』

「承知です────アマギ少佐、ババ少佐、ポイントを指示します。各自防衛線に移行してください!」

「了解!」

「了解だ!」

 

 

 戦域情報にマーキングを施すと、サヤは政府施設へとシンゲツを飛翔させる。

 デスティニー同様に光の翼を出力させると、彼に倣いゲツエイからビームサーベルを出力。

 敵機を切り捌きながら目標地点へと急いだ。

 続くアマギとババのムラサメも備えて来た大型防循を展開し防衛地点へと飛翔。

 避難場所を背にしたところでビームスナイパーでの迎撃をしながら市民の防衛に回った。

 

 

 平和監視機構コンパスの本格参戦である。

 

 

 

「良し、現着と初動は上々だ────それならば」

 

 

 初動の指示を済ませたところで、ハイネは自身も戦列に参加する。

 新規に追加されたアスパイアのドラグーン兵装“クラッドシールド”を展開。

 アスカ隊、アマノ隊の防衛線の隙間を埋めるようにしてオルドリンの街を防衛していく。

 

 そうして防衛態勢に入りながら即座に戦域へ回線を開いた。

 

 

『こちらは世界平和監視機構、コンパスだ。

 オルドリン地区へ侵攻中の敵部隊に告ぐ。市民を巻き込む諸君らの侵略行為をコンパスは悪意ある明確なテロリズムと断定している。我々は斯様な悪意ある軍事行動を認めない。

 これ以上侵攻を続けるのであれば、全力を以て攻撃部隊の殲滅に移行する。

 命を捨てる覚悟が無ければ、直ちに武器を捨てて投降しろ!』

 

 本気を思わせる声音で、最後通告と言わんばかりにテロリスト達へと呼びかけた。

 

 このタイミングでまだ止まるなら、こちらも踏みとどまってやる。

 動くのならこれ以上は一切の加減も情けも無い。

 

 コンパス設立の折に示された、彼等の存在理由と理念の提示である。

 

 

 

 ────しかし。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 返答は巨大な閃光によって行われた。

 攻撃部隊にあるウィンダムやダガーといった通常MSとは一線を画す、戦艦と変わらぬ巨大な砲撃。

 

 攻撃部隊が次々とやって来るカナジ市街方面から、夜の闇に紛れていた様に巨大な黒い影が動き出す。

 

 GFAS-X1 機体名デストロイ

 

 先の大戦ではロゴスの切り札として戦線に投入され、ベルリンを含む3都市を壊滅させた悪魔の様な記録を残している。

 そんな破壊の権化とも言うべき巨大なMSである。

 

 

「デストロイ……ちっ、またあんなふざけたモノを!」

 

 デストロイが持つ胸部3門のスキュラに燐光が収束していく。それが向く先はオルドリンの市街を真っ二つに切り裂くような射線をとっていた。

 

 戦慄と共にハイネはクラッドシールドを展開し、前線へと飛ばした。

 

「させるかよ──シン!」

「わかってる!!」

 

 クラッドシールドが2枚。そしてデストロイの正面へと躍り出たデスティニーがビームシールドを展開。

 巨大な破壊の奔流を受け止め、背後のオルドリンへの被害を食い止めた。

 

 

「くっ、今更またこんなこと────させるものかよ!!」

 

 

 真紅の眼が光を失う。

 

 スキュラを防ぎ切ると同時にSEEDへと陥ったシンは、続く二撃目を許さんと言わんばかりにフラッシュエッジを投射した。

 攻撃直後で陽電子リフレクタ―の展開が遅れたデストロイはこれを被弾。

 

 スキュラを3門破壊すると同時、アロンダイトを構えて突撃したデスティニーは、その長大な実体剣をデストロイへと突き刺し両断して見せる。

 

「こんなものに…………もう2度と世界を焼かせるもんか」

 

 あっけない巨大兵器の幕切れ。恐らくはもうまともに扱えるパイロットも居ないことの証左だろう。

 乗り込んで無作為に攻撃のトリガーを引くだけ。だがそれで十分な脅威になるのがデストロイだ。

 

 巨体が崩れ落ちる轟音と共に、周辺一帯へ土煙と爆炎が巻き上がる。

 破片が雨のように降り注ぎ、つい今し方まで絶望に呑まれていたオルドリンの街に、ほんの僅かな安堵が生まれかけた。

 

 だが────その弛緩こそが、敵の狙いであった。

 

 

「っ、待てシン! まだだ!」

 

 

 ハイネの怒声が、戦域へ鋭く響いた。

 

 次の瞬間。

 デストロイの残骸が立てる崩落音に紛れるようにして、カナジ市街の奥。夜の闇に沈んでいた巨大な影が、ずるりと身を起こした。

 

「なっ……!?」

『熱源反応急上昇! 大型機影を確認────デストロイ、もう1機です!』

 

 サヤの張り詰めた声が回線内に響き渡る。

 

 

 先の機体よりもオルドリン市街から離れた位置。防衛線の隙間を縫うような死角から、同型機は姿を見せていた。

 

「ちっ、囮かよ……!」

 

 ハイネは思わず舌打ちした。

 

 最初の一機は破壊のためだけの駒。

 コンパスの意識と火力を防衛へと釘付けにし、その後ろから本命を通す。

 あまりにも悪辣で、そして合理的な手口だった。

 

 同時に、2機目のデストロイはその巨体を軋ませながら胸部を展開。

 3門のスキュラが、夜を裂くように燐光を収束させていく。

 

「まずい……っ!」

 

 その射線の先にあるものを見て、ルナマリアが息を呑んだ。

 そこにあるのは防衛線ではない。彼等でもオルドリンの防衛部隊でも…………。

 

「ちょっと、本気で──」

 

 慄くアグネスの目を向ける先は、まだ避難しきれていないオルドリンの市民が集まる市街地、そのど真ん中。

 

『シン、戻れ! 撃たせるな!』

「言われなくても!」

 

 デスティニーは即座に反転。

 だが先程の突撃で深く踏み込みすぎていた。破壊したデストロイの巨体が邪魔をして、最短軌道を取れない。

 

 サヤのシンゲツも、アマノ隊のムラサメも、既に市民防衛のため横に広く展開している。

 間に合うかどうかは、誰の目にも明らかだ。

 

「くっ……この距離は!」

 

 ハイネは咄嗟にクラッドシールドを展開。

 だが射線を読み切って割り込ませるには、あと一瞬足りない。

 

 たった一瞬。一歩が足りなかった。

 

 燐光はなおも増し、巨大な破壊の奔流が今まさに解き放たれようとしていた。

 オルドリンの夜が、再び白く焼き潰される姿を────誰もが幻視する。

 

 

 

『──許すと思うか』

 

 

 絶望は、白銀によって切り裂かれた。

 

 直上より急降下してきたシロガネは2本のビャクヤからサーベルを出力。

 発射を目の前にしたスキュラを、斜めに横断するよう切り付けて破壊した。

 

 

「つぅ、狙って来たようなタイミングだな────アマノ総括よ」

 

 

 揺らめく炎の光を受けて、煌々と輝く白銀。

 威風堂々たる様で戦場にその身を晒すのは、伝説的となった閃光の如きMS。

 

 

 白銀の閃光────タケル・アマノとシロガネ・コクウの参戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 戦場を睥睨し、タケルは状況を俯瞰した。

 

 市街の被害は大きい。これ以上戦闘時間が長引けば市民への被害は想定される最悪を塗り替えるだろう。

 脅威となるデストロイに釘付けにされたせいで、その他戦力による被害を許してしまっていた。

 

 

「──くっ、ビャクヤではやはり浅かったか!?」

 

 

 眼前で再び動き出すデストロイの2号機。

 シロガネの力不足が祟り仕留めきれず、再びの攻勢に出ようとしていた。

 

「させないよ」

 

 冷めた声音と共に、シロガネを走らせる。

 ジンライを取り払われた可動性多角スラスターから膨大な光を吐き出して、シロガネはデストロイへと接近。

 駆け抜けざまに脚部を切り付ければ、続いて背面の主砲2門とミサイルポッドを破壊。

 最後に、再び正面へと回り込んで頭部を切り落とした。

 

 厚い装甲のデストロイ────完全破壊こそできなくとも、武装の全てを破壊すればその脅威は皆無に等しい。

 

 

 鮮やかな手際でデストロイを解体してから転身。即座に主戦場となるオルドリンへと機体を向ける。

 

 

「全機、防衛に注力しろ。これ以上の被害を出させるな! シン、敵勢力を殲滅する────合わせろ!」

「あ、あぁ!」

 

 

 力強く応じる声と共に、シンもデスティニーを走らせた。

 

 閃光の名に恥じぬ馬鹿げた戦速で戦場を駆けるシロガネが、次々と空中のウィンダムを切り落としていけば。

 地上ではデスティニーが、フラッシュエッジとパルマフィオキーナでダガーや小型の自走砲などを蹂躙していく。

 

 

 白銀が走るたび、夜空に閃光の軌跡が奔る。

 視認した時には既に遅く、ウィンダムの四肢が、胴が、次々と断ち切られて爆炎へと変わっていった。

 ドラグーンを失ってもなお、シロガネ・コクウの速度と機動はまるで衰えを見せない。可動性多角スラスターから荒れ狂う光を吹き上げ、タケルは文字通り戦場そのものを蹂躙していた。

 

 一方で、地を駆ける紅蓮は苛烈そのものだ。

 デスティニーは瓦礫の上すら意に介さず跳躍し、着地と同時にフラッシュエッジを投射。逃れようとしたダガーの脚部を吹き飛ばすと、間髪入れず懐へと潜り込み、パルマフィオキーナを叩き込んで機体ごと爆砕した。

 

「はぁああっ!」

「このぉおおっ!」

 

 咆哮と共に振るわれるアロンダイトが、逃げ場を失った敵機をまとめて薙ぎ払う。

 

 

 上空を制する白銀。

 地上を穿つ紅蓮。

 その二機が交差するだけで、つい先程まで優勢であったはずの敵勢力はみるみる内に呑み込まれていった。

 

 

 戦局が、目に見えて塗り替わっていく。

 平穏を蹂躙するためだけに押し寄せた悪意を、今度はコンパスが真正面から踏み潰していた。

 

 

 

 勇躍するは、コンパスが誇る絶対的エースパイロット。

 タケル・アマノとシン・アスカの2人だ。

 

 

 

 

 

 

「────あれが、シン?」

 

 自然と漏らした己の声音に、アグネス・ギーベンダートは驚いた。

 無意識の内に、躍動するシロガネとデスティニーの動きに目を奪われていたのだ。

 

 あの粗野で短慮で、知性のかけらもない男が。

 自分でも到底敵わぬとわかっていた伝説的パイロットと肩を並べ、戦場を支配していると言えるだけの活躍を見せている。

 

 それがとても、現実とは思えなかった。

 

 

「ちょっとアグネス! 何固まってるのよ!」

 

 

 通信回線から飛び込んでくる僚機の声に我へと帰り、アグネスは慌ててギャンを駆った。

 ゲルググの隣へと並び立ちシールドを展開、市民の防衛に徹するも。

 

「ふんっ、私だってデスティニーに乗ればあのくらい──」

「何!? 何か言った、アグネス?」

「何も言ってないわよ!」

 

 

 脳裏に焼きついた紅蓮の翼は、簡単には消えてくれなかった。

 

 

 

 

 




忠犬主人公は頼られた時こそ真に力を発揮する。

いい感じにハイネも隊長しててらしい姿を描けたかな。
アマギとババさんは、サヤちゃんの部隊員としてオーブから同様に出向枠だったりする。
今作ではコンパスの一員として他のオーブ軍よりは出番多めかも。

プロローグが終わり次回から少しずつ話が動いていくと思います。
なんだかんだまた長々と連載しそうですが、お楽しみいただければ幸いです。

感想、よろしくお願いします。

劇場版で活躍して欲しい子アンケート

  • 忠犬主人公シン
  • お兄様至上主義サヤ
  • ザ・お姉ちゃんルナマリア
  • オーブ三羽烏
  • エクステンデッド組
  • ユリス&レイ
  • 一応主人公タケル
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