オルドリン地区の空を、巨大な灰色の影が横切る。
戦火の爪痕が未だ生々しく残る街並みに落ちる、見慣れた艦影。
コンパス所属艦フォルトゥナとほぼ同一のシルエットを持つそれは、ザフトが所有するミネルバ級一番艦────ミネルバである。
低く響く推進音と共に高度を落とし、郊外へと設けられた臨時の駐留区域へ着陸。
先に停泊していたフォルトゥナの隣へと巨体を落ち着ければ、同型の大型戦艦が二隻並び立つ、なかなかに壮観な光景が出来上がった。
ややあって。
ミネルバ側面のハッチが開かれ、タラップを先頭で降りてくるのはタケルにとって見知った顔だった。
柔らかなブラウンの髪。
嘗ては共に戦場を駆け、時に敵として撃ち合い、それでも今なお友と呼べる男。
胸中に湧く懐かしさを一先ず脇へ押しやって、タケルは隣に立つタリアと共に敬礼を示した。
「お待ちしていました、ヤマト大佐」
「遅れてすいませんタケ────アマノ総括」
露骨に言い直した。
笑うべきか否か。僅かに逡巡した末、タケルは口元に浮かびそうになる苦笑をどうにか噛み殺した。
「長旅お疲れ様です」
「う、うん……ありがとう」
「──ヤマト大佐」
「わかってるよイザーク」
背後から刺さった声音に、キラの肩がびくりと揺れる。
その原因となった銀糸の男へ、タケルは改めて視線を向けた。
「ジュール少佐も、お久しぶりです」
「お久しぶりです、アマノ総括。グラディス中佐も────此度はプラント領オルドリン自治区への迅速な対応。ザフトを代表して感謝いたします」
「いえ。それが私共コンパスの責務ですので」
タリアとイザークも互いに敬礼を交わす。
そうして歓迎らしい空気はそこまで。
タケルは視線を、フォルトゥナの背後へと広がる無数の天幕へ向けた。
救護用の大型テント。
仮設の医療設備。
忙しなく行き交う救助員と、未だ絶えることの無い人の声。
一行は自然と表情を引き締め、臨時の救護区域へと足を進めていった。
「それで……被害の状況は?」
歩きながら、キラが静かに問い掛ける。
「今日までに確認された死傷者が568名だ」
「568……そんなに」
「行方不明者については凡そ確認が取れた。だから、ここから数字が大きく増えることはないと思う」
淡々とタケルは事実を並べる。
しかし、その声音が平坦なのは何も感じていないからではない。
寧ろ逆だ。
何度も見て。何度も数えて。
今更声に感情を乗せても、失われたものは帰ってこないと知っているだけである。
「重傷者への治療も出来る限り手は尽くしている。だけど、所詮は急造した野戦病院だ。ここで出来ることには限度がある」
言いながら周囲へ目を向ければ、丁度一人の負傷者が担架に乗せられ運ばれていくところだった。
その脇を、包帯を巻かれた幼い少年が母親らしき女性に手を引かれ歩いていく。
戦争の後。
数値で568と表せば、それだけの話。
しかし実際には、その一つ一つに家族があり。生活があり。それまでの人生がある。
目の前に広がる光景は、記録された数字よりも余程重くキラの胸へと圧し掛かった。
「そっちの備えは?」
「あ、あぁうん。こっちは────」
「ヤマト大佐」
「…………ジュール少佐」
「はっ」
何かを説明しようとしたところでイザークからの視線を受け、キラは僅かに逡巡した後、大人しく副官へと話を投げる。
最早慣れたものなのか。
イザークも何ら気にした様子なく端末を取り出した。
「まず、怪我人輸送用の航空機が五機。状態の安定している者から順次、ザフトの地上軍病院へ移送する予定です」
「ここからだと随分遠いね。ユーラシア各国との折衝は?」
「残念ながら」
イザークは僅かに眉根を寄せた。
思い通りにはいかなかった…………そう表情は物語る。
「あちらも現状、無闇に避難民や負傷者を受け入れる事は出来ないと」
「それもそうか……」
タケルは責めるでもなく頷いた。
国境を一つ隔てたすぐ隣で、大規模な武装勢力による侵攻が起きたばかり。
ならばユーラシア各国としても警戒を強めるのは当然の判断である。
善意だけで国境を開き、そこから武装勢力の侵入を許しましたでは、国家として目も当てられない。
「それを見越しての輸送機です。他には衣食住を確保するための物資を数ヶ月分。コンパスの初動対応によって重機類の積載を最低限に出来ましたので、その分を生活物資へ回しています」
「役に立てたなら何よりだよ。こちらとしても頑張った甲斐があった」
一度、タケルは救護区域を見渡した。
その瞳には、どうしても小さな憂いが混じる。
「…………取りこぼした命は、多かったけどね」
「でも、守れてる命もあるよ」
タケルは一瞬だけキラへと目を向けた。
出会った時から変わらない。自分とは別の方向性で夢想論者だと思う。
けれど今は、その聞き心地の良い言葉を否定しようとも思わなかった。
「うん────そうだね」
小さく頷いて、再び歩き始める。
「そう言えば、連絡があった例の子は?」
「あぁ、ナッシェ?」
「一応、手続きに必要な書類はプラントから一式預かってきたけど。今もフォルトゥナに?」
「うん。まだ艦内だよ」
「だったら先に済ませてしまうか?」
イザークの提案に、タケルは僅かに思案してから頷いた。
「そうしよう。どうせキラ達にはフォルトゥナの方でも引継ぎ事項があるし────丁度良い」
動くべき先を決めて、一行は再び歩き出した。
「うぅ……」
僅かに、それも隣には聞こえないようにシンは呻いた。
フォルトゥナの休憩スペース。
簡素なソファへ腰掛けたまま、ちらりと隣を見やれば。
「……」
そこには無言で座るナッシェの姿がある。
両親を失い、たった一人となった少女は、その孤独を紛らわすようにシンの傍を離れず。
かといって、懐いたと呼べるほど近くもない。
間に人1人が入るには少し狭い。
そんな絶妙な距離を置いて、彼の隣に鎮座していた。
先日、シン・アスカによってようやく現実を受け止め、一先ずの無気力を脱したナッシェだが、困ったことに相変わらず医務官の世話を受け付ける様子はなかった。
ただ、変化として一点。
彼女はあの日以降、シンの傍を離れなくなった。
シンが立ち上がれば逡巡しながら一緒に立ち上がり、動き出せば置いて行かれまいと軍服の裾を掴んで後に倣う。
まるでアヒルの親子のようだ────とは、彼らを見たアグネスの言である。
そうして医務官の世話を受け付けないナッシェは、シンと併せて、戦闘時以外は大抵暇を持て余しているパイロット達へと任せられることになった。
オルドリンの惨状を見れば、今は医務官の方が余程多忙だ。
特段命に別状がないナッシェ一人に付きっきりではいられない、というのも本音なのだろう。
「……どうしたもんかなぁ」
またも、シンは隣には聞こえないようにぼやいた。
在りし日の妹をナッシェに重ねていた。
それ故に、彼女の世話くらい見てやれるつもりでいたのだが。
如何せん、たった一人の妹から得た経験は、この時何の役にも立たなかった。
生前のマユ・アスカは感情豊かで、何をして欲しいのかが明白だった。
わがままを言って兄を困らせることはあれど、何も言わず黙り込むようなことはなかったのだ。
何をして欲しいのか。
何をしてあげれば良いのか。
何と声を掛ければ良いのか。
甚だ、見当もつかないのがシンの現状である。
「はぁ……埒があきませんね」
ふと、凛とした声が室内に通る。
声の主は、周囲で見守っていたサヤ・アマノ。
ちなみにナッシェの世話はアスカ隊へと割り当てられたものの、身の回りの世話なら任せろと、元タケル・アマノ専属使用人としての経験を根拠に名乗りを上げたのが彼女であった。
カツカツと軍靴の音を鳴らしてナッシェの前へ向かうと、サヤは少女と目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「ナッシェ……シンに何かして欲しいのですか?」
目の前に現れた、人形のように整った容姿。
僅かに面食らったように、ナッシェは目を丸くする。
「空腹ではないですか? それとも喉が渇いているとか?」
静かに、ナッシェは首を横へ振った。
「むぅ……ではデッキに出て少し外の風にでも当たりましょう。そうすれば少しは気分も──」
「やめなさい、この暴走列車」
「あぐっ!? る、ルナマリア……」
ビシっと一撃。振り下ろされた手刀がサヤの頭部へと突き立てられ、同時に襟首を掴まれて引き下げられた。
「な、何をするのですか!?」
「それはこっちの台詞よ。こんな状況で、こんな小さい子を詰問してどうするのよ?」
「詰問なんて、私はそんなつもりでは……」
「つもりはなくてもやってるのよ。シン、あんたもソワソワしてんじゃないっての。シャキッとしなさい」
「いっつ…………あ、あぁうん、ごめん」
またもビシっ、と聞こえてきそうな声音とともに一撃。
ルナマリアは続いてシンの背中をひっ叩いて喝を入れた。
「まったく」
「はぁ、なに夫婦漫才してんだか……」
「うるさいわよ、アグネス」
「はいはい。あんたもあまり大きい声出すと、その子が萎縮しちゃうわよ」
背景と化しながら茶々を入れてきたアグネスへ剣呑な一瞥をくれてから、ルナマリアは再び渦中のナッシェへ目を向けた。
ふと、その視線が一点へ注がれていることに気付く。
辿ってみれば、アグネスが口をつけている缶飲料。
休憩スペースに置かれた自動販売機で買えるものだ。
その視線の意味を察し、ルナマリアは自動販売機へ向かう。
分かりやすく甘い果物系のジュースを一本買うと、プルタブを開けてナッシェの前のテーブルへ置いた。
「飲みたいの?」
ナッシェは逡巡するように、缶とルナマリアを見比べる。
そして最後にシンへと視線を向けた。
少しの間を置いて、小さく頷く。
それを見届けてから、ナッシェは缶を手に取り、恐る恐る口をつけた。
「お、おぉ」
「何驚いてんのよ…………うん、別に全部飲まなくても良いからねナッシェ。残ったらシンが片付けるから」
「えっ、あ、あぁ」
静かな休憩スペースで、少女が缶飲料を飲む小さな音だけが妙に響いていく。
ようやく垣間見えた少女自身の意思に、一同は密かに安堵した。
「──解せません」
ナッシェには聞こえないよう配慮しながら、サヤ・アマノは不満を表明するように口元を尖らせる。
「何がよ?」
「私だって喉が渇いているかと聞いたのに」
「当たり前でしょ。いきなり年上の人に囲まれて、その上あんな詰問されて。あんな小さい子が意思を表明できると思うの?」
「お兄様はいつもサヤに何でも言いつけてくださいました」
「俺も……マユは割とはっきり言ってくる子だったから」
「この、ポンコツ1号と2号が…………揃いも揃ってなにを仕方ないじゃん、みたいな顔してんのよ」
間抜けというか何というか。開き直りの様な言葉をのたまう2人に、ルナマリアは拳を震わせた。
「あーあ、夫婦じゃなくてルナマリアがお母さんだっただけって訳ね。シンとヤヨイは精々が頼りない兄と姉かしら? 所帯じみててなかなか面白いわよ、アンタ達」
「アグネス、誰がお母さんよ!」
「いやーん、怒らないでママー」
「ぐっ、このぉ……」
怒り心頭。
思わず2度目の拳を震わせるルナマリアだが、ナッシェがすぐ傍にいる手前、怒るに怒れない。
アグネスもそれを分かっているからこそ、わざとらしくおちょくっているのだろう。強かである。
「なんだか、予想外に随分と賑やかだね」
不意に掛けられた声に、その場の視線が一斉に入口へ集まった。
「隊長……じゃなかった、アマノ総括!」
「あぁ、良いよ。畏まらなくて。休憩スペースでまで気を張らせるつもりもないし」
周囲で咄嗟に敬礼を見せる者達にも一度視線をやり、その意思を伝える。
タケルはキラ達を伴って、そのままシン達の輪へと入っていった。
「タケル……この子が?」
「うん。ナッシェ・ハーミットだ」
タケルはともかく、見知らぬ軍服姿の二人──キラとイザークを認め、ナッシェの身体が僅かに強張ったのをシンは感じ取った。
「────ふむ。どうやら見る限り、随分とシンは懐かれているようだね」
「うん、そうみたい。これなら問題もなさそうかな」
「えっ?」
得心がいったようなタケルとキラの言葉に、シンは怪訝な表情を見せる。
「どういう……ことですか?」
「それ、だよ」
タケルが視線だけで示した先。
そこには警戒心を露わにしたナッシェが無意識に取った行動────これまで保たれていた絶妙な距離を埋め、シンの軍服の裾を小さく掴んでいる姿があった。
「ふふ。今のこの子にとって、シンの傍が安全だということの証明だね」
「もしかしたらジュール少佐の目つきが悪いから、尚更こんな反応しちゃうのかもしれないよ。ほらイザーク、ちょっと怖いから下がって」
「タケル・アマノ……貴様ぁ」
「ほら、そうやってすぐ怒るから駄目なんだって。それより持ってきた書類……渡してくれる?」
「ふんっ、こいつだ」
「ん、ありがと」
イザークから受け取った書類へ軽く目を通し、タケルはそのままシンへ差し出した。
「はい、じゃあシン。これにサインして」
「えっ、あ……はい」
言われるまま受け取ったシンは書類へ視線を落とし────その表題で手を止めた。
「身元……引受人?」
「それにサインしてくれれば、この子は正式にプラントの保護下から君の庇護下へ移る」
僅かに、タケルはナッシェへ視線を落とした。
「彼女の意思については……まぁ、今ので確認出来たでしょう。あとは君の覚悟だけだ」
「覚悟って……」
戸惑うシンへ向けて、タケルの声音が僅かに真剣なものへ変わる。
「ただの気持ちだけで終わらせないでくれよ。この子を放っておけない。何かしてあげたい。その気持ちが君の芯にあるのなら、この子のこれからに責任を持つんだ。覚悟とは、そういうことだよ」
「覚悟……」
一度、シンはナッシェを見やった。
未だその警戒の視線はキラとイザーク。
そして目の前にいるタケルへと向けられている。
そこにあるのは警戒だけではない。
不安。
自分がこれからどうなるのか。
どこへ連れて行かれるのか。
何も分からない少女の瞳には、そんな色がありありと浮かんでいた。
「──わかりました」
静かに返したシンの声音に、もう迷いはなかった。
書類へ手早く必要事項を書き込み、自らの名を記してタケルへ返す。
「うん、それで良い────とは言っても、段取りくらいはこちらで済ませておくさ」
「段取り、ですか?」
「シンの庇護下ということは、必然的にセルヴァへ連れて行くことになるからね。出向者向けの長期滞在用居住区画も整備してある。所属員の家族を受け入れるための児童養護設備や職員も、元々準備する予定ではあったから……この子が生活する環境くらいは用意出来るさ」
「ではお兄様、彼女も共に宇宙へ?」
「この様子じゃ、シンと引き離すわけにもいかないからね。このままフォルトゥナで一緒に連れて行くことにしよう」
書類へ再び目を通し確認してからキラへと渡して。
そうしてひと段落という様に一息吐くと、タケルはナッシェの前へしゃがみ込んだ。
その高さを僅かに少女より下へとおろし、その目線を合わせる。
「ねぇ、ナッシェ。頷くか、首を振るかで良いからね」
出来るだけ穏やかな声音で。
そして少女が迷わないよう、最初から意思の示し方を与える。
「僕のことが、怖い?」
ナッシェはタケルの目を見つめる。
逡巡。
その間にも、シンの軍服の裾を握る小さな手へ僅かに力が籠もった。
数秒の後。
意を決したように、少女は小さく首を縦へ動かした。
「うん、そっか……それじゃシンについては、どうかな?」
再び逡巡。
ナッシェは隣にいるシンを見上げる。
思わず見返したシンと、少女の瞳が重なった。
その瞳には、先程までタケル達へ向けていたものとは違う。
どこか縋るような、それでもまだ自信を持ちきれない気配が滲んでいた。
やがて。
静かに、少女の首が横へ振られた。
「うん、そっか」
タケルは小さく笑う。
「それなら、ずっと一緒に居て良いよ。シンにどうして欲しいか、何でも言ってごらん。わがままも、お願いも、全部」
「…………」
「我慢なんてしなくて良い。何を言っても、シンは君の手を離さないから」
ナッシェは、もう一度シンを見上げた。
赤い瞳は、頼りなさげに揺れるも────静かに、シンは頷いた。
「ね、だから君は────君の声を、ちゃんと出して良いんだよ」
長い沈黙。
誰も急かさない。
やがて、小さな唇が僅かに震えた。
「──あり、がとう」
掠れるような、本当に小さな声だった。
それでも。
確かに、少女自身の意思から出た言葉だった。
「…………」
シンは、何も言えなかった。
何をしてあげれば良いのか。
何を言えば良いのか。
ただ放っておけなくて。
かつて守れなかった妹の姿を重ねて、手を伸ばした。
それが本当にナッシェの為になっているのか。
そんな迷いさえ、ずっと胸のどこかにはあった。
けれど。
今の一言だけで、少しだけ分かったような気がした。
ナッシェはマユではない。
誰かが誰かの代わりになど、なれるはずもない。
あの日失ったものが戻ってくるわけでもない。
それでも。
あの日、届かなかった自分の手が。
今は確かに、一人の少女へ届いている。
静かに視線を落としてみれば。
未だ自分の軍服の裾を握り締めている、小さな手があった。
その上へ、そっと自らの手を重ねる。
小さく、頼りない手だった。
握れば潰れてしまいそうな。
だからこそ。
今度こそ、この手を離さない。
言葉にはせず。
ただ重ねた手の中に、シンは小さな決意を宿した。
「あらあら、こりゃうかうかしてると取られるわよ、ルナマリア?」
静かに決意を胸に秘めたシンの様子を観察していたアグネスは、その表情を見てまたも余計な茶々を入れた。
「何言ってんのよアグネス。馬鹿なこと言わないで。大体まだナッシェは子供でしょうが」
「わかんないわよ~。年齢だってそこまで差があるわけじゃないし。10年後なら問題ないでしょ。アイツって元々シスコンだしねぇ」
「下種な勘繰りはやめなさいって。あと……そのからかいは私はともかくその子にはNGよ」
「えっ、何よその子って……っ!?」
背後から襲い掛かる妙なプレッシャーに、アグネスは僅かに身を強張らせた。
「アグネス、余りふざけた貶めは看過出来ませんよ────シンが、誰に靡くと?」
「あ、な、なによヤヨイ? なんでアンタが怒って──」
「サヤ、ここでは騒がないでよ。あと理不尽な叱責も駄目。やるなら公的にシミュレーターでやってね」
「えぇ、もちろん────承知しておりますお兄様」
「はっ? え、いや総括まで何を言って──」
タケルは心底気の毒そうにアグネスへ視線を向けた。
「アグネス。こういう格言を知っているかい?」
「……何、ですか?」
引き攣るアグネスに、タケルは静かに笑った。
「口は災いの元、ってね」
そうしてアグネス・ギーベンラートはサヤ・アマノに連行され、その日、厳しい訓練という名のしごきを受けることとなるのであった。
一方、その頃。
コンパス拠点────セルヴァ。
執務室の一角。
机上に展開された端末へ目を通していたフレイ・アルスターは、次第にその表情を険しいものへと変えていった。
表示されているのは、ユーラシア方面に潜伏するブルーコスモス残党への共同掃討作戦に関する資料。
情報提供元。
作戦提案国。
そして、その案件をコンパスへと持ち込んだ人物。
そこに並ぶ文字を追うほどに、フレイの眉間へ深い皺が刻まれていく。
「ちょっと…………なによこれ」
思わず零れた声音には、隠しようもない苛立ちが滲んでいた。
「アルスター総裁…………何か?」
傍らで控えていたナタルが、訝しげに問い掛ける。
フレイはすぐには答えなかった。
再び端末へ目を落とし。
一通りの内容を確認してから、深く息を吐く。
「バジルール少佐、会議の準備を。厄介なことになった…………すぐにでも皆と話し合いたいわ」
「────わかりました。すぐに準備を」
ナタルはそれ以上問い返すことなく敬礼を示すと、そのまま執務室を後にした。
自動扉が閉じ。
室内に残されたのは、フレイただ一人。
再び端末へ視線を戻す。
その画面に映る資料を睨み付けるように見つめながら、フレイは小さく舌打ちした。
「やってくれたわね────ミリス・クレスト」
一度は同じ師の下で轡を並べた、かつての同僚の名を。
フレイは忌々しげに呟くのであった。
次回はちょっと政治劇な感じ。
オリジナル展開で遅々として進んでないけど次回から話は進んでいきますのでご容赦ください。
感想、よろしくお願いします。
劇場版で活躍して欲しい子アンケート
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忠犬主人公シン
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お兄様至上主義サヤ
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ザ・お姉ちゃんルナマリア
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オーブ三羽烏
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エクステンデッド組
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ユリス&レイ
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一応主人公タケル