機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ささっと、でもちょっと短い更新になります。
どうぞお楽しみください。


PHASE-6 帰還と種火

 

 

 ミネルバとフォルトゥナ。

 

 二つの戦艦の艦橋では大きな通信モニタが投影され、互いの代表者が最後の挨拶を交わしていた。

 

 

「それでは、我々コンパスは宇宙へと戻ります────キラ、イザーク。あとはお願いね」

 

 

 残る彼らへ願いを預けながら、静かにオペレーター達は発進シークエンスを開始する。

 

『うん、任せて。っていうか、ありがとう。タケル達のおかげで、僕達も動きやすくなった』

『ヤマト大佐……』

『あ、うん。わかってるけど……今だけは、ね』

 

 イザークからの、公私を分けろという無言のお達しにキラはささやかな抵抗を見せる。

 

 これまで似たようなやり取りを何度も見せられてきたタケルには見慣れた光景だが、コンパスの面々にとってはそうでもないらしい。

 意外そうな顔を浮かべる者がちらほらと見受けられた。

 

『本当にありがとう。ラクスには僕からもちゃんと報告しておくから』

「それならウチへの風当たりもどうにかしてくれるよう、お願いしといてよ。最近アルスター総裁の溜息が増え続けていてね。部下である我々としては大いに心配の種だ」

『あぁ〜、それは友人としても確かに見過ごせない話かな。わかったよ、伝えておく』

「うん、それじゃ」

 

 軽妙で、少しだけ私的なやり取りを最後に通信は終わった。

 

 消えたモニタの向こう。

 引き下がったまま終始仏頂面であったイザークの姿がやけに印象深かった。

 恐らくこの後、キラは改めて苦言を呈されることになるのだろう。

 

 そんな絵面を容易に思い浮かべながら、タケルは先程までモニタのあった場所を見つめ、僅かに笑みを浮かべた。

 

 昔とは、立場も居場所も変わった。

 所属も、背負うものも、それぞれに増えている。

 

 それでもこうして再び顔を合わせ、互いに仕事を預けられる。

 その事実が、少しだけ感慨深かった。

 

「アマノ総括……」

「あ、あぁ、すいません。感慨に耽っちゃって────それじゃあ、僕達はセルヴァに戻ろうか」

 

 正式に指示が下り、準備を整えていた艦の機関に灯が入る。

 

 低い振動が艦全体へと伝わり。

 白亜の戦艦はゆっくりと大地を離れ、その艦首を青々とした空へ向けた。

 

 

 

 眼下には未だ傷跡の残るオルドリンの街並み。

 

 復興には長い時間が掛かるだろう。

 失われたものが戻るわけでもない。

 

 

 それでも、自分達に出来ることはひとまず終えた。

 

 あとは残る者達へ託すだけだ。

 

 

 

 

 数分後。

 

 巨大な閃光を吐き出しながら一気に加速し、フォルトゥナは青空の彼方へと消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──コンパス拠点セルヴァ。

 

 総裁執務室。

 

 

 

 机上に展開された端末へ視線を落としながら、フレイ・アルスターは長いこと思案を続けていた。

 

 表示されているのは一つの提案書。

 ユーラシア連邦領内に潜伏するブルーコスモス武装勢力への、共同掃討作戦に関するものだ。

 

 その内容を何度読み返したところで、そこに書かれた文字が都合良く変わってくれるわけではない。

 

「──フレイ、コーヒーを淹れてきた。少し落ち着こう」

「サイ……ごめんなさい、気を遣わせちゃって。ありがとう」

 

 少し疲れの滲んだ応答に、サイ・アーガイルは何てことはないと肩を竦めて見せる。

 

 差し出されたカップを受け取り、一口。

 温かな苦味が喉を通り小さくため息。

 

 落ち着いた恋人の佇まいも相まって、フレイはようやく肩へ入っていた力を僅かに抜くことが出来た。

 

 

「はぁ~……それにしてもホント、してやられたわ……」

 

 

 画面に映る文字を流し見て、再びフレイは険しい気配を見せた。

 

「ユーラシア連邦領内に潜伏するブルーコスモス武装勢力へ、共同掃討作戦に関する提案書……ね」

 

 隣に来たサイが声に出して読み上げるだけで、また腹の上へ重い何かがのしかかってくるような心地がするも、どうにか気合いで跳ね除ける。

 歴戦の艦長達は常に胃薬を常備していたらしいが、この年でそのような生活はまだ送りたくはなかった。

 

「ごめん、フレイ……もう俺には、これがどれだけフレイの悩みの種になっているのかは理解出来ないんだけど」

「えっ、あっ、良いのよサイ。これは総裁である私の問題だし」

 

 申し訳なさそうにするサイの声に、フレイは慌てて首を振る。

 

 別に彼が頼りないとか、そういうことではない。

 むしろ隣に居てくれるだけで心強い。

 いざという時には護衛となり、こうして精神的な助けになってくれるだけで、フレイにとっては十分過ぎるほどだった。

 

 とはいえ、それだけで済ませられるほど男として軽くもないのだろう。

 そんなサイの胸中を汲み取り、フレイは事態をかいつまんで説明するべく口を開いた。

 

「そうね。貴方からの意見も聞いてみたいし……まずは状況から説明しようかしら」

 

 端末を操作する。

 提案書が縮小され、代わりに表示されたのはユーラシア大陸を中心とした世界地図。

 

「まず前提。現在の世界情勢は、ユーラシア連邦、東アジア共和国、赤道連合といった主要国家や国家連合。それとオーブにプラント。この辺りを中心に動いている」

「事実上って言うのは、その他にも小規模国家群があるから、だな」

 

 伊達にヘリオポリスで秀才の評判を得ていたわけではない────言葉の端々で理解を示してくれるところは流石というところか。

 フレイは頷きながら続けた。

 

「えぇ。そして、世界に残る争いの火種……それらへの対抗策として私達コンパスは設立され、主だった国家群を参加国として置いている。ここまでは良いわね?」

「あぁ、そこまでは俺も理解しているよ。で、今回の提案書の提案国が、新興国“ファウンデーション”、なんだろ?」

 

 名は知れている…………が、まだ決して馴染みのない名前だ。

 サイの声音はそれを雄弁に語っていた。

 

「そう、ファウンデーション。

 コンパス設立の少し前、ユーラシア連邦より突如として独立。新興国としての設立を宣言した。この背景には、大西洋連邦解体によってユーラシアの足元が固められていなかったことも要因ね」

「旧大西洋連邦領の統治に手を取られている間に、自分達の足元を掬われたってことか」

「そして、それをきっかけにユーラシアでは独立宣言の波が広がった」

「ファウンデーションショック、だな」

 

 静かにフレイは頷いた。

 

「当然ながらユーラシア連邦……代表のミリスからすれば、ファウンデーションは自領内の足場を崩した、半ば敵対国よ」

「でも今回の提案書は、ファウンデーションからユーラシアへ提起され、そこを介してコンパスへ届いた」

 

 資料上には、提案国としてファウンデーション。

 そして仲介者として、ユーラシア連邦政府の名が記されている。

 並ぶ名前を見るだけで、緊張感の走る構図がそこにはあった。

 

「ファウンデーションは独自の調査でブルーコスモス残党の潜伏先を突き止めた。それがユーラシア連邦領内にあり、彼らは共同掃討作戦をユーラシアへ提出した。

 一方でユーラシアからすれば、自領内での諜報活動の有無や情報の信憑性を問題として、それをそのまま受け入れることなんて出来ないってわけ。勿論、提起してきた相手がファウンデーションだってことも含めてね」

「それは、確かにな」

「でも、情報が真実だとすればこれほど重要なことはない。世界的にも問題となっているブルーコスモスへの対応は急務よ。情報の質としては捨て置ける話ではない」

「だからユーラシアは、これをコンパスへ仲介してきた、と」

 

 その事実を認識したくない、という様にフレイは顔を顰めて見せた。

 

「そう。情報を精査し、必要ならコンパスが対応に当たれ、ということ。

 元々そのためのコンパスではある。回ってくること自体は歓迎すべき話よ。でも問題はそこじゃないわ」

「どういうことだ?」

「私達が対応に当たれということはつまり、ファウンデーションには参加をさせるな、と言っているの。

 掃討作戦がユーラシア連邦領内で行われる以上、自領内でのファウンデーションの活動は認めないということよ」

 

 ようやく見えてきたという様に、サイの表情にもフレイに似た気配が見え始める。

 対立の図式。両者の事情。そしてコンパスの役割が、目の前の構図を暴いていく。

 

「そうか、そうなれば……」

「ファウンデーションからすれば面白くないわ。かの国は独立後、再三に渡ってコンパス参加国への加入を求めている……ユーラシアからの独立を国際的に認めてもらう意味でもね。

 せっかく掴んだ情報を取られるだけ取られて、実績を得る舞台を奪われては堪ったもんじゃない。当然、私達が作戦を展開するとなれば、強く参加の意思を表明するでしょうね」

「でも、ユーラシアの意向を見れば参加はさせられない」

「かと言ってファウンデーションを拒めば、私達は政治的背景を理由に一国家の功績を無かったことにすることになる。

 どれだけ各国に縛られていても、私達の立ち位置は国際的な独立機関。国家間の政治背景を理由に対応を変えるようでは、世界への示しがつかなくなる────今後の活動に大きな影響が出るわ」

「そいつはまた……なんとも厄介な事態だな」

 

 見えてきた全様に、サイはこの重荷を背負う想い人へ心配の目を向ける。

 

「ご丁寧にミリスは資料へ明記してるわ────ユーラシア領内でのファウンデーションの活動は認めない、ってね」

「すでに先手は打たれているわけか……」

 

 この状況では辟易して思い悩むのも無理はないだろう。

 完全な板挟みの構図。一方を立てれば必ずもう一方を逆撫でする。

 その構図が出来上がっているのだ。

 

 

「あーもう、あの女! 今頃ほくそ笑んでるんでしょうね!」

 

 

 どこかやけっぱちに叫んで、フレイは脳裏に“あの女”の顔を思い浮かべた。

 

 憎らしい。

 なんとも小憎らしい笑みにはらわたが煮え返る思いだが……如何せん、ミリスの対応はユーラシア代表としては至極まともだ。

 

 半ば敵対国に近いファウンデーションがもたらした情報を、そのまま鵜呑みには出来ない。

 ブルーコスモス案件をコンパスへ持ち込むのも正規な手続き。

 

 ただ、自国が抱える問題をコンパスへと丸投げに出来る構図が整っていただけ。

 仮にフレイがユーラシアの代表であったなら、同じように使える手札を切っただろう。

 

 腹は立つ。

 だが、ユーラシア連邦代表として、彼女は正しい手段を執ったに過ぎないのである。

 故に今回の案件への対応は、先程行われた会議でも結論が出なかった。

 

 

「ん?」

 

 

 頭を抱えるフレイの耳を、短い電子音が揺らす。

 端末に表示されたのは、リアルタイム通信の着信だった。

 

「何かしら────はい、アルスター。って、バジルール少佐?」

 

 画面に映ったのは、よく知る女傑。

 彼女の副官であるナタル・バジルールだった。

 

『総裁、報告です。先程、オルドリンへの任務に就いていたフォルトゥナが帰還しました』

 

 その知らせに、僅かにフレイの顔へ喜色が浮かんだ。

 脳裏に浮かべるのは、戦場で常に予想を覆すことに定評のある男。

 

「渡りに船ね────こういう時こそ魔法使いの出番よ」

『魔法使い、ですか?』

「あぁ、ごめんなさい……こっちの話よ。少佐、すぐにアマノ総括をこちらへ向かわせて。ついでに貴方も来て頂戴。一緒に意見を聞きたいわ」

『は、はぁ……承知しました』

 

 端的なやり取りを終え、モニタが消える。

 その画面を見送りながら、フレイは少しばかり気を抜いて息を吐いた。

 

「はぁ……やっぱり重たいわね、この席は」

「それでも、逃げないんだろ?」

「ふふっ、当然!」

 

 疲れを吹き飛ばすような強い返答に、サイは笑みを深めた。

 

 この程度で逃げるのなら、初めからミリスのいるユーラシアに残っていただろう。

 

 師の遺した想いのためにも。

 フレイ・アルスターは、ここで戦うと決めたのだ。

 逃げ出すつもりなど、更々なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンパス拠点セルヴァ。

 

 重力区画となるリング状の回転体と、機関及び艦船運用機能を有する中央構造体によって構成された、コンパスの活動拠点。

 

 その外観は、巨大な宇宙施設でありながらどこかモニュメントめいた姿をしている。

 

 

 地上より帰還したフォルトゥナは、月軌道上でミレニアムと一度合流し、必要な補給と簡易整備を済ませた後、漸くセルヴァへの帰還を果たした。

 

 中央構造体の一角に存在する艦船ドックへ進入。

 誘導灯へ従い巨大な艦体を収めれば、やがて背後で気密隔壁が閉鎖される。

 

 減圧状態だった格納区画へ空気が満たされ。

 程なく、宇宙空間にありながら生身で歩ける安全な空間へと変わった。

 

 

 

 

「くぁ~、今回もなかなか疲れる任務だったなぁ、おい」

 

 

 装いこそ軍服で整えていても、疲労を分かりやすく表へ出しながら艦のハッチを降りていくのはハイネ・ヴェステンフルスだ。

 地上ではオルドリン自治政府との折衝で奔走し、シン達の様に艦内で待機というわけにはいかなかったために、殊更疲労は強いのだろう。

 

「ハイネ、気持ちはわかるけどさ。示しがつかないから、あまり気の抜けた顔を見せないでくれ」

「固いこと言うなよクルース……じゃなくてアマノ総括よ。俺達前線部隊は命張ってんだぜ? 戻ってきた時くらい気を抜いたって罰は当たらねえだろ」

「そういう問題じゃ……というか、いい加減僕の呼び方にも慣れてくれ。周りに示しがつかない」

「へいへい、気を付けますよ」

 

 どうにも軽い同僚へしかめっ面を向けながら、タケル・アマノもハッチを降り、久方ぶりのセルヴァへと足を踏み入れた。

 

 後にはタリア。

 シン達パイロット組。

 さらに艦内人員も順次降艦を始めている。

 

 慣れ親しんだ格納区画。

 行き交う整備員達。

 聞き慣れた機械音。

 

 長い任務を終えた後だからだろうか。

 

 それだけの光景にも、ようやく帰ってきたのだという小さな安堵が胸へ滲んだ。

 

 

「──お疲れさまでした。アマノ総括」

 

「あっ」

 

 

 思わず声が漏れた。

 

 聞き慣れた声音。

 そして飛び込んできた姿に、タケルの声が僅かに上擦る。

 

 フォルトゥナを降りたその先。

 

 軍服を寸分の乱れもなく着こなし、背筋を伸ばして敬礼を取る女性。

 

 最愛の人が、そこにいた。

 

 

「ナタ──バジルール少佐!」

 

 

 出来る限り表へ出さないように。

 そう思ったところで、早足となって彼女へ駆け寄っていく時点で大して意味を成してはいない。

 

 タケルは伴っていた一同を背後に、ナタルの元へ向かった。

 

「無事の帰還、嬉しく思います」

「うん、ありがとね」

 

 再会の喜びを言葉で交わす。

 

 どこか落ち着かない様子を隠し切れないタケルと。

 そんな彼を窘めるように僅かに眉間へ皺を寄せるナタル。

 

 先程まで見ていたキラと大差ない。

 

 どうやらこの男も、大概公私の別が出来ないらしい。

 

「アマノ総括……帰還したばかりで申し訳ないのですが、アルスター総裁がお呼びです。執務室まで」

「えっ? 任務の報告なら、帰還の道中で既に提出しているはずだけど……」

「要件は私も知らされていません。ただ……火急の案件だと」

 

 再会を喜ぶ時間もそこそこに、ナタルから切り出された通達。

 

 その一言で。

 先程まで僅かに緩んでいたタケルの表情が変わった。

 

「うん、わかった────ハイネ、全員に休息を取らせておいて。残っていた部隊には即応体制で待機を」

「あいよ、了解だ」

「グラディス艦長、フォルトゥナもすぐ動けるよう準備を進めておいてください」

「承知しました」

 

 疲労を滲ませていたハイネも。

 帰還に一息ついていたタリアも。

 

 その指示を受けた瞬間には、すぐに軍人としての顔へ戻っていく。

 

 ようやく帰ってきた。

 そう思えたのも、ほんの僅かな時間。

 

 安息の地へと帰還しても、彼等に安らぎは訪れなかった。

 

 

 

 




政治の話は相変わらず難しいですね。
次回もまだ政治の話。
サイくんの出番があってちょっと嬉しい。代わりにdestiny編からミリアリアが空気なんですよね。
ディアッカとの諸々書こうと思ってたのに劇場版入っちゃったし。
まぁどこかでいずれ書きましょう。


週末のうちにもう一話書いてるので投稿できそうです。

感想よろしくお願いします。

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