後半はもう少し書いていかないと、詳細が出来上がってこないけど、大筋の描きたいものは出来上がったので。
というわけで、どうぞお楽しみください
海上を航行する白亜の大戦艦。
その艦橋。
艦長席に座るのは、オーブ国防軍所属マリュー・ラミアス大佐だ。
その隣にはムウ・ラ・フラガ。
そして艦橋には、親しみ深いクルー達が顔を並べていた。
トノムラ、チャンドラ、パル、ノイマン。
ついでに、すっかり軍属の仲間入りを果たしてしまったミリアリアも、かつてと変わらぬ馴染んだCIC席に座っている。
「なんだか……この艦で海上を航行するのも懐かしいもんだな」
「ちょっと勘弁して頂戴、ムウ────胃痛の記憶が蘇るわ」
「おっと、こりゃ失敬」
懐かしむように周囲を見渡すムウに、マリューはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
思い返せば、ここに居る面々との縁も随分と深い。
成り行きで艦長の座を任され。
ろくな補給も味方からの支援も無いまま、アラスカまで辿り着くことを命じられた長い逃避行。
その道中では、執拗なまでのザフトの追撃に晒され。
幾度もの激戦を、それでも全員で潜り抜けてきた。
マリューの胃痛というのは、その苦労を分かりやすく表した話ではあるが。
今こうして海を眺めながら当時を思い返す気持ちは、皆が似たり寄ったりなのだろう。
「それにしても、行き先はファウンデーションねぇ……資料は俺も読んだけどさ、随分な発展を見せている新興国らしいな」
「そのようね……だから、ということなんでしょうね。今回の出征は」
懐旧の空気を切り替えるように投げられた言葉に、マリューも表情を改めた。
視線を向けるのは、艦橋の先に広がる大海原。その一点。
白亜の大戦艦と並ぶようにして、同じく巨大な船体を悠々と進ませる艦影がある。
オーブ国防軍所属旗艦──アマテラス。
今回の出征に際し、オーブが用意したもう一つの戦力である。
「────良い予感は、しないわね」
理由を問われても、明確には答えられない。
ただ、数多の戦場を潜り抜けてきたマリュー・ラミアスの胸には、妙な胸騒ぎだけが残っていた。
アマテラス艦内。
軽い駆動音を鳴らし、艦橋へ続くドアが左右へ開く。
「──異常は無いか?」
姿を現した金色の姫君に、艦橋内の空気が僅かに張り詰めた。
「アスハ代表。御覧の通り、道中は平穏そのものです」
艦長席に座るレドニル・キサカ准将が、シートごと身体を振り返らせて答える。
言葉自体は報告に過ぎない。
しかし、その視線には僅かにカガリを咎める色が含まれていた。
何を言われるのか察したカガリは、先んじてしかめっ面を作って見せる。
「分かっている、キサカ……すぐ執務室に戻る。ちょっと気晴らしに動きたかっただけだ」
「トーヤに押し付けて、でしょう?」
「まさか、ちゃんとトーヤにも休憩に入ってもらっているさ」
小姑のような元護衛からの苦言を聞き流しながら、カガリは艦橋のモニタに映し出された情報へ目を走らせた。
「──到着はいつ頃になる?」
「今日の内には問題なく」
「そうか。ラクス達の予定は?」
「オルドリンの部隊を回収してから向かうとのことで、我々よりは一日遅れるかと」
同じファウンデーションへ向かうにしても、オーブとプラントでは事情が違う。
準備さえ整えば、一日もあれば現地へ辿り着けるオーブ。
一方のプラントは、まず地球圏へ降りるための軌道を取り、そこから適切なタイミングを見計らって降下しなければならない。
当然、必要となる時間にも差が出る。
かなりの強行日程となった今回の出征を持ち込んできたコンパス──兄と友人には、後でたっぷりと文句を投げつけてやりたいところだ。
「で、肝心のコンパス……兄様達は?」
そんなカガリの胸中を察してか。
投げられた問いに、キサカは分かりやすく眉根を寄せた。
「一両日中には、と通信は来ておりました」
「ギリギリじゃないか、全く」
「仕方ありますまい。準備という意味では、彼らの方が遥かに難しいのですから」
直前まで行われていたオルドリンへの救援任務。
そこからほとんど間を置かず、今度はブルーコスモス残党への大規模な掃討作戦である。
艦艇。MS。パイロット。物資。
十分な戦力を揃えなければならない以上、コンパス側の予定が遅れるのも無理はない。
「それも分かってはいるんだけどなぁ……」
仏頂面となりながら、カガリは艦橋のモニタへ視線を戻した。
目に映るものに思考を割くわけではなく、今回の出征へ至る発端となった一幕を、ふと思い返す。
事は、遡ること二週間前。
「ファウンデーションのコンパス参加を認可するための視察とは……どういうつもりだ、フレイ?」
オーブ官邸の執務室にて。
通信モニタ越しに顔を合わせたフレイへ、カガリは開口一番に疑問を投げた。
『資料を見たまんまでしょ。ファウンデーションのコンパス参加を認可するために、カガリとラクスにはあの国へ視察に来て欲しいの』
『それを、今回提案された掃討作戦との同時進行で行うのですか? 少々、話をまとめすぎかと思いますが……』
もう一つの通信画面から、ラクスも僅かに眉を寄せる。
ファウンデーションからの提起された作戦を前提に、決行する直前で国内を視察。そのままコンパス加盟国としての手続きを取る。
なんとも足が軽い動きと言えた。
『仕方ないでしょ。どんな形であってもファウンデーションが参加すれば、ユーラシアは黙ってない。かと言ってファウンデーションを締め出せば、それはそれでこっちも黙っていない』
「だったら、正式にファウンデーションを参加国として迎え入れて、ユーラシアの反感を根っこから押さえつける……か?」
『そうよ』
フレイは迷いなく頷いた。
『正式な参加国として軍事力の一部と維持費を拠出してもらい、加盟協定を結ぶ』
『ユーラシアは……ミリス大統領は、それを認めてくれるでしょうか?』
ラクスの問いに、フレイは僅かに口角を上げた。
『認めるしかないわ。ファウンデーションが齎した提案書を、ユーラシア自身がコンパスへ投げ込んだんだもの』
一拍。考えを整理するように指先で机を叩きながら、フレイは続けた。
『少なくともミリスは、ファウンデーションを政治的交渉の相手として扱った。そして、そのまま提案国の名前を残した状態で、私達へ正式な案件として回している。
つまり実務上は、ファウンデーションを一つの国家主体として扱っているのよ。回されてきた提案書の出所が、ファウンデーションのままなのが良い証拠ね』
『そうなれば地球圏に存在する国家として、軍事力の貸与と支援金の拠出さえ条件を満たせば、コンパス加盟は認められる……確かに、そこに国家の大小による制限や区分はありませんわ』
ラクスもようやく意図を理解したのか、小さく頷いた。
『ホント強かだよねぇ────ウチの総裁も』
傍らで黙って聞いていたタケルが、感心半分に笑みを浮かべる。
『そうして正式に参加を認められたファウンデーションが作戦へ加わることに、ユーラシアはもう簡単には異議を唱えられなくなる。
ファウンデーション軍じゃない。彼らが拠出し、コンパスの指揮下へ組み込まれた戦力として作戦に参加するんだから…………見事な意趣返しだよ、ホント』
ユーラシアは…………ミリスはファウンデーションを排除するため、コンパスへ案件を持ち込んだ。
ならばコンパスは、その案件そのものを利用してファウンデーションを内側へ取り込む。
かつて商人の処世術などと揶揄されたフレイらしい、大胆な落とし所ではあった。
「だが、ファウンデーションか……良いのか、兄様?」
会心の一手に誇らしそうなフレイとは対照的に。カガリの表情から、素直な感心はすぐに消えた。
意味ありげな問いを向けられ、タケルは小さく肩を竦める。
『何よカガリ……ファウンデーションが何か問題?』
「現時点では、まだ何も。ただ──」
『気になることはある、ってところかな』
カガリの言葉を引き継ぐように、タケルも表情を改めた。
『タケル、カガリさん。お二人は何かご存じなのですか?』
「私というよりは兄様、だな……」
ラクスからも視線を向けられ。
少し迷う素振りを見せた後、タケルは口を開いた。
『議長が遺したデスティニープランの関連データの中に、何人か人物の名前があってね』
それはタリアと共に、デュランダルの執務室を始めとした身辺整理を進めていた時のこと。
残されていたデータ端末の中に、恐らくデスティニープランの初期構想段階でまとめられたと思われる資料が存在した。
そこにはタケルにも馴染みの深い、メンデルや人工子宮といった単語も散見されていた。
『アウラ・マハ・ハイバル……ファウンデーションの国家元首に当たる人だが、彼女の名前もあったんだ』
『では彼女は、デュランダル議長と同じく遺伝子の……』
『うん。メンデルで研究に携わっていた研究者の一人だったみたい』
「そして、かの国が突如独立し、目覚ましい発展を見せたことに違和感を持った……だな」
カガリの確認に、タケルは頷いた。
『──そういうこと。
デスティニープランは、諸々の問題を除けば非常に有益な構造を生む。各人を、その能力を最大限に発揮出来る職能へ当てはめるあのシステムは、国家の発展という一点だけで考えるなら、極めて合理的なものだ』
『だから、あの国の発展にはデスティニープランがあるということ?』
フレイの声にも、先程までとは違う緊張が混ざる。
『そこまでは断定してないよ。だから今、探ってもらってる……本当は確定した情報が来るまで伏せておきたかったんだけどね。杞憂で終わる可能性もあったし』
『タケル、探ってもらっている、というのは?』
「ユリス・ラングベルトだ」
『ユリスさん、ですか……』
意外な名前が出てきたことで、ラクスはタケルへ僅かに疑わしげな視線を向けた。
かつてタケルは、ユリスと交わした契約によってオーブでの立場を失っている。
勿論、その裏には様々な事情があった。
ステラ達エクステンデッドの件。自身の命を救われた事実────何より、大西洋連邦所有の実験施設へ送られるという未来。
最悪の未来を回避するためとは言え、タケルがユリスと結んだ契約の対価は重く大きかった。
事実だけを取り上げればまた何か妙な契約や取り決めでも結んでいないかと不安になるのも無理はない。
『あぁ、大丈夫だよラクス。責任を取ってもらってるだけだから。今回は別に変な交渉とかはしてないよ』
『はぁ……責任、ですか?』
『ステラ達を置いて、自分だけレイとのんびり世界旅行中だったからね……彼のことを考えれば、その気持ちも分からなくはないんだけど』
タケルとしても、残された時間が少ないレイと過ごしたいというユリスの気持ちは理解している。
だからこそ、これまで好きにさせていた。
ただ、その途上で一働きしてもらう。
それくらいの借りはあるだろう、という話だった。
「なんだかんだ兄様も強かになってるじゃないか。
まぁ、それで兄様からこの件を聞かされて、私もアスランに動いてもらっていた、というわけだ」
『そう言えばカガリ、アスランからは?』
「まだ何も。ターミナルを伝手に入り込むところまでは出来たっぽいが……報告は来ていない」
その言葉に、タケルの眉が僅かに動く。
だが今はまだ、何も言わない────否、言えなかった。
「どうした、フレイ?」
ふと。それまで黙り込んでいたフレイに気が付き、カガリが声を掛ける。
『ちょっと整理したいんだけど……ファウンデーションがデスティニープランを背景に発展したとして、2人は何を問題視してるのよ?』
疑問としては当然だった。
「そうだな……兄様が言う通り、プランは合理的だ。
本来であれば、それを元に発展したとして、私達がどうこう言う話ではない」
『それがプランだけの話なら、ね』
タケルの声が、僅かに低くなる。
『一年前、議長と僕が至った結論は──“デスティニープランでは、人類は平和も未来も作れない”だ』
どこか、郷愁を思わせる声音だった。
いかに遺伝子を紐解こうと。
いかに適性を見定めようと。
人類に意志が存在する限り、必ずそこには齟齬が生まれる。
出来ることと。
したいことは違う。
想いだけでは、何も成し遂げられないのと同じように。
適性だけで人の意思は定まらない。
本質的にはそれもまた、かつてデスティニープランが解消しようとした──遺伝子適性と現実との齟齬によって生まれる不幸を、裏返しただけの事実なのだ。
『デスティニープランは、疲弊した世界と減り過ぎた人類を救う、文字通りの救済策。
一時の安定と平和を生み出すことは出来る。でも、それ自体はその先で必ず歪みを生む制度だというのが、僕と議長の結論だ』
『ですが、それでファウンデーションが国策としてプランを採択することを断罪は出来ませんわ』
『勿論そう。僕が気にしてたのは、その先……』
ラクスの言葉を肯定しながらも、タケルの険しい表情は崩れなかった。
『この問題は、一年前に議長が命を賭して証明してくれたことだ。
プランを採択するのなら、この歪みに気付かないはずがない。それがプランの構想そのものに関わっていた人物なら尚更ね』
『つまり、問題を知りながら採択したのだとすれば……そこには別の理由や目的がある、ということね』
フレイもようやく、タケルが何を懸念しているのか理解したらしい。
『うん。
議長も、プランの先で新しい平和への道を考えていた……その答えが何だったのかは、僕にもまだ分からないままだけど。
仮にプランを実現しているのなら、あの国は……』
──その先で、新たな世界秩序を考えているのではないか。
喉元まで出掛かった想定を、タケルは飲み込んだ。
“プランにより管理される世界……そうして減り過ぎた人口を取り戻したその先で、遺伝子の軛を振り解いた人類は本当の意味で進化し、種として正しい支配構造を確立する────これが、僕と議長が目指す本当のデスティニープランだ! ”
嘗ての己の言葉が頭をよぎる────が、すぐさまそれを振り払った。
疑惑も疑惑。
仮定の上へさらに仮定を積み上げた想像でしかない。
穿った見方をし過ぎていると言われれば、それまでだった。
国の急速な発展のため。
制度が持つ将来的な歪みを理解した上で、それでも今必要だからと採択した。
それだけであっても、何ら不思議ではない。
『まぁ、だからちょうど良かったよね。公に堂々と、あの国へ探りを入れられる機会が巡ってきて』
重苦しくなった空気を振り払おうと、タケルはわざと声音を明るくして笑みを作った。
「ふぅん?」
しかし、漂う空気の重さには、何ら変化が無かった。
傍らのフレイ。
画面越しにカガリとラクス。
揃って険しい視線がタケルへ突き刺さる。
あまりにも分かりやすく、何かを口にし掛けて押し留めた。
そんなタケルの気配に、聡い彼女達が気付かないはずもない。
「──まぁ、今は良いさ」
『そうですね。話は後で、キラも交えて聞かせてもらいますわ』
『なら、こっちはバジルールさんも呼んでおかなきゃね』
『あれ、なんで急に四面楚歌?』
「自分の胸に聞け……って言われても、分かんないんだろうなぁ兄様は!」
呆れ切ったカガリの言葉に、タケルはますます不可解そうな顔を見せた。
とりあえず話は理解したので、こちらも準備を進める。
そう言い残してカガリは通信を切った。
続くようにラクスも、二言三言と苦言という名の呟きを残しながら画面を暗転させていく。
通信に残るのはセルヴァに居た2人だけ。
『えっと、フレイ…………そんなに僕って心配させてるかな?』
『カガリじゃないけど……自分の胸に聞いてみなさいよ』
三人目からまで同じ苦言を投げられ。
タケルは甚だ心外だと、顔をしかめるしかなかった。
「──カガリ」
潜めた声で呼び掛けられ。
記憶へ沈んでいたカガリは、はっと我に返った。
「どうした、腑抜けた顔を見せて……」
「う、うるさいな。ちょっと平和すぎて気が抜けただけだよ。良いだろ、別に」
「なりませぬ。今の貴方はオーブの獅子……その立ち振る舞い一つが、今後へ影響するのです」
「『それが名声というものです』、だろ? もう聞き飽きたよ、その言葉は。こっちは背負いたくて背負ってるんじゃないんだ」
誰が好き好んで地球圏統一同盟の盟主などやりたがるものか────口には出さないものの不満げに唇を尖らせるカガリへ、キサカは何も言わない。
とはいえ。
託された遺志と言葉は、嫌でもカガリを前へ駆り立てるのだから質が悪い。
ウズミが遺した薫陶は、カガリが政界から逃げることを許してくれないし。
感情に支配されそうになれば…………迷い、全てを放り投げたくなれば。
記憶の中にある気障な笑みと彼の言葉が、カガリを窘めてくれることがままあった。
日々の中で過る大切な人達の想いを、嫌だとは思わない。
むしろ支えられている。
ただ時々。
それがまるで、自分を逃がしてくれない優しい呪いのようだと思うこともある。
「やれやれ……どこかに雲隠れしたい気分だ」
小さな呟き。
聞こえないように漏らしたつもりだったが、キサカの耳にはしっかり届いてしまったらしい。
向けられた恐ろしい形相が、滅多なことを言うなと雄弁に語っている。
「分かった、分かったよ……」
カガリは酷く疲れたため息を吐いた。
「はぁ……政務に戻る。監視は厳に。何かあったら呼んでくれ」
「承知しました」
踵を返して艦橋を後にする。
だが閉じる扉の寸前まで、背中にはキサカの視線が突き刺さったままだった。
どうやら自分も、こうしてみれば兄とそう変わらぬ立場なのかもしれない。
そんな思いが脳裏を過り。
カガリはもう一度、小さなため息を吐くのであった。
次回は幕間。
明日更新の短い一幕。
イチャイチャさせます。
お楽しみに。
劇場版で活躍して欲しい子アンケート
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