機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-30 夜明けの砂漠

 

 

 徐々に浮かんでいく意識。

 微睡みから這い出るように、タケルは目を覚ました。

 

 目元に感じる違和感に直前の記憶がよみがえってくる。

 ナタルに縋って泣いて、そのまま疲れて眠ってしまったことを思い出して、タケルは俄かに表情を緩めた。

 

「(温かかった……なぁ)」

 

 頬に添えられた手。

 女性らしく華奢で、細く綺麗な指が涙を湛えた目元を拭ってくれた。

 それがなぜかとても嬉しくて、心地よかった。

 

 

 “君がここまで戦ってきたから。私の手はこうして今も、温かいままでいられるんだ”

 

 

 彼女の言葉がすっと心に染み入った。

 守れなかった──それは確かな事であれど。守れた、それも確かな事である。

 それを、言葉以上に伝えてくれた。

 

「(ホント、バジル―ル少尉には恥ずかしいところしか見せてないや……)」

 

 言葉とは裏腹に、どこかタケルの胸中には気恥ずかしさとは別の暖かな気持ちが広がった。

 

 “余計な心配などと、私は思っていません。お忘れなきようお願いします”

 

 いつだか落ち込んでいた時も、彼女はタケルを支えてくれた。

 その時も恥ずかしくて、照れくさくて、思わず視線をそらしてしまった事を覚えていた。

 切れ長な紫の瞳。整った小さな顔立ち。

 綺麗な女性であるとは思っていたが、そんな彼女に見つめられるのはドギマギするものであった。

 そんな彼女の事を思い出すと、なぜか胸の奥でまた、締め付けられる様な奇妙な感覚を覚えた。

 痛い様にも感じるけど、どこか嬉しくも感じる。そんな何とも言えない奇妙な感覚を持て余して、タケルは僅か、首を傾げた。

 

 ハッと気が付いたように、タケルは思い至る。

 縋るように泣いて、彼女の手を握りしめたまま寝てしまった事を思い出したのだ。

 右手に未だある確かな感触に慌てて体を起こすと、そこには──

 

「あっ……カガ、リ」

 

 そこには、タケルの手を抱える様に握りしめ、簡易ベッドに突っ伏しているカガリの姿があった。

 見守ってくれている間に寝てしまったのだろう。伏せる顔の目尻には涙の跡があった。

 

「ごめん、ね。僕が情けないばかりに……カガリを泣かせちゃって」

 

 罪悪感が沸きあがる。

 追い詰められていたとはいえ、平静でなかったとはいえ。最も大切な人を傷つけてしまった。

 何も悪くないはずのカガリを拒絶し、こうして泣かせてしまった。

 

「なのに、まだ僕の手を取ってくれるんだね」

 

 本当に、ありがとう……そう言って、タケルは眠るカガリの頭を撫でた。

 

「ん? んぅ? にい、さま?」

「あっ、ごめんカガリ。起こしちゃって」

「に、いさ……兄様!?」

 

 寝ぼけ眼で聞き取った声が、すぐにカガリの意識を覚醒させる。

 タケルが起きた事に気が付いて、カガリは慌てて握りしめていた手を離した。

 寝ている間は自然と手を伸ばしてしまっていたが、タケルが起きた今。

 拒絶された記憶が蘇り、カガリにその手を引かせてしまう。

 

「あっ……」

 

 タケルはカガリのその反応に申し訳なさそうに目を伏せる。

 が、すぐに顔を上げるとおずおずとカガリに自らの手を差し出した。

 

「ごめんね。僕が弱かったからカガリの手、振り払っちゃって。痛かったよね。

 でももう、大丈夫だから──もう一度、もう少しだけ、握っててくれないかな?」

 

 都合が良いとは思いながらも、今は手を取っていて欲しかった。

 傷つけてしまったと理解しているから、離れて欲しくなかった。

 タケルにとってカガリは最も大切な人だから。

 

「──もう、大丈夫なのか?」

「うん……お願い」

 

 タケルの答えに、カガリもまたおずおずと手を差し出した。どこか怯えながら、それでもやはり期待するように。

 たっぷりと時間をかけて、2人はその手を取り合った。

 

「うん、ありがとう。カガリ」

「にい、さま。うぅ……兄様!」

 

 感極まった様に、カガリはタケルの手を握りしめて泣いた。

 カガリもまた、もう取ってもらえない事に恐怖していた。

 自らが生み出した幻影とはいえ、トラウマの様に兄を苦しめたカガリの手を。兄はもう二度と取ってくれないだろうと……タケルを見守っていたカガリは、それがずっと怖かった。

 

「嫌われたかと思ったんだ。もう二度と、兄様は私を見てくれないかと……ずっと、怖くて」

「うん、ゴメン。大丈夫だから……もう絶対、カガリの手を払ったり何てしないから」

 

 泣きじゃくるカガリを引き寄せ、タケルは悲しませてしまった分を返す様に、抱きしめてその背を撫でてやった。

 ナタルがタケルにそうしてくれた様に。

 

 それが、とても安心できるのだと知ったから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠らしい強烈な日差しが照りつける中、アークエンジェルは現在慌ただしさの真っ只中にあった。

 

 夜明け前に起こった戦闘の折。

 バクゥを壊滅させられ撤退の様相を呈していたものの、未だ艦を襲撃していたザフトの戦闘車両と戦闘ヘリ。

 これらを撃墜し、見方によっては“助けられた“であろうレジスタンスの対応に追われていたのだ。

 

 戦闘後、アークエンジェルの近くの一角に集まるレジスタンス達。

 敵意は無いように見えるがやはり武装集団ではあるため、その真意が見えない以上気は抜けなかった。

 

「味方……と、判断されますか?」

「銃口は向けられてないわね。さっきの戦闘への介入には、一応援護の意思も感じましたし、とにかく会ってみるしか無いわね。上手く行くなら、逃した敵の情報も入るでしょう」

「そう素直に、こちらに協力的になるでしょうか?」

「そのつもりであそこに居るんでしょう──多分。後をお願い」

「了解しました」

 

 緊張した面持ちを見せながら、マリューは艦橋を後にする。

 そのままエレベーターに乗り、艦の搭乗口へと。

 途中でスカイグラスパーに乗って待機していたであろう、パイロットスーツのままのムウと合流した。

 

「レジスタンス、ねぇ。こっちのお客さんも一癖ありそうだなぁ」

「これまでを考えれば、大した事はないと。私としては思ってしまいますけどね」

「あれま、それってどう言う?」

「撃ってこないだけマシ。という事です」

「それはまたキツイなぁ。そう思い始めたら、もう末期だと思うぜ」

「とにかく行きましょう。頼りにしてますよ、少佐」

「俺、こっちは得意じゃないんだけどなぁ」

「ふふ」

 

 腰のホルスターに収めた拳銃を指して、ムウは辟易した様子を見せた。

 それをマリューは笑って受け流すと、搭乗口のハッチを開く。

 まだ夜が明けてそれほどでもないのに、既に砂漠の熱波は強くハッチを開けた瞬間乾いた熱い風がマリューに吹き付けた。

 

「砂漠らしい風ね」

「出迎えてくれるのも、お土地柄がよく出てそうだぜ」

 

 100m程先で居並ぶレジスタンス。彼らを見てムウはおどけながらも警戒心を強めた。

 よく日に焼けた、強面の男達が勢揃いと言ったところであった。

 敵でない事を切に願う。

 こうして出てきても特に敵対の意志を感じないことから、マリューはその可能性を高く見積り、努めて警戒を見せない様に彼らへと歩み寄った。

 

「助けてもらった、とお礼を言うべきでしょうかね」

「さてな」

「地球軍第8艦隊、マリュー・ラミアスです」

「ムウ・ラ・フラガだ」

「あれぇ、第8艦隊ってのは全滅したんじゃなかったっけ?」

 

 リーダーであろう体格の良い男。その脇に控えていた勝ち気そうな少年であった。

 

「そんな誤った情報では挑発にもなりはしないわよ。坊や」

「やめろアフメド。失礼、俺はサイーブ・アシュマン。そんで俺達は明けの砂漠ってんだ。ラミアスさんよ」

「先程のザフトとの戦闘を見るに、レジスタンスという事で?」

「あんたらに恩を売ろうってんじゃねえ。ただ、都合が良かったんでこちらの敵を討たせてもらっただけだ」

「ザフトを相手に、ずっとあんな事をね?」

「ザフトに限らず、ではあるがな」

「ふぅん?」

「それで、我々を利用してザフトを討ちつつ、この場に留まり接触を図って来た……その目的をお聞かせ頂けますか?」

 

 少し棘がある言葉を混ぜながら、マリューは単刀直入に問いかける。

 その言葉に僅か、サイーブの後ろに並ぶ男達の眉根が上がり、傍の少年は敵意を剥き出しにした。

 

「手厳しいな。こちらとしては砂漠の虎と敵対してるアンタらが敵か味方か。それを聞いておきたくてな」

「砂漠の……虎? ってーと確か」

「アンドリュー・バルトフェルドの部隊、ですね」

「これはまた大変なところに降りちまったなぁ」

「なんだ、知らなかったのか?」

「降りて来たばっかりなんでね」

「どうやら、色々と情報をお持ちの様ですね。力になっていただけるのでしょうか?」

「そう言うならまず、向けられてる銃を下ろしてもらわねえとな。あの、モビルスーツのパイロットも」

 

 見透かした様なサイーブの言葉に、マリューもムウも、そして艦橋にてモニタリングしていたナタルも表情を険しくさせた。

 いざという時の備え。それを看破されたのだ。

 伊達に砂漠の虎を相手にレジスタンスなどやってはいないと言う事だろう。

 

 一つ逡巡にため息をついてマリューは観念した様に通信機に声を通した。

 

「分かりました。バジルール中尉、警戒を解いて。ヤマト少尉は降りて来てもらえる?」

『了解』

『わかりました』

 

 それぞれの応答が通信機から聞こえる。

 マリュー達の背後でアークエンジェルのハッチ陰に潜んでいたクルーも、艦内へと戻っていった。

 

 そしてストライクからは──

 

「あれが、あのMSのパイロットだって?」

「まだガキじゃねえか」

「本当なのか?」

 

 口々に聞こえる声に、キラは顔を顰めた。

 

「アークエンジェルのパイロット。キラ・ヤマトです」

「驚いたな。その年でアレのパイロットって事は、コーディネーターか?」

「──はい」

 

 瞬間、ムウは腰の銃に手を掛けそうになった。

 サイーブの背後、男達から明らかに敵意が増したのだ。

 

「落ち着け、お前達。台無しにする気か?」

 

 一声であった。

 低く力強い。リーダーとしての力を持った、強い声音が疑念と敵意を払拭する。

 一気に熱が引いたレジスタンス達を見て、ムウは銃に伸ばしかけた手を戻す。

 

「すまねえな。虎が来てからと言うもの、コーディネーターに奪われたものが沢山ある。どうしても、色眼鏡で見ちまうもんだ。許してくれ」

「貴方は、違うのかしら?」

「まぁな、伊達に長い事生きてない。色々見て来たものも多いんでな」

「色々、ねぇ」

「ひとまず、あなた方は敵ではない。という事でよろしいのですね?」

「そちらが虎とやり合おうってんなら、力になれるし利用させてもらうってわけだ。どうする?」

 

 素直に利用すると明言したサイーブに、マリューもムウも毒気を抜かれた。

 隠す気のないその宣言には含みがない。

 わかりやすい相互の協力関係を提示され、疑念も少なく2人は頷き合う。

 

「協力を、願い出ましょう」

「だな」

 

 差し出されたレジスタンスの手を、マリューは静かに取った。

 

 

 

 

 それからの行動は早かった。

 サイーブ等明けの砂漠は、前線基地となる岩肌が見える小さな峡谷へとアークエンジェルを誘導した。

 小さな峡谷とは言え、前線基地と呼べるだけの設備、施設を有する場所であるが流石に大型の艦船であるアークエンジェルが進むにはかなり狭い。

 

 操舵のノイマンは相当に神経をすり減らして艦を動かした。

 

「アークエンジェルは、車両じゃ無いんですがね。こんな、車庫入れみたいに……」

 

 後ろ向きで峡谷の窪みに慎重に侵入していき、ようやくと言うところで艦を地面に降ろした。

 

「ふぅ、全く神経使うぜ」

「ご苦労だった、少尉。しばらくは動くこともないだろう。休憩に入って良いぞ」

「あ、いえこれくらいなら別に。それなら中尉こそ、艦長と一緒で地球に降りてからまともに休めてないでしょう。少し休憩なさっては?」

「気遣いには感謝するが、早々にレジスタンスとの会談もあるのでな」

「本当に、大丈夫ですか? アマノ二尉の件でもずっと動かれていたのでは?」

「自己管理くらいはできている。そう心配するほどでもない。では、後を頼むぞ、少尉」

 

 そう言って艦橋を出て行くナタル。

 やはりその後ろ姿はどこか疲れている様にノイマンには見えた。

 

 マリューと併せ、艦を取りまとめる2人の負担が大きい事。

 それは艦橋のクルー達なら皆気が付いている事であった。

 自分の判断が艦の命運を決める。その重責、簡単に背負えるものではない。

 元よりその任に就く人であるならまだしも、なし崩し的にそこについた2人にはその準備と覚悟もなかった。

 いずれどこかで、崩れてしまうのではないか。そんな不安がちらついていた。

 

「こんな風に思うのは間違いだと分かってるけど──恨みますよ、アマノ二尉」

 

 静かに呟かれた恨み言は誰に訊かれるでもなく艦橋に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 そんな事など露知らず。目を覚ましたタケルはカガリと共に艦内通路を歩いていた。

 目指すは艦橋。しばらくの眠りから覚めた今、状況を確認したかった。

 アークエンジェルはタケルを乗せるために降下ポイントを変えているのだ。

 

「聞いた話じゃ昨夜戦闘があったみたいだし、さっきまで艦も移動してたっぽいし。今はどんな状況だろう」

「バジルール中尉と少し話したんじゃなかったのか?」

「これからの事はね。現在地は南アフリカの真ん中辺り。それで目的地が地球軍本部のアラスカ。

 だから、オーブへの寄港も提案しておいたんだ」

「寄港って、地球軍の戦艦をオーブに入れるのはまずいんじゃ」

「それは勿論ね。ただここはザフトの勢力圏。アラスカに向かうにも道中まともにアークエンジェルが寄れる基地は無い──そして、今この艦には僕とカガリがいる」

「兄様、それって!?」

「昨夜戦闘があったって言う事はザフトの追撃はまだ続くだろう。どの道無傷で航行なんかできないはずだ……いざという時の逃げ道にオーブはうってつけだしね」

 

 アークエンジェルもストライクも、元はモルゲンレーテ製の機体達だ。

 傷付き損傷したこれ等を整備する場所としてはこれ以上はない。

 

「でも、そんな事をしたら」

「わかってるよ……わかってる」

 

 それを公に晒せば、オーブの中立は崩れる。それは避けなくてはならない。

 だが、自らが招いたこの事態。タケルにはその責任がある。

 マリューやナタルは否定するだろう。

 だが紛れもなく、今アークエンジェルがここに居るのはタケルを乗せたが為なのだ。

 

「連絡が取れれば根回しもできるだろうけど、地上はNジャマーの影響が強いからね。その時にならないとどうなるかはわからない……けど最悪は僕が全周波で」

「その時は、私の名前を出せ、兄様。ヘリオポリスに私がいた事は記録に残っている。巻き込まれた私がこの艦乗ってる可能性は、ゼロでは無いはずだ」

 

 迷いの無い瞳でタケルを見つめるカガリ。

 アークエンジェルをオーブへと招く事。それを兄の責だけにはしない。

 そんな事は許さないと、カガリの瞳が物語る。

 こう言う時のカガリは梃子でも動かない。タケルはそれを察して、嬉しさ混じりに口元を緩めた。

 本当なら嬉しく無い申し出だが、なんでも背追い込もうとするタケルを想った声に、どうしても否を返せなくなってしまった。

 どの道否を返しても押し切られるだろう。タケルは小さく頷く。

 

「最悪は、それだね。外交には苦労をかけると思うけど、国防軍に表向き追い払わせて裏で入港、かな?」

「悪い事を考える様になった。兄様も」

「誰のせいだろうね」

「さぁな」

 

 どちらからとも無く笑いあった。

 

「あら? アマノ二尉……もう、大丈夫なのですか?」

 

 突然背後からかけられた声に振り返る。

 そこには恐らく外に出る準備を終えたであろうマリューの姿。

 タケルとカガリを見かけて、少し驚きの様子を見せていた。

 

「ラミアス大尉。その節はどうもご迷惑を──」

「ふふ、実はもう少佐なんですよ」

「あ、そうでしたか……そうですよね。バジルール中尉も昇進されてましたし」

「心配してたけど、思ったより元気そうで安心したわ」

「お陰様で……ところで、お出かけの様相ですがどちらに? 確か、砂漠の真ん中に降りたって話でしたが……」

 

 軍帽まで被り出かける間際といったマリューの様子に、タケルは疑問をぶつけた。

 だが答えは別の方向からやってくる。

 

「この砂漠にて活動しているレジスタンスと、手を組むことになりました。これから、顔合わせとなります」

「あっ、バジルール中尉……中尉も、ですか?」

「はい、私も同行します。それと────もう、大丈夫な様で何よりです」

「あっ、えと……その……ありがとう、ございました。昨夜は本当に、助かりました」

 

 少しだけ柔らかな雰囲気となって復調を祝ってくれるナタルを見て、タケルは思わず目を逸らした。

 昨夜の事が脳裏に浮かび思わず気恥ずかしくなってしまう。

 先のナタルは普段の厳格さが消えて、昨夜の様な声音が垣間見えた。

 また胸が締め付けられる様な、奇妙な感覚に囚われて、タケルはナタルの顔を直視できなかった。

 

「おやおやぁ、こんな所で雁首揃えて何してるかと思いきや。元気になったのか、タケル」

 

 どこかニヤニヤとした様子でマリューがいる方から来るムウ。

 こちらもまた軍帽を被り出かける準備万端と言った様子であった。

 その表情には、欠片も真面目な雰囲気は感じられないが……。

 

「あっ、フラガ大尉……も少佐でしたか?」

「おぅ、めでたく意味のない昇進だ」

「少佐、問題発言ですよ」

 

 ムウの軽口を嗜めるナタルであったが、ムウの表情が引き締まる事は無かった。

 

「俺からすると、タケルの反応の方が問題かと思うけどなぁ」

「えっ? 何か、おかしいですか?」

「んあっ!? お前、無自覚かよ?」

 

 キョトンとした様子で視線を返してくるタケルに、ムウは今自分が発した言葉が真であると悟った。

 目の前の少年はナタルに対して完全に色めいた反応をしていた。

 恥ずかしそうに視線を逸らすなど、今までありえなかったはずだ。

 いつに無く優しい雰囲気を纏うナタルと併せて、イジるにはこの上ない2人であった。

 

 だがこの場は女神の領域内である。

 ムウと違い、雰囲気の違う2人を見守る母がここにいる。

 

「少佐、余計な発言は慎んでください」

「はっ、いや待て艦長! 俺は別に──ひぇ!?」

 

 下から見上げられて、それは恐ろしい目で凄まれた。

 ムウは思わず、小さく短い悲鳴をあげてしまう程にそれは鬼気迫るものであった。

 たっぷりとムウに脅しをくれてから、マリューは再びタケル達へと振り返った。

 その表情はまさに聖母のような笑顔である。

 

「アマノ二尉、これから今後の動きを決めるために、レジスタンスと会談に向かいます。ご一緒にどうですか?」

「えぇっと、良いんですか? 僕、病み上がりとは違うけど似たようなものなんですが」

「私は賛成です。気分転換にもちょうど良いかもしれません。アマノ二尉は余計な事を考えすぎる」

「そう、ですか……中尉までそう言うので有れば。ご一緒させてもらいます」

「ふぅん? カガリさん、貴方も一緒にどうですか?」

「艦長、作戦に関わる事です。カガリ・アマノまで連れて行くのはいかがかと」

「軍事基地ってわけでもないでしょ? それに、カガリさんがいた方がアマノ二尉も気が楽でしょうし」

「それは、そうかもしれませんが……」

 

 ナタルを制して、マリューはカガリに目を向けた。

 返答を迫られたカガリもまた、マリューの言葉を好意的に受け取った。

 

「私も、一緒に行けるなら……心配も減って嬉しいが、良いのか?」

「許可します。今の貴方達はお客さん……みたいなものですし」

「では、同行させてもらう」

 

 トントン拍子に進んでいく事の成り行き。マリューは満足そうに笑みを見せると搭乗ハッチへと踵を返した。

 習うようにナタルも、そしてカガリも付いていく。

 その場には、ムウとタケルだけ残った。

 

「何だろう……反論できないけど、なんだかすごく心配されててちょっと居た堪れないんですけど」

「羨ましい限りだなぁ、タケル。あんな美人2人と可愛い子ちゃんに心配されて」

「また……そう言う事言うと白い目で見られますよ、フラガ少佐」

「バカっ、おまっ、やめろって……あれは白い目なんてモンじゃ無かった」

 

 マリューの絶対零度の視線を思い出して身震いするムウに、タケルは小首を傾げた。

 なにやら妙に怯えている様に、一体ムウは何を見たのだろうと、そんな疑問を浮かべていた。

 

「さっ、俺達も行こうぜ。明けの砂漠、その前線基地にな」

「了解です。同行させてもらいます」

 

 

 

 




いかがでしたか。

復活。ごめんね、ありがとう。そんな話

感想よろしくお願いします

実は気づいてしまったんですが、seedってアンチヘイト作品多いんですね。
アンチヘイトってなんだぁ?
フレイの改変とかはどうなんだろうね。原作好きからすればアンチなのかな?

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