機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-32 反抗の痛み

 

 

 空が燃えている。

 そんな報告が挙がったのは夜も遅くなる時刻の事であった。

 

 アークエンジェルクルーも明けの砂漠の面々も休みに入ろうかと、そんな時のことである。

 岩場の高い所から見張りをしているメンバーからの報告で、砂漠の空を明るく染めている方角があったのだ。

 

 タッシルと呼ばれる、彼等の家族が住まう街の方角であった。

 

「──くそっ、通信が通じない!」

「それじゃ街がやられたってのか!?」

「モタモタするな急いで戻るぞ! 早く!」

 

 浮足立つ明けの砂漠の面々。それを状況が把握しきれないアークエンジェルクルーは遠巻きから眺めている。

 

「何がどうしたって言うんだ」

「さぁ……」

「少佐、ヤマト少尉も!」

「あん? 艦長にタケル」

 

 遠めから駆け寄ってくる2人とその後ろに付いているカガリの姿を認めて、ムウとキラ達も待ち構えた。

 

「艦長。この状況、なんだかわかるか?」

「どうやら、緊急事態のようです」

「なんだって?」

「おじさん達の街がある方角から火の手が上がっているみたいです。それで急いで向かうのかと──」

「落ち着け! 半分はここに残るんだ! 別動隊の可能性があるかもしれん!」

 

 タケルが言い終わる前に、サイーブが慌ただしい空気を収めようと声を張り上げていた。

 

「少佐、どう思います?」

「んー、砂漠の虎は残虐非道、なんて事は聞かないけどなぁ」

「聞かないだけでは? 実際がどうかなんて」

「なら、俺達も行くか?」

 

 アークエンジェルは無関係とはいえ、共闘するなら放っても置けない。

 こちらはジンを譲ってもらう事にもなっているし見ているだけと言うわけにも行かないだろう。

 少しの思案をしてからマリューは口を開いた。

 

「アークエンジェルは目立ちすぎます。別動隊の心配もありますし、少佐のスカイグラスパーで状況の確認を最優先にしましょう」

「あ? 俺?」

「スカイグラスパーなら、彼等より余程足が速いでしょう?」

「だわねぇ、それじゃ行ってくるわ!」

「報告次第で後から向かわせる人員を決めますのでお願いします!」

「あいよ!」

 

 ムウを見送ると続いてマリューは周囲のクルーへと呼び掛けた。

 

「総員、直ちに帰投! 警戒態勢を取る!」

「では僕は、ストライクで待機を」

「ええ、お願い。アマノ二尉は……」

「機体が使えないですからね、格納庫で出来る事をしています」

「そうですか。わかりました」

「艦長、私にも何かできる事は無いか……サイーブが大変な時だし、何かしたいんだ」

「カガリさん。ですが……」

 

 ちらりとタケルへと視線をやるマリュー。

 過保護なタケルの事だ、反対は無いかとその目が物語るが、タケルは小さく頷いた。

 

「そうですか。ではフラガ少佐の連絡後、人員を向かわせますので、その時に一緒に。あくまで救援が主です。それだけは、忘れないで」

「ありがとう、艦長。感謝する!」

 

 強い声で返すカガリに、マリューは思わず小さく笑みを浮かべた。

 初めてアークエンジェルに乗った時もそうであったが、本当に真っ直ぐな少女だと思う。

 自分が正しいと思う事へ、まっすぐ。だが決して意固地にはならず、今のも止められていたのなら引き下がっていただろう。

 そんなカガリの人当たりの良さはどこか気持ち良いとさえマリューは思った。

 

「カガリ、おじさんは大変な時だろうから助けてあげて」

「わかってる」

 

 本当なら自分も行きたいのだろう。だが、できる事も多くはないと、タケルは今自分ができる事に注力しようとしている。

 それを言葉無くとも察してカガリはまた強く答えた。

 

 

 また一つ、そんな2人にマリューは優しい笑みを浮かべるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 タッシルの街を望める小高い砂丘の一角で、バルトフェルドはどこか退屈そうに焼かれる街並みを眺めていた。

 

 避難勧告は出した。

 物資と住まいは焼いたが、命までは奪わない。

 これは警告だった。

 

 勝てるはずのない無意味な戦いに身を費やし、無駄に命を投げようとする者達への。

 

 本当であれば、ここで街諸共明けの砂漠の家族達は根絶やしにできた。

 いつでもそれができる事への証明と、次は無いと知らしめる警告だ。

 

「隊長!」

「おー終わったか、ダコスタ君」

「はっ、任務は完了です!」

「双方の人的被害は?」

「あるわけないですよ。戦闘したわけじゃないんですから」

「──双方、だぞ?」

「そりゃあまぁ、街の連中には逃げる時に転んだだの火の中に戻ろうとして火傷しただの位はいるかもしれませんが」

 

 人的被害は無し。

 それを確認したバルトフェルドは興味が失せたように街から視線を移した。

 

「では引き上げるぞ。グズグズしてると、旦那方が帰ってくる」

「──それを待って討つんじゃないんですか?」

「おいおい、そりゃ卑怯だろ。誘き出すために街を焼いたわけじゃないんだぞ」

「し、しかし」

「ここでの目的は達した。帰投する」

 

 ほら、早く運転席に乗りなさい。と、どこかふざけたような声音で促してくるバルトフェルドに従い、ダコスタは隊長の思惑を理解しきれないまま帰路へと着いた。

 

「ダコスタ君。僕はね……無意味な戦いはしたくない主義なんだよ」

 

 どこか悲しげに呟くバルトフェルドの言葉。

 その胸の内にある真意を、推し量れることはできなかった……

 

 

 

 

 

 

「まさか初お披露目がこれとはね」

 

 地球に降りてきて。

 スカイグラスパーでの初飛行が、まさか襲撃にあった街の偵察だとは夢にも思わなかった。

 

 そんな事を考えながらムウはタッシルの街へと向かうスカイグラスパーのコクピットで、1人小さなため息をつく。

 

 MAから、戦闘機であるスカイグラスパーに難なく適応したところは流石の一言であろう。

 数度操縦桿の加減と機体の動きを把握したら後はお手の物であった。

 

「うーん、これは酷ぇな。まるで殲滅じゃねえか。生存者なんて──ん?」

 

 空を赤く染める炎。見るからに壊滅的だとわかる被害の中。

 炎に照らされて、街から少し離れたところに集まる人影を、ムウは見つけた。

 

『こちらフラガ。艦長、街には生存者がいる』

「本当ですか!?」

『──と言うか、いっそほとんど被害に遭った人はいない様な感じだ』

「それは一体……敵は?」

『もう姿はない』

 

 スカイグラスパーから送られてくる光学カメラの映像。

 轟轟と燃える街が映し出されているというのに、あまりにも不釣り合いな結果にマリューは唖然としていた。

 

『どうする、艦長?』

「これからそちらに人員と物資を派遣します。多少のけが人もいる事でしょう……医務官も。少佐はそちらで彼等との間を取り持って応対をお願いします」

『了解だ』

 

 ムウとの通信が切れると、次は格納庫で待機中のナタルへと繋げた。

 

「ナタル、想定が変わったわ」

『変わったとは?』

「街は壊滅だけど生存者は多数。救急の医薬品も必要かもしれないけど、生活物資を多めに積んで行って──怪我も無く、無事な人が多いみたい」

『それは……どういう事なんだ、ラミアス艦長?』

「カガリさん、まだ私達も状況は把握できていないわ。一先ずは今伝えたことだけよ」

『そう、か……わかった、ありがとう』

『では、向かいます』

「お願い。状況報告は密に。これが囮なら今度はこちらが危険だわ」

『はっ! よし、行くぞ!』

 

 ナタルの指揮の下、格納庫からバギーで現地へと向かう救援部隊。

 カガリは生存者が多い事に少しだけ安堵して炎で明るくなった砂漠の空を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 地上に降りたムウは丁度追い付いてきたのであろう明けの砂漠の面々が、無事な家族達との再会に喜んでいる姿を目撃していた。

 

「ヤル! 無事だったか!」

「父ちゃん!!」

 

 あのサイーブもその一人であった。

 駆け寄る息子を抱き寄せ、その存在を確かめるかのよう抱きしめる。

 

「サイーブ」

「──長老」

 

 サイーブから長老と呼ばれた老人。

 街を取り纏めていた人物なのだろう。

 居住まいを正したサイーブはおずおずと口を開いた。

 

「どれくらい、やられた?」

「死んだ者は居らん」

「何だと?」

 

 遠巻きに見ていたムウはやはり、と1人納得をしていた。

 街の被害規模に対して余りにも生存者が多すぎる。

 襲撃が夜である事を考えれば、たまたま街に居なかった人間などそれこそ明けの砂漠のメンバーくらいだろう。この数の生存者がいるはずがない。

 

 つまりこの結果は、襲撃者が“意図して作った”結果であった。

 

「最初に警告があった。今から街を焼く。逃げろとな」

「なに!?」

「そして焼かれた。食料、弾薬、燃料……全てな。

 確かに死んだ者は居らん。じゃがこれではもう生きてはいけまいて」

 

 沈痛そうな面持ちで語る長老に、サイーブは怒りをあらわにした。

 

「どういうつもりだ、虎め!」

 

 同行してきた明けの砂漠メンバー達も口々に同調する。

 

 卑怯者。正々堂々と戦えないのか。俺達が来る前に尻尾を巻いて逃げた。

 

 そんな、馬鹿げた見解の声が次々と上がっていた。

 

 ムウは呆れたように、彼等の真っただ中へと歩いていく。

 

「良かったな、アンタ等──虎が情け深い奴で」

「何っ!?」

 

 一瞬にしてその場が険悪な空気へと変わる。

 サイーブを始め、一斉にムウへと視線が向いた。

 

「どうやら虎は、アンタ等と本気でやり合おうって気じゃないらしい」

「どういうことだ?」

「こいつは昨夜、アンタ等が連中へ攻撃した事への単なるお仕置きだろ? こんな程度で済ませてくれるんだから随分とお優しい事じゃないか」

「何だと! お前、この惨状のどこが優しいって言うんだ!!」

 

 怒声を上げてムウへと詰め寄ったのは、アフメド・エル・ホズン。

 勝気な少年は怖いものをまるで知らないようで、冷めた目で見るムウへと突っかかった。

 

「住む場所を奪われて、生きる糧も奪われて、これからどう生きろって言うんだ、えぇ!!」

「それを覚悟でレジスタンスをやってるんじゃないのか?」

「あいつは卑怯な臆病者なだけだ! 俺達がいない間に街を焼いて、それで勝った気になりやがって! こんなことしかできなくて何が砂漠の虎だ!!」

「アフメド、もうやめろ!」

 

 息を切らせて怒りをまき散らすアフメドを、サイーブが窘めた。

 

「あんたの言う事は正しいのかも知れねえ……だが、それを奪われたばかりの俺達に言う必要があったのか?」

「これだけされて理解できてないアンタ等には、言ってやらなきゃダメだろ?」

「なんだと!!」

「やめろアフメド!」

 

 再び激昂しそうになるアフメドを取り押さえ、サイーブはタケルとの会話を思い出した。

 

 “それは命より重要な事? ”

 

 これだけの事をされて、それでも意図して生かしてもらえた。それは情け以外の何物でもない。

 ムウが言うように、街ごと家族を焼き払われていた事を考えれば、それは確かに随分と優しいだろう。

 

 だが──

 

 

「サイーブ!!」

 

 怒りを秘めた声が、サイーブを呼んだ。

 見れば、ハーフトラックに乗り込み、出発の準備をしているメンバーの姿があった。

 

「何をしている?」

「奴等、街を出てそう経っていない。今ならまだ、追いつける!」

「街を襲った後の今なら、連中の弾薬だってそこを突いてるはずだ!」

「俺達は追うぞ、こんな目に遭わされて、黙っていられるか!」

 

 全員が全員、ムウが言う事を理解することも、サイーブの様に冷静になって見る事もできないのだ。

 感情が人を動かす原動力である以上、大きな変化に。強い感情に、人は理性を失う。

 

「バカなことを言ってんじゃねえ! そんな暇があったら怪我人の手当てをしろ! 女房や子供に付いててやれ! そっちの方が大事だろうが!」

「それでどうなるって言うんだ! タッシルはもう終わりさ! 家も食料も全て焼かれて、女房や子供と一緒に泣いてろとでもいう気か!」

「生きているなら、生き続けられるだろうが! それともお前達は、このまま死んだほうがマシだとでも言うのか!」

「サイーブ! まさか俺達に、虎の飼い犬に成れって言うんじゃないだろうな!」

「死んだら何もかもおしまいだろうが!!」

「ふざけるな! あんた、誇りも何も失っちまったのかよ!!」

 

 捨て台詞と共に、次々とハーフトラックが出発していく。

 胸の内に抑えていたアフメドも、激情に任せハーフトラックへと乗り込んで行ってしまうのだった。

 サイーブは僅か打ちひしがれるも、放ってはおけないとすぐに近くを通る車両のメンバーを呼んだ。

 

「エドル! 俺も行くぞ!」

「だが、お前は」

「放ってはおけん!!」

 

 行けば全滅は確実。

 そんな結果を、見過ごすなどできようはずもない。

 リーダーとしての責任がサイーブを突き動かしていた。

 

 そんな彼等を冷めた目で見送っていたムウは、未だ住民たちから向けられる敵意の眼差しを受け流しながら肩をすくめていた。

 

「やれやれ、風も人も熱いお土地柄なのね」

「フラガ少佐……この状況は一体?」

「おっ、一歩遅かったようだぜ副長。

 いやぁ、副長がもう少し早く来てれば、死にに行く連中も止められたかもしれないんだがな……」

「はっ? 一体何の……」

 

 状況が読めずにムウの言葉を訝しむナタル。

 今ここで起こった出来事を話せば、きっとこの副長も怒りをあらわにするだろう。

 ムウは怒らせる事が確定している報告をしなければならない事に大きくため息を吐いた。

 

「ホント、付き合ってられないんだがな……こんな事」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追っていった!?」

 

 艦橋に、本当に驚愕に染められた声を上げて、マリューは通信越しのムウとナタルへと聞き返した。

 

「追っていったなんて……何てバカな事を。何故止めなかったんですか少佐!」

『止めてやったんだがね……追っていったのは、死んだ方がマシな連中ばかりだったって事さ』

『艦長、いかがいたしますか? 残された人達にも怪我人は多いですし、水や食料の問題もあるかと……今から艦に戻って戦闘に向かうなど、そんなことをしている場合でもないかと思いますが』

「仕方ありません、放っておくわけにもいかないでしょう」

『ですが、こんな事で艦を動かすわけにも──』

『うえーん、痛いよー』

 

 通信越しに子供の泣く声が聞こえて、マリューもナタルも話を止めた。

 マリューからは映像が見えないが怪我した子供が近くにいるようであった。

 

『失礼、艦長──どうした、痛むのか。ほら、もう泣くな』

『うぅ……』

『そうだ、良いものをやろう──ほら、美味しいぞ』

 

 ムウが傍で固まる中、ナタルと子供のやり取りが音声のみで手に取るようにわかる。

 そして数秒後、軍帽を取ったナタルが通信機の前に再び姿を現した。

 

『失礼しました。通信の邪魔になるかと思い……』

「それは良いのだけど……貴方、最近お母さんが板に付いてきてない?」

『はっ? なっ、何を言っているのですか!? 自分は別に……そんな事より今はどう動くかでしょう!』

「はいはい。一先ずヤマト少尉に行ってもらうわ。見殺しにはできないもの。残っている車両で水や食料をまた送らせます。そっちはお願いね」

『了解』

『了解しました』

 

 緊迫した状況ではあったが、予想外に和んでしまった事に気を引き締めなおして、マリューはCICに視線を投げた。

 

「聞いていた通りよ。ハウ二等兵! ストライクの発進を!」

「はいっ! キラ、ストライク発進願います!」

『了解』

 

 既にコクピットで準備をしていたキラは迷うことなく頷いた。

 

『APU起動。カタパルト接続。ストライカーパックはエールを装備します。システムオールグリーン。進路クリア──ストライク発進、どうぞ!』

「キラ・ヤマト。ストライク、行きます!」

 

 

 日が昇り、熱砂が渦巻く砂漠の空へストライクが飛び出した。

 

 

 




死んだ方がマシってやつかね。ほんとそれ。そんな話。

最近完全に鬼の副長の顔が崩れてるナタルさん。
これも全部タケル・アマノってやつが悪いんだ。


あと、“ここすき”機能を使ってくれてる読者の方。
ありがとうございます。ピンポイントでキャラのセリフとかに入ってると、すごくうれしいです。

こういった読者の反応が見られるのが作者にとって一番の楽しみなので
感想と併せて是非是非利用してもらって
読者の皆さんの声をお聞かせいただければありがたいです。
よろしくお願いします。
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