機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-33 ペイ バック

 

「うえーん、痛いよぉー!」

「ほら、薬を塗ってやるからもう泣くな────うん、これで良し。泣き止んだ奴から向こうでお菓子をもらえるぞ! さっ、行ってこい!」

「うん、ありがとう! おねえちゃん!」

「ちゃんと並ぶんだぞー!」

 

 去っていく子供を見送り、ほっ、と小さく息をついたカガリは周囲を見回した。

 周囲はまだ怪我人でごった返していた。

 子供や年寄りを優先していたが、そもそも若い人の大部分は明けの砂漠のサブメンバーのようなもので怪我無く逃げおおせたり避難誘導をしていたものがほとんどで治療の必要はなかった。

 

 “エドル、俺も行くぞ”

 “サイーブ、だがお前は”

 “放ってはおけん! ”

 

 先程見送ったサイーブの姿が忘れられなかった。

 兄は言った。

 敵わない相手に挑むのは自殺と変わらない、と。

 それはすなわち、見送ったサイーブが死地に向かったのと等しい事だと理解していた。

 

 こんなところで、怪我人の治療をしている場合だろうか。

 胸の奥でずっとそんな警鐘が鳴らされていた。

 

「サイーブ……」

 

 途中で気が変わって戻ってこないだろうか。

 そんな思いが何度も過る。

 帰ってくる車両の音が聞こえなかったかと、何度も幻聴を聞く。

 だが周囲を見回しても、そんな気配は無かった。

 

 ふと、目につく──青と白の戦闘機。

 ムウが乗ってきたスカイグラスパーである。

 

 あれならまだ、戦える……サイーブを助けに行くことも……

 

「ダメだぞ、嬢ちゃん」

「ッ!? フラガ少佐」

「目は口ほどのものを言うってな。今、完全にあれに乗って向かうつもりだっただろう?」

「す、すまない……できもしない事を考えた」

「気持ちはわかるけどな。拠点であのおっさんと会った時の2人の表情を見れば──世話になった大切な人なんだろ?」

 

 軍人の仮面も、大人びて見せる仮面も剥がれた。本当に素のままのタケルとカガリの素顔。

 それがサイーブと再会した時の2人にはあった。

 ムウはそこに確かな絆のある関係を感じていた。

 

 カガリはムウの問いに、僅かに俯いて答える。

 

「あぁ、私達のお父様と古くからの知り合いで。お転婆な私が危ない事をすると、いつも真剣に叱ってくれた……本当に良い人なんだ」

「そんな人だから、ここでレジスタンスのリーダーも任されるって事かね」

 

 面倒見がよいから、皆を守る為に統率しているのだろう。

 だから今も、放っておけずに戦場に向かってしまっている。

 

「フラガ少佐はその……行ってはくれないのか?」

「無茶を言うな嬢ちゃん。元々偵察の為に出てきたんだ。弾薬なんてほとんど積んでないし、燃料だって心許ない」

「そう、か……」

「安易な事は言えないが、キラがすぐに出撃して向かっている。気持ちはわかるが、今は信じて待ってやれ……ここで嬢ちゃんが無茶したら、それこそ今度はタケルが今の嬢ちゃんみたいになっちまうだろう」

 

 ハッとしたように、カガリは息を呑んだ。

 確かにそうだ。先程カガリの頭を過ったスカイグラスパーによる救援。

 その報を聞けば、きっと兄はボロボロのアストレイで無理矢理出撃してくるだろう。

 そんな事させられるわけが無かった。

 

「──わかった。確かに、そうだよな」

「そうだ。代わりにこっちで出来ることをしてくれ。嬢ちゃんみたいなカワイ子ちゃんが治療してくれるんだ。みんな寄ってたかって来るだろうさ」

「その……かわいいとか言うのやめてくれないか?」

「あ? なんでだよ? 嬉しくないのか」

「嬉しくない」

「あれま、変わった嬢ちゃんだこと」

 

 カガリに真面目に嬉しくないと返されて、ムウは意外そうに肩をすくめた。

 そんなムウを放って、カガリは再び怪我人の治療へと専念する。

 

 胸の内に燻ぶる不安を、必死に押し殺しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜の襲撃から時間は経ち、日も随分と昇ってきた時分。

 

 タッシルを焼き払ったバルトフェルドの部隊は、ジープのゆっくりとした速度に合わせて、のんびりと帰路へとついていた。

 

 そわそわとする副官のダコスタを流し見ながら、バルトフェルドは未だ、夜通しの作戦行動で欠伸をかみ殺しているような、暢気な雰囲気であった。

 

「隊長、もう少しその……急ぎませんか?」

「日が昇ってきて熱いと思うのはわかる。俺も同じだ」

「そうじゃなくて! 追撃されますよ、こんなスピードじゃ!」

「それをさせないための避難警告だったんだがな」

「はぁ?」

 

 腕を組んで、バルトフェルドはまっさらな空を見上げながら口を呟いた。

 

「街諸共、家族も殺されたんじゃなりふり構わず追撃もして来るだろう。だが守るべき人達は生き残ってて、明日の暮らしすら見通しが立たない。

 そんな状況で普通、追撃なんかするかね?」

「そりゃあ、他にもっとやる事があるかもしれませんが……」

「自走砲とバクゥじゃ喧嘩にもならん。追撃に来るのなら死の覚悟を持ってくるだろう。

 彼等にとっては正に運命の分かれ道だ……死を覚悟してでも憎い俺達を討ちにくるのか、大切な人達と一緒に明日を生きる為動くのか」

 

 しんみりと呟いたバルトフェルド。

 そこへ通信機が起動したときの微かなノイズ音が届いた。

 

『隊長、後方から接近する車両があります。6、いや7です。レジスタンスの戦闘車両の模様』

 

 苦々しく舌打ちをするのをダコスタは聞き逃さなかった。

 直後、ジープの数m脇にロケット弾が着弾する。

 

「やはり、死んだ方がマシなのかねぇ……ホント」

「隊長!?」

「わかってる、応戦しろ!」

『了解』

 

 通信機越しに応の声が聞こえると同時に、バクゥ3機が反転。

 

「ジープを追え! 虎を倒すんだ!」

 

 再び放たれたロケット弾を、バクゥが壁となって受け止めた。

 正面から受け止めたところで何ほどのものでもない。

 損傷など装甲表面に少し焼けた跡がついた程度。バルトフェルドが言う通り、レジスタンスの装備でバクゥを相手取るなど土台無茶な話であった。

 

「下手に流れ弾が飛んできても適わん。こちらに通すなよ」

『了解!』

 

 バルトフェルドの命に応える様に、バクゥが車両を1台蹴り飛ばすと同時、僅かに跳躍して4足形態からキャタピラによる無限軌道携帯へと形を変える。

 そして、自走砲の車両をキャタピラで圧殺した。

 

「ジャアフル!! くそっ!」

 

 今圧殺された車両に乗っていた者の名だろう。

 サイーブは悔しそうに仲間の名を叫ぶと、ロケット砲を担いで1機のバクゥを狙う。

 たまたま駆動部の関節部分に命中したそれが一時的にバクゥをダウンさせ動きを止めさせた。

 

「さすがサイーブだ……アヒド、こっちも行くぜ!」

「おうさ!!」

 

 ロケット砲を担いでアヒドが駆る車両が別のバクゥの腹の下へと潜り込んだ。

 

「くらえぇ!!」

 

 1射、2射。あらかじめ準備していたロケット砲を用いて立て続けの2射。

 その衝撃がバクゥのコクピットを少し揺らす。

 

「このっ、ちょこまかと五月蠅い蟻が!!」

 

 腹の下を抜け出た車両目掛けて、バクゥの前足が振り上げられた。

 

「まずい、アヒド、逃げろ!!」

「えっ」

 

 危険を察知してアフメドはアヒドへと呼び掛けながら車両を飛び降りた。

 だが、運転中であったアヒドはそんな急には動けず、車両ごとバクゥに蹴り飛ばされて宙を舞う。

 

「アヒド──!!」

 

 まるで時間の流れがゆっくりになったかのように。アフメドは車両とアヒドが地に落ちるまでを呆然と眺めていた。

 呆気なかった。目の前でいとも簡単に仲間達の命が消えていく。

 ここに来て初めて、アフメドは人の命が消えるのはとても簡単であっけない事を理解した。

 

 必死に戦えば……全力で戦えば、きっと勝てる。

 そんな絵空事が脆くも崩れ、目の前にあるのは非情な現実。

 見下ろしてくるバクゥが、初めて獲物を狩る捕食者の様に見えてくる。

 

 そんなアフメドを狙うバクゥにロケット弾が立て続けに着弾。

 

「逃げろ、アフメドー!!」

 

 サイーブであった。

 追撃することをあれ程まで否定したのに、仲間を捨て置けず付いてきて。

 今、まだ子供であるアフメドを救うため懸命に敵の注意を引いている。

 

 アフメドは情けなさに涙が浮かんだ。

 足手纏いでしかなかった。勇んで戦場についてきたところで、何も討てず、誰も守れず。

 

 

 バクゥに追われるサイーブ。

 弾薬は街を襲撃した時に尽きたのか、それとも使う必要は無いと考えているのか。

 背中のミサイルポッドから砲火が放たれることはなく、ただロケット弾の直撃をものともせずバクゥは車両へと迫っていった。

 

「ちくしょうー!」

 

 最後の弾頭を撃とうとした瞬間、光条が目の前の砂漠を焼いた。

 

「何っ!?」

 

 バクゥのパイロットもサイーブも割って入ってきた光の出所へと目を向ける。

 青と白。そして赤いバーニアを背負ったMS。

 アークエンジェル艦載機、ストライクの参戦である。

 

「地球軍の坊主か!?」

「救援に来たのか、地球軍が?」

 

 レジスタンスと比べれば大きな脅威である。

 ストライクを確認した瞬間、バクゥのパイロットはサイーブ達を捨て置いてストライクへと意識を集中させる。

 

「(直撃を狙ったが狙いが逸れた? そっか砂漠の熱対流で……)」

 

 敵陣が大きく変化していくのを感じながら、キラはストライクのパラメータを修正する。

 

「(よし、行ける。バクゥは3機、内1機は動けない。後は、明けの砂漠は……)」

 

 ストライクのセンサーが拾う死屍累々。

 辛うじて生きているも動けないものもいる。

 キラは苦々しく表情を歪めると、バクゥを誘う様に大きくストライクを迂回させた。

 

「隊長!」

「ふむ、先日とは装備が違うな……それに今見た感じ、ビームの照準に砂漠の熱対流のパラメータを即座に反映させたか」

「どうするんですか。こっちは3機とはいえ、弾薬は心許ないですし」

「う~ん」

 

 目の前でエールの高い機動性を生かしてバクゥと渡りあうストライクを見て、しばらく安穏としていたバルトフェルドの雰囲気が、その異名に相応しいものへと変わっていく。

 

「カーグット!」

『はっ!』

「私とバクゥを代われ!」

『はっ! はっ?』

「隊長! 何を」

「撃ち合ってみないとわからないこともある。カーグットを連れて帰投しろ、ダコスタ君」

 

 ジープへと寄ってきたバクゥへと向かいバルトフェルドはパイロットを交代する。

 

 やはり機体に乗り込むと気持ちが逸る。

 ましてやこれから相対するのは、自分ですら適うかわからない奇妙なパイロット。

 強敵を相手に心が躍るのは、戦士の性であった。

 

 バクゥのコンディションをチェックしたバルトフェルドは、別のバクゥを仕留めようとライフルを構えるストライクに、あいさつ代わりにミサイルを撃ち込んでやった。

 

「ぐっ、3機目のバクゥ。動けなかったはずじゃ」

「全機、フォーメーションデルタだ! ポジションを取れ!」

「この声」

「隊長!」

「さぁ、行くぞ!」

 

 バクゥの動きが目に見えて変わる。

 優秀な統率者による綺麗な陣形。

 砂漠を颯爽と駆ける無限軌道の中、3機は三角形の陣形を作り、ライフルで狙われれば散開し、躱せばまた集まる機動でストライクへと一気に迫る。

 

「そらぁ!」

 

 連続で突撃してくるバクゥの突撃を受け、ストライクが大きく吹き飛ばされる。

 

「くっうぁあ!」

「通常弾頭でも、76発でフェイズシフトはその効力を失う! その時同時にライフルのパワーも尽きる!」

 

 吹き飛ばされたところへ次々と撃ち込まれるミサイル。

 三位一体のミサイル攻撃が、余すことなくストライクを狙ってくる。

 被弾し、エネルギゲージが下がっていくのがキラは見て取れた。

 

「さぁこれをどうするかね、奇妙なパイロット君!!」

 

 

 

 ──嘗めるな。

 

 

 勢いを増し、ストライクを仕留める態勢に入ったバクゥを見て、キラの胸中で暗い気持ちが鎌首をもたげる。

 

 ここで負ければ、無駄に追撃に入ったレジスタンスの連中と何も変わらない。

 そんなのは御免だ。

 救援に来て無様にやられることなど許されるはずがない。

 

 自分は、彼等とは違う! 

 

 

 

 扉が開かれ、再び訪れたあの感覚がキラの身体を動かした。

 

 

 フットペダルを踏みこみ、スラスターに任せた急旋回をすると、再び突撃してくるバクゥ達と正面から向き合った。

 

 既にバクゥに搭載されている射撃兵装はそのほとんどを使い切っているのだろう。

 正面から向かい来るストライクにミサイルが飛んでくることはなかった。

 

 互いに勢いのまま距離を詰めているこの現状で、ストライクの前方へとシールドを投げた。

 バクゥの1機を巻き込み陣形の一端を崩すとそこから、すれ違いざまに別のバクゥへとビームライフルを放ち完全に陣形を崩すことに成功する。

 

「なに!? 各個に当たれ、奴を攪乱しろ!」

 

 背後からとびかかってくるバクゥ。

 それをキラはわかっていたかのようにストライクを跳躍させ躱すと、がら空きのバクゥの背を踏みつけ砂漠へと抑えつけた。

 

「なにぃ!」

 

 何の感慨も無く、コクピットの位置へとビームライフルを撃ちこみバクゥを撃破。

 爆炎に包まれながらゆらりと動いたストライクは再び次の標的を見定めてスラスターを吹かせた。

 

「撃ちきれ!」

「了解!」

 

 バルトフェルドと併せて最後のミサイルを打ち切り弾幕を張る。

 迫りくるミサイルに対して、ストライクはスラスターを全開させたまま行うバックフリップで大量の砂を巻き上げ壁とした。

 

 砂の壁に防がれるミサイル。

 爆炎を嫌って避けたバルトフェルドと、爆炎をそのまま突き抜け追撃に入ろうとしたもう1機。

 その選択が運命の分かれ道であった。

 

「あ……あぁ!?」

 

 跳躍しストライクへと襲い掛かろうとしたバクゥの視線の先には、砂漠を低空の背面飛行で飛びつつライフルを構えるストライクがいた。

 

 閃光が奔る。

 眩しい太陽の下でも良くわかる光条が2機目のバクゥを貫いた。

 

「くそっ、後退する! ダコスタ、レセップスに打電だ!」

『あっ、了解!』

 

 もはや一矢報いる事すら捨てて、バルトフェルドはバクゥを帰路につかせた。

 ストライクのエネルギーもそれなりに削られていたため、逃げるバルトフェルドまでは無理に追いかけてこないだろうと踏んでの事である。

 

「──なんて奴だ、奇妙なパイロット君」

 

 戦闘に入るまでの高揚感とは違い、そのあまりの恐ろしさにバルトフェルドは小さな笑みを浮かべていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……僕は、負けない」

 

 バルトフェルドの恐怖など露知らず、キラはストライクのコクピットで戦い抜けたことに密かな安堵を抱いていた。

 

 

 

 

 

 戦闘の気配が消えたところで、キラは状況を把握するべく明けの砂漠の面々の下へと向かった。

 一様に悲しそうな顔が見て取れる。

 

 それがキラには、酷く馬鹿らしく思えた。

 

 死んだ方がマシだから戦ったのだろう。

 何を守るでもなく、何かを勝ち取る為でもなく。

 ただ、目の前の現実から目を背けたくて、戦ったのだろう。

 なのに、何故泣いているのだと──そう思っていた。

 

 

 戦って泣くのは、いつだって守ろうとして守れなかった奴だろう。

 泣いて良いのは、守りたくて必死に戦って……それでも守れなかった奴だろう。

 

 

 ラダーを使って、キラはストライクから降りていった。

 

 

 

 

 

 遺体があるだけマシなのかもしれない。

 自走砲毎バクゥに轢き殺されたものなど形を保っている事はない。

 だが目の前に遺体があるからこそ、そこにはより死を感じられる。

 先程まで生きていた仲間の、死を。

 アフメドは悲しみに暮れて縋るように泣いていた。

 必死に戦った仲間である。仲間との別れは、身を裂くように辛く悲しいものであった。

 

 そんな彼らを、ストライクから降りたキラは酷く冷めた目で見つめていた。

 

 

「死にたいんですか……こんなことをして、何の意味もないじゃないですか」

 

 

 カっと理性が振り切れる。

 キラの言葉に、仲間の死を目にしたアフメドは憤怒の表情でキラへと掴みかかった。

 

「ふざけるなよ、もう一回言ってみろ!!」

「こんなことをして、何の意味も──」

 

 瞬間、衝撃がキラを襲う。

 口内に広がる微かな血の味。激情に任せ殴られたのだとわかった。

 

「今度は何の意味もなく殴るんですか?」

「てめえ!」

「やめろ、アフメド!」

「うるさい!!」

 

 サイーブの制止を振り切り、アフメドは再びキラの胸ぐらを掴んだ。

 

「皆、必死に戦ってるんだ! 大切なものを守るために必死にな! お前なんかに何がわか──ぐっ」

 

 瞬間、アフメドはキラによって胸ぐらを掴み返されていた。

 

「必死で戦えば、死なないんですか? 必死で戦えば、守れるんですか?」

「な、に?」

 

 冷めた瞳が、アフメドを見上げていた。

 キラの胸中は酷く荒れて、アフメドに負けず劣らずの怒りの形相を見せていた。

 

「できる事をしようともせず、できない事ばかりに目を向けて、それで戦ってるって本当に言えるんですか?」

 

 戦うことが今やるべきことだったのか? 

 明日を生きるためにやるべき事があるのではないか? 

 勝てない戦いに命を懸けて挑むのは──それは、本当に戦いなのか? 

 

 今やそこに居る誰もがキラの言葉に飲まれていた。

 戦えるだけの力をもちながら、戦って守れなかった者が持つ、重い言葉であった。

 

 戦ってきた──必死にできる事をやって、やって、やって。

 それでも守れなくて、傷ついて。

 そんな友の痛々しい姿を見てきた。そんな友が流す涙を見てきた

 だから、目の前の現実から目を背け戦わずに命を捨てようとした彼等が気に食わなくて仕方なかった。

 

 何故タケルが守れなかったと嘆く傍らで易々と命を捨てられるのか。

 キラには理解できなかった。

 

「できない事でも命を捧げれば満足ですか? 後を託すなんて聞こえの良い言葉で、遺された人に放り投げてしまえば終わりですか?」

 

 ふざけるな、と。キラの胸中で怒りが唸った。

 キラとストライクが来なければ、彼等は全滅していただろう。

 可能性の欠片も無く、勝てる見込みの一つもない。

 自殺行為以外の、なにものでもなかった。

 

 守る? 自分の命すら軽々しく捨てる奴が、一体何を守れると言うのか。

 守る? 遺された人に悲しみと憎しみだけ残して、一体何を守ったと言う気だ。

 

 

「さっきの戦いでお前達は──いったい何を守れたって言うんだ!!」

 

 

 激情の声が、乾いた砂漠に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他人。それは決してわかり合えないものなのか。

 荒げた声は胸の中で後悔となり、抱えた想いはキラを孤独へと誘う。

 僅かに垣間見る平和の街での時間。

 その最中、戦場以外で相見える敵将の言葉は、少年達の心に何を残すのか。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『宿敵の牙』

 

 揺れる心、胸に定めろ、ガンダム! 

 




いかがでしたか

アフメドが完全に原作のカガリ役でごめんって話。

あと原作の「気持ちだけで……」って方が絶対グッとくる気がして
勝てない――そう悟った作者でした


感想よろしくお願いします。

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