機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PFASE-38 熱砂の激戦

 

 

 

 

「急げ、そいつはそっちに積み込め!」

「時間がないぞ、急げ!」

「残しておいてもしょうがないだろ! あるだけ持ってこい!」

 

 明けの砂漠の拠点を怒号が飛び交う。

 次々と準備が整い飛び出していく自走砲や車両。

 積み荷にはたっぷりの武装である。

 

「行こうぜ、サイーブ」

「今日は助けてやらんからな、悪ガキ」

 

 同じ車両に乗り合わせたサイーブとアフメド。

 軽口を言い合いながらも、戦いに向けた決意の意思が見て取れた。

 

「ん? なんだお前、その石は?」

 

 何かに気が付いたサイーブが向ける視線の先には、アフメドが握りしめる掌に乗るサイズの石があった。

 陽光を受け僅かに反射するそれは、いわゆる鉱物の類である。

 

「これはマラカイトの原石だ。以前に鉱区に忍び込んだ時拾ったんだ。ずっと加工しててさ……もうすぐ出来上がるから、この戦いが終わったらカガリにプレゼントしてやろうかと思って」

 

 サイーブは一瞬呆気にとられた。

 この悪ガキ代表の様な少年が、色気づいて宝石を加工してプレゼントにすることもそうだし、何よりその相手がサイーブの良く知るお転婆カガリときたものだ。

 これで驚かないわけがなかった。

 

 だがしかし。驚きはしながらも、決して悪い事ではないと、サイーブは思う。

 戦った先の出来事を見据えるなら、それこそ死にに行くような真似はしないだろう。

 タッシルを焼かれた時の様な、向こう見ずなアフメドではもうないのである。

 

「喜んでくれるかな、カガリ」

「あいつはお転婆だが結構な良いところの家の出だ。それの価値はすぐわかるだろうさ──喜ぶだろうよ」

「そっか、へへへ」

 

 もっとも、カガリからすれば物の価値より気持ちを汲んでくれるとは思うサイーブであったが、あえて言うのはやめた。それを伝えるなら本人からだろう。

 

「ちゃんと、自分の手で渡してやれよ」

「あぁ」

 

 穏やかな空気はそこまでであった。

 戦いを目前に控えた戦士の顔つきに変わった2人は、行く先を見つめる。

 そこでは、戦場に選んだ理由である地雷原が一網打尽にされた事を示す。

 

 黒い煙がもうもうと上がっていた。

 

 

 

 

 

 レセップスの艦上にて、対装甲散弾砲を構えた状態で佇むのはバスターである。

 その砲身が煙を吹いている事からも、射撃直後だという事がわかるだろう。

 

「ん~グレイト! こいつは気持ちが良いぜ」

 

 目の前で噴煙を上げる地雷地帯。

 バスターの狙撃砲が、明けの砂漠の地雷原を潰したのである。

 艦砲の射撃ではどうしても精度が落ちるだろう。地雷原を的確に潰しておきたいザフト側としてはバスターの性能はうってつけであった。

 

『さすがは最新鋭の機体だなぁ。精度も良いし見事な腕じゃないか』

「つっても、バスターの武装はビーム兵器も多いですからね。そちらが言うように、この砂漠の中じゃ本領は発揮できないですよ」

 

 出撃の前に、バルトフェルドから提言された宇宙戦と地上戦における大きな違い。

 それは当然ながら重力の有無もあるが、兵装に関してで言うのなら大気の存在が大きい。

 特にビームライフルが標準兵装であるXシリーズにおいては、大気によるビーム威力の減衰は目に見えて大きい。

 目には見えなくても、真空と空気には大きな違いがあるのである。

 ディアッカが言うように、Xシリーズは本領を発揮できる環境では無い。

 

『君達には艦上からの狙撃で迎撃に専念してもらいたいが、敵機接近時には自由行動を許可する。やって見たまえ』

「そいつはありがたいぜ。イザークも良いな?」

『しかしバルトフェルド隊長。こっちはバスターと違って艦上ではさらにできる事が限られます。砂上のOS調整も終えたところですし、できるならバスターとは違って打って出たい所なのですが?』

『君達が言うオレンジだったか? データも見ているしこのタイミングで出てくることも想定している。が、先日まで出てきてない事を考えるに、彼も砂漠戦は初めてだろう。そんなに脅威になるかね?』

『──彼? パイロットに会ったのですか?』

『ん? あぁ、すまんすまん。便宜上彼と呼んだだけだ、他意はない』

 

 先日の思い出が言葉の端に漏れ出ていたようで、慌ててバルトフェルドは誤魔化した。

 十中八九、データにあったオレンジのパイロットの正体はバルトフェルドと気が合った彼だろう。

 だが、確証も無しに明かせる話でもなかった。

 

「何だそう言う事かよ。オレンジのパイロットなら是非とも面を拝んでやりたい所だってのに」

『奴は恐らく足つきの戦力の中でも一番の手練れです。出てくるのなら間違いなく脅威になります』

『それを、君が抑えると?』

『奴との戦闘経験なら十分です』

『でも、負けの経験でしょう?』

『アイシャ』

『失礼』

 

 横やりの不躾な声にイザークがその表情を歪めるが、バルトフェルドが窘めたとあってはイザークも強く出れない。

 そんな行き場のない怒りを抱えてそうなイザークに、バルトフェルドは苦笑いを見せた。

 

『すまないね。悪気は……あるかもしれんが本気にしないでくれ。代わりにジュール君、オレンジが出てきた際には君に一任しよう』

『あ、ありがとうございます!』

 

 僅かに声が上擦った礼を受け取り、満足そうにバルトフェルドとの通信が切れる。

 

「おいおい大丈夫かイザーク。出てきたらオレンジとサシなんだぜ?」

『やって見せるさ。あいつだってそれをやったのだからな』

 

 あいつ……それは第8艦隊との戦いで見せたイージスとアストレイの戦闘におけるアスランの事を指しているのだろう。

 常日頃からライバル視している彼にとって、あの驚異的な戦いをみせるアストレイを1人で抑えたアスランの戦いは触発されるには充分であった。

 彼がやったのなら、自分がやらぬわけにはいかない。そう言う事である

 

「あぁ、そういうこと……まったくこの暑苦しい砂漠で余計に暑苦しい奴だなお前は」

『うるさい!』

 

 対抗意識に燃え上がるイザークを茶化すと、ディアッカは眼前に広がる砂漠を見つめる。

 

 ディアッカとて、アストレイには苦渋を舐めさせられてばかりだ。

 むしろ、クルーゼ隊の中では彼こそが一番の被害に遭っていると言って良い。

 その機体の特性上、艦防衛の最大の障害となるバスターは、タケルとアストレイからすれば正に目の仇にされる存在だ。仕方ないと言えば仕方ない。

 

 そんなこれまでの戦いにイザーク同様、鬱憤が溜まっているのは確かである。

 

「出てくるなら来いよ。今度こそ打ち抜いてやるぜ」

 

 地上で、大気圏内なら。あの異常とも言える機動性と回避も十全には発揮できないだろう。

 バスターもメイン火力となるビーム兵装が使えないのはあるが、PS装甲を持たないアストレイなら、実弾兵装が豊富にあるバスターが利するところだ。

 勝機は十分にあった。

 

 待ちわびる敵の影を探して、2人は砂漠を睨みつけ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ところ変わり。こちらはアークエンジェル艦内。

 ムウ、キラ、タケル。そしてカガリの4人はパイロットスーツがあるロッカールームへ来ていた。

 

「やれやれ、地雷原をあっさり看破か」

「これで本当に、レジスタンスでは力不足に成っちゃいましたね」

 

 先程の大きな衝撃。

 艦橋からの報告では、予定していた戦場に在った地雷原が一掃されたとの事で、明けの砂漠としては出鼻をくじかれたというところだろう。

 そしてタケルの言う通り、名実ともにレジスタンスにMSを打つ手が無くなってしまった事にもなる。

 

「力不足って言えば、この嬢ちゃんは良いのか? 昨日の訓練で疲れ切って戦えませんなんて言ったら、本末転倒だぞ」

 

 ムウが視線を向けるその先。すやすやとベンチで寝てるカガリがいた。

 寝たままのカガリをタケルがここまで連れてきたのである。

 昨日タケルが課した訓練でそれ程までに疲れているのか? ムウは訝しんだ。

 

「ご心配なく。日が変わる前に休ませましたし、寝る前に疲労を残さない様全身マッサージもしてあげました。シミュレーターで負担となる眼精疲労もケアしておきましたから目覚めた時には十分回復しています」

 

 当然だろうと言うように、述べてくるタケルに、ムウもキラも唖然とする。

 昨日の光景を思い出して、ムウは軽く表情を引き攣らせていた。

 

 タケルのカガリへの訓練は、それはもうひどいものであった。

 決して怒号が飛ぶわけでも、手が出るわけでも無いが、シミュレーションの設定がエグいのだ。

 敵戦闘機3機との武装無しドックファイト。つまりは回避のみで撃墜を狙わせたり、残弾1発のみで制限時間付きの撃破ミッションだったり、とにかく頭と精神を揺さぶる内容ばかりである。

 タケル曰く、どんな状況でも生き残る術を見出せる様に訓練させてるらしいのだが、クリアするまで延々と続ける様はまるで懲役に服している様だったと、その場にいたキラと意見が一致していた。

 さながらカガリはシミュレーターに放り込まれた囚人であったわけだ。

 

 今この場ですやすや寝てる事は、別におかしいことでは無い。

 

「お前って、いざやらせるってなったら徹頭徹尾で本当に全力だよな。昨日のシミュレーションも驚いたけどよ」

「当然でしょう。カガリの生き死にがかかってるんですから」

「あ、あはは……まぁ、タケルらしいよね」

 

 訓練がぶっ飛んでいるなら、アフターケアもぶっ飛んでいると言うべきだろう。

 身体の疲労ならまだしもシミュレーター特有の眼精疲労までケアしているとは、恐らく彼しかやるまい。

 とにもかくにも、タケルの言葉にカガリの体調が問題ない事がわかったムウは、気を取り直して真剣な表情へと変わった。

 

「さて、ブリーフィングだ。まず嬢ちゃんは待機。俺達だけで先に出撃し戦況を作る」

「異論はありません」

「僕もです」

「嬢ちゃんはまぁ、初陣だしな。隠し玉扱いだ」

「その方が助かりますよ、ホント」

 

 いくら訓練を見ようが、機体の調整を完璧にしておこうが、やはりタケルの不安は尽きないのだろう。

 できるだけ厳しくない状況でカガリを出撃させたいと思うのは当然であった。

 ムウやマリュー等の気遣いに、タケルは心底感謝した。

 

「んで、タケル。ジン・アストレイでの戦いはどのくらいいけそうだ?」

「かなりいい感じです。無理矢理の魔改造で操作性は最悪かもしれませんが、2機の合作ですしフルスペックで扱えればアストレイの時より戦えます。

 さすがに慣熟しきれてないですから、まだ以前の様には戦えないですが、武装も豊富になったので手段は増えました。ご期待には応えて見せますよ」

 

 流石に自身で魔改造の内容を取り纏めただけはある。

 機体への慣熟は足りなくとも、機体性能の把握なら十分なのだろう。正真正銘、ジン・アストレイの開発者だ。

 タケルの自信にあふれる答えに、ムウも満足そうな顔を見せる。

 

「ふっ、さすがだよお前さんは。ならキラと一緒に展開されるMS部隊を頼む」

「了解です」

「わかりました」

「俺は敵艦への攻撃やアークエンジェルの支援に回る。虎は、任せたぞ」

「はい」

「──はい」

 

 少しだけ、考え込むようにしてキラの返事が遅れるのを、タケルは見逃さなかった。

 戦闘を前に、明らかに何かを思い悩むような顔をしている。

 

「考えちゃだめだよ、キラ」

「──わかってるよ。でも」

「いつか分かり合える。僕はそう思ってる。でもそれは今じゃない……今は戦う時だ」

 

 互いに見知ってしまった。

 キラにとってもタケルにとっても、恐らくカガリにとっても。

 意外な出会いとなったバルトフェルドとの邂逅は、決して悪いものでは無かった。

 コーヒーをご馳走になり、つまらない話をして──そして戦争の終わりを話し合った。

 敵だとわかっていても、気さくに語らう事が出来たあの時間。あれは嘘ではないのだ。

 本当であれば、撃ち合う関係になどなりたくはないだろう。

 

 だが今、寄って立つ陣営がそれを許さない。

 キラとタケルはアークエンジェルに乗り砂漠を抜ける。

 バルトフェルドは、それを防ぎアークエンジェルを堕としに来る。

 それが、避けては通れぬ道なのである。

 

『フラガ少佐、ヤマト少尉、アマノ二尉、カガリ・アマノは搭乗機にてスタンバイ』

 

 キラが迷いを断ち切ろうとしている時、ミリアリアからの艦内アナウンスが流れ、3人の空気を引き締める。

 出撃準備のアナウンスだった。

 それと同時に、今まで眠りこけていたカガリが目を覚ます。

 起床のタイミングが完璧に過ぎる妹に、タケルは少しだけ笑いを零した。

 

「起きた? 目覚めは?」

「バッチリだ、兄様」

 

 強い声で返してくるカガリに、満足そうに頷くと、カガリ用のパイロットスーツを取り出して差し出す。

 

「それは良かった。それじゃ、僕達は先に行ってるよ」

「あぁ!」

 

 キラとムウを連れ立って、タケルはロッカールームを後にする。

 彼等を見送ったカガリは、意気揚々と自身のパイロットスーツへと袖を通すのだった。

 

 

 

 

 

『スカイグラスパー、フラガ機。発進位置へ。進路クリア。フラガ機発進、どうぞ!』

「ムウ・ラ・フラガ。出るぞ!」

 

 ランチャーストライカーを装備したムウのスカイグラスパーが飛び立っていく。

 続いてカタパルトにはキラが乗るストライクが運ばれた。

 

『ストライク、カタパルト接続。ストライカーパックはエールを装備します』

「本当にエールで良いのか坊主」

「バクゥ相手には、火力より機動性です」

「──わかった」

 

 マードックとのやり取りを終えて、エールストライカーを装備すると、ストライクもまた発進準備が完了する。

 

『システム、オールグリーン。ストライク発進、どうぞ!』

「キラ・ヤマト、行きます!」

 

 迷いを御しきれないキラもまた、熱砂の中へと飛び立っていく。

 

 

「って、何で私だけ待機なんだ!」

 

 続いてのジン・アストレイの出撃、となる前に格納庫ではカガリが不満げに声を荒げていた。

 意気揚々、やる気満々とパイロットスーツを着込んで格納庫まで来たのは良いものの、カガリにだけはまだ、出撃要請が降りていないのだ。

 直ぐに目の前にいる兄も発進し一人だけ取り残されるとなれば、彼女の不満も出るだろう。

 

「初陣でいきなり鉄火場に放り込むわけないでしょ。まずは戦況が読めてから」

「でもっ!」

「ラミアス少佐達からの命令だよ。約束──もう忘れた?」

 

 うぐ、っと言い淀むカガリにタケルから厳しい視線が向けられた。

 出撃する代わりに絶対と誓った約束事。勿論忘れるはずも無かった。

 

「忘れては、いないさ」

「なら大人しく待ってて。蚊帳の外にして置こうって言うわけじゃないんだ。ただ、いきなりきつい戦場には放り込めないって話」

「アマノ二尉、いけますぜ!」

「了解! いいね、カガリ」

「わかったよ」

 

 どこかぶっきらぼうに返すカガリの様子に苦笑して。タケルは踵を返すとジン・アストレイへと乗り込んだ。

 

『APU起動。カタパルト接続。システム、オールグリーン。アマノ機発進、どうぞ!』

「了解──ジン・アストレイ、出撃します!」

 

 カタパルトの加速を用いて放り出される、地球の砂漠。

 スラスターを稼働させ姿勢を制御しながら、タケルは戦場を見た。

 

「っと、さすがに地上は重力が重たいな……」

 

 俄かにぐらつくジン・アストレイの姿勢。

 重力に対抗するスラスターのバランス調整が少しだけ悪かったようで、タケルは即座に数値を修正。

 安定を取ったところで、タケルはセンサー類の情報を俯瞰。

 眼前で疾走しているバクゥの一機に狙いを定めた。

 

 少しだけ──タケルの口元が弧を描く。

 不謹慎ではあるが、ジン・アストレイの初陣。その性能がどこまで行くのかが楽しみなのだ。

 タケルは、いくつかの計器を見ながら機体を操作。

 

 フルブラスト──背部のバックパックと機体各所に増設した小型スラスターで本機最大の速度を持ってバクゥへと突撃していった。

 

「何だ──ジン? いや、こいつ!?」

 

 味方の識別信号もなく、戦場に現れた一風変わったジンの出現にバクゥに乗っていたパイロットが驚きながらも何かを察した。

 バクゥに一直線で向かってくるジンらしき機体。警戒などしてる場合ではなかった。

 バクゥの背に備えられたビーム砲から放たれる砲火。

 

 だがそれを、ジン・アストレイは紙一重で躱してそのまま突撃。

 バクゥのパイロットはその予想外の動きに面食らった。

 

「まず1機!」

「ばかなぁ!?」

 

 最大戦速を維持したままジン・アストレイは重斬刀をその速度に任せて振り抜く。

 ビーム兵装でなくとも十分な切れ味の重斬刀と、ジン・アストレイの速力。バクゥを真っ二つに切り裂く事など朝飯前である。

 あっさりとバクゥを1機撃墜してコクピット内でタケルが笑みを深めた瞬間。

 

「どわぁっ!?」

 

 そのスラスター推力に振り回されるように姿勢を崩し、砂上に不時着した。

 

「ん、悪くない……推進力だけならエール装備のストライク並だね──っと、その分機体のバランスは崩壊してるけど」

 

 昨日に試運転はしていたが、フル稼働は今が初めて。少々無茶な動きだったが今ので最大稼働時の挙動もうっすらとつかめた。

 次の標的へとセンサー情報を確認しながら、タケルは新たなバクゥへと狙いを定める。

 

「難しいだけなら、乗りこなして見せるさ!」

 

 難しいが無茶ではない。乗りこなせれば十二分に戦えるとなれば迷う必要はなかった。

 一つ一つの動作をこなす度、パズルのピースがはまっていくようにタケルはジン・アストレイの挙動を掴んでいく。

 

 僅かな間に動きを進化させていくタケルは、砂漠の戦場を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

「なんだありゃあ」

「ジン? いや、違う?」

 

 戦場にアークエンジェルが現れ、艦載機である戦闘機とストライクが現れたところまでは特に問題もなく戦況が伝えられていたが、最後に出てきたジンらしき機体に、イザークもディアッカも驚きを隠せなかった。

 それはバルトフェルドとて同じであったが、彼だけは光学カメラで捉えられたジン・アストレイの姿に一人声を挙げて笑っていた。

 

「これはまた、面白い事をしてくれる──確かに、彼はパイロットではなかったようだね」

「アンディ? あれをあの子が?」

「だと思うよ。あの動きでパイロットじゃないとも思えなかったし、ストライクのパイロットがもう一人の少年だって話だったからな」

 

 クルーゼ隊がもたらしたアークエンジェルの戦力情報。

 その中で唯一バルトフェルドが確認できていなかった、オレンジが目立つ機体。

 それがまさか、このような形で出てくるとは思ってもみなかった。

 識別用に白く染められたジンの各所に、ジンとは全く別系統の機体の部分が見られる。

 そしてそれが件のオレンジの機体の物だともすぐに見て取れた。

 バルトフェルドの脳裏に、無邪気な顔でジンとオレンジの機体を弄繰り回しているタケルの姿が思い描かれていた。

 

「データで見たオレンジのパイロット。MSの技師でありながらパイロットであるなら、その強さも納得がいくというものだ」

 

 機体の能力。その全てを理解しているからこその高い戦闘力。

 自分が操縦するために仕上げた機体は正に100%の専用機と言えるだろう。機体とパイロットの相性に一分のズレもないのだ。

 謎のジンが瞬く間にバクゥを仕留めた姿を見て、バルトフェルドは感嘆を禁じえなかった。

 

「見事な機体にしてきたものだよ、全く」

「──辛いわね、アンディ」

「む?」

「今のアンディ、とっても嬉しそうですもの」

 

 先日の短い時間では見られなかった、気の合う友人の新たな一面。

 それが垣間見えたことが自然とバルトフェルドの雰囲気を明るく楽しいものにさせていた。

 そんな彼の心情を察して、アイシャは少しだけ悲しみを乗せた声音で呟く。

 

 今2人がいる場所は、バルトフェルド専用の機体のコクピットの中。

 バクゥを改良した複座式の指揮官機である。

 そして今から2人は、彼等と命のやり取りをしなくてはならないのだ。

 互いを知り、気の合う友人になれそうな少年達と。何の因果か、銃口を向け合う。

 揚々とした声の裏にあるバルトフェルドの悲しみを、アイシャは察したのだ。

 

「──これが戦争というものだ。行こうか、アイシャ」

「えぇ」

「バルトフェルドだ! ラゴウ、出るぞ!」

 

 それ以上は、2人ともが語る言葉を持たなかった。

 バルトフェルドの声と共に、黄色い一回り大きなバクゥタイプのMSラゴウが出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルと艦載機の出撃によって、戦況は連合側に有利に傾いていた。

 MSにこそ対抗できる手段を持たない明けの砂漠であるが、だからこそアークエンジェルを狙う戦闘ヘリや車両に攻撃を集中。

 マリュー達はザフト軍艦船やMS部隊に集中する事ができていた。

 ストライクとジン・アストレイが機動力の高いバクゥを引き付けている今、新造艦のアークエンジェルはその迎撃能力も攻撃力も他の艦船とは一線を画す。

 

 更にはムウが駆るスカイグラスパーの存在も大きい。

 流石はエンデュミオンの鷹と言ったところだ。ザフト艦の艦上に配置されたザウート等砲戦MSの迎撃をものともせず、ランチャーストライカーのアグニで撃破していく。

 

「うぉおお!!」

 

 今もまた1機、アグニがザウートを貫き、そのままザフト艦ピートリーにも損傷を齎した。

 

「ピートリ―、機関区被弾。速力50%にダウン!」

「なんて強力な砲だ……まもなくヘンリーカーターが配置につく。持ち堪えろ!」

 

 レセップスを預かるダコスタは、必死に作戦の成功を信じてその場を持たせるべく指示を出していく。

 そんな彼の願いに応えるように、突如戦場に新たな艦影が出現。ザフト艦、ヘンリーカーターはアークエンジェルの背後をついた。

 放たれた艦載砲が直撃し、アークエンジェルが揺れる。

 

「被弾!? どこから!」

「6時の方向に艦影! 敵艦です!」

「なんですって!?」

「もう1隻、伏せていたのか!」

「艦砲、直撃コース!」

「躱して!」

「撃ち落とせ!」

 

 続く艦砲の知らせに、慌てて指示対応が飛び交うが距離が近く迎撃も回避も間に合わない。

 アークエンジェルは立て続けの被弾で、艦の姿勢を崩され、近くにあったタルパディア工場区跡地へと不時着してしまう。

 動きを止めてしまえば、更に狙い撃ちとなる。艦の迎撃機能だけでは間に合わないだろう。

 

「艦長!」

「わかってるわ。潜んでいた敵が出てきたのなら、向こうの隠し玉は無いとみて良い──ハウ二等兵、カガリさんに出撃要請を!」

「了解!」

 

 

 

 

 

『スカイグラスパー、アマノ機、出撃準備』

 

 スカイグラスパーのコクピット内で戦況を見続けていたカガリは、ミリアリアの通信を受け気を引き締めた。

 いくら自ら戦う事を決めたとて、戦場に出るのは初めて。ミリアリアの通信で自身の心臓が早くなったのを感じていた。

 

 だが、初めての実戦と言うのなら。

 兄はなし崩し的に起きたヘリオポリスの襲撃において自身を共に機体に乗せたまま、更には武装も無しにアストレイでジンを撃破して見せた。

 決心の時間も、十分な武装も備えられ、更には兄が自身の為に調整までしてくれた機体に乗っている。

 これ以上のお膳立ては無い────カガリは、湧き上がる恐怖心を兄への信頼で飲み込んだ。

 

『カタパルト接続。進路クリア、タイミングをパイロットに譲渡します』

『カガリさん、6時の方向で新手よ。少佐達がレセップスに掛かり切りな今、貴方の力が必要です』

「わかった。任せてくれ」

 

 心臓は変わらず早かったが、声は震えなかった。カガリはそれが、恐怖を乗り越えた先にある戦場に向けた高揚感であると感じた。

 苦しい戦況。兄が必死に戦う戦場へ、自らの力で助けになれると言うのなら。

 

 オーブの獅子の娘、カガリ・ユラ・アスハに、迷いはない。

 

『──絶対に、無理だけはしないで』

「それもわかっている。兄様を泣かせたくないからな」

 

 マリューの声にも努めて平静に返して、カガリは一度深呼吸をした。

 目を閉じ集中を高め──再び彼女の目が開かれた時、彼女の瞳は目の前にかすかに見える戦場を映す。

 

「カガリ・アマノ。スカイグラスパー、行くぞ!」

 

 カタパルトによる強烈なGを感じながら、カガリ・ユラ・アスハは初めての戦場へと飛び出した。

 

 

 




いかがでしたか。
本当に久しぶり。満を辞しての主人公の戦闘でした。
まぁまだ前哨戦ですが、、、むしろ今回のメインはカガリ出撃ですかね。

感想是非是非お願いします。


あと読者の皆さんが持つ主人公のイメージカラーをアンケで教えてください。
候補以外があれば感想にでも。
よろしくお願いします

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