機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ちょっとしたキャラの心情とかをかたる一幕。



幕間 揺れる思い

戦艦アークエンジェルの一室。

 居住区画として割り当てられた、軍艦らしい簡易ベッドが狭く並んでるだけの部屋であるが、そこの一室にキラとのその友人たちは押し込まれていた。

 自分に宛がわれた簡易ベッドで、軽く横になっておいた方が良いとタケルより助言を受けたキラは、言われた通り横になっていた。

 

 考えるのは、自分達を守る義務があるといって共に乗り込むことになったタケルの事。

 キラと同様、戦闘だってこなしているし同じように疲れてるはずなのに、ハンガーの方に向かいMS開発者の一人としてできることをやっているらしい。

 キラとて、カレッジにいたときは教授のせいで散々に兵器関連のプログラミングを組んでいた。

 戦闘中におけるOSの再構築の話にタケルも驚愕していたし、キラにもできる事はあるはずだ。

 だが、こうして簡易ベッドで横になる以外に何かをやろうとは思わなかった。

 

 そんなキラの気配を察してか、友人たちは家族の心配やどうしてこんなことになっただろうと言った雑談にいそしみ、待つだけの無駄な時間が過ぎているように思えた。

 

「ねぇ、キラ……大丈夫?」

 

 友人の1人、ミリアリア・ハゥが気遣うように声をかける。

 寝ているわけではないが、彼らと共に雑談をするわけでもない。戦闘に出たことが、キラに重くのしかかっているのではないかと、ミリアリアは心配をしてくれているらしい。

 それはミリアリアのボーイフレンドであるトールも一緒であった。

 キラにとっては親友と呼んでいい気さくな友人である。

 

 親友──思い返してズキリと胸が痛んだ。

 

 痛む、と言うよりは重くなったと言う方が正しいだろうか。

 あの工廠で邂逅した、ザフトのパイロットスーツを着た少年。

 ヘルメット越しでわかりにくかったが、その他の情報からは彼の気配がしていた。

 アスラン・ザラ……幼少の頃を共に過ごしていた、大切な友であった。

 

「おーい、キーラ?」

「おわぁ!?」

 

 ベッドの上段にいたキラの顔の目の前に急にトールの顔が現れる。

 思わず素っ頓狂な声を上げて壁際へとキラは退いた。

 

「ミリィが心配して声かけてんのに、無視すんなよー」

「あ、あぁ……ゴメン。ミリアリア」

「別に良いけど、気が付かなかったって事はやっぱり疲れてるんじゃないの? 少し寝ておいたら」

「いや、横にはなってるし、休憩自体はできてるから。むしろ寝たら嫌な夢でも見ちゃいそうで……」

「まぁなー……戦闘なんてでたら、そうもなるよなー」

「そういえばキラ、ありがとな」

「えっ? ありがとうって、サイ何が……」

 

 サイの突然のお礼に、キラは戸惑うがそれにこたえるのはトールだった。

 

「キラが最初にストライク乗った時。多分キラがいなかったら俺達あのジンって奴のせいで死んでたんだぜ」

「あぁ、俺達も必死で逃げてたけど息も絶え絶えで……背後からはどんどん爆発音が迫ってきてて、生きた心地がしなかった」

「ホントホント。冗談じゃなく死ぬかと思ってたもん」

「だから、ありがとう……キラ」

 

 トールもサイも。ミリアリアもカズイも、優しい眼差しでキラを見つめていた。

 

「急にお礼を言われても……確かに皆が巻き込まれると思って、必死でやったけど……たまたま上手くいっただけで」

「全くお前って奴は、地球軍の最新鋭機を意のままに操ったっていうのに……たまたまだぁ? たまたまだろうが何だろうがもっと誇らしそうにしろってんだよ。おりゃ!!」

「いたっ!? い、痛いってトール。ぎ、ギブギブ! 締まってる!?」

 

 トールに締め上げられるキラを見て、軽快な笑いが友人たちを包んだ。

 穏やかな空気であった。とても、戦艦の中とは思えない。仲の良い友人たちの、何の変哲もないやり取りである。

 

「あのアマノさんが乗った以上……もう、お前がアレに乗る必要も無いんだよな?」

「それは……サイ、僕にもわからないよ」

「また、乗りたいのか?」

「それは、嫌だけど……ストライクのOS、多分他の人には動かせないと思うし」

「戦闘……あるとは言ってたもんなぁ。でもその時は俺達がキラは乗らないって断ってやるぜ。あんまり心配するなよ」

「ありがとう、トール」

 

 友人たちの言葉がキラは嬉しかった。

 心配をして気遣ってくれて、励ましてくれて。

 だが、そんな友人だからこそ、好意を受ければ受ける程、キラの中である想いが募っていく。

 

 “妹が乗るこの艦……落とさせるわけがないです”

 

 あの時タケルが言い切った言葉が、キラの胸の中で反芻していた。

 タケルにとってカガリは、命を懸けて守りたいものなのだろうと感じた。

 ストライクは、自分にしかまともに動かせないだろう。

 あの戦闘の時は無我夢中ではあったが、自分が動かすことを想定して構築したOSだ。

 キラ専用ともいえるOS調整をされた機体に、他の人間が乗ってまともに動かせるわけがない。

 自分が戦う事を拒めば、ストライクは無用の長物になる。

 それは巡り巡って、この大切な友人達を命の危機に陥れる事に繋がる。

 

 それで本当に良いのか? 

 

 自問自答がキラの頭を何度もよぎった。

 

 戦いたくなどなかった。争いは元々好きじゃなかった。

 ナチュラルだのコーディネーターだのと分けて観る連中が……世界が大嫌いだった。

 そう考えると、あのカガリという少女の言葉は胸がすく思いになったと思う。

 

 自身の目の前にいる友人たちは皆ナチュラルである。

 それでも、何の分け隔てもなくコーディネーターであるキラの良き理解者で居てくれている。

 コーディネーターなのに気の弱い自分を、守ろうとしてくれている。

 

 ──失いたくない。

 答えは、自ずと湧いてきた。

 

 

「心配してくれてありがとうトール。

 だけど、僕やる事が出来たからいくよ」

 

 やる事ってなんだよ? 

 問いかけてくる友人たちの声を背に受けながら、キラは振り向いて返した。

 

「皆を守るのは、僕にしかできない事だから」

 

 その意味を理解して慌てふためく友人たちを置いて、キラは駆け出した。

 目指すは、ストライクが置かれてるMSハンガー。

 

 後に最強と称されるパイロットが、戦う事を決めた時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ナタル・バジルールは、僅かではあるが不機嫌の渦中にいた。

 何故か、と問われれば彼女は怒ってなどいないと的の外れた答えをするだろう。

 そのくらい……本人にもその認識がないくらい微妙な度合いで、彼女の機嫌は悪かった。

 

 資材を搬入しているアークエンジェルの格納庫で、リストのチェック等をしているナタルであったが、不意に飛び込んでくる声が彼女の微妙だった不機嫌をさらけ出す。

 

「バジルール少尉。ストライクの武装パック。積み込みが終わったようです。次の予定はできる限り整備用の資材を搬入するとの事ですが、置き場が厳しいです。緊急事態ですし、ある程度はあきらめる必要があるかと──」

「アマノ二尉」

「はい、なんですか?」

「なぜそうも普通に、機密に関わる部分で手伝いに関わっているのですか。確かに貴方の手際は良いですしスムーズに資材の搬入も済んでいますが、もう少しご自分の立場を──」

「おーい、タケルー。ちょっと俺の機体が動かせるかお前も見てくれないかー!」

「あっ、了解です。フラガ大尉! 今行きます! 

 すいませんバジルール少尉。資材の搬入場所と量の検討をお願いします」

「あっ、待て、まだ話は……」

 

 走り去っていくタケル。

 自分の作業もある以上、わざわざ追いかけて詰め寄ってる暇もない。ナタルは先程より不機嫌さを増して格納庫の指揮に奔走した。

 

 マリューの言い分は良くわかる。戦力が必要な事は重々承知だ。理解して納得もした。

 だがそれはあくまで戦闘に関わる所での話であろう。

 好き勝手に艦内を走らせて、右へ左へと艦内の作業に奔走する他国の軍人などあっていいのだろうか──いいや、無い! 

 

 軍人としての規律を重んじるナタルにとって、タケルの、ある種奔放な振る舞いは許せないものであった。

 

 だが……ナタル自身憤りを感じているはずなのに、不思議と本気で怒る事は出来なかった。

 本当に本気で許せないなら、ここは地球連合の艦内で、命令として独房に入れることだってできる。

 だが、タケルの行動は一貫してこの艦の為にできる事を最大限にしている。ただそれだけ。

 艦を守るために奔走している彼を邪険にできようはずもない。

 それに──

 

「(あの人当たりの良さがどうにも怒る気力を削いでくる)」

 

 これがナタルが不機嫌になる要因であった。

 本当なら怒りたい。だがどうにもそれをさせてくれない要素をタケルが持っているのだ。

 彼の行動や想いを理解できるが故に、自身の信念とは相反する行動を容認してしまう。

 

「(ええぃ、何を惑っている! 今は艦の事だけ考えていれば良い!)」

 

 溜まるフラストレーションを卸きり、ナタルは再び自らの責務に没頭する。

 作業が一通り終わるころには、メビウス・ゼロが置かれている場所から聞こえる声も、いつしか耳障りではなくなっていた……

 

 

 

 

 

 

 頭が痛い……その言葉を飲み込んで氷嚢を再び当てなおす。

 アークエンジェルの医務室に世話になっているのは、タケルの拳骨によって激痛の種を頭に産み落とされたカガリ・ユラ・アスハその人であった。

 

 確かに軽率であっただろう。

 己の出自が割れれば、父にも国にも迷惑がかかる。

 ましてや自分は、国の理念を否定したくなくてこのコロニーまで飛んできたというのに。

 自身の存在が公になる事で、その理念を崩す一端となってしまう事にまで考えが及ばなかった。

 浅はかであった自分をひたすらに恥じる想いであった。

 

 だが……それにしてもである。

 自ら瘤をつくった上でそこに追撃を加えるのはあんまりではないかと。兄の所業に怒りを覚えるのも仕方が無い事ではないだろうか。

 

 怒りで頭に血が上るだけでまたも痛みが増してくる。

 落ち着け、冷静になれと頭が命令しても、痛みがまるで言う事を聞いてくれない。

 痛みを忘れる必要がある……と、カガリは思考を巡らせた。

 思い返すのは先の一幕であった。

 

 “カガリは人一倍コーディネーターとナチュラルの差別を忌み嫌っています”

 

「知ってた……のだな。私の想いを……」

 

 見透かされた様な気持ちであった……というよりは見透かされていたのだろう。

 

 だが、それが何とも言えぬ心地の良い事実であった。

 普段こそ素直になれずそっけない態度となってしまうが、カガリはタケルを心底敬愛していた。

 自慢の兄であり、最愛の兄である。

 その兄が、良く良く自分の事を理解してくれているのだ。これ程嬉しい事はない。

 

 

 幼少の頃、カガリはタケルが大が付くほどに嫌いだった。

 何をしても、何をやらせても簡単にこなす。ウズミは良く褒めていたものだった。

 対して自分はどうだろうか。

 工学系に限らず頭の良いタケルに対して、カガリはお世辞にも良い方とは言えなかった。そもそも、勉強は嫌いであった。

 細かい事は面倒で、女の子らしくないと言われるのはしょっちゅうだった。

 運動神経は良かったがそれもタケルとは比較にならない。

 

 比べられることを嫌った。同じことができない事が嫌だった。

 自分がナチュラルで、タケルがコーディネーターであることを呪った。

 

 そんな幼少時代の事である。

 幼年学校の帰り、カガリはうずくまる男の子を見つけた。

 涙を流しながら、ボロボロになった自分のカバンを抱いたタケルであった。

 事情を聞けばなんてことはない。ただの虐めだった……それも低俗な。

 運動神経も抜群であったタケルに直接手を出す勇気が無いために、タケルが離れた隙を狙って私物を壊す。

 下らない……本当に下らない、憂さ晴らしの様な虐めだ。

 だが、今程成長していない幼いタケルにとっては途轍もない苦痛だったのだろう。

 ボロボロ涙を流すタケルがみっともなくて、カガリはその手を取って、幼年学校へと引き返した。

 犯人は直ぐに見つかった。自慢げに友人達と己の所業を吹聴しているものだから簡単だった。

 カガリは無言でそいつらに拳をくれてやり、泣こうが喚こうが引っ叩いた。

 

『コーディネーターなんかの為にバカなんじゃねえのか!?』

『黙れ! 卑怯な事しかできないお前達なんかより、泣いて我慢する兄様の方がずっとマシだ!!』

 

 獅子の子は吠えた。何人の男子に囲まれても決して怯む事は無く、虐めた連中を糾弾し続けた。

 幼少の時分など男女の隔ては無い。殴れば当然殴り返される。

 徐々に傷を増やしていくカガリを見て、もう一人の獅子の子も吠えるのだった。

 結局、2人して傷だらけになりながらも虐めっ子を全員のしたのだ。

 

『カガリ、僕なんかの為になんであんなに怒ったの?』

『別に──私よりなんでもできるくせに、あんな卑怯者たちに泣かされてる兄様が我慢ならなかっただけだ!』

 

 その日初めて、カガリはタケルと仲良く帰宅した。

 

 

 あの日からだった。

 コーディネーターとナチュラル。その差別をしないようにしたのは。

 コーディネーターで、自分よりも何でもできると思っていた兄が、情けなく涙を流し俯いていたのを見たから……カガリは人間にナチュラルもコーディネーターもないと認識した。

 あるのはただ……ヒト。

 

「流石、だな……兄様は。私なんかよりずっと……父様の子としてしっかりしてる」

 

 長い思い出に浸っている内に、頭の痛みはいつの間にか引いていた。

 痛みが引くと、途端に手持ち無沙汰になってくる気がした。

 タケルからは余計な事はしないで大人しくしててくれと頼まれた手前、何かを手伝いに行くのもダメだろう。下手な事をしてまた兄に迷惑をかけたくもない。

 だが、昔の思い出に浸ったせいか、どうにも話し相手が欲しかった。

 

「そういえば、キラ達はどうしてるんだろう……さがして、みるか」

 

 どうせ何もする事は無い。話し相手を探して回るくらいは、大人しくしている内に入るのではないか? 

 そんな都合の良い解釈をして、医務室を出たカガリはアークエンジェルの艦内を歩き始めた。

 

 頭の痛みは、もう気にもならなくなっていたのだった……

 

 

 




いかがでしたか。
キラの決意が早いのは、タケルがとカガリが良い刺激となった。
そんな感じです。
ザフトSideも少し書かないといけませんね

それでは感想お待ちしております。

お楽しみいただければ幸いです

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