機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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※注意
このお話には多分なネタ要素が含まれております。
キャラと本作の雰囲気を大きく壊す可能性がありますので、嫌な人は読まずにブラウザバックをしましょう。

作者は何らかの変な電波をキャッチしました。


幕間 決戦の果て

 

 

 砂漠の決戦を制したアークエンジェルと、レジスタンス明けの砂漠。

 

 砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドが討たれ、バナディーヤに駐屯していたザフトはジブラルタル基地へと撤退し、砂漠の民は今大きな歓喜に包まれていた。

 

 もちろんこれは共同戦線を取ったアークエンジェルにとっても嬉しい事である。

 砂漠を抜けるまでの安全が確保され、更にバナディーヤを伝手に整備と補給もある程度は受けられる。

 ついでに、撤退したザフトが置いて行った機材なんかも接収できたりと、アラスカへ向かう上で助かる事が多かった。

 

 

 何はともあれ、戦勝したのである。

 そうなればやる事はただ一つ。

 

 

 祝宴である。

 

 

 

 

「砂漠の夜明けに!」

「勝ち取った、未来に!」

「じゃあ、そういうことで……」

 

「乾杯!!」

 

 

 普段使いしているコーヒーのカップなどではない。

 取手を握りしめる形で手に持つ大ジョッキに並々と注がれたエール。

 周囲でも声が挙がる中、サイーブ、マリュー、ムウにナタルの4人は乾杯の音頭と共にジョッキに注がれたエールを飲み下していく。

 

「ぷはー!」

「かー、良い飲みっぷりだぜ艦長さん!」

「ふぃー、染みるねぇ」

「ごほっごほっ──うぅ」

 

 一息に飲みほしたマリューに感嘆するサイーブと、疲れた身体と戦いに荒んだ心を癒す酒精の味に染み入るムウ。

 そして残念ながらこの場が最も恐ろしく感じている下戸(お酒飲めない人)のナタルは、周りに合わせて飲んだエールにむせかえっていた。

 

「ん? 副長、無理すんなよ」

「お気になさらず少佐。付き合いの1杯くらいは──」

「強がるねぇ……その様子じゃ全然飲めない口だろ?」

「──自己管理くらいはできます」

「ん、そうかい。

 それにしても、あんた達もまだ大変だな。虎がいなくなった所で、ザフトは居なくなったわけじゃない。連中は鉱山が欲しいんだろ? すぐ次が来るぜ」

「その時はまた、戦う。戦い続けるさ! 俺達は、俺達を虐げようとする奴らとな」

 

 祝宴の空気すら吹き飛ばす、強い眼差しと気配。

 今回の戦いで明けの砂漠は、正規軍と戦う厳しさと辛さを大いに知っただろう。

 いくらアークエンジェルがMSや敵艦を引き受けようとも、今日の戦いで出た犠牲は多かった。

 だが、それを乗り越えて戦った経験は、彼等を勝利に浮かせるのではなく、勝つための戦いを考えさせる一助となるだろう。

 勝利以上に、今日の戦いには意味があった。

 

「父さん、長老が戦士を送る祈りをするって」

「ん? わかった、すぐ行く」

 

 息子のヤルーに呼ばれ、サイーブは指令所を出ていく。

 マリュー達も習い、明けの砂漠の面々が集う場所へと赴いた。

 

 

 

 簡素な墓の前で、空砲を上げ、砂漠の民は祈った。

 土へと還った同胞達を。皆の未来の為に勇敢に戦った戦士達を。

 

 長老が、犠牲となった者達の名を呼び上げる間、彼等は黙祷を捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな祈りが捧げられている頃。

 キラ・ヤマトは岩肌の高台で1人空を見て佇んでいた。

 

 未だ戦闘の熱が胸の内で燻っている。

 御しきれない想いが、心の中で渦巻いていた。

 

「キラ、探したよ」

「タケル……」

 

 キラを探して歩きまわっていたのだろう、やや疲れた様子で向かってきたタケルを見止めて、キラは少し申し訳なさを感じた。

 多分、タケルの事だからキラが思い悩んでいる事に気づいてるんだろうと、なんとなくわかって、それがまた少し嬉しかった。

 

「はい、コレ」

「これって、お酒じゃない?」

「堅い事言わない。ちょっとだけだし、こういうのに頼るのもありだよ」

「えぇ……良いの? カガリに叱られない?」

「カガリが余計な心配かけたせいだって言うから大丈夫」

「ぷっ、はは、なにそれ」

 

 押し黙るカガリの顔が少しだけ思い浮かび、キラは小さく噴き出した。

 やっぱり、タケルとのやり取りはどこか気持ちを軽くさせてくれる。

 それが意図してか意図せずかはわからないが、今のキラにはタケルが近くに居てくれることが心強かった。

 

「──バルトフェルドさんを、討ったんだ」

「そうだね。ザフトの名高いエースだから大金星だよ」

「そんな風には、思えないかな」

「知ってる。僕もそうだし」

 

 沈黙が流れた。

 強敵を打ち破り浮かれる──それは仕方ない事だろう。

 誰だって目の前に現れた高い壁を打ち破れたのなら喜びは一入。勝利に浮かされるのは当たり前である。

 そんな彼等の喜びを否定する気にはなれなくて、キラはここで一人となっていた。

 だから、自分と同じ思いを共有できる存在がいる事が嬉しかった。

 

「おもしろい、人だったなぁ」

「そう、だね」

「普通ケバブのソースで喧嘩する? あの時点で僕、この人バカだって思ったよ」

「タケル、それ言いすぎだよ。そんなこと言ったら、慣れない強がりでアイシャさんに屈服したタケルだって」

「ちょおっと!! それ言わないでくれるかな? あれは不可抗力なんだよ! っていうか負けてないから!」

「──善処、します。だっけ?」

 

 キラの言葉に声にならない叫びを挙げながら、何かに耐えるように身体を震わせるタケル。

 確かに己の中でもワースト1位に入るくらい情けない姿だったかもしれないが、それをこうして掘り返されると筆舌に尽くしがたい羞恥に襲われる。

 タケルは息も絶え絶えで、動揺する心を必死に押し殺した。

 

 

「ずるいよね、あぁやって自分から死ぬことを選んでさ」

 

 次にタケルから発せられた言葉には、涙が乗せられていた。

 

「うん。お互いにどんな人か知ってしまったから、尚更ね」

「良い友達になれると思ったのになぁ」

「そう、だよね」

 

 タケルの声は、もはや涙声であることを隠していなかった。

 隣で涙声になるのはずるいだろう、とキラは思った。

 傷心の最中でそんな声を出されてはつられて涙腺が緩む。

 じわりと滲んでくる涙をこぼさぬようにキラは必死に耐えていた。

 

「キラ。これ……一息に飲もう」

「え?」

「一息に飲んで、全部飲み下そう」

「そっか、良いねそれ。うん、飲み干そう」

 

 一息で全部。それはジョッキに注がれてるエールの事だけではないとキラは察した。

 酒精に頼って、胸に燻る想いも全て飲み下そうと言うのだ。

 前を見る為に。先へ進むために。

 タケルの提案を受け入れ、キラはジョッキを軽くぶつけた。

 

「それじゃ」

「乾杯──いや献杯?」

「どっちでも良いよそんなの。せーの」

 

 どちらからともなく、ジョッキに口をつけ味わう事無く喉へと流し込む。

 慣れない、と言うより知らない味である。

 苦さと共に感じたことのない熱が喉を焼いていく気がした。

 

「ぷはっ!」

「はぁー! うぇ、にっが……」

「そういえば苦いの嫌いって言ってたくせになんで持って来たんだよ」

「これは失敗だったね……でも、それこそこれで苦いものを全部飲み下したよ」

「うん」

 

 苦々しく残る燻る想いを、全部飲み下した。

 切り替えよう──タケルがそう言ってる気がして、キラもまた意識して気持ちを切り替えた。

 

 落ち着いて、だが少し熱に浮かされた様に2人は笑い合った。

 

 

 

 

 

 そんな2人を、別の高台から双眼鏡で遠巻きに見つめる一人の女性がいた。

 

「あらあら、全く可愛い坊やね。私よりもアンディの為に泣いてくれちゃって」

 

 双眼鏡から見える2人の少年。

 その悲し気な表情と、零れる涙。そして、それを呑み下して見せる小さな笑み。

 

「良い顔つきになったわね。

 待っててね坊や。またいつか会う時まで……その時はまた、坊や達を泣かせてあげるわ」

 

 傍らにあったバギーに乗って、女性は颯爽と夜の砂漠を駆けだした。

 相変わらず、夜の砂漠は少し冷たかった。

 

 

 

 

 

「おっ、やっと見つけたぞ2人とも!」

「なんでこんなところに居んだよ」

 

 キラとタケルの2人に背後から声がかかった。

 そこに居たのはジョッキ片手に意気揚々なカガリとアフメドの姿があった。

 アフメドはともかくとして、カガリは恐らく周囲の空気に当てられたのだろう。

 キラとタケルの様に、酒を片手に等と言うわけでもないのにやたらと陽気な気配が見えた。

 

 その証拠に、カガリはアフメドと肩を組んでいるのだ。

 

 キラは瞬間的にタケルがジョッキを持つ手を掴んで抑えた。

 

「放せキラ。これで殴らないと奴を殺せない」

「口調もキャラもおかしくなってるし3段飛びぐらいで凶行に走らないでくれるかな!?」

「散弾飛び? なるほどその手が」

「取り違えるにも程があるよ!?」

 

 絶賛暴走中のタケルを必死に取り合さえるキラの苦労などなんのその。

 カガリはアフメドと顔を寄せ笑い合っているではないか。

 カガリとて初陣で敵艦に損傷を与え、更にはアークエンジェルの危機を救い戦況を決める一手となった。

 その初陣とは思えぬ戦果に、隠し切れない喜びが溢れているのも仕方のない所だ。

 

「全く、兄様もキラもどうしたって言うんだ? こんな所で2人だけで」

「カガリ、俺達だって2人でウロウロしてただろ?」

「あ~それもそうだな」

 

 カガリとアフメドへと向き合いながら、その背に必死にタケルを抑え込むキラ。その背後で殺意が膨れ上がる。

 何故そうも簡単に地雷を踏み抜くのか。キラには理解できなかった。

 いや、そもそも彼等は……正確には彼だけだが絶賛地雷原の上でタップダンスしている事に欠片も気が付いていないのだろう。

 何故自分がこんな苦労をと思うキラだったが──

 

「(それでも、守りたい青春があるんだ!)」

 

 目の前で恐らく意中の少女へと嬉しそうな笑顔を見せる少年の幸せな時間。キラは守ってやりたかった。

 

「あ、そうだカガリ」

「ん? なんだ、アフメド」

 

 先程から打って変わって、神妙そうな表情へと変わるアフメド。

 キラはその瞬間、危険度が増すのを感じた。

 

「実はさ、お前にプレ──」

「ごめん、2人とも! ちょっと僕達間違ってお酒飲んじゃって頭痛いから先休んでるね!」

 

 タケルの手を掴んだ瞬間、キラはその細い体のどこにそんな力がと思うような勢いで岩肌を駆け下りていった。

 

「な、なんだったんだ……キラに、兄様も。っていうか、お酒飲むんなら私も混ぜろよな……ずるいだろう2人だけで」

「な、なぁカガリ!」

「あっ、あぁごめんアフメド。それで私になんだって?」

 

 屈託なく笑顔を向けてくるカガリに、アフメドは1つ深呼吸。

 ポケットに忍ばせていた、1つの大きな宝石を取り出した。

 

「これ、マラカイトの原石を拾って俺が加工したんだ……お前にやるよ」

 

 何故か先程まであんなに親しげだったと言うのに、いざ大事なプレゼントを渡すとなると、なぜかぶっきらぼうになってしまう。

 そんなまだまだ未成熟な少年の、ささやかな勇気の結晶であった。

 

「マラカイトって……こんな大きいの初めてみたぞ。こんな、本当に良いのか?」

「バナディーヤでも言ったけど、俺ブランドとかわかんねえし、ただ父ちゃんたちもやっぱり結婚するときは宝石だのなんだのってプレゼントしてたらしいからな。だから俺も」

「うぇ!? ええっ、アフメド……それって……」

 

 少年は気づいていない。

 結婚して彼を生んだ両親の、その軌跡をなぞるプレゼントを渡す意味。

 カガリはその意味を察して、己に向けられた異性からの恋慕。否それはもはや好きと告げる告白などではなくプロポーズと誤認をして、顔を赤く染めた。

 

 兄の事を、色恋の1つも無いとバカにする彼女だが、その兄のせいで彼女にもそんな機会がなかったことは火を見るより明らかだろう。

 

 突然のアフメドからの告白にカガリは夜でも分かるほど顔を朱に染めながら混乱していた。

 

「あ、アフメド! こういうのは普通、もう少しお付き合いとか重ねてからだと思うぞ……」

「お付き合い? あっ、い、いや! 違うんだカガリ! これはそこまでのつもりじゃなくて、単純にお前に喜んで欲しくて!」

 

 カガリの言葉にようやく彼女の反応の意味を理解したアフメドも慌てて弁解をする。

 どのみち好意を持っている事を伝えている事にはなるのだが、今の彼はそれを上回る羞恥心にそこまで気が回ってはいない。

 

 マリューが見ればさぞかし酒が進むことだろう。

 

「なんだ、そう言う事か……それでも、ありがとう、アフメド。私こんな風に男の子からプレゼントをもらうの何て初めてだよ」

「お前の兄ちゃんはくれないのか?」

「あーくれると言えばくれるけど……なんていうかお手製の勉強道具とか、大きくなってからは護身用の時計型麻酔銃だとか、とにかくちょっとおかしくて」

「あー、実用的ってやつ?」

「そうなんだよな。私の事を心配してって言うのはわかるんだけどさ……やっぱりちょっと方向性が違うというか」

 

 再び、受け取ったマラカイトの宝石を見て、カガリは笑みをこぼした。

 

「だからありがとな、アフメド……その、急な事で気持ちにぱっと応えられないんだけど」

「いいって、俺もそこまでのつもりじゃないからさ。まぁ……大きくなったらそりゃあ考えるけどよ」

「ん?」

「何でもない、気にすんな!」

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな初々しい会話をする2人から50m程離れたところでの事だ。

 

 狂気にふれたタケル・アマノと、それを必死に抑えるキラ・ヤマトは熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

 

※カガリの下に向かおうとするタケルの足を引っ張り、キラが邪魔しているだけです。

 

 

「厄介な奴だよキラ、君は!」

「な、何を!?」

「在ってはならない存在だと言うのに……知れば誰もが望むだろう。君のようで在りたいと。君の様になりたいと……故に許されない、君と言う存在も!」

「だったらどうすると言うんだ」

「これは定めだ、知りながらも突き進んだ道だろう」

「何を!」

「兄妹と信じ、家族だと逃げ、知らず、聞かず! その果ての終局だ、もはや僕を止める術など君には無い!」

「そんな事、させない!!」

「そして滅ぶ。君も彼も……滅ぶべくしてね!」

「そんな、タケルの理屈!」

「どのみち僕の勝ちだ。キラと僕では鍛え方が違う!」

「なっ!?」

「もはや止める術はないよ。君と彼は地に這いつくばり、悲しみと涙が新たなる恋愛の狼煙となる!」

「そんな……」

「人が数多持つ予言の日だ!」

「そんなこと、させるものか!」

「それだけの業。重ねたのは君だ!」

 

 

 何を言っているかはよくわからないが、2人は互いに足を引っ張り合い死闘を演じていた。

 カガリの下へと必死に向かおうとするタケル。

 そしてそれを全力で食い止めるキラ。

 その形相はまるで世界の行く末を決めるかのような緊迫感に包まれていた。

 

 

「わかるけど……君の言う事もわかるけど」

「なにっ!?」

「それでもカガリは、今泣いているんだ!」

「くっ!」

「アフメドの気持ちが嬉しくて今泣いているんだぞ! なぜ君はそれがわからない!」

「そ、それは!?」

「そうして、全てはカガリの為だって。カガリを想うからだって。そうしてカガリのせいにして、君は討つと言うのか! 今カガリが手にしている幸せを!」

「う、うるさい!」

「なら僕は、君を討つ!!」

 

 何度目かの感覚。

 視界がクリアになり、周囲の全てを知覚できる全能感。

 その感覚に従い、キラは優勢であったタケルを抑えつけた。

 

「くっ、はなせぇええ!」

「なっ、まだ!?」

「キラが悪いんだぞ……」

「え?」

「全部キラが悪いんだ……キラが、僕からカガリを【ネタバレのため検閲】から!!」

「なっ!?」

「キラぁあああ!!」

「くっ、何て力だ……」

「キラっ!」

「トール!? ダメだ来るな!」

「邪魔だぁ!」

「ぎゃふ!」

「トールーー!」

「僕の邪魔をするな!」

「あ……あぁ……タケルゥーー!!」

「くっ、このぉ、キラぁーー!!」

 

「「僕が、君を討つ!!」」

 

 

 正に死闘。互いに大切なものを奪われた(と思っている)2人は、相手に全身全霊を掛けてぶつかり合う。

 だがそこへ──

 

 

「ヤマト少尉、アマノ二尉。何をしているのですか?」

「ひぇ!?」

「艦長!?」

 

 そこに居たのは、鬼気迫る雰囲気を纏いながら、何故か笑顔のマリュー・ラミアス少佐の姿があった。

 

「ん~この匂い、いけない匂いがしますね……2人とも? 未成年は飲まないようにと厳命しておいたはずですが」

「タケルが無理矢理飲ませてきたんです!」

「えぇ、ちょっキラ!?」

「艦長、いきなりアマノ二尉に殴られました!」

「トール君、このタイミングでそれは!?」

「これはこれは、とても模範的な軍人とは言えない行動ですわね。ねぇ、ア・マ・ノ・二尉?」

「え、えっと……その、これは何というか変な奴に憑りつかれたというか?」

「お祓いしてあげましょうか? 少々物理的になりますけど?」

「結構です!!」

「全く、こんなところで遊んでもらっていては困ります。貴方にはお願いしたいことがあったというのに、何処にも見当たらないんですもの」

「お願い、ですか?」

「指令所でナタルが酔い潰れてしまったの。彼女、全然飲めないみたいでね。最初の1杯でダウン。だからアマノ二尉に艦まで連れて行って欲しかったんだけど」

「僕より、フラガ少佐とかノイマン少尉なんかの方が適任ではないですか? 僕身長低いですし、背負うには適さないかと」

「あら、背負う気なの?」

「え?」

「ナタルは軽いから背負わなくても運べるわよ」

「酔いが回ってるのなら背負って運ばれた方が幾分かマシなのでは?」

「そんなに私のお願いを断りたいのかしら?」

「いえっ!? 全身全霊で務めさせていただきます!」

 

 マリューから漏れ出た冷たい気配に、背筋を伸ばした完璧な敬礼で答え、タケルは急ぎ足にその場を去っていった。

 

「さて、ヤマト少尉達も楽しむのは良いけど、余りハメを外さないようにね」

「イェス、マム!!」

「うん、元気があってよろしい。それじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~恐ろしかった。急いで任務を果たさないと」

 

 マリューからの指示を受け、明けの砂漠の指令室へと辿り着いたタケル。

 アークエンジェルクルーと明けの砂漠の面々で周囲が喧騒に包まれている中、誰もいない指令室を見回して目的の人物を見つけた。

 壁を背に膝を丸めてもたれかかっている女性士官。ナタル・バジル―ルである。

 動きのない彼女に近づいてみると、彼女の傍らには大ジョッキが置かれており、その中身が無い事から下戸なのに無理して飲み干したのだろうとタケルは察した。

 

「(真面目な人だからなぁ……多分最初の1杯くらいはって付き合いで飲んだのかな)」

 

 様子を見るに苦しそうな気配もなく、ただ素直に眠りについているだけである。

 特にこれと言った対処も必要ないだろうと考えたタケルは、任務の通り彼女を運ぶことにした。

 

 膝裏と背中に手を回し、よいしょと一声。ナタルを軽く持ち上げる。

 

「(軽いなぁ。カガリと変わんないや)」

 

 決して小柄と言うほどでもないだろう。だが細身の彼女は予想外に軽く、タケルはその軽さに僅か驚いた。

 

「うっ、んぅ……」

 

 抱き上げた事で起こしちゃったか? 

 そう思ったタケルだったが、ナタルは小さく声を漏らしただけであった。

 ふぅ、と一先ず安心するとそのままアークエンジェルへと向けて歩き出す。

 

 歩く振動でナタルの肺が揺らされ、首元にあたる吐息がなんともこそばゆく、タケルはどこか言い表せないような気持ちとなった。

 最近の色々な出来事もあってか、タケルにとってナタルは好意的に見ている女性である。

 惹かれている自意識こそまだ芽生えていないが、それに準ずる感触くらいは、鈍いタケルにもあった。

 そんな中、意識のない彼女を抱きかかえ歩いてるとなればタケルとて男の子。気恥ずかしさが湧くのも無理はない。

 

「(なんて言うか、普段の中尉は軍人足らんとしてるから気が付かないけど……ホント、綺麗な人だよね)」

 

 顔は小さいしスタイルも良い。

 綺麗な紫色の瞳を湛える双眸に合わせて彩られた、艶やかな唇が実に色っぽい。

 私服で街を歩けば誰もが見惚れるだろうとタケルは思った。

 近しい女性としてはマリューも綺麗な女性ではあるが、先程の事もあってかタケルとしてはお母さん的な雰囲気が強く、そういう目で見ることはなかった。

 

 いつもなら気にしないのだが、こうして普段は絶対に見られないナタルの無防備な素顔を晒されると、やはりドギマギするものである。

 

「あっ、そういえば艦に連れていくのは良いにしても、どこに寝かせばいいんだろう……」

 

 ふと気が付いた事態。

 このままナタルを抱えてアークエンジェルに連れて行ったとして、眠る彼女をどこに連れて行けば良いのか。

 自室? NOだ。こんな姿、不特定な面々にに見られたくは無いだろう。

 ナタルの部屋の場所は知っているがいかんせん彼女がこの状態では入ることは叶わない。

 

「あ〜医務室で良いかな。あんまり人も来ないし。万が一何か具合が悪くなった時も対応しやすいだろうしね」

 

 少しばかり逡巡した後、タケルは方向性を定めてアークエンジェル艦内へと戻った。

 

 ほとんどのクルーが、明けの砂漠とのどんちゃん騒ぎに出ているため、艦内は静かであった。

 大した距離ではないがハッチから誰とも出くわすことなく医務室までたどり着いたタケルは、そのまま滑る様に医務室へと侵入する。

 通路同様、医務室にも人は居らず。タケルは空いてるベッドへとナタルをそっと寝かせた。

 

「ふぅ、任務完了ってね」

 

 任務などと大仰な話でもないが、何か間違いがあればマリューにキツくお叱りを受けることだろう。

 彼女からの依頼を無難に終えたことに小さく安堵する。

 

「さて、戻ろうかな……」

 

 そう思ったが、タケルはなぜか静かな医務室から離れる気にはならなかった。

 艦内に入ればもう外のどんちゃん騒ぎも聞こえてこない。

 耳が痛くなりそうな静寂の中に、微かに聞こえるナタルの寝息。静かに眠るナタルへと、タケルは視線を向けた。

 

「寝てるん……だよね?」

 

 誰に聞くでもない。強いて言うなら本人に、であろうか。

 勿論、静かに寝入っているナタルが答えるわけはない。

 自身が零した問いへの返答がどこからも来ない事が、タケルの足をナタルが横たわるベッドへと向かわせた。

 彼女が眠るベッドの傍らに座り込むと、タケルは恐る恐ると言った様子でナタルの手に触れる。

 

「──やっぱり、バジルール中尉の手は温かいですね」

 

 医務室で、ナタルと2人きりでいる事。

 タケルにとって、あの日を想起するのは自然な事であった。

 先程、キラと飲み下したはずの苦い想い……そうは言っても、タケル・アマノはそう簡単に割り切れるほど強い人間ではないのだ。

 だから今この場でなら、酒精に頼るよりもあの日彼女に救われた思い出に浸る方がずっと気持ちが楽になる気がした。

 温かい記憶に浸る事で自らを慰めたかった。

 

「カガリには、こんな姿見せられないんです」

 

 初陣を大戦果で飾り、嬉しさと誇らしさで満面の笑みであったカガリを思い出して、タケルは小さく自嘲した。

 敵と戦う事をしっかり割り切れているカガリの前で、こんな姿は見せられなかった。

 見せればカガリにも迷いを生ませるかもしれないし、カガリに割り切れと諭されるかもしれない。

 

 そのどちらも、タケルにとっては嬉しくない事だった。

 

「だからまた──少しだけ助けてもらってもいいですか?」

 

 返事はなかった。

 だが、タケルが触れてるナタルの手が小さく答える様に握られる。

 一瞬目を丸くしたタケルは、ナタルへと視線をやるが、起きてる様子は見られない。

 しかし、その反応にどこか許しを得た様な気になり、何故か嬉しい気持ちになり。タケルはその手に応えて彼女の手を握り返した。

 

「ありがとう……ござい……ます……」

 

 心から安堵したせいか、それともキラと共にマリューの言いつけを破り摂取した酒精のせいか。

 ナタルの手を握り返すと同時に急な眠気が遅い、タケルはベッドに突っ伏した状態でナタルと一緒に寝息を立て始めた。

 

 

 その顔は、朱に染まり嬉しそうな笑顔を讃えていた。

 

 




いかがでしたか

作者渾身のギャグ回でした。今回だけは笑っていただければ幸いです。

SEED本編でも唯一、多分ここくらいしかこんな遊んでる時無いと思うので、遊びました。
反省はしてるけど後悔はしてないです。

あとタケル君はナタルと同じくお酒耐性ゼロです。

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