機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

52 / 330
PHASE-41 紅に染まる海

 

 

 

「れ、レーダーに反応!?」

 

 調整を終えたソナーの試運転をしながら、のんびりと航行をしていたアークエンジェルの艦橋内を、カズイの報告の声が切り裂いた。

 

「何ですって!」

「また民間機とかじゃないのか?」

「いや……この反応。攪乱酷く特定はできませんが、民間機ではありません!」

 

 パルの疑念の声を、反応を追ったチャンドラの報告が否定する。

 艦橋内に緊張が走った。

 

「総員、第二戦闘配備。機種特定を急いで!」

「了解!」

 

 

 

 

 

『総員、第二戦闘配備! 繰り返す、総員第二戦闘配備!』

 

 艦内に響く戦闘配備発令の報。

 部屋で待機していたムウや、格納庫で調整に勤しむタケルやキラも事態の変化に険しい表情を浮かべた。

 

「運が悪かったかな……それとも、こちらの動きを読まれていたか」

「タケル!」

「うん、まずは状況把握だよ。ブリーフィングルームに」

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルへと接近する機体。

 ザフトが開発した大気圏内の空戦用MSディンに乗ったモラシムは、光学カメラが捉えた巨体を見据えて獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「あれか……よし、足つきを確認した。グーン隊発進しろ!」

 

 後方で母艦と一緒に控えている部隊へと通信を送り、モラシムはアークエンジェルへと更に急速接近していく。

 

 

「あれは……ライブラリ照合。ザフト軍大気圏内用モビルスーツ、ディンと思われます!」

「くっ、網を張られていたと言うの……総員第一戦闘配備! パイロット達は搭乗機でスタンバイ!」

 

 アークエンジェルもまた、最大望遠で光学カメラが捉えたディンの姿を確認する。

 サイの報告で、状況が確定したマリューは即座に戦闘配備の指示を出した。

 

「イーゲルシュテルン起動! ミサイル発射管、7番から10番、ウォンバット装填!」

 

 ナタルからの矢継ぎ早の指示に、クルー達は即座に対応していく。

 ヘリオポリス以来、生き残る為に数々の戦いをこなしてきた彼等はもう百戦錬磨。

 突然の戦闘であろうとも、その対応は十分に早いものである。

 

「ディン接近! 10時、4時の方向です!」

「艦載機の発進進路を確保する! ウォンバット、てぇー!」

 

 

 海上でのアークエンジェルの戦いが、今幕を開けた。

 

 

 

 

 

『スカイグラスパーフラガ機、発進準備!』

 

 パイロットスーツを着て待機していた4人。

 ミリアリアの通信を受け、出撃の準備へと向かう。

 

「ザフトもしつこいねぇ、ホントに。

 キラ、タケル。海上の戦闘は大丈夫なのか?」

「ストライクはなんとか。一応海にも入れますから」

「ジン・アストレイはまた装甲引っぺがして簡易空戦仕様にしてます。軽くなった分更に制御がしんどいですが……さすがに適応外の海に入るわけにはいかないので、甲板の上での迎撃にあたります」

「相変わらずお前は無茶するなぁおい。

 というわけで嬢ちゃん、海上では戦闘機である俺達も頑張らなきゃならん。しっかり頼むぞ?」

「無論だ。何のために兄様印の地獄の訓練を耐えてきたと思っている」

「耐えられなかったけどね」

「う、うるさい! とにかく、キラと兄様の分も私が戦ってやるさ!」

「それは何とも嬉しくない意気込みだね」

 

 タケルとしては必要以上にカガリに戦場へ出て欲しくないのが本音だ。

 砂漠での決戦は戦力が必要だったから仕方なかっただろう。

 そして今回も、海上でストライクとジン・アストレイが動きを制限される為に、スカイグラスパーの出撃が必要であった。

 状況が嫌でもカガリを戦場から引き離してくれない事に、タケルは憂いを抱いていた。

 

「少佐、あまりカガリを追い込まないでください。僕とタケルだって一応出られるんですから、必要以上に気負う事はないですよ」

「そう思うなら、心配そうな顔を嬢ちゃんに向けるんじゃないよ。

 そんな顔されたら、心配させまいと余計必死になるだろうが」

 

 ムウの言葉にハッとして、キラもタケルも己を顧みた。

 確かにそうだ。カガリが出撃するとなって過保護なタケルに釣られてキラまでもが、スカイグラスパーに乗り込むカガリを心配そうに見ていた。

 そんな視線を2人から向けられれば、カガリが心配させまいと必死になるのは無理も無い事である。

 

「心配されればされるほど、戦果を見せて安心させようとするもんだ。心配かけたくないってな」

「そう、ですね。僕もそうなりましたから」

 

 同じような経験はタケルにもあった。

 ヘリオポリスを出た直後、ナタルが見せた不安の顔を消してやろうと奮起し、戦果を求めた事。

 心配や不安。それらを消し飛ばし安心させるために行き着く結論はそこである。

 

「心配なのはわかるが、不安を表には出すな。

 んで嬢ちゃんも絶対に無理はするなよ。こいつら見てわかるように、嬢ちゃんの安否が与える影響は大きいんだからな……タケルと約束しただろうが、自分の命を第一に考えろ」

「わかっている! それはもう耳タコだ……100回は兄様に言われている」

「そいつは何より。その約束、違えるなよ」

「あぁ!」

 

 各々が奮起するのを確認して、ムウを皮切りにそれぞれ機体へと乗り込んでいった。

 

『スカイグラスパーフラガ機、発進位置へ。進路クリア、発進どうぞ!』

「よっしゃぁ! ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」

 

 意気揚々とした声を残して、ムウのスカイグラスパーが発進していく。

 

『スカイグラスパーアマノ機、発進位置へ。進路クリア、発進どうぞ!』

「カガリ・アマノ、行くぞ!」

 

 続いてカガリが乗るスカイグラスパー2号機も発進していく。

 

 海面を染める深い青と、空を彩る淡い青。

 その間を、ディンとアークエンジェルが放つ銃火の色が飛び交っていた。

 カガリはその光景に僅かに吞まれるも、ムウと共にディンへと応戦していく。

 

「バリアント、てぇー!」

「ちぃ! グーン隊はまだか!?」

 

 アークエンジェルからの迎撃砲火が分厚く、思う様に接近できないでいるモラシムはコクピット内で、小さく悪態をつく。

 ディンに気を取られているうちに水中用MSのグーンで、海中から奇襲をかける。

 奇襲成功の報を今か今かと待ちわびていた。

 

「ソナーの感……4,いや2!」

「なんだと!」

「このスピードと推進音……モビルスーツです!」

「水中用だわ! ノイマン少尉、離水上昇、急いで!」

「了解!」

 

 水中用のMSが居るとなれば、海を浮かんでの航行は危険すぎる。相手の動きが見えないまま一方的に撃たれることになるだろう。

 マリューの判断は早かった。

 

「ソナーに突発音。魚雷です!」

「少尉!」

「大丈夫です、離水間に合います!」

 

 アークエンジェルが海面を離れると同時、海中で幾つも爆発が起こった。

 水柱を噴き上げたその威力に、まともに受けたら大きな被害が出る事は間違いが無かっただろう。

 

「魚雷を躱しても次が来るわ、ナタル!」

「底部イーゲルシュテルン起動! バリアントを海面に向けろ! フラガ機とアマノ機はディンの対応へ!」

『艦長、僕とタケルで水中の敵は迎撃します!』

「ヤマト少尉!? ストライクもジン・アストレイも水中戦はまともにできないのよ!」

『艦底部の足場を使って海面に顔を出したところを叩きますよ。ストライクは一応海にも入れますし、僕のジン・アストレイも、軽量化のお陰で短時間なら空戦が可能ですから』

 

 アークエンジェルはその独特のデザイン故に、MSが足場とできる部位がいくつか存在する。

 キラとタケルはそれを軸に立ち回ろうと言うのだ。

 逡巡、マリューは思考の海に沈み答えを出した。

 

「わかりました。ハウ二等兵、ストライクとジン・アストレイを発進させて! ストライクにはエールを!」

「了解! ストライク、発進位置へ」

 

 

 

 

 

 ジン・アストレイのコクピットの中で、タケルはキラと通信を繋いだ。

 

「さて、キラ。モグラ叩きだ」

「グーンのデータはインプットしたよ。後は動きを解析して予測位置を割り出す」

「タイミングは僕が割り出すからキラは予測地点を絞って」

「うん、わかった」

 

 キラもタケルも、発進間近だというのにキーボードを取り出してひたすらにキーを叩いていた。

 アークエンジェルから逐次送られてくる敵機の戦闘データをその場で解析。

 攻撃の為に海面に顔を出すタイミングと、その場所を大まかに絞れるように予測プログラムを組み上げていく。

 

 

『進路クリア。ストライク発進、どうぞ!』

「了解。キラ・ヤマト、行きます!」

 

 キーボードを叩きながら、キラとストライクが発進していく。

 

『進路クリア。ジン・アストレイ発進、どうぞ!』

「タケル・アマノ、出撃します!」

 

 タケルもまたキラと同様にキーボードを取り出したままアークエンジェルから発進していった。

 発進と同時に、タケルは組み上げたプログラムが答えをはじき出す。

 

「キラ! 5秒から15秒後!」

「メインスラスター付近だ!」

 

 キラもまた、組み上げたプログラムによる答えを伝えて、2機は同時に空戦へと移行。

 艦底部を回りメインスラスターの近くでビームライフルを構えた。

 

 10秒余りの膠着。海面にグーンの頭が飛び出した。

 

「予測より遅い!」

「そっちか!?」

 

 2機のセンサーが予測の時間と場所を少しだけ外れてグーンの反応を拾った。

 グーンによって放たれるミサイルの砲火に、底部のイーゲルシュテルンを1つ潰されてしまう。

 

「キラ、追加修正急いで!」

「今やってる!」

 

 アークエンジェルを足場にして急いで予測プログラムの修正を図る2人。

 だが戦場はそんな2人を待ってはくれない。

 

「くっ、もう1機。直ぐに来るよ!」

「バリアントを狙ってくる!」

 

 再びに予測される時間と場所。2人は先回りして待ち、今度は概ね予測の範囲内にグーンが顔を出した。

 だが、先の出来事で予測の範囲外まで意識を割いてしまっていた為に、反応してビームライフルを放つも逃げられてしまった。

 

「ダメだ、もう少し絞らないと逃げられる!」

「アークエンジェル! バリアントをランダム射撃で数度。海面を叩いてください!」

『アマノ二尉、その意図は?』

「顔が出せないように警戒させます! その間に敵位置の予測割り出しを行い叩きます」

『できるのですか?』

「できなきゃキラと一緒にトイレ掃除1週間でもなんでも!」

「タケル、そんな勝手な!?」

『ふっ、良いだろう。艦長!』

『許可します。任せるわ』

 

 マリューの許可を得てナタルの指示の下弾き出されるバリアントの射撃。

 数度海面を叩いて水飛沫を上げた海面を見つめながら、タケルとキラは直近の敵機のデータをも反映させた予測プログラムの修正を終える。

 

「来るよ、キラ」

「わかってる」

 

 ディンとスカイグラスパーの戦闘音も激しい中、どこか静寂に似た心地を感じながらキラとタケルは予測データの答えを弾き出す。

 

「同時、5秒後!」

「真下だ!」

 

 確定した答えにキラはストライクを飛翔させビームライフルを構え、タケルはジン・アストレイを翻させ宙へと飛び出した。

 

「出た、そこ!」

 

 1機のグーンにストライクが放つ光条が突き刺さる。

 

「ドンピシャ、もらった!」

 

 そしてもう1機のグーンもまた、海面を最大戦速で駆け抜けたジン・アストレイが振り抜いた重斬刀に真っ二つにされて爆散した。

 

 

「ちっ、ハンスのグーン隊もやられたか……一旦退く!」

「あっ、この、逃がすか!」

「待て待て嬢ちゃん! 今は追撃の命令も出ていない!」

「でもっ、このまま逃がせばまた」

「どこに居るかもわからない敵を追いかければ、今度は戻ってこれなくなる可能性もある。深追いは禁物だ」

「──わかった」

 

 奇襲をかけたグーン2機の全滅を確認して、モラシムは苦渋に塗れながらもディンを翻して、母艦へと帰投していった。

 追撃に入ろうとするカガリだがムウに窘められて冷静さを取り戻し、共にアークエンジェルへと帰投した。

 

「はぁ……何とかなったわね」

 

 艦橋では一先ずの戦闘の収束にマリューが安堵の息を吐く。

 海上に出て、少しはゆっくり航行させてもらえるかと思った矢先のこの襲撃に、淡い期待を打ち砕かれた気分であった。

 

「損傷は底部のイーゲルシュテルン1基のみです。敵MSを2機仕留めたとあれば十分な戦果かと」

 

 その分、ナタルが言うように十分な戦果となった結果は艦長として嬉しくもある。

 

 だが、嬉しいばかりでも無かった。

 

「それにしても敵の行動を予測して叩く、ねぇ。アマノ二尉はともかくとして、最近ヤマト少尉の士気も随分高い気がするのは気のせいかしら」

「やる気があるのは良い事では?」 

「軍人としては、ね」

 

 そう、艦を預かる身であるマリュー・ラミアスとしては歓迎すべき点である。

 艦を守るMSのパイロットが戦いにやる気を出してくれるのだからそれは歓迎すべき点だ。

 だが、マリュー個人としては、そうも思えなかった。

 

「──確かに、あの年頃の少年としては、戦場に現を抜かすと言うのは少し酷だとは思いますが」

「気負い過ぎてる、と思うのは杞憂かしらね?」

「艦長がわからないのでは、私には何とも。艦長の慧眼には私は適いません」

「そんなことないと思うけど?」

 

 戦いが上手く行ってるだけに、その陰に不穏な影が無いかと考えてしまう。

 マリューもナタルも、これまで苦しい戦いの連続だっただけに、今日の快勝が逆に不安を掻き立てる一助となっていた。

 

「とりあえず、問題が無かったことを喜びましょう。

 第二戦闘配備のまま警戒を続けて。何もなければ戦闘配備は解除して良いわ。ナタル、少し外すわね」

「了解しました」

 

 いつも通りの強い返礼に見送られ、マリューは艦橋を後にした。

 

 

 

「閣下……私は貴方の遺志を継げていますか?」

 

 静かな艦内通路で、マリューは今は亡き恩師へと問いかける。

 

 ハルバートンは戦う兵士の意志を尊重する人間だった。

 軍人としての意志を大事にする人間であった。

 だからこそ慕う者も多く、マリューもまた彼の姿勢に惹かれた一人であった。

 

 だから、キラ達が自ら戦う事を決め艦に残った時は心底感謝と尊敬の念を抱いたものであった。

 まだ若い身空でありながら、戦う意志を抱いた彼等に。

 

 そして妹を守る為に必死に戦うタケルと、そのタケルの助けになりたいカガリ。

 カガリが見せた戦う意志を、マリューは突っぱねる事ができなかった。

 

 だが、果たしてそれが本当に正しかったのか。

 

 意思を尊重する──そんな体裁の良い言い訳を並べて、まだ年若い彼等を良い様に利用しているだけではないのか。

 

 艦を守るために、どんどんと戦争にのめり込んでいく少年達の姿。

 それをさせているのが自分だと思うと、胸の内に重い何かがのしかかってくる。

 これが、上に立って下の者を戦わせる者の重みなのだと理解した。

 

「私は、閣下のようにはなれませんね」

 

 呟かれた声は、静かになった艦内に響くことなく消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言い渡された新たな戦場は、地球。

 戦うことを自ら選んだ以上、迷いや疑問はあってはならない。

 意思と乖離して、立ち止まる心が囚われるのは、ただ、過去への郷愁か。

 無人の島で出会う少女が、新たにもたらす戦争の解とは。

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『運命の出会い』

 

 その心、研ぎ澄ませ! ガンダム! 

 

 




いかがでしたか

何となく、キラもタケルもプログラム汲むの得意な2人なので
こんな戦闘させても良いかなって展開でした

感想お待ちしております

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。