機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-43 運命の出会い

 

 ザフト軍潜水母艦クストー。

 

「ディンが4機。グーンが2機。それに私のゾノ。戦力としては十分すぎるだろう」

 

 カーペンタリアから戦力の補充を受け、モラシム隊は再びのアークエンジェル襲撃を画策していた。

 先の戦闘ではディンが2機にグーンが2機であった。

 バルトフェルドが敗北したとは言ってもここは海のど真ん中。

 宇宙用の機体で水中用MSのグーンには手も足も出ないと甘く見ていた結果が先の戦闘である。

 既に、モラシムはクルーゼの通信が挑発の意を含んだものではなく、いっそ警告であったのかとも考えていた。

 撃墜されたグーンを補充した上で、更に水中用MSの新鋭であるゾノにディンも2機増やし、戦力は盤石と言える。

 積載限界もある以上、これ以上は望めないだろう。

 相手の戦力を十分に見積もった戦力を揃えたつもりである。

 

「出撃だ。クルーゼも降りてきてるからな……今度こそ足つきを墜とすぞ!」

 

 モラシムの声に隊員たちが応え一斉に機体へと搭乗していく。

 

 いまここに、モラシム隊決死の戦いが幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ソナーに感! 7時の方向、モビルスーツです!」

 

 トノムラの報告に、艦橋に再び緊張が走った。

 

「間違いは無いか!?」

「数は何機っ?」

「音紋照合……グーン2。それと、不明1です!」

「このタイミング……アマノ二尉の予測通りと言うわけね」

 

 先だっての会議でも言っていたように先日の会議から丸2日を空けての襲撃。

 となれば、戦力の補充も済ませて全力で堕としに来るだろう。

 だがアークエンジェルとしても、ここで母艦を捉えて撃沈し、一気にケリをつける算段だ。

 

 早くも、海上決戦である。

 

「総員、第一戦闘配備! パイロットは搭乗機へ!」

 

 

 

『総員、第一戦闘配備! 繰り返す。総員、第一戦闘配備!』

 

 戦闘配備の発令と共に、パイロットのムウ等4人は各々の搭乗機へと向かった。

 

「良い? 絶対にフラガ少佐と足並みを合わせる事。邪魔にならないようにね」

「わかっている! 出過ぎないようにだろう!」

「絶対だよ!」

 

 別れ際に再三の注意喚起をしてタケルとカガリは搭乗機へと乗り込んでいく。

 

 敵母艦を狙うため、一時的とはいえ目の届かぬ場所へと向かう事になるカガリに、タケルの胸の内は戦々恐々といった様相であった。

 散々に課した訓練が功を奏してくれることを願いながら、タケルは恐怖を押し殺しジン・アストレイへと乗り込んだ。

 

『少佐、母艦の撃沈……よろしくお願いします』

「ついでに、嬢ちゃんもだろ?」

『えぇ、勿論』

「無理はさせないさ。CIC、敵母艦の予測位置は?」

「痕跡から割り出した予測データを送ります」

 

 ムウの要請に応え、サイからスカイグラスパーへと敵母艦の予測データが送られた。

 

『スカイグラスパーフラガ機、スタンバイ。発進どうぞ!』

「よし、出るぞ!」

 

『続いてアマノ機発進、どうぞ!』

「カガリ・アマノ、行くぞ!」

 

 立て続けに発進していくスカイグラスパーを見送り、タケルとキラの機体もすぐにカタパルトへと運ばれていく。

 

「マードック曹長、武装には突撃機銃を下さい!」

「ライフルじゃなくて良いのか?」

「ディンは動きが速い分装甲が薄いです。一撃必殺を狙う必要もないので」

「なるほど、了解だ」

「ストライクはソードをお願いします!」

「ソードストライカーだって?」

「ビームを切れば、実剣として使えますから」

「水中戦を見据えてか、わかった!」

 

 各々の要望に応えて、整備班が武装を用意していく。

 ジン・アストレイはウェイトになる重斬刀も排して、突撃機銃とビームサーベルのみの軽量化空戦仕様に。

 ストライクはソードストライカーを装備して物理兵装に寄せる。

 

「機動性では適わない。でも水中ではビーム兵装は使えない」

「接近をさせてPS装甲で攻撃を受けながらソードで仕留める、だよね」

「こんな戦法しか思いつかなかったけど……無理だけは」

「大丈夫だよタケル。受けると覚悟しておけば後はエネルギーゲージを見ておくだけだし、海面に釣りだせば、アークエンジェルでも狙える」

「うん、忘れないで。僕はともかく、そっちは適性の無い場所での戦いなんだから」

「わかってる」

 

『ストライク、発進位置へ。進路クリア、発進どうぞ!』

「行きます!」

 

『続いてジン・アストレイ、発進どうぞ!』

「ジン・アストレイ、出撃します!」

 

 ストライクとジン・アストレイも、カタパルトを飛び出していく。

 

「ディンが2機。グーンが2機、不明機は……どこだ」

 

 発進と同時にキラは海面を探した。

 アークエンジェルの真下で顔を出しているグーンを見つけると、迷わずそこへ飛び込んでいく。

 

「キラっ! くっ!?」

 

 いきなり海へと飛び込んだストライクを心配するタケルだったが、敵もそれを待ってはくれない。

 

 ディンが持つ突撃機銃を躱してタケルは冷や汗をかいた。

 今のジン・アストレイは外部装甲の5割をパージしている。

 関節部を重点的に装甲を残しているものの、内部フレームが剥き出しなのは間違いなく、そこに射撃の1つでも受けようものなら致命的なダメージを受けるだろう。

 回避は絶対条件であった。

 

 だがその甲斐があって、今のジン・アストレイの最大戦速は凄まじい。

 元がジンのメインスラスターとアストレイの各部に用いていたサブスラスターを搭載した機体だ。

 エールを装備したストライクと変わらぬ推力を持たせながら大幅に軽量化した今、空戦機であるディンと遜色ない機動が可能である。

 

「さぁ、行くよアストレイ」

 

 迷わずペダルを踏みこんでいくタケル。

 その意思に応じてスラスターが声を上げ、ディンが待つ空へと飛びだしていった。

 

「こいつ、早い!?」

「逃がさないよ!!」

 

 空戦を挑んでくるとは想定していなかったのか、ディンのパイロットは飛翔してくるジン・アストレイに目を剝いて、機体を後退させる。

 

 完全な空戦用のMSではないなら母艦からは離れられないだろう──そんな安易な推測だった。

 

「ディンに、追従してくるだと!?」

 

 ドッグファイトの距離へと持ち込み、逃げるディンをジン・アストレイが追う。

 

 互いに取り出した突撃機銃で撃ち合うも、その早い戦速から狙いが定まらずどちらも射撃も空を切った。

 

「まだ慣れないね、この機動と操縦に──だけど」

 

 慣らしていく……自身に改良した機体の挙動を。

 自らが改良を手掛け、マードック等と共に仕上げた機体。この程度の挙動は想定済みであった。

 想定した挙動に、自身の感覚を合わせていくだけである。

 

「空戦用のディン……相手には丁度いい!!」

 

 そこから暫く、タケルと2機のディンは競り合いを続ける。

 被弾できない緊張感の中、徐々に軽い機体の挙動に持慣れて動きが良くなっていくタケルは、そう時を置かずに2機のディンを翻弄する様になっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、戦闘が始まったアークエンジェルと比べ、先に発進したムウとカガリは静かなものである。

 海上を駆け抜けていく2機のスカイグラスパー。

 大事な任務を受けていながらも、出撃してしばらくが沈黙となるとカガリとしては少し肩透かしをくらうものであった。

 

 だがそんな事を思う頃に事態は動いた。

 発進してから暫くの飛行、予測地点のデータまでもうすぐという所で、センサーが反応を拾う。

 

「フラガ少佐!」

「わかってる、見つけたぜ、行くぞ!」

「あぁ!」

 

 反応を捉えた地点へと急加速していく、ランチャーストライカーを装備したムウのスカイグラスパー。

 それに追従する様にカガリは自身の機体も走らせた。

 

「海上レーダーに反応。機影2機、足つきの艦載機です!」

 

 急接近する反応を拾って、潜水母艦クストーのクルーが慌てふためく中、ムウとカガリはスカイグラスパーに搭載される対艦弾頭ミサイルを海面に向けて放つ。

 

「対艦弾接近!」

「回避!」

「間に合いません!」

 

 必死の操艦もむなしくクストーは撃ち込まれた対艦ミサイルを被弾してしまう。

 爆炎が挙がる中、被害報告が飛び交った。

 

「右舷部に被弾、浸水!」

「急速浮上だ。追撃用のディンを出せ!」

 

 艦長の指示に従い、海中に潜んでいたクストーは急速浮上。

 ハッチを開き、残る機体の発進を図った。

 

「出てくるぞ、嬢ちゃん!」

「カガリだ! いい加減その呼び方をやめろ!」

「おっと、こいつは失礼──狙え!」

「了解だ!」

 

 ムウは装備してあるアグニを発射。

 カガリも二発目の対艦ミサイルを放ち、直撃を受けたクストーは噴煙を上げながら撃沈する。

 

「やった!」

「いや、まだだ!!」

 

 歓喜の声を上げたカガリをムウの声が否定した。

 撃沈されるクストーから、2機のディンが発進。青空の中に飛翔し戦闘体勢を取る。

 

 そのまま2人のスカイグラスパーへと強襲した。

 

「本番はここからみたいだぞ」

「くっ、やってやるさ!」

 

 操縦桿を握り直し、カガリはムウの声に答える。

 母艦を墜としたがMSとの戦闘となれば危険度は一気に跳ね上がる。

 だが戦い抜かねばならない。兄が待つ艦に戻る為には、ここで落とされるわけにはいかないのだ。

 

 一つ小さく息を吐き、カガリは戦闘へと没入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次々とグーンより撃ち込まれるミサイルとビーム砲に、アークエンジェルは徐々に被弾を重ねていた。

 

「くっ、ストライクとアストレイは!?」

「ダメです! どちらも敵MSと戦闘中!」

「うぅ、せめて上部の砲の射線が取れれば!」

 

 火器管制を担当するサイの呟きに、マリューはハッとする。

 戦艦にとって死角となる艦底部。

 現状はそこに回り込まれたがために、艦載砲のほとんどが機能していない。

 ならば──

 

「一か八かよ……ノイマン少尉!」

「はい!」

「一度で良い、アークエンジェルをバレルロールさせて!」

「はぁっ!?」

「艦長、何を!」

「ゴットフリートの射線を取る……一度で当ててよ、ナタル」

 

 決意の瞳。

 マリューの声と言葉には、これまで主に艦載砲の指揮を取ってきたナタルへの信頼が含まれていた。

 

「──了解しました。アーガイル二等兵!」

「照準、準備完了です!」

「艦長、いけます!」

「少尉、やれるわね!」

「勿論、できなきゃトイレ掃除でもなんでも!」

 

 つい先日聞いた少年の煽り文句を思い出して、艦橋クルーに僅かに笑みが零れた。

 覚悟は決まった。それを皆が理解する。

 

「総員衝撃に備えよ!」

「本艦はこれより、360度バレルロールを行う。総員、衝撃に備えよ!」

 

 全員がシートのベルトをきつく締め、パルの艦内放送が流れた。

 

「バレルロール? んな無茶な! 全員通路に避難しろ、急げ!!」

 

 広いスペースを取っている格納庫はてんやわんやの騒ぎである。

 固定している機材とて多くはない。最悪は横転する機材に巻き込まれる可能性もある。

 マードックの叫びで整備班の面々は急いで狭い艦内に通路へと避難していく。

 

 整備班が慌てて艦内通路へと逃げ込んでいく中、その時が来た。

 

「グーン2機、来ます!」

「ゴットフリート照準!」

「行きますよ!」

 

 ノイマンが宣言すると同時に、ふわりとアークエンジェルの右舷が持ち上がり、代わりに左舷が沈んだ。

 照準を合わせる為の微速ロールだが長くは保てない。グーンが顔を出すタイミングにできるだけ合わせる様に、ノイマンの操舵が魅せる微速のバレルロールである。

 ゆったりとした動作の中、180度のロールが完了したところで、待ち構えていたかのようにグーン2機が顔を出した。

 

「てぇー!」

 

 間髪入れず、ナタルの号令と共にゴットフリートを発射。

 巨大なビームに貫かれ、グーン2機が爆散する。

 

「掴まって下さい!」

 

 直後、ノイマンが一息にまた180度の回転を行いアークエンジェルの姿勢を元に戻した。

 

「グーンの反応、ありません!」

「良くやった。ノイマン少尉、アーガイル二等兵も」

「お褒めに預かり光栄ですってね」

「ふぅ、生きた心地がしませんでしたよ」

 

 立役者の2人を労うナタルの声に、ノイマンは不敵な笑みを、サイは対称的に疲れた笑みを見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、海中ではストライクとモラシムの乗るゾノが激戦を繰り広げていた。

 

 

「ちぃ、どうにか足を止めないと! くぁ!?」

 

 周囲を突かず離れずで攻めてくるゾノ。

 ストライクに乗るキラは、何度も受けた衝撃に必死に耐えながらエネルギーゲージを見た。

 

「(まだエネルギーは半分ある。向こうの残弾だって苦しくなるはずだ……必ず接近してくる)」

 

 既にアークエンジェルへと攻撃に向かったグーン2機に意識を割く余裕はなかった。

 目の前にいるグーンよりやや巨体なモビルスーツ。

 隊長機と思われるゾノに、先程から手も足も出ないのである。

 

「今日こそその機体、バラバラにしてくれるわ! このゾノがな!!」

 

 気合いの声と共に、ゾノがストライクへと突貫。

 

「ここだ!」

 

 その瞬間を察知して、キラは迎撃にソードストライカーのアンカーを射出。

 だが、それはこともなさげにゾノに弾かれる。

 

「甘いんだよ、ナチュラルが!」

 

 ゾノは勢いに任せて体当たりを敢行。

 ストライクはそれに合わせる様にシュベルトゲベールを突き出した。

 

「これで!」

「なんの、これしき!!」

 

 紙一重、突き出されたシュベルトゲベールを躱しきるゾノ。

 そのままに体当たりを受けたストライクは、海底の岩壁をいくつか砕きながら、岩肌へと叩きつけられた。

 

「ぐぅ、あああ」

 

 大きな振動がストライクのコクピットを襲う。

 だがそれでも。ここまではまだ想定内。

 至近距離となった今こそ、キラとストライクが勝負に出れるチャンスである。

 衝撃をこらえながら、キラはあきらめずに光学カメラが拾う映像を見据えた。

 目の前で動く機体。ゾノがストライクのコクピットへ向けて腕部のビーム砲を放とうとしていた。

 

「させるか!」

 

 腰部にある、エールストライカーから取って備え付けていたビームサーベルを取り出し、ゾノへと突き付けて出力。

 水中では機能しない兵装ではあるが、この密着状態で機体に押し付ければ、出力して機体を貫くことはできる。

 そしてそのまま、サーベルを横に薙いだ。

 

「う、うわぁああ!!」

 

 上下に真っ二つにされたゾノがストライクの目の前で爆散していく。

 激しい水の流れと、機体を揺らす轟音を感じながら、キラはゾノの撃破を確認した。

 

「はぁ、はぁ……なんとか、なった……」

 

 

 不利な状況での戦いを制した事に、キラは小さな安堵の息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトの潜水母艦クストーを撃沈したムウとカガリ。

 しかし撃沈の間際に発進したディン2機との交戦状態に入り、苦戦を強いられていた。

 元々スカイグラスパーの様な戦闘機でMSを相手にするのはかなり分が悪い。

 機動性はもとより、武装の使用においても射角が非常に狭い戦闘機では、小回りが利くMSを相手にするのは難しいのである。

 それが地上用のMSではなく空戦用のディンであるなら尚更だ。

 

 しかし、それは1対1ならばの話。

 

「くそぅ! こうもちょこまかと動かれては当てようが」

「太陽に向かって上昇しろ! 俺が合わせる!」

「くっ、わかった!」

 

 ムウの指示に、迷わずカガリは機首を上げて上昇していく。

 カガリのスカイグラスパーと戦闘中のディンも迷わず追従した。

 ヘルメットの遮光機能を使用して眩い光に目をやられない様にしながら、カガリはムウが狙うその瞬間を待つ。

 その時はそう間を置かずにやってきた。

 カガリの視線の先で陰る機影。上昇するカガリに対してムウはその直上から下降してきたのだ。

 

「うぉおおお!」

 

 僅かに機首をずらしてムウの射線を躱すカガリ。

 次の瞬間、ムウのスカイグラスパーのアグニが火を噴き、カガリを追ってきたディンを貫いた。

 

「やった!」

「バカ、余所見するんじゃない」

「えっ──くっ、しまった!?」

 

 ムウが撃墜したことに気を取られたカガリの機体を小さな衝撃が襲う。

 下降してきたムウとすれ違うと言うことは、ムウが引きつけていたであろうディンと接近することになる。

 すれ違いの際に僅かに躱した分で、直撃まではしなかったが、ディンの機銃の1発が機体を掠めていた。

 

「全部終わるまで油断するんじゃないよ、バカ!」

「なっ、バカとはなんだバカとは! 大体注意するのが遅すぎるんだ!」

「敵がまだいるのに油断するのが悪い! この事はタケルに報告するからな!」

「まっ、待て。それだけは絶対ダメだ! アークエンジェルに戻れなくなるじゃないか!」

「どの道嬢ちゃんは撤退だ! 残り1機なら、俺が受け持つ。被弾したんじゃどうしようもないだろう」

「ナビゲーションモジュールをやられただけだ! まだ──」

「被弾した機体で無理させたら、今度は俺が怒られるだろうが!」

「──うぅ、わかったよ!」

 

 油断して被弾したとなれば、悪夢の訓練がより苛烈になってしまう……

 そんな戦闘中にはおよそ考えるべきでは無い心配を抱えて、戦場に居残ろうとするカガリ。

 被弾したとわかってて撤退を指示しなければ、出撃前にマリューに言った言葉が嘘になり、帰還した折にはタケルとマリューからダブルパンチを食らうこと請け合いなムウ。

 どちらも譲れない事情を抱えながら、被弾してしまったカガリが渋々引き下がる事となった。

 

 どの道、敵が残ってるのに油断したカガリは、このまま残って戦果を上げようが結末は変わらないであろう事は想像に難く無いのだが……今のカガリにそこまで先は見えていなかった。

 

「帰投はできるな?」

「方角はわかってる、大丈夫だ」

「なら早く行け、こいつは俺が抑えておく」

 

 それ以上口を開く事はなく、カガリは悔しそうに唇を噛んでその場を後にした。

 アークエンジェルの居場所を悟られない様、僅かに方向をズラして帰還の途に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスラン・ザラは現在、航空輸送機に揺られて空の旅の只中にあった。

 

 ラウの指示によって結成されたザラ隊。

 カーペンタリアにて受領した潜水母艦へ、乗機であるイージスを輸送中なのである。

 

「どう言う事だ、こんなところで誰が……」

「計器の不具合とかじゃ無いのか? この辺はNジャマーの影響も大きいし」

 

 輸送機のパイロット2人が、何やら訝しんで声を出している。

 気になったアスランは、彼らの元へと向かった。

 

「どうしたんです?」

「あ、どうやら前方で戦闘らしき反応があるんだ」

「本当ですか!?」

「計器の誤作動かとも思ったが本当の様だ。巻き込まれると厄介だな……この輸送機にグゥルは積んでいない」

「最悪巻き込まれて撃墜なんてなったら、あんたの機体ごと落ちちまう」

 

 グゥルとは、大気圏内における飛行能力を持たないMSに飛行能力を持たせるためのサブフライトシステムである。

 高出力のスラスターを搭載した、MSを乗せる乗り物と言った感じの機体でこれがあればどの様な機体でも空での戦闘が可能になる。

 

「ひとまず、進路を迂回させましょう。巻き込まれて無為に落とされても仕方ありません」

「了解だ。すぐに──」

「センサーに反応! これは……」

 

 アスランがハッと息を呑む中、パイロットは驚愕の表情を浮かべた。

 

「まずい、地球軍の戦闘機だ!」

 

 

 

 

 

 

「くそ、こんなところを飛んでるザフトの輸送機って事は、援軍か!?」

 

 僅かに方角をずらした帰投の途中。センサーが拾った反応が気になりスカイグラスパーを向けてみればそこにはザフト軍の輸送機。

 思わず、カガリは表情を歪める。

 

 クストー撃沈に対艦ミサイルは使い切っている。

 スカイグラスパーには標準武装の小径ビーム砲も備わっているが、ディンとの戦闘でそれも弾切れ。

 残るは威力も低い機銃しかない。

 

「墜とせるか……? いや、増援ならここで墜とすしか。えぇい!」

 

 逡巡、やるべき事を決めたカガリは輸送機へと向かった。

 

「くそっ、なんでこんなところで地球軍が!?」

「君はすぐにMSへ! いざとなれば機体はパージする!」

「なっ、しかし!」

「積荷ごと落ちたら俺達の恥なんだよ! 急げ!」

「──わかりました」

 

 そうこうしている内に、カガリのスカイグラスパーは射程圏内へ。

 

「アークエンジェルの所へは、行かせない!」

 

 迷わず、カガリはトリガーを引いた。

 輸送機のパイロットは必死に機体を制御して躱そうとするも、MSを乗せる大型の輸送機で回避は叶わず。

 被弾して一気に飛行不能へと追いやられる。

 

「制空権内と思って油断したのが間違いだったな……」

「高度を下げて機体はパージする」

『あなた方は?』

 

 イージスから飛ばされる通信に、アスランが問題なく機体に乗り込んだ事がわかり、パイロット2人は一つ安堵して笑みを浮かべた。

 

「パージしたらすぐ脱出するさ。気遣いはいらん」

「わかりました。お気をつけて」

「アンタもな」

 

 次の瞬間、アスランを小さな浮遊感が襲い、輸送機からイージスが射出される。

 落下の勢いで機体が揺り動かされる中、アスランはイージスのスラスターを吹かし姿勢を制御しようとした。

 

 アスランにとって不運だったのは、輸送機を狙ったのがカガリであった事だろう。

 

「MSをパージした!? それに、あの機体!」

 

 カガリ・ユラ・アスハはそれを知っている。

 その機体の持つ性能を。その装甲の脅威を。

 吐き出された機体はオーブの不義の象徴であり、オーブの罪の証であった。

 

「PS装甲が展開される前に!」

 

 スカイグラスパーを急接近させ、カガリは再び機銃のトリガーを引いた。

 だが、いくらPS装甲を展開してないとはいえ最新鋭機のMSであるイージスの装甲は、威力の低い戦闘機の機銃程度では貫けない。

 

「コイツ!? いきなり!」

「このまま、落ちろ!」

「させるか!」

 

 アスランがPS装甲を展開するのと、スカイグラスパーの機銃によってイージスのスラスターが火を噴くのは同時であった。

 

「くっ、やってくれたな!」

 

 スラスターが稼動不能となり、高度も下がり落ちていくイージスであるが、アスランも負けじと応戦。

 頭部のイーゲルシュテルンがスカイグラスパーのエンジン部を打ち抜く。

 

「く、くっそー、まずい!」

 

 速度が落ち、揚力が消えていく。

 スカイグラスパーは姿勢の制御もできずドンドンと高度を落としていった。

 

「うわぁああああ!!」

 

 コクピット内に悲鳴を響かせながらカガリが乗るスカイグラスパーは海を滑る様に走り、近くの小さな島へと不時着するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んぅんあ…………私、生きてる?」

 

 どれだけの時間か、気を失っていたカガリは、コクピット内で目を覚ます。

 眩しかったはずの日がいつのまにか厚い雲に覆われており、日が高いか低いかもわからなかった。

 コクピットから外を覗けば、墜落しながらもなんとか角度を調整し、海面を滑る事で地面に激突することだけは免れたのだと知る。

 小さな島の岩礁に乗り上げる形で止まったスカイグラスパーだが、流石にもう計器の類は死んでいた。

 通信も飛ばせない、救援も呼べない。

 いくつか計器を操作して試したが、うんともすんとも言わず、カガリは諦めてシート裏にある緊急時のサバイバルバッグを手に取りコクピットを降りた。

 

「っと、天気も悪いし、海も荒れてきてる。急がないと」

 

 気絶してる間に、海が荒れてきたのだろう。

 コクピットから降りて見れば、浅いとはいえ海の真っ只中であった。

 早く岸辺へと急いだところで、カガリを一際大きな波が襲う。

 

「うわっ!? うっ、あぁ……くそ」

 

 不運にもその勢いにサバイバルバッグを流されてしまい、カガリは慌ててバッグを追おうとするが、あっという間に波に攫われていくバッグを見て追跡を断念。

 この事態に非常に不安を感じながらも岸辺へと辿り着いた。

 

「無人島……か。それもかなり小さい……」

 

 目の前には少し木々が生い茂った小山がある程度。

 反対側まで数百メートルと言うところだろう。

 天気が荒れそうな今、まずは雨風を凌げる場所を探すべく、カガリは歩き出した。

 

 島を突っ切る様に反対側へと向かう。

 生い茂る木々の合間を進んでいくと、岩肌を歩く人影を見つけた。

 

「(あれは、ザフト兵!)」

 

 瞬間的に、先の戦闘で撃った機体。

 そのパイロットである事を察して腰のホルスターに納めてあった銃を抜く。

 しかし、静寂の中にある無人島でその物音は眼前のザフト兵──アスラン・ザラの耳にも届いた。

 

「はっ!?」

「動くな!!」

 

 気づかれた。だが銃を構えている分まだカガリが有利である。

 動き出そうとする前に、カガリはアスランの足元を撃ち抜いてその動きを止めた。

 

「くっ!?」

「お前、さっきの機体のパイロットだな?」

「そう言うお前は、あの戦闘機に乗ってた奴か!」

 

 

 こうしてカガリ・ユラ・アスハとアスラン・ザラは、小さな島で運命の出会いを果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵。それは討たねばならぬもの。

 戦場にて銃火を交わした2人が出会いを果たす時。

 互いの言葉が向く先は、討つ正義か、討たぬ正義か。

 討つべき理由と討たれるべき理由を探す2人が交わす言葉は。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『二人だけの平和』

 

 平和への道、照らし出せ、ガンダム! 

 




いかがでしたか。

バレルロールは作中屈指のノイマンさんの活躍シーン。
あと、一度で当ててよナタルって言うマリューさんが好き。
息を呑んで了解するナタルさんも好き。

そしてようやくの運命の出会い。
主人公とのこれまでがあり、原作と随分違うカガリが無人島でアスランとどんな時間を過ごすのか。
次回をお楽しみに。

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