「こんな発表、素直に信じろって言うのか!!」
怒号の様な声がブリーフィングルームに響き渡る。
イザークが机の上に叩きつけた書面。それは先の戦闘の折、ザラ隊を追い払って見せたオーブ首長国連邦からの公的な回答の文書である。
「航行可能になるまで領海内に留まることを認めたが、既に地球軍戦艦はオーブ領海を離脱した……ね。エンジン部の爆発の後にあれだけ派手に砲撃ぶち込んでおいて、それが通ると思ってるのかってな。あれだけ撃ってりゃそれこそ撃沈しててもおかしくないだろうに」
「ミゲルそれは、あの砲撃が演出……と言う事か?」
「僕もそう思いますよアスラン。あれだけの砲撃を撃っておきながらのこの解答。本当に狙っていたのなら、足つきがあの場を離れて離脱などできるわけがありません。この回答が事実でない事は間違いないと思います」
「どうするんだ隊長さん? 俺達バカにされてるぜ」
ディアッカの声に険しい表情を見せるも、アスランは口を開けなかった。
ここでいくら怒りに塗れ騒いだところで、正式回答として出されたものに文句をつけても仕方がない。
たかがパイロットに過ぎない自分達に外交上の圧力などかける事はできないし、被害を出さないように早々に撤退したために、オーブの回答に切り返す材料もない。
「いくら騒いでも、押し切って通ろうとすれば本国を巻き込んでの外交問題だ」
「だからと言って! このまま引き下がるわけにも行かないだろう!」
怒り心頭の様子で睨みつけてくるイザークの視線を受けながら、アスランは返した。
「カーペンタリアから圧力はかけてもらうが、すぐに解決しない様なら──潜入する」
一同、アスランの言葉に息を呑んだ。
中立国であるオーブへの潜入。この情勢下では正式な手続きの下に入国は敵わないだろう。
必然、それは正式な手続きに乗っ取らない入国方法に頼る事になる──正に潜入だ。
露見すれば、やはり問題となるリスクの高い手段である。
「相手は一国家だ。俺たちの独断で不用意に火種となる様な事はできない」
「突破していけば足つきがいるさ! それで良いじゃない!」
ディアッカの軽い考えに、アスランはまた一つ表情を険しくさせた。
「ヘリオポリスとは違うぞ! 状況も、軍の規模もな。
オーブの軍事技術の高さは言うまでもないだろう。表向きは中立だが、裏はどうなってるか計り知れない……厄介な国なんだ」
地球軍への技術協力の下開発された、アスラン達が乗るXシリーズ。
その技術は当然ながらオーブ側にも取り込まれているだろう。
下手に藪をつついて、どんな蛇が出てくるか分からない。それが、アスランがオーブに抱いている危険性であった。
「なるほどな。潜入ってのも面白いし、俺は乗ったぜ」
「足つきの動向を探るんですね。僕も良いと思います」
「案外、あのオレンジやストライクのパイロットの顔でも拝めるかもしれないな」
「良いだろう。俺も従ってやる……だが、潜入するからには確実な成果を上げるぞ、良いな!」
「あぁ、わかってる」
ストライクのパイロットであるキラ。
無人島で出会ったカガリ。
そして、面識こそないものの一方的にその存在を知っているアストレイのパイロットであるカガリの兄。
ディアッカの言葉に、アスランは思わず彼等と出会う事を思い浮かべた。
「(出会ってしまったら、俺はどんな顔をすればいいんだろうな……)」
息巻く仲間たちを尻目に、アスランはため息を零さずにはいられなかった。
アークエンジェルの艦内通路を進むサイと、彼が案内する恰幅の良い女性。
彼女の名はマーナ。カガリ・ユラ・アスハの身の回りの世話をする侍女である。
その手には大きな鞄が持たれ、ずんずん歩みを進めていく。
「こちらです」
「ありがとうございます」
サイに案内され1つの部屋の前まで案内される。
自動ドアが開いたその先には、後ろ手に手を組んでどこか申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる大切な少女の姿があった。
「や、やぁ……マーナ……」
「姫さま!」
カガリの姿を見るや否や、感極まった様に抱きしめてくるマーナに、カガリは照れ臭そうに苦笑した。
心配をかけたのだろう。
一時の感情に任せヘリオポリスへと単身渡って、それから長いこと音沙汰も無く戻れなかったのだ。
幼少からカガリを世話して来たマーナからすれば、カガリは娘も同然。
そんなカガリの行方が知れなかった事は、彼女に大きな不安を掻き立てた事だろう。
その心中は、つい最近のタケルの様子を見てカガリは痛いほどわかった。
「よく、よくぞご無事で」
「心配かけたな、マーナ。ゴメン」
ひとしきりマーナの感情が落ち着くまで、カガリは優しい侍女の抱擁を受け続けるのであった。
オノゴロにある政府が所有する官邸の一室にて、タケルに案内されたマリュー等3人はウズミとの会談を迎えていた。
豊かな口髭をたたえた壮年の男性。厳格な雰囲気を持ちながら、どこか温厚な気配も伺える。
獅子と呼ばれるに足る、その気配に3人は緊張を露わにする。
「ウズミ様。こちらアークエンジェルの責任者の方々です。マリュー・ラミアス少佐、ムウ・ラ・フラガ少佐、ナタル・バジルール中尉」
「楽にして下さい」
「今回は、我々の受け入れを許可していただき誠に──」
「礼を言わせてもらうのはこちらの方だ。バカ娘と放蕩息子。2人を無事に我が国へ送り届けてくれた事、大変感謝している」
前代表首長に似つかわしくない発言に、マリュー達は呆気に取られる。
タケルもしっかりと自身の肩書きに沿った態度でいると言うのに、肝心のウズミがまず父親としての顔を見せて応対して来たのだ。
緊張していた3人はどこか肩透かしをくらった感覚すらあった。
「父さん、いきなりその始まりは違くない? 一応僕も肩書を持ってここに来たんだけど?」
「先に礼を言うべきはこちらだ。ヘリオポリス以来お前達が世話になったのならな」
「い、いえウズミ様。我々は御息女を巻き込みアマノ二尉にもずっと助けられ……我々から礼を述べる事はあってもウズミ様からのお礼を頂くなどと」
「先に話すべき事があるでしょう。私とカガリ様についての事は後にして下さい」
わかりやすく再び公的な顔に戻ったタケルは、少しだけ視線を鋭くしてウズミを見た。
ウズミもタケルの言葉に小さく頷くと、公的な顔を作って口を開く。
「本題に入ろう。承知の通り、我が国は中立だ」
「存じております」
「受け入れるからには、それ相応に理由がある。公的には貴艦は既に領海を離れて離脱したこととしているのでな」
「一応伺っておきたいんですが、御息女やそちらのアマノ二尉。2人が乗っていたから……と言うわけではないという事ですかね?」
「フラガ少佐、失礼ですよ」
「良い。父親としてはもちろん、そんな感情もあろう。国の命運との天秤にかけたりはせんがな」
父の顔。それがウズミを見た時に抱いた、厳格の中にある温厚そうな気配の正体だとマリュー達は思った。
久方ぶりに会えた息子。無事がわかった娘。父としての喜びが、どうしても隠しきれなかったのだろう。
マリュー達に真っ先に礼を述べたのも、そのがあっての事だと理解する。
「本当なら、人命のみを優先して、災いの種となる艦は沈めてしまおう、などと言う話もあったがな。そこにいるアマノ二尉からの提案により、災いの種とわかっていても受け入れるメリットができた──話は、既に聞き及んでいるのだろう?」
「はい。事前にアマノ二尉から伺っております。我々が持つ最新鋭機と艦の運用データ。その提供、と」
「先も言った様に我が国は中立だ。戦火の中で直接得られたデータは非常に有益なものになる。そのデータの提供が叶えば、貴艦への便宜もかなり図れるだろう」
「データについては既にまとめてあります。バジルール中尉」
「はっ!」
マリューの呼びかけに答え、ナタルは席を立つとウズミの傍に控えるタケルへと小さなメモリーチップを渡した。
「そちらに、これまでのデータをまとめたものが入っております」
「アマノ二尉、確認を」
「必要ありませんウズミ様。既に確認済みです」
「手早いな」
「予定通りですので」
そうか。小さく納得した様に呟くと、ウズミは席を立った。
「では、アークエンジェルへの最大限の便宜。こちらも約束しよう」
「ありがとうございます」
ウズミの言葉に、マリュー等3人は声を揃えて礼を述べた。
ひとまずの協力の約束。これだけでも大きい事であった。
タケルの言葉を信用はしていたが、それでも中立国であるオーブに問題なく受け入れてもらえるかはやはり不安であった。
できなければかなりの消耗をしたまま、補給も整備もなしにアラスカへの強行軍となっただろう。
正に今ここで、アークエンジェルは一つ救われたのだ。
「まさかこんな形で帰ってくるなんてなぁ」
艦内通路を歩きながら、カズイはボヤく様に呟いた。
その声に、トールもミリアリアも。サイもフレイも思うところあるのか神妙な面持ちとなった。
「こんな風に帰ってこれたなら、除隊しておけば良かったかもなぁ、ってちょっと思っちゃったよ」
「バカ。そうなったら大気圏突入の時に落とされてんだぜ。カガリが言ってただろ、シャトル……落ちちゃったって」
「そういえば、そうだったよね……でもせめて、家族に会うくらいは許可してくれないかなー」
「父さんも母さんも、ここにいるんだもんね……あっ、ごめんフレイ。私たち無神経に」
「良いわよ別に。私だって気持ちはわかるし、それに家族の話ってなったら私にももう無関係じゃないもの」
「へっ? どういう、事?」
「あー、叶うなら俺の父さんと母さんに、フレイを正式に婚約者として紹介しようって話をしててさ……」
「なんだよサイ、いつの間にか随分話進めてるじゃん」
驚きもそこそこにサイとフレイの話に祝福の意を示す3人。
あの時、父親を失って悲しみに暮れたフレイの事を考えれば、今こうしてそれを乗り越え、新しい家族に迎え入れられることになるフレイを見て、友人として喜ばないはずもない。
「こうなると俄然、なんとか面会くらい叶えたくなるなぁ」
「可能性はあるみたいだよ、トール」
「おわぁ!? キラ、脅かすなよ。さっきまでいなかっただろ!」
「はは、ゴメンゴメン。ちょっとストライクの調整に格納庫に残ってたから」
「それでキラ、可能性はあるってどう言う事なんだ?」
サイはキラの先の発言について聞き返した。
はっきりと提言された可能性の言葉にサイも含めた5人の期待が募る。
「艦長達と出て行く前に、タケルが言ってたんだ。流石に志願しちゃったから除隊は無理だろうけど、帰ってきたって言うのにオーブの地すら踏めないのはねって。何としても家族との面会くらいは約束させてくるよってさ」
「キラ、それってもう確定した様なもんじゃんか!」
「うん、多分ね」
一気に気分が上がる5人にキラも我が事の様に笑みを浮かべた。
フレイの事もそうだ。
彼女の父親を守りきれなかったキラからすれば。彼女のあの辛く悲痛な叫びを目にした身としては、サイとの関係と家族となる事への喜び。
それが目に見えてわかった事は自身も救われる思いであった。
嬉しそうに友人達を見つめるキラだったが、その時少し大きな声が艦内通路に響き渡る。
「えぇいもう、自分で歩ける!!」
「駄目で御座います!!」
何だろうか。別に切羽詰まったとまではいかないが、どこか焦った様な声にキラは振り返る。
「えっ、か……カガリ?」
「うわぁ、嘘。あれがカガリ?」
「うっそ〜、別人じゃない」
キラ、トール、フレイと。気がついた順に感嘆の声を漏らした。
それもそのはず、砂漠でキラが見た時より更に着飾られたカガリが、侍女のマーナに手を取られて歩いて来たのだ。
綺麗に結われまとめられた、輝く金糸の髪。
首元を髪に合わせた金色のチョーカーで飾り。
アイシャも仕立てた様にカガリに似合う薄緑を濃淡2色でデザインしたドレスを着こなして。
そこにいたのはどこか妖精の様な印象を抱かせる、オーブの可憐な姫君の姿であった。
着飾った自身の姿に気恥ずかしさを感じているのだろう。
羞恥に顔を朱に染めてる表情まで、今のカガリの魅力を引き立てる要素となる。
「トール」
「サイ」
旦那の手綱を握ると言ったように、見惚れるトールとサイに向けて冷たい声が飛び、2人は慌てて頭を振った。
「いやーまさかカガリがあんな綺麗だとは思わなかったけど、やっぱり俺はミリィが一番だなぁ」
「白々しい」
「フレイ、俺は君が一番だ。さっきのはあまりにこれまでと違い過ぎたから見つめてしまっただけで──」
「鼻の下伸びてるわよ、サイ」
ぎゃふっ、とその場で撃沈するトールとサイ。
特定の関係を持つ女性を持たないキラとカズイだけは、そんな2人を放置してカガリを食い入るように見つめていた。
当然ながら、そんな視線にミリアリアとフレイからは冷めた視線が投げられる。
「全く、ちょっと綺麗だとすぐこれだもん」
「ホント、男っていやね」
アークエンジェルは戦艦だ。
軍人は基本的に男性の割合がずっと高い。マリューやナタルなど、例外中の例外と言っていいだろう。
マリューは軍人とはいっても技術士官であるし、ナタルはそれこそ軍人として生きていくことを定められた家の下に生まれたという話だ。
つまり、今艦内通路をざわつかせてる人間の全てが男性の声であり、その向かう先がこれまでそんな気配を微塵も感じさせなかった妖精の様な少女であることに、ミリアリアとフレイは御立腹というわけである。
「フレイ、行こっか?」
「そうね。あんなカガリ、早々拝めないわ」
ニヤリといったように笑みを浮かべて、ミリアリアとフレイは遠巻きに眺める男どもを尻目にカガリの下へと駆け寄った。
「あっ、ミリアリアにフレイ……」
「カガリ、すっごく可愛いよ」
「妖精みたいよホント、凄いじゃない」
目を見開いてカガリは顔を逸らす。
友人と言えるミリアリアとフレイが来てくれてよかったと思うのも束の間、このカガリにとって羞恥を誘う格好を褒められても、カガリとしては嬉しくない。
むしろ似合わないと言ってくれた方がありがたかった。
「そんな顔しないのよ、カガリ」
「貴方だって魅力的な女の子なんだから。恥ずかしがってないで堂々としなくちゃ」
「や、やめろよ……こんな格好、不本意なんだからな」
「もーいつもの男勝りも消えて本当に可愛いわねこの子」
「わかっててやってるわよね。こういう時に限ってちょっと恥ずかしそうに顔逸らしちゃって」
「姫様! マーナもご友人と同じく、堂々とするべきかと思います」
「やめろと言っている! あーもう、なんでこんな……さっさと行くぞ、マーナ!」
いつもなら肩を怒らせてずんずんと歩くような態度だと言うのに、今のカガリはやはりマーナに手を引かれ淑やかに歩いていく。
そんなあまりにもアンバランスなカガリの姿に、ミリアリアとフレイは改めて微笑ましく見守るのだった。
モルゲンレーテ社。
オーブ連合首長国のオノゴロ島に本社と工場施設を置き、兵器などの開発、製造を行っている国営企業である。
オノゴロ島北西に位置する軍港の北半分を占めるその敷地内に、本社ビルのみならず空港やエネルギータンクを併せ持ち、モルゲンレーテ社敷地の裏手・軍港北側から海岸線までの間の広大な森林部の地下に秘密ドック、MS地下試験場、MS工場等を秘密裏に持ち合わせている。
とどのつまり、オーブの軍事における全てを担う企業がモルゲンレーテであると言える。
そんなモルゲンレーテの本社。
夕暮れ時に巨大な施設の前で建物を見上げるのは、久方ぶりに帰還を果たしたタケル・アマノである。
「すごく久しぶりな気がするね……実際すごく久しぶりなんだけど」
少しだけ顔を出すのが憚られた。
気分はまるで長い事無断で欠席をして久しぶりに学校に行くようである。
予定外が過ぎる程に長引いた、カガリを連れ戻す特務。
その間、開発はエリカ・シモンズが主導となっていただろうが、Xシリーズの台頭と技師達から技術の持ち帰りもあって恐らく大忙しであっただろう。
新規技術のオンパレードに際して、アストレイの生みの親であるタケルがいなかった事は、エリカに多大な苦労をかけた事請け合いだ。
何を言われるだろうか……そんな小さな不安を抱いていた。
「あー! アマノ二尉!」
「本当だ! 帰って来てたの本当だったんだ!」
「だから主任、あんなに嬉しそうだったんだね」
姦しい声に振り返ると、タケルは懐かしい顔ぶれを目にする。
カガリとは少し色合いが違う金髪に、カガリと同じく少し勝ち気そうな少女、アサギ・コードウェル。
深いワインレッドの髪を短く揃えた活発そうな少女、マユラ・ラバッツ。
ピンクフレームのメガネに長い紺の髪の大人しそうな少女、ジュリ・ウー・ニェン。
久方ぶりに会う、タケルにとっては愛弟子とも呼べるアストレイのテストパイロット達である。
「や、やぁ、3人とも。久しぶり」
「わー本物だー!」
「本物って何? 僕の偽物でも出たの!?」
「ずっと帰ってこないから心配してたんですよ! 主任も任務中としか教えてくれませんしぃ」
「あ、あはは、特務だったからね」
「それじゃ、もう終わったんですか? 私達かなり腕が上がったんですよ。アマノ二尉に早く見せてあげたいくらい」
「そっか、僕がいない間もずっと頑張ってくれてたんだね」
姦しいものの自身の帰還を喜んでくれる3人に、戻ってきた事が実感できて、タケルは嬉しさに表情を緩めた。
大変なことばかりであった。
予期せず訪れた戦火。
守るために必死になり、守れずに傷ついた。
未だにタケルは、衛星軌道上で撃ち落とされたシャトルを夢に見ては泣く事がある。
それでも、こうして元の日常に戻ってこれた事で、傷つきながら戦ってきた事が報われた気がした。
「あれ、アマノ二尉。な、何で泣いて……るんですか?」
「へっ? えっ、なんで……」
不思議そうにタケルの顔を覗き込んでくるアサギの言葉に、タケルは自身の目元を拭った。
そんな気じゃなかったのに、安堵して気が緩んだのか、タケルの目は涙を滲ませて行く。
「あっ、あはは。何でだろう……ちょっと大変だったから安心しちゃったのかな」
「安心ですか。それならおかえりなさいパーティでもしましょうよ。ねっ、アサギ、ジュリ!」
「賛成ー! ジュリは?」
「良いと思うよ。主任も嬉しそうだったし一緒に誘って、皆で折角だからパーっと……アマノ二尉、どうですか?」
「あー、えっと……それじゃ折角だから」
「パーっとするのは結構だけど、先にまず私のところに報告するのが筋じゃなくて? アマノ二尉?」
落ち着いた声で割って入ってくる女性の声。
見れば、建物から出てきたであろうエリカ・シモンズと、なぜか一緒にいる軍服姿のトダカ一佐の姿があった。
「あっ、エリカさん。トダカさんも、お久しぶりです」
「ふふ、長い出張お疲れ様でした、アマノ二尉」
「モルゲンレーテに来れば、会えると思って来た次第だタケル。久しぶりだな」
どことなく父親の様な顔を見せるトダカの姿に、タケルもまた嬉しそうに顔を綻ばせる。
トダカは、タケルがアマノに養子に出されるその以前。タケル・イラ・アスハの護衛として幼少の頃より傍にいた軍人である。
アマノの性となってからも、何かと気にかけてくれたり、タケルが軍人となってからもその関係は続いていた。
自分に自信がなく、争いごとを嫌うタケルに技術者としての道を見出したのは他ならぬ彼である。
「アサギ、マユラ、ジュリ。ミーティングルームのBを使うから準備しておいて」
「うぇ!? 今からミーティングするんですか?」
「何言ってるのよ……パーティ、するんでしょ? 私も参加するから準備しておいて頂戴」
「あ、そっちですか。はーい、わかりました。行くよ2人とも!」
「オッケー」
「うん」
慌ただしくその場を離れてく3人。
アサギはモルゲンレーテ本社へと。マユラとジュリは、社用車に向かい恐らく買い出しに向かうのだろう。
その光景に、タケルはまた苦笑いで見送った。
「なんか、気を遣わせちゃったみたいですね」
「そんな疲れた顔をして……大変だったんでしょう? トダカ一佐もいるんだし、久しぶりに甘えていきなさい。報告はパーティの後にでも聞いてあげるから」
それだけ言うと、エリカは社内へと戻って行く。
残されたタケルとトダカは、夕暮れ時の敷地内を合図もなく共に歩き始めた。
「敵わないですね、僕の事はバレバレですか」
「わかりやすいからな。相変わらずお前は」
「何がですか?」
「気持ちが一杯になるとすぐ泣く」
「ちょっ、見てたんですか!?」
「別に今更だろう。昔からお前が涙脆いのは変わらん」
「男としては何も嬉しくないんですけど?」
「経緯は聞いている。お前の性格なら無理も無いだろう……」
トダカの言葉に、タケルはトダカがこれまでの道程を聞き及んでるのだと察した。
彼は労ってくれてるのだ。慰めてくれてるのだ。
必死に戦いカガリを守って来た事を。
必死に戦い、守れなかった事を。
護衛の任を外れてからもずっと、軍人としてタケルを見守って来たからこそ、今のタケルが傷つき疲れている事がわかっているのだ。
「昔から言っているが、戦うのをやめても良いんだぞ」
「昔から言ってるけど、そんなの御免ですよ。僕はこの国を守りたいんですから」
「やっぱり、相変わらずだな」
トダカは思う。
目の前の少年は決して戦う事に向いてる人間では無い。
失う事を受け入れられず、失う事を恐れるその深過ぎる情は、いずれ喪失の悲しみに押し潰されるだろう。
だが同時に、最も強いとも言える。
失えない気持ちが強過ぎるからこそ、その能力を限界まで振り絞れる。
言うなれば、望む力が人一倍強いのだ。
それは、人が何かをなすときに必要な力である。
「残念ながら私は今日同席できないが、明後日は休暇となっているのでな。久しぶりに家に来なさい」
「無理ですよ。明日からもう、こっちに缶詰めになるでしょうから」
「ようやく戻って来たと言うのに、忙しいやつだな」
「彼女達の面倒も久しぶりに見なきゃいけないですから」
「彼女達と言えばタケル。良い加減誰かとくっつかないのか?」
「ぶっ!? いきなり何言ってるんですかトダカさん!?」
「軍事施設には珍しい年頃の女の子達だろう。私としても息子同然なお前の趣味趣向というのは大いに気になるところだ。やはりカガリ様に似た感じのアサギか? それとも引っ張ってくれそうなマユラか? 傷心のお前を癒してくれそうなジュリも──」
「そんなの知るかぁ!」
先ほどまでのしんみりとした空気を吹っ飛ばす様なトダカの悪ノリに、タケルは顔を赤く染めて踵を返すとモルゲンレーテ本社へと入って行く。
労うなら、慰めるならこのくらいが良い。抱え込むわだかまりを別の事で吹き飛ばしてやった方が、タケルにはよっぽど効果的だ。
とは言え、トダカにとって先の発言はあながち冗談でも無いわけだが。
「全く、本当に相変わらずだな」
怒りか羞恥かはわからないが、ムキになったタケルの様子に、トダカはやれやれと肩をすくめるのだった。
オノゴロの周囲を作る岸壁。
その地形を利用して島に取りつく場所を限定し、天然の要塞とも言えるオノゴロ岩肌だが、その麓の小さな足場で、怪しげな人影が数人待機している。
何をしているのか。人目に付けば怪しいこと事の上ないが、こんな岸壁の小さな足場。目にする人間がいる方がむしろ不自然である。
そして、海よりダイバースーツを着込んだ人影が5人、姿を現した。
「クルーゼ隊、アスラン・ザラだ」
現れたのはザラ隊の面々。
オノゴロへの潜入として海中より侵入を果たしたのである。
先立って待機していた数人はモルゲンレーテの技術スタッフの姿をしていた。
「ようこそ、平和の国へ……」
怪しげな笑みと共にアスランの手を取った一人。
平和の国オーブに、ザフトの魔の手が忍び寄っていた。
帰ってきた故国。戻ってきた日常
が、戦火に投じたその身は元の日常へと戻ることを許さず
切り捨てた過去は、再び少年の心を蝕んでいく。
変わりゆく世界と変わらない自分。
移り変わる心に揺れ動く中、タケルは新たな戦いを見据える
次回、機動戦士ガンダムSEED
『タケル』
彷徨う心、導け、ガンダム!
いかがでしたか
ドレス姿のカガリはかわいい。それだけ
感想お待ちしております。