機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-48 次なる戦いへ

 

 

『第6作業班は、13番デッキより作業を開始して下さい』

『機関区、及び外装修理班は、第7ブースで待機』

 

 オノゴロの艦船ドックにて、修理が進められていくアークエンジェル。

 忙しなく連絡や放送が回り、沢山の人員がドックを動き回っていた。

 

 その光景を、アークエンジェル艦橋内でナタルとノイマンは眺めていた。

 時刻は早朝。昨日の夕刻にマリュー達がウズミとの会談を終えて戻ってきたかと思えば、もうアークエンジェルの修理差作業に入っている。

 素直にその対応の早さに驚いていた。

 

「もう、作業に掛かってくれるとは。驚きでした」

「そうだな……私もありがたいとは思うが……」

「何か?」

 

 言い淀むナタルを訝しむノイマン。

 続きを促す視線を向けられ、ナタルはドック内に視線を向けながら口を開く。

 

「背に腹は代えられないとはいえ、他国へ技術の流出を齎したことは事実だ。ストライクもアークエンジェルも、元がモルゲンレーテ製とはいえ、実戦での運用データは我々にとって貴重なものだ──この事は、アラスカに戻れば問題となるだろうな」

「ですがそれも、アラスカまで辿り着けなければ仕方ないでしょう」

「上が現場の苦労を知らない事は世の常だ。ボロボロでオーブの領海に不時着した様な事態を招いた、艦長や私に責任が向くだろう」

「その通りだから仕方ないわよ。それも──まぁ、私の責任になるでしょう」

「艦長!?」

 

 背後からかかる声にナタルとノイマンが振り返る。

 2人と同じく艦橋へと上がってきたばかりのマリューの姿があった。

 

「軍務の最中、オーブへと寄港することを決めたのは私よ。貴方は気にしなくていいわ」

「ですが、我々にはアマノ二尉とアストレイの戦力が必要不可欠だったでしょう。オーブへの寄港ルートを取らなければ、それこそ彼等をどこかで降ろすことになっていた。そうなれば……砂漠も、インド洋も、とても超えられたとは」

「私達にこれ以上の手段は思いつかなかった。アラスカに向かう最善を取った。そう報告するだけよ──後は、上層部次第だわ」

「──問題にされますよ?」

「今更でしょ。民間人のキラ君をストライクに乗せ、他国の軍人であるアマノ二尉にも戦わせて、終いにはオーブの要人とも言えるカガリさんまでスカイグラスパーに乗せていたのよ。カガリさんについては、報告するつもりはないけど、それを抜きにしても、問題なんて山積みよ」

「それはそうですが……」

「もう辿ってしまった道筋よ。今更何を言っても変わらないわ。

 それより、少ししたらストライクをモルゲンレーテの工廠に運ぶために向かえが来るはずでしょ。ヤマト少尉に待機させておいて」

「──わかりました。この際ですから、こちらも内部システムの点検と修理を徹底して行います」

「えぇ、お願い」

「では」

 

 募る言葉を飲み込んで、ナタルは敬礼で返した。

 確かに彼女が言う通り、今更言っても詮無きこと。今は少しでも、アラスカに向かうための準備に時間を割くべきだ。

 作業に離れるナタルと見送るマリュー。

 アラスカに戻ってからの2人の処遇に、傍で聞いていたノイマンは小さな不安を抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタカタとキーボードを叩き、タケルは現在モルゲンレーテの一室でパソコン端末と睨めっこをして作業に没頭していた。

 

 自身が居なかった期間での、開発状況の把握。

 アークエンジェルから齎されたデータの活用。

 そして、Xシリーズの技術から更なる発展機の開発。

 

 やることは山積みである。

 

「流石はエリカさんだね……僕も考えていたアストレイの発展機。もう踏み切ってくれていたなんて」

 

 Xシリーズの技術でブラッシュアップされた、M1アストレイの後継発展機。

 M1とはModel1。つまりはナンバリングされた最初の量産機のモデルである。

 

「M2アストレイ。コストの高すぎるPS装甲は無しにしても、Xシリーズの内部フレームや機体構造は優秀だ。特に武装は……かなり幅広く流用できそうだ」

 

 自然と口角が上がっていく。

 戦場に出る為ではない、自国を守る力を強化する為に必死に働く時間。

 ある意味待ち望んでいた時間だ。タケルが楽しくなってしまうのも無理はない。

 

「ストライカーは取り入れよう……あそこまで高性能にしなくても、状況やパイロット事に同じ機体でもバリエーションが取れるのは有用すぎる。M1のバックパックを少し小型化して、代わりにウェポンパックで追加のブースターを……」

 

 独り言がはかどり、キーボードを叩く手は動く。

 いつの間にか入室していたエリカ・シモンズの事など、全く気が付くこともなく作業に没頭するタケル。

 

「アサギ達にテストさせるためにも雛形を作らないとな。仮称でブレードパック、スナイプパック、マニューバパックとして……マユラにブレード、ジュリにスナイプ、アサギにマニューバかな。一先ずはこの構想でM1でテスト──」

「帰国して早々、楽しそうな事してるじゃない?」

「うわっ!? え、エリカさん! えっ、いつの間に?」

「流石はエリカさんってところからよ」

「だんまりしてるにも程があるでしょ!?」

 

 随分前からではないか。

 楽しくなって独り言が捗っていたところも見られていたというのか。

 タケルは恥ずかしさに顔を染めた。

 

「楽しそうだったし、生き生きとしていたからね。つい──それに昨日の写真に比べたら恥ずかしい事なんか何もないでしょ?」

「その話はやめてください!!」

 

 再び羞恥に顔を染めるタケル。

 

 今朝方ミーティングルームで目を覚ましたタケルは、己の状況に発狂したと言っても良い。

 目を覚ましてみれば、柔らかい感触に囲まれ、身動きができない事に気が付く。

 見てみれば、背中にいるジュリに寄りかかり、左にアサギ、右にマユラが寄り添っている状況。

 混乱の極みに陥ったタケルに、止めとばかりに見せられる、目の前に置かれた携帯端末の画面。

 目覚めたこの状況にプラスアルファで、カガリを抱きしめその首元へと顔を埋めて幸せそうに寝ている自身の画像が写されていたのだ。

 

 声にならない悲鳴を上げたタケルは、アサギ達が起きるのも気に留めないまま、脱兎のごとくその場を逃げ出したのである。

 やってしまった……もはや自身が知らぬ間にとんでもない醜態をさらしたのは間違いがない。

 今日からカガリやアサギ達とどんな顔で会えばよいのかわからないのである。

 だから1人でモルゲンレーテに用意してもらった部屋で作業をしていたのだ。

 

 だというのに、目の前の妙齢の女性はからかい交じりにそれを思い出させ、あまつさえ再びその画像を見せつけているではないか。

 悪女だ──もはや彼女はタケルにとって悪魔の様な女である。

 というか起き抜けに見せつけるように置かれていた端末は彼女のものであったのか。タケルはまた一つ、エリカの悪女指数を引き上げた。

 

「そんな顔して睨まないでください。この上なく良い気分で眠れたでしょう? 大好きなカガリ様を抱きしめて、貴方を慕う彼女たちに囲まれて。世の男性諸君が見たら刺されるような状態なのよ」

「その前に女性に刺されるでしょう!」

「まぁ、それもあるかもしれないわね」

 

 羞恥と興奮がないまぜになり息を切らしたタケルは、努めて冷静に呼吸を落ち着け、一度頭を振った。

 意識を切り替える。これ以上からからかわれて無駄な時間を過ごしたくもない。

 

「M2の構想と試作……ありがとうございました。午後にはちょっと試運転してみます」

「苦労したわよ。貴方ならもっと良いものができたんじゃないかと……」

「十分ですよ。M1で基礎スペックを重視したまとまった機体には仕上がっているんです。発展機はそれを技術面でブラッシュアップするだけで良い。だから僕が考えたのは武装の換装による柔軟な運用と、強化」

「柔軟な運用は分かるけど、強化も?」

「ウェポンパックによって、武装の幅を持たせるのは当然ですが、機体性能にも幅を持たせます」

 

 タケルはパソコンの画面をエリカに見せながら、口を開いた。

 

「ブレードパックであれば、PS装甲部材を用いた追加装甲を腕部やコクピットに。接近戦での防御性能を向上させます。

 スナイプであれば、頭部のメインカメラに取りつける高性能照準センサーを。

 マニューバではパックの追加ブースターの出力をメインに据えて、元の機体自体のスラスターを補助枠に切り替えるスイッチ機能を」

「なるほどね……各々に必要な部分の性能強化を」

「マニューバだけは少し扱うのが難しくなっちゃいますけどね……追加のブースターの推力が高いとなれば、どうしても操縦感覚が変わってきますから」

 

 設計図の段階だが、それでもその完成度はエリカが見る限り高いように思える。

 元々タケルの能力に疑問を持ってはいないが、これが完成したあかつきにはアストレイの戦闘能力は向上と共に非常に大きな幅を持てるだろう。

 

「はぁー、貴方って子はどうしてこう……こんな短時間でもうこんな構想を」

「見てきましたからね……実際の戦いを。見てきただけでなく、戦ってきました。いうなればこれは、僕がこれまでに求めたものです」

「これまでの集大成ってことね。もう出来上がってたわけか」

「はい。M2に乗る前に、これの簡単な仮想データを仕上げて、シミュレーションでアサギ達に触ってもらおうかと思ってます」

「了解。M2は手掛けたこっちで貴方の意見も聞いて仕上げていくから、一先ず貴方はこっちを進めてくれる?」

「はい、わかりました──あと」

「ん?」

 

 真剣な表情へと切り替わったタケルに、エリカはまだ何か大事な話があるのかと身構えた。

 

「画像は消してください」

「あら、いやよ。安心して頂戴、私が個人的に楽しむだけだから」

「何も安心できませんよねそれ!? っていうか良いご趣味してますね!」

 

 ふふふと含み笑いを見せるエリカにタケルは再び呻くのだった。

 なんであの画像で個人的な楽しみが完結するのか。まだ少年なタケルには全く理解ができなかった。

 

 オーブは、今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストライクに乗ってオノゴロを歩き進めるキラ。

 先刻、モルゲンレーテの技術スタッフが迎えに来て、ストライクを本社の工廠へと運ぶように指示を受けたのである。

 ジープによる先導を受けて、海岸の岸壁沿いを歩いていくことしばらく。

 岩肌でカモフラージュされている巨大な扉が開かれ、キラはモルゲンレーテの工廠へと足を踏み入れていった。

 

 

『シモンズ主任。キラ・ヤマト少尉が到着しました』

 

タケルの部屋にいたシモンズにその一報が届く。

 

「あら、もうそんな時間。すぐ行くわ」

「キラ? なんでモルゲンレーテに……」

「ストライクは、こっちで修理するからね。機体を動かせるなら、運搬用のトラックに乗せるよりずっと楽だもの」

「あぁ、そういう事でしたか。折角だし僕も会いに行っていいですか?」

「もうすぐアサギ達が訓練に入るから出くわすかもしれないけど良いのかしら?」

「大丈夫です。仕事中ですから」

「あらそう。それじゃ行きましょうか」

 

 仕事中であれば肩書の仮面を被れる。

 タケルにとっては意識の切り替えがしやすい時だ。例の画像と今朝の記憶を頭の片隅に追いやれば普段通り接することもできる。

 

 タケルとエリカは並んで部屋を後にした。

 

 

 

「ここが、モルゲンレーテ」

 

 ストライクを指示された場所に置いたキラはコクピットから降り立つ。

 周囲は作業の準備に騒がしい中、規模の大きな工廠の中に素直に感嘆の声を漏らした。

 

「タケルが働く場所なんだ……」

「とは言っても、兄様は国防軍の所属だから一応は部外者だけどな」

「あ、カガリ」

 

 よっ、と軽い挨拶と共に歩いてくるカガリ。キラは昨日のドレス姿の印象が強烈だっただけにどこか面食らった。

 動きやすいズボンと半袖の赤いシャツ。ドレス姿からは考えつかないほどラフな格好である。

 

「なんだよ、ジロジロと」

「い、いや。昨日の格好が衝撃的だったからなんというか」

「忘れろ! あんなのは私じゃない!」

 

 やや羞恥に染まる顔を背け、カガリはキラへ抗議の声を上げる。

 本当にお姫様なのに、本当にその扱いが嫌なんだろうなと、キラはカガリの態度からそれを察した。

 

「変わったお姫様だねカガリは。フレイもミリィも、羨ましがってたのに」

「やめろよ、むず痒い」

「もっと言ってあげてよキラ」

「でないと、姫様のお転婆も治らないでしょうしね」

 

 到着したタケルとエリカの声が飛び込んできて、カガリは仇敵を見るかの様な目で、余計な事を言い放つ2人を睨みつけた。

 かと思えば、タケルの姿を見てカガリは思わず顔を逸らす。

 昨日の出来事が頭をよぎる。あの中で唯一酒精に酔っていなかったカガリだけは昨日の事を鮮明に覚えているのだ。

 普段自分からは決して甘えることのないタケルが猫撫で声で甘えるのは、カガリの母性本能をくすぐり背筋をゾクゾクと震わせた。

 何というか、羞恥はもちろんあったがあれはあれで嬉しかったわけである。

 

「カガリ、どうしたの?」

「何でもない! バカ兄様」

「タケル、お疲れ様」

「うん、お疲れ様。ありがとね、運んでもらっちゃって」

「良いよ、直してもらうんだし」

「完璧な修理を約束するわ。ここはいわば、お母さんの実家みたいなものだから」

「あ、キラ。この人はエリカ・シモンズさん。ここの責任者だよ」

「ストライクの修理、よろしくお願いします。シモンズさん」

「承りました。自由に、とはいかないけど折角だから色々見ていっても良いわよ。アマノ二尉、お願いしますね」

「わかりました」

 

 作業の指示にその場を去っていくエリカを見送ると、タケルはキラへと振り返った。

 

「タケル、良いの? 僕、地球軍だけど」

「データを見るわけじゃないんだし、大したことないよ。それに、ちょうど良いから見て欲しいのもあるんだよね」

「見て欲しいもの?」

「兄様、まさかアストレイ連中の訓練じゃないだろうな?」

「ご名答。さっ、キラ。こっちに」

 

 タケルに連れられキラがたどり着いたのは、強化ガラスで覗ける様になっている、屋内の巨大な演習場だった。

 

「アサギ、マユラ、ジュリ。訓練前にお知らせー」

「あれ、アマノ二尉」

「何でここに?」

「どうしたんですか?」

 

 カガリと違い、彼女達は昨日の事をほとんど覚えていない様である。

 タケルにとっては不幸中の幸いであった。お陰で普段通り接することができる。

 

「お客さんが来てるんだ。無様を晒したらシャトルランね」

「えぇー!?」

「何ですかそれ!」

「スパルタ反対です!」

 

 通信機越しに飛んでくるブーイングにも笑みを崩さないタケルの姿に、カガリはアークエンジェルでの訓練を思い出し震え、キラもまた訓練モードのスイッチが入ってることに気がついた。

 

「がんばってたんでしょ、僕がいない間も。昨日見せてくれるって言ったよね?」

「うぅ……」

「それは」

「言いましたけど」

「満足する出来だったら、僕から御褒美もあげるよ。だからがんばって」

 

 わぁ、と感嘆の声が聞こえて、彼女達がやる気を見出したことがわかる。

 やります! と一様に答えたアサギ達は模擬戦様のビームサーベル擬きを構えた。

 遠慮なしに叩き込めるカガリと違い、ここでは飴と鞭を使いこなす見事な手腕である。

 どうせご褒美とか言って訓練を追加するのだろうとカガリが小さく吐き捨てたのは内緒だ。

 とにかく見事にやる気を出させて見せた。

 

「アサギとマユラから行こうか。次はアサギとジュリ。最後にジュリとマユラね」

「はい!」

「了解!」

「わかりました!」

 

「それじゃ、始め!」

 

 スラスターを吹かすことなく、アサギとマユラの乗るアストレイは脚部での移動でもって接近し合う。

 互いに回避を主軸に、翻される模擬サーベルをうまくかわして、反撃に振るう。

 その戦う様を見て、キラは既視感を感じていた。

 

「あれ、この動き……」

「兄様そっくりだろ?」

「うん。なんて言うか柔軟で、モビルスーツとは思えないくらい高い可動域と運動性を活かした」

「アストレイの設計はそこだからね。ボールが飛んできた時、僕達人間なら当たりそうな部位を動かしてかわせるけど、MSはそこまでいかない。それができるように、アストレイはより人間的な動きを求めて設計された機体で、彼女達はそれを証明するテストパイロット。だから、徹底的にそれができる様な操縦を学んできてもらってるんだ」

 

 そんな話をしている内に、アサギとマユラの勝負はマユラに軍配が上がっていた。

 気を利かせたカガリが進行役を代わり、続いてアサギとジュリの模擬戦に入っていく。

 

「何で、これを僕に?」

「以前にマードック曹長とラミアス少佐から相談を受けたんだ。ストライクの消耗が激しくなってきてるって。特に関節部のね。キラは、OS組めるくらいプログラミングの知識はあっても、多分MSの構造や可動性には疎いと思ってさ」

「うん、確かにそう」

「ストライクの方が少し可動域はきついんだ。その分剛性はあって耐久度は高いけど。

 最近のキラの成長を見るに、キラが要求する動きにストライクがついていけなくなって来てる」

「うん……僕も、もっと早く動いてくれって、そう思う時があった」

 

 アサギとジュリの模擬戦はアサギの勝利で終わる。

 ジュリがそのまま残り、最後にジュリとマユラの模擬戦が開始されていく。

 

「彼女達は、キラよりもずっと操縦が遅い。でも、キラにはできない動きがあるはずだよ」

「うん、わかるよ。タケルの言いたいことが、なんとなく」

 

 重心、荷重、反動。人間が自然的に制御している様々な要素を理解して機体を動かしている。

 キラはそれを目の前のアストレイの動きから感じていた。

 機体の即応性や、スラスター出力に任せた強引な動きではない。

 機体を人間の身体に見立てて動かす、正に運動性と呼べる動き。

 それはキラが動かすストライクとの明確な違いであった。

 

「だからさ、ストライクと相談しながら、キラが求める動きを実現しよう」

「それを言う為に僕にこれを?」

「僕はもう、一緒に戦えないからね……アークエンジェルには、沈んでほしくないからさ」

 

 あっ、とキラは息を呑んだ。

 昨日の今日で会えたこともあり実感がなかったが、タケルとカガリはもうアークエンジェルには乗らない。キラと共に戦うことはない。

 これは、もう一緒に戦えないタケルなりの、最大限の援護なのだ。

 

「ありがとう……タケル。本当に」

「気にしないで。僕がやりたくてやってることだし」

 

 いつの間にか、ジュリとマユラの模擬戦も終わっていた。

 結果はマユラの勝利である。

 白星2のマユラ、白黒1のアサギ、黒星2のジュリとなり、結果に悔しそうにするジュリであるが、そこはタケル。フォローは欠かさない。

 

「ジュリは不利な接近戦だから相性が悪かったね。でも2人が仕留めるまでに時間がかかっていたから十分な動きだったよ。アサギは機動戦が得意な分距離感は良いけど、サーベルの扱いがもう少しかな。マユラは機体の動きは洗練されてるけど駆け引きが苦手だね。攻め手が読みやすい。素直な事は悪くないけど、模擬戦の時はもっと嫌らしくやって良いよ」

 

「はーい。距離感が良い、かぁ」

「うぅ、勝ったのに一番ダメ出し長い……」

「負けたけどむしろ一番高評価……やった」

 

 各々が思うところあり小さく呟く中、タケルは満足そうな表情を見せていた。

 

「以前に見ていた時よりずっと良くなってる。3人とも、本当にがんばってたんだね。約束通り、後で御褒美をあげるよ」

 

 うわぁ、っとまた再び感嘆の声を漏らしてはしゃぐ3人。

 素直な労いの言葉に感動も一入。慕う教官からの賛辞は、これまでがんばってきた日々を報いてくれる最高の言葉であった。

 通信機越しの姦しい声に、キラとタケルが苦笑する中、しかし呆れた様子のカガリが声を上げる。

 

「お前等、兄様の事全然わかってないな。御褒美なんて言ってるけど、どうせ次の機体のシミュレーションデータとかだぞ。兄様からまともなご褒美なんて期待できると思うな」

「えー、そんなわけないじゃないですか」

「ご自分がご褒美もらえないからって!」

「見苦しいですよ姫様」

「ごめんアサギ、マユラ、ジュリ……カガリの言う通り、次の機体データなんだ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 重なる疑問符の声。アサギ達だけでなくキラも漏らす。

 それはそうだろう。さっきの言葉、間違いなく労いの声音で告げられたものだ。

 誰もが、ご褒美と聞けば相手が喜ぶ様なものを想像するだろう。

 

 そこから先は怒号が飛び交った。

 

「ふざけるなー!」

「人でなし!」

「私たちのトキメキを返してください!」

 

 まるで怨嗟を纏った声がスピーカーからタケルに向かって放たれ、タケルは必至に彼女達を宥める。

 

「タケル、流石にそれがご褒美はどうかと思う」

「良いんだよキラ。兄様が教官ってだけで、あいつ等はずっと恵まれてるんだ」

「いやでも、カガリ。今のは流石に」

「キラもアークエンジェルで私の訓練を見てただろう。兄様の訓練は徹底して厳しいが、それ以上に優しい。絶対に無理はさせないし、一人一人に合わせて必要な事を徹底的にやってくれる」

「うん。トールも言ってたよ、ヤバいけど凄いって」

「はは、確かにそうだな。ヤバいけど、凄い訓練なんだ。あいつ等はもうご褒美をたくさんもらっている」

「そう考えれば、次のデータもご褒美って考えられるね」

「まぁ私もどうかと思うがな。兄様は昔からプレゼントとか贈り物はちょっとおかしいんだ」

 

 カガリの言うことにキラは声を上げて笑った。

 確かに、機体データをご褒美というのはタケルくらいだろう。それが喜ばれると本気で思ってそうでキラはまた苦笑した。

 

「まさか本当の本気、じゃないよね?」

 

 アサギ達へ必死に弁解するタケルの姿に、一抹の不安を覚えたキラだった。

 

 

 




いかがでしたか。

なんだかんだ優秀な教官役。
オーブ編入ってからめっちゃ感想もらえて作者は色んな意味で盛り上がっております。
ちょっと執筆頑張ってる分、返信が雑だったりしちゃうのはごめんなさい。
でも全部ちゃんとしっかり読んでおりますのでお許しください。
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