機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

63 / 264
PHASE-50 model2

 

 

 平和の国。

 オーブ首長国連邦をそう評するのは別段おかしい事では無い。

 高い技術力、経済力を持っている先進国でありながら、中立を謳いコーディネーターもナチュラルも関係なく暮らす国。

 

 侵略せず、侵略を許さず、そして自ら争いに介入をしない。

 非戦争とも言える3つの理念を掲げて中立を謳うこの国は、間違いなく戦争が遠いはずの国である。

 

「見事に平和な国ですね、街中は」

 

 潜入をして技術者の服装へと変装したザラ隊の面々は、平穏を享受するオーブの国民と街並みに感嘆していた。

 自分達の様に、戦争のことなど全く頭に浮かんでいない。

 良く言えば無邪気。悪く言えば無関心とも言えるが戦火をまるで感じさせない雰囲気は、とても昨日自国の領海で戦闘があったとは思えない気配である。

 

「昨日の今日だぜ……どんな神経してんだっつーの」

 

 ディアッカは面白くなさそうに愚痴を吐いた。

 潜入してまだ半日と言うところだが、今のところは手掛かりがない。

 街を行く人間の会話に耳をすましてみてもくだらない話ばかりで、昨日の領海の騒ぎすら話題に上がらず、もちろん今現在ぐるりとオノゴロを見て回ってはいるがアークエンジェルの影も形もみつかりはしない。

 

「居ない、なんて事は思っちゃいないがこれは想定より面倒だぜアスラン。街中で聞き耳立てる程度じゃ事態は変わらねえ」

「わかっている……なんとか確証を得ないといけない。最悪は関係者と思わしき人間を見つけて問い詰めるしか」

「ですがそんなことをすれば、こちらの存在も向こうに知れてしまうでしょう。得策じゃないんじゃ」

「向こうが知っていようとなかろうと、足つきがいるとわかれば俺達がやる事は変わらん。領海付近で網を張って待ち伏せするだけだからな。

 ディアッカ、俺と一緒に軍関係の施設を探すぞ。聞き取りではなく人の動きを見る」

「あいよ、イザーク。んじゃ俺達は別方面で行くぜ」

「それなら俺はもう少しあちこち歩き回ってみるわ。それっぽい人間見つけて上手く聞き出せたらやってみるぜ」

「では僕とアスランはもう少しここら辺で街中の調査に回りますね」

「夕暮時でまたここに集合だ。くれぐれも目立つ行動は控えろよ」

 

 イザークとディアッカ、ニコルとアスラン、そしてミゲルは単独となってそれぞれ調査を再開する。

 

 まだお昼時を過ぎたところだがこのまま何も進展がなければ、拠点となる場所も探さなければならない。

 今日はそこまで時間に余裕があるわけでもなかった。

 

 5人は急ぎ、各々の当てを考えて調査へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 モルゲンレーテの屋内演習場。

 場内には現在1機のモビルスーツが佇んでいた。

 コクピットではタケルが細かなOSの調整を仕上げており、今ようやくキーボードをしまう。

 白とオレンジを基調としたカラーリングのこの機体はM2アストレイ。

 タケルがオーブを離れてる間に進められていたM1アストレイの発展量産機のプロトタイプである。

 Xシリーズの内部フレームを採用して高い剛性を得ながらも、持ち味であるアストレイの運動性を損なわぬ様、関節部を覆う外部装甲に発泡金属で作った多層構造スライド式装甲を採用。

 高い可動域と軽量化を図りつつ、全体的なデザインをスリムに一新。

 特に脚部はM1より先細りのデザインに寄せており、重心を少し引き上げている。

 これによって地上での動作がより人間に近しい動きを再現できる様になっていた。

 

「よし、問題なしっと……それじゃエリカさん。テストの記録をお願いします」

『わかりました──それではM2アストレイ、テスト開始!』

 

 合図と同時に、アストレイは演習場を駆け出す。

 広いとは言え、MSが自由に飛び回るには流石に狭い演習場。

 だが駆け回る分には十分である。

 先程のOS調整もしっかり機能しており、M2アストレイは人間が走る動きと遜色ない動作で一気にその速度を上げて駆け出していた。

 

 立体映像で記されるマーカーを辿って演習場内を数周動き回る。

 その中でタケルはバックパックのスラスターも時折使用してヒラヒラと曲芸の様にアストレイを翻させ、その高い運動性を十分に機能させていた。

 

『水圧砲、入るわよ』

「了解です」

 

 演習場の壁部から高圧の水圧砲が顔を覗かせアストレイを狙う。

 機体を損傷せずカラー弾で汚すこともなく、射撃回避の訓練をできる優れもののテスト設備である。

 放たれる水圧砲を、タケルはヒラヒラと機体を翻して躱しきった。

 

『ハイ、OKです。アマノ二尉、あがってください』

「わかりました」

 

 ふぅ、と一息吐いてから、アストレイを降りたタケルは演習場から出てエリカ達と合流した。

 

 昨日、ユウキのせい(逆恨み)で色々と大変な目にあったタケルだが、結局のところ後で全員お願いを一つ聞いてもらうとの言質を取らされて皆に納得してもらうことに。

 何を頼まれるかと戦々恐々ではあるものの、一先ずそれを置いて本日は昨日できなかったM2のテストと構想を練っていた新しいバックパックを反映させたM2の機体データを作成し、近いうちにアサギ達に提供する予定であった。

 その為朝もそれなりに早い時間からM2の稼働準備を始め先程テストを行ったのだ。

 

「どうだったかしら、アマノ二尉。手応えの程は?」

「操縦感覚はかなり変わりました。関節部の強化と併せて下半身部分の軽量化が効いてますね。少し慣れは必要ですが、乗りこなせばさらに高い運動性が期待できそうです」

「高評価の様で何よりだわ。他には?」

「これだけ軽くなると武装面が少し怖いかもですね……重量バランスをきっちり作らないとウェポンパックのせいで折角の機動性を落としかねません」

「元々はこの状態で完成の予定だったものね……確かに後付けの武装によって崩れるようでは元も子もないわ」

「昨日の仮設計から少し弄ります。今日中にはデータを出しますね──それと、カガリ」

 

 突然に、アサギ達と一緒に眺めていたカガリを呼びつけるタケル。

 何の用だと訝しむカガリに、タケルは驚きの言葉を掛ける。

 

「OSはカガリ用に切り替えておいたからちょっとM2乗ってみてくれない?」

「はぁ? 何で急に」

「どうしても必要なんだ──お願い」

 

 突然のタケルの申し出に、カガリはほとほと困り果てた。

 エリカを見ても、アサギ達を見てもタケルの意図を掴んでいる様子は無い。

 予定されたテストを終え、これからテスト記録を確認しながら、正式機に向けた細かな仕上げへと入っていくはずだというのに、タケルはまるで引く気配を見せずに、真剣な表情のままカガリを見つめている。

 

「アサギ達じゃダメなのか?」

「カガリじゃないとダメ」

 

 まるで交渉の余地は無いとでも言いたげに間髪入れず答えてくるタケルの様子にカガリは静かにうなずいた。

 この時後ろで3人が不服そうな表情をしていた事を記しておこう。

 

「エリカさん。僕と同じテストプランで」

「ちょ、ちょっとアマノ二尉、本当に? いくら姫様でも貴方と同じ動きは──」

「僕のテストで一度見ているからできます」

「でも、初めて乗る機体なのよ」

「良いよシモンズ。兄様がやって欲しいというのなら、やるさ」

「──うん、お願い」

 

 安全の為パイロットスーツへと着替えに向かうカガリをタケルは見送った。

 

 突然の有無を言わさぬタケルの提案。エリカも含めて疑問の視線が向けられるが、それを受け流してタケルはM2を見つめていた。

 

「(スカイグラスパーとは違う……本気でカガリの機体を作るなら、真っ新な状態でのカガリの操縦を知る必要がある)」

 

 目的は1つ。カガリの機体を開発するためのカガリ自身の適正テストである。

 ユウキによって促されたタケルとカガリのフラッグシップとなる機体。

 ユウキの言う通り仲間を鼓舞するのが目的ならば、カガリが乗る機体に必要なのは戦闘力だけとは限らない。

 だが、かと言って無様にやられるようではそれはフラッグシップとしては逆効果となる。

 どんな機体がカガリにとって最適解なのか。

 それをタケルは知る必要があったのだ。

 

 そうこうしているうちに着替えたカガリがM2に乗り込み機体が起動される。

 

『兄様、準備ができたぞ』

「一応言っておくけど、宇宙で僕のアストレイに乗せた時よりOSの反応は引き上げてるからね。振り回されないようにして」

『私にとっては唯のアップグレードだ。構わない』

「それじゃエリカさん、お願いします」

「もう、本当に何を考えてるのよ」

「必要な事なんです」

「──わかったわ。それじゃ姫様いきますよ。テスト開始!」

 

 初動はタケルと一緒。

 スタートと同時にマーカーを目掛けて走っていくM2アストレイ。

 タケルの時の様にスラスターを使って色々機体の挙動を試すわけではなく、ただただテストの指示通りに機体を動かしていく。

 

『水圧砲、入ります』

「わかってる!」

 

 エリカの声に警戒を強めたカガリは、センサーが拾う情報を頼りに機体を翻した。

 だが狭い演習場内である事が不利となり、回避直後の隙を狙われ、僅かに躱しきれず被弾判定がでてしまう。

 

「ちぃ!」

 

 テストはまだ終わらない。

 そのまま継続して撃たれる水圧砲をめげずに躱して、カガリはM2を駆る。

 

「ちょっと、アマノ二尉」

「まだダメです。もう少し欲しい」

 

 先程のタケルの時よりよっぽど長いテスト時間。

 慣れない機体の操縦は神経を使うだろう。

 被弾判定の報せが、コクピット内のカガリを焦らせた。

 集中を切らせて、徐々に被弾判定の回数を増やしていくのが見て取れる。

 

『エリカさん』

『はい、そこまでよ……姫様もあがって下さいな』

 

 少しだけ肩で息をしながら、カガリは操縦を終えた。

 短時間のはずではあるものの、息をつかせぬ水圧砲の射撃に後手後手の回避であったカガリは、じわりと汗ばんだ感触を感じていた。

 

「了解だ、シモンズ──兄様、これで良かったのか? 被弾もしちゃったけど」

『別に完璧にこなしてもらいたくてやらせたわけじゃないよ。これで十分……戻ってきて』

「わかった」

 

 どこかぶっきらぼうにカガリは返してしまう。

 タケルが無駄な事をさせたいわけでは無い事はわかっていた。

 真剣な表情で願い出てきたのだから、必要な事だったのだろう。

 だが、何もアサギ達が見ている前でやる事はあるまい。

 あんな言い方をすれば、彼女達は自分達の実力が足りないのではと誤解するだろう。

 新型機のプロトタイプを正規のテストパイロットではなくカガリに扱わせる意味……カガリには見当がつかなかった。

 

「──はぁ、全くバカ兄様が」

 

 この後きっとやっかみを受けるに違いない。

 別にアサギ達も本気で羨むわけではないだろうが、彼女達とはいわゆる友人関係であると認識しているカガリにとって、兄の頼みとは言えこの状況はあまり嬉しくはなかった。

 

「やめだ。考えないようにしよう」

 

 吹っ切るように呟くと、思考を切り換えてカガリはコクピットから出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「なんで姫様なんですかー!」

「私達の方が動かせますよ!」

「私、ちょっとショックでした」

「3人とも。ちょっと落ち着こうよ、ね?」

 

 カガリが戻ってみると、案の定詰め寄られてるバカ兄がいるではないか。

 お決まりとなりつつある困った顔を見せてカガリへと助けを乞う視線が投げられるが、あえてカガリは無視をしてテスト記録をみるエリカの元へと向かった。

 

「どうだったんだシモンズ。私の記録は?」

「一度見ているとはいえ、驚きの動きかと思いますよ。流石は一番弟子というところですか」

「よせ、兄様がさっき求めたのは多分そう言う事じゃない……兄様が求めていたのはM2のテストパイロットではなく私だったというだけだ」

「私には意味が分かりかねます」

「だろうな……正直私も狙いはわからないし」

 

 はぁ……と、また小さくため息を吐いて、カガリは事態の収束を待った。

 なかなか彼女達を宥めるのに苦労しているタケルを見るのは、どこか溜飲の下がるおもいであった。

 

「M2のテスト自体は僕だけで終わり。カガリのはまた別件でデータが必要だっただけなんだってば!」

「嘘ですー!」

「絶対姫様贔屓です!」

「言い訳は男らしくありませんよ」

 

 今日の彼女達は随分と押しが強いようだ。

 気持ちはわかる。

 ずっとタケルがいない間も訓練に取り組み頑張ってきたというのに、その頑張りを無情にも切り捨てられた様なものだからだ。

 タケルの訓練生として、彼を慕って頑張ってきただけに、そのショックは大きい。

 怒りの様相もそうだが、彼女達のそのもの悲しさを垣間見て、タケルは自身の浅慮を自戒する。

 

「ゴメン、悪かったよ。ちゃんと全部話すから落ち着いて。本当はエリカさんと僕だけで極秘に進める予定だったんだけど」

「あら、私とですか?」

「情報漏洩の心配も無いですからね。僕はエリカさんを信用しています」

「えー! 私達はー信用してないんですかー!」

「アサギ達を信用していないわけじゃないけど、街中でうっかり話したりしちゃいそうだから」

「確かにね。そういう意味では怖いかもしれません」

「えー!」

 

 エリカの言葉に、今度はエリカへと標的を変えてぶーぶーと詰め寄るアサギ達を尻目に、タケルは1つのデータを端末へと表示させた。

 

 

「エリカさん。アサギ達も──これが、さっきのテストの理由です」

 

 そこには見たことも無い機体の設計データが映されている。

 タケルの意図を察して全員が端末へと集まりそのデータを確認した。

 アサギ達はまだ疑問符を浮かべているが、エリカとカガリだけは、先のテストと目の前の設計図面の関連性と意味に気が付く。

 

 画面にあるのは2機のMSの設計データ。

 まだ図面は中途半端である。

 特に片方は機体の基本構造部分だけでバックパックも武装の設計もない。

 それでもこれが、タケルが描くハイエンド機体の設計図であることは理解できた。

 

「──アマノ二尉、どちらがどちらの機体ですか?」

 

 おずおずと問いかけるエリカに、タケルは静かに答え

 

 

「ORB-00機体名“シロガネ”──搭乗者はタケル・アマノ。

 ORB-01機体名“アカツキ”──こちらがカガリの機体になります」

 

 

 それは、オーブを護る2本の剣の名前であった。

 

 

 

 

 

 

 

「家族に? 本当ですか!?」

 

 アークエンジェルの食堂。

 サイが返す驚きの声と共に、集められたヘリオポリスの学生組は顔を見合わせた。

 

「アマノ二尉から連絡があったわ。状況が状況だから家には帰れないけど、明日の午後に軍本部でご家族との面会時間を取り付けたそうです」

 

 わぁ、っと喜びの歓声が挙がる。

 ここしばらく見せる事のなかった心の底からの笑顔。

 マリューは、彼等からそれが見て取れた。

 

「わーい、やったー!」

「うぅ、トール、私どうしよう」

「どうしようって、今から泣いてどうすんだよミリィ」

「サイ!」

「フレイ、一緒に行こうな」

「うん! ありがとう」

「あぁ、本当に良かったな……」

 

 各々が喜びを露わにする姿に、マリューは思わず顔を綻ばせた。

 大切な家族との生活を引き裂き、望まぬ戦場へと放り出され、そしていつしか本当に軍人へとなってしまった彼等。

 その道を歩み出したのは彼等の意志ではあるが、その道を生み出したのは自分達だ。

 その負い目は、決して小さなものではない。

 彼等は本来、戦争とは関係ない所にいたはずなのだから。

 そんな彼等が家族と再会できるとあっては、マリューとしても我が事のようである。

 

「ほーら、騒ぐのは良いけどちゃんと聞きなさい。

 場所はオノゴロにある軍本部。丁度この艦船ドックの施設内にあるわ。時間は正午から16時までね」

 

 まるで学校の先生の様に、はしゃぐ彼等に言い聞かせながら、マリューもまた釣られて笑みをこぼすのだった。

 

 

 

 

 

 

「シロガネにアカツキ……兄様、これは」

 

 突然もたらされた自分の為に設計された機体の存在。

 カガリが混乱に惑う中、いち早く冷静になったエリカが口を開いた。

 

「なるほど。昨日の接触はコレの為というわけね?」

「そうです。義父(ちちうえ)からの指示です」

「ウズミ様はなんて?」

「一任する……と」

「なるほど。ウズミ様も承知の上という事ですか」

「既に聞き及んでいたみたいです。義父から……」

 

 あの日、ウズミとトダカの2人の元へと現れたユウキから提案された話。

 広がり続ける戦火の中、いずれはオーブも巻き込まれることを危惧したユウキが発案した、純オーブ製の最新鋭機の開発。

 タケルが戻ってきたことで、ユウキはそれを推し進める事とした。

 

 だがここでウズミとしては問題が。ユウキにとっては嬉しい誤算が舞い込んでくる。

 

 帰還したタケルからの報告には、カガリ・ユラ・アスハの戦闘記録があったのだ。

 それも十分に優秀な戦果の記録である。

 降って湧いたような吉報であった。

 無論、ただの戦力として考えたわけではない。

 オーブの獅子たるウズミの娘。その気概は確実に受け継がれており、いずれはオーブを背負う定めにある存在だ。

 その存在というだけで価値がある。

 その彼女が、戦闘に出られるだけの素養を持ち合わせているとなれば、国防において利用価値は大きい。

 最新鋭機の開発はタケルの機体だけの予定であったが急遽カガリの機体も加えての開発を推し進めた。

 わざわざモルゲンレーテに出向いてこの指示をタケルに出したのも、絶対に認めないであろうタケルの反対を封殺し開発に専念させるためである。

 

 

「まっさらな状態のカガリの操縦能力のデータが欲しかった。次に作るのはアストレイじゃないからね」

「それで慣れてない機体での操縦テストを」

「はい。シロガネがあるから、僕はM2のテスターとしては相応しくないし、アサギ達にはこれからM2のテストパイロットをしっかりやってもらうつもりだよ。

 カガリだって、アカツキを見据えているからアストレイのテストなんてさせないしね……だから3人とも、安心して欲しい。3人を軽く見てるわけじゃないんだ」

 

 タケルの言葉に、アサギ達は押し黙ってしまう。

 真実を明かされて、決してタケルが彼女達を軽く見ているわけでは無いとわかって。

 嬉しい反面、騒ぎ立ててしまった事を申し訳なく思って言葉が出なかった。

 

「アサギ、マユラ、ジュリ、気にしないで。僕の言い方が悪くて勘違いさせたのがそもそもの原因だから」

「ほーら、そんな顔しないの」

「兄様は気にするなって言ってるだろ」

「はい……」

 

 返事こそ揃ったものの、やはりそこにはいつもの元気がなかった。

 

「そんな感じでいられると困るんだけどなぁ……M2のテストはやったけど、アサギ達の仕事は今からなんだよ」

「え?」

「そうなんですか?」

「それって一体?」

 

 気落ちする彼女達を奮い立たせるように、タケルはまた別のデータを端末へと表示させた。

 

「M2に採用する予定のバックパック換装式ウェポンシステム。仮称としてマニューバ、ブレード、スナイプの3タイプをM1への装備としてシミュレーターに入れてある。今日はお昼までに全部一通り触ってもらって、午後からはそれぞれに1つ使い込んでもらってでデータを取るから。落ち込んでる暇なんかないよ」

 

 タケルの言葉と目の前に表示されるデータに、ぱっと気落ちしていた3人の表情に明るさが戻る。

 頼られる、期待されている。そして何より、タケルが自分達の力を必要としている。

 それが良く感じ取れたのだ。

 

「やります!」

「任せてください!」

「頑張りますから!」

 

 俄然やる気となった3人を見て、タケルもようやく安堵の笑みを浮かべた。

 

「僕は開発室でエリカさんとM2の細かな仕上げに入るから。お昼までには一通り触った所感をお願いね」

「はーい!」

 

 先程とは打って変わっての元気な返事に、タケルは思わず苦笑しながらも心持ち軽くなってエリカと共に開発室へと向かって行く。

 

 やる事は山積みだ。M2の仕上げに入ったら今度はシロガネとアカツキに注力もしなければならないし、アサギ達の意見も併せてウェポンパックの方も取り掛からなければならない。

 勿論モルゲンレーテには優秀な技術スタッフが沢山居る為、全部が全部タケルの手を必要とするわけでは無い。

 だが少なくとも、シロガネとアカツキだけは絶対に他人に任せる事はできなかった。

 

「はぁー、分身できないかなぁ」

「何バカな事言ってるんだ兄様」

「それができたら、私達は大助かりですけど」

「というか言ってる事無茶苦茶だよね。M2だけでもやりたいこと多すぎなのに、シロガネとアカツキもやれって」

「仕方ありませんよ。貴方はオーブ初のMSを開発した人なんですし、それだけの期待がかかってしまうのも当然です」

「こんな忙しくなるとは思って無かったよホント。こんな事なら、帰ってくるんじゃなかった」

「あら、そんな事言って良いんですか?」

「なっ、なんですかエリカさん……急に」

 

 ぞくりとする気配をタケルはエリカから感じた。

 殺気や怒気、そう言ったものでは無い。タケル個人が感じ取った、正に嫌な予感である。

 エリカは携帯端末を取り出して、それをタケルの目の前にかざした。

 無論、例のあの画像である。

 アサギとマユラに挟まれ、ジュリに後ろから抱えられ、肝心のタケルはカガリを抱きしめて幸福の境地の寝顔を見せている。

 あの画像だ。

 

「こんな幸せそうな顔で寝入ってるのにそのセリフは説得力が──」

「その画像はやめてぇ!」

「その画像はやめろぉ!」

 

 兄妹揃ってエリカに弄ばれる2人なのであった。

 

 

 




いかがでしたか。

待望の、新主人公機ORB-00 シロガネ開発開始!

そしてアンケによって見えてくるアストレイ娘の急上昇感。
おかしい、まだカガリの方が優勢だと思ってたのに。
やはりアスランと会わせなければ良かったか、、、

水圧砲とか圧力次第じゃやべーじゃんって思うけど濡れるだけで処理に困らないから訓練にはすごく適してると思ったんだ。

感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。