機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-53 運命の楔

 

 

 アークエンジェルとザラ隊の攻防は続く。

 

 開幕こそペースを握ったアークエンジェルだったが、ザラ隊も即座に対応。

 ストライクが射線を取りにくい艦の背後や側面へと回り込む。

 ムウのスカイグラスパーが応戦するも、簡単ではない。

 迎撃をかいくぐり被弾が出そうな状況であった。

 

 だが、この状況は織り込み済みである。

 タケルから襲撃の可能性は早いうちに聞いていたのだ。

 この数日、幾重もの対策と戦術をシミュレートしてきている。

 

「少佐、アグニで一度引き離します。その隙に!」

『おうよ! プレゼントを落とすんじゃないぞ!』

 

 纏わりつくようなザラ隊のMSをアグニの連射で一気に追い払う。

 そうして艦の直上にムウのスカイグラスパーの道を切り開いた。

 

「フラガ機、接近!」

「ストライク、エールへの換装スタンバイです!」

「行くぞ、キラ!』

「少佐、どうぞ!」

 

 CICの報告も届き準備は万端。

 ストライクはランチャーの装備をパージすると甲板から飛翔し、スカイグラスパーの動きと同調した。

 次の瞬間、スカイグラスパーに装備されたエールストライカーが切り離され、ストライクとドッキング。

 空中でエールへと換装したストライクは、まとわりつくザラ隊のMSへと空中戦に掛かった。

 

「こいつ、空中で換装を!?」

「ニコル、気を付けろ!」

 

 接近してくるストライクにはニコルのブリッツへと向かう。

 迎撃に構えるブリッツだったが、そこへミサイルが命中した。

 

「くっ、こいつぅ!?」

「キラっ、今だ!」

「トール!? くっ」

 

 敵機への攻撃。そんな事をすれば注意を引いて狙われてしまう。

 キラはスラスターを一気に吹かせて、怯んだブリッツへと肉薄。

 シールドバッシュで機体をグゥルから弾き飛ばし、そのままメイン兵装が集中するブリッツの右腕をビームサーベルで切り落とし、立て続けに蹴りつけて地上へと落とした。

 

「うわぁああああ!?」

 

 ブリッツは近くに点在する島へと墜落していくが、それには気にもとめずグゥルを破壊。

 ストライクは再びアークエンジェルの甲板へと降り立った。

 

「トール、無茶をするなよ! 前に出たら狙われるんだぞ!」

「わかってるけど……俺だって少しくらいは援護できるさ!」

 

 戦いへの意気が上がっている分、トールの気配が少し前のめりな印象を受けてキラは不安を覚えるが、今はそれを言い合っている状況でもない。

 言いたいことは戻ってからだと切り替えてキラは次の敵機に狙いを定めた。

 

「ニコル……くそぉ!」

 

 ニコルが地上に墜とされたのを見て、アスランは焦りを押さえられずにストライクへと向かった。

 アークエンジェルの対応はかなり練られたもので、イザークもディアッカもなかなか損傷を与えられていない。

 今ここで狙うのは防御の要であるストライクの排除。

 それさえ成れば、この防衛も崩壊する。

 

「えぇえい!」

「アスラン……くっ!」

 

 空中でぶつかり合うストライクとイージス。

 サーベルをシールドで防ぎあい、弾き合うと同時にライフルを撃ち放つ。

 互いにまるで相手の動きを写したかのように、一進一退で攻防を見せた。

 

「ここ!」

 

 僅かな狙いの変化。キラはイージスのライフルを狙い打ち抜いた。

 

「ちぃ!」

 

 だがアスランも負けじとイーゲルシュテルンでストライクのライフルを破壊する。

 こうなれば接近戦しかない。

 互いにサーベルを出力して、再びぶつかり合った。

 

「うおおお!」

「こんのお!」

 

 互いにスラスターで押し合う。

 そこで、ストライクが僅かに退く。勢いを殺され、空を切るイージスのサーベル。

 グゥルに乗り、足を固定されてるイージスに対して、ストライクは機体の運動性を最大限に発揮してイージスのサーベルを僅かな機体の動きで躱して見せたのだ。

 

「なに!?」

 

 驚くのも束の間、イージスが乗るグゥルがストライクのサーベルによって破壊された。

 

「く、くそぉ!」

 

 飛行能力を失ったイージスは、エールストライク程高い出力のスラスターを備えていない。

 必然、眼下の島へと落ちていく。

 

「アスラン……これで」

『キラ、ソードを射出するぞ!』

「トール!? でも……いや、お願い」

 

 再びの空中での換装。

 ソードシルエットを装備して、キラは眼下の無人島へとイージスを追撃しに飛んだ。

 

「機体だけでも、破壊してしまえば……」

 

 そうすればこれ以上の追撃はできないだろう。

 コクピットを残し、それ以外を破壊する。

 それにはソードストライクで解体するのが手っ取り早い。

 同じXシリーズだ。コクピットの位置は心得ている。

 これでもう……アスランと戦うような状況からも解放されるはずだ。

 

 キラは思うがままにストライクを駆った。

 

 

「くそぉ……このままでは、はっ! ちぃ!?」

 

 地表へと降り立ったアスランは押されてる状況に歯噛みするが、すぐにセンサーの反応に気が付いた。

 追撃に降りてくるソードストライクを目にして、即座に機体を翻して距離を取る。

 

「キラ!」

「アスラン!」

 

 アークエンジェルはかなり高い高度を飛行している。

 既にライフルを失い、グゥルもないイージスではまともな攻撃方法はない。

 そして目の前には、かつてない程強敵となった親友の機体。

 

「アスラン、君達の負けだ! 機体を捨てて脱出してくれ!」

「何を!」

 

 サーベルを出力。イージスはストライクへと切りかかった。

 

 不遜な物言いを見せるキラに、アスランは苛立ちを覚えた。

 敵を前にして、敗北を認めて機体を捨てる等、そんな事アスランにはできなかった。

 何よりキラの物言いが、親友だからこそアスランのプライドを刺激した。

 優秀だがいい加減で……嫌いな事からは逃げてばかりいる奴だった。

 そんなキラに、負けたなどと誰が認められるものか。

 

「やめろアスラン! これ以上は戦いたくない! その機体を破壊するから早く脱出を──」

「ふざけるな! 何を今更……討てばいいだろう! お前もそう言ったはずだ!」

 

 二度、三度と切りかかってくるイージスを、ストライクは躱していく。

 

「くっ、この!」

 

 隙を見出してストライクでイージスを殴りつける。

 イージスはその衝撃で遂にエネルギーがレッドゾーンへと至り、PS装甲がダウンした。

 キラはシュベルトゲベールをイージスの眼前に突き付けて、今一度降伏勧告を行おうとした。

 

「ヤマト少尉、深追いするな!」

「バジル―ル中尉……チャンスなんです。ここでイージスを破壊しておけば──」

「艦から離れてどうする! グゥルを破壊したのなら、どのみち直ぐには追撃できない。敵機の撃破より、ストライクと艦の安全を最優先に考えろ。後退だ!」

「くっ、わかりまし──」

『アスラン、下がって!』

 

 飛び込んでくる通信音声。

 キラにも聞こえたそれは、明らかに自身の存在を知らせる意図した通信である。

 

 イージスがやられる寸前と見るや、ミラージュコロイドで潜んでいたニコルのブリッツはコロイドを解除。

 そして右腕を失い殆どの武装が使えなくなったために、ランサーダートを1本、ブリッツの左腕に持たせて突撃してきたのだ。

 

 全ては、隊長であるアスランを守るために。

 

「あぁああ!」

 

 接近は十分であった。

 ナタルとの通信とイージスに気を取られていたキラは、完全に意識の外から割り込んできたブリッツの攻撃に反射的に機体を動かした。

 

 突き出されたランサーダートを屈んで躱し、そのままシュベルトゲベールをブリッツの胴体へと滑らせた。

 

『ぐわぁあ"あ"あ"……』

 

 開きっぱなしだった通信回線から、悲痛な叫びが響き渡る。

 シュベルトゲベールは、瞬間的に躊躇したキラによってブリッツの胴体半ばで止まり、その結果ニコルは凄絶な責め苦を味わう事になった。

 

 聞こえ続ける長い悲鳴を、どこか遠い世界での出来事の様に、キラもアスランもブリッツが崩れ落ちていくのを目にしながら聞いていた。

 

『アス……ラン……にげ……』

 

 次の瞬間、ブリッツはニコルをコクピットに乗せたまま爆散。

 ニコルの死に際の声を聞いてしまったキラは、これまでとは全く違う生々しい殺しの感触に吐き気を覚えて口元を押さえた。

 

「あぁ……くぅ……はぁぁ」

 

 敵のはずである。

 知らない人である。

 だがそれでも、キラの心は悲痛な悲しみを叫んでいた。

 

 聞こえるのだ。大事な人を失った友の嘆きの声が。

 恐ろしいからだ。奪った自分へと、友が向けるであろう憎しみが。

 喪失の悲しみは、決して綺麗事だけでは拭いきれないのだ。

 

 

「うぅ、あぁあ……ニコルぅぅ!!」

 

 

 響き渡った友の声が、親友との決定的な決別の証なのだと。

 キラは意識が遠くなりそうな心地の中で、聞き入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブ領海付近の無人島。

 そこでもまた、激戦が繰り広げられる。

 

 M1アストレイに乗るタケル・アマノ。

 シグーを駆るミゲル・アイマンが率いるアイマン隊。

 数の不利をものともせず、タケルはアストレイで互角の戦いを繰り広げていた。

 

「ちぃ、どうなってんだお前は! こちとら散々訓練を積んできたってーのに!」

「こっちはバリバリの実戦で鍛え上げて来てるんだ。君達ザフトのお陰でね!」

 

 開かれた通信回線からの苛立ちの声に、タケルは皮肉交じりに返した。

 これまでにタケルは、様々な状態で機体を乗りこなしてきている。

 ストライクの様に万全の整備体制が用意されていたわけでは無いアストレイで、下半身をストライクに挿げ替えたり、外部装甲を取っ払って、はたまたジンとアストレイの合体機を作り上げたかと思えば、またさらに装甲を引っぺがす。

 戦闘があるたびに、機体の挙動が変わる大がかりな変更を余儀なくされてきた。

 そして都度都度、その機体の制御を把握し理解し機体の変化に追従していったのだ。

 その結果はどうなるのか。

 元々その才覚とモルゲンレーテでの職務もあり、十分以上にMS操縦技術を持っていたタケルは、その細かな機体制御により磨きをかける事となった。

 そんな中、一番乗り慣れているM1アストレイに戻ったわけである。

 その操縦技術、もはや並べる者などそうはいないだろう。

 

「(でもちょっと厳しいかな……向こうは前の時のジンから更に発展した機体っぽいし。完全にスペック負けしちゃってる。しかもこの機体、なんも弄ってないノーマルだし)」

 

 タケルがヘリオポリスに持って行ったのは、タケル用にチューンされているアストレイだったが、今乗っているのは急遽借りてきた量産の通常仕様。

 スペックの差は如何ともしがたい所である。

 

 がこっと、嫌な音を立ててアストレイの左腕部に違和感が発生する。

 センサー類から発せられるステータスには赤い表示が。

 タケルの操縦に耐えられず、内部フレームにガタが来ていた。

 

「これは、まずいかも……」

「ようやく機体の限界が来たか。以前より苦しそうな動きだからもしやとは思ったがな!」

 

 機体の不調を察したミゲルはここで一気に攻勢に出た。

 ユーリ、アイクのディンは2人がドッグファイトをしている隙間を埋めるように細かな援護射撃を入れている。

 その為か、タケルのアストレイはミゲルと距離を取ればディンの攻撃をかわし、躱している間にまたミゲルと接近戦という、終わらない攻撃にさらされていたのだ。

 限界機動を余儀なくされ、さらにはそのまま動き続ければ機体の方が限界を迎えるのは自明の理である。

 

「鈍ってるじゃねえか、おい!」

「好き勝手言ってくれるね! こちとら飛車角落ちみたいなもんだってのに!」

「ヒシャカクオチ? なんの言い訳だそりゃ!」

「知らないなら今度はオーブに遊びに来ると良い! 尤も、意味を知ったら多分君は怒るだろうけどね!」

 

 接近を阻むように、アストレイはシグーを蹴りつけて後退。瞬間的に狙ってくるディンへと牽制のライフルを発射して隙を潰す。

 

「ちぃ、やっぱり簡単にはいかねえか。だが今なら……ユーリ、アイク! 仕留めるぞ、周りこめ!」

「まっず!? この状況で複数で掛かるとか流石に卑怯じゃない!?」

「他人様を騙しておいて、卑怯もクソもあるか!」

「それはごもっと……も!!」

 

 シグーとディン2機に詰め寄られるも、シグーの攻撃を躱し、ディンの一方をアストレイの蹴撃で吹き飛ばし、最後の1機からの重斬刀をガタが来てる左腕で持っているシールドで受け止める。

 

「ぐぅ……このぉ!」

 

 勢いを殺せず無人島の砂浜へと叩きつけられるアストレイ。

 タケルはコクピットの中で、機体状況を確認した。

 

「(まずいな、左腕は完全にオシャカだ……戦力半減も良いところ)

「手加減はしねえぜ……これまでの屈辱、今ここで晴らしてやる!」

 

 体勢を整える前に、ビームサーベルを手にしたシグーが迫る。

 ハイマニューバの時同様。アストレイとの戦いを前提に用意されたミゲルのシグーだけに備えられた装備だ。

 

「やる気だね……だけど!」

 

 死んだ左腕からシールドを取り外し投擲。ついで右腕に持っていたライフルでそれを射抜く。

 シールドが爆散した勢いでミゲルは出鼻をくじかれて後退した。

 その隙にアストレイは態勢を整える。

 そしてタケルは機体のパラメーターを調整した。

 

「(死ねない……こんなところで、死なない!)」

 

 決意と共にタケルは戦闘への没入感を増していく。

 大切な人への想いが強いからこそタケル・アマノは無茶をする。

 だがそこには見方を変えれば別の側面があった。

 大切な人への想いがあるからこそ、タケル・アマノは絶対に諦めない。

 悲しませたくないから。泣かせたくないから。

 何より……生きてまた会いたいから。

 自身の死の運命には絶対に屈しないのである。

 

 タケルの決意が強まるとき、いつもそれは起こった。

 それは欲する未来を叶える力。

 絶対的な意思が齎す、望む未来を手繰り寄せる力。

 

 

 種が──開いた。

 

 

 何度目の感覚か。

 全身が震えるような知覚領域の拡大と共に思考が加速する。

 望むはこの場を生き抜く事。その為には目の前の敵機を倒す事。

 最適化されていく思考が、最善の手段をタケルの脳内に描いていく。

 

「ジェネレータの出力をサーベルのみに、駆動パルス最大、スラスター圧最大、エネルギー分配率変更」

 

 瞬く間に数値の調整を終えたタケルは、ライフルを捨てアストレイにビームサーベル1本を逆手に持たせた。

 既に右腕部の内部フレームもガタが来ている。

 それならば機体の機動だけに任せてサーベルは腕に持たせたまま固定するくらいで良い。

 

 あとは、全開機動で翻弄し、機体の回転に合わせて敵機を切り裂く。

 

 

「こいつ……なんだその構えはよ!」

「ミゲル、油断するな!」

「来るぞ!」

 

 明らかにアストレイの雰囲気が変わったのが見て取れて、ミゲルたちは警戒を露わにする。

 数の利があるというのに、先手を取れなかった。

 手を出せば、手痛い反撃が待っている気がして全員が怖気づいてしまっていた。

 

 屈伸。アストレイの膝部分が稼働して、一気に引き延ばされる。

 その瞬間にスラスターが過剰な勢いを以て噴射。

 爆発的な加速を以て、ユーリのディンに迫った。

 

「こっ、こいつ!?」

「1機!」

 

 反射的に構えた突撃機銃で弾丸がばらまかれるも、それをアストレイは恐るべき精度で機体を操り、接近しながら回避して見せる。

 そしてそのまま機体を翻し、逆手に持っていたビームサーベルで一閃。ユーリのディンを両断した。

 あり得ない……弾丸の来る場所がわかってでもいない限り、ばらまかれた機銃の掃射を接近しながら躱しきること等不可能だと、ミゲルは目を剥く。

 

「このぉおお! ふざけるなよぉおお!」

 

 ユーリの撃墜から瞬時に立ち直ったアイクもまた、機体を翻して距離を取るようにしながら機銃をばらまいた。

 だが、動き出しが遅い上に、スラスターをオーバーロードさせたアストレイの速度からは逃げられない。

 

「くっ、だめだ!? ミゲルううう!」

「2機!」

 

 恐怖心が仲間への助けの声を上げさせるが、今のアストレイは簡単に射撃武装で捉えられるような速度ではない。

 ミゲルは助力の術もなく、アイクのディンが切り裂かれるのを見ている事しかできなかった。

 

「終わらせる、ここで!」

「嘗めるんじゃねえよ!」

 

 突撃してくるアストレイに、ミゲルはシグーを向かわせた。

 アストレイの動きは読めている。

 逆手に持たせたビームサーベルで機体の回転に合わせて切り裂く。

 であるなら、腕の動きではなく機体の挙動だけ見れば攻撃の軌跡は読める。

 

「おぉら!!」

「くっ!?」

 

 すれ違いざま、機体を翻して切り付けようとしたアストレイの攻撃を、ミゲルは巧みにビームサーベルを合わせて受け流した。

 

 距離が僅かに開いたのを、見逃さずシグーの突撃機銃を構える。

 だが、その時にはもうアストレイは次の突撃を敢行。

 だが──

 

「くっ、限界か!?」

 

 バックパックが爆発。

 過剰なエネルギーの分配によってオーバースペックを発揮させられたスラスターは完全に沈黙していた。

 むしろ機体ごと爆散しなかっただけ幸運であったかもしれない。

 既に、タケルに選択肢はなかった。

 

 僅かに乗ったスピードそのままにアストレイを跳躍させる。

 接近するだけの勢いは確保した。後は、すれ違いざまに今度こそ切り裂くだけ。

 

「来いよ! 決着だ!」

 

 ここでミゲルも機銃を捨てビームサーベルでの接近戦に選択肢を絞った。

 元より高機動での接近戦でこれまで勝負してきたのだ。

 限界ギリギリのアストレイを前に、機体が万全な状態であるシグーでなら押し切られるはずもない。

 翻されるシグーのサーベル。それをアストレイは使い物にならない左腕をぶつける事で僅かに軌道を逸らす。

 

「ぐぅ、だとしても!」

 

 衝撃に揺れるコクピットの中、タケルは意識だけはシグーから外さない。

 右腕のビームサーベルを逆手から持ち替えて、最後のあがきとばかりに振るう。

 

「そのボロボロで勝てると思うな!」

 

 シグーの脚がアストレイの腕を蹴り飛ばした。

 衝撃にビームサーベルが手から零れ落ち、タケルは血の気が引いた。

 隙を晒したアストレイに、無情な光の刃が振るわれる。

 

「今度こそ終わりだ──なっ!?」

 

 驚愕に目を見開いたミゲル。

 アストレイは脚部を最大稼働させてまるで後転する様に後ろへと転がり、サーベルの範囲から逃げたのだ。

 

「これで、止め!!」

 

 即座に立ち上がり残っていたもう一本のサーベルを出力。

 最後の一歩を踏み出してアストレイはシグーに切りかかる。

 

「させるかよおお!」

 

 対してシグーも前に出た。

 もはや振り下ろした体勢からは再びサーベルを振るう余裕はない。

 ならば機体ごと体当たりをしてそのままサーベルを突き刺す。

 

「はぁああ!」

「うぉおお!」

 

 アストレイとシグーが、抱き合う様にぶつかり合った。

 アストレイは振り下ろしたサーベルでシグーのメインカメラと背部のバックパックを切り落とし、シグーのサーベルは……アストレイの胴体を綺麗に貫いていた。

 

 数秒の静寂の後、アストレイのバックパックにある、使い切れずに残った推進剤に引火。

 アストレイはシグーの至近距離で爆発する。

 

「ぐぅうああ!?」

 

 至近距離でその爆発の衝撃をもろに受けたミゲルは、そのままコクピットで意識を失った。

 

 

 小さな島で、長い戦いの因縁が1つ終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆炎に消えた優しい笑顔、彼の夢、未来。

 どれほど悔やんでも取り戻せない、それは認めがたい想いと共にアスランの心を苛む。

 これがさだめか。戦場で会えば敵、再びあいまみえるキラとアスランの闘いの行方は。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『閃光の刻』

 

 業火の中、駈け抜けろ! ガンダム! 

 




いかがでしたか。

期待していた読者にはごめんなさい。
主人公も艦からは離れ、今後の展開としてもやはりこの展開はなぞることになっておりました。
キラにとってもアスランにとっても、そしてこれから展開していくseedの物語としても。
大事な場面なのです。ご了承ください。

感想、よろしくお願いいたします。

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