機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-60 胎動する遺志

 

 

 地球軍アラスカ基地。

 

 ようやくの思いで辿り着いた安息の地でありながら、未だアークエンジェルクルーには上陸の許可が下りず。艦内クルーの面々は皆、不安と暇を持て余していた。

 

 “鹵獲したバスターの整備でもするか”

 

 食堂で耳にした整備班の言葉に先日の戦いを思い出し、ミリアリアは逃げるようにその場を後にした。

 オーブからの連絡は無い……というより、救助の成否があろうとなかろうと連絡がある事は無いだろう。

 地上はNジャマ―の影響でまともな通信回線は通らない。ましてやオーブは地球軍に所属する国家ではないのだ。

 救助活動の成否どころか、活動の有無すらアークエンジェルに知らされることは無い。

 

「ミリィ……」

 

 背後から掛けられる声に振り返れば、ここ数日ずっとそばにいてくれたフレイ・アルスターの姿があった。

 本当に、フレイは変わった。ミリアリアは背後から聞こえた声音にそう思う。

 トールが行方不明────否、ミリアリアも頭の中では理解している。

 彼は戦死したのだと。

 

 ミリアリア程親密ではないとはいえ、キラも含めて2人の友人の死。そのショックは大きいはず。

 だが、決して彼等の死を軽んじてるわけでもなく、それでもそれを受け止めて、こうして塞ぎ込んでいる自身を気に掛けてくれるのだ。

 サイにしてもカズイにしてもそうだ。

 ここ数日、ずっと誰かが傍にいてくれている。

 そんな彼等に感謝しつつも、だが今のミリアリアにそれを表に出す余裕は無く、返す声は力無かった。

 

「フレイ……なに?」

「何じゃないでしょ。逃げるように食堂出て行けば……心配にもなるわよ」

「うん、ごめん」

「謝るのは禁止。そんなに疲れた目をしてれば、全然眠れてないのだって丸わかりなんだから」

「ごめん……」

 

 再び、意味もなく繰り返される謝罪に僅かにフレイは苛立ちを覚える。

 ただでさえ気落ちしているというのに、変な罪悪感を持ってほしくないものである。

 それは心への余計な負担に他ならない。

 はぁ、と一息。フレイはミリアリアの手を取った。

 

「医務室で薬をもらいましょう。今は何も考えずに眠らなきゃダメよ」

 

 先日ムウがキラに対応した時のように。今のミリアリアには薬に頼ってでも“考えない時間”が必要だ。

 溢れ続ける感情が静まり、気持ちを整理することができるようになる為の時間が。

 

「うん」

 

 しおらしく頷いたミリアリアを見て、フレイは再び僅かな苛立ちを覚える。

 今度は慰めの言葉の一つも出てこない自身に……とは言っても、こんな状態では下手な事も言えない。

 

「フレイ!」

 

 通路に響いた声に、フレイは少しだけ気持ちを上擦らせた。

 歩み寄ってくるのは恋人のサイ・アーガイル。一緒に食事をしていたのだろう、カズイも一緒である。

 

「サイ、カズイも……丁度よかった」

「丁度? 何かあった?」

「医務官の先生に言って、睡眠導入剤をもらってきて欲しいの」

「睡眠導入剤って……あぁ、そういうことね。それじゃ僕とサイで探してくるから2人は医務室で待っててよ」

 

 フレイの言葉とミリアリアの様子に、すぐにその意図を察した2人はまたすぐにその場を離れていく。

 察しが良く、あえて多くを言葉にしないでいてくれる友人達に、フレイもミリアリアも感謝した。

 弱っている……そう口にされると、人はそうなのだと余計に思い込んでしまうものだ。

 病は気からとはよく言うものだが、今はそれすら誤魔化したかった。

 

「さ、いくわよ」

 

 ミリアリアの隣に寄り添いながら、フレイは医務室へと向かうのだった。

 

 

 

 しかし、医務室についてみればそんな彼等の気遣いを全て無に帰すことが2人を待ち構えていた。

 

「なぁ先生よー、一体いつまで俺はここに縛られてんだよー」

 

 軽薄な声。敵陣営に捕らえられたというのに、まるで余裕な態度を見せる少年兵。

 先日の戦いで捕虜となったバスターのパイロット、ディアッカ・エルスマンがそこには居た。

 

「ぁ!?」

 

 医務室に入った瞬間に聞こえてきた声に、ミリアリアはビクッと身体を震わせる。

 当然だ、トールの事を考えたくない今この時に、あの戦いで襲撃してきた当事者が目の前に居るのだから。

 

「あんた……」

「あん? んだよ、先生じゃねえのかよ」

 

 ディアッカの存在に身体を震わせたのはフレイとて同じであった。

 

 散々にアークエンジェルを追い回してきたザフトの部隊。

 艦橋クルーでないフレイには、彼がどの機体に乗っていたのか……それこそ、父の命を奪った相手なのかどうかも全くわからない。

 カガリの助力もあって、失った悲しみは御した──だが、奪われた憎しみは消えてはいない。

 サイには戦争を憎むと宣言したが、いざ目の前に“父を奪ったコーディネーターの仲間”がいると認識すると、奥底にしまい込んでいたはずの憎悪が鎌首をもたげはじめる。

 

「なんだってんだよその面は。俺が怖い? 珍しい?」

「当たり前でしょ。ザフトに居たコーディネーターなんて、私達から見れば怖いに決まってるじゃない」

「大丈夫だって、ちゃ~んと繋がれてっからよ」

 

 ほら、と言って後ろ手に縛られている事を見せつけてくる背中に、フレイは湧きだしそうになった感情を押し殺した。

 キラやタケルと一緒だ────彼もコーディネーターであるというだけ。そこに違いは無い。

 父の命を奪った相手かも定かではなく、なにより父の命を奪ったのは戦争だ。個人の私怨が奪ったわけではない。

 

 飲み下さなければならない。

 敵を憎んでは、戦争を憎めない。だから──

 だが、続く言葉がフレイの目を開かせる。

 

「つーかよ、お前何で泣いてんの? なんでそんな奴がこんな艦に乗ってんだかー」

 

 ミリアリアを見止めて、ディアッカは僅か、嘲笑う声音と共に言葉を吐く。

 瞬間的にミリアリアへと視線を向ければ、涙をとめどなく零す彼女の姿。

 目の前の少年兵と邂逅しただけで感情の琴線へと触れたのだろう。ギリギリで保っていた堰が外されどうしようもない感情が涙となって溢れていた。

 

「そんなに怖いんだったら兵隊なんかやってんじゃねぇっつーの。あぁ、それともバカで役立たずなナチュラルの彼氏でも死んだかぁ?」

 

 沸騰する感情。

 軽口のつもりだろうか……だが、超えてはならない一線がある。

 抑え込んだはずの憎悪が暴れだしフレイの心を揺さぶった。後悔させてやる──その言葉がフレイの視線を巡らせる。

 近くに置いてあったメスを目にとめて……だがフレイより早く手を伸ばしたミリアリアを見て、フレイは叫んだ。

 

「ダメッ、ミリアリア!!」

 

 間一髪のところで、フレイはその手を抑えた。

 感情が沸騰したのはフレイも同じであった。ミリアリア同様になにか武器となる物を探して視線を巡らしたところで、だが目に入ったミリアリアの形相に我に返る。

 憎しみの目。抑えの利かない感情に支配され、それは目に見えそうな程の殺意となって見て取れた。

 反射的に、彼女が目の前の少年兵の命を事も無く奪える状態にあると悟った。

 

 それを、させてはならないとも……

 

「放して! 放してよ!!」

「ダメよ! 絶対にダメ! 落ち着いて、ミリアリア!」

「トールが、トールが居ないのに! なんで……こんな奴! こんな奴がここに居るのよ!!」

 

 悲痛な心の叫びが、フレイは疎かこの事態を齎すきっかけとなったディアッカの心をも打った。

 必死の形相でフレイに抗うミリアリアの勢いは収まらず、たまらずフレイの拘束が緩みかける。

 

「フレイ、薬を──フレイ!?」

「サイ、カズイ! ミリィを止めて!!」

 

 薬を持ってきたサイとカズイが合流し、ミリアリアはなんとかメスを手放しディアッカがいる簡易ベッドからも引き剥がされた。

 

「う、うぅ……なんで、どうして……トールが居ないのに……こんな……」

 

 引き剥がされた事で激情が急速に落ち込んでいき、ミリアリアの胸にはただただ悲痛な悲しみだけが溢れて零れた。

 そんな姿に居たたまれなくて、サイもカズイも……言葉を失った。

 そして、そんな彼等の様子に今度はディアッカも苛立ちを覚える。

 

「なんだよ……失うのが嫌なら、戦ってんじゃねぇよ!」

 

 戦争しているのである。失うのは当たり前だ。

 自分達もそうして、失った悲しみを糧にして戦った。

 失って泣き叫ぶくらいなら、最初から戦うな。

 

 ニコルを失い、弔い合戦だと怒りに塗れた自身を思い出し、ディアッカは悲しみに泣き叫ぶミリアリアを断じた。

 

「お前等だって、俺の仲間を殺したんだ! 自分達だけだと思うんじゃ──ガッ!?」

 

 今度こそ、フレイの身体は動いた。

 叫ぶディアッカの胸倉を掴み壁へと勢いのままに叩きつける。

 後頭部を強かに強打し、ディアッカの意識は一瞬とんだ。

 

「──つぅ、何しやがる!」

 

 非難の声を挙げるディアッカは、目の前で敵意を向けるフレイの目を見て、その意気を落としていった。

 

「確かに、私達はあんたの仲間を殺してる……あんた達も私のパパやキラ、トールを殺してる。お互い様……だから、あんた個人に恨みを抱くのはお門違い────そんなことわかってるわ。でも」

 

 キッとディアッカを睨みつけ、フレイは叫ぶ。

 

「心無い言葉でミリィを傷つけたのは、あんたでしょ!」

 

 父を奪われた事。キラの、トールの命を奪った事。

 その責を、目の前の男に問う事はしてはならない。それは自身が誓った戦争を憎むこととは相反するからだ。

 だがそれでも、傷心の友人を心無い言葉で傷つけたのは、目の前の愚かな男だ。

 その分だけは、胸の内に燻ぶる感情をぶつけてやりたかった。

 

 再び、フレイはディアッカの頭を壁へと叩きつける。

 

「ミリィに謝りなさいよ……キラも、トールも、役立たずなんかじゃ、ない!」

 

 一言一言、意識が飛びかけたディアッカにぶつけるように、フレイは声を荒げながら言葉を紡いでいく。

 

「謝罪しなさい……謝罪しろ!!」

 

 フレイと視線を合わせられず、思わず逸らした先で、ディアッカは泣きじゃくるミリアリアを見た。

 その姿が、ニコルを失った時のアスランと重なって……ようやくディアッカは自身の言葉の重さに気づいた。

 

「くっ……わる、かった」

 

 小さく呟かれた言葉は静かな医務室の中で良く聞こえ、騒ぎを聞きつけたノイマン達が来るまで、医務室は静寂に包まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 軍本部のウィリアム・サザーランドより入電。

 アークエンジェルのこれまでの軍務を精査する査問会を設けるという事で、指揮官であるマリュー、ムウ、ナタルの3人と、主だった艦橋クルーは軍本部へと出頭命令が出された。

 

 昨日の医務室の一件を報告として後から聞いた3人だったが、騒ぎとしては未遂で済み、小さな口論程度として内々に処理された。

 これ以上の悪い報告はごめんだと、3人は胸の内で大事に至らなかったことにホッとした。

 とはいっても、今更その程度……ともマリューは思っていたが。

 

 

 査問会の会議室で待たされていると、3名の将官が入室してきた。

 マリュー達と対面に座る3名。緊張と共に敬礼で構えるアークエンジェルクルーを見据えて、真ん中に座った将官が口火を切った。

 

「軍令部のウィリアム・サザーランド大佐だ。諸君等第8艦隊アークエンジェルの審議、指揮、一切を任されている──座れ」

 

 ウィリアム・サザーランド。

 地球軍の将官の中でも、ブルーコスモスに傾倒するタカ派の筆頭である。

 その噂は、ハルバートン経由でマリューも聞き及んでおり、査問会の担当が彼とだとわかって、マリューの胸中に更なる緊張が走った。

 

「既に、ログデータはナブコムから回収し、解析中であるが、なかなか見事な戦歴だな。マリュー・ラミアス艦長」

「い、いえ、小官は……」

「謙遜するな。アークエンジェルは戦歴だけで言えば歴戦という言葉すら足りん」

 

 サザーランドの隣、体格の良さそうな別の将官がしみじみと言う。

 

「ミュラー准将。それは些か言い過ぎではありませんかな?」

「そうだろうか? 少なくともここでふんぞり返っている我々よりはよっぽどあの艦を使いこなせるだろう──どう思う、マリュー・ラミアス少佐?」

「あっ、い、いえそんな……」

「おっとすまんな、ボルト・ミュラー准将だ。今日はよろしく頼む」

 

 その名に、マリューは疎かムウもナタルも驚愕の色を隠せなかった。

 

 ボルト・ミュラー准将──智将ハルバートンと並ぶ、地上部隊の英雄とも言える将官である。

 剛毅果断な指揮の下、ザフト地上部隊の攻勢を何度も退けてきており、その勇名は名高い。

 

「っと、すまないな。今日はただのお客様だ。大佐、続きをどうぞ」

「──では是より、君達からこれまでの詳細な報告、及び証言を得ていきたいと思う。尚、この査問会は軍法会議に準ずるものであり、ここでの発言は全て、公式なものとして記録されることを申し渡しておく。各人、虚偽のない発言を……よいかな?」

「はい」

 

 予想外な大物の登場に驚きはしたものの、サザーランドの声で査問会は始まった。

 

「ではまず、ファイル1。

 ヘリオポリスへのザフト軍奇襲作戦時の状況。マリュー・ラミアス当時大尉の報告から聞こう──」

 

 微に入り細を穿つ。

 査問はヘリオポリスでの動きから始まった。

 Xシリーズの奪取。キラとの邂逅。そしてストライクの機動。

 そこまでいったところでサザーランドはこれ見よがしに、一つため息をついた。

 

「では君はその時点で、既にこの少年キラ・ヤマトが、コーディネイターなのではないか、という疑念は抱いていた、と言うことだな?」

「はい──いくら、工業カレッジの学生であるとはいえ、初めて見る機体の、それも我が軍の重要機密であったXナンバーのOSを、瞬時に判断し、書き換えを行うなど、普通の子供に出来ることではありません。

 彼はコーディネイターなのではないかと言う疑念は、すぐに抱きました」

「うむ。その力を目の当たりにして、君はどう感じたのかね?」

「ただ……驚異的なものと」

 

 質問の意図が読み切れず、マリューは曖昧に返した。

 

「なるほど。そして、その後もストライクは何も知らぬ民間人に、しかもコーディネイターの子供に預けられたままであり、君はそれ十分にコントロールしえなかった。そうだな?」

「──はい」

「結果、キラ・ヤマトは、その威力も知らぬまま、320mm超高インパルス砲アグニを発射し、敵モビルスーツを退却させることには成功したものの、ヘリオポリス構造体に甚大な被害を及ぼした。そして同時に、居合わせたオーブ軍人であるタケル・アマノによってXシリーズの元となったアストレイがザフトに露見し、その脅威的な戦闘能力は彼らの再度のコロニー内侵攻を促したとも言えよう」

「それは結果からの推論に過ぎません!」

「落ち着けフラガ少佐。今はただの事実確認に過ぎん……座れ」

 

 事実を悪し様に述べられることに異議を唱えたムウを、ミュラーが窘める。

 今は軍本部の査問会。言いたいことは分かるが、無暗に跳ねても良い事など無い。

 それを、ミュラーの目が訴えていた。

 

「反撃は誤りであったと、そういう事ですか?」

「そうは言わんよラミアス少佐────君達は実に不運だったということだ」

「不運?」

「居合わせたコーディネーターの少年。居合わせたコーディネーターのオーブ軍人。

 そんなたまたまが重なり、君達の手が届くところに転がってきたのだからな────その驚異的な力、欲するのも無理は無い」

 

 僅かに、マリューの後ろに座るクルー達から不穏な気配が流れる。

 キラを、タケルを。まるでただの戦力としか見ていないその発言が、嫌が応にも戦友である彼等の神経を逆撫でる。

 

「過ぎた時間にもしもはないがね。……だがもし、キラ・ヤマトがOSの書き換えなど出来ぬ、ただのナチュラルの子供だったら? その場にオーブの軍人であるタケル・アマノが居合わせていなければ。結果は自ずと違っていたはずだ」

「くっ、それは……」

「しかしながら彼等はそこに居た。そしてキラ・ヤマトをストライクに乗せ、タケル・アマノをアークエンジェルに同乗させたのは君だろう、ラミアス少佐?」

 

 まるで責めるようなサザーランドの視線が、マリューを射抜いた。

 表情険しく思考を巡らすも、マリューに反論の余地はない。

 全ては事実だ。マリューが判断を下して進んできた事……弁解の余地はない。

 

「全ては……私の判断ミス、と?」

「我々はコーディネイターと戦っているのだよラミアス少佐。その驚異的な力と。民間人の子供であろうが、コーディネイターはコーディネイターなのだ。それを目の当たりにしながら、何故それに気付かない────奴等が居るから世界は混乱するのだ」

 

 重苦しく発せられた言葉に、マリューは改めて気づかされる。

 この戦争の根幹──ナチュラルとコーディネーターの確執を。

 タケルとカガリの姿を見ていたから、アークエンジェルではその気配は薄かった。

 だが一歩艦を出てみればこうだ。それは砂漠で明けの砂漠と出会った時も一緒であった。

 コーディネーターを憎む心は、地球軍の深いところに根付いているのだと再認識させられた。

 

 

 査問会はその後も、変わらぬ調子で続いていった。

 アルテミスの陥落。先遣隊の全滅。第8艦隊までも、アークエンジェルの為に失わせたこと。

 そして、オーブへの寄港。

 

 まるで、これまでの全てに非があると言わんばかりの査問会が、マリューをじりじりと追い詰めていった。

 

「全てを明確にし、この一連の戦いの成果と責任をはっきりさせねばならん。犠牲になった者たちの為にもな」

 

 どこか見下し、嘲る気配がサザーランドから感じられるのを、マリューはもう気のせいだとは思えなかった。

 まるで、私怨があるかのような責任の追及。ここまでの激戦を乗り越えてきたことなど眼中には無い。

 失われたもの──犠牲になった者の為と聞こえの良い言葉を吐こうとも、根幹にあるのは違う。

 ただ、コーディネーターによって守られてきたアークエンジェルが気に食わないのだ。

 

「まぁ待て、サザーランド大佐」

 

 反論の声を挙げられずにいるマリューにほくそ笑むサザーランドだったが、そこに隣から声が挙がった。

 

「ふむ、なんでしょう。ミュラー准将?」

「これまでをラミアス少佐だけの判断ミスとするには早計だろう。それは我々の見解でしかない」

 

 一通りの査問が終わった所で発せられるミュラーからの横槍に、僅かにサザーランドは視線を険しくさせて隣を見やった。

 

「では、誰の見解を語る必要があると?」

「臨時の職務だ。独断で進める事などできまい。ラミアス少佐、改めて確認するが艦の動きはどう決めた?」

「えっあ、はい。基本は先任大尉であったフラガ少佐と、副長のバジルール中尉との3人で……」

「ではキラ・ヤマト、タケル・アマノの重用について、2人からは反対は出なかったのか?」

「それは……」

「自分は反対しました」

 

 ムウが声を挙げるより先に、ナタルの、それも予想外の言葉にクルー一同目を見開く。

 僅かに喜色を浮かべるサザーランドと、目を細めるミュラーの視線を受けながら、ナタルは静かに発言の為に起立した。

 

「ほぅ、中尉は反対したと?」

「はい。民間人とはいえコーディネーターであるキラ・ヤマト。そして、他国の軍人であるタケル・アマノ。両名とも、手放しに信用しては危険だと、()()()私は考えておりました」

「当時の?」

 

 言い回しに違和感を感じたミュラーが、続きを促す様にナタルを見やる。

 

「今は、両名を重用した艦長の判断が正しかったと考えています」

「ほぅ……それは何故だ?」

 

 問われたナタルは、視線だけで共に周囲に座るクルー達を見た。

 一様に、その視線は不安と期待に入り混じったものであった────心配するな。そんな言葉がナタルの脳裏に過った。

 すぅ、と一息。何かを飲み下す様に大きく息を吸い込んだナタルは、毅然とした表情で口を開いた。

 

「我々はヘリオポリスで艦を始動したその時から、全てにおいて困窮していました。

 物資、戦力、何よりその現在位置。宇宙と言うザフトの勢力圏とも言える場所で孤立した我々は、全てを利用し且つ最大限の運用をしなければ、艦は落とされこうして本部まで辿り着けることも無かったでしょう。

 我々が艦で合流したその時から、既にザフトのヘリオポリスへの再侵攻は予見されており、直ちに出港の準備をする必要があった。同時に主だったクルーの大半が戦死され艦戦闘も覚束ない。ザフトの侵攻に対して対抗する手段は、キラ・ヤマトとタケル・アマノ両名のMSのみ。

 そうして艦の戦力となった彼等は、自身が大切に思うものの為に戦い、驚異的な戦果を記録しております。

 もし、ヘリオポリスに彼等が居合わせなければ──ラミアス少佐が彼等を戦力として重用していなければ。アークエンジェルはヘリオポリスと共に沈み、唯一のXシリーズであるストライクのデータを持ち帰ることもできず、そしてザフトは奪取したXシリーズによって更なる戦力の強化がなされた事でしょう」

「その代わりに、第8艦隊を失う事は無かったはずだ」

「であるのなら、今後更なる性能を持ったMSがザフトから投入され、地球軍はそれに対して成す術もなかったと思われます」

「違いない」

 

 サザーランドの反論を封殺するナタルの言葉に、ミュラーは僅かに笑みすら見せた。

 まるで飼い犬に手を噛まれたような姿を見せるサザーランドを、ミュラーは内心で嗤った。

 

「だがな、バジルール中尉。君達のその判断にリスクヘッジはあったか?」

「リスクヘッジ……ですか?」

「裏切りは考えなかったのか、と言う事だ。コーディネーターはコーディネーター。陣営としては向こうのほうが自然だ。いくら友人や妹が乗ってる艦だからと言って、自身の命の危機に裏切る事は考えなかったのか?」

「そうだ。簡単にコーディネーターの少年を信じるなどあまりに不用心とは考えられんかね?」

 

 なるほど、確かに最もだとナタルは思う。

 自身の命の危機とあれば、わが身可愛さに裏切る人間など古今東西どこにでも居よう。

 そんな事、キラとタケルの必死に戦う様をみれば、ありえないとわかる事だが、目の前の上官達にはそんな言い訳は通用しない。

 だから、理を唱えなくてはならない。

 ナタルは再び口を開く。

 

「考えれられる手段はありました。

 まずは彼等の友人や妹を人質とする事。それともう一つ──機体に外部操作で起動する自爆装置を搭載する事」

 

 また僅かに、動揺の気配がマリュー達からも漏れ出す。

 そんなことまで考えていたのかと、表情には出さずとも皆胸中で驚きを覚えていた。

 

「しかしこれらは、取るに取れない手段だと断じました」

「ほう、何故だ?」

「ミュラー准将ならばお分かりかと思います。戦場において、士気の高さとは何にも勝る力だと」

「ふむ、その認識に私も相違無い」

「己の命を握られ、大切な者を人質に取られ……そんな恐怖に縛られた兵士など、役には立ちません。

 そして先程申し上げた通り、アークエンジェルは最初から最後まで、常に戦力に困窮していました。要となるMSを駆る彼等が万全でなくば、とてもザフトの追撃を退けることはできなかったでしょう」

 

 ナタルがマリューから学んだことである。

 例えいくら優秀な能力を持っていようと、それを生かすも殺すもその心次第。

 兵士の士気が戦場において重要なのは、人類の戦いの歴史を紐解けば明白である。

 

「上々だ。兵士を使う意味をよく理解してる」

「身に余るお言葉です」

「それを、マリュー・ラミアス少佐は理解していたと……貴官はそう言いたいのだな?」

「はい」

 

 静かに答えたナタルの声に、ミュラーは面白そうにマリューを見やった。

 既にマリューの表情は何を言われてるのか理解が及ばないと言わんばかりに呆けている。

 なるほど、感覚派のマリューに理論派のナタル。艦長と副長で面白い組み合わせを見たと、ミュラーは思った。

 

「流石はハルバートンの肝入りと言った所か……マリュー・ラミアス」

 

 マリューの瞳の奥に息づく、智将ハルバートンの遺志。

 前線で戦う兵士を尊ぶ男であった。地上に居ながら、その活躍を耳にしてミュラーは心躍らせたものだ。

 今は無き戦友の遺志を感じ取り、ミュラーは小さく笑みを浮かべることができた。

 

「ミュラー准将、戯れもそこまでにしていただけますかな?」

「これは失礼した。前線指揮官の話と言うのはいつ聞いても面白いものでな。ついはしゃいでしまった」

 

 ハルバートンの名前が出てきたことで、もはや隠す気もない嫌悪感を示すサザーランドに、場の流れを支配していたミュラーは肩をすくめて押し黙った。

 その姿に未だ面白くなさそうに視線を向けていたサザーランドだが、もはや問答を再開する気にはならなかったのか、手にしていた資料をまとめ始めた。

 

「では是にて、当査問会は終了する。長時間の質疑応答、御苦労だったな。アークエンジェルの次の任務は追って通達する。本日の査問の結果も加味して、諸君らには転属命令が出る者もいるだろう。それまでは、艦にて待機を命ずる──以上だ」

 

 

 

 退室していく将官達を敬礼で見送り、予想外の流れで査問会は終了した。

 

 艦橋クルーの面々はただただ緊張からの解放に安堵の息をついていたが、当事者であるマリューは未だ理解が追いつかぬ査問会の成り行きに、一人茫然と呆けているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵地より帰還するタケル。プラントで目覚めたキラ。

 胸に抱く温かさに違いはあれど、その温もりは戦士である事を忘れさせた。

 が、世界は止まらず胎動を続け、悪意は徐々に世界を蝕んでいく。

 翻弄される運命に揺られながら、彼等が向かう先にあるのは。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『新たなる鼓動』

 

 戦う意志、胸に抱け、ガンダム! 

 




上手く書けてるかな。
最近の更新は感情部分についての描写が多くなっててずっと気になっちゃってます。

よろしければ、読者の皆様には感想にてお声を頂ければ幸いです。

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