機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE -63 発動

 

 

 

 モルゲンレーテ本社内訓練エリア。

 

 現在そこは久々に活気満ち溢れる場所となっていた。

 

 

「はい、終了! 整列!!」

 

 シミュレーターの背後から掛けられる、彼には似つかわしくない強い声に少女達は身を固めた。

 シミュレーションの結果はミッション失敗。3人共に撃墜判定をもらっていた。

 少しだけ疲労に侵された身体でヨロヨロと這い出て、厳しい目を向ける鬼教官の前に整列する。

 

「アサギ、1分あげるから無謀にも敵陣に突撃して落とされていった理由と言い訳を考えておいて」

「は、はい……」

「マユラ、前にも言ったけど攻め方が単調すぎるよ。機体は十分扱えてるよね? サーベル1本ですら攻め方は幾らでもあるんだからもっと選択肢を広げて。

 接近するまでの射撃の牽制。薙ぐか、突くか、接近の勢いのままにただサーベルを押し当てるだけでも攻撃としては十分だ。接近したからと言って必ずしも近接武器に頼る必要だってない。幾らでも攻撃する方法はあるんだよ」

「うぅ、すいません」

「でも接近する時の回避軌道は凄く良かった。機体の操縦とブレードパックの扱いはこれまでの賜物だね」

「あっ、はい!」

「ジュリは視野をもっと広げて。君がアサギの援護にまで意識を向けていれば落とされなかったはずだよ。後方支援に回る君は自分と敵だけじゃなくて、味方と敵にまで視野を広げないとダメ」

「で、でも、そんなに意識なんか割けませんよぉ」

「それはまだ機体の操作に思考を回してるからだよ。もっとM2に自分を慣らして考えなくても動かせる様に慣熟しないとダメ。それができれば君の射撃能力はもっと活かせるはずなんだから。

 さっきだって、接近してくる機体は迎撃できたでしょ? 狙いをつけて撃つ能力は十分なんだ。それを生かすも殺すもあとはジュリの判断力次第だよ」

「は、はい!」

 

 厳しい意見が出ながらも、決して悪いところばかりではない。

 一喜一憂が相応しい表情の変化を見せながら、マユラとジュリの評価が終わる。

 最後に残ったのは、ミッション失敗の原因を作り大目玉な予感をヒシヒシと感じている、アサギ・コードウェルだ。

 

「アサギ、反省終わった?」

「うぅ……一応」

「それじゃ、理由と言い訳は?」

 

 普段とは違う、タケルとの少し冷たいやりとりにアサギは胸中で平謝りしながら口を開いた。

 

「敵の陣容はジン含む混成部隊6機でした。

 主力となる兵装が接近戦の重斬刀と携行している突撃機銃なので決定打に欠けると判断して接近。私に狙いを集めることで後方のジュリが戦いやすくなる様にと考えました。ただ、思った以上に敵の攻撃が激しくてそのまま……」

「うん、そうだね。お陰でそのままマユラもジュリも数に押し切られて敗北────君の失態だ」

「あぅ……すいません」

「ううん、訓練なんだから謝る必要なんてないよ。ただ認識だけはきっちりしておこう。

 アサギの失敗は2つ。まずは敵戦力と自身の能力の判断が甘かったこと。突撃して、敵機が全部自分に攻撃を集中することは考えなかった?」

「2人もいたから、少なくとも1機ずつは離れて最大でも私に向くのは4機だと……」

「各個撃破は戦術の基本だ。僕が敵の指揮官でもあの状況ならまず間違いなく最速でアサギを仕留めて同じ流れを作る。つまりは、飛び出すタイミングが早すぎ」

「うっ、はぁい」

「一応聞いておくけど4機だったら狙いが集中してもやり切れる算段だったの?」

「あっ、はい。それは以前にもマニューバパックの慣熟で試してましたから」

「それは素直に凄いね。ちょっと後で特別訓練やろうか。そのレベルならもっと伸ばそう」

「え、良いんですか?」

「勿論だよ。長所は伸ばすに限るからね」

 

 普段ならどギツイ個人指導などごめん被ると言うところだが、自身の長所を認められそれを伸ばそうとしてくれると言うのなら是非もない話であった。

 タケルとしても想定を超える実力であったと言うことなのだろう。彼が見せた反応と評価に、失敗に落ち込んでいたアサギは嬉しさを隠しきれなかった。

 

「それはそうとアサギの失敗のもう1点だ。

 初めから回避機動に意識を向けすぎ。接近して距離を詰めるということは必然、射撃兵装の狙いはつけやすくなる。なのにアサギはそのアドバンテージを最初から放棄してるんだもの。牽制の射撃一つ挟まず初めから回避機動だけに集中してたら相手からすれば攻撃し放題。躱しきれなくなるのは当然でしょ?」

「あ、そう……ですね」

「攻撃という手段が頭になかった。これがアサギのもう一つの失敗だよ。

 忘れないで。攻撃は最大の防御。敵に防御なり回避なりを強いれば敵からの攻撃は減るんだから」

「はーい」

「よし、それじゃ少し休憩してからもう一回やってみようか」

「「「はいっ!」」」

 

 彼女達らしい応答に小さく笑みを浮かべて、タケルはシミュレーターのデータ解析に戻った。

 

 M2アストレイはエリカ等モルゲンレーテのスタッフによって完成を見た。

 M1とストライクのデータをベースに細部へ改良を加えたM2アストレイは、PS装甲こそないが基本性能ではストライクに追随する様な高い完成度の機体となった。

 M1の持ち味であった柔軟性をそのままに、Xシリーズの技術でブラッシュアップされ、その上タケルが持ち帰った運用データからより実践での運用に適した調整を加えて仕上げられた。

 恐らくだが、現行での量産機の中では一線を画すだろう。

 そうなれば残るのは換装用のウェポンパックとその評価、及び高度な運用の確立である。

 そのためには、アサギ達にはそれぞれのウェポンパックを特化運用で使いこなしてもらう必要があった。

 

 アサギは機動戦用のマニューバ。

 マユラは接近戦用のブレイド。

 ジュリは射撃戦用のスナイプ。

 それぞれの適性に合わせて使い込んでもらい、高い完成度を誇るM2アストレイを更に引き上げる。

 それが、テストパイロットとしての今の彼女達の仕事であった。

 

 正直なところ、無茶振りをしている自覚がタケルにはある。

 先程の仮想ミッションも、タケルがアークエンジェルで経験した戦況に基づく難易度だ。

 さっきのは先遣隊合流時の戦いを参考に作り上げている。

 とても、戦場を知らない彼女達ができる難易度では無い。

 防衛対象有りでなおかつ時間制限付き。早急に敵機を減らさなければ、敵戦艦からの攻撃で防衛対象が墜ちるという内容である。

 焦ってアサギが飛び出すのも無理はないだろう。

 

「お疲れ様、随分熱が入ってるじゃない。どう、調子は?」

 

 背後からかけられる声に振り向けば、少し疲れた雰囲気を纏いながらも労いの声音を見せるエリカがいた。

 タケルが動けないせいで、シロガネの開発が負担となって寝不足なのだろう。多少なりとも身なりが乱れているが、努めて触れずにタケルは応じる。

 

「嬉しいですね。いつの間にかこんなにできる様になってたんだって……素直にそう思います」

「そりゃあ、先生が優秀だものね」

「それは買い被りですよ。彼女達の努力の賜物です……大体、ここしばらく見れていなかった時間の方が長いんですから」

 

 カガリを連れ戻しにヘリオポリスへ。

 そこから数ヶ月を開け、戻ってきてからもほとんど教官らしいことができないまま、すぐにまたオーブを飛び出したのだ。

 彼女達を自らが育てたなどとは、烏滸がましくて口が裂けてもいえなかった。

 

「あの子達の成長する基礎を作り上げたのは貴方なのよ。そう謙遜することも無いんじゃないかしら?」

「そうですかね……そうならまぁ、嬉しいですけど」

「大好きな教官に褒めてもらいたいってね。貴方じゃなきゃ、あの子達もあそこまで頑張れなかったでしょう」

「その理由は……返答に困りますね」

 

 エリカの言葉にどう答えて良いか。タケルは苦笑いで返すのみであった。

 

「それで、急にどうしたのよ。これまでとは違って、随分実践的なシミュレーションと指導じゃない?」

 

 探るような視線を向けられ、タケルは再び苦笑いで返した。

 やはりエリカには敵わない、と改めてタケルは思った。

 勘付いているのだ。タケルが怯えている事に。

 

「やっぱり怖くなったと言いますか。自分がこんな風になって、いつどんな状況になるかもわからない情勢です。教えられることは、今のうちに教えておこうと思って」

「あの子達は軍所属ではないのよ。正式に徴用されるかどうかも──」

「M2を最も乗りこなせるのは彼女達です。これまで一緒に作り上げ、機体と共に成長してきたんですから、これは絶対ですよ。有事の際に、戦場に出ないはずがない」

 

 そうなれば、彼女達は戦場を経験する。

 その時になってからでは遅い。

 タケルにとって、彼女達はもう失う事を許容できない大切な存在になっている。

 カガリ同様に、戦場を生き残れる様に鍛えておきたいのだ。

 

「まるで確定しているかのようね……その有事とやらが」

「カーペンタリアに居たんです。人と物の動きを見れば、大規模作戦の前段階であることは分かります。そして、その作戦が成功することも……」

「地球軍はパナマを失い、宇宙への足がかりを求めてオーブへ、という事ね?」

「よもやとは思っていました。でも、今の地球軍にはなりふり構ってる余裕がない。楽観視はできませんから────シロガネの進捗はどうですか?」

 

 タケルの専用機体の開発──エリカが疲れた様子を見せるその原因。

 問われたエリカは、小さく肩をすくめながら答えた。

 

「機体の基礎はもう完成。貴方が考えた新規技術の装甲についてはもう少しってところかしら。後は一昨日もらった武装データだけど、そっちはアカツキと並行して試作中。できたら調整をお願いするわ」

「ありがとうございます……結構、進んでますね」

「以前見せてもらって、データはもらってたもの。貴方が居ないからと言って……それこそ戦死の報を受けたってお蔵入りにする気はなかったわよ。あんなハイエンド機、図面だけ見せられて作るなっていう方が無理よ」

「あはは、やっぱりエリカさんもそういうところは技術者なんですね」

「それはそうよ。貴方よりよっぽど長いんですからね。さて、そんな身体なんだし作業の方はウチのスタッフに任せて。貴方はあの子達に集中してあげなさい」

「ありがとうございます。後数日もしたら完全に復帰しますから」

「焦っちゃダメよ。余裕がなくなるとそうやってすぐ貴方は背負い込み過ぎるんだから。少しあの子達とのんびりしてなさいな」

 

 報告事項も終わったのか、仕事場に戻るべく背を向けるエリカを、タケルは少しだけ申し訳なさそうに見送った。

 心配性な面々のせいで……主にカガリやサヤ、アサギ達の事だが、彼女達に止められて未だ車椅子状態で安静を命じられている。

 オーブに戻ってきてから4日目。流石にもう傷も開かないだろうと思ってはいるが、カーペンタリアで軍医に1週間の安静と命じられた事を彼女等に話して居たために、絶対安静と言わんばかりに止められているのだ。

 本当なら散々迷惑を掛けた分、奮って開発に携わりたいところだと言うのに。

 

 痛みもないのだから大丈夫と言っても聞き入れてもらえないのは、自身の大丈夫という言葉に一切の信頼がないからなのだろう。

 タケルはひっそりと自身の信用の低さに涙を流した。

 

 

「あの……アマノ二尉?」

 

 はぁ、と小さくため息をついたところで遠慮がちな声を掛けられタケルは顔を上げた。

 

「アサギ? さすがにまだ再開しないよ?」

「い、いえ……さっき言ってた特別訓練の事で。どんな風に訓練してもらえるのかなぁ、なんて……」

 

 期待に満ちたアサギの声音と表情に、タケルは瞬間目を丸くするも嬉しそうな笑みを浮かべた。

 やる気に満ち溢れているのは良い事である。やらされているのと明確に目的意識を以て自らやるので訓練の効果が格段に違うのは言うまでも無いだろう。

 開発目的であった機体を乗りこなす訓練から、こうして実践的な機体を戦わせる訓練へと移行して反発もあるだろうと覚悟していたが、存外彼女達のやる気が高いことが嬉しかった。

 

「それじゃ、せっかくだし1本だけやってみようか?」

「はい、お願いします!」

 

 嬉しそうな返事にタケルも頷くと、シミュレーターへと向かい徐に車椅子から立ち上がってシミュレーターへと潜り込んだ。

 この時点でアサギは、タケルに安静にしてなさいと止めておくべきであったのだが、特別訓練に浮かれていた彼女はそのタイミングを失してしまった。

 

「それじゃ、アサギもそっちで早く準備して。機体はM2マニューバね。僕はM1使うから」

「えっ?」

「装備はサーベルとアーマーシュナイダーのみね。最低限、近接での防御手段だけはあげるから、全力で逃げて」

「えっ、えぇ!?」

「僕はライフルとサーベルしか装備しないから、選択肢は限られる。僕の動きをきっちり把握して、制限時間いっぱいまで撃墜されずに僕とのドックファイトから逃げきれたらクリアだよ」

 

 楽しみだと言わんばかりに顔を綻ばせるタケルを見て、アサギの瞳から光が消えた。

 特別訓練という言葉に少しでも甘い幻想を抱いていた愚かな自分に、アサギは最大限の侮蔑を脳内で吐き捨てる。

 勿論、タケルは決しておかしな事を言っているわけではない。

 高機動戦のお手本を自ら見せて、アサギに教えてくれるというのだから、正に彼女のためだけの特別訓練である。

 彼女が成長できる様、最大限図ってくれているだけなのだ。

 誠心誠意、100%彼女達を想っての事である。

 そこに余計な感情を少しでも期待した己が愚かだっただけだ。

 

 だがそれでも──

 

「……アマノ二尉のニブチン」

 

 少しくらいは乙女に夢を見させてくれてもいいのではないだろうか。アサギは恨めしく少年の背中を見つめる。

 なかなか独り占めできない教官とのマンツーマン。特別訓練という千載一遇の好機を手に入れ、年頃の少女らしく甘い雰囲気のひとつやふたつ狙えるかもと期待した。

 無論、訓練自体は全力で挑む気ではあったが、それにしても特別訓練が恐怖の鬼ごっことは酷いにも程があるだろう。

 

 タケル・アマノがパイロットとして常軌を逸した人間なのは周知の事実である。

 アークエンジェルから帰還した際持ち帰ってきた戦闘記録を閲覧して、アサギ達は疎かエリカまでもがドン引きしたのは記憶に新しい。

 特にバスターと対峙した際の戦闘記録だ。

 どこの世界に砲口を向けられて真正面から突撃し、その上全てを掻い潜って接近する変態がいるというのか。本当に、タケル・アマノの機動戦は常軌を逸している。

 そんな彼とドックファイトで逃げ切れ? 

 それができるのなら彼女は今頃国防軍に入ってそれなりの地位にいる事だろう。

 

 タケルとアサギの終わらない鬼ごっこが約束されてしまった。

 

「アサギ? どうしたの? 早くやろう」

「は、はい…………うぅ、アマノ二尉の乙女殺し」

 

 アサギが漏らした落胆の声は、シミュレーターで設定を弄っている少年には届かないのであった。

 

 余談だがこの後、休憩として取った10分の間に、述べ12回の撃墜判定を受けて涙したアサギは、休憩後のミッションでこの日1番の機動戦を見せて再びタケルより称賛の飴を貰うことになる。

 彼女は後に2人の友人へこう語った。

 

「アマノ二尉に比べたら、シミュレーターのジンなんて射撃も機動もザルすぎるわよ」

 

 オーブはまだまだ、平和である。

 

 

 

 

 

 

 プラント。クライン邸。

 

 しとしとと、草葉を濡らす雨が降る中、キラは変わらずクライン邸の庭で過ごしていた。

 ガラス張りで覆われているために雨の中でもこうして外でお茶ができるのは、恐らく隣で紅茶を用意する彼女の要望があったからなのだろうとキラは思った。

 

「ん、キラ……何か?」

 

 いつの間にか食い入る様に見つめていたのだろう。

 その視線に気がつき、ラクスは不思議そうに問いかけ、対してキラは慌てた様に視線を逸らした。

 

「な、なんでもないよ。ただなんて言うか、不思議で……」

「不思議、ですか?」

「どうしてラクスは僕を助けて……隣にいてくれるのかなって……」

「まぁ、キラは私がお嫌いなのですか」

 

 少しだけ悲しそうな声音を見せるラクスに、今度こそ慌ててキラは頭を振る。

 

「違うよ! ただ、僕は地球軍だし……」

「でしたらキラは、地球軍に戻りたいのですか?」

「それは……」

 

 すっと、ラクスの問いにキラの胸は締め付けられた。

 

 ────戦った。

 衛星機動上で、唯一あった退艦の機会を蹴り、そして自ら決心して守るために戦場へと赴いた。

 仲間となった人達の命を背負って、必死に。

 

 そして喪った──大切な友を。親友との繋がりを。戦う理由、それすらも。

 アークエンジェルはもう自らの手を離れている。

 正確にはキラ自身が離れてしまったと言うべきだが、アラスカ基地へと無事辿り着けたのなら、キラがもう戦う理由はないだろう。

 

「僕は、もう戦いたくない」

 

 もう、あんな想いはゴメンだった。

 大切な人を喪い、自分の至らなさに絶望して、そして嘗ての大切な友を憎しみに任せて殺し合う。

 自身の中に、制御できない獣がいる様な心地であった。

 少し前から戦闘中に意識が明瞭になり、力を発揮できる様な感触はあったが、あれは決して良い力ではないだろう。

 自身を復讐に駆られた獣へと変える様な、そんな場所にキラはもう行きたくなかった。

 

「でしたら、ここに居て良いのではありませんか?」

「僕は……ここに居ても、良いのかな?」

「私は勿論。とお答えいたしますが」

 

 鈴の音の様な声が、コロコロと転がされる。

 彼女の答え一つ一つが、キラの求めるものを正確に返してくれる気がした。

 まるで心を読まれている様だが、不思議と彼女には見透かされる不快感を抱くことはなかった。

 以前、アークエンジェルで出会った時から彼女はそうであった。人の機微に聡く、そして寄り添う事のできる娘であった。

 そのおかげで当時不安定だったキラは救われたのだから。

 

「今はただ、休むのが良いでしょう」

「マルキオさん」

 

 背後より掛けられる声に振り返ると、盲目の導師が静かにキラを見つめていた。

 盲目でありながら見つめると言うのもおかしな話だが、キラには彼がラクスと同様に人の心に寄り添い読み取る事に長けている人である事がなんとなくわかった。

 

「自分の向かう場所。せねばならぬ事。それはいずれ自ずと知れましょう」

「自ずと……ですか?」

「あなた方はSEEDを持つ者。故に……」

「だそうですわ」

 

 SEED──聴き慣れない単語に違和感を覚えるも、ラクスがティーカップを差し出してきたので、キラはそれ以上何かを言うことはなかった。

 

「──ありがとう。ラクス」

 

 ただ少し……少しだけ。

 先より気持ちが楽になり、この優しい時間に浸っていようとキラは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント最高評議会議長。

 シーゲル・クラインが退き、次なる議長として抜擢されたパトリック・ザラは、現在あてがわれた執務室で、その時を待っていた。

 

 可決されたオペレーション・スピットブレイク──その始動の時を。

 

 先日、マルキオ導師が使者となりシーゲルを介して提出された一つの親書。

 地球連合の事務総長オルバーニがマルキオに託した『オルバーニの譲歩案』。

 内容はプラントにある程度の自治権を認めつつも、再び連合の管理下に収められると言う、愚にもつかぬ馬鹿げた譲歩案であった。

 しかしそんなふさげた譲歩案であっても、シーゲルを筆頭とした穏健派からの声は大きかった。

 譲歩の姿勢を見せてきたとあれば、それは即ち講和への意志の表明でもあるのだ。

 

 落とし所さえ見つけられれば、戦争は終わる────終わらせられる。

 

 だが、パトリックからすればこれは見え透いた時間稼ぎである。

 既に連合の劣勢は明らか。譲歩などしなくとも、この戦争は既にプラントの勝ちが見えてきている。

 ブルーコスモスという過激な思想が蔓延っている地球において、講和による終戦の意向を果たしてオルバーニがどれだけまとめられるというのか。

 断言できる程に否だろう。

 オルバーニに時間稼ぎの意図があるかまでは不明だが少なくともこれは、譲歩をちらつかせた時間稼ぎにしかならない。

 必ず連合は、プラントへと攻め入る事だろう。

 

 そうなる前に、連合を叩く必要があった。

 スピットブレイクは、そのために可決されたのである。

 

「時間か────レノア、もう少し。あと少しだ」

 

 亡き妻に想いを馳せる。

 あの忌まわしきユニウスセブンの悲劇によって奪われた、243721人の命。

 その犠牲が報われる時は今。

 

 パトリックは通信回線を開いた。

 通信先は、作戦の開始を待ち望む、全兵士達へと。

 

「この作戦によって、戦争が早期終結へと向かわん事を切に願う。真の自由と、正義が示されん事を────オペレーション・スピットブレイク、開始せよ!」

 

 

 

 宇宙(そら)に、叛逆の狼煙が上がった。

 

 




いよいよ、始まります。

オーブはまだギリギリ平和。今のうちにイチャらせないと。
というか、SEED完結後の日常編を描きた過ぎて最近悶々としてます。
完結させるまでは書けない。かといって本編をおざなりにはしたくないので、もどかしい。

感想で作者のやる気をブーストさせてください。読者の皆様。
どうぞよろしくお願いします。
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