機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE -64 悪意の宇宙

 

 

 オペレーション・スピットブレイク────開始。

 

 衛星軌道上で待機していた全ザフト艦に、パトリック・ザラより指令が下された。

 

「事務局発、第6号作戦開封承認」

「コールサイン、オペレーション・スピットブレイク」

 

 次々と通達された作戦指令を艦内オペレーターが読み上げ情報が伝達されていく。

 ユニウスセブンの悲劇に端を発する地球軍との戦争。その最後の一手とするべく今、ザフト最大の進行作戦が幕を上げた。

 

 

「目標──地球軍アラスカ基地JOSH-A!」

 

 

 オペレーターより読み上げられた進行目標の名前に、次々と疑惑の声が上がる。

 それもそのはず。事前に将兵達が聞かされていた目標は地球軍のパナマ基地だ。

 地球軍の宇宙港となるパナマを落とし、地上へと閉じ込める。それがオペレーション・スピットブレイクの目的なはずであった。

 

「ジョシュアだと……」

「地球軍本部」

「パナマじゃ無かったのかよ?」

 

 俄かに降下部隊からは動揺の声が上がる。

 急な作戦の変更か。それともこれは元より予定されていたことか。

 

 浮き足立つ者も出てくるが、既に作戦指令は発令されており、降下部隊は急遽降下目標をアラスカへと変更し大気圏へと突入していく。

 

 地上にて、出撃準備に入っていたイザーク・ジュールも、軌道上の部隊から飛んできた指令に僅か疑問を覚えたが、すぐにその司令部の意図を察してその表情に楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「なるほどな、流石はザラ議長閣下だ。やってくれる」

「イザーク、どういう事だ?」

「これだけの大規模作戦。当然ながら評議会の承認なければ決行できない。だが、評議会の決定となれば嫌でもその情報は漏れる。現に連中は作戦目標をパナマだと信じ込んで主力部隊を展開してたわけだしな」

「確かに……」

「敵を欺くには味方からとはよく言ったものだ。お陰で地球軍本部を壊滅させるまたとない好機となった。頭を潰されれば連中にもう戦う力は残るまい」

 

 母艦のオペレーターと変化した状況を整理しながら、イザークはまた笑みを深める。

 

「これで終わりだな……ナチュラル共もさ」

 

 作戦の成功。そしてこの戦争の勝利を確信して、イザークは乗機となるデュエルへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 鳴り響く緊急警報のアラーム。

 

 ザフトの降下部隊の動きを察知したアラスカ基地は、一挙に慌ただしい空気となった。

 無論、その警報はアークエンジェルにて待機を継続させられていたマリュー達にも知るところとなる。

 

「艦長、この警報は……」

「統合作戦室より入電!」

「繋いで!」

 

 兎にも角にも現状を知る必要がある。

 パルの報告に居住まいを正したマリューは通信モニターの応答を待った。

 数秒の後に、慌てた様子を表情に見せるサザーランドが映し出される。

 

「サザーランド大佐、この警報は一体」

『してやられた! 守備軍は直ちに発進、迎撃に回れ!』

「なっ!? それはどういう事ですか」

『奴等は直前で目標をパナマからジョシュアへと変えたのだ。主力をパナマへと展開して、もぬけの殻となったここにな』

「そんな!?」

 

 信じられない……そう思うと同時に、この騒ぎとサザーランドの焦り様に、それが真実だともマリューは確信する。

 これは現実であり、そして今地球軍は敗戦の瀬戸際へと追い詰められている。

 

 ここアラスカは、ただの基地ではない。

 規模、施設、そのどれもが他とは一線を画す地球軍の総本山だ。

 尋常ではない数の迎撃設備と戦力を備え、“グランド・ホロー”と呼ばれる地下都市を内包している。

 核攻撃の直撃にも耐えると言われた強固な基地を陥落させるとなれば、それはもはや一国を攻め落とす様に等しい戦力が必要である。

 国と揶揄できる程の基地。それがここアラスカ基地なのだ。

 落ちて、そして奪われたとなれば、地上の勢力図は一気に傾く。

 

『パナマの主力部隊が戻るまで、何としても持ち堪えろ!』

 

 指示だけ下したところで、一方的に通信を切られ、警報が鳴り続く基地内の中にありながら艦橋には静けさが過ぎる。

 主力がいない状態でどれだけ戦えるのか。

 現在アラスカに守備軍として編成されているアークエンジェルと、ユーラシア連邦の部隊が少しという程度だ。

 ザフトのMS部隊とやりあうには明らかに足りない。

 迎撃設備とて、扱う人員が十全にいるわけではないだろう。こちらについても、パナマに回されている影響があるはずだ。

 その上アークエンジェルだって、ナタルとムウ、キラを失いまるで本領発揮できる状態ではないだろう。

 戦局は控えめに言っても厳しいの一言に尽きる。

 

「この状況で戦えというのも酷な話だけど……本部をやらせるわけにはいかないわ」

「艦長、では……」

 

 ノイマンの確かめる様な声に、マリューは静かに頷いた。

 

「総員、第一戦闘配備! アークエンジェルはこれより、アラスカ基地防衛任務のために発進します!」

「そんな、キラも少佐も、バジルール中尉だって居ないのにどうやって……」

「そんな事は分かっています! ですが、戦わなければなりません。厳しい戦いとなりますが、各員奮起せよ!」

 

 弱気を見せるカズイの呟きをマリューは一喝した。

 不穏な言葉は、クルー全体に広がる。少しでも強い言葉で鼓舞しなければ、たちまち戦意はくじかれるだろう。

 マリューの言葉に応える様にアークエンジェルは発進準備を整えていき、ノイマンの操舵の下艦船ドックを離れていく。

 

 羽をもがれた大天使が、静かに基地より発進した。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 クライン邸で療養中のキラは、雨の降る中ラクスと静かな時間を過ごしていた。

 近くで、マルキオが使用人と何度かやり取りをする姿もあったが、特に気に留める事もなく。

 屈託の無い笑みで対面に座るラクスと、静かに過ごしていた。

 

 今日も今日とてラクスはキラが安らげる様に傍に寄り添ってくれ、知らずの内にキラは彼女に甘える様になっていた。

 白く華奢な手に触れれば、雨の日だというのに何故か温かく。不思議そうに小首を傾げる仕草が妙に愛おしかった。

 助けられた。救われた。何より、キラの傷ついた心を理解してラクスは寄り添ってくれた。

 婚約者であるアスランには悪いと思いつつも、そんな彼女に心惹かれずにいるのは無理な話であった。

 勿論キラは、それを表立って伝える気などは無かったが、少なくとも彼女への情愛を自覚していた。

 

「ねぇ、ラクス」

「はい、何でしょうか?」

「アークエンジェルの時の様にまた……歌を聞かせてくれないかな。ラクスの歌、凄く静かな気持ちになれるから」

「まぁ、本当ですか!」

「うん」

 

 だから、キラはただ彼女の優しさだけを求めた。縋ったと言っても良いだろう。

 自身から気持ちを向けて、彼女に何かしてあげようとしたら──きっとそれは彼女への好意の発現となる。

 それは、してはいけない事だと思った。

 

 自分が救われるためだけに、ただ彼女に求めるだけ。

 ラクスとは、それだけで良い。彼女の隣に立つのは、アスラン・ザラなのだから。

 

「んっ、わかりましたわ。それでは、キラの為に私歌います──」

「おや、ちょうど良い時に来てしまったかな」

 

 柔らかな声が屋敷の方から聞こえて来て2人は目を向けた。

 

「お父様!」

「シーゲルさん。こんにちは」

「うむ。随分と元気になって来た様だね」

 

 ラクスの父、シーゲル・クラインである。

 

「はい、ラクスのお陰でどうにか……その分皆さんにはご迷惑をおかけしちゃってますが」

「気にする事はない。君にはそれこそ娘の命を救ってもらったわけだしね。それに、君と過ごす様になってからラクスは嬉しそうによく笑う様になった。君と過ごす時間はラクスにとっても、楽しい時間なのだろう」

「お、お父様。おやめになって下さい。キラにその様なお話をされては困ります」

「そう恥ずかしがる事もないだろう。気のおけない友人ならば」

 

 どこか恥ずかしげな感じに抗議するラクスを朗らかに受け流して、シーゲルは近くにいたマルキオへと視線を向けた。

 シーゲルがこの場に現れた要件は彼にあったのだろう。

 優しい父の顔から、真剣な政治家の顔つきに変わる。

 

「マルキオ導師。申し訳ないがやはりどのシャトルも地球に向かうものは出せない様です」

「そうですか。この情勢ではやはり──」

『シーゲル様、アイリーン・カナーバ様より通信です』

 

 その場に割り込む様に執事より入った連絡に、シーゲルは訝しみながらもマルキオとの話を切って、回されて来た通信回線を開いた。

 小さく映し出されたカナーバには、どこか焦りとも取れる表情が見え隠れしている。

 

「クラインだ。どうしたのかね?」

『シーゲル・クライン、我々はザラに欺かれた!』

「何? それは一体──」

『先程スピットブレイクが発動した。だが、その目標はパナマではない、アラスカだ!』

 

 息を呑む。

 それはシーゲルだけでなく、ラクスもマルキオも。

 そしてキラは、目を見開いて(おのの)いた。

 

「なんだと!? どういう事だそれは!」

『奴は一息に地球軍本部を壊滅させる気なのだ。評議会はそんな事を承認していない』

 

 そう……パナマを奪取し、地球軍を地上へと閉じ込める。

 そうして月と地上を分断した後に月基地も確保。ユニウスセブンの様にプラントへ直接攻撃できる経路を完全に断つ事ができるわけだ。

 そうなれば、地上へと進出しており宇宙からの直接降下も可能なプラントの優勢は揺るぎないものとなる。そこまでの戦局が出来上がれば、徹底抗戦とならずとも十分にプラント優位な講和も可能になるだろう。

 戦争を終わらせるための一手。

 そうなると判断したからこそ、穏健派の議員たちもスピットブレイクの可決へと至った。

 

 決して、地球軍を丸々壊滅させる様な狙いではない。

 

「すぐにそちらへ向かう。穏健派の皆に招集を」

 

 切迫した事態に有無を言わさぬ雰囲気を纏ってシーゲルは告げると、通信を切ってその場を後にする。

 状況を見守っていたラクスはしかし、隣で身体を震わせるキラの様子に気がつくのだった。

 

「キラ……?」

「はぁ、はぁ……アラスカ……皆が……」

 

 激しい動悸に襲われ、キラは呼吸も絶え絶えな様子となっていた。

 脳裏に思い起こされる、アークエンジェルの姿。

 描かれる、友人達と戦友達の苦境。

 そして、目に浮かぶ……喪われた命に嘆く自分。

 再び胸の内に去来する、もしもの喪失する恐怖に、キラは胸をおさえてうめいた。

 

 そんなキラの様子にラクスは慌てて立ち上がり彼の背中をさすってやるが、キラの身体の震えはまるで収まる気配がなかった。

 その尋常ではない様子に嫌な予感を振り払えなくて、ラクスは何かを見据えるかの様に静かにプラントの空を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブのアマノが持つ別荘にて。

 現在タケルとサヤが暮らすこの屋敷は、広い広い庭を持っている。

 

 使用人として兄と暮らすこの屋敷を守って来たサヤは、庭の整備も完璧にしており綺麗な状態であった。

 尤も綺麗とは、花壇があるとか草花が豊かに茂っているとかそういう話ではない。

 

 まっさらで何もない、芝生だけが茂っている。

 運動するにはもってこいの状態というわけだ。

 

 そして今この時、タケルは車椅子を捨て去り自身の足で大地を踏みしめていた。

 怪我の影響は皆無。体の調子は万全。

 本人は完全復活を見ているつもりである。

 

「うん、少し鈍ってるけどとりあえず怪我は大丈夫そうかな……それじゃ、サヤ」

「了解ですお兄様──それでは遠慮なく」

 

 数メートルの距離を置いて対峙するサヤへとタケルが視線を向けると、次の瞬間にはタケルの目の前へと踏み込んでいた。

 

「やっ!!」

 

 気合一閃。芝に軽く沈むほどの踏み込みから放たれる上段への回し蹴り。細身のサヤの肢体が鞭の様にしなりタケルを襲う。

 それをタケルは膝を抜いて沈み込むことで躱す。だが躱された勢いそのままにサヤは軸足を切り替え、今度は掬い上げるような後ろ回し蹴りを繰り出してくる。

 突き出された足をタケルはわずかに後退して威力を殺し、同時にサヤの足を捕らえた。

 

「捕ったよ」

「チッ!?」

 

 足を捕られた事にサヤが舌打ちを漏らすが、その隙にタケルは捕らえた足を掬い上げて潜り込む様にしゃがみ足払いを敢行。

 軸足を払われたサヤだが、即座に両手で体を支えてカバーすると、お返しと言わんばかりにカポエイラの要領で再びしなるような蹴撃を放つ。

 

 だが──

 

「よっと」

 

 なんとその蹴撃にタケルも真っ向から蹴りで合わせて迎撃。

 不完全な体制で繰り出した足を弾かれ、わずかに走った痛みにサヤの攻撃が止まった。

 

「はい、隙あり」

 

 動きが止まった瞬間に再び今度は地についている腕を払われ、今度こそサヤはその場に倒されてしまう。

 復帰の間もなく眼前には拳を突きつけられ、組手はタケルの勝利に終わった。

 

「うん、ばっちり完治。これでもう文句ないよね、サヤ?」

「それは勿論、こうも軽くあしらわれては文句も言えませんが……逆に何故影響がまるで無いのですか。お兄様は2週間も安静状態だったでしょうに、まるで衰えが無いではありませんか」

「それで衰えたくらいでナチュラルのサヤに負けちゃう様だと、僕の立つ瀬がないからね」

「むぅ……やはりお兄様には敵いませんわ」

 

 少しだけ不服そうな様子を見せながら、サヤは立ち上がった。

 

 タケルが怪我はもう大丈夫だと訴える事数日。

 献身的にタケルの世話をしていたサヤが傷痕を確認し、傷自体は塞がった事を確かめたもののやはりまだ影響があるのではとサヤの疑念が尽きず。

 結局こうして組手をして、運動をしても問題なければ、というところに落ちついたのであった。

 

 タケルとしても鈍った身体の調子を確かめるには丁度良いとサヤの提案を快諾。

 屋敷の庭で朝早くから対峙し、手加減も遠慮もする気のないサヤの攻勢を防いで、ようやく完治の証明となった。

 

「よし、それじゃ僕は仕事に行くから後をお願いね」

「完治したのは分かりましたが、忙しないですね。病み上がりだということは忘れないで下さいお兄様。それと、本日は夕食をちゃんとご用意させて頂きますので、必ず帰ってきて下さい。良いですね?」

 

 既にサヤへと背中を向けて歩き出していたタケルであったが、サヤの言葉に固まった。

 どこかぎこちなく振り返り苦笑いを見せるタケルに、サヤは抱いていた懸念が間違いではなかった事を確信する。

 

「やはり、モルゲンレーテに泊まり込むつもりだった様ですね」

「サヤ、これは仕方ない事なんだよ。僕がやらなきゃいけない仕事が山の様にあるんだから──」

「先程シモンズ主任から私宛に連絡が届いております。夕刻にモルゲンレーテまでお兄様を迎えにくる様にと……どうやら主任はお兄様の事などお見通しの様ですわ」

「エリカさん、なんでそんな……」

「お兄様がご自愛してくださらないからでしょう。お兄様の自由意志に任せたら、どうせまたこちらには帰って来ないでしょうし、適度に休む事すらも忘れそうですから」

「あ、あはは……そんな事無いつもりなんだけどね」

「本当にそうお思いなら、御自身のこれまでをよぉく省みてはいかがですか?」

 

 どの口がそれを言うのかと睨みを利かせてくる妹に、タケルは冷や汗をかきなが曖昧に笑うことしかできなかった。

 確かに以前全く帰って来なかった前科がある。

 サヤの言うことは尤もだろう。

 

「はぁ、わかったよ。ちゃんと切り上げて帰ってくるから迎えは無しで。夕食の準備もあるから大変でしょ?」

「別に、その程度問題ありませんわお兄様。その様にお気になさらずとも」

「僕が気にするからさ……妹に世話になりっぱなしっていうのもね」

「むぅ、サヤはそれを望んでおりますのに……」

 

 本音を言えば、モルゲンレーテにはカガリも顔を出すため2人を鉢合わせたくは無い、というところだがそれを正直告げるのは少々……いや、かなり憚られた。

 未だ2人に歩み寄る気配は欠片も無かった。悲しいことではあるが、顔を突き合わせない方が無難である。

 

「とにかく、19時までには帰ってくるから。良いね」

「わかりました。仕方ありませんね」

「それじゃ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ」

 

 こうして、本当に使用人の様に見送ってくるサヤの視線を背に感じながら。

 妙に長く感じた療養期間を終えたタケルはモルゲンレーテへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれ程そうしていただろうか。

 シーゲルがクライン邸を離れてからも、しばらくの時をそのままでいたキラとラクス。

 やがて、制御された空模様が雨を終わらせ、晴れ間が顔を覗かせる様になった頃。

 キラはようやく、その身を震わせた恐怖を御しきり顔を上げた。

 

「ごめん、ラクス……ありがとう。もう、大丈夫だから」

「いえ。それよりも……本当に大丈夫なのですか。顔色は、まだ優れない様に見えますが」

「うん……もう、大丈夫」

 

 大丈夫──その言葉が、ラクスには何故か別の意味に聞こえた。

 力無く立ち上がったかと思えば、フラフラとキラは歩き出す。

 雨に濡れた草葉を踏みながら、どこを見るでもなく、空を見つめて。

 何かを掴む様に、キラは手を伸ばしていた。

 

「どう……したのですか?」

 

 少し震えた声音でラクスは問いかけた。

 今、ラクスはキラの心が読めなかった。

 伸ばした手に何を見ているのか。先程、震えている間に何を思ったのか。

 それが、今のキラの背中からは読み取れなかった。

 ただ漠然と、何かの終わりを感じていた。

 

 伸ばした手を握り、キラは振り返る。

 風にそよぎ、少し揺れながら振り返ったキラの目元には、涙が溢れ頬を伝っていた。

 

「ごめん、ラクス。僕は行くよ」

「どちらへ、行かれますの?」

「地球へ。戻らなきゃ」

「何故? 貴方1人が戻ったところで、戦いは終わりません。傷つき疲れ、また自らを責める事になるのではありませんか?」

 

 その結果が今だ。

 大切な人達を死なせたくなくて、必死に守って来た結果だ。

 キラ・ヤマトは、戦火に身を置くべきではない。

 戻ればまた背負いきれずに自らを殺す事になる。

 真剣な眼差しを向けながら、ラクスは言外にそれを諭した。

 

 だがそれにキラは、頭を振って応える。

 

「僕にも、できる事がある」

「それは、貴方でなくてもできる事ではありませんか?」

「そうかもしれない。でも、もう嫌なんだ」

「嫌、ですか?」

 

 涙と共に、キラの瞳からは強い決意が溢れた。

 

「変えられないのも、変わらないのも。できるのに、しないのも。終わらせたいのに、諦めるのも」

「では戻って、またザフトと戦うのですか?」

「ううん」

「では地球軍と?」

 

 重ねられるラクスの問いに、キラは無言で再び頭を振った。

 

「では、キラは何と戦うのですか?」

「僕は、何と戦わなきゃならないのか────それが少し、わかった気がするんだ」

 

 ラクスを見つめる視線は強く、そしてどこか遠くを見据えていた。

 アークエンジェルで出会った時にもラクスは聞き及んでいたが、キラはずっと戦争に対して疑念を持っていた。

 地球軍もプラントも、戦争の先に何を見ているのか。

 今ある戦争が終わった先には一体何が残るのか。

 

 燻らせていた疑問の答えは、自身とアスランが証明していた。

 何も残らない──悲しみと、癒えぬ傷だけが心に深く刻み込まれ、後には何も残らない。

 それをキラは、理解した。

 

 戦うべきは敵ではない。

 立場を異にして、向き合う相手ではない。

 戦争の中にある悪意──自らも囚われ、抑えることのできなかった感情。

 

 それが、戦争の根幹なのだと。

 

「そう、ですか。分かりました」

 

 ラクスもまた、キラと同様に何かを決意した瞳を見せた。

 その様子にキラは不思議そうに疑問符を浮かべるが、そんなキラを尻目にラクスは使用人の1人を呼びつける。

 

「はい、お嬢様」

「あちらに連絡を────ラクス・クラインが平和の歌を歌います、と」

 

 ラクスの言葉にすぐさま了承の意を示して、使用人は下がっていった。

 

 未だ意味を解せないキラと、どこか期待の視線を宿すラクス。

 

 

 2人の背中を押す様に、プラントに新たな風が吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開始されたオペレーション・スピットブレイク。ぶつかり合う両軍の思惑。

 求めるものは、勝つための正義か、正義のための勝利か。

 死闘の果てに待つものを知る、青き翼が再び空を駈ける時、新たに導かれる未来は。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『舞い降りる剣』

 

 激闘の渦、切り裂け、ガンダム! 

 




いよいよ舞い降りる剣のシーンが目の前に。
上手く描きたいですね。

感想よろしくお願いします。
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