機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-66 舞い降りる剣

 

 

 アラスカ基地から数十キロ。

 戦火の気配など全く感じさせない、海中の潜水母艦の中で。

 ウィリアム・サザーランド大佐を筆頭とした地球連合上層部の面々は、送られてくるアラスカの戦況を確認していた。

 戦闘が始まってから約1時間というところか。いくつか基地内部へと進入するゲートが破られてはいるが、メインとなるゲートはアークエンジェルの奮戦もあって未だ破られていない。アラスカ守備軍は思いの外健闘していると言えるだろう。

 

「なかなか粘ってくれますね。流石は歴戦の艦だ」

「ミュラーの引き抜きで優秀な副長もいなくなったというのにな。おかげでこちらにとっては都合が良いが」

 

 守備軍が奮戦し、強固に抵抗するほどに、ザフトは基地の攻略に邁進するだろう。

 敵基地となれば情報、設備、その他諸々……ある種宝の山だ。

 抵抗される程に、敵には渡せないものがあるのだと期待を高めるだろう。

 

「とはいえ基地を失うのだ。最低でも8割は、誘い込みたい所だ」

 

 気を引き締めるように真剣な面持ちで呟くサザーランドの前には、一つの起動装置が置かれていた。

 

 戦略兵器“サイクロプス“────その起動装置である。

 巨大なマイクロ波発生装置を複数設置。範囲内に存在する物質に強烈な分子運動を促して熱することができる、いわば超巨大な電子レンジだ。

 アラスカ基地の地下に設置されたこのサイクロプスによって、進行して来たザフトを守備軍諸共一掃する作戦であった。

 

 地球軍本部のアラスカ基地を餌としたこの作戦。

 サザーランドが言うように、犠牲に相応な戦果が求められていた。

 

 ここでの作戦が上手くいった所で、情勢を変えられないのでは意味がない。

 多少の戦力を奪った程度では、兵器の性能差にまた押し負ける事だろう。

 この作戦の後に、即座にパナマの主力部隊によって地球圏内のザフトの基地を制圧できるくらい、ザフトの戦力を誘引する必要がある。

 

「奮戦してくれよ、アークエンジェル……最後の最後まで、な」

 

 サイクロプスの起動装置を見つめながら、サザーランドは静かに期待をのせた声音で呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 モルゲンレーテ本社。

 自身に宛てがわれた部屋にて仕事中のタケルの元へ1本の通信が入った。

 

「はい、アマノです」

『受付ロビーです。国防軍の、トダカ一佐がお越しです』

「トダカさん? なんだろう……わかりました、すぐに行きます」

 

 来客、というよりは本来であればタケルがモルゲンレーテのお客さんであり、トダカの方が組織的には身内になるのだが、とにかくトダカ来訪の通信に、タケルは端末を閉じてモルゲンレーテ本社のロビーへと向かった。

 

 ロビーまで数分。道中でアサギ達の訓練状況などをエリカに携帯端末で確認しながらロビーに辿り着くとそこには予定通りに待ち構えていたトダカと、一緒に来たのであろうカガリの姿があった。

 

「あ、アマノ二尉。お疲れ様です」

「はい、連絡ありがとうございました。後は僕の方で応対しますので」

 

 受付の女性スタッフに礼を言いつつ、トダカの来訪に国防軍に関することかと彼女が離れるのをまってからタケルは口を開いた。

 

「それで、どうしたんですかトダカさん? カガリまで連れて」

「姫様はたまたま一緒になっただけなのだがな……まぁ、用件は私も姫様も同じだ」

「同じ?」

 

 トダカの言葉に怪訝な表情を浮かべてタケルはカガリにも視線を向ける。

 カガリにはどこか落ち着かない雰囲気もあり、タケルは嫌な予感を禁じ得なかった。

 

「兄様、先程情報部から連絡が入った。ザフトの大規模作戦が始まったらしい」

「それなら、近々だろうって言うある程度の予測はついてたけど……それだけ?」

 

 ザフトの作戦は軌道上からの大規模な降下作戦だ。

 軌道上の人工衛星からの情報でそれを掴むのはある程度容易である。

 カガリが伝えてきた事柄に、タケルは特に驚くこともなく返した。

 

「もう一つだ────どうやら降下ルートから算出するに、目標地点はアラスカ基地と言う事だ」

「えっ? アラスカ基地……なんで……」

 

 トダカの言葉に、今度こそタケルは驚きを見せる。伝えられた事実は完全に予想外の内容であった。

 ザフトの狙いは連合を地球に閉じ込める事。その為のパナマ侵攻──戦略的にこれは正しいはず。

 アラスカ基地を狙う理由が無い。

 

 仮に今ここでアラスカ基地を落とせた所で、宇宙港であるパナマが残っているのなら月基地との連携は取れるのだ。

 プラントから遠く離れた地球にこれ以上の前線基地を確保した所で、戦力の量に乏しいザフトでは各基地に置ける防衛線力が足りなくなる。

 ただでさえザフトは最近になって、立て続けにカオシュンとヴィクトリアの宇宙港2箇所を落として占領している。

 MSによる優位があるとはいえ、分散させた少ない防衛戦力では数で勝る地球軍に飲み込まれるリスクが高い。

 

「どうして……あまりにもリスキーだ。トダカさん、何か他に情報はありませんか?」

「降下部隊はかなりの数らしい。アラスカ基地を落とすには十分な数を揃えたと見える」

「数頼み? ザフトがそんな事するわけが……だとしたら、新兵器? いや……」

 

 違和感を拭いきれないザフトの動きに、タケルは思考の渦に沈んでいく

 だが僅かな逡巡の中で、タケルはすぐに一つの可能性に思い至った。

 

「まさか、基地を制圧し手に入れることが目的じゃない?」

「制圧が目的じゃ無いって、どう言う事だ兄様?」

「そうか。ザフトは戦局を決めにきた……そう言う事だな、タケル?」

 

 トダカの問いに、タケルは小さく頷いた。

 

「はい──アラスカはただの足掛かり。一息に地球軍の本部であるアラスカを叩き、それを足がかりにパナマを含めた地上にある主要な基地を攻略。一挙に地球軍を壊滅させてこの戦争を終わらせるつもりなんです」

 

 タケルの言葉に、今度はカガリが驚きの表情を見せる。

 大規模作戦──タケルから聞き及んでいたそれは、大きな戦力を動かして情勢を変える作戦くらいでカガリは認識していた。それが突然、戦争の終わりへの局面へと変わるとなればそれも当然かもしれない。

 中立であるオーブに居るが故に、どこか対岸の火事を見ている心持ちでもいたのだろう。

 だが、このままザフトが地球軍を一挙に壊滅させるとなれば、地球の勢力図は一変する。

 そうなればオーブとて無関係ではいられない。

 

「追い込まれた地球軍がオーブを取り込みにくるか……或いはそうなる前に、ザフトがオーブを叩きにくるか。いずれにせよ、どちらも高い可能性として起こり得る」

「なるほど、それで総括は私をこっちに寄越したと言う事か」

義父(ちちうえ)が? そういえば、通信でも良さそうな話ですが、何でわざわざこっちに?」

「まずは確認だ。総括から任された機体の開発はどうなっている?」

「進捗報告ですか? この間帰ってきた翌日にデータの方は出しているはずなんですが……」

「聞きたいのはお前の機体についてと言う事だ。優先して進めろとも言伝を預かっている」

「そんな事に一佐のトダカを使うなんて何考えてるんだ、ユウキ・アマノの奴」

「お目付役という事でしょう。ザフトの進行目標がアラスカだと聞いて、またタケルが飛び出さぬようにと……」

「あぁ、なるほどな。確かにその可能性はあったか」

 

 普通なら通信で済む話。

 わざわざザフトの進行についてと進捗確認の為だけにトダカを使いに寄越すなど、本来であればあり得ない。が、タケルの前科を踏まえればまた突っ走らないようにストッパーとなるであろう人間を直接向かわせる必要があると言うのも納得できる話だ。

 道中でカガリと一緒になったことは、ユウキやトダカにとって好都合であったことだろう。

 

 あんまりな自身の評価に、タケルは顔を顰めた。

 

「あのさ、流石に僕も領海付近ならともかく、遠く離れたアラスカまでは飛び出さないよ。と言うか、どんな風に思われてるの僕?」

「聞きたいのか?」

「言って良いのか、兄様」

「──いや、やっぱり聞きたくないです」

 

 真顔で。しかもどことなく強い声音で返されて……タケルは思わず尻込みしてしまう。

 もはや良い事など一つも聞けないだろう。その確信があった。

 聞けば絶対後悔すると思い、横に首を振りながら今後は絶対に後先考えずに行動しないようにと固く誓うのであった。

 

「と、とりあえず進捗ですが、僕の機体は概ね60%の完成度という所でしょうか。機体自体は結構進んでいますが少々武装面での製造が遅れています。完成にはもうしばらくですね」

「具体的には?」

「はっきりとは言えません。出来上がってから調整する箇所も多いですし、想定通りに機能するかも実際に仕上がってからじゃないと分かりませんから」

「ふむ。姫様の機体についてはどうだ?」

「そっちは30%が良いとこです。武装も考えれば完成は数ヶ月先で見ています。エリカさんにもかなり無理言ってますがこれ以上は厳しいです」

「そうか、わかった。その旨で報告しておこう。ではな──」

「あ、ちょっと待ってください、トダカさん」

 

 早々に国防本部に戻ろうとするトダカに、タケルは待ったをかけた。

 何用かと振り返りながら疑問符を浮かべるトダカに、タケルは少しだけ神妙な面持ちとなって口を開く。

 

「義父に伝えて欲しいことがあるんですけど、お願いして良いですか?」

「それは構わないが……なんだ?」

「1週間後の19時に、僕の家に来て欲しいと」

「──どういう事だ?」

 

 疑問符を浮かべていたトダカは、タケルの言葉に少し真剣な顔つきへと変わる。

 わざわざトダカに伝言を頼む。それ程までにタケルはユウキ・アマノとは距離を置こうとしている。できる限り関わらないようにしている。

 だと言うのに、自ら自宅へと呼びつけるその真意。トダカには推し量ることができなかった。

 

「1週間以内に僕の機体は概ね仕上げます。その上で、今後の情勢について父と話しておきたいだけですよ。こうなった以上、どうなるか分かりませんから。義父と僕、それにサヤにはアマノの人間として備えておく責任がありますから」

 

 いわば国防を見据えた家族会議だろうか。

 尤もらしいといえば尤もらしいが、どうにも本心ではない気がする。

 しかしその疑念にも根拠があるわけではない。トダカは胸中の疑念を押し殺して頷いた。

 

「わかった、伝えておこう。だが無理はするな」

「分かってますよ。ありがとうございます、トダカさん」

「ではな」

 

 そうしてモルゲンレーテを出て行くトダカをタケルとカガリは見送った。

 

「兄様。大丈夫なのか、本当に……ユウキ・アマノを家に呼ぶなんて」

「大丈夫だよ別に。今更あの人から訓練を受けるわけでもないし──ただ、話をするだけだから。

 それじゃ、僕も仕事に戻るよ。あっ、カガリは折角だからアサギ達の訓練を見て行ってよ。どれだけできるようになったか。カガリと比べてどうか。アカツキの調整の参考にするから聞かせて」

「あ、あぁ。それくらい構わないが……」

「じゃ、お願いね」

 

 無理をしているようには感じないが、どこか違和感を覚えるタケルの気配にカガリもまたトダカ同様胸中に疑念を抱いた。

 

「今度は何を抱えてるんだ……バカ兄様」

 

 仕事に戻る兄の背中を見つめたカガリは、何か隠してそうなその背中に小さな悪態をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラスカ基地の攻防は熾烈を極めていた。

 

「ウォンバット、てぇー!」

 

 アークエンジェルから次々と放たれるミサイル。

 命中率は低いが敵機を近づかせないために放ち続けているミサイルは、残弾が心許なくなってきている。

 マリューの頬をわずかに冷や汗が伝う。

 次の瞬間、小さな衝撃に艦が揺れた。

 被弾の衝撃では無い──CICの報告を待ったマリューにトノムラが声を上げた。

 

「オレーグ撃沈!」

 

 近くで並び立っていた筈の友軍の撃沈報告である。

 思わず、マリューは息を呑んだ。

 ただでさえ少ない防衛戦力。一隻落ちれば防衛線の瓦解は目の前だ。

 

「取り舵、オレーグの抜けた穴を埋める!」

「この陣容じゃ、対処しきれませんよ!」

「くっ!?」

 

 操舵を任されたノイマンからも悲鳴に似た苦言が呈されマリューは唇を噛んだ。

 何もかも足りない──そんな事はわかっている。だがそれを口にしたら、今ここにいる全員の気持ちが折れる。

 なんとしても、マリューはここでそれを口にするわけにはいかなかった。

 

「12時方向、友軍機接近──被弾している模様!」

「何ですって」

 

 ミリアリアの報告に、艦橋のモニターへ映し出された地球軍の戦闘機を見つける。

 それは真っ直ぐにアークエンジェルへと向かってきていた。

 

「まさか、着艦しようとしているの!? 整備班、どっかのバカが突っ込んでくるわ! 退避して!!」

 

 このクソ忙しい状況で余計な指示を出させるバカを恨めしく思いながら、マリューは通信を開いて整備班へと緊急退避を指示。

 指示が飛んだ直後には、件の戦闘機がアークエンジェルのカタパルトへと突入して行くのだった。

 

 

 

 

 そんな……マリューにバカ呼ばわりされている事など露知らず。

 アークエンジェルへと突撃して行く戦闘機のパイロット──ムウ・ラ・フラガは、祈りながら機体を飛ばしていた。

 

 クルーゼとの邂逅から、司令部の状況を確認。

 そして司令部が思い描いたこの戦闘の筋書きを伝えるために機体を見つけて飛び出してきたのは良いものの、被弾したせいで通信機が故障。

 何も伝えることができないまま、アークエンジェルの破損したカタパルトへと突っ込んでいく事となってしまう。

 整備班の皆が退避してくれることを切に願うばかりである。

 

「頼むから退いててくれよ、皆さん!」

 

 できる限り速度を抑えながらも、勢いは殺しきれずカタパルトへと突入した戦闘機は緊急着陸時のネットにかかってなんとか無事に着艦する。

 動きが止まったと同時にすぐコクピットを飛び出したムウは、整備班が驚きの声を上げるのを尻目に、脱兎の如く走って艦橋へと急いだ。

 

「艦長!!」

「えっ!? しょ、少佐! 貴方一体何を……転属は?」

 

 突然のムウの登場に思考が空回りするマリューだが、それを遮るようにムウは口を開いた。

 

「そんな事はどうだって良い! とにかくすぐ撤退だ!」

「えっ? それはどういう……」

「こいつは飛んだ作戦だぜ! 守備軍は、一体どんな指令を受けてるんだ!」

 

 もはや憤りを隠せない様なムウの語気にマリューは困惑と共に押し黙った。

 ムウはそのまま、自身が見てきたことを告げる。

 

 完全にもぬけの殻となった司令部。

 基地を中心に周囲10kmを溶鉱炉と化すような、大量に設置されたサイクロプス。

 

 そして、アラスカに残された守備軍の編成。

 連合内でも大西洋連邦と派閥を別ける、ユーラシアの部隊とアークエンジェルのみのその構成。

 アラスカ本部を牛耳っている大西洋連邦が思い描いた構図である事は明白であった。

 

「戦力差は明らか。守備軍の全滅と共にアラスカ基地はザフトに奪われ、連中は施設の破棄を兼ねてサイクロプスを起動。これでザフトの戦力の大半を奪う──これが連中の描いたこの戦闘の筋書きだ!」

 

 捨てられた……使い捨ての駒として、信ずるべき軍に。

 ムウが告げたその事実が、クルーの皆から戦意を完全に奪った。

 

「こんな、こんなのが作戦なんですか……? 

 戦争だから、私たちは軍人だからって……そう言われて、作戦のために死ななきゃいけないんですか?」

 

 涙交じりに呟いたミリアリアの言葉がその場の全員の気持ちを代弁していた。

 軍人になった以上、死ぬ事はあるだろう。その可能性は絶対に消えない。

 だが、だとしても。それは信じるもののために戦った結果であるべきだはずだ。

 信じたものに裏切られて……捨てられて。そんな形で終わって良いはずがない。

 

 沈痛なミリアリアの言葉に、マリューはやるせない気持ちに襲われた。

 

 全てはヘリオポリスで彼らを巻き込んだ自身が発端だ。

 彼等をアークエンジェルに乗せ、戦場に巻き込み、キラを死なせた。

 そして今もまた、自身の命運と共に彼等を一緒に死なせようとしている。

 

 ふざけるな、と怒りが胸の内を埋める。

 今は亡き恩師の遺志を、マリューは忘れてはいない。

 彼等を巻き込んだその結果がこれでは、会わせる顔があるはずもない。

 

 認めるものかと心が叫んだ。作戦。命令。責任。そんなものクソくらえだマリューは断じた。

 目の前の──巻き込まれただけだった筈の少年達を無情にも切り捨てた軍の指示に、一体どれだけの正義があるというのか。

 否、そんなもの一片たりともあるはずが無い。

 

 マリューは、視線鋭く顔を上げた。

 

「ザフト軍を誘い込むのが目的なら、我々守備軍は既に十分その任務を果たしています」

 

 毅然とした声であった。

 厳しい戦線に必死に耐え忍ぶ、そんな苦しさに紛れた雰囲気ではない。

 やるべき事を見定めた、強い声音と共に、マリューはその決意を露わにする。

 

「最優先目標を現海域の離脱とする! 僚艦に打電、我に続け! 機関最大! 湾部の左翼を突破する!」

「脱出もかなり厳しいだろうが、心配しなさんな。俺も出る!」

「お願いします、少佐。何としても……」

 

 今頼れるのは彼だけ。

 何としても脱出を果たしたいマリューは縋るような目でムウを見つめた。

 

 絶対に死なせたくないと願うクルーの中に、彼だけは唯一含まれなかった。

 マリューにとってムウだけが、肩を並べて一緒にクルー達を守ってくれる戦友なのだ。

 

「任せなさいって。何たって俺は、不可能を可能にする男だぜ」

 

 颯爽と格納庫へ向かって駆け出すムウを見送り、マリューは即座に脱出に向けて指示を飛ばした。

 彼女のその気迫に応える様に、一度は絶望に染まった艦橋クルーの目に光が灯った。

 

「真に奮起する時は今! 各員、最後の最後まで生きる事を諦めるな!」

 

 まだ終わりではない──まだ彼等は、生きているのだから。

 

 

 

 

 一点突破を目指して、アークエンジェルを筆頭に突き進むアラスカ守備軍。

 

 戦線を放棄した事でアラスカ基地のメインゲートは突破され、ザフトは雪崩込む様に基地内へと進んでいく。

 しかし、それだけで終わらせてくれるほど、ザフトは甘くは無い。

 

 アークエンジェルの存在は、ザフトにとってまさに負の象徴だ。

 ザフトでも指折りの英雄クルーゼが率いる部隊が終ぞ落とせず、そして優秀な隊長達が討たれて犠牲となった。

 そのアークエンジェルが背を向けて戦場から逃げるのを、黙って見ているはずが無い。

 戦域にいるザフト艦とMSがこぞってアークエンジェルを狙う。

 

「くそっ、メインゲートだけじゃ物足りないってか。こっちは見逃してくれたって良いだろうに!!」

 

 スカイグラスパーで出撃したムウは、必死に襲いくるMS部隊を寄せ付けない様に迎撃して行く。

 ランチャーストライカーを装備し、戦闘機らしからぬ高火力の兵装を用いて、いくつもMSを撃ち落とすが、それでもやはり多勢に無勢。

 敵の攻撃はまるで衰える気配がなかった。

 アークエンジェルの艦載砲もかなりの数が損傷しており迎撃が間に合わない。

 今もまた、降り注ぐミサイルを迎撃しきれずに被弾を重ねてしまう。

 

「バリアント、1番2番沈黙!」

「損傷率30%を超えました!」

「まだよ! まだ──」

「後方より、デュエル接近!」

 

 必死にチャンスを手繰り寄せようと戦うマリューへ止めと言わんばかりの報告が飛び込んでくる。

 この土壇場でXシリーズ。因縁の機体のお出ましに、クルー達が息を呑んだ。

 

「迎撃集中! 取りつかせるな!」

「くっそ、こんな時にぃ!!」

「今日こそ落としてやる、足つき!」

 

 デュエルのコクピット内で、戦意十分にイザークが吠える。

 今やクルーゼ隊もザラ隊も残ったのは自分だけ。

 だからこそ、アークエンジェルだけは自身の手で落として見せる。

 その高い戦意の下、アークエンジェルに急速接近してきた。

 

 即座にムウが迎撃に向かう。

 だがイザークの士気は高く。何より今この時、ストライクもタケルが駆るアストレイもいない。

 元々MSに不利なメビウスやスカイグラスパーでムウが渡り合えてたのは、僚機であったストライク等との連携があったことが大きい。

 1対1できっちり集中して対応されては、Xシリーズにスカイグラスパーで対抗できるはずもない。

 

「舐めるな、バスターとは違うんだよ!」

「くっ、ちくしょう! 

 

 アグニをビームライフルで撃ち抜かれ、ランチャーをパージ。

 さらに追撃で放たれたアサルトシュラウドの各種火器に狙われ、スカイグラスパーはアークエンジェルから引き剥がされてしまった。

 

「クーリク、自走不能!!」

「ドロ撃沈!!」

「64から72ブロック隔壁閉鎖! 艦稼働率43%に低下」

 

 ムウが抜けた穴を突く様に次々と守備隊へ攻撃が加えられて行く。

 もはや残った艦はアークエンジェルを含めて数隻。

 そのどれもが虫の息である。

 

「ウォンバット、てぇー! 機関最大、振り切れ!」

 

 何とかせんとマリューは指示を出し続ける。だが、その奮起虚しく、アークエンジェルは機関の出力の低下により、海面へと不時着してしまった。

 

「くっ、アークエンジェル!! くっそぉ!」

 

 ムウが必死にデュエルを振り払おうとするが、振り切れない。

 海面に不時着したアークエンジェルは遂に、激しい戦火の中でその足を止めてしまった。

 

 止めをさすべく、接近するジンが3機。

 かろうじて生き残っていたイーゲルシュテルンで2機を退けるも、最後の1機がアークエンジェルの艦橋の前へと辿り着いた。

 

「くっ!」

 

 艦橋クルー達に戦慄が走る。

 眼前に構えられるジンの突撃機銃。

 引き金が引かれる僅かな瞬間が永遠にも感じられた。

 サイ、カズイ、ミリアリアは瞬間的に息を呑み、マリューは銃口を睨みつけて想い届かぬ事に恨みを募らせた。

 

 そのまま躊躇することなく。ジンは突撃機銃の引き金を引こうとした。

 

 

 

 

 直上より閃光が奔った。

 

 一度目は緑色。放たれた光条にジンの突撃機銃が射抜かれ爆散する。

 

 二度目は蒼色。駆け抜けた蒼天の翼がジンのメインカメラを斬り飛ばして、アークエンジェルより退ける。

 

 その光景を、アークエンジェルクルーは呆然と見つめていた。

 

 

 アークエンジェルの──マリュー達の眼前には1機のMSの姿があった。

 白を基調とした白亜の巨人が、戦場の全てを見据える様に頭部のデュアルアイを光らせる。

 

「なんだ!?」

「あのMSは!?」

 

 突然の事態に誰もが戸惑う中。

 舞い降りた白亜の巨人は威風堂々と、その蒼き翼を広げた。

 

 

「こちらキラ・ヤマト! 援護します、今のうちに退艦を!」

 

 

 混迷する戦場に、自由の名を冠した蒼天の剣が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予期せぬ報に揺れるプラントとアスランの心。

 知らずにいたのは為政者としての父の顔か。優しき笑顔の向こうに隠された厳しき魂か。

 信じて掲げた大儀が揺らぐ時、新たに開く扉は。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『集いて寄りて』

 

 紅き力、蘇れ、ガンダム!




ガンダム界屈指の名シーンだと言わざるを得ない。
それを文章で表す難しさと嬉しさ。

ちゃんと書けてますかね。
ご感想の程よろしくお願いします。

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