アークエンジェルにて。
艦橋での話を終えたキラ達ヘリオポリスの学生組は食堂に集まり、改めての再会を喜んでいた。
サイやカズイ、ミリアリアからすれば完全に戦死したものだと思っていただけに、やはりキラとの再会には感動も一入。
落ち着いて、色々と話したいことがたくさんあった。
「そう……トールはやっぱり」
悲しげに呟くミリアリア。
喜びに浸る前に、彼女にだけはすぐに伝えるべきだとキラはトールの最期を話した。
キラを援護するために、イージスに立ち向かった事。
そしてイージスの攻撃によって脱出の間も無く、機体ごと爆散した事。
ストライクに……MSに乗っていたキラは、まだパイロット保護の為に用意された機能があった。
あの時、イージスの自爆から身を守る為に、コクピットの隔壁を作動させ、どうにか一命を取り留めることができたキラ。
対してトールが乗るスカイグラスパーには、その様な保護機能はない。
脱出装置はあるだろうが、それが機能するタイミングもなかった。
トールの死は、確実である。
「ごめん……なんて、言っても意味はないよね」
「ううん。今は、キラが生きていた事だけでも十分だよ。悲しいけど、フレイのお陰で、少しは乗り越えられたつもりだし」
「そう……なんだ。そういえばフレイは? 見当たらないけど」
あっ、と少し気まずい表情を見せて、3人の雰囲気がどことなくぎこちなくなる。
なんだろうと小首を傾げるキラに、サイが代表として口を開いた。
「彼女は、アラスカで転属命令が出て、アークエンジェルを降りたんだ」
「えっ、それじゃまさか!?」
「いや、それは大丈夫だよ。一緒に転属命令が出てたバジルール中尉と一緒に、本部の連中と先んじて脱出してるはずだから。フラガ少佐は戻ってきちゃったけどな」
「そっか……それなら良かった」
アラスカ基地の顛末を見ただけに、一瞬あの場に残されていたのかと血の気が引いたキラだったが、冷静に考えてわざわざ転属命令を出して見捨てられたアークエンジェルから降ろしているのだ。
自爆が予定されている基地に残しているわけがない。
だからこそサイも、フレイの安否については心配する様子を見せていないのだろうと、キラは思い至った。
「それよりもキラ。キラこそ一体全体、どうしてあんな機体に乗って帰ってこれたんだよ。あれ、ストライクよりも凄い最新機なんだろう?」
「うん。まぁ、そうだね」
「俺あの時もう絶対終わりだと思って諦めてたから、キラがあの機体で守ってくれた時には本当安心して涙出てきちゃったくらいで」
「聞いても良いのかわからないけど、キラはプラントに居たんだよな? 一体何が?」
「僕はあの戦いの後、マルキオさんって人に拾われてね。その人がラクスの……えっと以前僕が救助したプラントのお姫様、覚えてる?」
「あのピンクのお姫様だろ? 覚えてるよ」
「マルキオさんがラクスの知り合いだったんだ。その伝手でプラントに運ばれて、治療してもらって……それで、治ってきた頃に向こうでアラスカの事を聞いて、居ても立っても居られなくて。そしたら、ラクスがあの機体を託してくれたんだ」
「えっと、それって彼女大丈夫なのか? めちゃくちゃまずい事してるんじゃ」
「うん。僕もそう思ったけど……でも、ラクスは大丈夫って。私も戦うからって」
正直なところ、ラクスに対して心配は尽きなかった。
誰が聞いても大きな問題行為だとわかるだろう。恐らくだが、追われる身となっているはずだ。
それが自身にフリーダムを託したが為だと思うと、キラの胸は少し苦しくなった。
だが同時に、決意の瞳と言葉を向けてくれた彼女の意思を信じようとも思えた。
泣いて苦しんでばかりいる自身より、彼女は余程強いだろうと。
だから、不安はあるが押し殺すことができた。
「そっか……とにかく、本当に生きてこうして会えて良かったよ」
「うん。僕もだよ」
4人は自然と笑い合う。
トールは戦死し、フレイは転属でこの場に居ない。
それでも、互いの生存と再会を喜び、優しく笑い合うことができた。
キラは思う。少なくともここにいる友人達に、コーディネーターを憎む様な思想はないだろう。
この艦では、キラもタケルも共に仲間として過ごしてきたのだから。
勿論敵となるコーディネーターに対して敵意を向けるのは仕方ないことだろうが、アークエンジェルのクルーは間違いなく、ザフトやプラントを全て滅ぼす様な思想は持っていない。
プラントにおいても、一緒に過ごして見知ったラクスやシーゲルを筆頭に、穏健派と呼ばれる人達がいる事を知っている。
平和への道は決して閉ざされては居ないのだと、目の前の友人達を見ればそう思えた。
改めて、キラは戦う理由を見つけた気がした。
同じ頃、オーブのモルゲンレーテではちょっとした集まりがあった。
「どうにか、有事となる前に間に合ったかな」
「苦労させられましたよ。貴方が寄越すデータはいつも無理難題ばかりなんですもの。本当、技術者泣かせです」
「よく言いますねそれ。嬉々としていじくり回してたじゃないですか」
「そりゃあ楽しかったもの」
「それは良かったです」
嬉しそうな顔が、声が、隠そうともせずに漏れていた。
タケルとエリカは、互いに視線を合わせて小さく笑い合うと、眼前のMSを見上げる。
モルゲンレーテのMS格納庫にて、アサギ達のM2アストレイと並んで鎮座する白銀の機体。
ORB-00シロガネが、ついに完成を迎えていた。
「うわー、名前の通り本当に銀ピカですね」
「派手だけど、カッコいいなぁ」
「M2アストレイと比べても、かなり細身な感じですね」
アサギ等3人が思い思いに感想を述べる中、この場に居合わせていたカガリも感慨深く見上げる。
タケル・アマノが自ら設計し開発した文字通りの専用機。
自身の能力を最大限に活かし、得意とする戦いを実現するために、これまでの知識と経験を全てつぎ込んだ、正に最高の機体の完成であった。
ジュリが言う様に、M2より更にシャープなフォルムとなっている。
全体的に流線形を意識した意匠であり、恐らくは機動戦を意識した軽量化も兼ねてのデザインだろう。
背部には少々大きめのバックパック。メインスラスターとそれを囲う花びらのように薄型のサブスラスターが6基。突き刺さるように設置されていた。
装甲の色とバックパックの形状こそ特徴的ではあるが、それ以外は大きく目を引くところは無い。
カガリが抱いた印象は、妙にスッキリとした機体、であった。
「兄様、どのくらい凄いんだ? これは」
「さぁね。まだ火を入れてないし。ただ──」
「ただ?」
はっきりせずに、言い淀んだタケルに、カガリはどこか不安を覚えた。
どこかしか妥協したのだろうか。技術的に難しく作りきれなかった機能があるのやもしれない。
そんな疑念を抱いたカガリだったが、その心配はすぐに杞憂となって消える。
隣で同じようにシロガネを見上げる兄は、緩みそうな口元を必死に押さえつけているかのように見えたからだ。
あぁ、これは相当浮かれてるな。と、カガリは察した。
「ただ、なんなんだよ兄様」
「既存のMSじゃ足元にも及ばないだろうね。ザフトも連合も含めてさ」
「大きく出たな。そこまでなのか」
「当然ですよ姫様。シロガネはもはや新規技術のオンパレード。私からだって太鼓判を押しますもの」
「シモンズまで……兄様同様、随分浮かれているな」
「これだけの機体を作れたとあっては、僕もエリカさんも技術者冥利に尽きるというものだからね」
設計段階から様々に意見を詰めて、制作段階でも色々と問題が浮き彫りになり。
詰めて検討して失敗して。ようやく完成へと漕ぎ着けた。
技術者として、これ程の機体の完成を見れたのは間違いなく誇りである。
それはタケルやエリカだけに限らず、共に携わった技術スタッフ達も一緒で、一様に感嘆の声が作業者達からも漏れていた。
「アマノ二尉ー! コクピット乗ってみても良いですか!」
「あっ、乗れるなら私も是非!」
「それなら、私もお願いします!」
「えっ、あ、良いけど、ちょっと待って! せめて一番最初は僕に乗らせて!」
設計から製作まで携わった専用機。流石に一番に乗り込むのだけは譲れない。
タケルははしゃぐアサギ達を窘めて、慌ててシロガネへと駆け寄っていく。
「あらあら。久しぶりに子供みたいな顔してましたね、アマノ二尉」
「シモンズだって顔だけなら似たようなものだろう。良い年た大人が……はしゃいでるの全然隠せてないからな」
「姫様にはわかりませんよ。この嬉しさは」
エリカの言葉にどことなく疎外感を感じて、カガリは僅かにムッとした表情を見せる。
それを隠すように再びシロガネを見上げてみれば、コクピット付近で騒いでる4人がいた。
本当に極々自然で、素の顔を晒してる兄の姿に、カガリも知らず笑みを浮かべてしまう。
完成したシロガネ。これで戦闘に出るようなことになれば、きっとタケルは軍人としての仮面を被っているだろう。
アークエンジェルにいた時のように、傷つき疲れて行くはずだ。
本当であれば、そんな風にはなってほしく無い。
タケルには、こうして設計開発に携わり技術者として過ごしている方がよほどお似合いだ。
それは今のタケルの表情が物語っている。
だが現実として、オーブが戦火に巻き込まれる日は近い。
ザフトの大規模作戦は失敗。
地球圏の中でも、情勢は大きく動こうとしている。
既に、地球圏でオーブ同様中立を謳っていた国家は次々と連合に取り込まれていた。
世界は、地球と宇宙で二分化が始まっているのだ。
「姫様?」
「なんでもない。シモンズ、シロガネは完成ということだが、アカツキについてはどうなってるんだ」
胸中に沸いた不安を隠す様に、エリカへアカツキの話題に切り替える。
カガリの問いに、エリカは少しだけ思案する様子を見せてから答えた。
「アマノ二尉が欲した機能が色々と難しくてお蔵入りに。現在はシロガネの機能をベースに急ピッチで進めています。武装の方も製作まではできているんですが、運用システムに問題があってアマノ二尉が今必死に構築中です。もうしばらくかかりますね」
「そうか……私も、備えておかなきゃいけないな」
「アマノ二尉は、大反対するでしょうけど」
「反対されたら、押し切ってやるさ。一度死にかけた兄様が言えたことかとな」
「──それでも、忘れないでくださいね。あの子がアカツキを作るのは、オーブを……そして何より姫様の命を守るためなのですから」
有事となった際に、ユウキが目論む様にカガリが前線に出ることが必要な時が来る。
だからこそ、カガリの安全を最大限に考慮した機体をタケルは設計している。
カガリに求められるのは、勇猛に戦う姿ではない。
兵士達と共に並び立つだけで良い。
言外に、逸るなと窘めてくるエリカに、カガリは視線を逸らさず見つめ返した。
「わかっているさ、そのくらい──私に求められてるのは戦うことじゃない」
「それなら、良いですけど。あの子の頑張り、ちゃんと受け止めてあげてください」
「わかってる」
そう言って、カガリはその場を後にした。
向かう先は父の元。
有事の際に自身ができることを見据えて、カガリもまた確かな準備を始めていた。
プラント、クライン邸にて。
パトリックより指令を受けたアスランは、工廠での機体受領の前に事態を確かめるべくクライン邸へと赴いていた。
しかしそこは、既に保安局によって捜索され荒れ放題。
かつて婚約者である彼女と過ごした思い出の場所が、見るも無惨な程に荒らされていた。
屋敷の中を探しても特に手がかりはなく。
アスランは当てもなくクライン邸の庭をうろつく。
「はぁ……ラクス、一体どこへ」
すると、茂みの中で物音がして反射的にアスランは懐の銃へと手を伸ばした。
数秒──音の出所に視線を向けたまま待ち構えていると、アスランに向かって小さな物体が飛び出してくる。
「テヤンディ!」
機械音声で短い単語を発しながらアスランの眼前に現れたのは、良く知るペットロボットのハロであった。
あちこち汚れているが、特に壊れている様子の無いハロは、まるでアスランを誘うかのようにその場から離れていく。
何か手掛かりを感じて、アスランは直ぐに追いかけた。
「マイド! マイド!」
アスランから逃げるように跳ねていたハロは、ある場所で唐突に逆向きへと跳ねてアスランの手へと飛び込んできた。
「ミトメタクナーイ! マイド!」
ハロが止まった場所は、小さなアーチで覆われた場所で、まだ少し荒らされる前の状態が残っていた。
僅かに、そこに残された花を見て、アスランはその場所での思い出が脳裏に過った。
その花を見て、ラクスは初めて歌った劇場の花だと──心に残る記念の花だと語っていた。
根拠はなかった。
ハロにはそんな手掛かりを連想させるような、そんな高度な行動プログラムは積んでいない。
だが、今ここでこの花を見て、思い出が過った事は偶然ではない気がした。
何かに導かれるように、アスランは車へと戻ると、目的の場所へと走らせた。
雨が降る中車を走らせ、アスランはとある劇場へとたどり着く。
既に閉鎖されてから久しい、廃墟となった劇場であった。
だが、アスランは自身の直感が間違いではなかった事を確信する。
聞こえるのだ──良く知る歌声が。
雨音などまるで意に介さない、澄んだ声が劇場の外でも聞こえた。
導かれるように、アスランは奥へと進んでいく。
慎重に周囲を警戒しながら進んでいくと、劇場のホールへとたどり着いた。
そこには、ライトアップされたステージで静かに歌うラクス・クラインの姿があった。
「(ラクス……)」
本来なら直ぐにでも駆け寄り、聞きたいことが山ほどあった。
だが、彼女の歌声を聞くうちに、アスランの脳裏にはこれまでの出来事が過っていく。
キラとの再会。カガリとの出会い。ニコルの死──そして死闘。
戦争で心についた傷が洗い流されていくような心地であった。
”そうして、殺されたから殺して……殺したから殺されて。それで本当に最後は平和になるのかよ! えぇ! ”
”それ程までに自責にかられてしまうのなら、もっとその想いを信じてやれ。君が持つそれだけの想い……守れたものもたくさんあるはずだ───僕を救ってくれた人の言葉だよ”
”戦場での戦死は常だ。そういうものなんだって。お前のせいどころか、誰のせいでもないんだ”
慰めの言葉を聞いた。
誰のせいでもない。誰かのせいではない。それは無論、自分のせいでもない。
だから憎しみを募らせることなく、いつか来る平和を夢見て戦う必要があるのだ。
”勝つために必要となったのだ。あのエネルギーが……お前の任務は重大だぞ。心してかかれ! ”
父の言葉が過る。
勝つとは……戦争に勝つとは何なのだろうか。
何を以て勝利だとするのか。どうなったら勝利なのか。
見えてこない……少なくとも、父から指示された任務からは一つも平和になる世界が見えなかった。
「マイド! マイド! ラクスぅ~」
様々な事を考えている間に、ハロはラクスを見つけた事でアスランの手から飛び出していく。
「あら、ピンクちゃん!」
ハロの声にラクスの歌が途切れる。
感傷に浸っていたアスランは意識を切り替えステージへと飛び出した。
「──ラクス」
「ありがとうございました。やはり、貴方が連れてきてくださいましたね」
いつも通りの柔らかな声と雰囲気が、妙にアスランの神経を逆撫でる。
自身がしでかした事、それを何一つ理解していない様な彼女の雰囲気に小さな怒りが沸いて来る。
「教えてください、ラクス。どういうことなのですか?」
「お聞きになったから、ここにいらしたのではないのですか?」
「では本当なのですか! スパイを手引きしたと言うのは! なぜそのような事を!」
声を荒げるアスランに、ラクスはひるむことなくただ小さく首を横に振った。
「スパイの手引きなどはしておりません。キラにお渡ししただけですわ──新しい剣を」
「き、キラ!?」
「今の彼に必要で、彼が持つに相応しい力だからです」
意味は分からないが、少なくとも彼女がごまかしや嘘を言っているわけではない事だけはアスランには分かった。
しかし、その分言われた内容が理解できなかった。
キラは死んだはずだ──アスランがその手で殺した。
生きて、彼女からフリーダムを託されるなどと言う事、あるはずがない
「な、何を言ってるんです……あいつは、キラは……」
「貴方が殺しましたか?」
「ッ!?」
びくりとアスランは身体を震わせた。
強い声音で伝えられる事実が、嫌が応にも罪悪感を募らせる。
だが、対峙するラクスは真剣な表情から一転、優しい笑みを浮かべる。
「大丈夫です、アスラン。キラは生きています」
「う、嘘だ! 一体どういう企みなんです、ラクス・クライン! そんなバカな話……あいつは、あいつが生きているはずがない!」
手にしていた銃をラクスへと向ける。
もはやアスランの思考はぐちゃぐちゃであった。
信じきれなかったラクスの裏切り。
その上ラクスより伝えられる、殺してしまったはずのキラの生存。
特大の波が、アスランの冷静な思考を攫っていく。
「貴方と戦ったと……殺し合ってしまったと。キラは泣いていました」
「やめてください!」
それ以上は聞きたくないと、思わずアスランはラクスの言葉を遮る。
討ったのだ、自らの手で。大切な……戻れると思っていた親友をこの手で。
それをわざわざ言葉にして傷を抉られるのは耐えられない。
「言葉では、信じられませんか? では御自分で御覧になったものは? 久しぶりに戻られたプラントで、何を御覧になりましたか?」
「──ラクス」
戦いに迷いを抱いているアスランを、まるで見透かしたかのようなラクスの言葉にアスランは気圧される。
「アスランが信じて戦うものは何ですか? 頂いた勲章ですか? お父様の命令ですか?
そうであるならば、きっとキラは貴方の敵となるでしょう──そして、私もまた」
「なっ!?」
不穏な言葉を吐くラクスに、驚いている間に、ラクスは椅子から静かに立ち上がるとアスランへと詰め寄った。
「敵となったら、私を討ちますか──ザフトのアスラン・ザラ!」
「俺は……俺、は……」
もうアスランにラクスと視線を合わせる余裕は無かった。
迷いを、揺らぎを見透かされ、既に立場は逆転していた。
問い詰めに来たはずが、問い詰められている。
「ラクス様」
そこへ第3者の声が割り込む。
静かに潜めた声。その出所を探すより先に、アスランもラクスも複数の人の気配を察知した。
見れば、劇場ホールの入り口からスーツ姿の男たちが幾人も入って来ていた。
「ご苦労様でした、アスラン・ザラ」
「なんだと?」
とっさに、自身の背へとラクスを隠して、アスランは男たちと対峙する。
統一された服装にサイレンサー付きの銃まで共通。
恐らくは公安部のエージェントだろう。
「流石は婚約者ですな。お陰で助かりました……さぁ、お退きください」
「どこの誰とも知れない連中に婚約者を渡すほど、俺は愚かではないつもりだ」
「国家反逆罪の逃亡犯です。やむを得ない場合は射殺との命令も出ているのです。それを庇うつもりですか?」
「射殺命令だと? バカな」
完全に囲まれた状態。気圧されないように対峙するが、この状況では抗う術がないだろう。
アスランは切り抜ける手立てを探して視線を巡らせた。
次の瞬間、乾いた音がホールに響き渡る。
1発、2発。立て続けに響いた発砲音と共に、エージェントたちが次々と倒れていく。
瞬間、エージェント達が僅かに視線を逸らした隙に、アスランはラクスを抱えてステージの瓦礫の影へと隠れる。
劇場ホールの観客席に潜んでいた、恐らくはラクスの護衛であろう。
暗がりの中で狙撃されていき、エージェント達が次々と射抜かれていく。
最後の一人が倒れ、戦闘の気配が消えたところで、アスランは警戒しながら瓦礫の影より顔を出した。
「ラクス様、もうよろしいでしょうか。我等も行かねば……」
そこにいたのは、ザフトの軍服を着た一人の兵士。
今は亡き、アンドリューバルトフェルドの部隊の副長、マーチン・ダコスタである。
彼等はザフトの中でシーゲルの思想に傾倒する軍人達である。
所謂クライン派と呼ばれ、一部は私兵的に動いている者もいる。
彼はそのうちの一人で護衛を任されている人間であった。
「ダコスタさん、マルキオ様は?」
「無事お発ちになりました」
「そうですか。ではアスラン、守ってくださりありがとうございました」
「えっ……い、いぇ」
「キラは地球です──行って、お話してみてはいかがですか?」
そう言い残し、ラクスはダコスタと共に劇場の暗闇へと消えていく。
振り返ることもなく、そしてもう何もそれ以上は言葉を発することがなかった。
アスランは去りゆくラクスを見送り、追いかけることもできないまま、沈んだ気持ちで国防委員会へと帰還するのだった。
国防委員会へと帰還したアスランは、任務の準備を進め工廠へと向かった。
既に工廠では、受領予定のXO9Aジャスティスが整備も万全で準備されており、後はアスランの搭乗を待つばかりであった。
準備を終えたアスランはパイロットスーツへと着替え、ジャスティスへと乗り込む。
未だ思考は混乱の途にあったが、一つだけ確かな事があった。
”お話してみてはいかがですか? ”
ラクスの言葉に嘘はない──そしてそれはキラが生きている事が間違いがないと言う事にもなる。
もう一度会って、確かめる必要があった。
ニコルを殺され、キラと殺し合い。
それらを経た今、再びキラと対峙した時、自身は何を思うのか────何をするのか。
もう一つ。
ラクスが言う、今のキラに必要で相応しい力。
それがフリーダムだと言うのなら、今のキラは一体何を思って戦っているのか。
Nジャマ―キャンセラーは諸刃の剣だ。
扱いを間違えれば、戦争を終末へと導く可能性を孕んでいる。
それを、あのラクスが考えていないとは思えない。
必然、キラにはフリーダムを託すべきと考えるだけの何かがあるのだろう。
それが何なのか、アスランは知りたかった。
『XO9A、コンジット離脱を確認。発進スタンバイ────我等の正義に星の加護を』
管制局から発進準備完了の声を聞いて、アスランは空虚な宇宙を見据えた。
「アスラン・ザラ──ジャスティス出る!」
深紅に機体を染め上げて、アスラン・ザラは地球へ向かい飛び立つのだった。
いかがでしたか。
完成となったシロガネ。
オーブへ向かうアークエンジェルとフリーダム。
地球へ飛び立つジャスティス。
なんというか、大きな波が来てる。そんな気分です。
ここからの展開。作者も描いて行くのが非常に楽しみです。
是非是非読者の皆様にもこの期待感を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、感想をよろしくお願いいたします。