機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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感動の再会はもう十分ってことでギャグ路線


幕間 叱責

 

 

 

 オーブ首長国連邦。

 

 アラスカで受けた損傷もそのまま、再び傷だらけの寄港となったアークエンジェルがオノゴロの軍港へと入港していた。

 事前にマリューやムウが事情を説明して、アラスカでの戦線から落ち延びてきたことを理解してもらい、今回は護衛艦による砲撃も無しである。

 

 さて、そのアークエンジェル来航の報せと、また乗員の中にキラ・ヤマトの存在が確認された事で、カガリは大慌てとなり駆け出した。

 

「カガリ! 再会が嬉しいのはわかるけど、何でそんなに急いでるのさ!」

「うるさい、バカ兄様!」」

「う、うぇえ!?」

 

 取り付く島もない。いきなりの罵倒で一蹴されたタケルは、若干……否、かなりのショックを受けながらも先走るカガリの後を追う。

 そうして2人で走って駆けて、オノゴロの軍港へと辿り着いたところで入港してくるアークエンジェルを出迎えた。

 

 船体が固定されハッチが開かれる。

 飛び込もうとしたカガリだったが出合い頭に担架が出てきて反射的に横へとずれた。

 アラスカ戦線での怪我人が大急ぎで搬送されていく。

 全身を血で染める様な負傷者であった。

 

 ──嫌な予感を振り払うように首を振ると、カガリは猛然と艦内へと突き進んでいく。

 

「カガリ! 何をそんなに焦って──」

「うるさいと言っている!」

「ひっ!?」

 

 こんな焦燥の気持ちにさせているのは誰のせいだと、カガリはタケルに八つ当たりをした。

 

 死んだと聞かされていたキラが生きているかもしれない……

 つい先日も同じような事があったが、その時もカガリは最初、誤報であろうと信じなかった。

 信じて期待すると、誤報であった時のショックが大きいのだ。カガリはそれが怖かった。

 

 アークエンジェルの救助要請を受けて現場に赴き、そこでアスランを救助。

 そのアスランから、キラを討ったと聞かされ、更にはタケルもザフトの部隊が討ったと聞かされた時のカガリの喪失感は、それはもう筆舌に尽くしがたいものであった。

 明朗快活を地でいくカガリが、来る日も来る日も塞ぎ込んでいたのだから、その程度が知れるだろう。

 

 幸いにもタケルは生きて戻ってきたが、必ずしもキラが同様に生きているとは限らない。

 先ほどの様にとんでもない負傷をしているのかもしれない。

 この目で見るまではキラの無事を信じ切れない。

 

 故に、カガリは焦燥のままにアークエンジェル艦内を歩いていく。

 

 当然の事だが、キラとタケルにはなんら罪がない。

 無茶したとか、無鉄砲に戦場に出たとか突っ込むところはたくさんあるだろうが、勝手に戦死の情報が出回り、勝手に周囲が勘違いしていただけであり、それらも本人達の与り知らぬところで流れたものだ。

 

 もう一度述べるが、キラとタケルは悪くない。

 

 

 

 通路を突き進んだカガリだったが、交差路の所で辺りを見回してそれらしい人物を発見する。

 茶色がかった髪に、線の細い少年。

 カガリはハッとして彼の名を呼んだ。

 

「キラ!!」

「ん? あ、カガ──うわっ!?」

 

 もはやお得意の突撃を敢行してカガリはキラを押し倒す。

 背後でタケルが声にならない悲鳴を挙げていたのを、近くにいたサイとカズイが目撃していた。

 

「か、カガ──」

「この、バカぁ!!」

 

 ぼかぼかとキラの顔を、胸をついでに床をも叩いて、カガリは涙と共に叫んだ。

 

「わっ、えっ、ちょっ、いたっ、か、カガリ!?」

「お前も兄様も、揃いも揃って! この大バカ者ぉ!」

 

 ぽろぽろと、再び生きて会えた喜びに涙をこぼしながら、カガリはキラの胸に顔を埋めた。

 些か過激な再会の挨拶ではなかろうかと、当のキラは痛みに顔を顰めている。

 

「死んだと思ってたんだぞ!」

「あ、うん……ごめん」

「あんな残骸だけ残ってるところに、お前を探しに行って!」

「うん。助けに、来てくれてたんだよね? ありがとう」

「本当に、生きてるんだな?」

「うん、生きてるよ。戻ってきたんだ」

「そっか、本当に……良かった」

 

 言葉を交わし、目の前の現実を噛み締め、またひとしきり涙を流したところで、カガリはキラから離れ立ち上がる。

 ようやく解放されたキラも、未だ少し戸惑ってはいるが、努めて落ち着き立ち上がると改めてカガリと対した。

 

「ごめん、カガリ。心配かけちゃって」

「──いや、私の方こそ悪い。本当に生きてたからつい嬉しくなって……ちょっと勢いに任せすぎた」

「あぁ、うん。そこがカガリの良いところだとも思うから……僕は全然」

 

 がしっ、とまるでそんな効果音が聞こえる様な勢いでキラの肩が掴まれる。

 背後から感じる気配に、キラは瞬間的に息を呑んだ。

 

「ね、ねぇ……キラ……ちょっと、話聞かせてもらって良いかな? 主にカガリとの馴れ初めについてを」

 

 振り返ると、そこには酷い顔をした悪鬼が居た。

 

 

 目の前で、再会を喜び合い抱き合う最愛の妹と友人(タケル視点)

 押し倒し、キスでもせがまんばかりに顔を寄せる妹(タケル視点)

 照れ臭そうにそれをやんわりと押し返す友人A(タケル視点)

 

 先程まで目の前で繰り広げられていた光景。それ即ち、タケルにとって世界の終わりを示していた。

 

「ねぇ、いつから? 僕にも内緒で、一体いつからそんな関係に? 酷いなぁ、流石に僕にくらいは教えてくれても良くない? あっ、まさかとは思うけど、まだ手は出してないよね? 流石にまだ早いよね。手を出す前に僕に許可とるべきだもんね? それと言っておくけど僕はまだキラの事を認めてないからね?」

「た、タケル!? ちょ、ちょっと待って、絶対色々と勘違いしてるから! 僕とカガリは君が思うような関係じゃないから! いっ、痛たたあ! 待って待って、肩が潰れちゃうよ、タケル!!」

 

 

 この後、サイとカズイが参戦するもタケルをキラから引き離すことができず、通りかかったムウまで協力してやっとの思いでタケルを引き剥がす事に成功する。

 終わりには、カガリが羞恥に塗れてタケルをタコ殴りにするまでがオチである。

 

 

 再三にわたって述べるが、キラは悪くない。

 

 

 

 

 その後、一度食堂へと場所を移して、ひとしきり状況をキラとカガリから説明されると、タケルは大きく息を吐くのだった。

 

 全ては勘違い。

 キラの戦死の報をタケルは知らず、ただ再び会えたというだけでキラへと飛びついたカガリに、タケルは2人の関係性を盛大に勘違いしたというわけであった。

 

「はぁ、そう言う事か。全く紛らわしいんだから」

「えっ、どこが!? 全然タケルが思ったような感じなかったよね?」

 

 少なくともキラは、カガリに押し倒され思いっきり叩かれていただけだ。

 それを見て何を勘違いしたのかは知らぬが、とてもタケルが思うような関係性は欠片も見当たらないだろう。

 

「というかキラが戦死してたなんて話、僕は今初めて聞いたんだけど?」

「そこはスルー!? うん、まぁ……確かに僕はまず生きているとは思えないような状況だったかもしれないけど」

「兄様が言えた義理か。軍務で戦ってたキラと違って、兄様はただの自滅だったじゃないか」

「うっ、そう言われると、僕としても何も言えないけどさ……というかそもそもカガリが悪いんだよ。前から言ってるけど、年頃の女の子なんだからむやみやたらに同年代の男の子に抱き着くとかやめてくれる? 貞操観念どうなってるのさ?」

「う、うるさいな! 死んだと思ってたやつが生きてたんだ。そのくらい嬉しくもなるだろう!」

「タケルの方こそバナディーヤの時から思ってたけど、カガリが絡むと完全に目が節穴になるの辞めてよね。そろそろ僕もキレるよ」

「ん? バナディーヤの時? キラ、兄様と何かあったのか?」

「カガリもカガリで気づいてなかったの? もうどうなってるんだよこの兄妹!」

 

 周りを巻き込んで迷惑が過ぎる目の前の兄妹に、キラは珍しく悪態をついた。

 両サイドでサイとカズイが慰めるように肩に手を置いているところが、一層悲壮感を漂わせている。

 

「それにしても、プラントでラクス嬢にね……どうだったキラ。彼女は元気にしてた?」

「あぁ、うん。いつも笑ってて、相変わらず綺麗な歌声だったよ」

「また歌ってもらってたんだ」

「うん。目が覚めた直後は僕、身も心もボロボロだったから……ラクスには、凄く助けられたんだ」

「そっか。それは本当に……良かったね」

「何か含みが無い? タケル」

 

 先程の事があっただけに、若干疑心暗鬼となっているキラ。

 勘ぐったような言い方をするタケルに、目つきが鋭くなっていった。

 

「いや、無いよ。あえて言うなら、僕もカーペンタリアでザフトの人に助けられたからさ。同じだなって思って」

「えっ、よく無事だったね? 僕はまだ民間人であるマルキオさんとラクスに助けられたけど、タケルはそれこそこれまで戦ってきた人達って事だよね?」

「うん。あのオレンジカラーの機体に乗ってた人。ボロボロで浜に打ち上げられていた僕を見て、見殺しにしたら夢見が悪くなるってさ……お人好しだよね」

「そう、だね……でも、なんかちょっとだけ嬉しいかな」

「あ、やっぱりそう思う? 僕もだよ」

 

 タケルの答えに合わせてせてキラは気持ちが上擦り、笑みを見せた。

 敵対したとしても、そうして助け合える。仲良くなれると言うのなら。それはキラが夢見る平和な世界への大きな一歩である。

 そしてそれは、もう一度アスランとも昔の様に仲良くなれる可能性を秘めている。

 

 トールを討たれた事。わだかまりが無いと言えば嘘になるかもしれない。

 だがそれ以上に、今のキラは平和な世界を望んでいた。

 こうして再会を喜び合える、大切な人達と暮らせる平和を望んでいた。

 アスランが、共にいる世界を夢見ていた。

 

「おーい、坊主ども! 再会を喜ぶのは良いが、予定が詰まってるんだ、そろそろ行くぞ」

「あ、ムウさん、すいません」

「ほら、タケルも。アスハ代表が待ってるんだ。一緒に来い」

「えっ、別に僕は同席しろとの指示は受けてませんけど?」

「うちの艦長からの礼もある。領海から離脱するとき、お前が援護してくれた事へのな」

「あー、それはむしろ蒸し返さないでもらえた方が嬉しいんですが……」

 

 がしっと、効果音が聞こえそうな勢いで、タケルの腕が掴まれる。

 それも片方だけではない、両方である。

 

「さっ、行くよ。タケル」

「逃げられると思うなよ兄様。この際感謝と併せて徹底的にラミアス艦長にも怒られてもらうからな」

「えっ、怒られるの確定。ちょっ、ちょっと待って。僕忙しいから! 仕事たくさん残ってるから! 待って! 待って! 待ってってぇ!」

 

 両サイドから脇を固められたタケルは、喚きながらも2人に引きづられて連れていかれる。

 さながら死刑台へと立たされる囚人の様である。

 

 だが、ある意味では間違いではないかもしれない。

 

 何故なら──

 

 

「聞きましたよぉ、アマノ二尉……何やら随分と大変だったみたいですねぇ?」

 

 上陸するべく向かったアークエンジェルのハッチには、仁王の如く立ち塞がるマリュー・ラミアスの姿があったからだ。

 既にその気配は、怒髪天を衝くと言った所。

 怒りやら何やらで、彼女の綺麗な長い髪が浮き上がってる気配すら感じられる。

 タケルの両脇を固めていたキラとカガリは、その気配に思わず足を止め、タケルをマリューの眼前へと押し出した。

 寸分違わぬ綺麗な動きであった。

 マリューからの強烈な重圧を一身に受ける形となり、まるで獅子に睨まれたカエルの様にタケルは身を縮こまらせる。

 

「あ、えっとぉ……お久しぶりですね、ラミアス少佐」

「えぇ、お久しぶりです。アマノ二尉」

「お元気そうで……何よりです」

「あら、アマノ二尉の方こそ、お元気そうで大変喜ばしいですわ。

 領海ではありがとうございました。最後の最後まで援護していただき、本当に────感謝しています!!」

 

 ごちんと、強い声音と共にタケルの頭に拳骨が叩き落される。

 タケルは一瞬視界に星が舞った。

 

「あいったぁ!? なんで! なんでお礼と共に僕殴られたの!?」

「あれ程! 自分の、命を、軽んじるなと、言ったでしょう!」

「あ痛ぁ!? 二度もぶった!?」

「足りないくらいです! オーブの人間である貴方が、私たち地球軍の為に無理に戦場に出て、あまつさえ命を失いかけたなんて……怒っても怒り足りません!」

「す、すいません……ただ、あれは僕のせいで」

「だ・ま・り・な・さ・い! ナタルも散々言って来たでしょう。地球軍の戦いに、貴方が責任を感じる必要はないと。

 私だけでなく、ナタルの気持ちまで踏みにじって! それで貴方に死なれたら、私はカガリさんにどう申し開きすれば良いと言うのですか!」

 

 未だかつてない程に怒りをあらわにするマリューの剣幕に、その場にいた全員が気圧され息を呑んだ。

 タケルなどもはや、縮こまりすぎて床に這いつくばるようである。

 

「ご、ごめんな……さい」

「はぁ、はぁ……わかれば。いえ、どうせわかってはいないのだろうけれど……本当にもう少し御自分の命を大切にしてください。貴方は負う必要のないものを背負い過ぎです」

「はい……本当に、ごめんなさい」

「それでも、そんなあなたのお陰で、私達はアラスカに辿り着けました──改めて、感謝します」

 

 あっ、と小さく声を漏らしタケルは目を見開いた。

 深々と頭を下げるマリュー。

 その姿勢には、純粋な感謝の念が込められていた。

 実直で、真摯なマリューの想いに、タケルも改めて自身の行動の軽率さを思い知り、マリュー同様に頭を下げた。

 

「本当に、勝手な事をしてすいませんでした……ラミアス少佐。それと、真剣に怒ってくれて、ありがとうございます」

「いえ、私も少し感情的になりすぎました。ただ、言ったことは本心よ。貴方は本当に、もっと自分を大切にしなさい」

「はい……肝に銘じます」

「よろしい」

「んじゃ、そろそろ行こうか艦長……お偉いさんを待たせるわけにもいかないだろう?」

「えぇ、そうですね少佐。行きましょうか」

 

 ハッチから出て行くマリュー達。

 タケルは少しだけ胸に温かいものを感じながらその背を追う。

 

 真剣に、自分の事を心配して叱ってくれたマリューに、幼いころに亡くした母の影を見た気がした。

 

「反省、したか?」

「カガリ……うん、凄く」

「なら、私も許す」

「あ、許されてなかったんだ僕」

 

 今更になって蒸し返される妹の怒りに、タケルはマリューから怒られたばかりなのもあって少し辟易気味である。

 だがそれも仕方ないだろう。互いに大切な家族なのであれば、死の報を聞かされた辛さが大きく深いものなのは当然なのだから。

 余計な心配を掛けられたとあれば、嬉しい反面怒りが沸くのも当然の帰結であった。

 

「それじゃ、私達も行くぞ兄様」

「やっぱり行かなきゃいけないの? 僕仕事が……」

「後でキラに手伝わせよう」

「軍事機密だよ。無理に決まってるでしょ」

「じゃあ兄様が頑張るしかないな」

「手伝う気は無いんだね?」

「手伝えるなら手伝うさ」

「じゃあ、帰れなくなるからサヤを説得して欲し──」

「それだけは断る」

「早いねぇ、答えるのが」

「ほら、行くぞ兄様」

「はいはい。良いよ、後で自分で連絡するから」

 

 そう言って、タケルもカガリも並んで歩きだし、マリュー達に続いた。

 

 こうして一行は、ウズミが待つ行政府へと向かうのだった。

 

 




全部アスラン・ザラってやつが悪いんだ
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