機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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フリーダムが強すぎるって話

あと少し設定改変。
MSの型式番号にずれが生じています。ご注意ください


PHASE-70 懸念の引き金

 

 

 オーブ首長国連邦。

 行政府の会議室にて、マリュー達は一堂に会す。

 

 これまでの経緯。アラスカでの顛末。

 これらを聞いたウズミは、静かに息を吐きながら表情を険しくさせていた。

 

「サイクロプス、か……敵の情報漏洩があったとて、そのような策は常軌を逸しているとしかおもえん」

「ですがウズミ様。アラスカはそれでザフトの攻撃部隊の6割を奪いました。立案者に都合の良い犠牲の上で……です。

 机の上の冷たい計算ですが、戦果としては大きいでしょう」

 

 傍に控えるキサカの言葉に、表情ををさらに険しくさせるウズミ。

 机上の冷たい計算の結果、目の前に居並ぶ軍人たちは行き場を失い、戦う意味を失い、そうしてオーブへと落ち延びてきた。

 彼等に掛けられる言葉を、ウズミは持ち合わせていなかった。

 

「そうして都合の良い計算の結果が、これというわけか」

 

 会議室のモニターに映像が映し出された。

 映るのは地球連合の広報官の姿であった。

 

『守備隊は最後の一兵まで勇敢に戦った! 

 我々はこのジョシュア崩壊の日を、大いなる悲しみと共に歴史に刻まねばならない。が、我等は決して屈しない。我々が生きる平和な大地を、安全な空を奪う権利は、一体コーディネイターのどこにあるというのか! 

 この犠牲は大きい。が、我々はそれを乗り越え、立ち向かわなければならない! 地球の安全と平和、そして未来を守る為に、今こそ力を結集させ、思い上がったコーディネイター等と戦うのだ!』

 

 酷い自作自演であった。

 サイクロプスによる被害を全てザフトの新兵器のによるものだとして。

 反コーディネーター感情を煽り、戦意高揚に利用する。

 都合よく切り捨てた犠牲者たちすらもその材料として。

 

「わかっちゃいるけど、たまらんねこれは」

 

 ムウは思わず、画面から目を背けて憎々し気に口を開いた。

 

「既に大西洋連邦は、中立の立場を採る国々を次々と取り込んでいる。

 連合として参戦せぬ場合は敵対国とみなす、と言ってな。無論、我がオーブも例外ではない」

「それで、オーブはどうするおつもりで?」

「まだどうにか突っぱねている。屈した時にはそこのバカ娘から大目玉を喰らうのでな……私も必死だ」

「お、お父様!? 皆の前でなにを!」

 

 父の顔となり、ウズミは柔らかな声で冗談めいた事を言う。実際は冗談では無い上に、カガリを良く知るマリュー達であれば、大いに納得してくれる話であった。

 あぁ、確かにと言った表情を見せるマリュー達の間で、カガリはまさかの父からの口撃に顔を赤らめて顔を背けている。

 

 帰国して、アークエンジェルを降りてからしばらく。

 カガリはウズミのそばで国政の様々を見てきている。全てはいずれ自身が国政に携わるときの為に。

 今回の大西洋連邦からの打診についても当然の如く聞き及んでいて、カガリはそれはもう強く反発していた。

 

 曰く、オーブの理念を違えるな。

 陣営を定めれば国民のナチュラルかコーディネーター、どちらかを見捨てる事となるだろう。

 そんなことは許されてはならない。そのために兄は必死に頑張っているのだと、カガリは必死にウズミへと訴えていた。

 

「国民を思えば、降るのも止む無しかと一瞬過ったが、それも全て吹き飛ばしてくれた。アークエンジェルでの旅路は、本当にこの子を良く成長させてくれた。改めて礼を言わせてもらいたい」

「お父様、今はそんな話をする場ではないでしょう!」

「父さん、親バカも客人の前では程々にしてください」

 

 カガリとタケルに窘められて、ウズミは父の顔をしまい込むと再び真剣な表情でマリュー達へと視線を投げた。

 

「さて、御存知のことと思うが、我が国はコーディネイターを拒否しない。オーブの理念と法を守る者ならば、誰でも入国、居住を許可する数少ない国だ。

 遺伝子操作の是非の問題ではない。ただコーディネイターだから、ナチュラルだからとお互いを見る。そんな思想こそが、一層の軋轢を生むと考えるからだ。カガリがナチュラルなのも、キラ君がコーディネイターなのも、当の自分にはどうすることもできぬ、ただの事実でしかなかろう。

 なのに、コーディネイター全てを、ただ悪として敵として攻撃させようとするような大西洋連邦のやり方に、私は同調することは出来ん」

 

 地球と宇宙。ナチュラルとコーディネーター。

 対立の図式を確かなものにしようとする世界の流れに、はっきりとウズミは否を唱えた。

 

「しかし、仰ることは解りますが……失礼ですが、それはただの、理想論に過ぎないのではありませんか? それが理想とは思っていても、やはりコーディネイターはナチュラルを見下すし、ナチュラルはコーディネイターを妬みます。それが現実です」

 

 反論するムウの言葉に、タケルは口を閉ざしたまま頷いた。

 確かに、ウズミの言う事は理想論だ。

 いくらタケルとカガリがそんなことは無いと言っても、大多数はムウの言う通りのものの見方をしている。

 

 世界はきれいごとだけでは回らないのだ。

 

「分かっておる。無論我が国とて、全てが上手くいっているわけではない。が、だからと諦めては、やがて我等は、本当にお互いを滅ぼし合うしかなくなるぞ。そうなってから悔やんだとて、既に遅い……それとも、それが世界と言うのならば、黙って従うか?」

 

 諦めればよいか? 黙って見ていれば良いか? 

 それもまた否だ。

 キラが危惧したように、世界は今や終わりの無い争いへと向かっている。

 どちらの陣営も互いの存在を憎しみの糧とし、どちらの陣営も正義を振りかざしている。

 

 もはや、どちらも止まることはないだろう。

 

「どの道を選ぶも君達の自由だ。その軍服を裏切れぬと言うなら手も尽くそう。君等は、若く力もある。見極められよ。真に望む未来をな……まだ時間はあろう」

 

 そう締めくくって、ウズミとの会談は終わった。

 

 これからをどうするか。それを決める一つの判断材料として、ウズミは世界の情勢とオーブが見据える未来を伝えた。

 彼の言葉によって、自身が纏う軍服の意味とは──その疑問を、マリュー達の胸へ確かに落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふふ~ん。楽しみだなぁ」

 

 鼻歌交じりにすこぶるご機嫌な様子。

 タケル・アマノは、アークエンジェルの通路を歩いていた。

 

 ウズミとの会談を終えたアークエンジェル一行。

 艦へと戻るマリュー達に付いてくる形で、ちゃっかり乗り込んだタケルは、MSの格納庫を目指す。

 

 目的は唯一つ。

 キラが乗っているザフト最新鋭機の偵察である。

 

 久しぶりな顔合わせとなるマードック等と挨拶を交わしながら目的地のMS格納庫へと辿り着いたタケルは、思わず感嘆の息を漏らした。

 

「うわぁ~これが、フリーダム……ザフトの最新鋭機か」

 

 目の前に鎮座する灰色の巨人。

 シロガネのシャープなフォルムと比較すると、どちらかと言えばごつごつした感触は否めないが、それでも背部の大型ウイングから予測される飛行性能はかなりのものであろうことが容易に想像ついた。

 それだけではない。腰部にマウントされた砲塔、大きめのビームライフルに、聞いたところによるとウイングの中にも大型のビーム砲塔が付いているらしい。

 豊富で高火力な武装の大盤振る舞いだ。

 徹底した機能美を追求する姿勢を感じ、これを開発した技術者の性癖(こだわり)が見えるようである。

 

 きっと火力はロマンなのだろう。

 それも一撃必殺の大艦巨砲主義ではなく、数の暴力に傾倒しているタイプの設計者だ。

 

 だが。それだけの火砲を積みながら、しっかりと機動性と両立させているところが素晴らしい。

 火砲の位置は、機動戦の邪魔にならない様細心の注意を払った設計になっているし、PS装甲に加えビーム対策を施されたシールドを携行して防御面も万全。

 接近戦とてこれだけすっきりと仕上げられた機体なら動きに支障がでることもないはずだ。

 

 完璧だ──完璧すぎる程に完璧な機体である。

 

「これは、MSの理想形かもしれないね……面白くは無いけど」

 

 感嘆、その後にタケルは不服そうに声を漏らした。

 

 タケル自身もそうだが、パイロットには基本的に得手不得手があるものだ。

 アサギ達は見事にバラバラな適性を見せたし、カガリもまた、訓練を鑑みるに射撃寄りな成績を残している。

 だからストライクを参考に、各種ウェポンパックを作ったし、自身の専用機には望むままの機能を作り込んだ。

 特化運用……というよりは最適化運用こそが、パイロットを最大に活かすというのがタケルの持論である。

 パイロットの適正に徹頭徹尾合わせた機体。それこそがタケルが思い描く最高の機体だ。

 M2アストレイは幅広いパイロットの要望に応えられる素晴らしい機体に仕上がったと自負している。

 

 フリーダムは確かにMSの理想形。万能機と言えば聞こえは良いが、それを十全に使いこなすにはパイロットこそが万能となる必要がある。それははっきり言って、要求するパイロットの技量が高すぎて乗りこなせず、宝の持ち腐れとなるだろう。

 

「タケル? こんなところで何してるの?」

「キラ……」

 

 そう、この化け物を苦も無く使いこなす、変態的友人を除けばだ。

 

「何か用事?」

「あ~うん、えっとね……端的に言えば、スパイ?」

「スパイって? あぁ、そう言う事ね。言っておくけどデータは取らせないからね」

「わかってるよ。だから外から見て必死に情報を抜き取ってるんじゃないか」

「それもどうかと思うけど……でも良いの? 仕事山積みなんでしょ?」

「後の開発に生かせるなら徹底的に盗んできなさいってエリカさんにも言われてきたから」

「強かだなぁ、タケルもシモンズさんも」

「そうじゃなきゃ中立なんて貫き通せないってことだよ」

 

 今この瞬間にも、外交上では連合に下るべしと圧力がかかっているだろう。

 それを突っぱねていられるのは偏に、オーブがもつ技術の高さ、軍事力の高さが、連合に強行な姿勢を取れなくさせているからだ。

 オーブが技術協力してつくられたXシリーズ。その性能の高さが、連合に二の足を踏ませているのである。

 

「ねぇ、キラ……」

 

 うずうずと我慢できない様子のタケルは、気持ち上擦った声でキラを呼んだ。

 

「ダメだよ」

「まだ何にも言ってない!」

「どうせちょっとだけ、とか言うつもりでしょ? ダメ、ラクスの気持ちを裏切る事になるから」

「じゃ、じゃあ目隠しするからコクピット乗せて! それなら良いでしょ、ね!」

「どこまで変態なんだ君は!? ってかその状態でも尚データを抜けそうで怖いから絶対いやだよ!」

「そこまで人間辞めてないよ!」

「それは人間辞めてない人のセリフだよ!」

「それはまるで僕が人間辞めているみたいじゃないか!」

「フリーダムに乗ってからよくわかった事だけど、アストレイであれだけの戦いをしていたタケルは十分人間辞めてるからね」

「その言葉のどこに安心できる要素があるのさ!」

「無いよ、何処にも」

「辛辣っ!?」

 

 友人からの手酷い口撃に、タケルはがっくりとうな垂れた。

 酷い言い様だ。アークエンジェルを守るために必死に戦ってきた結果がこの評価かと、タケルは胸中で涙を流す。

 

 仕方なくコクピットへ乗り込むことは諦めて、再びフリーダムを見上げると、その細部まで凝視していく。

 視線に攻撃力があったなら、今頃フリーダムは傷だらけだろう

 じっくりねっとりと嘗め回すようにフリーダムを見続けていたタケルであったが、そこで1つの違和感に気が付いた。

 

「ねぇ、キラ……フリーダムは大気圏内での空中戦闘が可能──そうだよね?」

「うん。そうだけど……それがどうかした?」

「搭載火器が腰の……レールガンに、翼の大型ビーム砲。携行のライフルに接近戦用のビームサーベルが2本?」

「後は頭部の機関砲があるくらい」

 

 徐々に、タケルの視線は険しくなっていく。

 それは、脳裏に過る推測がキラの答えによって形になっていき、それと同時に恐ろしい可能性でもあるからだ。

 

「正直に答えて、キラ……この機体の動力は何?」

 

 瞬間、キラは息を呑んだ。

 

 データは取られていないはずである。

 フリーダムにはコクピットハッチに強固なロックを掛けている。キラ以外には乗れない。

 乗れたとしてもOSにもロックを掛けている2重の障壁だ。

 間違いなく、タケルはフリーダムから直接データを取ってはいない。

 それでも、確信を得た核心を突く質問にキラは驚きを隠せなかった。

 

「タケル、わかるの? フリーダムの動力が?」

「質問に質問で返すのはずるいよ」

「──僕からそれをはっきりと答えるわけにはいかない」

 

 僅か、食い違う意見にキラとタケルは睨み合う。

 視線が交錯する中、それならばとタケルは再びフリーダムを見上げて口を開いた。

 

「不思議には思ったんだ。フリーダムは完璧すぎる。

 火力、機動力、防御性能。どれをとっても、既存の設計思想からは完全に外れた、超高性能機だ──普通であればあるはずの制約がまるで考慮されていない」

「制約?」

「うん──機体を動かすエネルギー。

 Xシリーズが長期戦に向かないのは知っての通り。PS装甲が電力をバカ食いするからストライカーの様に外部補給でもしなければ直ぐにガス欠になる。

 武装の消費だってビーム兵装の標準搭載で決して軽くはないしね」

「そう、だね」

 

 キラに向かって理路整然と述べたタケルは再びフリーダムを見上げた。

 

「機体に軽量化を意識した形跡は無い。重量はストライクよりずっと重いはず。これだけの機体を既存の動力環境で飛ばすのは、スラスターの技術向上程度では至難の業だ。豊富な武装の重量だってバカにならない。

 飛ぶだけでも相当苦しいはずなのに、PS装甲も搭載。電力を大量に使うはずのレールガンに高出力のビーム砲────これを既存のバッテリー駆動で実現しようとしたら機体各部にバッテリーを貼り付けまくる必要がある。

 それをやったとしても、短期決戦しかできないだろう」

「うん……そうだろうね」

 

 キラとてパイロットであり、ある程度機体にも詳しくなってきた。

 タケルが言う事が良くわかる。

 

 簡単に言えば、ストライクの動力でフリーダムの性能を実現できるか、という話である。

 答えは不可能──全く持って話にならない。

 仮にそれが可能なバッテリーが生み出されたとなれば、それはMS開発を一新する程の革命的技術となる。

 これもまた、不可能だ。

 シロガネですら新規技術のバッテリーによって、ようやくXシリーズを超える出力が確保できたところである。

 フリーダムの様に何倍もの出力を確保した機体と比べれば天と地の差だ。

 現状の技術体系では、まず不可能な出力を要する機体。

 エネルギーについてまるで意に介さない設計思想がタケルに1つの答えを見出した。

 

「質問を変えるよ、キラ。フリーダムの動力は──核を使ってるね?」

「────うん」

 

 完全に的を射た問いに、キラは観念して答えた。

 同時に、タケルからは大きなため息が零れる。

 

「やっぱり、か」

「その……別にそれを隠したくて答えられないって言ったわけじゃないんだ。あくまで、ラクスから託されたものだから。それに、この情報は広まっちゃまずいと思って」

「そりゃあ、そうだろうさ。

 わかってるキラ? フリーダムの秘密は今の情勢下で露見したら世界を変える。比喩じゃないよ、言葉通りに世界は変わる」

「──うん」

 

 エイプリルフールクライシスと呼ばれる日。

 ザフトが地球に撒いたNジャマーによって地球の核エネルギーは全て不活性化。

 地上では慢性的なエネルギー不足が発生している。

 そんな地上で核動力の使用が可能──今の地球圏にとって劇薬にも等しい情報であった。

 

「困窮する地球のインフラ事情だって変えられる。核が使えればとてつもない数の人達が助かる。

 一方で、戦争に用いられれば核兵器となって互いの陣営を破滅へと導く──何も残らない。終末戦争の引き金になるんだ」

「少なくとも、終戦までは露見してはいけないと、僕も思ってるよ」

「本当なら今からキラを拘束してフリーダムのデータを抜き取って、オーブのエネルギー問題を解決したい所だ──でも、今はできない。それをすればオーブは世界の鼻つまみ者になるだろうし」

「ごめん、タケル……そうなるのなら僕は」

「勿論そんなつもりはないよ。そこは安心して……ただ、これを隠し続けるには覚悟が必要だよ」

「わかってるよ。あれを託された時から僕はちゃんと覚悟してるから」

 

 キラの視線がフリーダムへと注がれる。

 決意を携えた瞳を見て、タケルにはキラの覚悟の程が伺えた。

 

「仮に奪われそうになるのなら、僕はフリーダムと一緒に自爆するつもりだ」

「友人としては嬉しくない覚悟だね……」

「僕もそうならないことを祈るよ」

 

 意思は固いのだろう。

 タケルは様々な意味で大きくため息を吐いて、肩に入っていた力を抜いた。

 

「一先ずわかったよ。この機体を託されたキラの覚悟を。ラクス嬢が何を想ってこれをキラに託したのか……それは正直全然読めないけど、とりあえず僕はキラの味方でいるつもり」

「うん、ありがとう」

「でもさ……」

「ん?」

「秘密にしている理由もわかった事だし、やっぱりちょっとだけコクピットに──」

「もぅ、結局それ? ダメだって」

「お願いだよキラー。ザフトの技術を盗む最高のチャンスなんだって」

「もう本音を隠す気も無いじゃないか!」

 

 きっぱりとタケルをあしらって、キラは背を向けた。

 

 それからしばらく格納庫には、情けなくキラへと縋るタケルと、冷たくあしらうキラの姿があったという。

 

 余談だがその日アークエンジェルCIC担当H.Mさんの部屋からは、あぁ~とかはぁ~とかしきりに聞こえたとかなんとか……真偽の程は定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球圏衛星軌道上。

 

 降下部隊の一員として搭乗機にて待機しているミゲル・アイマンは機体各部のパラメータをチェックしていた。

 

「ったく、人使いが荒いよな。帰国して機体を受領したと思えば、早速行ってこいってんだもんよ」

『アスラン・ザラなんかお前より早いとんぼ返りだったじゃねえか。一日でも休みもらえたお前はまだマシだろう』

「うるせえなマイク。ちゃっかり独り言聞いてんなよ」

『だったら通信くらいきっておけ。今の発言、報告されたら大目玉だぞ』

「はいはい」

 

 プツンと繋いでいた通信を切って、ミゲルは1人狭いコクピット内でため息を吐いた。

 

 アスランと共に帰国して翌日。

 工廠へと向かい予定されていた新型機を受領しミゲルはそのまま国防委員会直属でプラント防衛に務める筈であった。

 が、受領するその日に突然の任務変更。

 受領した新型に乗って、単騎で軌道上の降下部隊と合流し作戦に当たれとのお達しが来たのだ。

 

「単騎でって言われた時には驚いたが……Nジャマ―キャンセラーね。そりゃ単騎でもあちこち飛べるってもんだわな」

 

 ZGMF-X12Aディバイド。

 それがミゲルが乗る、新型機の名称だ。

 

 核動力を基軸にしたフリーダムやジャスティス同様の高性能機。

 特徴的なのはその背に負われた巨大な砲身と、腰に備えられたビームサーベルというには主張が大きすぎる柄。

 砲塔はプラズマ多目的ビームランチャー“ガラディン”と命名された試作兵装だ。

 3分割の砲身の組み換えによって、大口径の高出力砲、超長射程の狙撃砲、そして散弾砲塔へと切り替えられる複合兵装である。

 そして腰の柄はMA-V05H高出力ビームソードを搭載。

 従来のサーベルの様に、一定出力での励振ではなく、供給エネルギーによってサーベルサイズから対艦刀サイズまで変化を可能とする、その気になれば戦艦ですら真っ二つにする近接兵装である。

 

「“神意”の下、ナチュラルと袂を“別つ”……ね。全く持って賛同できるスローガンとは言えねえな」

 

 機体の名称に込められた、願い。

 フリーダムやジャスティスも含め、これらの機体の開発を主導してきたパトリック・ザラ新議長の強い思想が見え隠れしてくる。

 はっきり言ってミゲルには微塵も理解できなかった。

 

 確かに血のバレンタインの折、ミゲルもナチュラルへの敵意を強く持った。

 戦場では容赦なく地球軍を討ったきたものだ。

 

 しかし、全てのナチュラルにその気持ちをぶつけるかと問われれば否だ。

 

 タケルと出会い、ヘリオポリスやオーブを見て。

 少なくとも、無関係な人間に被害が及ぶことを、ミゲルは容認できなかった。

 

 血のバレンタインの悲劇を、ナチュラル全ての意思と挿げ替えるのは違うはずだと、胸の内ではそう決着をつけていた。

 

「とはいえ、スピットブレイクが失敗した今、なんとしても残存戦力だけでパナマを落とさないと、今度はこっちが危険だ」

 

 スピットブレイクは大々的な進攻作戦である。

 失敗に終わったが、地球軍からしてもプラントの強い攻勢を感じ取っただろう。

 そうなれば手痛い反撃が来ることを考慮しなければならない。

 

 当初の予定通り、アラスカの次はパナマを落とし、地球軍を地上に閉じ込める必要があった。

 誤報によって集められた主力部隊が駐在しているパナマ……簡単には落とせないだろう。

 

 故に、ミゲルと新型機ディバイドを増援として寄越したわけだ。

 ロールアウトした新型機。腐らせて置く余裕はザフトにももうない。

 

『ミゲル・アイマン』

 

 作戦時間ももう間もなく。

 そんな時に、ミゲルの下に通信が入る。

 

「ん? どうしたんだ艦長」

『その機体は単独で大気突入と長期活動が可能という事らしいな?』

「まぁな。かなりの高性能機なもんでね」

『先陣を切ってはもらえないか?』

「何? どういう意味で……あぁ、そう言う」

『察しが良くて助かる』

 

 アラスカでの惨状はミゲルも聞いている。

 要するに、パナマ攻略部隊はアラスカでの二の舞を恐れているわけだ。

 同じように罠が仕掛けられてはいないか。

 自分もサイクロプスによって死ぬのではないか。

 その恐怖が、降下部隊に伝搬しているのである。

 士気が低いのは否めない。

 

「主力を基地に集めてるんだ。アラスカの様な自爆作戦は取れねえだろうに」

『とはいえ、アラスカでの作戦も常軌を逸していると言って良い所業だ。主力すらも犠牲にして、と皆が怯えるのは無理もない』

「んで、新型に乗っている俺が降りれば皆続くと?」

『最新鋭機をむざむざ死地には飛び込ませないだろう。君が行く事で、真偽の程はともかく、罠の可能性は無いという一定の信用にはなり得る』

「なるほどね……どのみち味方の損害減らすなら俺が先に言って注目を集めた方が良いだろうしな。了解だ艦長。それじゃミゲル・アイマンとディバイド、これより出撃する!」

『感謝する』

 

 即座に発進アナウンスが響き渡り、同時にカタパルトへと移動していくディバイド。

 ハッチが開かれ、目の前に暗黒の大海原が広がった。

 

「よーし、艦長。全部隊に通信飛ばしてくれよ! 

 “黄昏の魔弾”が、パナマへの道を切り開いてやるってなぁ!」

 

 シグナルが赤から青へ。ミゲルはフットペダルを踏み込んだ。

 

「ミゲル・アイマン。ディバイド、行くぜ!」

 

 発進準備を終えたディバイドが、ナスカ級より飛び出していく。

 PS装甲を展開し、パーソナルカラーとも言えるオレンジと白を交えたカラーリングに染まると、スラスターを吹かして一気に地球へと向かって行った。

 

 

 

 パナマ攻略作戦──開戦の狼煙である。

 

 

 




西川ニキがノリノリで演じてくれそうなミゲルのターン

ディバイドは分ける意であるdivideからきてます。
自由と正義の命名理由に合わせて、プロヴィの意味から考えました。
武装についても、分けるの意味からシンプルな高出力兵装2種をメインとした機体になってますね。
主人公機に続くオリジナルのMSです。今後の活躍にご期待ください。

併せてテスタメント、リジュネレイトは無かった事にしています。
そこまで考えてられないと言うか……作者が気を回せないので。

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