機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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幕間 片鱗

 

 

「それで、現在は慣性航行のままアルテミスの要塞へと向かっているんですか?」

 

 整備状況と作業予定の確認を終えたタケルは、今後の動きをどうするのか確認するべく艦橋へと向かう。

 その途上、ナタルとばったり出くわし丁度良いと件の話の確認をしていた。

 

 デブリの密集した状況を隠れ蓑にアークエンジェルが取れる行動は二つ。

 月基地へと直接向かうか、近くにある連合の要塞、“アルテミス”へと向かうかである。

 

「そう言う事になる。アマノ二尉の助けがあったとは言え、物資の搬入は決して十分ではない。本隊が待つ月基地へ向かうにしても、キラ・ヤマトが拾ってきた避難民の事を考えれば、生活物資ですら直ぐに足りなくなる」

「まぁ、そうでしょうね……」

「他人事の様に言わないで頂きたい!」

「それは、当事者ではありますけども……」

 

 どうにもナタルからの風当たりが強かった。

 先のキラとの通信で割り込んだからだろうか。いやまさかそんな事で、と思うも見当がつかず、タケルは不機嫌そうな気配を醸し出すナタルへ恐る恐る問いかけた。

 

「ごめんなさい、何かやっちゃいました?」

「はぁ……まだ聞いてはいないようですね」

「えっと、何を……」

「先程、ラミアス大尉の監視下に置かれた彼らが、艦の事を手伝いたいと具申してきました」

「彼等って……サイ君達ですか?」

「そうそう。キラが頑張ってる中で、何もしないでいる事なんてできないってよ。まぁ泣かせる友情じゃない」

 

 背後から掛けられる声に振り返ると、おどけた様子でこちらに向かってくるムウが居た。

 

「フラガ大尉……なるほど、そういう事ですか。ですがそれと僕に何の関係が」

「タケル自身には関係無いっちゃ無いんだがな……あいつら連れてきたのがタケルの妹さんだったんだ。ほら、カガリって子」

 

 は? と思わずタケルは声を漏らした。

 何故、サイ達の具申にカガリが出てくるのだろうか。全く持って経緯がわからず、タケルは混乱したが、一つだけ確かな事がある。

 自分の知らないところで、何かをやらかしたのだ。

 

「彼等にも戦う理由がある。どうかその願いを聞いてやってくれないか、ってな。全くここが戦艦だってわかってるのかねぇ……」

「──バジルール少尉、大変申し訳ない。この非常時に余計な手を煩わせました」

「いえ……正直な所、艦の人手が足りないのは事実です。

 彼等は工学系のカレッジ生だったこともあって飲み込みが早い。助かってはいます」

「でもなぁ、そうホイホイ民間人を焚きつけられても困るって話なんだ。アイツらはまだ機密云々で監視下に置かれている立場だから良いが、他の無関係な連中まで手伝うとかって言い始めるとキリが無くなる」

「我々としては機密の保持も優先しなければなりません。カガリ氏の言葉は少々、周囲に影響を与えます」

 

 なんとなくだが2人の言葉からタケルは経緯を察することができた。

 サイ達が……頑張っているキラと同じように何かできる事は無いかと考えていたところで、物怖じしないカガリが彼らを伴って艦橋へ押しかけた。

 そんなところだろう。

 焚きつけた……と言うよりはやる気があった彼らの手助けとなり、きっかけとなってあげただけだろうか。

 

 周囲に影響……それもそうだろう。とタケルは思った。

 でなければ、オーブの獅子の娘ではない。

 最初にアークエンジェルに乗り込んだ時もそうだ。

 カガリの強い声と言葉に、影響を受けたものは多いだろう。

 多分、カガリに深い思惑は無い。

 周囲の人を焚きつけて、艦の為に人手を確保しよう等とは夢にも思っていない。それは彼女の領分ではない事くらい、カガリ自身理解している。

 ただ、ナチュラルである彼等が、コーディネイターであるキラと共に戦いたい。そう願ったから手を差し伸べただけだ。

 

 

 昔から、ウズミとタケルだけは知っている。彼女こそがオーブの代表足る人間であると。

 まだ経験浅く幼い為に、細かな事には目が届かない所があるが、そんなものは周囲の者が固めてやればどうとでもなる。

 肝心なのは、その声と言葉に力を持たせられるかどうかだ。

 

 しかし、タケルとしては妹の所業を楽観的に歓迎できる話でもなかった。

 この狭い戦艦内で、立場を悪くするわけにもいかないし、余計な事でマリュー達を困らせればそれはそのまま、艦全体の危機へとつながる。

 

「良く、言い含めておきます。余計な事は言わないようにと」

「是非お願いします」

 

 はぁ、と肩を落とすタケルにムウは耳打ちをする。

「(まぁあんまり気を落とすなよタケル。なんだかんだで嬉しい状況だし、少尉自身厳しい人だが確り指導してくれてる)」

「(それは嬉しい限りです。バジルール少尉の人柄は信用していますよ。少なくとも不当なやり方はしないでしょうし)」

「(その通りだ。だが、少尉の場合艦長や俺の決定に従わなければならない時が多いだろ? 今回も少尉は最初、迎え入れるべきではないと反対をしたんだが艦長のラミアス大尉が人手が欲しいのは事実だろうって許可しちゃったもんだから、要するにちょっと疲れてんだ。不機嫌なのはあんまり気にしないでやってくれ)」

「(それで最初の他人事だと思うなって事ですか。確かに僕も色々と迷惑かけちゃってるしなぁ)」

「お二人でこそこそと──何か?」

 

 目の前であからさまに小声で話されれば冷たい視線の1つも貰うだろう。

 彼女の場合その美貌も相まって、より冷たく感じるが、そんな視線を向けられればムウも溜まらず弁解にはいる。

 

「い、いやいや!? なんでもないぜ、なんにも」

「フラガ大尉、その反応はわかり易すぎません?」

「うるせぇなタケル! 男はな、美人相手に隠し事ができないんだよ!」

「ははっ、なるほど。それは一理ありますね」

「下らない御冗談を」

 

 ムウの軽薄な物言いをナタルは切って捨てる。

 先にも増してナタルがムウを見る目は冷たくなった。

 

「見てくれよタケル。この鉄面皮。折角の美人が台無しだと思わねえか?」

「僕はクールな女性も素敵だと思いますよ」

「大尉、セクハラですか?」

「おっといけねえ、ゼロの整備に呼ばれていたんだった。それじゃな」

 

 形勢不利を判断してムウは持ち場へと戦略的撤退。優れたMA乗りは引き際を見誤らないようだ。

 その場にはタケルとナタルが残った。

 

「全く。大尉の奔放さにも困ったものです」

「良いじゃないですか。肩ひじ張り過ぎていては、疲れるばかりですし」

「気を緩めて良い状況でもないでしょう」

「それは戦闘配備になってからでも遅くは無いのでは?」

 

 言葉の応酬がなんとなく小気味良いなと思いつつ、ナタルの表情が陰るのをタケルは見逃さなかった。

 

「──アマノ二尉はお強いのですね。私にはできそうもない」

 

 普段の気丈な気配が見られない、弱弱しい姿であった。

 彼女もまた、気丈な軍人である仮面を被り必死に自身を鼓舞していたのだろう。

 艦長も副艦長も成り行きでそのポジションへと収まり、マリューもナタルもいきなりの大きな責務を背負うことになったのだ。

 不安の目を意識せずにはいられない……軍人として優秀である彼女だからこそ、細事の全てに危険や不安が見え隠れする。

 それを見て見ぬ振りで暢気に事を構える事はできないのである。

 

「バジルール少尉、僕は強くなんかないです。目の前しか見えてないから、できる事が限られているから。ただそれをやる事だけ考えています。

 少尉と違うのは、僕が見てる範囲はこの艦ではなく妹とキラ君達。あとは増えてしまいましたけど、救命ポッドに乗っていた人達。

 オーブの国民である彼等を守る事しか見ていないし考えていないだけです。

 地球軍として、艦を守るために様々を考える必要がある少尉とは違います」

 

 だから、こうしましょう。とタケルは続ける

 

「僕を利用してください。この艦を守るために最大限に。

 僕のアストレイは地球軍にとって重要なものでは無いですよね? 

 良いです、僕は死ぬつもりもないのでいくらでも大変な任務を押し付けてください」

 

 まるで捨て石となる事を望むような発言にナタルは目を見開いた。

 

「貴殿は、一体何を……」

「あぁ、勘違いしないでください。何が言いたいかと言うと、少尉の不安が晴れるよう、戦果を見せてあげます、という事です」

「バカな、貴殿1人で一体何が変わると」

「まぁそこは結果を見てからにしましょう。

 それでは、僕もメビウスの整備を手伝いに行きますね。戦力は多いに越したことはないですから」

 

 不敵な笑みを残して、その場を去っていくタケルを見送るナタル。

 頭では先の言葉の意味を図りかねていた。

 実力を隠している? アストレイに新機能が? 

 そんなものがあればとっくに出しているはずだ。

 ならば一体何を……

 タケルの真意はわからないが、一つだけナタルにはわかる事があった。

 

「貴殿は、本当に強いのだな。タケル・アマノ」

 

 

 

 

 格納庫へと辿り着いたタケルは、先の一幕を思い出す。

 気丈で近寄りがたい雰囲気だったナタルが不意に見せた弱さ。

 タケルはどことなくそこに親近感が湧いていた。

 

 そっくりだと思ったのだ。

 普段は強く見せているのに、内心は不安に駆られている姿は、タケルと同じ。

 そしてそれは、カガリにも通じるところがある。

 

 タケルにとって、先のナタルの姿は大切な妹に重なるものがあった。

 その姿に瞬間的に手を差し伸べたくなったのだ。

 不安に駆らせたくなかった。気丈に振舞わせたくなかった。

 それはきっと、心に大きな負担をかけるから。

 

「おっ、タケルも手伝いに来てくれたのか。助かるぜ。もうちょいで終わり……どうしたんだお前?」

「すみません……ちょっとアストレイの調整をしてます」

「お、おう……あまり根を詰めすぎるなよ」

 

 ムウの心配の声を受けながら、タケルはアストレイにのりこんでキーボードを引き出す。

 即座に、恐るべき速度でタイピングを始めた。

 

「エネルギー配布率を変更……武装を最小限に、駆動部を最大値へ」

 

「サーベル出力を最低限。ライフルを速射重視のプログラムに変更」

 

「スラスター感度を最大値に。追従性を引き上げ」

 

 次々と設定が切り替わっていく。

 その設定幅も大きなもので、これでは操作感がまるで変わってくるだろう。

 だが、そんな事お構いなしにタケルの調整は続いていく。

 

 

 静かなコクピット内に、タケルの声だけが小さく響き続けるのだった。

 

 

 




いかがでしたか。

話進んでないですね。ごめんなさい。


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