機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-74 選択

 

 現在の世界情勢を鑑みず、地球圏の一国家としての責務を放棄し、頑なに自国の安寧のみを追求し、あまつさえ再三の協力要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ連合首長国に対して、地球連合軍はその構成国を代表して以下の要求を通告する。

 

 1.オーブ首長国の現政権の即時退陣

 2.国軍の武装解除、並びに解体

 

 24時間以内に以上の要求が実行されない場合、地球連合はオーブ首長国をザフト支援国家と見なし、武力を以て対峙するものである。

 

 

 

 

 大西洋連邦から届いた最後通告に、オーブ政府は揺れた。

 

 

「バカげた要求と共に最後通告とは、呆れた茶番だな」

「まるで吞ませる気がないような条件と言い、これはもはや完全に嫌われたということだろうて」

 

 ウズミの言葉にホムラは自嘲気味に返した。

 緊急に招集された議員たちの中からも、憤りの声が大きい。

 

「パナマを落とされ、体裁の取り繕う余裕すらないと見える──状況は?」

「既に太平洋を連合艦隊が南下中です」

「欲しいのはマスドライバーとモルゲンレーテでしょうなぁ」

「とは言え、ここでいくら不当だと声高に叫んだところで、既に大西洋連邦に逆らえる国は無い」

「ユーラシア連合は疲弊し、赤道連合にスカンジナビアと言った中立国も、既に連合加盟国じゃ」

 

 既に地球圏での勢力は、オーブを除き連合一色に染まっていると言って良い。

 まだ中立を貫いている国もいくつかあるが、それらは中立を貫いているというより、取り込む必要があるほど大きな国力を持たない小国であることが理由だ。

 実質的には勢力としての存在価値は無い。

 

「避難の方は?」

「国防軍主導で既に……流石はアマノじゃて。よぉ対策してある。受け入れ先まで準備万端じゃ──だが惜しむらくは、最後通告からの時間があまりにも短い事じゃ」

 

 僅か24時間。それがオーブに与えられた猶予だ。

 国の生末を決めるにあたって、これ程短い時間で協議しろとはあまりにも事を急いていると言えよう。

 それ程までに連合が追い詰められてる証左でもある。

 

「協議の暇すら与えず、陣営を定めろ。そういうことじゃな」

「どうあっても世界を二分したいか、大西洋連邦め」

 

 苦々しく吐くウズミの様子を、傍らでカガリは見つめる。

 この場で発言権こそないが、ウズミはカガリの同席を認めた。

 それは、今後を踏まえよく見ておけというウズミの教育だと考え、カガリは自身でも現状をまとめながら目の前の話し合いを見つめる。

 

 陣営を定めれば、どちらかが味方でどちらかが敵になる。

 カガリは、以前にもウズミに進言していた。

 自分達の決定で、オーブ国民の内、どちらかを切り捨てるような選択を取ってはならないと。

 

 しかし、現実としてその中立の姿勢が国家を転覆させようとしている。

 それもまた、国民を想えば避けねばならないはずの事態だ。

 

 

 なれば、賽はもう投げられたと言って良いだろう。

 

 

 連合は確実に通らないものとして最後通告を出してきている。

 つまりは、最初から一戦交える気でいるのだ。

 無論、このままオーブが連合に付けば一時の平和は維持できるだろう。

 だがそうなれば、衛星軌道上から侵攻できるザフトによって、オーブはどのみち戦火に見舞われる。

 

 取れる手段は1つだ。

 戦い、そして凌ぐしかない。

 所詮は中立のオーブ。連合にとって本当に相対するべき敵では無い。

 本当の敵はプラントだ。オーブにこだわって、疲弊してしまっては肝心な戦いに勝てなくなる。

 

 

 それを考えて、兄は必死に頑張ってきたのだ。

 友人である彼女達も、必死に訓練してきてのだ。

 

「(負けられないな。少なくとも容易くは……)」

 

 カガリは議論で紛糾するこの場に居ながら、訪れる事がわかっている戦火に想いを馳せているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスラン……」

「タケル」

 

 予想外の再会を果たした2人。数秒の時間を経て平静を取り戻した2人は、とりあえず緊張して力の入っていた肩を落とした。

 

「まったく、冷や冷やさせないでよ」

「勝手に君が慌てただけだろう?」

「部隊を伴ってるわけじゃなく単独行動で……こんな所に何の用があるの? ここは僕ら軍人が軽々しく来る場所じゃないよ」

「自分の事は棚上げなんだな。別に俺は、用があって降りてきたわけじゃない」

「ふぅん?」

「アマノさん、大丈夫の様ですね」

「あ、マルキオさん。はい、一応害はないと思います」

 

 子供達にまた連れられて、マルキオが顔を出す。

 一応の安全が確保できたことで、タケルは小さく安堵の息を吐いた。

 

「お久しぶりです、マルキオ導師」

「おや、これはまた珍しい。アスラン・ザラ、久しぶりです」

「あれ、お2人は知り合い?」

「あぁ、元々マルキオ様はラクスとも縁深い。俺も何度か顔を会わせている」

「なんだ。それでここに降りてきたわけね」

「早とちりしすぎなんだよ、タケルは」

「MSなんかに乗ってくるアスランが悪いでしょ」

「そこの軍用ヘリはなんだ? 君だって変わらないだろう」

「MSと軍用ヘリを同列に扱う人間を僕は初めて見たね」

「奇遇だな、一般人にとってはMSも軍用ヘリも同じ兵器だと言うのに、別物だと考える奴には俺も初めて会った」

「ふふ、二人とも仲がよろしい様ですね」

「良くはないです」

「良くありません」

 

 呼吸も揃って同じように否定してくるタケルとアスランに、マルキオは数瞬呆気にとられ目を丸くするも、次いでくすくすと面白いものを見るような目で笑う子供たちに釣られて笑みをかみ殺していた。

 

「実に面白い二人だ。アマノさん、今一度戻ってお茶でもどうでしょう。折角ですから彼と一緒に……」

「急いで帰る予定でしたが、アスランには言いたいことや聞きたいこともありますし、折角だからご一緒させてください」

「お、おいタケル。俺は別に」

「はい、アスランも来る!」

 

 半ば強引にアスランの手を取り、タケルはマルキオと一緒に孤児院へと再び戻っていくのだった。

 

 

 

 

 院に戻った3人は、テーブルを囲んで座る。

 マルキオが子供達にお願いし、お茶を淹れてもらい、そうして会談の場となったわけである。

 

「それで、アスランはなんでここに?」

「君に話す必要が?」

「無いけど、気になるじゃん」

「はぁ……まぁ良いけど。

 ラクスから聞きました。マルキオ様がキラを助けてくれたと」

「私は彼女の元へ運んだだけです。どの道、ここでまともな治療などもできませんでしたから」

「それでも、おかげで俺は大事な友人を殺さないで済みました──ありがとうございます」

 

 静かに感謝を述べるアスランに、タケルは口を噤んだ。

 本当なら、キラがオーブに居る事を伝えるべきかもしれない。

 が、アスランの例もある。

 下手に余計な情報を与えたせいで、色々と行き違いが起きたりするのは身に染みてわかった。

 目の前の彼と同じ轍は踏みたくはない。

 タケルは、キラの事はあえて明かさない事に決めた。

 

「全力でやり合ったんでしょ? ホント、良くお互い生きてたよね」

「君が言うのかそれ。タケルとミゲルだって同じようなものじゃないか」

「キラとアスラン程は……僕とミゲルはそこまで……あー似たようなものかもしれない」

「だろうな」

 

 どちらも片方は機体が全壊。もう片方も形はギリギリ保っていても全壊。そんな結果で終わっている。

 確かにアスランが言うように、タケルとミゲルの戦いも、良くお互いに生き残れたと驚くべき内容かもしれない。

 

「それで、アスランはそのお礼を言いに来ただけ?」

「いや、ついでに少しお話を聞かせてもらえないかと思って……地球の情勢というか、知っている限りの情報を」

「情勢ですか?」

 

 疑問符を浮かべながら問うてくるマルキオに、アスランは少し言葉を濁しながら答える。

 

「えっと、今受けている任務があってですね。一先ず情報収集しないとどうにもならなくて」

「情報収集? 僕で良ければ、少しは答えてあげても良いけど?」

「良いのか。あぁ、別に機密とかを聞こうってわけじゃないから、そこは安心してくれ。まずはアラスカでの事なんだが──」

 

 

 

 そこから暫く、アスランが地球を離れてからの情勢をタケルとマルキオに聞いていく時間が過ぎた。

 アラスカ戦線。パナマの陥落。

 僅かこれだけの事だが、地球圏内での情勢は大きく変わった。

 

「そうか……パナマも落ちていよいよ地球軍は」

「うん、もう余裕はない。遅かれ早かれ、多分今度はオーブに──」

 

「まるきおさまー」

 

 間に割り込んでくるように、院の子供の一人が、マルキオを呼んだ。

 タケルもアスランも気を取られ、思わず話を止める。

 

「おや、どうしましたか?」

「テレビで、せんそーやってる」

 

 瞬間的に、タケルもアスランも軍人の顔となり、子供たちが居るテレビがある部屋へと赴いた。

 そこには、太平洋上を南下していく地球軍艦隊の様子が映し出されていて、リポーターが事の経緯を説明していた。

 

「地球軍のオーブへの侵攻……」

「政権の退陣と国軍の解体……24時間以内だって。ふざけてるのか、大西洋連邦は!」

「お、おい、タケル!!」

「マルキオさん、お話ありがとうございました! 僕はオーブに戻らなきゃいけないので! アスラン、またね!!」

 

 事態を知ったタケルは急いで乗ってきたヘリへと向かう。

 失態であった──最後通告から侵攻までの猶予が24時間等と、ここまで急いた対応を押し付けてくるとは完全に想定外である。

 急いで戻らねば、オーブと連合が開戦する前に。

 

「クソっ、ホントやり方が汚いよね、地球連合って!」

 

 

 自身が居ない時を狙いすましたかのような侵攻に、タケルは憎々しげに悪態をついてヘリへと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルでもまた、大西洋連邦のオーブ進行の報を受けて動きがあった。

 

 艦長であるマリュー・ラミアスの号令の下、格納庫に全クルーが集められる。

 艦橋クルーから、整備班、食堂の料理長まで。全てである。

 

 彼等の前には、マリューとムウが並び立ち、真剣な表情で佇んでいた。

 

 全員がそろった事を確認してから、マリューは口火を切る。

 

「現在、このオーブに向け、地球連合軍艦隊が進行中です」

 

 一同に衝撃とどよめきがはしった。

 ざわつくクルー等をムウが一度静めて、改めてまたマリューが口を開く。

 

「地球軍に与し、伴にプラントを討つ道を取らぬというのなら、ザフト支援国家と見なす。それが理由です」

 

 今度は怒号が舞う。

 なんだそれは、と。

 自分達をアラスカで切り捨て、そうして拾ってくれたオーブに、今度は侵攻する。

 まるで自分達を逃がさないとでも言わんばかりの侵攻である。

 アラスカの一件で憤りを感じていたクルー全員が、口を揃えて非難の声を挙げた。

 

「オーブ政府は、あくまで中立の立場を貫くとし、外交努力を継続中ですが……残念ながら、現状の地球軍の対応を見る限りにおいて、戦闘の回避は難しいと言わざるを得ません。

 オーブは全国民に対し、都市部及び軍関係施設周辺からの退去を命じ、不測の事態に備えて防衛体制に入るとの事です──我々もまた、道を選ばねばなりません」

 

 マリューがクルー1人1人の顔を見回していく。

 全員が、先に感じた憤りと不安をない交ぜにした表情をしていた。

 

「現在、アークエンジェルは脱走艦であり、我々自身の立場も定かではない状況にあります。オーブのこの事態に際し、我々はどうするべきなのか。

 ここには命ずる者もなく、私自身もまた貴方達に命ずる権限を持ちません。

 回避不能となれば、明朝0900に戦闘は開始されます。オーブを護るべく、これと戦うべきなのか、そうではないのか。我々は皆、自身で判断せねばなりません。

 よってこれを期に、艦を離れようと思う者は今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って、避難してください」

 

 自ら考え、戦うか、降りるかを決めろ。

 そう言ったマリューの声に、再びクルー達の間にざわめきが起こる。

 本当ならば、戦いたくない、というのが本音だろう。

 他の軍人では一生かかっても経験し得ないような、激戦を潜り抜け続けてきた。

 誰もが、もう戦う事は十分だと感じていた。

 

 しかし一方で、納得もしていなかった。

 

 軍務だから──生き残るために必死に戦ってきた。

 誰もが、そうであった。

 そうしてようやくたどり着いた先で、都合の良い犠牲として切り捨てられた。

 

 そんな連中が今また、彼等を受け入れてくれたオーブの地を焼こうとしている。

 それもまた、連中にとって都合の良い言い分と犠牲の名の下に。

 そんな事、許せるわけがない。

 

 

「私の様な、頼りない艦長に────こんな結果しか、出せなかった艦長に。

 ここまで付いてきてくれて、本当にありがとう」

 

 深く、深く、クルー全員に向かってマリューは頭を下げた。

 万感の思いが籠った言葉であった。

 申し訳なさの入り混じった声音であった。

 感謝を必死に伝える礼であった。

 

 

 軍人とは、何のためにあるのか────その言葉が、彼等の胸に燻り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着慣れたパイロットスーツを着込む。

 

 本当に慣れたものであった。

 心配性な教官は身を護るためだからと、機体に乗るときには必ず着なさいと譲らなかった。

 

 いつもなら、これが機体を使用しての訓練やテストであった──だが今は違う。

 

 本当に、戦闘に出る。

 戦争をする。

 

 その為に、パイロットスーツを着込んだ。

 

「マユラ、緊張してる?」

「それは勿論。ジュリは?」

「私だって、凄く緊張してるよ」

 

 訓練は積んできた。

 それこそ、シミュレーションではタケル監修の下、えげつない設定のミッションばかりこなしてきている。

 シミュレーション環境なら、正直国防軍のどんな部隊より上である自負があった。

 

 だが、あくまでそれは仮想の話。

 これから赴くのは実戦。

 有事を見越して、既に国防軍は機体に乗って待機との命令が下され、彼女達もまた、貴重な戦力として国防軍に徴兵され配備されることとなった。

 

「本当に、アマノ二尉の言う通りになっちゃったよね」

「正直信じてなかったよ」

「私も、あり得ないかなって思ってた」

「私も、実は半信半疑だったわ」

「主任!?」

 

 モルゲンレーテのロッカールームに顔を出した、彼女達にとっていわば上司となるエリカ・シモンズ。

 出撃前の激励に来たのだろうか、その手にはこれから待機に入るであろう彼女達の為に差し入れが用意されていた。

 

「はい、アマノ二尉から。落ち着く為にちょっと成分添加してる飲料チューブだそうよ。それで、こっちは姫様から……オーブを頼むって言伝と軽食をくれたわ」

「うわぁ、流石アマノ二尉」

「姫様もこういう時は凄く気が利くよね」

「嬉しいです」

「はいはい、嬉しいのはわかるけど、ちょっと待ちなさい。まだ私からがあるでしょ」

 

 そう言ってエリカは三枚のステッカーを取り出して、彼女達のパイロットスーツの胸元にそれぞれ貼り付けた。

 金色、ワインレッド、濃紺の三色の線で形作られた逆三角形。その内側に、獅子が描かれていた。

 

「これって……」

「もしかして」

「いわゆるパーソナルマークというやつですか?」

「ふっふっふ、その通り。アマノ二尉が私に言ってきたのよ。貴方達はM2を完成させたテストパイロット。いわば、オーブにおける最高の試験部隊だって。

 だから、相応しいエンブレムを考えてあげましょうって──流石に部隊名まではつけられないからなんちゃってマークだけどね」

 

 エリカの言葉を聞いて、驚いたような嬉しいような、そんな奇妙な態度を見せつつ、アサギ達は胸元のエンブレムを一撫でした。

 素直に嬉しかった──求められてきたことに応えられたことが。それを彼が認めてくれたことが。

 いつでもそうである。タケル・アマノは彼女達をちゃんとみて、教導してきてくれた。

 これはきっと、卒業証書なのだ。

 

「貴方達を表す三色の線と、真ん中の獅子はオーブでもあり、姫様でもある。貴方達ならそれを護ってくれる……そんなあの子の願いが込められたエンブレムよ」

 

 もはや、言葉は無かった。

 涙もろいジュリが若干涙を溢れさせていたが、今この時彼女達の士気は奮い立ったと言って良いだろう。

 恐怖も不安を打ち払い、いつでも背中を押してくれる存在が、すぐ胸元にいてくれる。

 

「主任、これまでありがとうございました」

「私達、負けませんから」

「M2は最高の機体だって、見せてきます」

「えぇ、その意気よ。そして、ちゃんと生きて帰ってきなさい。じゃないとあの子が泣いてしまうから」

 

 エリカの言葉に、3人は笑みを浮かべつつ顔を見合わせた。

 そんな事は百も承知だ。大好きな教官を、泣かせるような事だけはしたくない。それは彼女達に共通する強い想いである。

 

「「「はいっ!!」」」

 

 意気揚々と、ロッカールームを出ていくアサギ達を見送り、エリカは1つため息を吐いた。

 

 本当であれば彼女達は徴兵されるはずではなかった。

 そもそも開発の為だけにテストパイロットを担っていたのだ。

 そこには、実戦に出る事は考えられていない──考えても居なかった。

 

 本来であれば後は国防軍の仕事。彼女達は避難するべきはずなのだ。

 

 しかし、彼女達は優秀に過ぎた。

 

 いまだM2アストレイを完全に乗りこなす者は少ない。

 現状でまともに扱えているのは、各部隊の部隊長の何人かとユウキ・アマノの実子サヤ・アマノくらいである。

 ウェポンパックまで使いこなしているとなれば、アサギ達を除けばサヤ・アマノくらいなものだ。

 

 M2アストレイを完成させようとしたがために。オーブの国防戦力を充実させようとしたがために。

 アサギ達の実力は磨かれ、鍛えられ、そうして国防の要とすらなり得る実力を有するまでになってしまった。

 

 言ってしまえば、タケルの指導があったが故に、彼女達は捨て置けぬ戦力となってしまったのだ。

 

 皮肉なものである。

 優秀であれば優秀であるほど、厳しい前線へと送られるものだ。

 彼女達の生存率を上げようとすればするほど、安全からは遠ざかっていく。

 

「あとは、あの子次第という所かしら」

「エリカ?」

「あら、アイシャさん。どうしました?」

 

 エリカを訪ねてきたのは、最近タケルが連れてきた変わり者の女性。

 どことなく不思議な受け答えをする彼女であるが、その能力の高さにエリカも信用を置いている。

 

「ねぇ、エリカ。私にも使える機体、ないかしら?」

 

 

 

 

 戦いへの準備は着々と進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラ!」

 

 アークエンジェルの格納庫でフリーダムを見上げていたキラは、呼ばれた声に振り返った。

 

 そこにはよく見知った顔。カガリ・ユラ・アスハの姿。

 

「どうしたの、カガリ?」

「いや、用って程でもないんだけどな。お前は、オーブのためにその……戦ってくれるんだよ、な?」

「そう、だけど……」

 

 何だかぎこちないカガリの様子に疑問符を浮かべるが、キラは素直に頷く。

 もとよりそのつもりだ。

 オーブは両親が住まう国でもあるし、自身の国でもある。

 何より、これ以上ナチュラルだコーディネーターだとくだらない思想に付き合ってやるつもりはキラにはない。

 連合にもプラントにも与するつもりはなかった。

 

「その……いや、やっぱりなんでもない!」

「ん、もしかして不安?」

 

 普段なら威勢よくハキハキしているはずのカガリの、妙にしおらしい姿にキラは当たりをつけた。

 そして図星であったのだろう。言い当てられて少し恥ずかしげカガリは頬を染める。

 

「そりゃあ、そうに決まってるだろ。とうとうオーブが戦場になってしまうんだから……覚悟はしてたけど、いざ目の前になると」

「でも不安だからって、そんな顔してちゃダメだよ。カガリはお姫様なんだからさ」

「なっ、キラ! こんな時までそう言う──」

「からかってるわけじゃないよ。カガリはお姫様で、いわば皆の代表みたいなものなんだから。そんな不安そうな顔してたら、皆も不安になるでしょ?」

「むぅ、それは……そうだけど」

「大丈夫。僕も戦うから……」

 

 強い力を宿した瞳がカガリを見つめる。

 キラは変わった。アスランとの死闘を経て、プラントで自身が戦う意味を見つけ、そうして変わり、強くなった。

 そんなキラの言葉が心強くて、カガリはようやく、不安が見え隠れしていた気配をしまい込む。

 

「ありがとう、キラ。私もいざという時は出撃する事になる……と言うか、そのつもりではいる」

「あっ、そういえばタケルが言ってたよ。カガリがもし戦場に出ることになるのなら、それはタケルにとって最終手段──でも同時に、最高の切り札のつもりだって」

「切り札? 私がか?」

「うん。僕にはよくわかんなかったけど、シロガネとアカツキは対なんだって」

「対? どう言う事なんだ一体……」

「さぁ……一応僕も聞いてみたけど、そんな事にはさせないつもりだって言って、シロガネの調整に没頭してたから結局聞けなかったんだ」

「ふぅん。あ、私はそろそろ国防本部に行かなきゃだ……キラ、大変だと思うけど、オーブを頼む」

「うん、まかせて。あと、カガリも負けないで」

 

 互いに頷き合うと、キラはパイロットスーツを着るためロッカールームへ。

 カガリは国防本部、司令室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、お前は降りるんだな……カズイ」

 

 アークエンジェルの一室。

 サイとカズイが宛がわれた部屋では、軍服を脱いで荷物をまとめたカズイをサイが見送りに来ていた。

 

「うん。アラスカでの一件以来、もう怖くて戦場に出れる気がしなくてさ……」

「仕方ないよ。あの時は俺も、もう駄目だって思ってたし」

「元々俺なんかが戦場に出てるのがおかしかったからさ」

「これから、どうする気なんだ?」

 

 サイの問いに、カズイは少し逡巡した。

 言おうか言うまいか。どこか恥ずかし気にも見えてサイは首を傾げる。

 

「ん?」

「実を言うとさ……俺、アマノ二尉に憧れてたんだよね」

「アマノ二尉に?」

「あの人、パイロットもできるけど本当は技術者って話だろ。実際格納庫でもいつも凄い活躍だったし」

「そういえば、そうだったっけな。艦長達はいつも頑張り過ぎだって、文句言ってたっけ」

「俺、戦えはしないけどさ……皆と同じようにオーブを護りたいって気持ちだけはあるからさ。降りて落ち着いたら、モルゲンレーテで働こうかなって」

「そっか……良いんじゃないか。目標はちょっと高い気がするけど」

「流石にあの人を目標になんかできないよ……でも、皆とは違う形でも、一緒に戦いたいとは思ってるんだ」

「変わったな、カズイ」

「そう、だね」

 

 以前なら戦争に──軍事関係に積極的に関わろうとは思わなかっただろう。

 だがサイ達は戦争を知ってしまった。

 目の前で見て、聞いて、失って。

 そうして知ってしまった今、ただただ平和な生活へと戻ろうとは思えなかった。

 その平和は、いつ脅かされるかわからないと知ったから。

 

 そんな成長した友人がどこか誇らしくて、サイは自然とカズイに手を差し出した。

 カズイもその意図がわかり、同様に手を差し出す。

 握手……そうして、最後の別れとした。

 

「元気でな。終戦したら、必ずみんなでまた会おう」

「死んだりするなよ、サイ。フレイが悲しむからな」

「あぁ、勿論」

「それじゃ」

 

 少し大きな荷物を携えて、カズイは部屋を後にし退艦していく。

 その背を見送り、一息ついて感慨に耽ると、気持ちを切り替えてサイもまた来る戦いに備え、自身の仕事に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、アークエンジェルの収容エリアでは、クルーのほとんどから忘れさられているディアッカ・エルスマンの元へミリアリアが訪れていた。

 

「はいコレ」

 

 ロックが解除され、牢屋の扉を開ける同時に、赤いパイロットスーツを渡され、ディアッカは面食らった。

 

「は? なんだよいきなり」

「この艦、また戦闘にでるから。地球軍との戦闘に。だからあんたもういいって、釈放」

「はっ? だから意味わかんねえって、なんでお前達が地球軍と戦うんだよ!」

「オーブが地球軍に味方しないからよ」

「はぁ? オーブ。なんでいきなりそんな話になってるんだよ。ナチュラルってやっぱバカぁ?」

「悪かったわね! 攻撃が始まったら大混乱よ。悪いけど、後は自分で何とかしてね。オーブ政府が避難民を誘導してるから頑張って」

「っていわれてもよー。あっ、おいバスターは?」

「あれは元々こっちの物でしょ。モルゲンレーテが持ってった」

「マジかよ……」

 

 ザフトとして逃げようにもこのままでは足が無い。

 このまま艦から降りたところで、もうすぐ攻撃が始まり大混乱。

 割と現在危険な状況にあるのではないかと、ディアッカの頬に冷や汗が伝う。

 

「──こんなことになっちゃって、ゴメンね。

 もっと早く解放して上げられれば良かったんだけど。色々とこっちも忙しかったから」

「あ、あぁ……別にそれは良いんだけどよぉ。せめてバスターは欲しかったっつーか。って言うかお前も戦うのかよ?」

「私はアークエンジェルのCIC担当よ」

 

 どこか引き留めるような、ディアッカの手を振り払い、ミリアリアは決意の籠った瞳で見つめる。

 

「オーブは私の国なんだから……」

 

 戦火に見舞われるは故郷。

 そんな故郷の為に戦おうとするミリアリアの背中を見送り、ディアッカは釈然としないものを感じる。

 

「私の国、か……」

 

 

 迫りくる戦火を前に、少年達は決断を迫られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル艦橋にて。

 マリューはこれから始まるであろう戦闘を想って、憂いの表情を浮かべていた。

 

 戦局は間違いなく厳しくなるだろう。

 いくらオーブが高い技術の下優秀な戦力を揃えたとしても、数の暴力の前には苦しい。

 相手は“連合”なのだ。一国家の……それも島国であるオーブとでは国力の差が大きすぎる。

 

 善戦──その言葉すら危うかった。

 

 

「はぁ……」

「なに黄昏てるのよ、艦長さんがさ」

「ムウ……クルーの退艦は?」

「結局、退艦は8名。皆凄いじゃないの、ジョシュアがよっぽど頭に来たのかね」

 

 カズイも含めて退艦したクルーは正に数える程。

 これから赴く戦いに、軍人としての大義もなく。そして降りれば一先ずの安全が保障される。

 そんな中でも、地球軍との戦いに向けて艦に残るクルーが殆どであった事。

 ムウが言うように、凄いと言うしかない結果であった。

 これが偏にアラスカでの事があってなのか、マリュー・ラミアスの人望あっての事なのか。

 ムウにはそれが半々ぐらいではないかと思えた。

 

「私は徒に皆を戦地に引き込んだ艦長です──ムウ、貴方だってそう。アラスカでそのまま帰って来ないでいれば、こんな事には──」

「おやおや、失言だ艦長。クルーは皆、艦長と共に戦おうって言ってくれてんだぜ。とりわけ俺は──」

「えっ、んんっ!?」

 

 マリューの目が見開かれる。

 力強く引き寄せられたかと思えば、直後にはムウに唇を奪われていた。

 

「んっ、ぷはっ!?」

「アーガイルみたいに俺は我慢強くないんでね。離れ離れは御免なのよ」

「わ、私は、MA乗りは嫌いですっ!」

「あら、でも俺今、MSのパイロット……」

 

 むっとどこか拗ねた様子を見せるも、今度はマリューからムウへと顔を近づける。

 求めあうように、互いの唇を合わせた。

 2人だけの静かな艦橋に、小さくリップノイズと、時折くぐもったマリューの吐息が溶けていく。

 

 そうして、居残る事を決めたノイマン達が艦橋にあがるまで。2人はたっぷりと甘いひと時を楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれがそれぞれの決意をする中、その日オーブからは大西洋連邦へと正式な回答文書が出される。

 

 

『要求は不当なものであり従う事はできない。オーブ連合首長国は今後も中立を貫く意思に変わりはない』

 

 

 オーブと大西洋連邦の戦闘が、避けられないことが確定するのだった。

 

 

 




この辺書いてて思ったんだけど、

パナマ奪われてやばいやばい騒いでて、なんでアズラエルがオーブ、一方でヴィクトリア攻略と二面作戦なんか考えてるんだっていう。
だったら普通に全つっぱでビクトリア最初から行けばええやんっていう。

ビクトリアダメでした→オーブ行くしかねえ。ならまだわかるけど

何か作者見逃してるんかな……

第3回、ここまでの魅力的ヒロインは誰だ選手権

  • 想いも確かなナタル
  • 変わらぬ立ち位置カガリ
  • 母は強しのマリュー
  • 全力改変中のフレイ
  • これから勝負のミリアリア
  • いよいよ動き出すラクス
  • 元気発剌アサギ
  • 虎視眈々のマユラ
  • 遠慮会釈なジュリ
  • 手綱係のエリカ
  • お兄様大好きサヤ
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